第6話 失われた君


「う~~~~~~~ん」

 スバルはなのはともめた挙句、教会を出て行った後、自分がいた陸士部隊隊舎の自分の部屋に帰ってきていた。

「う~~~~~~~ん」
「スバル、起きろ」

 誰かがベッドで眠るスバルを起こそうとするがスバルは起きる気配がない。

「う~~~~~~~~ん」
「起きろ! スバル!」

 その起こそうとした者はスバルのベッドをひっくり返して、スバルを床に落とす。スバルは落ちた時に顔面を床にぶつけ、その痛みでようやく起きる。

「いった~~~~~~~~」
「やっと起きたかスバル…」
「あ、おはよう。ノーヴェ…」

 スバルは呑気にも自分を起こしに来た少女ノーヴェにおはようの挨拶をするが、ノーヴェはカリカリしたまま。

「お前な…。帰ってきたと思ったらすぐに寝ちまいやがって! それでようやく起きて「おはよう?」ふざけんじゃねえぞ!」

 ノーヴェはスバルに怒りをぶちまける。

「ごめんごめん」
「お前本当にあたしの姉かよ…。ギン姉と大違いだ…」

 ノーヴェはスバルの双子の妹であるのだ。

「それより早く支度しろよ。これから集会研修なんだから……」
「は~い」

 スバルは急いで陸士部隊の制服に着替えて、外で待っていたスバルの友達のセインとウェンディと共に自分達が所属している部隊の本部に行くため、
 スバルはセインの乗るバイクで、ノーヴェはウェンディの操るライディングボートに乗りながら、本部に行く。

「なあ、スバル」
「スバルは今まで何してたんっスか?」


 本部に行く中、セインとウェンディが自分達の乗るものを運転しながらセインの後ろでバイクに座るスバルに尋ねる。

「だから連絡したとおりだよ」
「ふざけんなよな。グラヴィオンに乗って戦ってるってやつだろ。誰が信じるかっての……。本当は何してたんだよ?」

 ウェンディの後ろに乗るノーヴェがしぶしぶ言う。

「……ねえ、ノーヴェ。平和の為に誰かを一人犠牲にって出来る?」
「…何だって?」

 走りながらで尚且つ、スバルが小さい声で言ってるものだからノーヴェはスバルが何を言ったのか聞き取れない。

「何だって?」
「…何でもない…」

 4人は話を終え、そのまま本部へと向かう。
 本部の教習室では他の陸士達やギンガの親しい友、セインとウェンディの姉でノーヴェもギンガのように姉と慕う女の子チンクがいた。

「スバル…、久しぶりだな」
「チンクさん、久しぶりです」

 チンクとスバルはお互い微笑みながら再会の挨拶を交わす。

「チンク姉、聞いてよ。スバルの奴まだグラヴィオンに乗ってたって言うんだぜ」

 ノーヴェがチンクに言ってかかる。

「うーん、それはさすがに私も信じるのは難しいな…。だがノーヴェ、お前な…。もう少し言葉遣いをよくしろと何度も言ってるだろ。
双子とは言え、スバルもギンガと同じでお前の姉なのだから……」

 チンクが静かにノーヴェを論す。

「わりい、チンク姉」
「あ、教官が来たみたいっス」
「早く席に戻れ~」

 スバル達は慌てて席に着く。
 教官は久々にスバルの顔を見て、あることを告げる。

「ナカジマ、お前確か今は機動六課所属のはずだが……」
「あ…」

 そう、スバルはヴェロッサの計らいで今は災害救助隊ではなく機動六課所属になっていたのだ。その事をチンクやノーヴェら、当人のスバルも忘れていたのだ。
 しかし教官はそんな事をお構いなしの顔をスバルに向ける。

「だがまあいいさ。久しぶりにお前の顔を見れたんだからな。よし、今日の特訓はお前の為にお前だけは特別にしごいてやるからな!」
「ははは」

 スバルは乾いた笑いを出してしまう。


 部隊本部の外では、少し豪華な車が止まっていて、その中にはリインとフェレットのユーノが乗っていた。

「いいのか? リイン」
「勝手に教会を抜け出したりするのは…」

 機動六課武装シスターナンバー1のシグナム、お世話においては一番のシスターのアイナ・トライトンがリインに声をかける。

「いいんです。私、やっぱりスバルさんに戻ってきてもらいです…」

 リインの表情は重い。リインはスバルとなのはの亀裂を深く心配している。

「それにヴェロッサさんに怒られるのはリインだけですし……」
「それは違うぞリイン」
「僕も一緒に怒られてあげるよ」
「私もです」

 シグナムにユーノにアイナがもしリインが怒られることがあったら一緒に怒られてあげるというが……。

(だが、ヴェロッサが怒るところを見たことないな)
(怒ると怖いかも……)

 三人はヴェロッサに怒られる想像するだけで身震いがしたそうだ。


 その一方、教会のなのはの部屋ではなのはが一人で色々考え込んでおり、ろくに食事を取っていない。
 その事を医療シスターのシャマルや他の皆が心配していた。

「なのはさん…」
「なのはちゃん、スバルが出てってた夜から何も食べてないの……」
「そうなの……」
「ねえ、ヴィヴィオ。ヴィヴィオがなのはに何か言ってあげて…」

 ヴィヴィオは昨日の事があったが、ただ単に意識を失っただけであり体に異常はなかった。
 フェイトはヴィヴィオになのはを励ますように勧め、ヴィヴィオはなのはを励ます為に閉じられたドアを開けて部屋に入る。

「なのはママ……」
「ヴィヴィオ、体はいいの?」

 なのはがヴィヴィオの体を気遣うが、ヴィヴィオはなのはの頭を撫でる。

「なのはママ…、大丈夫だよ。なのはママも元気になって…」
「ヴィヴィオ……」

 なのはは泣きながらヴィヴィオを抱きしめる。

「ありがとう……」


 さらに教会の庭ではヴェロッサが黄昏ていたのを見て、クロノが話しかける。

「ロッサ……」
「何だい? クロノ君」
「リインが勝手に抜け出したみたいだ」

 リインが教会から抜け出した事実を聞いてもヴェロッサは表情を一つも変えない。

「そうか…、あの子も随分変わったね」
「なのはは君が見つけてすぐに、対ゼラバイアの為に育てるために家族や友人から離して育てた」

 クロノがなのはの過去を知っているヴェロッサに対して語る。

「彼女は君と出会う前から少し攻撃的だったのは知ってる。話を聞かせるために自分から手を出したり、やらなければならない時はやる子だった。
しかしそれがスバルの感情を逆撫でするとは……。ロッサ、これも君の計画の内なのか?」

 クロノが真剣な顔をしながらヴェロッサに聞く。ヴェロッサは少し笑いをこぼしながら言う。

「人の感情とはままならないものだね」
「はあ?」

 クロノはヴェロッサの言いたいことがわからず、悩むのであった。


 それから数時間後、ようやく本部からスバルが出てくるがノーヴェ、チンク、セイン、ウェンディと共に出てきた。

「とりあえず、ついていきますね」
「お願い」

 アイナが車を動かしてスバル達の後を追う。
 スバル達はファーストフード店に入ってポテトなどを注文するが、スバルは一人だけアイスクリームを頼む。

「お前本当にアイス好きだな」
「好き好き大好き~~~~」

 スバルはおいしそうに6段アイスを一つずつ食べる。
 そんな時、店にあるテレビニュースでグラヴィオンが映し出される。

「あ、グラヴィオンっス」
「スバル、あんた本当にこれに乗ってたの?」

 セイン達は未だにスバルの言ってた事を疑っている。

「本当だよ~って、あれ? 何、あのマーク?」

 スバルはグラヴィオンの両肩に管理局のエンブレムがついてることに気付く。

「何? あの肩についてるの~……」
「知らないの? グラヴィオンは地上本部の対ゼラバイア用の切り札だって……」
「違うよ~。グラヴィオンは地上本部のじゃないよ~」

 スバルが懸命に言うが、皆スバルを疑いの眼差しで見る。

「スバル、そういう憧れを持つのはわかるがな……」
「チンクさんまで……、酷いよ~~」
「そう言えば、ゼラバイアはどこの世界からかやって来た機械生命体だそうだ」
「機械生命体ッスか。なんかあたしらみたいっスね」
「ウェンディ、しっーーーーーー!!」

 セインが人差し指を自分の鼻の前にやってウェンディを叱る。

「あ、ごめんっス」
「でもよ、機械生命体だって言うけど、ほんとに生命体なのか?」
「ノーヴェ、ニュースで言ってたはずだ。生命体と言ってもあまり考える力はないんだって言ってたぞ」
「わりいチンク姉、最近まともにニュース見てなくて……」

 ノーヴェはチンクに謝りながらスバルの方を見る。

「うん、何?」
「手前、人がどんだけ心配したのかわかってんのか?」
「え?」
「ノーヴェはギンガだけでなくお前の事も心配してたんだぞ」
「ギンガを捜しに行くって言って、ちょっと連絡しただけでスバル帰ってこなかったっスからね」
「そうそう、それでノーヴェをあやすの大変だったんだぞ」
「セイン、手前ーーーーーーー!!」

 セインの冗談をノーヴェは真剣に受け止めて、拳を握る。

「ノーヴェ、落ち着け。セインも言いすぎだぞ」
「わかったよチンク姉」
「は~い」
「ところでスバル、ギンガの手がかりは見つかったのか?」

 チンクが真剣な表情でスバルを見る。チンクは見た目はリインと変わらないくらいの少女だが、実際の年齢はスバルやギンガよりも年上で18歳である。

「……、全然」
「…そうか…」
「ギン姉、どこ行ったんだろうな……」

 チンクとノーヴェとスバルにより重い空気が周りに立ちこむ。
 そんな時、スバル達のテーブルに何かがやって来る。

「あれ?」
「何なんッスか? これは?」
「これは確かフェレットと言う生き物だな…」
「でもなんでこんなところに……」

 セイン、ウェンディ、チンク、ノーヴェが不審がるが、スバルはすぐにわかった。そのフェレットはユーノだったのだ。

(ユーノさん、何でここに?)

 スバルが念話でユーノに尋ねる。

(君を捜してたんだよ。それと君と話したい子がいるしね……)

 ユーノが店の玄関の方を見ると、向かいには足元まですっぽり覆われた灰色のトレンチコートに帽子とサングラスとマスクまでした姿の人物…その人物がサングラスを少し下げて覗いた綺麗な瞳をスバルは見逃さずリインが立っているのを確認する。

「リイン!」
『え?』

 スバルはリインの姿を見て店の外に出て、リインと二人っきりで話がしたいのでシグナムとアイナは少し席を外す。

「アイナさん…ええと、その格好は?」

 2人きりになったところで誰も突っ込まなかったのでシグナムは堪らずアイナにツッコミを入れた。
 シスターという立場上、格好がどうしても目立つため今のアイナは男物らしい大きいサイズで紺色のトレンチコートにサングラスという怪しい格好だった。
 確かに正体は隠せているかもしれないが店の外にこんな不審者姿で立つ彼女は逆に目立っていた。シグナムの問いにアイナは心から嬉しそうにシグナムに振り返る。

「どうですか?似合ってますかね?やはり変装といえば男の人が着るトレンチコートですよね!一度着てみたかったんです」

 いつも冷静なアイナにしては珍しく興奮した様子でコートのポケットに両手を突っ込んでサングラスの下でイタズラっぽく笑った。
 シグナムも同じ変装を押し付けられそうだったのだが、丁重にお断りしてそこら辺で安売りしていたどこぞの無名野球球団の帽子と球団のイラストが描かれたぶかぶかなジャンパーを着ている。

「……似合ってないわけではないのですが、その格好では逆に悪目立ちすると言いますか」

「えっ!?ま、まさか私の完璧な変装を見破られたのですか?」

 言葉を選んだつもりが、アイナはきょとんとした様子で素っ頓狂なことを言ってはシグナムを悩ませていた。



 そんな茶番が繰り広げられてる中、ユーノは店の中にいるウェンディ達に可愛がられていた。

「こいつ、かわいいっスね」
「このこの」

 ウェンディがユーノの頭を撫でたり、セインがユーノの体を突っついて遊ぶ。

「お前達な…」
「チンク姉もどうっスか?」
「可愛いですよ」

 ウェンディがユーノをチンクに手渡す。チンクは手渡されたフェレット姿のユーノを見つめる。

(可愛い)

 チンクはユーノの可愛さに理性が負けてしまい、思わずユーノ頭を撫でる。

「本当にかわいいな」
「「でしょ! でしょ!」」
「お前達、うるさいぞ!」

 窓の外を見ていたノーヴェがカリカリしたようにセインとウェンディに対して怒る。

「もうノーヴェったら…」
「ノーヴェもこいつと触れ合ってみるッスよ。可愛いっスよ」
「いいよ、あたしは…」

 ノーヴェは断ろうとするが、セインとウェンディは強く勧める。

「いいから、いいから」
「ノーヴェも触れてみるっス」
「だからいいって言ってんだろ!」

 ノーヴェは二人のしつこさに思わず大声で怒鳴りつけてしまい、周りの客がノーヴェ達に注目する。

「ノーヴェ、セイン、ウェンディ、それくらいにしろ。それと皆さんに謝れ」

 チンクがそう言うと、三人は席を立って周りの客に謝る。
 謝り終えた三人は再び席に座ってチンクの説教をくらう。

「お前達な、もう少し周りに気を使え」
「ごめん、チンク姉…」
「ところで、ノーヴェ。お前は外を見ていたのか?」
「ああ、あいつのな…」

 そう言うとノーヴェは再び窓の外を見る。ノーヴェの視線の先には外でスバルと先ほどリインと呼ばれた怪しい格好の少女の姿があった。
 リインが頭を振って帽子を落とし、そのままサングラスとマスクを外して投げ捨てると、その下から絵に描いたような美少女が現れるが、その表情は険しい。彼女は何かを押し殺したような表情で腰のベルト、ボタンと順番に淡々と外すとトレンチコートも脱ぎ捨ててしまった。

(うわ…可愛い子だな。わざわざスバルのことをお忍びで追いかけてきたって感じだよな)

 この時期には不似合いなだけでなく彼女にはどう見てもサイズもデザインも似合わない男物のトレンチコートは寒いからではなくその容姿を隠すためなら納得できる。リインは脱ぎ捨てたトレンチコートを放置してスバルに近づいていく。もう用済みなんだろうか?とノーヴェは適当な妄想を続けていた。どちらの表情も真剣であり、どうも友達に普通に会いにきたのとは違う様子だった。

(あいつら、何話してんだろうな……)

 スバルとリインは真剣に話していた。それはもちろんスバル自身の事となのはの事であった。
 アイナが外に出るまでリインさんだとバレないようにしないと!と強引に着せてきた彼女とお揃いの変装セット。
 わざわざ色違いを用意された灰色のトレンチコートはリインにはぶかぶかで、文字通り隠すためだけの特大サイズだったので、もう変装の必要のない以上脱ぎ捨ててしまい、いつもの格好になっていた。


「スバルさん、戻ってきてくださいです」
「リイン、あたし言ったよね。なのはさんとやっていけないって……」
「……」

 リインは思わずうつむいてしまう。

「リインはどう思うの?」
「リインはなのはさんの気持ちがわからなくも無いです」

 リインの言葉にスバルの顔がわずかに歪む。

「何で?」
「なのはさんは9歳頃までは家族や友達と一緒に過ごしてたけど、魔法の事を知ってからは一人だけこっちに来たという事は聞いてます。
それでなのはさんはゼラバイアを倒すためだけに訓練をつんだって…」
「だから?」
「リインは家族がいません。ヴェロッサさんに拾われた時にリインもゼラバイアを倒すためだけの訓練をしてきました」

 リインは確かにこの間までは隔離されていたかのようにリインだけ別の部屋にいたり、訓練をしていた。
 リインにとってはなのはの気持ちはわからないわけでもないかもしれない。しかしスバルは自分の怒る感情のままにリインに告げる。

「リインは甘いよ。ティアも少しだけど……。だからって昨日のような事をしても許されると思う!?」

 母がいないだけで父と姉妹を持つスバルにはその気持ちがわからないが、昨日のなのはの行動はやはり許せないものがある。
 それになのはだって9歳頃までは家族と一緒にいたのなら昨日のようなことはいけないことだと判断できるはず。
 スバルはそう考えているのだ。

「そ、それは……」

 その時! 突然街全体に警報が鳴り響く。

「これって……」
『ゼラバイア襲撃! 市民の皆さんは急いで避難してください! 繰り返します、ゼラバイア襲撃! 市民の皆さんは急いで……』
「やっぱり!」
「おおーい、スバルーーーー」

 警報を聞いて急いで店から出てきたウェンディ、セイン、ノーヴェ、チンクがスバルとリインの方に走り寄る。

「スバル、逃げるっスよ!」
「え?」
「さすがにゼラバイア相手ではあたし達じゃ歯が立たないって……」
「とにかく、近くに避難所があるそこまで行くぞ!」
「わかった。リイン、行くよ!」

 スバルがリインの手を引っ張ろうとするが、リインは突然の事で戸惑ってしまう。

「え? え? でも……、グラヴィオンは……」
「ファントムシステムでどうにかなるでしょ。とりあえずあたし達も逃げるよ」

 スバルはリインの手を引いて二人は急いで皆と共に避難所の方に向かう。

(ファントムシステム?)

 スバルの隣にいたノーヴェは何のことだがわからないがノーヴェも避難所の方に走る。

「リイン!」
「こう人が多いと……」

 警報を聞いて急いでアイナとシグナムがリインだけでもと思い、
 リインのところに戻ろうとしたら逃げ惑う人々の行列に巻き込まれてしまい、次第にリインを見失ってしまったのだ。

 巨大なゼラバイアが2体視界に入るが、空中に存在していながら移動するだけで起こる強風にアイナのトレンチコートが異常なレベルに激しくはためき腰の余ったベルトの金具が千切れるのではないかという音を立て存在感を示していた。放っておけば一般市民のまともな避難も困難になるに違いない。

「くそ! 見失った! 騎士として何たる恥だ!」

 辛うじてリインのいた場所に辿り着いたが、そこには他は全て吹き飛ばされたのか、脱ぎ捨てられたトレンチコートだけが放置されているのみだった。
 目深に被っていた野球帽が吹き飛ばされ露わになったシグナムの顔にいつもの余裕は微塵もない。
 アイナは冷静に右手でサングラスを外すとそのまま思い切り投げ捨てる。

「シグナムさん、そんな事言ってる場合じゃありませんよ!」

 アイナはシグナムの着ていたジャンパーの胸倉を乱暴に掴んで一喝するように文字通り互いの顔が目の鼻の先になるほどに引き寄せる。一切の手加減ないその生地の伸縮に耐えきれず大きなジャンパーのボタンが2つブチッ!と弾け飛ぶ。

「アイナ…さん」
「はい、ここから必要なのはシスターとしての私達です。もうこんな正体を隠す変装は用済みです」

そう言ってアイナは着ていたトレンチコートを勢いよく脱ぎ捨てる。コートの下にはいつものシスター服を着ていた。
強風に吹き飛ばされ一瞬で消えていくが、さっきまであんなに喜んでいたトレンチコートには視線すら向けずアイナは真面目な顔でシグナムを見つめる。

「とにかく、今はリインを捜しつつも逃げ遅れてる市民の皆さんを安全な場所まで連れて行きましょう!」
「そうですね! わかりました!」

 シグナムも変装のためだけに着ていたジャンパーの残りのボタンも一気に引きちぎって足元に脱ぎ捨てると自身のデバイス「レヴァンティン」を起動させて、騎士甲冑を着る。

「それじゃあ、私はこっちの方を見てきます。シグナムさんはあっちを…」
「わかりました」

 シグナムとアイナは別々の方向に向かって、シグナムは飛び、アイナも走り出す。


 聖王教会司令室でもゼラバイアの存在を確認していた。

「ゼラバイア2体市内にやってきます」
「2体か……」

 ヴェロッサは今度のゼラバイアはデストロイヤークラスが2体と聞いて真剣な顔をする。
 ウォリアークラスが何体も現れることはあったがデストロイヤークラスが2体以上同時に来たのは今までにないのだ。
 そんな相手にグランディーヴァは2つもファントムシステムを使って、グラヴィオンに合神しなければならない。
 グラヴィオンのパワーは20%以上もダウンしてしまうので、2体ものゼラバイアを相手にするのは荷が重いのだがやらねばミッドチルダは崩壊してしまう。

「なのは、一気にゴッドグラヴィオンに合神して現場に……」
「了解!」

 スバルとリインはノーヴェ達と共に避難所まで走って逃げていた。逃げ惑う人々を見ながら二人はそれぞれ思う。

(皆、逃げてる……。あたしはいつも戦ってたんだ。ノーヴェ達が心配するって……)
(皆さん……、ごめんなさいです)

 二人の悲しそうな表情をノーヴェは黙ってみながら共に避難所に向かう。
 ゼラバイアはその間に市街にやって来るがそれは1体だけであり、もう1体は空に浮いたままその位置をキープしている。
 空に浮くゼラバイアの姿はコマのような形で、地面に降りたゼラバイアは前にやって来た剣の形をしたゼラバイアと似ている。
 地上のゼラバイアが暴れる中、地上本部の首都防衛隊と現場近くにいた武装局員が懸命にゼラバイアに攻撃を仕掛け始める。

「狙い撃つぜ!」

 首都防衛隊の隊長であるヴァイスの指示の元に局員達は自身のデバイスで攻撃を始める。
 魔力弾はゼラバイアに命中するもやはりダメージは通らない。ゼラバイアは腕をふるってビルなど建物を破壊しながら局員達を攻撃する。

「うわあああああ!」

 そのものすごい攻撃の風圧に飛べない局員は皆吹き飛ばされる。

「くそ!」

 ヴァイスは叱責の声を洩らす。その時ゴッドグラヴィオンが現場にやって来る。

「グラヴィオンか……。頼んだぜ! 全員一時撤退だ! 動けない奴は動ける奴が支えてやれ!」
『了解!』

 ヴァイスの命令で立てる局員は立てない局員を抱えて急いで撤退する。
 撤退する中ヴァイスはグラヴィオンを見ながらこうつぶやく。

「俺にもグラヴィオンがあったら……」

 避難所ではグラヴィオンが現場に到着した様子が避難所にあるモニターに映し出される。

「グラヴィオンっス」
「頑張れ、グラヴィオン!」

 ウェンディやセインがグラヴィオンに向かって応援する。

「大丈夫でしょうか……」
「ファントムシステムでどうにかなるでしょ」

 リインが心配そうに見てスバルがリインの心配を除こうとする。
 そんな様子を見てノーヴェは考える。

(こいつら、本当に……?)


 地面に着地したグラヴィオンはいきなり両手をあわせる。

「グラヴィトンバスターーーーー!」

 両手についてるバスターから魔力弾を発射させ、目の前にいる剣型のゼラバイアに当てようとするが、
 その真上にいたコマ型のゼラバイアから特殊な粒子のようなものが蒔かれてバスターの魔力弾を防ぐ。

「なら、グラヴィトンライフル!」

 ドゥーエがグラヴィトンライフルの名前を叫んでグラヴィトンライフルで剣型のゼラバイアに向かって撃つ。
 しかしライフルの魔力弾もその粒子で防がれる。しかもただ防がれたのではなく、狙った部分のみに粒子を蒔いて攻撃を防いだのだ。

「ピンポイントでガードされてる……」
「次はグラヴィトンミサイル、オートマティックモード」

 Gアタッカーのファントムシステムがなのはの言葉に反応してグラヴィトンミサイルを発射するようにGアタッターに指示し、右脚からミサイルが大量に出る。
 ゼラバイアは先ほどと同じ防御の粒子を今度はバリアのようにして自分達を多い囲んで攻撃を防ぐ。

「効かない……」

 剣型のゼラバイアは攻撃が止んだのを見て近づいていき、左手をグラヴィオンに当てようとし、グラヴィオンは持っていたライフルで防ぐ。
 しかし左手を防いだライフルは突然凍りつく。

「え?」
「これは!?」

 そう、ゼラバイアの左手は氷の力を帯びて氷の手となっていた。ゼラバイアは次に右手に炎を纏わせ、炎の右手でライフルに向かって手を振るう。
 氷付けになったとたんに急に温められたのでライフルは当然壊れる。
 その様子を見ていたヴェロッサにはある疑念が頭をよぎる。

(まさかね……)

 しかしヴェロッサはすぐにその疑念を払いのけて今の状況を見る。

「グラヴィオン、重力子安定指数77%に低下」
「重力子臨界まで8043ポイントです」
「次はグラヴィトンスパイラルナックル、いくよ!」
「はい!」
「わかった!」

 グラヴィオンは両手を合わせてスパイラルナックルの発射体勢に入り、腕からブースターがうなる。

「グラヴィトン、スパイラル……」
「「ナックルーーーーーーーーー!!」」

 スパイラルナックルがゼラバイアのバリアに突っ込む。しかしそれも虚しくスパイラルナックルは弾かれ両手は地面へと落ちた。

「そんな……」
「スパイラルナックルが効かないなんて……」
「くっ!」

 なのははすぐに両手を引き戻す。

「次、グラヴィティクレッセント。オートマティックモード!」

 Gシャドウのファントムシステムはなのはの声に反応してGシャドウの翼が展開され、グラヴィオンは翼を掴む。

「シューーーーーート!」

 今度はグラヴィティクレッセントがゼラバイアに向かって飛んでいくが、すると今度は剣型のゼラバイアの胸がわずかに開きそこから発射されて粒子砲でグラヴィティクレッセントを消滅させる。

「嘘!」
「あれは反物質砲です!」
「反物質砲……」

 反物質砲とは簡単に言えば触れたものを何でも消滅させてしまう恐ろしい攻撃である。

(万事休すかな……)

 さすがのなのはにもわずかながら焦りが出てくる。
 その様子を避難所のモニターで見ていた人々もざわめく。

「ブーメラン技が効かないとは……」
「頑張るっス! グラヴィオン!」
「ファントムシステムじゃ勝てないです……」

 リインはすぐさま外の方へと走り出す。

「リイン! 待って!」

 スバルがすぐにリインの後を追いかける。その様子を隣にいたノーヴェが不審がる。

「あいつら……、ちょっと待て!」

 外に繋がる通路をリインが走る。その後ろからスバルがやって来てスバルの方が走るのが速いためスバルはすぐにリインに追いつき、リインの手を掴んでリインを引き止める。

「リイン、待って!」
「私行かなきゃ……。行かないと皆が……」
「でも一人で行ったって……」

 外では剣型のゼラバイアが右手に炎を纏わせてグラヴィオンを攻撃しようとし、グラヴィオンはグラヴィトンソードを出して攻撃を防いで踏ん張る。
 グラヴィオンは踏ん張るが相手のパワーに押されていき、グラヴィオンの足が少しだが地面を踏み込む。
 その影響で地下の避難所が揺れ、外に繋がる通路にいたリインとスバルも思わず揺れで体が揺れる。
 その時通路の天井が揺れた衝撃で崩れていき、瓦礫がスバルの上に落ちようとしたその時!

「危ねえ!」

 後ろからリインとスバルを追ってきたノーヴェがスバルの背中を押し出し、ノーヴェが瓦礫の下に埋もれた。

「ノーヴェ……」

 スバルは急いで瓦礫をどかしてノーヴェを救い出す。幸いにもまだ瓦礫は数枚しか落ちていないのですぐにノーヴェの体の上にあった瓦礫は全てどかせれた。

「ノーヴェ……」

 スバルは意識を失ったノーヴェの体を抱える。
 スバルは自分を庇って怪我をしたノーヴェを見て泣き叫ぶ!

「ノーーーーーーーーヴェーーーーー!」


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最終更新:2022年12月13日 17:33