高町なのはは一人、魔法から離れ故郷の町を歩いている。
数ヶ月前、任務中に重傷を負い、現場から遠ざかっているのだ。
傷が癒え体が動くようになっても、無茶な魔法の使用によって蓄積されたダメージはなかなか消えず、故郷で静養する日々だ。
もう数ヶ月もすれば、いくらか後遺症はあっても前線には出れるようになるという。
だが、彼女は不安だった。たとえ戦いに戻っても、これまでと同じように力を震えるのか、と。
そんな風に考えている内に深みに嵌っている自分に気づいて、少しでも気分を変えようと町へ出た。
管理局の任務で他の世界に行く事が多く、そうでないときは学校か親友たちと一緒に過ごしていたので、故郷の町を歩くのは久しぶりだった。

そうしてふと足を向けたのは小さなゲームセンター。
優れた性能の家庭用ゲームがあり、またゲームセンターに集まる人たちにあまり良い印象を抱いていなかった事もあって
たまに入り口近くに設置してあるクレーンゲームに興じる事はあっても、奥に踏み入る事は無かった。
だが今日は何故か他のゲームをやってみようと思った。

格闘ゲームはどうだろう? どうにも性に合いそうに無いし、座っているプレイヤーたちを見ていると初心者では入りづらそうだった。
では、レースゲームは? 昔、家でやったときはクラッシュばかりでアリサに大笑いされたことを思い出す。それにやる気にはなっても、負けるとわかっているゲームにお金を使う気にはならない。
クイズゲーム? 勉強してないしなぁ。
音楽ゲーム? ここの店はやたらと体を動かすものばかりで、激しい運動は控えなければいけない身では無理だろう。

そうして自分の興味を引くゲームを探して、目を向けたのはシューティングゲームが並ぶ場所。
そこの一つの筐体の前に三人の男が集まっていた。
一人はこの店の初老のマスターだ。クレーンゲームをプレイしたときに幾度か話した事があった。
もう一人はいかにもヤクザといった感じの紫のスーツに身を包んだ強面。最後の一人はジャケット姿の痩躯に眼鏡の青年。
マスターが筐体の傍らに屈みこみ、三人の前の筐体のカバーを開く。
マスターは開いたカバーの中に手を入れ、何か操作していた。なのはは知らなかったが基盤と呼ばれるものだ。
直後、画面がブラックアウトし、CAUTIONという文字が表示され、すぐにいくつかの文が並ぶものに切り替わる。ゲームの設定画面だ。
そして、ジャケットの青年がスティックを握り慣れた手つきが動かし出す。
画面の矢印が難度設定を変化させる。
やや低めに設定されていたものが最高に。VERYHARDに変化する。

青年が椅子に座り、画面が通常のものへ戻る。
三人は話す何かは、なのはの位置からは聞こえなかった。だが、最後に青年が笑いながら言った言葉は聞き取れた。
青年は言う。「本気ですよ」、と。
……本気って何?
と、なのははむっとした調子で思う。
確かにゲーマーという人種がいる事は知っているし、友人たちとゲームをして白熱した事も一度や二度ではない。
それでも、ゲームは楽しむための遊びだ。そこに、『本気』という言葉があるとは思えなかった。
自分が乗り越えてきた戦いや、父や兄が修めた体術とは違う。
だが、青年は目の前のシューティングゲームを最高難度にし、本気だと言ったその顔は笑顔ではあっても真剣だった。
……まさか、あるの?
ゲームという遊びに対して、本気という言葉が存在するんじゃないか。

そして、いつの間にか周囲の音が気にならなくなっていた。
目は青年の向こう、青年の見つめるモニター画面に集中していた。
「では」
と、青年はポケットから硬貨を取り出し、筐体のコインシュートへ滑り込ませる。
スタートボタンが押され、画面の中では赤い戦闘機が飛び立っていく。
……どうなの?
「軽く口にしたみたいな、そんな本気が―――」
……出来るの?
ゲームセンターに来ることはなくても、一つのゲームをクリアするのは難しいと、なのはは知っている。
おそらくは頻繁にこの店に来る人でもなかなか勝てない、そんなものを更に強化して、それでも勝てるのか?
……出来るのかな?
問いかけの心に応えるように赤い戦闘機の戦いが始まる。
画面が速度と爆発で埋まっていく。

そして、彼女は知る。
青年の本気を―――。
ゲームというものの本質を―――。

「君は、ゲームが好きですか?」

魔法少女リリカルなのは×連射王
『砲撃王』     

    始められたら色々スゲエ



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最終更新:2008年12月01日 01:37