結界外空:フェイト・T・ハラオウン
上空にいる少女は空中に腰をかけてフェイト達を見ていた。
首の長さに切りそろえられた髪の両端をリボンで結んだ姿はかわいらしくも見える。
ただ、その瞳は金色でありながらも、果てしなく深い穴の底を思わせた。
フェイトが声の届く場所に着くと、少女はにこりと微笑んだ。
「こんばんわ。いい夜ね」
微風がきもちいい。
こんなときでなければ確かにいい夜になっていた。
「こんばんは。時空管理局のフェイト・T・ハラオウン執務官です」
フェイトは型どおりに言った。
「時空管理局……?時空管理局……時空管理局……時空……ああ、時空管理局の人ね。その、時空管理局の人が私になんの用?」
「ここは危険です。私の誘導に従ってください」
「あら、あなたたちが結界を作ったから平気でしょ?」
「いえ、それだけでなくお話も聞かせて欲しいから」
「それって職務質問や任意同行でしょ?そうね……ここでなら話してあげてもいいわ」
少女の微笑みは徐々に別のものに変わっている。
フェイトはその少女を見ていると心臓の鼓動が早くなっていくのを感じていた。
なにかの予感がする。しかし、なにを告げる予感なのかはわからない。
「許可証を見せてください。それから、ここに来た目的を教えてください」
「許可証なんてものも持っているわけないじゃない」
「ここは、魔法の存在しない管理外世界ですから許可証が必要です。ないのなら逮捕しなければならいないことになります」
少女は一瞬ぽかんとしていた。
次の瞬間、少女ははじけるように笑い出した。
「あはははははは、ははは……ははははは。おかしい……あははは」
今度はフェイトがぽかんとしてしまった。
エリオとキャロもわけのわからないという顔をしている。
すぐにフェイトは我に返った。
「なにか、おかしいんですか?」
少し語気を強める。
「ああ、ごめんなさい。そんなこという人には随分会っていなかったから。とにかく、そんなもの持ってないわ」
少女はようやく笑いをおさめる。
「バルディッシュ」
「Yes sir.」
少女を囲むように光の輪が現れる。
輪を縛ればバインドが完成する。
「それから目的だったわね。いいわ教えてあげる」
少女は左の指先で光の輪をさわる。
輪は粉々に砕け散った。
それは驚くべき事だったが、少女が右手に持つ物がそんな驚きをどこかに吹き飛ばした。
少女が右手に持つのはインテリジェンスデバイス、オッド。
捜索しているロストロギア、ステラが装備されているデバイスだ。
「これを取りに来たの」
「あなたがそれをこの世界に持ってきたの?あの小型船を操縦していたのはあなた?」
「いいえ、違うわ。私はこれを拾いに来ただけ。これ持ってきた人とあの船は……消えちゃったわ。これに存在の全部を食べられて」
フェイトはバルディッシュに魔力を通し、いつでも戦闘できる状態にする。
「それを渡して」
フェイトは手を出して叫ぶ。
「いやよ」
「それがどれだけ危険かわかってるんでしょ?」
「いずれ全てを飲み込み、全てを破壊する。そういうことをしてたんでしょ?これは」
「だったら!」
「古い知り合いに頼まれたしそれはできないわ。そうね、欲しいのなら力ずくでうばってみなさい」
フェイトは少女を睨みながら念話を使う。
(はやて、なのは。ロストロギアを見つけたよ)
答えは返ってこない。
なにかに妨害されている不快な感じがした。
「まだ私と話している途中でしょ。他の人と話すのは無礼というものよ」
少女はゆっくりと天を指さす
そこには、ついさっきまでなかったはずの赤い月が煌々と輝いている。
フェイトは首を左右に巡らせた。
いつの間にか結界が作られている。
見たこともない結界だ。
「そうそう、時空管理局のフェイト・T・ハラオウン執務官。まだ私の名前を教えていなかったわね」
少女は楽しそうに笑っていた。
「私の名はベール・ゼファー。裏界の大公たる魔王。人は私を蠅の女王とも呼ぶわ」
魔王ベール・ゼファーは膨大な魔力を溢れさせながら本当に楽しそうに笑っていた。

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最終更新:2008年04月10日 07:26