リリカルなのは ストライカーズ
~ミッドチルダに鴉は舞う~

「そうだ…それでいい」

―――そう言い、かつて己と同じ使命を持ち、戦友となった男の乗る異形の機体は崩れ落ちた。

「へぇ…存外やるじゃないか」

「クククク・・ハハハハハハハ」

―――漁夫の利を得ようとした男もまた現実と鴉の足掻きにより果てる。

「レイヴン…ありがとう…」

彼を想う少女の言葉を聞き終え…鴉は翼を失った。

―――あまりにも呆気ない、世界秩序の崩壊した瞬間であった。

その一角でこの場いや世界に相応しくない男は叫ぶ
「素晴らしい!素晴らしい!あれがネクスト!あれがリンクス!あれが伝説の鴉!素晴らしい!
 素晴らしいぞぉぉぉぉ!!!」
それに対し護衛についていると思われる二名の女性はこの世と思えぬ光景にただ茫然としていた、
一人は戦闘機人である自分の動きでは絶対出来ない機動性を使い分け、あらゆる攻撃をかわすあの機体とそのパイロットの腕に…
一人は敵の攻撃を避けつつ、機人の目ですら追えない超高速で動きながら反撃を行い、確実に相手に命中させる冷静さと技量に…
(『化け物』だ…)
二人の女性はそう思った、阿修羅の如く駆ける機体とパイロットに…
そして男は最後に倒れた黒い機体を一瞥すると、その鴉が守らんとする地に向けて歩き出した、そして2名の女性も又
彼を追うように歩き出した。

―――その地はアナトリアと言う

「心拍地!低下!」
「呼吸困難に陥っています!」
「急げ!メディカルルームに運べ!」
医者やナースを叫ぶ、彼らが運んでいる担架にはこの地を守る鴉がいた、
彼の手によりアナトリアは守られ発展していった…だが…
「度重なるネクストならびにコジマ粒子を搭載した大型機動兵器との度重なる戦闘、もう彼の身体は…」
「止めてあげれば良かった…でも彼は…レイヴンは…戦うって…この地を守るって…」
赤いショートカットの女性はただ泣きじゃくるだけだった、その少女の名前はフィオナ・イェルネフェルト。
「クソ!」
鴉を再び戦場に戻し、アナトリア発展の為に非情になった男、良心の呵責にさいなまされた男…エミール・グスタフは壁を殴った。
アナトリアの為に戦い抜いた男すら救えないのか!エミールはただ強く歯を噛み締めるだけだった。
「神よ…」
エミールは一度も祈った事のない神という存在に縋った。
「神よ…この地を守らんとすべてを投げ出そうとした男をどうか守りたまえ…」
「エミール」
自分と共にアナトリア発展に尽力を尽くした男がエミールを呼ぶ。
「何だ?」
不快そうにエミールは言う。
「客人だ」
「今更何の様だ?追い返せ!今はそんな時では…」
エミールは不快な顔をしたまま追い返すように指示をしたのだが…
「エミール酷いなぁ、折角の研究仲間がここにいるって言うのに」
割り込むように男性の声が響く。その声の主に一斉に視点が集まる、
そしてエミールは怒気を放ちながら銃を抜き出し突きつける。
「ジェイル・スカリエッティ!今更何の用だ!」
「落ち着きたまえエミール、私と君達との仲ではないか」
男の護衛と思われる二名の女性が身構えるが、スカリエッティは制止させる。
「君達と私の仲?はん!反吐がでる!さっさと出て行け」
相変わらず怒気を含めて銃を突きつけるエミールに対して、相変わらず冷静なスカリエッティ…
そして彼はニヤリと笑みを浮かべ切り札的な発言をする。
「そのレイヴンを助ける手段があると言ったら?」
「何だと!」
驚愕の表情を浮かべたのはエミールだけではなく、フィオナ、いや…ここにいるアナトリアの住民すべてだった、
それに満足したのかスカリエッティは続ける。
「知っているだろ、私がリンクス技術において多大な貢献をした事を…」
「………」
スカリエッティは2名の女性を指す。
「今私の傍らにいる二人の女性…それが私の生み出した結果だ」
「!!!!!」
「機人プラン…完成していたのか…」
「そうだ、君達の守護神の復活…私が行ってあげよう、魅力的な案だろう?」
笑みを浮かべたままのスカリエッティに対し、一同は顔を見合わせて話始めた、だがエミールは憮然としたままだ。
「お前の事だ、ネクストを寄越せとかコジマ粒子装置を寄越せと言うのではないな」
スカリエッティは首を横に振る。
「過ぎた力はいらんよ、それらは私の手にありあまる…そうだな」
スカリエッティは少し考え事するような顔をして丸で悪巧みを思いついた表情で言う。
「そのレイヴンをネクストごと格安で雇う権利を一度だけ欲しい…そうだな半年後あたりにでもどうかな?
 これほどの要求はないと思うぞエミール、これは君と私の仲だからこそ提示出来るのだがあの時の非礼を兼ねて…」
「お前は…」
エミールが何か言おうとした矢先、何者か弱弱しい発言をする。

―――ほぅ…それは随分と魅力的な依頼だな…

発言主に一斉に視線が集中する、そして一同が驚愕の表情を浮かべた。
「レイヴン…」
この世界の新たな秩序を打ち壊した、伝説の傭兵はおぼついた足取りでやって来た。
「これはこれはアナトリアの守護神、先における君の活躍は素晴らしいものだったよ」
「フン…ただ自分がやるべきことをやっただけだ…」
スカリエッティの賞賛を鴉は軽く受け流す。
(出来るな、この男)
スカリエッティだけはない、彼の護衛についている戦闘機人であるトーレ、チンクは思った、そしてスカリエッティは思った。
(この男は世界の汚さを嫌ほど見ているが…何といういい目をしている、自分の信じた道を突き進む…いい目をしている)
「レイヴン!」
エミールは叫ぶが鴉は言う。
「確かに、どの企業もネクストも大打撃を受けて勢力回復に忙しい…だがこれに一斉に武装蜂起する連中が絶対にいるはずだ…
 そしてアナトリアの象徴である俺が倒れたと聞くと…恐らく連中や企業は黙っていないだろ…秩序が回復するまで…エミール、
 俺はアナトリアを守る使命がある」
「レイヴン…」
エミールだけではないフィオナも泣きそうな顔をする。
「商談は成立したな」
「ああ、少し用意をさせてくれ」
「分かった、私は表門で待っているとしよう」
スカリエッティはトーレとチンクを引きつれその場から去った。
「エミール、ひとつ教えてくれ、ジェイル・スカリエッティは何者なのだ?」
エミールは少し眉間に皺をよせて話す。
「ジェイル・スカリエッティ…かつて私がイェルネフェルト教授と共にネクスト並びに
 リンクス技術を研究中にひょっこり現れた男だよ。彼のリンクス技術…『人間と機械の融合による究極パイロット』は
 素晴らしいものでネクストの研究は捗ったが、ある時忽然と姿を消した…ネクスト、コジマ粒子技術をごっそり奪い取ってな」
「喰えない男だな」
「気をつけろレイヴン…奴はただの人間じゃない」
「警告ありがたく受け取っとくよ…エミール」

(あのリンクス技術は私の傑作に役立ってくれた…だがコジマ粒子技術は完全に会得出来ず
 それを応用したAMFが出来たがまだ不完全だ…それにネクスト技術は私にとって未知の存在だ)
表門でレイヴンを待ちながらスカリエッティはこの世界で奪取した科学技術の事を回想する、
この世界の科学進歩には目を見張るものがあった、下手をすれば自分の切り札である「あれ(ゆりかご)」に勝るものであった…

―――この結果がそれか…行き過ぎた力とはつくづく恐ろしいものだな。

苦笑いの表情を浮かべる。目の前に広がる戦争の爪跡、自然と言う存在はなく、
森は消滅し、大地には到る所がえぐれており、川は濁っており、ただ海だけは青かった…。
「待たせたな、ジェイル・スカリエッティ」
用意を済ませたのかレイヴンはスカリエッティに声をかける。
「ふむ、ではいこうか…ああ、私の事を博士と呼んでくれ」
「分かった、博士」

「ドクター、この男は誰だ?」
「この男はレイヴン…そうだな君達の兄である存在だ」
「兄っすか?」
「そう…彼を元に君達が生まれたものだ、最もDNAではなく、機人としての基だがな」
「へぇ~そうなのか」
「今から君達と本当の意味でいっしょになるがね」

ベッドの上に一人の男が寝かせられていた、それ以外ここにいるのは
「いいのですか?」
スカリエッティに語りかける一人の女性、最初に生み出された戦闘機人にしてスカリエッティ最大の理解者であるウーノは言う。
「もうすぐ貴方の夢が始まると言うのに…」
「このような事をやる暇はあるのかと…最もな意見だがねウーノ…私は保険をかけているのだよ、最後の保険を」
「保険ですか?」
訝しげな表情を浮かべるウーノ、スカリエッティは言葉を続ける。
「それに私は彼の翼をむざむざ折れていく光景に我慢が出来ない性質でねぇ…やはり鴉は羽ばたいていくこそ鴉だよ
 …では始めようか彼の翼を甦らせようか」
「はぁ…はい」
若干訝しげな表情を浮かべるも、自分の成すべき事を成す為ウーノはスカリエッティに従った。

(よくもこんな体で戦ったものだ)
スカリエッティは鴉の体を割いて軽くうめいた…ウーノも似たような表情を浮かべている。鴉の内臓はズタボロであり朽ち果てつつあった…
(彼をそこまで突き動かしていたのは何なのだ?それは彼の貫く意思と言うものなのか?これが伝説の傭兵と言われた男の意地に他ならないのか?)
スカリエッティに浮かぶ疑問の中である種の羨ましさがあった。
(…軽い嫉妬を覚えるな…)
だがスカリエッティも己が成すべき事を成す為手術を続けた。
―――手術は成功した

          ―――鴉は死神を打ち払った
           ―――鴉は翼を手に入れた
            ―――13という名を得た
             ―――最後の戦闘機人の称号を得た

だがそれも鴉が死神に魅入られる時間がほんの僅か…僅かだけ伸びたにすぎない。彼の駆け抜けた時は
アルハザートの技術を結集しても修復出来る事はなかったのだから…

「残念だが…私の出来た事は君の命をほんの一時永らえさせただけど」
天才である自分が出来なかった事実…

―――悔しい、これほどの屈辱あってたまるか!

ジェイル・スカリエッティの心中はそれ一色に染まっていた、狂人であるが自分の腕を信じていた彼にとってその現実は受け入れられるものではなかった、
果たす事が出来なかった約束、その現実は彼のプライド、科学者としての誇りを完全に打ち砕くものであった。

―――何、気にする事はない博士。

レイヴンは笑いながらスカリッティの肩を叩く。

―――何故なら、まだあがなう事が出来るから…
 ―――何故なら、まだ運命に歯向かい続ける事が出来るから…
  ―――何故なら、まだ鴉の翼が蘇り、天まで羽ばたく事が出来るから…

     ―――それにあんたの腕はたいしたものだ…

―――感謝するよ

スカエリエッティの頬に一筋の涙が流れた…それは何故なのか本人ですら分からなかった。彼は始めて存在を認められたのだ…一人の男に

        ―――そして半年の時が過ぎた。


「広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ…貴方を逮捕します」
機人を打ち破り、スカリエッティを打ち破った雷光の少女は告げる。
スカリエッティの狂気を打ち破ったのは、過去を断ち切ったアルハザートの遺産
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン…古の罪科を継ぐ事を決意した少女八神はやて…
不屈なるエースオブエース高町なのは…だが。

――及ばんよ…君達の意思は…彼の前には霞むものだよ…

笑みを浮かべるスカリエッティ、あの男は…鴉は…お前のような揺れ動く意思を持っていない…
あいつの意思は誰に言われて揺らぐものではない、誰によって侵されるものではない、誰によって阻害されるものではない、
決めた意志を最後まで貫く男…所詮ただの馴れ合い集団の貴様達には…ほんの一刺しで揺れ動く…
そのような貴様達のひ弱な意思など

―――脆い!軟弱!薄弱!小さい!下衆!弱小!劣る!児戯に等しい!

「終わったわけではない…」
スカリエッティは言う。
「ふざけた事を!戦闘機人は全員逮捕し、ゆりかごもすでに…」
「…オメデタイ連中だな…最後がいる…最初にして最後の…君達では到底及ばない鴉がな…」
「何!まさか、まだ戦闘機人がいるだと!どこにいるの答えなさい!」
「誰が答えるものか…誰が教えるものか…私の存在をナンバーズ以外で始めて認めてくれた男の事など…
 貴様のような出来損ないの残り粕に教えるものか!」
初めて見せた感情に対して驚愕の表情を浮かべるフェイトに対してスカリエッティは奥歯に仕込んだ毒カプセルを噛み砕く…

―――嗚呼、レイヴン…君の羽ばたき、見てみたかったなぁ…

笑みを浮かべジェイル・スカリエッティと言う男はこうして最後を迎えた。


         ――――だがすべてが終わったわけではなかった

「依頼を受けるのか、レイヴン?」
「ああ、受けた依頼はちゃんと受ける…それに依頼料をすでに貰ってはな」
レイヴンの背後にある山積みの物資、資材…それらはアナトリアが生きていくうえにおいて必須な
機械、魔力物質、それらのマニュアルなど。レイヴン…最後の戦闘機人にしてナンバー13「サー
ペント」…復活した鴉はアナトリアに向けられる凶刃を次々とへし折って行った、そうして世界に
漸く秩序が復活した時にジェイル・スカリエッティからの依頼を受け取った、とりあえずある地点
まで来てくれと…
「お前を止めることなど出来んよ…行って来い、そして必ず帰って来い」
「ああ、帰って来るよエミール、アナトリアもフィオナの為にもな」
鴉いやレイヴンの乗ったネクストはある地点まで飛びそして…
目の前に広がる謎の空間…
「入れと言う事か…」
レイヴンはその空間に躊躇せず入った。

「やぁ、半年ぶりだねレイヴン、来てくれて嬉しいよ」
狂人がいた、だがそれは…
「実体がない…ホログラフか」
「そうだ、私の体はすでに消滅している、では依頼をさせてもらおう」
スカリエッティ最後の依頼…それは…
「ふっ、分かった。帰り道はあるのか?」
「ああ、それはちゃんと用意してある、心配しなくてもいい」
「分かった」

そして時空を越えて、世界の秩序を滅ぼした傭兵の乗る機動兵器はかつてスカリエッティ研究所跡の地下から飛び立った…

   ―――嗚呼、レイヴンが逝く
    ―――レイヴンを突き動かす何か
     ―――1つの世界の秩序を潰した鴉は
      ―――異世界の秩序すらその爪で切り裂こうとするのか

ジェイル・スカリエッティ事件…管理局最大の事件は終結し、今失われかけた管理局の信頼を取り戻すべく、ミッドチルダ地上本部において盛大なパレードが行われていた。
上空には管理局の誇るXL級戦艦、そしてその下を鮮やかに飛ぶ空戦魔道士達の編隊飛行、そして地上部隊の華々しい行進、極めつけは事件解決の為に最も貢献した機動6課、
不屈のエースオブエース「高町なのは」…そう集まる民間人の前で演説を行うのだ。

「ううぅ~、演説なんて無理だよぉ~~~」
泣き言を言うなのは、無理もない…万を越える大衆の前での演説なんて初めてなのだ。
「大丈夫、なのはちゃんなら出来るって」
なのはの親友である八神はやては笑顔で言う。
「そうだよ、なのはなら出来る」
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンも励ます。
「ママ、頑張って!」
今やなのはの愛娘である高町ヴィヴィオも笑顔で励ます。
「皆、簡単に言ってくれるね~」
少し恨めしそうになのは言う、だけど彼女達には心残りがあった、そうジェイル・スカリエッティが死に際に吐いた

―――――「最初で最後の鴉」

だが、本局を総動員した調査でもその兆候は見られず、「ガセ」と言う言葉で片付けられていた。
だが例え存在しても自分達の力が合わされれば敵わないものなんてない、そう彼女達は信じていた…

―――だが、彼女達は知らなかった、最後の戦闘機人がどのような存在だったのか。

そして司会から高町なのはの演説が行われると言うと忽ち歓声が湧き上がった、そして照れながら壇上に立つ、
初めて行う大衆前の演説、ドギマギしながらも自分はやるべき事をやったと言う…

―――綺麗な所だな…
カメラから映し出された光景は、今の地球ではほとんど見られない森林地帯であり、澄んだ水が流れる川…そう自分の世界ではほぼ見られない光景…
ジェイル・スカリエッティは時空を越える犯罪者だったのだ、そして彼から受けた依頼は…
「カラスは一宿一飯の恩を忘れない」
―――時空管理局地上本部で行われるパレードを襲撃

民間人を巻き込んだ無差別攻撃、常人では行えない依頼、だがレイヴンは引き受けた。
受けた恩義は返す性質であり、何より…「民間人を巻き込んだ作戦なぞ幾らでもやった」、
そして秩序を叩き潰し、秩序に縋っていた人たちを絶望のどん底に叩き落とした。
そしてAIから無機質な声が響く、もう少しで作戦ポイントまで到着すると言うのだ。

―――今更何を躊躇する。

レイヴンは口元をゆがめる、逝き付く先まで逝き付いてしまったんだ…

―――もう俺の両手…いや身体すべて血で濡れているのだから…

「何だあれは?」
ミッドチルダ上空で制止しているクラウディアの艦長クロノ・ハラオウンは上空に止まる一つの点を発見したのだ。
「レーダー何をしていた!」
「レーダーに反応ありません!」
「馬鹿な…あれは一体…」
まてよ、こんなに人が集まっているそして船は止まっていると言う事は…
「いかん!敵襲だ!」
クロノは叫ぶ。
「アウノウンから質量兵器反応!しかし魔力換算値は…ラ、ランクSS級です!数6!」
「SSが6つだと!」
OPの絶叫に仰天するクロノ…SSランク…純粋に戦略攻撃として使える魔法をあっと言う間にしかも6つとは…
「障壁を貼れ!オールウェポンズフリー!迎撃しろ!」
「駄目です間に合いません!攻撃きます!」
「取り舵一杯!」
クロノは叫ぶ…それがクロノの最後の意志となった。

「え?」
壇上に立つ高町なのはは突然上空で動き出した航行艦の姿に気付く、そして…
一斉にサイレンが鳴り響きそして…破滅を呼ぶ6つの光が降り注いだ。

―――世は常に対価を求める、それがどんな形であれ…それはすべてに当てはまる。

Dies irae deis illa 
(怒りの日 その日こそ)

―――秩序が崩壊する日が来た
 ――――ミッドチルダに秩序を喰らう鴉は降臨した
  ――――夢は喰われ、希望は踏みにじられ、未来は閉ざされた

Solvet saeclum in favilla
(この世は灰と帰さん)
 ――――黒き殲滅者(アナイアレイター)は降臨した
  ――――力なき人々はその殲滅者の姿と刃に怯え、逃げ惑った
   ――――未来を守らんとする勇敢なる戦士達は殲滅者に挑んだ

Teste David cum sibylla
(ダヴィトとシビラと予言の如く) 
―――人を救う事を夢見た戦闘機人は踏み潰され
 ―――兄の意思を告ぐと決めた少女は銃弾によってその意思を果たせず散った

Quantus tremor est futurus
(すべてをおごそかにただすために)
 ―――その力を守れる為に使うと信じた少女が召還した黒竜は撃たれ、少女はその屍に潰された。
  ―――少女と共に歩もうとした槍の少年は、殲滅者の質量にひき潰され、奇しくも共に同じ道を選ぶ事になった。

Quando judex est venturus
(審判者が来給う時)
 ―――鋼鉄の伯爵も、炎の魔剣も殲滅者の見えなき盾を破れず。
  ―――盾も泉の不屈なる防御も暴虐なまでの火力には意味はなく。

Cuncta stricte discussurus!
(人々の恐れはいかばかりであろうか)
 ―――過去を断ち切った少女も、殲滅者だす速度について行けず
  ―――古き罪科を持つ少女も、破滅へ導く6条の光線を喰らい原子まで消滅した。

秩序の塔は崩壊し、炎に囲まれる中、機動6課最後の生き残りである高町はただ絶望に見を焦がしていた、ついさっきまで笑いあっていた、
そして自分達を迎えた多くの人々は、今は物言わぬ骸になっていた、彼女の力をもってしても殲滅者に対する攻撃は当たらず、
また当たっても見えなき盾の前に防がれるだけだった。彼女は大怪我を負っており長年連れ添っていた不屈の心も似たような現状だった、
そして殲滅者の瞳がこちらを見つめていた。
「どうして・・・」
小さくと
「どうして、こんな事を!」
なのはは力強く叫ぶ。そして殲滅者は銃をなのはに向けてこう言った。
「許しなど請わない…寧ろ恨んでくれ」
そして銃弾から弾が放たれ、高町なのはは消滅した。

燃え盛る大地、崩れ落ちる建物…幾度となく見た光景…そして地上本部を襲った殲滅者は時空を越えて元の世界へ戻った、
管理局が総力をあげて探そうとしたがその行方は未だ知られていない。

―――その後、殲滅者を駆けたレイヴンもまた、戦闘機人として、戦士として機能を停止した…
 ―――勝利者なんていない。ジェイル・スカリエッティ事件、管理局最大最悪の事件は誰も知られる事なく終結した。

 やめておこう・・・これ以上は私の語るべき物語ではない

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最終更新:2008年02月23日 10:36