時空管理局 ミッドチルダ首都地上本部
数多のビル群の中央、天を突くが如く聳え立つ建物の最上階展望室にて。
機動六課の作戦行動のモニターを見つつ、地上の守護者レジアス・ゲイスの意識は心の内に向いていた。
犯した罪が消えるものか。
己が言葉は果たして少女に向けられたものなのだろうか……
その言葉は刃となって自分の体を裂く。


 デスクの引き出しの一番上。どこにでもあるような簡素な錠つきの引き出しを開ける。
中には特殊な錠によって封をされた横長の箱。
表面に施された模様をなぞるように指先を走らせる。箱の中には己の罪の証。

一本の筆が横たわっていた。

デジタル化されたようなこの世界において、“筆”というものは異色である。一部の趣味人以外では手に取りさえしないだろう。
この道具は一般人が思う、そういった行為のための存在ではない。
空に走らせ、異界の文字を紡ぎ、異界の術を行使するための媒体。

名を、『魔導筆』

 魔戒法師と呼ばれる存在が力を行使する時に使用する一般的な魔導具。
他人から見たらただの魔導筆。しかし、自分にとっては罪の証。
(大河……私は誇りを汚すような行為をしている……世界を、地上を、人々を守るため、というお題目を自分に言い聞かせながら一部を切り捨てることによって多くを守ろうとしている……)
現在の職場である管理局に入局する前の自分は、伝説の黄金騎士の友人であることを、その友と交わした『人を守る』という誓いを誇りに思っていた。
それはこの地に来てからも変わりなく、彼が死した後も。
ただ我武者羅に、ただ只管に、地上を守りつづけた。その誓いを胸に。
(その誓いを私は汚してしまった……人を害する“悪”の存在を知りながら、自分の身可愛さに見逃すばかりでなく、その悪事の一端に加担してしまっている)
ひたすらに上を目指したツケなのか、それとも……
答えは、いまだ出ない。


 そんな世界に忍び寄る闇。崩された均衡。12の封印。
死者すら蘇らせることの出来る魔性の結晶体は、消滅した異界の存在をすら呼び出す。
それはいかなるものが起こした奇跡か。管理局の封印していた12個のジュエルシード。
願いを叶えるロストロギアとされていたそれの本性。それは風化し、力の大半を消滅させたホラーの封印体。
12とは魔を鎮める数字。
が、それだけでは力不足。ただ、それ本体のみでホラーが出現するのなら10年前でも起こりえたはず。
過去と現在の相違点。それこそが魔性の結晶体“レリック”
超高エネルギー結晶体のそれが力を失ったジュエルシードに力を注ぎ込む。
かつて、暗黒騎士によって吸収されたはずの12の存在、そしてその始祖たる素体ホラーを蘇らせることとなった。
 これも、人の欲と業が織り成す陰我であろうか……



「今度は異世界? まぁ、魔界よりはまともだろ」
鋭き一対の刃を繰る銀の狼。
「どこだろうが関係ない。俺はホラーを狩り、人を守る」
赤き鞘を受け継ぎし金色の狼。
彼らに黒き指令書が届いたのはそれから数日後のことだった……

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最終更新:2008年01月20日 10:26