新暦71年10月 ミッドチルダ臨海第8空港
ギンガ・ナカジマは、焦っていた。
見渡せば、辺り一面火の海である。
焦げ臭い匂いが鼻を突き、燃え上がる炎はそれだけで見ている者を恐怖に陥れる。
だが、彼女は決して止まることは無かった。
否、止まれなかった。
この猛威に晒されているであろうたった一人の妹の事を思えば、躊躇していることなどできるわけがない。
(待っててね、スバル。お姉ちゃんが必ず助けてあげるから!)
しかし、運命は非情にも心優しき姉に襲い掛かる。
妹の事を心配するあまり、ギンガは周囲の状況把握を怠っていたのだ。
「危ない!!」
どこからか怒鳴り声が聞こえてきた瞬間、突如頭上で鳴り響く耳障りな轟音。
見上げれば、コンクリートの塊と共に豪華なシャンデリアがいくつも、凄まじい勢いで落下してくる。
急いで離脱しようとするが、無理を続けてここまで移動してきたせいか、致命的なまでに自分の走りは遅かった。
このままでは、安全圏へ離脱するよりも先に押し潰される。
そう悟った瞬間、足を縺れさせて転倒してしまった。
慌てて立ち上がろうとするが、もはや手遅れだ。
(お父さん!お母さん!スバル!)
だがギンガを襲ったのは、上からではなく横からの衝撃。
目を開けてみれば、すぐそこにシャンデリアの残骸が転がっている。
恐らく自分が倒れていた場所だ。
「怪我はない?大丈夫?」
そう声をかけられてギンガは、自分が誰かに抱きかかえられている事に気付いた。
恐る恐る首を傾けると、命の恩人が心配そうに覗き込んできている。
「え、ええ。ありがとうございます。助けていただいて」
それを聞いて、安堵の溜息をつく男性。
非常に特徴的な人物だった。
長い髪を抑えるように帽子を被り、黒い外套を羽織っている。
左目には、鉤爪の様な奇妙な刺青(タトゥー)。
おまけに左耳にあたる部分には、訳の分からない機械部品がついている。
「まあ、無事でよかったよ・・・え~と・・・」
「ギンガです。ギンガ・ナカジマ」
「リヴィオでぷぺ」
「噛んだ!?」
(噛んでない、大丈夫!)
かつてダブルファングと呼ばれた男の新しい物語が始まる。
まだまだやで、泣き虫リヴィオ。駆け上がれ、これからも・・・。
最終更新:2008年11月10日 20:33