「ワタリ……この世界で、もう少しだけ生きてみたくなりました」


その日、一人の天才が世界に生きる希望を見出した。
彼はその時、初めて心から生きたいと願った。
自らの命が、限りあるからこそ……そう感じられた。


―――これがデスノートに書かれる、最後の名前です

―――キラという大きな悪を倒す為の、小さな犠牲です


死神が人間界に落とした、究極の殺人兵器デスノート。
彼は自らの命を犠牲にする事により、その存在をこの世から完全に抹消させた。


―――人間には、未来を変える力があります

―――だから、あなたは生きてください……それがワタリの、最後の望みです


人間の手で生み出された、ウィルスという名の死神。
彼は限りある命の全てを使い、その死神を滅ぼした。


「そろそろ時間です……一人にさせてもらえますか?」


デスノートに書かれた運命は絶対。
死神ですらも、その定めを覆す事は出来ない。
しかし、彼に悔いは無かった。
生きる希望が、自分の中に芽生えてくれたから。
自分自身を救う事が、出来たのだから。
安らかに瞳を閉じ、彼は最期の時を迎え入れた。


その日……L=Lawlietは、安らかに眠りについた。







「……ここは……?」

しかし……運命は覆った。
世界は、彼に新たに生きる権利を与えたのだった。
まだその頭脳が……多くの命の為に、必要であると。


~L change the world after story~

第一話「目覚め」


Lが目を覚ました時、彼の周囲は炎に包まれていた。
地獄の業火とはよく言ったものであるが、目の前の光景は、Lが知る地獄のそれとは全くかけ離れていた。
ならば天国かと言われると、それも全く違う。
天国とも地獄とも思えない……強いて言うならばこれは、今まで自分がいた世界そのもの。
自分達人間が生きている世界そのものなのだ。
しかし、死後の世界がどのようなものなのかを知る人間など、この世の何処にもいない。

(しかし……死後の世界にしても、皮肉なものですね)

自らが臨んだ、最後の決戦の地。
それもまた、業火に包まれているこの施設と同じ―――空港であった。
もしも死後の世界であるとするならば、神や閻魔は中々味な真似をしてくれる存在だ。
Lは軽く苦笑し、そしてすぐに頭を働かせる。
兎に角、ここから脱出する事が今は先決である。
このままでは、自分の身が危ない。
ここが一体何処であるのかを確かめるのはそれからである。
周囲を見回し、安全に避難する事が出来そうな経路を探してみる……すると、その時だった。
Lの背後から、何者かの足音が聞こえてきた。
すぐにLは振り返り、相手の姿を確認する。
杖らしきものを片手に持った、少し特徴的な服装をした男性。
それを見てLの脳裏に浮かんだのは、ファンタジーものでよく見かける、魔法使いや賢者といった職業。

(民族衣装……にしては、何か妙ですね。
当然、死神でもなさそうですが……)
「君、大丈夫か!!」
「……私、ですか?」
「そんなの決まってるじゃないか。
君をこれから、安全な場所に案内する……後は我々、時空管理局に任せておいてくれ」
「時空管理局……?」

聞いたことも無いその単語に、Lはしばしその場で考える。
局員はそんな彼の手を取り、自身が侵入してきた経路を引き返していく。
幸い、突入時に粗方消火は済ましてあるので、帰りは安全である。
そのまま、二人は空港の外へと無事に出て……そして。
それと同時に、Lは推理を終えた。

(……時空管理局。
名前からして、時空を管理するのが仕事の組織なのは間違いない。
死神界という異世界が存在していた以上、十分に在りうる。
彼等の服装等にも、納得がいく。
だとしたら、まさかここは……)

時空管理局という組織の名が意味する事と、そして自身の経験。
僅かな手がかりだけで、彼は全てを悟った。
ここは、自分がいた世界とは違う場所なのかもしれない。
しかし、天国と地獄は勿論、死神界とも恐らく違う。
全く未知の世界……異世界。

(……もしもそうだとしたら、これからどう動くべきか……)
「2-03、2-05、東側に展開してください!!
魔道士陣で防壁張って、燃料タンクの防御を!!」

自らが今、何をすべきか。
Lがその答えを出そうとした瞬間、ある局員の声がその思考を中断させた。
自分と同程度……いや、自分よりも若いであろう女性の局員である。
彼女は今、空港内の見取り図と、内部に潜入した局員達から送られてくる映像とを見比べている。
思うように動く事が出来ず、悪戦苦闘の状態にあるが……そこへひょっこりと、Lは首を突っ込んだ。
局員の腕を軽く振り切り、指示を出している女性の隣に立つ。
当然ではあるが、こんな状況でいきなり見知らぬ人物に隣に立たれては、その局員も驚かざるをえない。

「え……あなたは?」
「あ、おい!!
すみません、八神さん……彼は、今そこで救助した民間人です。
すぐに安全な場所まで退避を……」

しかし……彼女達が本当に驚かされるのは、この直後だった。

「ここの局員さん達は、こちらの区域に回してください。
火の手の回りを考えると、先にこちらから抑えるのが専決です」
「え……?」
「後、こことここの通路を使うのは避けてください。
恐らく、近いうちに床が崩れます。
最短の迂回ルートは、ここの非常階段を使う道です」

誰もが予想だにしていなかった展開が起きた。
Lは驚くべきスピードで状況を把握し、そして局員達へと指示を出し始めたのだ。
最初の内は局員達も唖然とした表情で彼とモニターを見つめていたが……その直後。
通路が一つ、音を立てて崩壊した……Lが指摘をした場所である。

「い、言った通りに……!!」
「マジかよ……!?」
「……すみませんが、よければ指示通りに動いてもらえますか?」

Lの言ったとおりになった事に、局員達は驚きを隠せない。
そしてLはというと、冷静に状況を分析して局員達へと更に指示を飛ばしている。
僅かに遅れて、局員達が一斉に動き始めた。
Lの指示通りに、行動を開始したのだ。
本来ならば、素性の知れない民間人に現場の指揮を任せるというのは、かなりの問題行為。
しかし……その問題行為というマイナスを帳消しに出来るほど、Lの存在は大きなプラスであると局員達に認識されたのだ。
側にいた女性局員―――八神はやては、彼のその手腕にただただ驚嘆するしかなかった。

彼が何故、こうして首を突っ込んできたのか……その理由も知らぬまま。

「凄い……」
「出すぎた真似をしてすみません。
ですがここは、少しご協力をさせてください……私もこういう事態には、なれてますので
事後処理が面倒かもしれませんが、今は目の前にある命が最優先です」
「……分かりました。
こちらこそ、ご協力に感謝……」
「はやてちゃーん!!」

その時、はやての元へと掌サイズの少女―――リインフォースが飛んできた。
Lは彼女を見て、一瞬だけ目を大きく見開くも、すぐに元通りになる。
死神なんていう存在を見た彼にとって、小人だの妖精だのは可愛い方である。
それにこの場が異世界であるというならば、正直何がいても不思議ではない。

「リイン、どないしたん?」
「今、主都からの応援部隊が到着しましたです!!
これで大分、状況も……あれ、そちらの方は?」
「ああ、この人は民間協力者の……」

リインに聞かれ、はやては彼の事を紹介しようとする。
ここでようやく彼女は、自分が彼の名前をまだ聞いていなかったことに気付く。
それを察したのだろうか、Lは指揮を止めて二人へと向き直る。
そして……静かに、自らの名を告げた。

「はじめまして……私は、Lです」

Lは名を名乗り、そして二人の反応を見る。
キラ事件以降、自分の名前は世界中の者達が知るところとなっている。
驚き・恐れ・歓喜……何かしらの反応を、確実に示す筈である。
それを確認する為に、Lはあえて竜崎の偽名を使わずに二人と接したのだ。
Lがこうして指揮の場に首を突っ込んだ最大の理由は、この行動を取りたかったからである。
勿論、人命救助と災害鎮圧もちゃんとした目的であるのだが。
しかしこれは、ここが異世界であるかを確認する為ではない。
リインの様な人外の存在や、魔法使いらしき者達が空を飛ぶ光景を見た時点で、既にそれは分かりきっている。
それでも尚、この質問をした理由は一つ。

(時空を管理する組織だというのなら……私を知っている可能性が、もしかしたらあるかもしれない)

自分の事を知っている者がいる可能性がある。
もしそうだとすれば、その者によってこの場に呼び出されたのではないだろうか。
これが、Lの推理である。
もしもそうだとしたら、この名乗りに対し、何かしらのリアクションを起こさずにはいられない。
しかし、そうでないならば……

「Lさんですか?
変わった名前ですね……私は、八神はやて言います」
「リインフォースです」
(やはり……)

二人の反応は薄い。
Lはこれで、自分の推理が正しかった事を確信する。
この世界において、自分の名前は全く知られていない。
はやてとリインが知らぬだけという可能性もあるにはあるが、それは低い。
はやてがこの場の指揮を任されていたと言う事は、彼女にはそれなりの地位もしくは実力があると考えられる。
少なくとも、末端の人間ではないのは確実……知らされていないというのは、考えにくい。

(……つまり私は、デスノートで命を落とす直前に、何かしらの理由でこの異世界にやって来てしまった。
恐らくはその影響で、デスノートの効力は無効化されてしまった……都合が良すぎる解釈だが、こう判断せざるを得ない。
ならばここは、私が異世界からきたと言う事を明かすべきか……)

事態の鎮圧と、自らの身に起きている事。
その両方を同時に考えながら、Lは作業を進める。
一度に複数の事を同時に考えるのは、魔道士の重要なステータスの一つ。
しかしLは、魔道士で無いにも関わらずにそれを成し遂げていた。
尤も、本人はそんな事など知らないが。

(それにしても……八神はやてさん、ですか。
どうも『ヤガミ』という名前の人とは、縁があるみたいですね……)
「すまんな、遅くなった」

その時だった。
白髪交じりの男が、車から降りてこちらに向かってきた。
はやてとリインはその姿を確認すると、彼の元へと駆け寄る。
どうやら先程リインが言っていた、応援部隊の指揮官らしい。

「八神はやて一等陸尉です。
臨時で部隊の指揮を任されてます」
「陸上警備隊、108部隊のゲンヤ=ナカジマ三佐だ……ん?
なあ、部隊指揮って今……」

ゲンヤははやての言葉を聞いた後、Lの方へと視線を向けた。
白い長袖シャツに青いジーンズと、どう見ても局員とは思えない服装。
一般人なのは間違いないだろうが……しかし様子を見る限り、その指揮はかなり的確である。
これは、自分以上かもしれない。

「ええ……あの人はここで救助された民間協力者の方で、名前はLさんと言います。
勝手な判断ではありましたが、これがベストだと判断して現場指揮をお願いしました」
「ああ、見てりゃ分かる。
ありゃ多分、俺以上だろうな……」
「ゲンヤさんもLさんと一緒に、現場指揮をお願いしてよろしいでしょうか?
私は、これから消火活動に参加します」
「ああ、分かった」

現場を任せられる人間が現れてくれた為、自分も消火活動に参加できる。
はやてはLとゲンヤに現場を任せて、空港へと走っていった。
その後、ゲンヤも自身の部隊へと指揮を出すべく、Lの隣に立った。
Lは一瞬だけ彼の顔を見た後、すぐにモニターへと視線を戻し、そのまま挨拶する。

「はじめまして、ナカジマさん。
私はLといいます……先程のはやてさんとの会話通り、私は一般人です。
あまりいい気分はしないかもしれませんが、今はご容赦ください。
事態の鎮圧と人命の救助が、今は最優先です」
「ああ、その辺の事は俺はあまり気にしてねぇよ。
猫の手だって借りたい状況だ、どうにか出来るなら局員も一般人も関係はないしな。
それと、俺の事はゲンヤで構わないぞ」
「ありがとうございます。
ではゲンヤさん、早速そちらの部隊を動かしてもらえますか?」
「ああ、分かった」

ゲンヤはLから現場に関する説明を受けると、すぐに部隊を動かしていく。
ベテランのゲンヤから見ても、Lの指揮はかなりのものだった。
彼に問題があるとすれば、局員の能力を把握し切れていない所だろうが、それはサポートすればどうにでもなるレベルである。

(魔法の事をあまり、いや、殆ど知らねぇ様子だな……他所の管理世界からの旅行者か?)

Lはどうやら、魔法に関しての知識が殆ど無いらしい。
ゲンヤはその点をカバーしつつ、二人で協力し合い事態を終息へと向かわせていく。
そしてしばらくして、ようやく火災が治まり始めた頃に、ゲンヤはLへと尋ねた。

「それにしても大した腕だな……お前さん、一体何者なんだ?」
「探偵です。
警察組織と一緒に大きな犯罪組織を相手にする事もありましたし、こういう現場には慣れてます」
「成る程、探偵か……しかし、これだけの実力を持ってるならかなり有名だとは思うんだが……Lか。
聞いたことがねぇ名前だな……」
「聞いたことがないのも、無理は無いでしょう。
どうも私は、この世界の人間じゃない様ですから」
「……何?」

Lの言葉を聞き、ゲンヤは己が耳を疑った。
彼は今、さりげなくとんでもない事を言った。
自分はこの世界の人間ではないかもしれない……それはつまり、意図してこのミッドチルダに来た訳ではないという事。
他世界からの旅行者とか、そういうのでは決してなく……

「……時空漂流者って訳か」
「まあ……そういう事になりますね」

Lは何らかの事故によりミッドチルダへと来た異世界の人間であると、ゲンヤは理解した。
それならば、魔法に関してあまり理解が出来ていなかった事に関しても、納得がいく。
しかし……それにしては、随分と落ち着いている。
普通、いきなり異世界に来れば慌てふためくものなのだが……大したものである。

「分かった、とりあえずこいつが終わったら色々と話を聞かせてもらえるか?」
「ありがとうございます、ゲンヤさん。
私も今、それをあなたにお願いしようと思っていたところです」

Lもゲンヤと同じ事を考えていた。
この火災が片付いたら、自分にはやることがない。
何処か行く宛がなければ、何かをする資金も無い。
時空管理局という場所に色々と頼まなければ、どうしようもなかったのだ。
それだけに、ゲンヤの言葉は願っても無い所であった。
これで行動の目処が立つ……Lはゲンヤへと一礼をし、再び指揮に戻る。
するとここで、彼はふとある事に気付く。
余裕が出来た御蔭で気付けたが、ここには自分がいた捜査本部と違い、あるものが足りない。

「あの、ところですみませんが」
「ん、どうした?」
「御菓子とか、何か甘いものって今持っていませんか?」
「……は?」

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最終更新:2008年03月12日 18:40