それは一人の少女の想いから始まった。
「いやぁあああああああ! お兄さま!!」
たった一人の家族。
共に歩んでくれると、一緒にいてくれると約束してくれた大切な肉親。
それを失った少女は絶望する。
憎しみを抱く。
燃え上がる怒りが――負の感情が。
――悪夢(ナイトメア)の引き金。
『3時方向1km先に高エネルギー反応! ナイトメアの起動周波数に酷似していますが――』
『ゲインが50倍以上だと?! 馬鹿な!!!』
廃墟の大地に、悪夢が生まれる。
量子状態に保たれていたその存在が波動式によって収束され、物質化を開始する。
悪夢は牙である。
闇は爪である。
ならば、それは――獣であるべきだ。
乾いた、人の焼ける臭いが立ち込める廃墟に異形の腕が顕在化する。
異形の体躯が、編み上げられていく。
それは醜い幻想のように、紡ぎ上げられる。
巨大である。
巨体である。
化け物である。
異形である。
漆黒の体躯を持った、獣の如き巨人がそこに在った。
『アーハハハハハハ!!!』
少女の狂笑が上がる。
それが、世界を変える白き魔女の始まりだった。
皇暦2010年 8月10日
――【管理世界267号】の記録より
神聖ブリタニア帝国は自国支配による全世界の恒久的な平和実現の思想――
バックス・ブリタニアーナの旗の下に、日本に宣戦布告。
強大なブリタニア帝国の前に、極東の小国日本が叶うすべもなく一ヶ月の抵抗の後に完全降伏。
同時に日本は自由と権利。
……そして、名前を奪われた。
イレヴン――大1占領区を示す名称はそのまま日本人を表す屈辱の名前となったのである。
……だがしかし。
その支配を良しとしないものがいた。
――黒の騎士団。
仮面を付けた異形の魔王【ゼロ】に率いられた抵抗組織が、第11占領区を中心に神聖ブリタニア帝国に反旗を翻したのだ。
そして、その戦いは神聖ブリタニア帝国を超えて――組織連携をしていた【時空管理局】を巻き込む大規模紛争へと突入する。
これは異形の悪夢を駆り、暴力を排除する【白き魔女】と
黒き騎士たちを先導し、正義を実行する【黒き魔王】と呼ばれた二者の記録である。
桜色の魔力光が、上空を覆い尽くす。
天使の如き光の羽根を足に生やし、紅い宝玉を称えたデバイスを構えたその女性はまさしく天使のようであり――『エース・オブ・エース』の名に相応しい威圧感を称えていた。
「やめてください! あなたの目的は分からない、けれどこの地区での戦闘行為は許可出来ない!」
天使に反逆するのは異形の悪夢。
大地を駆け抜け、鋭い刃を構えた巨体を駆る――白き魔女。
『ならば、私を止めて見せろ! 力ずくでっ、お前たちのやり方通りに!!』
「私だって……これが正しいとは思わない!」
桜色の魔力が迸る。
視界の全てを埋め尽くすような魔力弾が形成され――
「けれど、あなたを放置すれば泣く人が出るの! だから、私はあなたを鎮圧します!!」
降り注ぐ。
天の裁きのように、一直線に降り注ぐ大量の魔力弾が異形の悪夢を屠らんと襲い掛かり――
「えっ?!」
異形が踊る。
残像すらも残さぬ速度で、異形が桜色の魔力群の中で踊る。
大地を蹴り飛ばし、腕を捻り、足を巻け、首を捻じ曲げて、踊る、踊る、踊る。
まるでロンドを踊るような動きで降り注ぐ砲火を潜り抜けて――
それは無傷のまま、空へと羽ばたいた。
『ブロンドナイフ!』
上空に飛び上がった異形から繰り出される刃が、天使に牙を剥き。
「っ、プロテクション!!」
天使はそれを防ぐ。
「全て躱した?! あれを――読まれていたっていうの!」
『これが私の能力! 「未来線を読む」ギアス!』
未来を知り、暴力を屠ろうとする白き魔女がそこにいた。
それはまさしく悪夢のようだった。
『なんだ!? サーボモーターもエナジーフィーラーも……全て電圧が0に?!』
漆黒のマントをたなびかせた異形の怪人が、触れるたびにナイトメアフレームが動きを止める。
『意識が薄れていく……?! 姫……さま……!』
まるで、その命を刈り取られたかのように。
その歩みを止められる者はいない。
大地を蹴り飛ばし、空を駆け、疾走する魔王を止める術などない。
「見つけたぞ」
瓦礫の上に、闇の如きマントがたなびく。
それはまさしく死だった。
闇を纏う、仮面の怪人がそこに立っていた。
「貴様は……」
それを目撃するのは三人の女。
声を上げたのは紅き髪をたなびかせた女性――第二皇女、コーネリア・リ・ブリタニア。
そして、他の二人の女性は――
「私は黒の騎士団総帥、ゼロ」
魔王が告げる。
王者としての貫禄を纏いて、不幸を告げた。
「ブリタニア皇族に死を与えるべく生まれし黒き魔王である」
「戯言を!!」
コーネリアの登場するナイトメアフレームが起動を開始する。
そして、それと同時に傍を離れた二人の女性が、拳と銃器を構えた。
「やらせない!」
そう吼えて、ナックル――リボルバーナックルと呼ばれたデバイスを構える少女。
その名をスバル・ナカジマといい。
「あなたはここで終わるのよ、第一級犯罪者――ゼロ!」
強き意志を湛えた瞳を開き、二挺拳銃のデバイス――クロスミラージュを構える少女。
その名をティアナ・ランスター。
彼女達は。
「管理局の魔導師……いいだろう」
この世界とは違う組織の所属者。
神聖ブリタニア帝国と結託し、大規模に規模を拡大した時空管理局のストライカー達。
敵は強大であり、その組織の力はそこしれない。
神聖ブリタニア帝国だけではない、強大な力。
だがしかし。
「私の正義を邪魔するならばブリタニアであろうが、管理局であろうとも――私は反逆する」
黒き魔王はそれに反旗を翻す。
そして、勝利するであろう。
そのための意思と運命を、白き魔女は、黒き魔王は背負っているのだから。
【ナイトメア・オブ・リリカル】
白き魔女と黒き魔王と魔法少女たち
――始まるわけがないですよ?
最終更新:2008年02月28日 20:29