「アンタみたいな犯罪者を、あたしは許さない」
 ティアナが一枚のカードを握りしめながら俺を睨み付ける。
 俺はそこまで恨まれるようなことをしただろうか?……いや、恨んでいるとは違うか。しかし彼女がああなっている理由はなんだ?
 人を傷付けたのが許せないのか、言い訳にしか聞こえないことばかり言うのが許せないのか、それとも罪が課されなかったことが許せないのか。
「おい、俺は戦い方なんか知らないぞ?」
 そんなの知らないとばかりに構えを取るティアナ。こちらの台詞は無視する算段か。
 しかしどんな理由にしろ彼女とは分かり合う必要がある。勘違いされたままというのは気分が悪い。
「じゃあ、いくわよ」
 結局、いくら考えようと、この戦いを止めることは出来なさそうだ。



   リリカル×ライダー

   第四話『模擬戦』




「なのは、何故この模擬戦を許可した?」
 後ろから話しかけられたので振り向くと、そこにはシグナムさんが立っていた。
 彼女の特徴は燃えるような、しかし赤いとは違う桃色に似た髪だと思う。普段からその髪をポニーテールに纏めていて、キリッとしててカッコいい。厳しく真面目な性格で、はやてちゃんの守護騎士達の中でも特にリーダーとして慕われている。
「シグナムさんがここに来るなんて珍しいですね」
「何を言う。こんな興味深い模擬戦、見ないはずがなかろう」
 彼女の戦闘(決闘?) 好きは、今に始まったことではなかった。
「にゃはは……そ、そうですね」
 実はわたし、ちょっとだけシグナムさんが苦手。あんまりお話しないからというのもあるけど、何より性格的に合わない。嫌いってわけじゃないし、むしろ尊敬してる所もあるのだけれど。
 逆にフェイトちゃんとは仲が良いんだけどなぁ。
「で、何故許可した? なのはらしくないと思うが」
 自分は過去の失敗から、無茶はさせないように教育している。今回の模擬戦はそれに反するということだろう。そう、自分でもそれぐらいは分かっている。
「やらせてあげないとティアナも納得しないだろうな、と思ったので。それにカズマ君が何故暴走していたかも知りたいし、丁度いいかと思いまして」
「やはりらしくないな。お前がそんな打算的な行動を取るとは」
 クスリと笑ってそんなことを言うシグナムさん。わたしってそんなに良い人ぶってたかな?
 ただ、らしくないなとは自分でも思うけど。
「まぁ、私は楽しませてもらうだけだ。なのはの判断以上の答えを私が出せる訳ではないからな」
 それっきり、黙り込んでしまった。



     ・・・



「クロスミラージュ、セットアップ!」
『Set up』
 ティアナが一枚のカードを掲げる。彼女の一声と共にそのカードと持ち主が橙色の光に包まれ、それが無くなった頃には先ほどとは全く違う、活動的な服装になっていた。おそらくあの服がバリアジャケットとやらだろう。
 そしてカードの代わりに握られた二丁の拳銃。アレが彼女のデバイスらしい。
「さぁ、アンタもバリアジャケットを纏いなさい」
 いや、纏えって言われてもやり方知らなんだがな。今から何をすればいいのか、さっぱりなんだから。

 ――戦え。

「……っ!」
 来た、アレだ。あの衝動が沸き上がってくる。俺に全てを破壊させようとする、あの衝動。なのはを傷付けたあの力。……俺をおかしくする、この力。

 ――戦え。

 また左手が動き出す。返却された例の機器を握った左手が。
「チェンジデバイス、セットアップ」
『Stand by ready set up.』
 例の機器、チェンジデバイスが動き出す。中央のクリスタルが一瞬光り、ベルトが射出されて腰に取り付けられ、待機音が鳴り出す。

――戦え。

 また、俺が俺でなくなっていく……。



     ・・・



「あれが、お前の言っていた」
「ホントに“変わった”でしょう?」
 わたしが見る先、空間シミュレーターが設置された訓練場。そこでティアナと“彼”は戦っていた。
 鎧に似た青いバリアジャケットを纏い、ティアナに向かって歩くカズマ君。けれど、彼はカズマ君であってカズマ君ではない。
「確かに戦うことしか考えていない戦闘狂のようだな。闘争本能の具現とは、言い得て妙だ」
 今日の朝、カズマ君の部隊入り挨拶の後にシャマルさんが出した一つの結論がそうだった。少ないデータと推測で成り立った、まだ原因すら欠片も考えられていない危うい推論ではあるけれど、確かに納得出来る考えでもあった。
「わたしのときはあっちが先だったんですけどね」
「あれが先だと、やはり恐怖を抱くだろうな。今は不安と危険性を感じているが」
 カズマ君の拳に展開された小さな青い三角形の魔法陣がティアナの放つ橙色の弾丸を悉く粉砕する。それは荒々しく原始的で、しかし緻密で精巧な迎撃。あんなシールドの使い方、初めて見た。
 シグナムさんの言う通り、不安と危険性、そして何とかしてあげたいという思いをわたしは抱いていた。そのためにも、まずはこの戦いを見届けなければならない。
 何をすればいいか、見極めるために。



     ・・・



「……くっ!」
 またも放った弾丸が迎撃される。
 すでに数十発は撃ち込んでいるのに、全て叩き落とされていた。あのカズマって人が突然表情を歪ませて変身してからずっと、言い知れぬ恐怖があたしを包んでいるのが分かる。それを振り払うように攻撃を続けるが、ことごとく無力化されてしまった。
「いったい、何なのよっ!」
 なのはさんの教えを破るのを覚悟でビルに飛び込む。射撃型魔導師、特にセンターガードの自分がみだりに動くのは本来得策ではないのだが、今回は一対一ゆえに例外だ。
 アイツはゆっくりとこちらに歩み寄る。こちらを侮っているのではなく、こちらを見極めるために。
 念のために空間に残しておいた魔力スフィア三つを魔弾に変えて、飛ばしておく。ただの時間稼ぎだ。今は考える時間が欲しかった。
(アイツ、戦い慣れしてる……)
 いや、正確には戦いをどう進めるのが最も合理的かを理解している、と言うべきか。普段みんなに指示を出す司令塔または頭脳となるあたしだからこそ、それらを理解しているということが分かる。
「カートリッジは使ってないから十分にある。ただ通常の魔法弾はまともに使用しても意味はない。ならクロスファイアか“アレ”を――」
 ――いやダメだ。そんな正攻法では勝てない。だいたい“アレ”はまだ実用段階にある代物じゃないのだから、今はまだ使えない。
 そう考えている間に、アイツはやって来ていた。
「っ!」
 自分の隣の壁が吹き飛ぶ。丸く穿たれた穴の先に見える、青い影。
「このォ!」
 考えている暇すら与えてはもらえない。あたしはクロスミラージュを構えて魔法弾を撃ち出した。



     ・・・



 ――戦え。

(……うるさい)

 ――戦え。

(うるさい)

 ――戦え。

(五月蝿い!)

 自らの内から響く声がうるさい。俺を惑わすこの声が五月蝿い。俺に望まないことをさせる声が本当にうるさい!
 俺は、人を守るためにしか、戦わない!
「……っ!」
 頭が疼く。今何かを思いだそうとしたはず――
「――あ、あれ?」
 目の前の光景に、思考がフリーズした。
「あ、アンタ、なんかに……」
 俺が、正確には装甲に包まれた俺の右腕が、ティアナの首を掴んでいた。その右手が、俺の意思に反して力を込めていく。
「や、やめ……」
止めろぉぉぉぉぉぉぉ!
 そう思った途端、手から彼女が消え失せた。
「き、消えた?」
 まるで陽炎のように橙色の輪郭を一瞬残して消えた彼女。あれは、一体?
 いや、そもそも俺は何をしていた?
「また、またなのか……」
 そう思い立った矢先に、事態は推移していた。
「ぐあっ!」
 背中に衝撃。装甲ごしではあるが、内臓を揺るがすような嫌な感じ。まさか、攻撃された?
 後ろを見れば、消えたはずのティアナがこちらに銃口を向けていた。
「あ、当たった……?」
 彼女も驚いたような顔をしている。
 そして状況を思い出す。今が模擬戦の真っ最中だったということを。
「や、ヤバい!」
 速攻で、全力で逃げることを決めた。
「あ、待ちなさい!」
 そして第2ラウンドが始まった。



     ・・・



「あれは幻影だったのか」
 シグナムさんが驚いたという顔をして、そう呟いた。
「ティアナ、この頃は頑丈なフェイクシルエットも作れるようになったんですよ。しかも喋ることが出来る精巧なものを。……まだ軽く掴めるぐらいですし、維持と精製に相当魔力を持っていかれるんですけどね」
 ティアナ特有と呼べる、彼女の得意魔法、それがフェイクシルエット。幻影を精製する魔法だけど、彼女が使えば色んな応用が効く。今のような精巧な偽者も、最近は作れるようになった。
 今の奇襲も、彼女らしい機転の効いたものだった。
「しかしアイツ、元に戻ったみたいだな」
 アイツとはカズマ君のことだろうけど、確かにさっきとは違う普通のカズマ君に戻っていた。先程の怖いぐらい完璧な戦闘が嘘のように今はティアナから逃げている。
「今のカズマ君じゃ、ティアナには歯が立ちませんよね」
魔法弾がカズマ君に降り注ぐ。橙色の光雨はフェイクを混ぜたものだけれど、相手の戦意を喪失させ、回避を困難にさせる。カズマ君の装甲にいくつかがぶつかり、火花が飛び散っているのが痛々しい。
 そろそろ模擬戦も終了か、と思う。これ以上続けても意味はないと思うし。
「いや待て、なのは。あいつをよく見ろ。無意識か知らないがティアナの射撃を避けてるぞ」
「え?」
 ……確かに、彼は逃げ惑いながらも体を左右にずらして避けていた。ティアナが四方八方から放つ射撃と誘導弾を当初は全弾直撃していたのが、今は八割を避けている。
「なのは、まだ面白くなるかもしれんぞ?」
 シグナムさんの笑顔が、妙に楽しげに映った。



     ・・・



「このっ、落ちなさい!」
「うわぁ!」
 アイツの右に着弾。いや、アイツが左に避けた結果、右に着弾と言うべきか。
 さっきから段々と回避が上手くなってる。無様に逃げているくせに、その背中に魔力弾が当たらない。その上、当たっても致命傷にならないほど頑丈なのだ。
 さっきとは違う意味で、焦りを感じていた。
「おい! もう降参するから撃つのを止めろ!」
「そうやって騙そうとしても無駄よ!」
 多分騙そうと言っているわけじゃないと思うけど。でもコイツをコテンパンに叩きのめさないと気がすまない。
 なんでここまでムキになっているか、自分でもよく分からなくなってるけど。
「このっ……!」
 フェイクシルエットを彼の前に出現させる。同時に誘導弾四発を二手に別れさせて左右同時攻撃。そして回避した所をあたしが――!
「うわっ!」
 彼が目の前に現れた偽のあたしを慌てて避ける。そこに誘導弾を仕向ける。
「いい加減にしろっ!」
 彼が体を捻って右の二発を避ける。流石に体制的に無理があるので左の二発は避けられなかったけど、手で強引に叩き落としている。それもシールドも無しに。
「でも、これで終わりよっ! クロスファイアァァァ、シューーート!」
 彼に向けた二つの銃口から八つの魔弾が炸裂する。魔力弾達は渦を描くような弾道を取りながら一つの砲撃のようにアイツに迫る。
「っ!」
 それに対しアイツは、剣を引き抜いて待ち構えていた。その構えは垂直に支えた剣の峰に左手を添え、腰を落とした独特のもの。
その左手が、ゆっくり剣の峰を撫でる。
「そんなんで……」
「でやぁぁぁ!」
 そんなあたしの疑問も刹那。一瞬の内に彼の元に届いた魔弾の軌道に合わせるように、彼は剣を動かす。その剣の腹を滑るようにして魔弾達はあらぬ方向へ流れていった。
 アイツは、その剣で、あたしの射撃を弾いた。いや、反らしたのだ。
 完璧に、受け流されたんだ。
「そ、んな」
「これで、もう終わりだ」
 疲れたような声で宣言するアイツ――カズマ。
 あたしは……まだ、負けてなんか――
「――二人とも、そこまで!」
 唐突に、なのはさんの声が訓練場を満たした。



     ・・・



「主はやて。これがカズマについての報告書です」
 大きな机と大量の書類。隣には小人用としか思えない小さな机。
 特徴と呼べるものがそんなものしかないこの部屋が部隊長室、そう、八神はやての部屋だ。
 ペンと紙の匂いに混じる仄かな甘い香りだけが、ここが女性の部屋であることを証明していた。
「ありがとな、シグナム。慣れないことやらせてしまって大変やったやろ?」
 いえ、と断りつつ書類を机に置くシグナム。
「しかし何故このようなことを?」
 彼女からしてみれば疑問に違いない。これではまるで彼を監視しているようだからだ。
 少なくとも彼女からすればカズマは本当に記憶喪失に見えるし、性格も悪くはないように見えたので、主の目的が読めなかったのだ。
 だが、それは決して主を勘繰っているわけではない。シグナムははやてを信じているからこそ、事情を説明して欲しかったのだ。
「んー、単に知りたかっただけよ? 今後使えるかどうかを」
 ……シャマルが言っていたのはこれか。
 シグナムは溜め息をつきながらはやての手を握った。
「シグナム……?」
「主、私達は家族であり、家来です。貴女のことを守護騎士全員が大切に思っていますし、我々全員が貴女のためなら命を捨ててでも尽くすつもりです」
「シグナム……」
 彼女は握った手に力を込め、決して離さぬように胸にかき抱く。
「だから主はやてよ、私達にだけは、隠し事をしないで下さい。私達家族を、信じてください」
 シグナムが深々と頭を下げる。その手は僅かだが、震えていた。
 はやては少しだけ驚いた表情を浮かべたものの、すぐにそれを笑顔に変えて彼女の頭に優しく手を置いた。
「私がシグナム達を信じていないなんてことは一度だってあらへんよ?」
 シグナムは頭を上げて、はやてと視線を合わせた。
「では教えてください。何故カズマの監察を、私に命じたのかを」
 そこで少しだけはやては困ったように首を竦めるも、すぐに笑顔に戻す。
「私は、カズマ君を助けるつもりや。けどそのためには彼の事を知っておかないかん。武装局員になれる実力があるなら私が連れていくつもりやし、本人が望むなら進路先を斡旋することもできる。逆に戦闘能力がないようならそれに応じた仕事を探してやらないかん。どちらにしろ、カズマ君のことを知らんと私は何も出来んやろ?」
「そういう、ことだったのですか……」
 流石は我が主だ、とシグナムが頷く。彼女としてもはやてがそこまで考えて動いているとは想像がつかなかったのだろう。
「申し訳ありません。信じ方が足りなかったのは、私の方だったのかもしれません」
「ええよ、気にせんどいて? それよりカズマ君のこと、ちゃんと見といてや?」
「はい、主はやて」
 今度こそ晴れやかな顔で、シグナムは力強く頷いた。



     ・・・



 結局、勝負はティアナの勝利で決まった。当然だ、自分はひたすら逃げていただけなのだから。
「カズマ君はやっぱりセンスはあるんだけど……」
「……すいません」
 不貞腐れたような返答を、なのはに返す。
 やはり最大の問題は"あれ"だろう。制御出来なければ俺は役立たずだ。ふと思ったが、記憶を失う前の自分は、こんなことで苦しんだのだろうか。
「痛っ!」
「こんなになるまで模擬戦続けたの?」
 俺の身体中に出来た打撲の後を見てシャマルさんが顔をしかめる。バリアジャケットとやらで多少はダメージを緩和出来ても、完全には無力化できないらしい。なのはも最初見たときは顔を歪ませていた。
「なんだかカズマ君って早速患者の姿が板に付いてきたわね~」
「勘弁してくれよ……」
 小声で抗議しておく。効果は全くないだろうが。
 二度目の医務室だが、未だに慣れることはできない。いや、こういった場所に医者以外が慣れること自体おかしいか。アルコールの臭いが僅かに鼻をくすぐる空間は、やっぱり居心地悪さしか感じない。
「はい、おしまい」
 包帯をあちこちに巻かれてようやく完了か。何だか治療だけで疲れた。
「さ、二人とも疲れたでしょ? 食堂で皆待ってるから」
 なのはが笑いながら指差す。もう二時だった。一緒に付いてきていたティアナは隣で不満そうにしていたが、諦めたように溜め息をついた。
 シャマルさんに送られて医務室を出た後、食堂に三人で行く間、なのはが何度か話しかけてきたので気まずくはならなかった。ティアナも考え事をしているらしく、俺に絡んではこなかったし目も合わせなかった。
 そうして着いた食堂ではフォワードメンバーの三人、スバル、エリオ、キャロが待っていた。
 皿に盛られた料理を見て、ようやく空腹を意識したのが不思議だ。あんなに運動したというのに。俺は少食だったのだろうか。
「「お帰りなさい、なのはさん、ティアさん!」」
「お帰りなさい、なのはさん! ティアもお疲れ!」
 年少組のエリオとキャロは口を揃えて、スバルは大きく元気な声で、二人を迎えた。
 当然、俺の名前はない。
「……なのは、用事思い出したから今日は――」
「――ダメだよ。皆と仲良くしてくれなきゃ」
 見事に捕まってしまった。
 どうやら自分は器用なことが出来ない質らしい。腕を捕まれていたことにも、今更気付いたほどだ。
 ティアナはまだ考え事をしているのか、挨拶をした三人に軽く答えた後に椅子に座っても腕組みを崩さなかった。
「……ティア?」
「あ、な、なによスバル?」
 彼女も恥ずかしいと頬を赤く染めたりするのか、と思った。当然のことか。
「ティアがボーっとしてるなんて珍しいなーと思って」
「あたしは考え事してたのっ!」
 わいわいと騒ぎ出す二人だが、仲が良いのだろうからか、端からはコントのように見えた。決してティアナには言えないが。
「あ、あの」
「……え?」
 唐突に話し掛けられた。まさか誰かに話しかけてもらえるとは思ってなかったので、咄嗟に反応出来なかった。
 見ればキャロがこちらを向いて必死に何か言おうとしていた。……けれど、俺の関心は別の方にいってしまっていた。
「な、なんだその蜥蜴……」
「と、蜥蜴じゃないです! フリードです!」
「キュクルー!」
 彼女の頭に乗っている小さな羽を生やした白蜥蜴――もといフリードなる生物に、俺は驚いていた。
「そっかぁ、竜なんて知らないよね」
 なのはが合いの手を入れてくれたのは助かった。正直、驚いてる最中の俺に女の子の相手は無理だ。
「竜、だって?」
「そうだよ。わたしもフリードが初めてだったけど、似たようなものなら前に行った戦地で見たかな」
 とても竜には見えなかった。さすがに蜥蜴は違うだろうが。
「あ、りゅ、竜だったのか。その、間違えて、悪かったな」
 歯切れの悪い口振りに自己嫌悪したのは秘密だ。
「もう、せっかくエリオ君と謝ろうと思ってたのに……」
 怒っても可愛らしいのは幼い女の子の特権だろう。俺もキャロを見てるとひたすらに自分が悪いように思えてきた。
「ご、ごめんな」
「キャロもそのくらいで許してあげなよ」
 エリオがぽんぽんとキャロの肩を叩く。何だかお兄さんのようだ。
 ようやく機嫌を戻したキャロとエリオが姿勢を正してこちらを向く。こちらも何だか緊張してきた。
「「か、カズマさんっ」」
 二人が揃って声を上げる。いつの間にか、なのはもティアナとスバルも押し黙っていた。
「「今まで冷たい態度を取って、すみませんでしたっ!」」
食堂中に、二人の声が鳴り響いた。
 取り敢えず、声のでかさには驚かざるを得ない。二人仲良くハモるのはいいが、そのせいで食堂中に響いてしまうのは勘弁して欲しかった。
 しかも二人の声に反応した周りの目線が凄かった。何故だろう、謝られているのに悪者として見られているような気がする。
「べ、別に謝るほどのことじゃ――」
「その、わたしたち勘違いしてたんです」
 俺の言葉を遮るように、キャロは言った。
「わたし、最初は怖い人なんだろうな、って思ってて。あの時近くで見てたエリオ君が怖かったって言ってたし。でも模擬戦見てて、最初はやっぱり怖いと思いましたけど、途中から本当は優しい人なんじゃないかと思い始めて……」
「僕達にはティアさんを傷付けないように戦っているように見えたんです。戦いが終わった後も自分のことなんか全然気にせずティアさんの心配をしてましたし」
 キャロの言葉をエリオが引き継ぎ、俺に訴えかける。
 確かに自分に彼女を傷付ける意志があったかと言えば否だ。でもそれは当然のことだ。人を傷付けるなんて――。
(――待て。何故俺はそこまで人を守るだの傷付けるなどに拘るんだ?)
 一瞬の疑問。だが、それはすぐに氷解する。
(いや、人として当然か)
 それで決着はついた。ついてしまった。
「……聞いてますか?」
「――あ、あぁ、もちろんだって。それで?」
 すぐに誤魔化す。今考えることはそんなことではなかった。
「それで、その、これからは仲良くしてもらえませんか?」
「お願いします!」
 ぺこりと頭を下げるエリオとキャロ。願ってもないことだ。
「こちらこそ、仲良くしてくれると嬉しい」
 初めて心の底から笑えた気がした。
「――うん、無事仲直りできたね」
 にっこり笑顔でなのはが俺達の手を取って握らせる。気恥ずかしいが、なのはの気配りは嬉しかった。おそらくセッティングしてくれたのもなのはだろう。彼女も童子のような満面の笑みを浮かべていた。
 たちまち主導権を握ったなのはが話を進めていく。自分と彼女達が話しやすいようにしてくれながら。

 ――ま、これも悪くないか。

 俺もようやく、そう思えるようになった。



     ・・・



「ようやく打ち解けたか。世話の焼ける」
 くつくつと低くくぐもった笑い声を放つ男が一人、広大な広間でカズマを見つめる。
 巨大なモニターにはカズマが笑う姿が映し出されている。
「これでわしはお前の願いを叶えたぞ。すまんが、今度はわしの研究に付き合ってもらう」
 広間のあちこちに置かれた機械を操作しながら、ポケットから十二枚のカードを取り出す。スペードのマークと、鮮やかな生き物の絵が描かれたカードを。
「わしは研究者だ。悪く思わないでくれ」
 それらのカードを、機械のスリットに差し込む。
「さぁ、見せてくれ。人を超えた、仮面の戦士の力を」
 スリットから、光が溢れ出した。



     ・・・



 ようやく打ち解け始めた居場所、機動六課。安息の地を手にした彼は、日々腕を磨きながら内に潜む闇を押さえ込んでいた。そんな彼を試すかのように、断罪の鉄槌がカズマを襲う。

   次回『鉄槌』

   Revive Brave Heart

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年05月14日 21:16