『なのはママとフェイトママ、どっちが強いの?』
ヴィヴィオの発した無邪気な問いが六課に波紋を投げかける。
始まったのは祭りのような騒ぎ。
アルトとスバルが中心となって盛り上がる機動六課。
しかし、相反するように静観するのは渦中の人である隊長陣および副隊長陣。
そんな中、なのはが投げかけた問いに誰もが首をかしげる。
『自分より強い相手に勝つためには自分のほうが相手より強くないといけない。』
目の前に答えが転がっているのに誰も気がつけないのは近すぎるからか。
それとも独り立ちできたようで未だにひよっこだからなのか。
魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。

第14.5話 強いということ

「やっぱなのはさんじゃない。航空戦技教導隊の教導官で負傷ブランクがあったとはいえ10年飛び続けた歴戦の勇士なんだし・・・・・・。」
「管理局のエースオブエースは伊達じゃないだろうしね。」

スバルの言葉にあたしも同意する。
エースオブエースの称号は欲しいと思っても手に入らないものだから。
さて、何故こんなことを言っているかといえばヴィヴィオの見ていた教材用のビデオが事の発端。
始まりは訓練後のお昼休み。

いつもの訓練後、なのはさんと一緒に隊舎へ戻ってきたあたし達の目の前でヴィヴィオがなのはさんに抱きつく。
なのはさんがヴィヴィオのママになったらしいし、まだ幼いヴィヴィオだからこの反応は当然だろう。
しかたないなって笑みを浮かべてなのはさんがヴィヴィオを抱き上げる。
嬉しそうに笑みを浮かべたままのヴィヴィオ。
それは本当に家族の光景。
死んだ兄さんにオモチャの銃を片手に持ったあたしが抱き上げられたときのような・・・・・・。
少し感傷的な気分になっていると・・・・・・。

「なのはママもフェイトママもかっこいいでしょ?」
「うん!!」

なのはさんの言葉にヴィヴィオが満面の笑みを浮かべながら頷く。
なのはさん達、素直にかっこいいもんね。
でも、教材用なんだからかっこいいというか洗練されてないといけないと思うんだけど。
皆の見本になるべきビデオなのに、雑だったり見習っちゃいけない事例集みたいなのだったら・・・・・・あれ?
それはそれで反面教師になるのか?
なんにせよ、ヴィヴィオからすればママがかっこよく映っているビデオっていうだけで意味があるんだろうな。
そんなことを考えていたときだった。

「なのはママとフェイトママ、どっちが強いの?」

無邪気にヴィヴィオが発したその言葉にフォワードメンバーの意識は一斉に向く。
もちろん、あたしも・・・・・・。
誰もが1度は考えるだろう内容ではあると思う。
けれど、本人に尋ねるなんて恐れ多くて出来ない内容。
それがまさに今、目の前で行われた。
あたしは今とてもいいタイミングにいるのかもしれない。
スバルなんか聞きたくて仕方ないと言わんばかりの様子。
エリオ達も一言も聞き逃さないとばかりに意識を集中させている。
けれど、あたしの予想に反して、なのはさんの答えはこんなものだった。

 

「うーん、どうだろうね。比べたりしないからわかんないなぁ。」

笑顔と共につむがれた答え。
見た限り、謙遜とかそういうのじゃなくて純粋に分からないって言っているみたいな・・・・・・。
私も他の皆も肩透かしを食ったような気分。
だからこそ、今現在に至っている。

「でもフェイトさんだって事件の現場に向かい続けて手荒な現場でも陣頭に立って解決してきた一線級の魔導師ですよ!」
「空戦ランクはなのはさんもフェイトさんも同じS+ですし・・・・・・。」

ライトニング組はフェイト隊長のほうが強いと主張し、
あたし達スターズ組はなのはさんのほうが強いと主張する。
エリオ達からすればフェイト隊長はお母さんかお姉さんみたいなものだからそっちを推すし、
あたし達のほうはスバルがなのはさんに憧れちゃってるし、
アタシもなのはさんが教導官という先生の先生という立場にいることととエースオブエースっていう称号をもっていることから判断した結果。
当然どちらも譲らないから延々と堂々巡り。
あたしとキャロはどっちでもいいかもとか思い始めている空気をまとい始めたけれど、
逆にエリオとスバルはヒートアップする一方。
にこやかに笑ったまま、互いに主張を譲らない。
手は出さないと思うけど大丈夫かしら。

「いや、やっぱなのはさんでしょ―。」
「フェイトさんも負けてないと思いますっ。」

不毛な言い争いなのに譲ろうとしないのはどちらも憧れの人だからといったところか。
ヴィヴィオの何気ない一言から始まった言い合い。
どちらが強くてもあたし達が強くなるとかそういうことはないんだけど・・・・・・。
たしかに気になるわね。
純粋な興味として、誰が最も戦闘能力が高いのか。
SランクやSSランクなんて魔導師ランクの人間がごろごろいるこの機動六課だからこそ・・・・・・。

「でも、ホントにどっちが・・・・・・ってか誰が六課で一番強いのかしらね。
八神部隊長や副隊長たちもかなりのもんなんだし。」
「「「あー・・・・・・。」」」

『あー』ってあんた達、なのはさんとフェイトさんのことだけしか頭に無かったのか。
スバルは昔からそんな傾向あったけど、エリオまで実はそうだったのか。
普段は年齢に会わないくらい大人びてるというか子供らしくないのに・・・・・・。

「ティアナー。なにを話してるの?」

不意に声をかけてきたのはアルトさん。
カルボナーラを乗せたお皿片手に・・・・・・。
そういえばお昼休みなんだよね。
早く2人の話を切り上げさせないと食べる時間が無くなるんだけど。

「あ、アルトさん。ヴィヴィオがなのはさんにした質問の内容で2人が譲らないんですよ。」
「へぇー。どんな内容?」

簡単に内容説明。
なのはさんとフェイト隊長、どっちが強いのか?
機動六課の中では誰が一番強いのか?

「それであんな状態なんで・・・・・・アルトさん?」
「それなら皆さんに聞いてみたらどう?」
「皆さん?」
「ちょっと館内放送お願いしてくるね。」
「あ、ちょっと・・・・・・。」

隊長や副隊長たち全員に聞けっていうことかな?
首を傾げ始めたあたしを置いてけぼりにしてアルトさんがどこかへ行ってしまった。
いったいなにをする気なんだろう?
なんでもいいか。

「2人とも、さっさとしないとお昼食べる時間がなくなるわよ!!」

あたしの言葉にピタリと言い合いが止む。
食欲には勝てなかったみたいね。
エリオとスバルって案外似ているのかしら・・・・・・。

食事が半ばほどまで済んだ頃、館内放送が流れる。

「機動六課の皆さんにご連絡します。これより機動六課駐車場にて第1回機動六課で最強の魔導師は誰だか想像してみよう大会を開催いたします。
ふるってご参加ください・・・・・・。」

は?
今のって聞き間違いじゃ・・・・・・。

「駐車場だって。早く行こう!!」

スバルはもう行く気満々で・・・・・・ってあんた大皿に山盛りになってたパスタどうしたのよ!!
空になってるじゃない!!
呆然としているキャロの横では、んぐんぐと一生懸命にパスタを喉に流し込んでいるエリオ。
ああ、なんだか物凄く大事になっちゃったような・・・・・・。

場所を移して機動六課駐車場。
いつのまにか用意されたホワイトボードには、スキルごとの成績が書かれている。
あ、すごい。八神部隊長、全部の項目が10段階評価の8だ。
苦手なことないんだな・・・・・・って、個人情報ばらしちゃっていいんですか!!アルトさん!!

「鉄板の最強候補は5人。」
「近接最強!古代ベルカの騎士!ヴィータ副隊長とシグナム副隊長!」
「六課最高のSSランク!超長距離砲持ちの広域型魔導騎士、リイン曹長とのユニゾンって裏技もある八神はやて部隊長!」
「そして六課最速のオールレンジアタッカーフェイト隊長と説明不要の大本命!エースオブエースなのは隊長!」

アルトさんとスバルの言葉にあちらこちらからなのはさんだ、フェイトさんだ、シグナムさんに決まってるだろうなどと声が上がり始める。
部隊長コールさえあがり始めた。
喧騒に包まれる駐車場。

「あわわ・・・・・・。なんだかおおごとに・・・・・・。」
「アルトさんとスバルは本当にもー・・・・・・。」

慌てふためくキャロ。
さっきまであれだけ熱くなっていたエリオも顔が引きつり気味。
あー、どうやってこれ収拾つけるんだろう。
本人に聞くのが一番手っ取り早い気がしてきた。
あれ?そういえば・・・・・・。
なんではんたさんの名前があがってないんだろう?
忘れてるって可能性が濃厚な気もするけど・・・・・・。


========
そして各々が聞き取り調査を始めた。
あたしは八神部隊長に・・・・・・。
総合SSランクで機動六課の中で一番高い魔導師ランクの持ち主。
実際に戦っているところは見たこと無いけれどやっぱり強いのだろう。
そんなことを思いながらさりげなく話題にしてみる。
ケーキを手土産にして・・・・・・。

「個人での戦闘能力?私は弱いよー。そやから空戦じゃなくて総合でとってるんやし。」
「そうですー。」

一言目の答えから予想外。
リイン曹長も同意していることを考えても言葉通りに受け取ってしまっていいのかもしれない。
でもSSランクなのに・・・・・・。
保有魔力だけであたしやスバルの何倍あるのやら・・・・・・。
だから当然の疑問として尋ねてみる。

「でも、総合SSって言ったら魔力だけでも凄いんじゃ・・・・・・。」
「まぁ、魔力はな。そやけど高速運用はできへんし並列処理も苦手やからなぁ。
大魔力と高速・並列処理は衝突するんが普通や。そやから私の魔力運用は『立ち止まって展開・発射』だけなんよ。
あ、コレおいしいな。」
「わたしもそのお手伝いしているだけです。」

へぇー。言われてみればたしかに・・・・・・。
砲撃魔法とか走り回って撃てないもんね。
リイン曹長がユニゾンデバイスっていう物凄くレアなデバイスらしいけれど、それでも手伝いなのか。
でも、巨大な1発があれば戦況ひっくり返せるって思うのは浅はかなのかな。

「後方支援専門に殴り合い用のスキルなんか無意味やからな。適正の低いスキルを鍛えたところで効率も悪いし、
ぶっちゃけ六課の前線メンバーで私がガチンコで勝てるのってキャロくらいとちゃうか?」
「もちろんフリードやヴォルテールは使用禁止ですよ―。」
「いや、最近のキャロは高町教官仕込やからなぁ。体力あるやろーし。・・・・・・あかん、勝てへんかもしれん。
そやけどなんで急に?」
「あ、いえ、その・・・・・・。後学のためにと。」

端と思い至ったように八神部隊長が尋ね返してきた。
私の受け答え、不自然じゃなかっただろうか。
さすがに面と向かってどうこう言うのは悪いもんね。
しかし、意識的に考えたこと無かったことだったな。
大魔力と高速・並列処理は衝突するって・・・・・・。
飛行しながら射撃魔法の時点で2つ。
身体ブーストを自分にかけると3つ。
種類の違う魔法をデバイスに準備すると4つ・・・・・・。
魔法自体にもランクの差があるし、ヴァリアブルシュートみたいなAAランクの魔法を連射したり
2つも3つも同時にこなしながらぽんぽん使うなんてできないもんね。
それを高速戦闘中に・・・・・・。
たしかにできないわよね、普通・・・・・・あれ?
空を飛びつつ大火力の砲撃魔法を連射しつつ弾種変更・・・・・・。
え゛っ!!!!!!!!!


========
「個人戦技能?」

ケーキとお茶をもっていきながら僕はヴィータ副隊長に質問した。
できるだけさりげなく・・・・・・。
古代ベルカの騎士。
1対1なら無敵の強さを誇ると言われ、そしてなによりカートリッジシステムを使った戦術が知られている。
カートリッジシステムか・・・・・・。
そういえばストラーダにカートリッジシステム付いてないな。
インテリジェントデバイスにはカートリッジシステムを付けないものだって言うけれど。
その割りにティアナさんのクロスミラージュにはカートリッジあるし、フェイトさん達のデバイスにも付いているんだよね。
インテリジェントデバイスなのに・・・・・・。
言うほど難しいことじゃないのかなぁ?
それはひとまず置いておいて、今はこの質問だ。
でも、僕の問いに怪訝な表情をしたまま返事を返す副隊長。

「個人戦ったっていろいろあんだろ。」
「えーと・・・・・・・。」

言われて気がついた。
たしかに個人戦っていろいろあるよね。
砲撃戦とか接近戦とか・・・・・・。

「とりあえず平均的な『強さ』で・・・・・・。」
「んぐっ。『平均的な強さ』ァ?」

喉に詰まらせたケーキをお茶で流し込みながら、僕の言葉を繰り返す副隊長。
どうして不思議そうな声上げるんだろう?

「追跡戦か決闘か。戦闘状況や相性の違いにだって左右される。
どんな状況でも平均的に強いってのは要はなんでも屋ってことだが、
マルチスキルは対応力と生存率の上昇のためであって直接的な強さとは関係ねえぞ。」

そう言いながら次のケーキを口に運ぶ。
「んまい」とか言ってくれているから気に入ってもらえたみたいだ。
さすがバトー博士推奨のケーキ屋さん。
食堂でケーキを食べてたバトー博士にどこのケーキか尋ねたんだけど・・・・・・。
『ゲロよりはましな味がする』とか『砂糖水なめてるのがお似合い』とか言われて物凄く物凄くものすっごく躊躇うものがあったけれど
勇気を出して買いに行ったかいがあった。
バトー博士ってすごい言葉をたくさん使うけど、物凄い人なんだって再確認。
ムッツリって呼ぶのは止めてほしいんだけど・・・・・・。

「ひとりの人間がそのときできるのはいつだってひとつのことだけだ。それが通用しなきゃ強いとは言えねぇだろ。」
「あ、はい・・・・・・。」

そう言って副隊長が僕に向き直ると言葉を告げる。

「エリオ。お前は強くなりてーのか、便利ななんでも屋になりてーのか、どっちだ?」

僕はどうしたいんだろう・・・・・・。
フェイトさんみたいになりたいとすればオールレンジファイターだから全距離で戦えないといけない。
それじゃ、覚えるスキルはどんな順番になるんだろう?
実用性の高いスキルから覚えるとして・・・・・・。
でも、たくさんのことが出来るけど今の強さで立ち止まってしまうか。
今出来ることしか出来ないけど現在の2倍の強さを持つか。
どっちも良いように思えるし、どっちも悪いように思える。
今すぐにどっちって応えることができなかった。


========
「まったくお前まで一緒になって・・・・・・。先輩らしくしていろと言ったはずだが。」

呆れ顔のシグナム副隊長。
ため息までつかれちゃったよ。
あちゃー。少し調子に乗りすぎちゃったかなぁ。

「すみません。でも交流も大事かなーって・・・・・・。」
「まぁな。」

苦笑するシグナム副隊長。
今なら聞いちゃって大丈夫かな。
こんなだからルキノに心配されるんだろうけど・・・・・・。

「で、副隊長的にはどなたが?」
「そうだな・・・・・・。」

途端に思案顔になるシグナム副隊長。
けれど、ほんの少し考えたと思ったらその口から言葉が紡がれた。

「隊長達4人でトーナメントでもすれば試合条件にもよるがやった回数だけ優勝者は違うだろうな。
そのくらい力は伯仲している。本局の戦技披露会でやった高町隊長との試合は心躍るものだったが
決着が付かなかったからな。」
「みんなに見せてあげたいんですけどねぇ。」
「とてもじゃないが教材にはならんそうだ。あれは血戦だったからな。」

あらら。それじゃ見せてあげるわけにはいかないか。
でも、戦技披露会で血戦っていったいどんな戦いが・・・・・・!
そういえば本局の訓練施設が壊れたとか噂があったけどまさか・・・・・・。
それとも高度すぎて理解できないかもしれないかな。
自転車に乗れない子にヘリを飛ばせって言うようなものだもんね。
ヘリ操縦、上手くなったと思うんだけど、ヴァイス先輩から見れば私もまだまだひよっこなのかも。
フォワードの皆も私も変わらないな・・・・・・。


========
「フェイトさんの個人戦?戦闘訓練は結構好きだよね。戦うの自体は間違っても好きじゃないと思うけど。」

報告書を届ける傍ら、フェイトさんの副官のシャーリーさんに質問してみた。
副官っていうことは一番近くでフェイトさんのことを見てきたんだよね。
それに昔からの知り合いみたいだし・・・・・・。
そして帰ってきたのがこの言葉。

「シグナムさんとは仲良く訓練してるし。結構負けず嫌いで見てるとちょっと可愛かったり・・・・・・。」
「なのはさんと試合とかされていないんでしょうか?」
「昔は軽い練習くらいはしてたそうだけどあの事故以降は一度もしていないって・・・・・・。」
「あ・・・・・・。」

言われて思い至る。
なのはさんが本当に再起不能になりかねない危険な状態だったんだって・・・・・・。
フェイトさんのことだから忙しい合間を縫って毎日お見舞いしてたんだろうな。
私やエリオ君のことを本当に忙しい中、会いに来てくれていたみたいに。
そんなことを思っていると意地の悪い笑みを浮かべたシャーリーさんがこう告げてきた。

「まぁ、来月辺りから分隊単位での模擬戦とかやるそうだしそのときにお二人の対戦も見られるかもね。
「そのときは自分達が生き延びるので精一杯そうです・・・・・・。」

シャーリーさんの言葉に冷や汗が止まらない。
分隊単位での模擬戦なんて・・・・・・。
大丈夫かなぁ。心配だなぁ・・・・・・あれ?
分隊単位・・・・・・。
スターズとライトニングと・・・・・・ハンター?



========
「えーと、高町なのは一尉戦闘記録。映像データ検索っと・・・・・・。」

端末にアクセスしている。
考えてみれば実際にどんなことをやった人なのか、詳細なことは知らない。
直に触れたのは空港で助けてもらったあのとき・・・・・・。
なのはさんが来てくれなかったら今頃あたしは・・・・・・。

「スーバル♪」
「うひひゃあっ!!!!!!!!!!!?!?!?!?!」

突如背後からの声に奇声をあげてしまったあたし。
そして振り返ればそこにいるのは・・・・・・なのはさん!?
あわわわ、なのはさんのデータ検索しているときにご本人が降臨なさるなんて・・・・・・。
あたふたと手の置き場が見つからなくて振り回すばかりで、口もろれつが回らない。

「あわわわわわわわわ、ななななななのはさんっ!!!」
「そんなにびっくりしなくても・・・・・・。」
「すすすすすみません!!」

やや戸惑った顔のなのはさんだけど、あたしは物凄く驚いてるんです。
驚きまくってるんです。
おかげで心臓が激しい鼓動を刻みっぱなし。
そんなあたしの様子を気にせずになのはさんが言葉を続ける。

「グリフィスくんに聞いたんだけど、隊長達で誰が一番強いか興味があるんだって?」
「・・・・・・ああああああの、すみませんその・・・・・・。休み時間中のちょっとした雑談で・・・・・・。」

話のネタにされるのは不快だろう。
そう思ってまずは謝った。
けれど、なのはさんは笑ったまま「いいよ」って言ってくれた。
よかった。
けれど、次に告げてきた言葉にあたしは首を傾げるばかり。

「『自分より強い相手に勝つためには自分のほうが相手より強くないといけない。』」
「あ、えと・・・・・・聞いたこと無い・・・・・・です。」
「ふむ。そっか・・・・・・。」
「じゃぁ、問題。『この言葉の矛盾と意味をよく考えて答えなさい。』
みんなで相談して考えてみて。答えが出たら訓練のときにでも聞かせてもらうから。」
「は、はいっ。ありがとうございます。」

部屋から出て行くなのはさんの背中を呆然と見送る。
ええと・・・・・・なんだって?
自分より強い相手に勝つためには自分のほうが相手より強くないといけない・・・・・・。
ええと、うん。だから、あれ?
いや、だから・・・・・・ええと、あれぇ!?
なんで!?どうして!?
あーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
頭から煙噴きそう。
ティアに相談しよう。


========
「自分より強い相手に勝つためには、相手より自分のほうが強くないといけない・・・・・・?」

魔導師ランクS+のなのはさんと魔導師ランクBのスバルが戦うところを想像。
本来ならなのはさんが勝つところを・・・・・・。
頭の中でデフォルメされたなのはさんとスバルが戦っている。
決着。
なのはさんを足蹴にして勝ち名乗りをあげているスバルのイメージ。
魔導師ランクSS?になってる必要あるわよね・・・・・・あれ?
ええ?
弱いはずのスバルのほうがランク高くなってる。
でも、それだと言葉の意味が満たせない。
言葉をスバルが覚え違えたんじゃないかしら?

「えええ?ただの言葉遊びじゃ・・・・・・ないわよね?」
「違うと思うけど・・・・・・。ところでティア、なんか物凄く恐れ多いイメージしてない?」

顔に出てたかな。
まぁ、想像の中だもん。別にいいわよね。
でも、本当に言葉が間違っていないならどういうことなのかしら。

「あ!!僕わかりました!!」

横にいたエリオがしゅぴっと手を上げる。
エリオが先に気がつくって言うことはなぞなぞみたいなものなのかしら。

「強い相手に勝つためには訓練重ねて相手より強くなればいいんです!」

いや、それが真理なんだけどさ。
でもそれだと・・・・・・。

「でもそれだと倒しているのは『自分より弱い相手』じゃない?」
「あ・・・・・・。」

キャロがあたしが言おうとした言葉をそのまま言ってくれた。
フルバックっていうポジションだから分析スキルでも覚えたのかしら?
キャロの言葉に今気がついたとばかりに驚きの声をあげるエリオ。
しかし、少しだけ締め付けてあげるとしよう。
エリオの頭を掴むとこめかみに拳をあててぎりぎりと締め上げる。

「だいたい訓練や特訓でそうホイホイ強く馴れたら苦労しないのよっ!!」
「す・・・・・・すみませんっ。」

涙目になっているけど泣くまでやめてあげない。
間違いは直してあげるのが年上の勤めだ。
うん、だからこれは問題ない行動なのよ。
理論武装よし!
拳に血管が浮き上がるくらい力入れてるけど・・・・・・。

「おお、おまえら。108行きだがちと先行しててくれ。訓練開始時間にはあたしも入ってるからな。」
「「「「はいっ!」」」」

突然通りすがったヴィータ副隊長に驚きながら返事を返す。
もちろん、大慌てでエリオの頭も離してあげる。
そうだ。今日は陸士108部隊と合同訓練・・・・・・。

訓練場所へ移動しているときだった。
突如アラートが鳴り響く。

「こちらサードアベニュー警邏隊。近隣の武装捜査員お願いします。
E37地下道に不審な反応を発見しました。識別コード未確認!確認処理をお願いします。」


========
突如としてガジェットと戦うことになったけれど、なんだかんだで戦いは一件落着。

「六課のみんな、おつかれさま。新手もこないし警戒態勢は解除しよう。」
「はいっ。」
「「「はいっ」」」」
「よかったら食事を済ませていってくれ。」
「「「「はいっ」」」」

陸士108部隊の隊長にそう言われたのでお言葉に甘えさせてもらうことにした。

「ギン姉―♪」
「スバル♪」

食事を受け取りに行く途中に見覚えのある陰。
ギンガさんだって分かった途端にスバルが腕を振り上げて大声で呼んでいる。
なんでスバルはこういうところ子供っぽいのかしら。
もっとも、嬉しさを隠さないのは美徳だと思うけど。
ギンガさんのほうも嬉しそうだ。
あ、本来なら会えなかったんだ。
スケジュールの関係を考えると・・・・・・。
そう考えると、不謹慎だがガジェットに感謝・・・・・・するべきなのかな?

そして食事が始まる。
話題にしたのはなのはさんの問い。
ギンガさんも興味深そう。
でも、いったいあんたたち何箱食べるんですか・・・・・・。
あたしとキャロの顔は既に引き攣っている。
まだ1箱も食べ終えていないのに山のように積み重なった空のお弁当箱の山。
それがエリオとスバルとギンガさんの横に1つずつ・・・・・・。
前線メンバーはカロリー消費がすごいっていうけどこれは・・・・・・。

「あれ?ギン姉、今日はあんまり食べないね。」
「捜査が忙しくてあんまり訓練してないからね。」

いやいや。十分ですから。食べすぎですから。
現時点でスバルの空箱よりもよっぽど多く空箱つくってますから、ギンガさん。
で、食事がひと段落付いたギンガさんが口を開く。

「その問題の答えはわからないけど、私としてはそれは否定するべき言葉だと思うなぁ。
母さんが言ってた刹那の隙に必倒の一撃を叩き込んで終わらせるのが打撃系のスタイル。
出力がどうとか射程や速度や防御能力がどうとか自分と相手のどちらが強かろうがそんなの全部関係ない。
相手の急所に正確な一撃。狙うのはただそれだけ。」

ひゅっと振られた手刀がスバルの首に添えられる。
その俊敏な動作に、油断していたのもあってスバルは対応できない。
真剣な表情のギンガさん。
でも、その表情をほわっと笑みに変えると言葉をつづける。

「わたしはそう思っている。」
「うん・・・・・・。」

スバル、なんだか嬉しそうね。


========
「あのですね。わたしたち『誰が強いか』の聞き方を間違ってたんじゃないかと・・・・・・。」

六課に戻りながら問題をみんなで考えていたとき、
キャロの言葉が解決の糸口になった。
なるほど。『誰が強いか』じゃなくて・・・・・・。

「あ、なんかわかった。」
「はいっ。」

キャロも嬉しそうだ。
本当ならリーダーの私が一番に気がついていないといけないんだろうけど・・・・・・。
でも、謎が解けたみたいで物凄く嬉しい。

「じゃぁ、もう一度隊長たちに・・・・・・。」
「あの、僕、もう1人聞いておきたい人がいるのでそっちに・・・・・・。」
「エリオ。前線メンバーには全員に聞いたと思うんだけど、まだ誰かいたっけ?
隊長たちのデバイスにでも聞くの?」

ぶっ!!!!!
いったいなんの冗談?
それよりも・・・・・・。

「あああああああああんた、正気で言ってるんじゃないわよね。
訓練きつすぎで脳みそ焼ききれちゃったんじゃないでしょうね。」
「どうしたの?ティア・・・・・・。」
「スバルさん、冗談にしては笑えないです。」
「え?だからどうしたの?」
「はんたさんに聞いていないですよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。」

マヌケな声を上げたかと思ったら蒼白に変わっていくスバルの顔。
この様子だと本気で忘れていたっぽいわね。
でも、いつもならアラートがなったとき出撃かかっているのに、今日は・・・・・・。
どうしたのかしら?

「あああああああああ、みみみみみみ皆、内緒、内緒。絶対に内緒だからね。」
「分かってるわよ。度忘れしちゃったんでしょ。黙っておいてあげるから安心しなさい。」
「僕もわかりました。でも、びっくりしましたよ。本当に・・・・・・。」
「私も秘密にしておきます。フリードもいいよね。」
「キュクルルル!」
「わん。」
「「「「わん?」」」」

錆付いたネジをまわすようにゆっくりと首を動かすと1匹の犬。
精悍な顔立ちをしたこの犬ってたしか・・・・・・。

「はんたさんの犬・・・・・・だよね?」
「物凄くまずいんじゃないでしょうか。」
「わふ、わんわんわん。」
「うん?なにか言いたそうだけどなにが言いたいんだろう?この犬・・・・・・。」

なにかが言いたそうって言うのはなんとなくわかるけど、犬なんだから喋れるはずないじゃない。
でも、この犬、じっと見つめている視線がスバルから動かない。
雰囲気しか伝わらないけどなんだか物凄くまずい感じがする。
とりあえず・・・・・・。

「ええと、はんたさんの犬、今のこと黙っていてくれるかしら?」
「わふ!」

首が横に振られ・・・・・・ええっ!?
まさか、そんなはず・・・・・・。

「はんたさんに言ったりしないわよね。」
「わふ!」

やっぱり首が横に振られる。
ひょっとして・・・・・・。

「・・・・・・万死に値するとか思ってたりするのかしら?」
「わん!」

縦に振られる犬の首。

「なんだか言葉理解しているみたいね。」
「それって物凄くまずいんじゃ・・・・・・。」
「はんたさんは怒らないと思いますけど、アルファさんが・・・・・・。」
「わおーん!」

もちろんだとばかりに遠吠えと共に振られる首。

「うわー!ちょっと待ってー!!!!」
「わん!」

飛びついて動きを止めようとしたスバル。
けれど、ひらりとサイドステップでかわすと高くジャンプして逆にスバルの頭を蹴り飛ばす犬。
這い蹲るスバル。
スバルを足蹴にしたままの犬。
ああ、もういいや。

「スバルー。あたし隊長たちに質問の答え伝えてくるからねー。」
「僕もはんたさんのところへ言ってきます。キャロも来る?」
「うん。一緒に行こう!」
「ちょ、ちょっと待って。皆。ねぇ・・・・・・。」
「わふ!」

げしっとスバルの頭が再び蹴り飛ばされて、スバルの悲鳴みたいな呼び止める声が止む。
・・・・・・はんたさんの犬、もしかしてあたし達より強いなんて冗談みたいな話だけはないわよね?
ただ、どうしてだろう。
模擬戦が怖くて仕方なかった。
・・・・・・あ、魔法使えないしデバイスもないから参戦できないか。


========
バトー博士の研究室。
そこにはんたさんは行ったままらしい。
そういえば初めてだな。
バトー博士の研究室って・・・・・・。
そう思いながら入って最初に目に留まったのは部屋の片隅に転がっているはんたさん。
まるでマネキンと見間違えそうになったくらいに・・・・・・。
でも、タオルケットも巻いていないみたいだから。
そう思って傍らにおいてあったタオルケット片手に近づこうとしたときだった。

「2人とも、死にたくなければそれ以上近づかないことです。」
「あ、アルファさん。ええと・・・・・・なにしてるんです?」
「最終改造のデバッグ作業中です。マスターのいかなる要求にも応えられるようにするためにも綿密に行わなければいけませんから。
それと、睡眠中のマスターに近づくということは高速で回転するタービンブレードに腕を突っ込むようなものです。自殺志願なら他所でどうぞ。」
「どうして・・・・・・ドラム缶なんですか?」
「安定性の問題です。重量が4桁に到達いたしましたので、他の形状では問題が起こる可能性があります。」
「4桁?」
「詳細はバトー博士に伺ってください。それでマスターに何の御用ですか?バトー博士なら夜食を調達してくると現在出ております。」
「ええと・・・・・・アルファさんは誰が六課で一番強いと思いますか?」

はんたさんに聞けないのは残念だけど、アルファさんでも問題ないかもしれない。
どんな言葉を返してくるだろうととても楽しみ。
横のキャロも興味津々な表情をしている。
けれど、開口一番、アルファさんが返した返事は・・・・・・。

「勝利条件と環境条件の提示を願います。」

ヴィータ副隊長も同じことを言っていた。
追撃戦とかいろいろ状況があるって・・・・・・。
でも、勝利条件?

「勝利条件って・・・・・・。」
「1時間耐えきれば勝ちなのですか?逃げきれば勝ちなのですか?擦り傷1つでも負わせれば勝ちなのですか?四肢をもぎ取れば勝ちなのですか?
跡形も無く全部消し飛ばせば勝ちなのですか?勝利条件によって難易度が変わってきます。」
「ええと、それなら、はんたさんが不利になる条件はなんですか?」
「不意打ちを仕掛けられる、なにかを庇いながら戦う、不殺でなければならない、戦力比に対して火力が致命的なまでに足りない。
そのような要因が無い限りマスターの優位は動きません。」

たしかに不意打ちは対処のしようがない。
防御だって間に合わないし・・・・・・。
それに誰かを庇うっていうのも難しい。
騎士なら当然の状況だけど、自分の動きが縛られてしまう状態だから。
守る相手から離れすぎてもいけないし近すぎてもいけない。
回避することさえ許されないことだってある。
でも不殺って・・・・・・非殺傷設定があるから容易なんじゃないかな?
それに・・・・・・。

「戦力比に対してってどういうことですか?」
「仮にエリオ・モンディアル、あなたがAランク魔導師と五分に戦える実力があるとします。ストラーダ抜きで同じことができる自信はありますか?
キャロ・ル・ルシエでも問題ありません。フリードリヒ、あるいは見たことはありませんがヴォルテールを抜きにして最前線で戦闘できる自信は?」
「無理ですね。」
「無理です。」
「それが火力の低下です。魔法の行使を補助するデバイスや召還獣に依存しているところが多々あるため、それらが使えなくなるだけで火力が低下したわけです。
ならば砲撃魔法を10回しか撃てないのに10000の敵を打倒せますか?」
「「無理です。」」
「そういうことです。もっとも、その10回が隕石を落としたり衛星軌道から攻撃するのに相当するのなら話は別でしょうが・・・・・・。」

でも、そんな戦力差になることってあるんだろうか。
管理局だって時空を管理するためにたくさんの武装局員がいるのに・・・・・・。
Aランク魔導師やBランク魔導師が10000人ぐらいいればできるのかな?

「エリオ・モンディアル、あなた方が訪れた理由は『誰が強いか』という調査ですね。私の見解を申し上げます。
多くの環境においてマスターの優位は動きません。しかし、同率としてなのは達が並ぶ可能性は十分にあります。」
「それってどういう・・・・・・。」
「具体例を挙げましょう。エリオ・モンディアル、が敵と対峙したとします。
場所は平地で無風。双方の間に一切の遮蔽物はありません。相対距離は約8000m。
あなたの攻撃手段は?」
「ソニックムーブで接近します。」
「ならば敵が高町なのは、フェイト・テスタロッサ、そしてマスターであれば3人の砲撃の前に無力です。距離を詰める前に落とされます。」
「それならもっと近ければ・・・・・・。」
「ならばフェイト・テスタロッサ、シグナム、そしてマスターの近接技能により落とされます。機動力が五分であるならば火力の優位を持っているものが勝ちます。」
「それなら入り組んだ街みたいな場所だったら・・・・・・。」
「八神はやておよびマスターの広域殲滅により落とされます。どれだけ入り組んでいようとも点ではなく面の攻撃を広域で展開できる人間の前には無力です。」
「それなら・・・・・・。」

僕達が思いつく限りの条件を全部提示したけれど勝ち目が出てこない。
分厚い壁のような実力差を思い知るべきなのか、それとも・・・・・・。
勝ち目が0といわれているような状態が続いた果て。
キャロがぽつりと呟いた。
まるで僕の心を代弁するみたいに・・・・・・。
答えが返ってくるなんて思ってもいなかったけれど。
それこそが答えだったのかもしれない。

「それなら、今のエリオ君じゃ絶対に勝てないんですね。」
「いいえ。勝つ手段はあります。」
「「え!?」」

まったく勝てないと言わんばかりにことごとく論破したじゃないか。
キャロも同時に同じ驚きを覚えている。
勝てる部分を探すって言うのがキャロの答えだったんだけど、
これだけ理路整然と勝てる要素がないことを伝えられて自信がなくなり始めていたのに・・・・・・。
でも、それとは別に驚きがあった。
隊長達に今の僕が勝つ手段が・・・・・・ある?

「簡単なものは奇襲でしょう。実戦においてきわめて有効に機能します。
まさか、中世の戦争のように延々と長口上の名乗りをあげてから戦うものなんて思っていませんね?」
「つまり・・・・・・。」
「気配を消して忍び寄る、あるいは待ち伏せることで1撃目を確実にクリーンヒットさせられます。
あるいはシャマルが使えるというリンカーコア摘出。
あなたに習得できるかわかりませんが、使えるのならばこれほど暗殺に向いた魔法はありません。
いずれかの手段によって致命傷を与えればあなたの勝利は揺るぎません。」
「なるほど・・・・・・。」
「もっとも、それでもマスターには届きません。」
「どうしてですか?」
「私が傍らにいる限り、マスターの敗北要素は全て排除するからです。
そして、マスター自身が全ての戦闘条件を知り尽くしているからです。」
「それじゃ、はんたさんの予想を上回ることが出来れば・・・・・・。」
「可能です。しかし、どうやって超えますか?
知りうる速度域は第一宇宙速度、エネルギー量ならば超高密度プラズマや太陽が相手になります。
防ぐことが出来ない一撃でもない限り、マスターの予想に全てが収まりきります。」
「防ぐことが出来ない一撃なんてあるんですか?」
「空間の相転位、マイクロブラックホール、反物質、真空暴露などが上げられます。」
「・・・・・・被害額がすごいことになりますが。」
「本当に勝ちたいのならば形振りに構う必要などありません。
それとも、勝てないからと潔く死にますか?」

まだまだ僕は未熟みたいだ。
キャロもなんだか考え込んじゃってる。
そういえば言ってたな。
ヴォルテールは物凄く大きなドラゴンって・・・・・・。
あ、そういうことか。
言葉は悪いけれど、蟻1匹にヴォルテールを持ち出すのかっていうことか。
思案顔の僕達にアルファさんが言葉を続ける。

「おそらく高町なのはの問いの答えは『相手よりも勝る能力で戦う』で間違いありません。
発展として『チームという部隊を組む理由』へ繋げると予想されます。
仮に単機で全てができる人間がいても2つのこと、3つのこと、4つのことを同時には行えません。
行えたとしても処理能力に限界があります。ならば2人では?3人では?4人では?
人間である以上、得手不得手があり個々の能力にばらつきが見られます。
しかし、複数人で作業することでその個体差のばらつきを補うことが出来ます。
人間の効果的な運用さえできれば多人数の優位は動きません。
おそらく足りない能力を補い合うためにチームを組んでいると話を繋げることでしょう。」

言われてみると納得できる。
本当に穴がない。
それなら僕は速さを伸ばしていけばいいんだ。
誰にも負けない部分がスピードだから。
そういえば、こんな質問してみたらどうなるのかな?

「アルファさんにとって強いってなんですか?」

デバイスに向けてする質問じゃないことだと思う。
けれど、どうしても気になった。
はんたさんの傍らにいつもいるアルファさんだけに・・・・・・。

「機械である私にはパラメータが高いことが強いという意味となります。
1は10に勝てず、10は100に勝てません。
その戦力比をひっくり返すものが個々の才能であり武器であり作戦です。
効果的な運用が行われなければ10人は10人分の働きをすることはできません。
エリオ・モンディアルが万が一そのような事態に陥ったのならば1VS1を10回繰り返す状況を作りだすことです。
それにより十分に撃破可能となります。」
「・・・・・・はんたさんにとって強いってなんなんでしょう。」
「マスターにとって強いということは諦めが悪いことになります。」
「諦めが悪い?」
「負けても逃げても殺されるという状況において、たかが腕がなくなったぐらいで戦いを止めますか?
目が見えなくなったら?耳が聞こえなくなったら?腰から下を丸ごと消し飛ばされたら?
絶え間ない激痛が全身を襲っていたら?今、この瞬間を繋ぐために全力で叩くのがマスターです。
ゆえにマスターは諦めるということを知りません。最後まであがき続けます。」
「勉強になりました。」
「ありがとうございました。」
「かまいません。もっとも2度目を無くすためにトドメは必ず刺しますが・・・・・・。」

お礼を言ってバトー博士の研究室を去った。
アルファさんが最後になにか言っていたけどよく聞こえなかったし。
なんでもいいか。問題の答えが分かったんだから。
でも、強さか。
漠然と考えていたけど、深い意味の言葉なんだ。
もっと、がんばろう。今よりも強くなるために・・・・・・。
あ、それと訓練のスケジュール確認してバトー博士に改造してもらおう。
本当なら今のまま、地力をあげるべきなのかもしれない。
でも、より優れたデバイスにしてあげたいし、僕ももっと早くなりたいから・・・・・・。

「いいよね。ストラーダ。」
「Ja.」

僕の言葉にストラーダが応えた。
そういえば、結構騒いじゃったのにはんたさん、まったく目覚める気配なかったな。
物凄く深く眠る体質なのかな。
浅く眠ると疲れが抜けないって言うし・・・・・・。
それに、テーブルの上においてあったあれってデバイス・・・・・・だよね?
誰が使うんだろ?


========
「と、いうわけで皆で相談して答えを出しました。」
「そう。ところで右目がパンダになってるけどどうしたの?
「聞かないでください。」
「そう。じゃぁ、その答えは?」
「『自分より総合力で強い相手に勝つためには』『自分がもっている相手より強い部分で戦う』
そのために自分の一番強い部分を磨き上げてこれなら誰にも負けないって自身と危害をもって戦いに当たる!
それにチームがそれぞれの強い部分を持ち寄れば、より万全に近くなる。
だから問題の言葉は正しくもあり、間違ってもいる・・・・・・と。そんな感じなんですが。」

ティアに口上を考えてもらって丸暗記した言葉をそのまま言っている。
でも、皆で話し合ってなるほどって思ったのも本当だ。
完璧なのかは分からないけど90点はもらえる答えだと思う。
あたしが言い終えるのを確認すると、笑顔で聞いていたなのはさんが口を開いた。

「じゃぁ、それが正解かどうか、これから実地で確かめていかなきゃね。」
「え!?なななななのはさん、正解は教えてくれないんですか!?」
「明日の朝練でたぶんわかるよ。」
「えええええええええええっ!!!!!!」

私の絶叫が夜の部舎に響き渡った。

 

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最終更新:2008年05月19日 08:03