「外ガ、騒ガシイナ」
くぐもった、人間ならざる発音で無理に人間の言葉を喋るような、多大な負担を掛けた声が地下神殿に深く響き渡った。
其処は正に異界の聖域。ありとあらゆる瘴気と汚濁によって構成された、神聖不可侵たる絶対領域。左右の岩肌にはおよそ人間の正気では考えうることすら出来ないであろう歪なナニカを模した神像が幾つも並び、聳え立つ。
何処からともなく海風が吹き渡り、潮の香りが瘴気と異界の化学反応を起こし尚一層の瘴気が産まれ、その連鎖。其れを“彼ら”は生きてゆく為の糧として肺に取り込み呼吸をする。
暗闇の所為か、最初はその全貌が余り解らなかったものの、暫くすればその聖域を事細かに見渡せた。
……灰色のローブを纏った人影が、何十名もその場で膝を屈し祈りを請うていた。彼らが祈るのは、その聖域の最奥に位置するモノ。左右に聳え立つ神像よりもなお巨大で、神秘に満ちて、何よりも圧倒的な邪悪によって構成された『神の石像』。
傍から見れば蛸のようにも見えるし、ヤドカリにも見え、或いは龍頭を手足の触覚として機能させる異界の甲殻生物にも見える。
そんな圧倒的な神像に彼らは信仰を奉げ、祈りを奉り、生贄として“自らの眼を潰しあった”。其れは交配の儀式にも見え、舞踏を謳う舞妓の如き異様。
……『長老』は違和感を覚えながらも、それを一端無視しその神聖な儀式を見守った。最奥の神像の玉座に置かれた、何処かの異界において創造された、膨大な純正魔力を凝結化した宝玉を。異界において『失われた技術(ロストロギア)』と謳われた、魔の結晶を見据えながら。

「嗚呼、神ヨ。我ガ、我等ガ信仰ヲ奉ゲ、止メ処無ク愛セン神ヨ。コノヤディスノ丘ニテ再誕ヲ求ム神ヨ。応エヨ(イア!)、応エヨ(イア!)……我等遥カナ異界ノ原理ト摂理ヲ信仰シ、汝ガ“眸”ヲコヨナク見据エ、世界ヲ暗黙ノ灰濁ニ固メン!」

その祈りの聖句を皮切りに、教徒達は声を揃えて謳いあげる。異界の祈りを。異界の信仰を。異界の神仰を。

“―――神殿の神こそ神殿の霊宝なり!”
“―――神殿の神こそ神殿の霊宝なり!”
“―――神殿の神こそ神殿の霊宝なり!”

滑(ぬめ)りと、神像の瞼(まぶた)が蠢いた。

◆◆◆

『運命の探求』
中編

◆◆◆

切頭円錐の山の頂に向かう二人は認識阻害の魔法を展開しながら“不可視の影”の眼を欺き、一先ずの休息を取っていた。
フェイトは“現地協力者”として認知した謎の老人――ラバン・シュリュズベリイの様子を見据え、彼は一体何者なのかを思考する。
彼女の危険に突如として天空より舞い降りた正義の味方か? 確かにその認識は間違ってはいないが、何処か子供染みた発想だ。
そもそも彼が駆るあの刃金の巨鳥は一体なんだ? それの持つ魔力を観測したところ、余りに桁違いの数値を叩き出され内心で驚きを隠せない。
下手をすれば上級ロストロギアに匹敵するかもしれない。だがそんな危険極まりないモノを容易く、己の身体の一部の様に操る彼自身が一番不可解だ。
此処まで魔力総数が尋常じゃない物質を操る事は例えSランク持ちの魔導師だって難しい。むしろ完璧に操作するなど実質的に不可能の筈。ならば、この男は一体、何者なのか。
下手な魔導師よりも明らかに格上なのは解る。しかもその凶悪な力を悪意を持ってして扱っているワケじゃない。味方としてはこの上なく頼もしいが、管理局に登録されてないフリーの魔導師は摘発されなくてはならない。
が――今はそれよりも、優先すべき事がある。彼の正体に関しては今は置いておくことが賢明といえるだろう。

「すみません、シュリュズベリイさん」
「今の私は君の教師だ。そう硬くならなくてもいい。軽い気持ちで“先生”と呼んでくれた方が私としてもやりやすい」
「う゛……ど、どうしてもですか?」
「なにぶんそういう物を生業としているのでね。“さん”と付けられるよりも“先生”と呼ばれた方が親近感が沸く」
「は、はぁ……ではシュリュズベリイ先生、と。質問いいでしょうか」
その先生という呼称が付いた事に軽い笑みを綻ばせ、疑問を提示したフェイトに顔を向け、
「ふむ。何だね、フェイト君」
と満足そうに、その色黒い肌と相反を成す白い歯を輝かせた。
「あの“見えない影”のようなアレは……一体、なんなんですか?」

フェイトが質問を言及したのは、先ほど襲い掛かってきた“不可視の影”について。
視覚することが出来ないだけでなく、魔力反応さえ欺く程のジャミング能力。魔導師にとって、人間にとってこれ程やりにくい相手はいない。
先ほどの彼の言動は何処かあの影の事を知っている素振りを見せていた。それを踏んで、フェイトは思い切って聞いてみたのだ。
シュリュズベリイは憮然と、後方で自分たちを探し蠢く“不可視の影”に顔を向けて喉を鳴らした。

「アレはロイガー族と言われる物たちの群集だ。アレ等は元々、別星系からこの地球に飛来した種族でね、この星において約20万年前にその存在を“原始ムー大陸(ハイパーボリア)”で確認されたと言われている。
アレの最も特徴的な性質はその視覚的にも呪術的にも高度な認識阻害の術式を皮膚上に展開されている事だ。その所為で我々がそれを知覚するのは至難の業とされる。
……最も、元々魔術の才を持ち、霊感も備わった人ならばその“影”を捉えることくらいは出来るのだが」

「ロイガー……族」
聞いた事すらない種族だ。未確認の魔導生命体と判別すべきか。
そんな超常的な能力を持ち合わせた種族が所狭しに巣食い、尚且つあそこまでスピードが高いとなると凡百の攻撃魔法では掠りもしない。
魔導師にとってこれ程戦いにくい相手は居ない。彼奴等に対処する方法は、在るのだろうか。
彼女の不安と苦虫を噛み潰した時の感情が混ざり合い、それが表情に出たのだろう、ぎしり、と歯が軋む音が聞こえた。
だが、その様子に彼は笑みを零しながら――

「“在るとも”。それを見つけ出し、思考し、実践したのは他でもない我々人間であり“魔術師”だ」

駆り立てる威風と絶対的な自信を持って、断言した。彼の黒い外套が翼を広げる様に翻る。
すると彼が乗り立つ刃金の巨鳥……魔翼機『バイアクヘー』が“不可視の影”……ロイガー族が密集する虚空へその前面を向き返した。
それと同時に認識阻害の術式を破棄。刃金の巨鳥が威風堂々と、不定形な身体で必死に宙を蠢く影達の認識空間に顕現する。
一斉にこちらへ向き直る不可視の影達。見えない牙と爪が煌き、獲物を見つけた獰悪な肉食獣の眸で見据えるロイガーの眷族。されどシュリュズベリイは不敵に微笑む。
彼女が見たその背中は、想像し得るありとあらゆる敗因の欠片が風塵と共に散り失せた様に見えた。人類最強の邪神狩人(ホラーハンター)が、右手を翳し高らかに咆哮を暗雲の下で轟かせる。

「フェイト君、バイアクヘーに背に掴まりたまえ。これより講義を始める!」
「は、はい!」

その声を皮切りに、シュリュズベリイとフェイトを乗せたバイアクヘーが単機で飛翔した。
一瞬にして超音速に到達しうる速度は事も無げにロイガー族達が蠢く宙域に到達し、だがそれでも尚止まらずにその群集の中を穿つように突破する。
大気さえ切り裂く風は進路上に擬似的な真空を生み出し、近くにいたロイガー族数十体がその中にまるで蟻地獄の様に引き込み、引き千切られ、引き裂かれ、絶命した。
だがそれでもその数十体はこのロイガー族の二割にも満たない。残りの総てが、同胞達を切り捨てた刃金の鳥に眼を向けた。
―――疾ッ!!
壁が迫るように視界に広がる総ての前面方位から文字通り全部のロイガー族がバイアクヘーを追いかけ宙を翔破していく。
まるで餌につられやってくる雑魚の軍勢だ。シュリュズベリイはニヤリと口を歪め、ロイガー族の軍勢総てを見渡せる程の距離でバイアクヘーを静止させる。
彼は“いつもと同じように”教卓の上で教鞭を振るうが如く、それらに手を翳しながら雄弁に語り始めた。

「彼らロイガー族は我々と同じように三次元の法則で認識できる肉体を持っている。先ほど飛翔した際に発生したバイアクヘーの衝撃(ソニックブーム)で引き千切られた肉がソレだ。
……が、アレ等の本質は三次元の法則にのっとるモノではなく、別次元の法則に編まれた存在だと言われている。己が身体を霊子……魔力によって構成する一種の精神体こそが本体だといえるだろう。
―――ではフェイト君、アレ等に対しては一体どのような攻撃方法が一番有効だと言えるかな?」
「えっと……純粋な魔力で構成された術式を使用する、でしょうか?」
「正解だ。彼らの本質と同じように、我々の精神と多大な関わりを持つ生命の源泉、魔力を持ちえた攻性呪法を用いれば彼らの精神体に対して非常に有効といえる。
が、それを君がやっていた様な単発式では埒が空かん……ならば、如何にしてそのような現状を打破しうるか。――私が解答例を見せよう。フェイト君、私の背後に隠れ、出来うる限り“耳を押さえておきなさい”」
瞬間、彼の身体に内包された魔力が昂ぶった。荒々しい嵐を思い起こすような、壮大で圧倒的な魔力。
吹き荒れる風が彼の身体を包み込み、彼がその術式に介入し、全く新たな術式へ変貌させた。魔力が収束する場所は彼の声帯器官と呼吸器官。彼の内臓部に術式が解き放たれ、術式の嵐が強壮な肉体の中で暴れ回る。

「では諸君等にも教授してやろう、ロイガーの血族よ。……ハスターの魔力、風だけと思うな!」

身体の中に押し込められ、堰されていた天蓋が、解放された。
咆哮。絶叫。咆哮。怒号。
世界が揺れる。宇宙さえ振動させうる超音域の咆哮が響き渡る。
吐き出された“声”は螺旋を巻きながら円形の波状を残し、眼前に迫る数十……百にいたるであろう“不可視の影”に向かった。景色が、歪む。
その圧倒的過ぎる魔力の波濤から逃れるように耳を鎖しながら、フェイトは視た。世界を揺るがす超音領域の狭間と真っ只中、その中に飲み込まれたロイガー族の顛末を。
悲鳴をあげ、悶え、のたうち、苦しみ、血潮を吐き出し、或いはその果てに身体ごと爆ぜていく。精神体でしかない筈の彼らが血を流し涙を流し、文字通りズタズタにされた身体がまるで元から無かったかのように消滅していく。まさに阿鼻叫喚の地獄のようだと、彼女は思う。
これは一方的な蹂躙という言葉さえ生温い、裁きの言霊だ。……言霊? 否、この囀りは―――唄に近い。いや、唄そのものだ。後に語る彼曰く、これは神の歌。
魔風の神ハスターの力を持って成し得る禁呪。自らにハスターの力を呼び込み、声として発射し、受けた者はハスターの瘴気により肉体及び精神を文字通りずたずたにしてしまうというモノだ。故に彼はソレを“神の歌(ソングオブハスター)”と呼んだ。
程なくして、アレほど視界に所狭しと蠢いていたロイガー族はその声によって総てが消滅した。見渡す限りの虚空に、彼らが居た痕跡は何一つ残さず、風塵と共に散っていく。

「そう―――彼らロイガー族への対処法は、純粋な魔力で構成された超広範囲術式を持ってして、余すところ無く一度に殲滅する事だ。
物理的攻撃も彼らには効かず、単純な魔術でも一匹ニ匹死んだところで“一つの精神体”である彼らにとっては傷の一つすら負ってないも同然。故に、一度にそれを吹き飛ばす大魔術の使用。これが、彼らへの対処法だ」

神の歌(ソングオブハスター)の術式を終えて語った彼の説明は何処までも的を得て、信憑性も実践的にも完璧だ。なにせ実演すらやってのけてくれたのだから、これを否定することなど一体誰が出来ようか。文句なしに完璧である。
完璧なのではあるが………フェイトは口を引きつらせながら苦笑して心中で述べる。
(そんな無茶苦茶な……)
先ほどから思っているのだが、こうも無茶苦茶だと少々頭が痛くなっていく。が、そんな彼女の心中など知る筈も無く、シュリュズベリイはバイアクヘーに向けて指示をいれる。
「レディ、先ほど見たあの洞穴は如何なモノだと思うかね?」
そう、まるで子に語りかける様に……というよりも、語りかけている。
「レディ?」と反芻しフェイトが疑問の印を頭の上に浮かべ、何を言っているのか聴こうとした瞬間―――

『アレは多分ブラフだよダディ。きっと罠が仕掛けられてる』

幼い女の子の声が、そのバイアクヘーより聴こえてきた。
沈黙。彼女の頭は最早『点』しか浮かばない。静寂が流れる。
そんなフェイトの動向に違和感を覚えたシュリュズベリイは「嗚呼」と手を叩き、何かを思い出したかのように独りで納得した。すると彼の指示でバイアクヘーは適当な大地へ着陸し、シュリュズベリイはフェイトに降りるよう促した。
何事かと思ったフェイトだが、彼が何かを……先ほどの疑問に答えてくれるのだろうと確信し、その場にストン、と脚を落とした。
それを確認したシュリュズベリイはバイアクヘーに向かって、先ほどと同じように親愛の情を漏らしながら声を掛ける。

「レディ、出たまえ」
その言葉を聴いた瞬間、「イエス、ダディ」と親愛の篭められた声でソレは現出した。
バイアクヘーが超次元的に畳み折られ、新たな存在へ昇華される。ソレは……まだ幼い、女の子の姿をしていた。フェイトがソレを視て口を空けて呆けるしかなかった。
「少々、刺激が強すぎたか」とぼやきながらやがて彼は厳かな声で、かつ親しみを込めた感情で彼女の思い描いているであろう疑問に答えた。

「紹介しよう……我が魔導書『セラエノ断章』。名をハヅキと云う」
「よろしく、フェイト」

感情があまり篭ってない言葉を少なげに出して、その娘はフェイトを一瞥した。
呆けていた彼女がコレを見た瞬間、驚きの声を大きく咆哮したのは言うまでも無い。
いや、魔導書が精霊化し実体化すること自体には耐性を持っているというか既に前例を知っているため、其処に驚いたワケじゃあない。
ただ、あそこまで超次元的な変形で現れてしまっては、なんというか、その。彼女には驚くという術しか持ち合わせていなかった。


そうして後々に彼から彼女についての説明を端的に聞かせてもらった。
彼女は彼……ラバン・シュリュズベリイが書き記した魔導書『セラエノ断章』の精霊であり、先ほどのバイアクヘーを操っていた張本人だという。
故にシュリュズベリイとハヅキの関係は親子のそれと全く変わらず、呼び方も「娘(レディ)」と「父(ダディ)」。親しみやすくも馴染みやすく、かつ解りやすいことだった。
説明を受ければ受けるほど気付いた事がある。詰まる所、フェイト達から言わせてしまえば、それはデバイスと変わらない。
あのバイアクヘーに宿る膨大な魔力の件については未だはっきりしないが、大部分は魔導書の魔力と術者自体の魔力で構成された代物なのだろうと解釈した。ともすれば、次の行動はいかなものにするのか。
シュリュズベリイは剛毅な風情をまといハヅキに声をかける。

「あの洞穴がブラフだとすれば、そうだな……レディ、今日の爆装(ドレス)は?」
「“GBU-Xバンカーバスター改”、まんまだけど、『ラムホテップ王のピラミッド』の時より穿孔性が四割以上アップ。
その代わり爆薬としての性能は格段に下がってるね。まるで土竜みたい」
爆薬とか穿孔性とか、なんだかやけに、聴こえてはならない物騒な声が聴こえた気がした。
管理局の魔導師としてどうかと思うが、フェイトはその言葉を敢えて無視した。
横目で見れば、シュリュズベリイが顎に手を添えて考え込む姿が見受けられた。彼はうんうんと快く頷き、再び笑みを零して云う。

「土竜(モール)、か。確かにそのままだ。だが今の状況で踊るならこよなく素敵な爆装(ドレス)だ。……よし、では舞踏会と洒落込もう。一緒に踊ってくれるかね、フェイト君?」

この時点でフェイトは、自分に拒否権など無いことくらいは先ほどまでの行いから心底理解していた。もうどうにでもなれ、と頷き。フェイト自身だんだんヤケになっていったのは云うまでも無く。
その解答を笑みを絶やさず受け入れ、ラバン・シュリュズベリイは全世界に轟くような口訣を紡いだ。

「よろしい。では諸君―――反撃の時間だ!」

その言葉を皮切りにハヅキはバイアクヘー形態に移行し、フェイトもそれの背に掴まった。飛翔。一瞬にして雲に届きそうなくらいの高さまで到達。
予め詰められた四つの杭が超高々度の天空より合図も無く落とされる。全長12.8メートル、貫通性を持たせるために
先端を高温・高圧状態の炭素が凝結した、この星が創りだした最も硬い物質である鉱物『ダイヤモンド』をミクロサイズにまで鋭利に研ぎ澄まされたモノを満遍なく搭載した文字通り破格の兵装。
名を“GBU-Xバンカーバスター改”。セラエノの知識を駆る魔術師とその精霊曰く“土竜(モール)”と称された、大地に大口径の大穴を穿つ為だけの代物。
それが四つ、遥かな天空より舞い降りて、ついに霊峰『ヤディス=ゴー』の堅牢な肌に触れた。


◆◆◆


“彼ら”が神像に祈りをささげている最中に、異変が起こった。
轟、と。鈍い音が地上からこの神殿に迫ってくるのが嫌に成る程理解する。
信徒たちは祈りをやめ、阿鼻叫喚の騒ぎを繰り出し、必死に神に助けを請うた。
無駄と解りつつも、純粋な信仰心は消えることなく、ただただ愛すべき異界の神に対して、助けを請うた。
音が近づく。逃げる暇など無い。『長老』はその様子を慌てふためきながら、神像に這い蹲り身をよじりながら悲鳴をあげた。
「―――ッ!? ナニゴトダ!!」
『長老』は悲痛な叫びを上げて上の岩肌を見上げた。何かが、この神殿に迫る。
それは何だ。そもそもこんな僻地にいったい誰が、なんの為にやってくるというのだ!?


「それは誰もがわかっている事だと思うのだがね、『神官トヨグ』。このような邪悪をのさばらせておきながら、私が動かないとでも思ったか」


声が、聴こえた。男の声だ。知らない男の声。だのに、まるで生涯の怨敵と出会ったような不快感が現れてきそうになる、そんな邪悪に抗う愚かで脆弱なニンゲンの声。
『長老』は―――『神官イマシュ=モ』は見上げた岩肌に亀裂が入るのを垣間見た。その亀裂が大きくなっていき、終ぞ大きな破壊孔が綺麗に出来上がった。破片と化した岩が幾数かの信徒達を押し潰していくのが見える。だが大半の信徒達は無事に難を逃れたようだ。
だがそんな視界情報などは頭に介入されず。神官イマシュ=モは遥か上に出来上がった穿孔痕より飛来する巨大な影を凝視した。
其れは刃金の猛禽。
其れは無窮の空を翔け抜けし巨鳥。
其れは霊子の海を渡り征くヒアデスの風。
魔翼機バイアクヘー。それを意味することは即ち―――

『貴様カ……! コノ様ナ僻地ニ態々脚ヲ運ブ奇特ナ人間トハ、貴様ノ事ダッタカ……ハスターノ奴隷メガ!!』
「生憎奴隷になった覚えなど無いな。お初にお眼に掛かる、ヤディスの奴隷よ」
『ラバン・シュリュズベリィィィィィィィィィィィィィィィィ―――――――――ッッッッッ!!!!!!』

邪神狩人(ホラーハンター)が、獲物を求めてやって来たのだ。その鋭利な爪を携えて。その獰悪な嘴を煌かせ。
世界最強と謳われし、魔風を駆る盲目の魔術師が、遥か彼方に暗雲がつのる空より降臨した。


続く。

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最終更新:2008年03月23日 17:13