大きな事件が発生したあとには、大きな後始末がつきものだ。
 たとえば、事件を起こした犯罪者がてに入れた危険な機材、それはどこからやってきたのか。
 首謀者に協力者はいたのか、いなかったのか。
 首謀者がつくった組織がどこかで悪用されてはいないか。
 これらをつぶさに調べ上げることで、関連した事件のおこる可能性をすこしでもつむことができる。

 JS事件も膨大な後始末をうんだ事件だった。
 ジェイル・スカリエッティは広域次元犯罪の罪名に恥じず、おおくの世界にその痕跡をのこしていた。
 ラッド・カルタスとその仲間達は、世界を股にかけて存在するスカリエッティの残滓を払うべく、日々捜査にとびまわっていた。

 今回もそんな、簡単な任務のはずだった。しかし、これが『新たなる野望!!』の火種になるとはその場にいるだれもが予想できないでいた。


――第187管理外世界、宙間『ソーディアン』

『ラッド! 裏口は固めた、俺とエヴァンはこのまま行くぞ!』
「了解だ――ハーベイ! 特にエヴァン、油断するなよ。帰ったらキャシディーと結婚式だろ」
『へへ、そりゃまあ、死ぬわけにはいきませんがね。まさか班長、うらやましいとか? ラッドもはやくギンガお嬢と仲良くなれるといいっすね』
「よけいな世話だ」

 よけいな気負いは迷いをうみやすい。
 同僚と軽口を叩きあうことで適度に精神をリラックスさせつつ、ラッドは通路を突き進む。
 犯罪者ジェイル・スカリエッティの息がかかった研究施設の廊下は、さながらゲームの迷宮のように入り組んでいる。
 さらに侵入前のスキャニングでは、いくつかの動体反応が確認されていた。スカリエッティの手から離れたガジェットドローンの数は多い。
 まだエンカウントこそしていないものの、この施設をうろついているのは、野生化したガジェットドローンだろう。
 自分の足音だけが廊下に響きわたる。他にはなにも音がなかった。

 ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・

 ラッドは足をとめた。

 ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・

 仲間たちとの距離は近いが隔壁をいくつかはさんでいるせいで、ちょっとやそっとの話し声や物音は、ラッドに届かない。この状況で異音が聞こえるならば――。

 ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・

 自分の精神の動揺が擬音化しているのか、周囲の空気がゆれているのかの、どちらかしかない。
 だが、前者はない。ならばッ!

 ざわ・・・ざわ・・・ざわッ

 うつろな気配が、肌を刺し貫く殺意にかわる。
 極太のベルトに突き刺していた日本刀を鞘ぐるみに抜いた。否、日本刀の形をしたデバイスか。
 ジャパニーズサムライソード・カタナ型デバイス<<羽々斬>>は、ラッドの左腰に当てられたと同時に能力を発揮しはじめた。
 鞘についていた赤い下緒がくるくると、ラッドの左手首へまきつく。
 ラッドは百八十度、体の向きを変えた。
 見かけ上、何も無い空間をにらみつけたあと、叫ぶ。告げる。

「羽々斬起動。フォルムアインス!」
<<jaholl! >>

 デバイスの諸概念から逸脱した待機モードをもつラッド所有のアームドデバイスは、主の言葉にこたえ戦闘状態に移行する。
 ラッドは起動した羽々斬を鞘からひきぬく。手になじんだ、刃が鞘の内側を走る感覚。
 ラッドの殺意を顕現するように、カタナ型アームドデバイス<<羽々斬>>が鯉口を切った。
 青い閃光が空間を通り抜ける。
 鞘から刃を抜く――その動作で透明になっていたガジェットを、ラッドは横一文字に叩き斬った。

 たゆまぬ鍛錬によって完成する、鞘鳴りすらさせない高度な抜刀術。そしてそれを実現する羽々斬は、いつの間にか鞘へと回帰する――。
 高度なステルス機能を生かし、奇襲をしかけようとしていたガジェットドローンⅣ型は内燃機関に損傷を負い、内側から爆発した。
 Ⅳ型を支える刃のような手足が本体からはなれ、地面に転がった。
 ラッドはその光景をみながら、思う。

 機動六課が襲撃されたときに、もしもこの相棒があれば、すこしは被害を減らせたのではないか――。

 単なるうぬぼれではない。羽々斬の性能がそれほど凶悪――否、優秀なのだ。
 手にしたデバイスに目をおとす。
 常人をはるかに凌駕した身体能力をもつラッドは、愛機<<羽々斬>>を手にいれたことで類稀なる近距離戦闘能力を発揮できる。
 羽々斬から繰られる剣撃はSランクの騎士に匹敵するといわれるほどのものだったが、任務達成能力を測る魔導師ランクは陸戦AAどまりだろう、とラッドは考えていた。

 なぜなら、羽々斬は形状の変化を一切しない。
 間合いは羽々斬の二尺三寸(約七十センチ)と腕を足したものしかない。噴射による加速や鉄球などの付属武装もない。
 ミッド式の魔導師からみれば驚愕の一言、ベルカ式の騎士からみても潔すぎるの一言を浴びるに間違いない、まさに近距離戦専用のデバイス。

 刀身に魔力を載せるという必要最低限の機能しか持たないデバイスだが、能力は――このとおり。
 ガジェットドローンⅣ型を一刀に斬り伏せる力をもっている。AMFの魔力結合阻害よりも羽々斬の魔力結合能力の方がつよいため、装甲を簡単に斬ることができるのだ。
 任務の都合上、屋内での戦闘が多くなる捜査員にとっては、長大な間合いより、眼前の障害を瞬時にとりのぞける力を必要とする。
 状況しだいでは、羽々斬は無双の能力をもつアームドデバイスだった。

「ガンダムキラー……いや、ガジェットキラーか」

 最近友人につけられたデバイスの異名を思い出た。
 だが、ラッドは何事もなかったかのように、だが愛機を左手ににぎりながら、ゆっくりと進路に戻る。

 ふたたび周囲を静寂が満たし、静かになった通路を侍――ラッド・カルタスは進んでいった。


 いくつかの十字路をとおりぬけ、別のルートで進入してきた仲間と合流した。なんどか戦闘があったらしいが、幸いにもあまり被害は出ていないようだ。

 アロハシャツ型バリアジャケットを装備した、エヴァン・コルテス。ジェリー・ガルシア追悼のためにバリアジャケットに細工をしている、ハーベイ・リンクス。

 頼りになる仲間達にひとつうなずき、ラッドは自分の身長の五倍はありそうなトビラにむかいあった。
 調査でわかったことだが、このトビラの電子ロックは管理局の数倍さきの技術で作られているらしい。
 正式な手順以外の手段ではトビラをあけることはできない。

 ただし、トビラの強度自体はそれほど高いものではない。とりあえず、羽々斬の一閃で破壊できるほどの強度――だという。
 ラッドの右腕がかすんだ。

「ふっ」

 短い呼気と一緒にともに吐き出される、裂帛の気合とともに、羽々斬がトビラを分断する。
 抜く、収める、の神速はやまわしを三連続。ラッドの魔力光である蒼をまとった羽々斬がトビラを破壊した。

「さすが」

 エヴァンとハーベイが出入り口を壊された室内へ踏み入れる。
 ラッドはその後ろに続いた。

「ここの設計図だと、結構ひろいはずなんだが……。暗いな。ハーベイ!」
「待って。いま照明を……っと」

 手探りで端末までたどりついたのか、ハーヴェイが室内の明かりを灯した。
 それでもまだうすぐらかったが、ラッドは目をこらして風景を見る。
 スカリエッティ関連の施設で幾度かみたことのある円筒状のカプセルが、部屋中に埋め込まれていた。
 どれも中に人影がある。ラッドはその一つに近づいた。中が良く見えない。
 カプセルの表面に手を添えてのぞきこむ。

 顔はよくわからないが、体のラインは女性のようだ。
 カプセルは液体で満たされているらしい。半透明な液体のなかで、長い髪が踊っていた。
 髪は――紫?

 カプセルのなかをまじまじと見てみる。
 ハーベイあたりからライトを借りてこようかとおもったが、またこの前のように変態あつかいされるのも癪にさわる。やめておいた。

 そもそもチンクやノーヴェ、ウェンディにおこなったのは大人のスキンシップを教えようとしただけであり、けっして「アニキ分」の役得を得ようとしたわけではない。断じて下心はない。
 個人的にはクアットロあたりも好みなのだが、なかなか面会が可能にならなかった。

 ちなみにオとす自信はある。

 それはともかく――。
 カプセルへ目をこらす。そういえばいい身体をしているじゃないか。


 さきほどは薄暗くてよくみえなかったが、彼女は全裸に近かった。機動六課が保護した戦闘機人と
おなじような、ぴたりと体にフィットするバトルスーツで、カプセルに入っている。全身から力がぬ
けて、リラックスしている姿はどこか扇情的な色気をかもし出している。ラッドはまず、下腹部に目
をむけた。ウエストはひきしまり、臍のあたりにはなんの脂肪もない。腰まわりのラインは適度に肉
がつき、繊細なラインを描いていた。それこそ、触れれば指がすべりそうなほど。ただやせ細ってい
るだけではこうはいかない。ラッドはそこから目をおとしていく。残念ながらスーツのせいで、髪と
おなじ色をしているだろう密林はおがめない。心の奥底で舌打ちをかましながら、ラッドは視線をす
べらせる。ふとももと足が見えてきた。優秀な筋肉のついた、触れたら弾けそうな瑞々しい脚線――
と膝のあたりについた角。角? 角ってなんだ。立ち止まらないことか?明らかに人のものではない
ギミックにラッドはすくなからず動揺したが、それでも脚の造詣は奇跡的ともいえるバランスで整っ
ていた。今度は視線を上に。乳房の大きさや形があらわになってしまう、極薄の布が彼女の胸部を覆
っている。乳房はまるで桃のようにいい形だった。これならおそらくベッドで横になっても形を崩し
たりはしないだろう。しかし、半端な全裸よりもスーツがテラえろい。『常識』を知ったナンバーズ
の面々は全員が全員、もう二度とあのバトルスーツは着たくないといっていた。
あのチンクでさえも。ラッド個人的にはまだまだ着てほしかったが。ウェンディやノーヴェあたりが
着ているときは、防御用のバトルスーツが凶悪な武器になる。いっそ管理局制服にしてくれ。そうす
れば対抗勢力は激減するはずだ。もちろん、あのエース・オブ・エース、戦斧もあの格好だ。さぞエ
ロかろう。そこでナンバーズのことを思い出した。「う……ラッド……おまえ……なんであたしにこ
んなこと……ぅつ……はずかしいから……馬鹿……そんなとこ……」と、ノーヴェの顔を真っ赤にさ
せたのは、どうも姉妹でかたまりがちな彼女に、男性と云うものを認識させようとした結果であり断
じて下心はない。「あ……そこいいッス……、あ、もうっ、ちょい、うえ……んっ、んっ……ラッド
あにぃの指……大好きッス……」と、ウェンディにあえぎ声をあげさせたのも、事情聴取のあとで緊
張がとけないでいる彼女をリラックスさせようとした結果であり断じて下心はない。「やめろラッド
……わたしのは……その小さいし……え? それがいい? うれしいが……あぅ、やぁっ……」と、
チンクにいたずらしたのは、彼女が体にコンプレックスをもっていることを知っているからであり、
決して下衆な下心はない。だいたいセクハラではなく、いたずらだ。まあ、頑なにスキンシップを拒
否してくるディードやオットー、セインに関してはこれからが本番だ。意外にセインの身持ちが硬い。
まあ、シスターズのことはいいだろう。いまは目の前の彼女のことだ。肩はアーマーに隠れているも
のの、華奢なのは理解できた。首筋からなだらかで華奢な稜線がおり、腕につづいている――? な
んだ、これは。ラッドは腕のさきに人外のギミックを見つけ、驚愕した。下腹部に夢中になっていて
さきほどは気がつかなかったが、腕は『腕』ではなかった。左腕には脚についているものとはまった
く別のもっと細いドリルがついていた。左腕には鋏に似たアームがくっついていた。金属の鈍い輝き。
どこかで見たことがあるような……? ああ、JS事件の最中、ギンガがさらわれたときに見たのだ。
この装備は、ギンガが改造されたときについていたもので――。ギンガ、ギンガか。そういえば最近
まともに話していない気がする。お互い捜査やナンバーズの件でいそがしいのだ。管理局制服のタイ
トスカートをおしあげる尻も、ずいぶん目にしていない。



 ――と、ラッドは前レスから続く固まりのような性欲をもてあました。




 カプセルに羽々斬をかまして女性に触れたい衝動に駆られた。が、自重する。まだ任務中だ。
 仕事とプライヴェートの分離くらい、ラッドにもできている。ナンバーズとのつきあいは除いて、だが。
 特に獲物とする居合いは精神のブレを大きく反映する。二重人格といわれてもしかたないほど、戦闘時と常時の精神は違っている。

 ハーベイの操作によるものか、カプセルの中が照らしだされる。
 よく知った顔が、カプセルの中にあった。

「おい、ハーヴェイ。もしかしてこの中の子たちは……」
「全部、お嬢のクローンだ。事件からずいぶん経過してこんなものがみつかるなんてな。
 ここの施設が稼働した時期を考えれば、たしかに辻褄はあう。
 スカリエッティ博士の研究はどれもコストと時間が掛かるものが多い。
 お嬢をさらってからクローンを作り出すのに、それなりの時間はかかったはずだ。それもこんな――四十五体も」
「そんなにいるのか?」

 ハーベイと一緒に端末の操作にあたっていたエヴァンは、壁という壁にはりつけられたカプセルを見る。壁一面にカプセルがある。
 一基につき、一体のクローン体がはいっているとすれば、たしかに四十五基はありそうだ。

「これが、全部お嬢の――」

 夢のようだ。ラッドはつぶやいた。

「――ヤバイッ! トラップだ、ふたりとも!」

 ハーベイのあせった声色を聞くより前に、ラッドは羽々斬の刀身を引き抜いた。

 澄んだ――甲高い音。カプセルがなにか鋭いもので打ち割られ、そこから人影が踊った。
 四十五基のポット、すべてから。

 目の前ではぜたカプセルから、なにか鋭いものが伸びる。正体こそわからなかった。
 殺意が塗りたくられたその鋭いものを、ラッドは勘で迎撃する。回転しているものに刃を叩きつける感覚。
 刃が巻き取られるような手ごたえだが、軌道をそらすことはできた。
 ラッドの顔面、わずか数ミリ外につきこまれたのは――回転衝角。
 ラッドはのけぞったことで発生した体重移動を利用し、そのままバックステップ。彼女から離れる。
 ラッドがふたたび視線を上げたとき、そこには異様な光景がひろがっていた。

 ヴィィィィィン
 ギャィィィィン
 グワィィィィィン

 何かがまわり続ける音が、そこかしこから響き渡る。
 照明に照らされているのは、鋭く回転する衝角――ドリル。膝にドリル、頭にドリル、左手にドリル……ホイールをつけたものもいる。ちなみにホイールをつけた機体の右腕には、巨大な棒がくっついていた。

 彼女の額の真っ赤なドリルが回転し――。

「「「「「「「「「「ふんぐるいいいいいいいい……むぐるななふふふふふふふ……」」」」」」」」」」」

 ドリルで不明瞭になった言葉の一斉唱和――。まるでクトゥルーにささげるような声音。対CCDでも召還したい、不気味な声量。
 いくら好みの女性といっても、これはさすがに愛せない。ラッドは頬をひきつらせた。

「「「「「「「「「「くとうるううううう……るるいえええ……」」」」」」」」」」

「あたまにドリルだと――。装備品をうりはらったのかッ!」

「「「「「「「「「「うがふなぐるるるるる……ふたぐんんん……ッ」」」」」」」」」」

 エヴァンが意味不明なことを叫び、それが合図になってしまったのか。

「くるぞッ! ホレイショやナッシュやジョーの世話になるなよ、みんなッ!」
「了解。ボギーや宝条や友蔵には世話にならねえぜ!」
「了解。ガルドやマクレーンやピッコロ大魔王には世話にならねえぜ!」

 量産型タイプゼロ・ファースト・ドリルスペシャルとノットパニッシャースペシャルが一斉に襲い掛かった――。

――
 ギンガ・ナカジマは第一次地上本部襲撃時に、スバル・ナカジマは第二次地上本部襲撃時に、それぞれスカリエッティの手に落ちた。拘束はスカリエッティが逮捕されるまで続き――。
 過度な改造は彼女達に精神的な負担をかけたが、尊敬する人間フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官と高町なのは一尉の『○○的な介護』で持ちなおした――
 事態はギンガとスバルの生活が落ち着いたころ、鎌首をもたげるようにゆっくりと、回りはじめていた。
――

 一方そのころ、機動六課では最後の模擬戦がはじまろうとしていた。
 そこに集った人間すべてが、万感の思いで舞い散る桜をみつめ、フォワード陣は決別を開始する。


???「友よ、今が駆け抜けるとき――!」


 機動六課の陸戦用シミュレータには、桜の吹雪が舞っていた。
 そこに集う機動六課のフォワード陣は、それぞれの思いを胸に――デバイスを起動させた。


???????「承知ッ!」


 涙が出そうなほどの――郷愁と、感謝を胸に抱き、スバルは隊長陣にリボルバーナックルをむける。
 憧れの人と、一緒にいられる夢のような時間は今日をもっておわりになる。
 明日からは、ここにいる誰とも、おなじ道は歩まない。
 だからこそ、涙をながすなんて無様な姿を見せたくなかった。
 成長を見てもらうために。涙でゆがんだ思い出など、スバルも必要としてない――。
 仲間とともに――全力を尽くすのみ。


???「これより艦前方へ一斉砲撃! その後艦首超大型回転衝角を使用する」


 どれだけ世話になっただろうか。
 ティアナはそんなことを考えながら、手になじんだデバイスを構える。
 いろいろな想いがあった。感情が、トリガーにかかる指先をふるわせ、相棒を持つ腕をいつまでも固定させない――。
 いろいろなことを教わった。あせりをとめて貰った、かけがいのない自信を貰った、未来のために銃をむけることを教わった――。
 ティアナはいちどだけ鼻をすすりあげ、照準を隊長たちに向けた。それでも銃は感情で、ゆれていた。


???????「了解、前部各砲塔発射準備! 目標との相対距離確認、仰角、誤差修正!」


 まだまだ遠いな。率直な感情だった。
 十一歳でランクAAとなったエリオは、そんなことを思いながら、涙腺の痛みに耐えていた。
 別れの際でも凛と立つ隊長たちに、自分の成長がおいつくのは一体いつのことになるのか。
 まだまだ道は険しく遠いが、これが一つの指標になる。
 全力の隊長たちと、いまどれだけ力の開きがあるのか。それを見極めるために、涙を流している暇なんてなかった。
 だが、涙腺の痛みは去ってくれない。その痛みを握りつぶすように、ストラーダを握り締めた。


???「大型回転衝撃角、始動!」


 何一つとしてわすれたくなかった。空気のつめたさ、風のにおい、大地のやわらかさ。
 どれ一つとっても、キャロは忘れたくない。
 この一年でたくましさを増したフリードリヒがキャロの頬をぺろりとなめた。
 きっと――塩味がしたはずだ。あの人の役にたちたくて、ただそれだけではじめた管理局入り――。
 しかし、隣に立つ少年やさまざまな出会いを、キャロは『機動六課』から貰っていた。
 はじめて得る『家族』のような安心感。
 それも今日で終ってしまうと思うと――。
 だからわすれない。いつかくじけそうになったとき思い出せるように。
 わすれるものか、この一分一秒を。

「了解! 回転衝角始動! 機関最大戦速!

「各砲塔、砲撃始め!」

「総員衝撃に備えよ!」

「全速前進! 大空魔竜アースラ改! 突撃ィィィ!






ミザル・スカリエッティ「「これだァ! 我らはドリル(え? 幼女だろ)に漢をみたァ!」」





 漢たちの唱和がかさなる。それぞれまったく違う主張でありながら、まるで計ったかのようにそろった自己主張。
 人生アルバムの壱ページを占めるべき名場面を犯された少女たちは、ぽかん、と惚けてしまった。

「いいッ!?」

 最初に正気にもどったのはティアナだ。上空から迫る次元航行艦に目をむいて驚く。

「あれは――そんなッ! 回転衝角装備の次元航行艦は、プランに存在するだけで実際には建造されなかったはずなのに!」
「って、あったんですか! プラン上は!?」

 はやてが次元航行艦の艦首を見てさけび、スバルが光速でつっこむ。あるはずがない艦首モジュールを装備した次元航行艦から、ふたたび大音声が――。

「フフフ・・・ひさしぶりだな。六課の諸君」
「!!!」

 フェイトは二度と外で聞くはずのない声を聞き、驚愕の表情で次元航行艦を見上げた。
 フォワード陣の目の前に巨大なパネルが開いた。そこに映し出されていたのは、何ヶ月かの拘束でやせほそったジェイル・スカリエッティの姿であった!

「スカリエッティ!」
「ああそうだよ。わたしは帰ってきたのだよ、この娑婆というすがすがしい空気に!」
「そんな……。昨日はたしかに管理局の施設で拘束されていたはずなのに」
「そうおもうのなら、映像なりなんなりをチェックしてみたらどうだね?」

 言葉をうけて、なのはがすばやく情報を検索しはじめた。やがて、手がとまる。映し出されたスカリエッティ収監の図には、スカリエッティの姿はなく――

 かわりに骸骨に皮をはりつけたような顔の男が、まるで路地裏で夢をみる宇宙少年のような表情で独房にはいっていた。なにかつぶやいている。
「ふふふ……修羅神に乗れなくたって将軍になれるんだ……どこかのサラリーマンみたいに……」

「!? みがわりッ! って、フェイトちゃん! はやてちゃん! 逃げないと!」

 なのははヴィヴィオをだきあげ、フォワード陣に撤退の指示を飛ばす。次元航行艦は迫って来ていた。
 だが、彼女達の判断はすでにおそかった。

「うっ!?」

 一瞬、地面がもりあがり、そこからアームがせり出してきた。それがシミュレータの上にいた人間、すべての足を拘束する。

「ち、地中からの――!?」
「機雷でもしかけておけばよかったわッ!」

 セオリーにない地中からの攻撃に、エリオはあわてふためき、はやては要点をはずしたコメントを叫んだ。
 地面にはりつけにされた面々をよそに、次元航行艦が砲撃を開始する。
 オーバー・エクスプロージョン(OE)兵器に匹敵する熱量が、彼女達のバリアジャケットフィールドを削っていく。

「フフフ……デットエンド・ドリルッ! きさまらをかき回してやる! 回れ! 回れ! 回れェッ!」

 叫んだのは、なのはたちがあったこともない、妙にとんがった髪型をした偉丈夫。
 なのはたちは悲鳴をあげるよりもまえに――ドリルの巨大質量にのみこまれてしまった。




「う……うぅん……お父さん……ここは……?」
「お……目がさめたか、ギンガ」

 ギンガは掛かっていた布団をおしあげながら上半身をおこした。
 見覚えのない場所だった。窓は一つ。四方を白いかべで囲まれた――。

「病室?」
「ああ。ここ一週間眠りっぱなしだったんだぞ」
「一週間も……。わたしがスカリエッティにさらわれたときでも、一日寝るだけですんだのに……」
「それだけ、ダメージがあったんだ。この程度で済んでよかった……」
「この程度……って。他のみなさんはッ!? スバルはッ!?」

 ギンガはゲンヤの顔を覗き込んだ。ゲンヤは気まずげに目を伏せる。

「全員、さらわれちまった。あの場にいて無事だったのはおまえだけだ」
「そん……な……」
「そのうえおまえさんにはつらい出来事かもしれんが。おまえのクローン体が発見された」
「え?」
「四十五機――。おまえがスカリエッティに改造されたときのデータを応用しているらしい。こいつがいま、街中で暴れまわってる。精神改造された六課メンバーと一緒にな」
「……精神改造? じゃあ、本当にスカリエッティは外にいるの……」
「独房にはいっていたのは『変震のアルコ』という、変身術の達人だったそうだ。身代わりにしてはあれだが……」
「アルコが……そう。お父さん。今回の事件……黒幕はスカリエッティじゃないかもしれない」
「そんなことを言うってことは、おまえは奴らを追うんだな?」
「うん。たぶん因縁のある相手だから。激震のミザル……まだ生きていたなんて……」

 ゲンヤは顎に手をやり、うなった。

「しかし、管理局の人間として、ではむずかしいぞ?」
「わかってます……。でも、スバルやフェイトさん、なのはさんやはやてさんを放っておくわけには行きませんから」

 ギンガの瞳にうつる強い決意に、結局ゲンヤは折れてしまった。単独捜査――という形でギンガを現場におくりだすことになったのだ。
 ギンガは出立する前日、マリエルの元を訪れていた。手術でインプラントされていた装備をとりもどすためだった。
 要望を予測していたマリエルは、装備に手を加えていた。増殖チップとブリッツキャリバーによる携帯性を実現した新たな装備。マリエルはパワーアップしたブリッツキャリバーをギンガに手渡した。

「いい? ギンガ。これはあなたがスカリエッティにさらわれたときに埋め込まれた、特殊装備よ。
 バリアジャケットに手を加えたから、これでギンガの身体に手をくわえなくて済むわ。まあ、バリアジャケットの改造といっても、アタッチメントを増やしたくらいだから使い心地には問題ないはずよ。
 武装の説明を始めるわ。
 まず、これが左腕部の『ドリルアーム』と右腕部の『ゲッターアーム』。『ドリルアーム』はリボルバーナックルとの同調によって、魔力による威力強化と貫通性の上昇ができる。加速装置『ゲッタービジョン』との併用で、かなりの高速戦闘が可能なはずよ。
 次に、肩から伸びるのは『超銀河グレンラガンドリル』。これは左右のドリルを一本にすることで絶大な貫通力をもつことができるわ。武装名は『ギガドリルブレイク』。魔法として登録してあるから有効につかってね。
 膝部には『ドリルニー』、額には『ドリルインフェルノ』が装備。関節の稼働範囲や視界を考えれば、近接戦闘の武装としてはかなり有効。不意をうつのに最適ね。これはセットで使うことができるから魔力消費は少ない。
 で、どん尻にひかえしは、肩から背中に伸びてる『ドリルブーストナックル』。ギンガの武装では一番とおくまで届く武装だよ。ドリルを飛ばすための噴射はギンガの魔力よ。多用には気をつけて。
 ……これから先が大事なことよ。これらの武装は全部、高出力の魔力結晶体『レリック』と対になってる。展開できる武装は、『ドリルインフェルノ』と『ドリルニー』を抜けばいちどにひとつだけ。あまり練習をしている時間がないけれど……使い方には十分に気をつけて……」
「はい。あの、そういえばサングラスは……?」
「オシャレに改造中よ。任務の間に届けるわ。アナライザーとしての機能を強化して、ね。あの赤いサングラス、気に入っているの?」
「なぜか勇気が沸く気がしまして……。わかりました……。ありがとうございます、マリーさん」
「あと、これは未確認情報だけど、ギンガのクローン体がいろいろな武装を持っていることが、ラッドたちの調査でわかっているわ。パイルバンカーや回転のこぎり……サンビームなんて武装もあったみたい。
 ブリッツに追加した機能で、アタッチメントの規格が同じものなら装備できる。有効につかって。
 ギンガ、スバルも元気になったばかりでこんなことになってしまって……」


「大丈夫です。わたしはなのはさんやフェイトさんに……大きな恩がありますから」


 ギンガはそう言い、マリエルに笑いかけた。覚悟と決意を瞳に宿して――。







                        新暦XX年

               ロボット工学のけんい、Dr.マリエルによって
                せいびされた せんとう用ロボット ギンガと
                  スバルは、平和な日々を 送っていた。
                 ところがある日、さらわれた管理局員が
                  とつぜん あばれだし 世界中が
                      パニックと化した。

             Dr.マリエルは、ナゾの天才科学者Dr.ミザルの
                   しわざであると きづいたが
                     なすすべが なかった。
               せいぎかんあふれるギンガは 自らのいしで改造
               を望み、Dr.マリエルによって スーパーロボット
                 ギンガとして 生まれかわったのである。

               Dr.ミザルの野望を一度阻止し、世界の平和を
                  護ったギンガ。   ・・・が しかし
                  平和は 長くは つづかなかった。
                ナゾの科学者 Dr.スカリエッティが、8体の
                  改造管理局員を作り出し ギンガに
                     挑戦してきたのだった。

                   ギンガは あらたにかいはつした
                   ニューギンガドリルをそうびして
                  再び 戦いへと たび 立つのであった。







「「「「「「「「「「ふんぐるいいいいいいいい……むぐるななふふふふふふふ……」」」」」」」」」」」
「お、お願いだミザル。キャロとヴィヴィオ、エリオはわたしの手元におかせてくれ……」
「「「「「「「「「「くとうるううううう……るるいえええ……」」」」」」」」」」
「スカリエッティ。彼女と彼は君にとっての人質だ。人質は世界征服がおわったら渡そう」
「「「「「「「「「「うがふなぐるるるるる……ふたぐんんん……」」」」」」」」」
「そんな……それでは娑婆に出てきた意味がないだろう! わたしの究極の目標である『年をとらない幼女』の研究はどうすればいいのだ!?」
「「「「「「「「「「ふんぐるいいいいいいいい……むぐるななふふふふふふふ……」」」」」」」」」」」
「しらん。ともかく、こちらはもう時報は嫌だ。やれることはやらせてもらう……ドリルのためにな」
「「「「「「「「「「くとうるううううう……るるいえええ……」」」」」」」」」」
「く……仕方がない。だが約束はまもってもらうぞ……しかし五月蝿いな。苦情がくるぞ」
「「「「「「「「「「うがふなぐるるるるる……ふたぐんんん……」」」」」」」」」
「ふ……ドリルによるドリルのための世界を実現するための……歌さ」

 ミザルはアースラの艦長席でにやり、とわらった。



――続く。





【天元突破しそうな修羅の人がスカと手を組んだようですZwai】終
715から>>724まで。

  • え? 続くの? これ。作者がいちばんびっくりですが、続きます。なのはたちのBJ改造シーンやら、エリオの改造シーンは次回にまわします。

  • なるべくウロススレであがったネタで構成していきました。ラッド=カタナとか、ウロスレ21>>115のあたまにドリルとか。ショッカーとかでる?

  • ただ、商店街でヴィヴィオを――は再現できなかったもうしわけない。ただもったいないので次回に絡ませる。絶対。

  • ラッド・カルタスがほとんどオリキャラになってますがご容赦ください。全国のラッドファンのみなさまには謝罪いたします。
 ちなみに彼のモデルはナッシュ・ブリッジスでも、ジョー・ドミンゲスでもなく、リチャード・ベティーナ。異様にスケベなのはそのせい。エバン・コルテスとハーベイ・リークに関しては微妙に名前をかえてあります。

  • 量産型タイプゼロ・ファーストは量産化のため肩のドリルと背部スタビライザーとサングラスがオミットされています。
 ドリルマンのドリル換装システムでウロスレ21>>685のノットパニッシャーやドリルアーム、グレート・ノットパニッシャー、ノットバスターを装備した機体(もう一つあったような気が)があります。
 ほかにもユニコーン・ドリルやキバ・ストライカーやら。当然倒したら武装に追加されます。

  • まあ、がんばりますんで適度に支援をおねがいします。以下、思い出せる限りのクロス作品

天元突破グレンラガン、地球防衛企業ダイ・ガード、勇者王ガオガイガー、勇者王ガオガイガーFINAL、ロ
ックマン4『新たなる野望!!』、スーパーロボット大戦α外伝、スーパーロボット大戦OGS、スーパーロボ
ット大戦OG外伝、大空魔竜ガイキング、ザ・サード、ひぐらしのなく頃に、ゲッターロボ、ゲッターロボアー
ク(漫画未完版)、刑事ナッシュブリッジス、マイアミ・バイス、CSIマイアミ、ファイナルファンタジーⅥ、

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最終更新:2008年02月19日 20:47