「ブルース・ウェイン氏の来日は、今回で二回目となっております。ウェイン氏はウェイン産業の社長であります。
 ウェイン産業は世界各地に支社を持つ大企業であり、その分野は軍事から薬品、食品等、様々なところに行き届いており、目に触れる消費者の方も多いでしょう。
 ウェイン氏の来日の目的は、日本支社の一周年パーティーです。
 ウェイン氏は今日の午後にも自家用機でナリタ空港に到着するそうです……」

「ウェイン産業の本社があるゴッサムシティでは、ウェイン氏以外にもバットマンと名乗る奇怪な男のことで有名です。
 ゴッサム警察は、彼に関する情報を集めており、懸賞金もかけて捜査にあたっています。また、それに呼応されるかのように複数の怪人と思われるような犯罪者も現れています。
 最近起きました通称『ペンギン』の事件においては…」

「日本の空港では既にかなりの人数のブルース氏のファンが集まっています。
 これはブルース・ウィエン氏が総資産額10兆円とも言われる大富豪であり、
 さらには、いぜんとして婚約者がいないためということもあり、かなりの女性の方がプラカードを持ち、アピールしているようです」

「ウェイン産業日本支社は、新たに建設されたお台場副都心にあり、その高層ビルは、50階立てに相当します。
 日本支社の一周年パーティーでは金融や芸能界の著名人のほかにも政府の閣僚のかたも訪れるということで、強固な警備が施されるということです。
 なお、近くのお台場ではテレビ局主催のお台場祭が開催されており、人手がとられると、関係者は語っています」

「ゴッサムシティにおけるバットマンは、警察に協力しているよう一見見えますが、その見方は様々であり、賛否両論ということです。
 一時期ゴッサムシティの犯罪の検挙率は世界でもっとも低かったのですが、バットマン登場後、検挙率は上昇している傾向にあります。
 ですが、その一方でジョーカー、ペンギン、リドラーといった凶悪犯罪者が出現しており、
 バットマンの存在が犯罪を助長しているのではないかという意見も聞かれています」




第1話 来日


「ブルースさま、ブルースさま…」
 そのステュワーデスの甘い声で、目をあける。
 まだ意識は完全に回復はしていないが、
 空の上では、誰にも襲われることはないと思っているせいか、ほんの少しだけ気を落ち着かせることができる。
 前面にある画面を見ると、もうそこは空港の映像を捉えていた。
 今日は、久しぶりに表の顔で仕事をこなさなくてはいけない。
 ついこの間までは、裏の顔として奮闘していたわけだが、力仕事もきついが…こちらのほうの仕事も大変だ。
 なんせ、よくわからないものにもしっかりと挨拶をしなくてはいけない。
 人前での愛想笑いはなれてはいるが、神経を使う。

「きゃぁー!ブルース様!」
「結婚してくださーい!」

 空港のロビーでの声援とカメラのフラッシュ…。
 日本の女の子は、こういったことには興味があるのだろう。
 テンション高く、声をあげながら、花束や、中には上半身を露出するような子まででてくる。
 歴史や礼儀を大事にする国というイメージがあるが、こういったところは時代の流れかもしれない。
 なかなかエキサイティングであることは認めよう。

「ブルースさま、本日の予定ですが…」

 リムジンの車の中、執事であるアルフレドが、ノートパソコンのテレビ画面の中で声をかける。
 予定を聞きながら、手前の書類に目を通す。
 ブルース・ウェインは仕事を平行に行うことは当たり前だ。
 今、こうしている間にも世界、数十社と契約をかわす動きがでている。
 休んでいる場合はない。

「……ブルース様、もしもの場合に備え、例のものを送っておきました」
「すまない。保険としては必要不可欠だからな」
「はい。出来れば使いたくはないものです」
「あぁ…なにかあったら連絡する」
「それでは連絡がこないよう祈ることにします」

 リムジンが止まる。
 フラッシュがたかれている…、その中、車をおり笑顔を忘れずに…日本支社の中にと入っていく。
 すぐに日本支社の幹部との挨拶、明日のパーティーのための会議がある。



翌日…
 その日、高町なのは、フェイト・T・ハラオウンは久しぶりの休暇をもらいこっちの世界にと帰ってきていた。
 そこには高町なのはの養子となったヴィヴィオも一緒である。
 本来ならこっちの世界に帰る必要はないなのは達だが、
 ヴィヴィオに自分の世界を見せておきたいということ、
 そして自分自身、こういった休暇でなければ見ることが出来ないということから、観光としてやってきたのだ。
 しかし、こちらのほうの現状についてはあまりよくわかっていないためか、
 今日がそのブルース・ウェインの来日のパーティーであることを2人は知らなかった。

「凄い人…こんなに混んでるの?お台場って?」

 フェイトもまた、あまり知らない場所に行くので、少し緊張をしている。
 しっかりとヴィヴィオの手を繋いで離さないようにしている…
 彼女の過去の経歴から、子を離さない、という一種のトラウマ的なものがあるからだ。

「おかしいな…もうお祭も終盤だから、あんまりいないとおもったんだけど…」

潮の香りを感じながら、ヴィヴィオはそんな、なのはやフェイトの心配をよそに二人の手を引っ張りながら進んでいく。
 見えてきたお台場…そして、人混みが吸い込まれてはいっていくウェイン産業の高層ビル。

「あっちいってみようよ~」
「ダメだよ、ヴィヴィオ…あっちは私達ははいれないから」

 ヴィヴィオは、たくさんの人がいるほうが興味があるようで、なのはとフェイトの手を引っ張りながらその人混みの中にはいっていく。
「わぁ!ヴぃ、ヴィヴィオ?」
 その人の波に押されるようにフェイトはヴィヴィオの手を離してしまう。
 招待客と一般客に別れている、会場では、数万の人間が訪れていた。
 フェイトはあわてて、その人波に乗りながら、ヴィヴィオを探す。
 そうしている間に、なのはまでも見失ってしまう。

「あ、あれ…なのは?ヴィヴィオ?」

 あたふたしながら、フェイトはそのまま、会場の中にと入っていく。
 会場内は、広く芝生が敷き詰められており、中には出店も置かれている。
 一般客はそれこそ大人から子供まで様々だ。
 その芝生の向こうは招待客として、バリケードのようなものが作られ、一般客とを遮断している。
 フェイトは、その遮断された壁際にたちながら、周りを見る。
 そこに、なのはからの携帯電話が鳴る。
 もしもの場合とヴィヴィオとフェイトそれぞれに地球圏での携帯電話を渡してあったのを、フェイトは忘れていた。

「なのは!?ヴィヴィオは見つかった?」
「まだなの。電話にもでてくれないし……」
「とにかく、合流しよう?」
「うん…」

 そんなやり取りの中、会場が静かになる。前の大画面のスクリーンに映し出されたブルース・ウェインの姿。
 ブルースは蝶ネクタイに黒いスーツをしっかりときて、世界で5本の指に入る富豪と、そして二枚目の顔を見せていた。
 ヴィヴィオはブルースの話の中、なのはを探していた。
 さっきから携帯がなっているのだが、周りの歓声と、ヴィヴィオが動き回ることで振動、音ともに消されてしまっている。
 ヴィヴィオは、一般客と招待客の出入り口を小さい子供の背から警備に気づかれることなくとおりぬけていく。
 警備はそれに気がついていない……。



「私達は、こうしてこの日本という国に、私自身の会社を建てられたことを光栄に思います。
 これから先、何年もこの地にとどまれるよう、途中で見放さず、ついてきてほしいです。
 今日はみんなに感謝する日だ。ありがとう…乾杯」

 ブルースがそういって、グラスを上に持ち上げるのと同時に、周りから風船が割れるような銃声が鳴り響く。
 その音に周りの参加者も驚き悲鳴をあげながら、その場にうずくまる。
 ブルースは、危険を察知したのか、舞台から伏せながら飛び降り、人混みの中に姿を隠す。
 次に舞台に現れたのは、顔を白く染め、奇怪な化粧をする男…スーツを着たその男はマイクの前に立つと、咳をひとつする

「あー、あー…マイクテスト、マイクテスト。うぅ~ん、やっぱり日本製はいいねぇ」

 だんだんと関係者の中には、そのものが誰なのか気づくものも出てきて、逃げ出そうとするが、
 それを阻むように、その奇怪な化粧の男の隣、そして客の横や後ろにピエロの仮面を被った機関銃を持つ男達が現れる。

「レディィス&ジェントォルメェェン~、本日のウェイン産業のパーティーは残念ながらこれで終わりです。今から、世にも楽しい~ジョーカー劇場をお送りします」

「ジョーカー!?」
「それって…ゴッサムの?」
 周りの観客がざわめくのを楽しそうに眺めるジョーカー。
 その視線は観客の顔をひとりひとり眺め、表情の変化を探っているようだ。リアクションを求めているのである。

「まずは、私の劇場に参加してくれる俳優を募集します。安心してください。立候補制ではないです。こちらで選ばせて貰いますから~」

 すると巨大なトラックがウェインの庭園に突入してくる。
 芝生を荒らしながらやってきたその巨大なトラックは後からつっこんでくると、トラックの荷物をいれる箇所が開く。

「はぁ~い、それでは参加者の皆様は至急、この中にお入りください!」

 銃をもったピエロたちが招待客を次々とトラックに押し込んでいく。
 悲鳴を雑踏の中で、強引にトラックに押し込んでいくピエロ。
 なのはと、フェイトはなにがおこったのかさっぱりわからないでいた。
 ただ一般客が逃げ惑う中でヴィヴィオを探すことに必死で…。



「アァ~ハハハハハハ、それでは皆様、ジョーカー劇場第一幕をご覧頂き感謝します。第二幕をお待ちください~。アァハハハハハ~」

 高らかな声をあげ、トラック数台は走り抜けていく。混乱した場所に、誰もが逃げ惑っている。
 なのはと、フェイトは、そこで靴が落ちていることに気がついた。
 それはヴィヴィオの靴…。
 なのはは、まさかと思い、去って行ったトラックのほうを見た。


「……なのはママ…フェイトママ…」


 トラックの暗闇の中、膝を抱え叫ぶ大人たちの中でヴィヴィオはじっと泣くのを我慢していた。
 そう、信じているから…すぐに、なのはママとフェイトママが迎えに来てくれると…。

「…ジョーカー、何を考えている」

 ブルースは、携帯端末からトラックの動きを見つめていた。
 トラックの動きを見つめながら、その姿は既に表から…裏に変わっている。
 ゴッサムにおける犯罪者を狩る存在に…。





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最終更新:2008年12月02日 13:54