秋葉原のマンション:フェイト・T・ハラオウン
場所は再び少年の寝室のちゃぶ台の周りに移る。
4人でちゃぶ台を囲み、お茶を一杯。
フリードはすでに小さくなっている。
お茶を飲み干した少年がおおきく深呼吸一つ。
「どうしたんですか?」
「……なんか、後で夕日をバックにキックの応酬をしそうだと思ったんだ」
だいぶ混乱しているようだ。
それも無理はない。
少年の寝室はすでにもう、どうしようもないほどに壊れている。
「あの……ごめんなさい」「ごめんなさい」「ごめんなさい」
三人で謝る。
緊急事態だったとはいえ、あまりに気まずい。
「部屋の修理は責任を持ってやります」
「ああ、頼むよ」
少年が空になった湯飲みにお茶をついでくれた。
砂糖のビンを押してくれたので、スプーン一杯すくって混ぜた。
始末書書かないといけないな、と思ったところで思い出す。
この少年はさっきの戦闘で魔法を見ても驚いていなかった。
大きさの変わるフリードや、不自然に攻撃性を持ったイナゴ。
そして少年自身の魔法と魔力を持った剣。
少年は明らかに魔法のことを知っているし、魔法を使える。
なら、時空管理局の執務官として確かめておかないといけないことがある。
「あの、身分証明書見せてもらえませんか?」
「あ?ああ」
少年はブレザーの内ポケットからカードを一枚出してくれた。
それには、「輝明学園学生証 3年 柊蓮司」と書かれている。
確かに身分証明書に間違いない。
「これじゃなくて時空管理局発行の滞在許可証はありませんか?」
「時空管理局?」
「はい……あ、すいません。遅れました。わたし、時空管理局のフェイト・T・ハラオウン執政官です。柊……蓮司さんは魔導師ですから第97管理外世界に滞在する際に許可証が発行されたはずです」
「???」
柊蓮司の顔には疑問や戸惑いが字に書いたように出ている。
柊蓮司は少し考えた後、ちゃぶ台に突いていた肘をはなして体を起こした。
「あー、ちょっと良いか?それ、おかしいぞ」
「なにかおかしいですか?」
フェイトは柊蓮司が犯罪魔導師である可能性を考え気を張り詰める
「ああ。俺は生まれも育ちも日本の秋葉原だ。滞在許可証もなにもそんなの必要ないだろ」
「え?」
張り詰めた気がいっぺんに霧散した。
「でも魔法を使う魔導師ですよね?」
「いや俺、魔導師じゃなくて魔剣使い」
今度はフェイトの顔に戸惑いと疑問が字に書いたように浮かんでいた。


秋葉原のマンション:柊蓮司
どうも話がかみ合っていなかった。
どこがどうか見合っていないか考えてみる。
確かフェイトはこんな事をいっていた

『第97管理外世界に滞在する際に許可証が発行されたはずです』

「ああ、そういうことか。あんた異世界から来たんだろ」
「はい、そうですけど……」
「やっぱりそうか。この世界のことよく知らないんだろ。たとえば、あんたはこの世界を第97管理外世界って言ってるけど、俺たちはファー・ジ・アースとか第八世界って言ってるしな」
「地球……じゃないんですか?」
「常識じゃそうだろうけど、俺たちウィザードじゃファー・ジ・アースと言うやつのほうが多いな」


秋葉原のマンション:フェイト・T・ハラオウン
「ウィザード?」
第97管理外世界では空想の魔導師の意味で使われる言葉のはずだ。
だけど柊蓮司は別の意味で使っているように思える。
「ああ、この世界で魔力や魔法を使うヤツの総称だな」
「ちょっと待ってください。この世界には魔法は存在しないんじゃないんですか?」
「どこにでも居るってわけじゃないが俺みたいなウィザードは居るぜ。ま、ウィザードが居るって事や俺がウィザードだって事はバラしちゃいけないから一般人には知られていないけどな」
そうかも知れない。
フェイトも第97管理外世界に住んでいたが柊蓮司の言うウィザードの存在を示唆するような情報や出来事に出会ったことは全くない。
だが、それは時空管理局の調査結果とはあまりにも違っている。
「アンゼロットに聞いてなかったのか?」
「すいません。私たち、アンゼロットという方に言われてここに来たわけじゃないんです」
「じゃあ、なんで俺の部屋にあんな入り方をしたんだ?」
窓を割って、部屋を壊しながら入ったことを言っているせいか、声にはいらつきが感じられた。
「実は……」
職務上のことを言うのはあまりよくない。
だが、今の状況は自分の知っていた事実とはあまりに違う。
だからフェイトは柊蓮司を試してみることにした。
「少女のウィザードに襲われて、ここに落ちてしまったんです」
「少女のウィザード?」
「はい。髪を首の長さに切りそろえてて……両端をリボンで結んでました。それから、ポンチョを着ている少女でした」
目に見えて柊蓮司が緊張する。
周りの空気まで緊張するように思えた。
「そいつベール・ゼファーと言わなかったか?」
柊蓮司はフェイトがまだ言っていないベール・ゼファーの名前を知っていた。
「はい。知っているんですか?」
「ああ、何度か戦ったことがある。それにしても、よく無事だったな。あいつ、魔王級エミュレイターの中でもトップクラスに危険なヤツだぜ」
「見逃してもらえたのかも知れません。いえ、あのイナゴの群れが追ってきたのを考えると急いでいたのかも知れません」
まだ言ってない情報を柊蓮司が知っていたと言うことは柊蓮司が言っているこの世界の裏側の姿が真実と言うことを示している。
同時にベール・ゼファーの仲間であり罠をかけようとしているという疑念もわいてくる。

だけど……だけどだけどだけどだけどだけどだけどだけどだけどだけど

フェイトは無限に連なる疑念を心の手に持ったバルディッシュで切り捨てた。
全てを疑う事は全てを頑なに拒むこと。
それは昔の、なのはと出会った頃の自分のようだった。
それに柊蓮司は初めて会ったときに怒りながらも「なんでもやってやる」と言ってくれた。
だから、フェイトは柊蓮司を信じた。
「柊蓮司さん。お願いがあります」
柊蓮司の目を、まっすぐ見つめる。
「私たちはこの世界にロストロギア……危険な遺物を持った犯罪者を追って来ました。ベール・ゼファーの言葉を信じるなら犯人はこの世界で消滅したようですが、ロストロギアはベール・ゼファーに奪われました」
柊蓮司がフェイトの目を見返す。
「ロストロギア・ステラは暴走すると世界を消滅させるような次元震を起こす可能性があります」
「世界の消滅……滅亡か。ベルの考えそうなことだな」
あたりまえのように言われたその言葉に、フェイトはベール・ゼファー恐ろしさを感じた。
「ロストロギアの暴走を阻止して回収しなければなりません。柊蓮司さん、私たちに協力してください」
「いいぜ。俺も、あいつをほっておけないしな。だけどな……」
柊蓮司の声が低くなる。
「俺をフルネームで呼ぶのは止めてくれ。その……なんとゆーか、いやなんだよ」
「はい」
エリオとキャロが笑い出していた。
つられてフェイトも笑ってしまった。

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最終更新:2008年04月10日 08:13