魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第21話


「・・・・・ん・・・・・ここ・・・は・・・」
小さい唸り声を上げながら、ナイトガンダムはゆっくりと目を開ける。
最初に目に入ったのは真っ白な天井ではなく、天上一面を覆う照明の光り。
それだけで、此処が何処なのか直ぐに理解できた。
「・・・・・アースラの・・・・医務室か?・・・・」
このような体験をするのはこれで二度目、一度目は無人世界でのシグナムとの戦闘の後、そして二度目になる今回は・・・・・
うっすらとあの時の事を思い出す。意識が徐々に無くなっていく感覚、海面目掛けて真っ逆さまに落下する自分、
自分の名を呼ぶ周囲の声、そして落下する自分を抱き止め、必至な表情で自分の名を呼ぶシグナム。
その直後、ヴィータがはやての名前を叫んでいたような気がするが・・・・思い出せない。
「三種の神器の負荷に、耐えられなかったのか」
三種の神器装着による負担は直ぐに、それこそ装備した瞬間から自分の身に起きていた。
以前よりも負担の効果がいち早く現われたのは、間違いなく装着前のダメージと疲労が原因、
あの時シャマルが回復魔法を施してくれなかったら、もっと早く気を失っていただろう。
それでも、苦痛は体から抜けることは無かったが耐える事が出来るレベルだった。
今回の失態は勝利に浮かれ、気を抜いてしまった自分が原因・・・・言い訳の仕様が無い。
「・・・情け無い・・・・これではサタンガンダムの時と同じだ・・・・」
自分自身を反省するかの様に、深々と溜息をつく。
その行為が落ち着きを取り戻させたのか、自然と辺りを見回し現状を確認する。
場所は間違いなくアースラの病室だろう、気を失った自分が運ばれる所としては当然の場所だ。
直ぐ隣には鎧と武器が置かれている、電子スピアが見当たらないが、あの戦いで砕け散ったのを思いだした。
そして嵌め殺しの窓から見える景色は漆黒の景色と、その中で輝く幾つもの光
「宇宙空間・・・そうするとまだ、地球の衛星軌道上にいるのか・・・・・」
場所の把握が終った所で、次に気になったのは、自分が気を失った後の事だが、それ以前に自分はどの位眠っていたのかもわからない。
あいにくこの病室には時計はあるものの、日付を確認できるカレンダーの様なものは無い。
先ほどまで頭を預けていた枕の隣には、連絡用の端末が置かれていたが、特に動けないわけではないので、誰かを呼びつけるという行為はしたくは無かった。
一度体を伸ばした後、後ろ髪惹かれる思いでベッドから抜け出し、ゆっくりと入り口へと向かう。
そして、ドアのセンサーがナイトガンダムを感知し、音を立てて開く。すると其処には
「ナイトガンダム!!よかった!気が付いたのか!!」
正に今から部屋に入ろうとしていたクロノが立っており、普段は見せない歳相応の笑みでナイトガンダムを迎えた。
「クロノ、丁度良かった。今から君達の所に行こうと思って」
「わかってる、君が倒れた後のことだろ?でもいいのかい、もう起きて?」
クロノの表情から、自分がどれほど心配されているのかが痛いほど分かる。
自然と頭を下げ謝ろうとするがその行動をクロノが制した。
「謝る必要は無いよ・・・・でも、その様子だと大丈夫みたいだね。此処じゃなんだから食堂へ行こう」

「そうですか・・・・決着は無事についたのですね」
「ああ・・・・あの後、奴は完全に消滅した。同時に町での異常も収まった・・・・怪我を負った者はいるけど死傷者0、正に一件落着だよ。はい、紅茶でいいかな?」
クロノが差し出した紅茶をお礼を言った後受取り、早速一口飲む。おそらく疲れているであろう自分の為に砂糖を多めに入れてくれたのだろう。
程よい暖かさと甘さが体に染み渡るのを感じる。
その満足気な表情に満足したクロノは、自分が飲むために持って来たコーヒーを一口啜った後、ナイトガンダムと向き合うように、椅子へと座った。
「彼女達・・・アリサ・バニングスと月村すずかは自宅へ帰ったよ。本当は数分前まで君の所にいたんだけどね、彼女たちも疲れているから
家に帰らせた。さすがに釈然とし無い表情だけど、なのは達の説得と後で事情を話すという条件付でね・・・・・・それと」
不意にクロノは席を立ちガンダムを真っ直ぐ見据える、そして、静かに手にしていたコップを置いた後、深々と頭を下げた。
「本当にありがとう。この事件、君のおかげで解決できた・・・・・・本当に感謝しきれないよ・・・・・」
クロノは本心からそう思っていた。
自分達がただ見ているだけでしかなかった闇の書の闇との戦闘、彼は犯されそうになったフェイトを助けてくれた。
そして根源である敵に致命傷を与え、仲間割れ寸前の皆をまとめてくれた。そして諦めかけた自分に戦う力を与えてくれた。
戦力としても、精神的な支えとしても、ナイトガンダムは皆を助けてくれた。
この勝利は間違いなく彼がいてこそ・・・・・・クロノはそう信じて疑わなかったが、当のナイトガンダムはその様な事を全く思ってはいなかった。
「いや、今回の勝利は、皆が力を合わせたから得られたものだよ・・・・・・この事件に関係した人達・・・・・・誰一人が欠けても
解決など出来なかった。だから私だけではない、なのは達やヴォルケンリッターの皆、そしてアースラのクルーやクイント殿達、
そしてクロノ、この勝利は君や皆のおかげだ、それを忘れないで欲しい」
一瞬クロノはポカンとしてしまうが、直ぐに彼の言葉の意味を理解し、はすかじい気持ちになる。
確かに彼の言う通りだ・・・・・・自分は何処かで彼を、ナイトガンダムを完全無欠のヒーローだと思っていた。
自分を含め、彼をヒーローと称えるものは多くいる、決して過小評価ではないと自信を持っていえる。
だが、現実はナイトガンダムの言った通りだ、この事件、関わった皆がいてこそ解決できた。誰が欠けても最悪な結果を招いていたに違いない。
結局自分たちはナイトガンダムをただヒーローとして持ち上げたかっただけだ・・・・・・・皆の健闘を無視して
「(まったく・・・僕もまだまだ子供だな・・・・)その通りだ、まったく君には叶わないな」
自身の恥を誤魔化すかの様にクロノはコーヒーを啜る。
そんな歳相応の少年の態度が微笑ましかったのか、ナイトガンダムも自然と顔を綻ばせ紅茶に再び口をつけようとするが
ふと気になった気とができたため、手をとめ、クロノに尋ねる。
「そういえば、皆は何処へ?はやての病室かい?」
ナイトガンダムにとっては何気ない質問、だが、クロノは答える事無く一瞬で表情を曇らせ自然と俯く。
彼の突然の表情の変化から、直ぐにただ事ではない事は理解できた。先ず脳裏に浮かぶのは知る人物の身の安否、
だがクロノは先ほど『怪我を負った者はいるけど死傷者は0』と確かに言った。彼が嘘を言う筈が無いので、この考えを斬り捨てる。
他に可能性がありそうな事を考えようとするが、それを口に出す前にクロノの口が開いた。
「・・・・・彼女も、君に会いたがっていた・・・君にお礼を言いたいと言っていた・・・・・もしかしたら神様が機会を与えてくれたのかもしれないな」
普段の自分なら決して言わない様なメルヘンチックな言葉。だが、消えゆく彼女の為に
いるかいないかも分からない神がチャンスを与えてくれたと信じたい。
「・・・・・今ならまだ間に合うだろう。来てくれないか・・・・・彼女の別れの儀式に」


八神はやてが自宅で目覚め、周りの迷惑を無視して車椅子を漕ぎ、ようやく目的の場所までたどり着いた時には、すべてが終ろうとしていた。
はやては声を荒げ涙を流し、必至に彼女『リインフォース』を引き止める。
破壊する必要は無い、自分が抑える、こんな事をする必要は無いと
「・・・・・主はやて・・・・・」
はやてのその思いに、リインフォースは必至に固めた決意を砕きそうになる。
今すぐはやてを抱きしめたい、共に生きたいと叫びたい、そんな思いに駆り立てられ、自然と右足が一歩出てしまう。
だが、踏み出したのは一歩だけだった。一歩踏み出した直後、我を取り戻し、自分自身を戒めるかのように拳を握り締め決意を改めて固める。
「私は・・・・貴方に綺麗な名前と心をいただきました・・・それだけで十分です。騎士達も貴方の側にいます。
私の魔力や蒐集行使のスキルも、引き継いでいる筈です。ですから私は・・・・笑って・・・逝くことが出来ます」

「・・・・っ・・・・話聞かん子は・・・嫌いや!!!そもそも何て消える必要があるんや!!もう何も・・・・心配する事なんかないやんか!!!
あの闇は倒した、もう今までの様な悪夢はおこらへん・・・・今までの罪もこれから償えばええ・・・・消える必要なんか・・・何処にもないやんか!!!!」
声を荒げていたため、嗄れた声になりながらも必至に彼女を説得する。だが、リインフォースはその思いを、首を静かに横に振る事で否定した。
「確かに、あの闇は消えました・・・・ですがあれが防衛プログラムだという事には変わりはありません。私が生き続ければ
防衛プログラムは・・・・あの闇は新たに作り出される。元のプログラムが既に無い今、修復は不可能・・・・・もう、この手しかないのです。
私は・・・・主である貴方の危険を払い、貴方の命と幸せを守る、最善の方法を取らせてください」
理屈は嫌でもわかった。同時にリインフォースが取ろうとしている方法が最も最善だという事も理解できた。
もし理解できていなければ駄々をこね、気を紛らわせる事が出来たかもしれない・・・・だが、それが出来ない。
何が夜天の主だ・・・・・大事な家族一人すら・・・幸せに出来ないなんて・・・・・
「泣かないでください・・・・・我が主」
そんなはやての気持ちを察したのだろう、リインフォースは再び歩み始める、ゆっくりとはやての元へ。
そして、彼女の頬にそっと手を載せ、優しく微笑んだ。
「大丈夫です、私は・・・・・もう・・・・世界で一番・・・・幸福な魔導書ですから」
泣きながらも必至に自分の名を呼ぶはやてに、リインフォースは改めて幸せを心から感じる。
名前と温かな心をくれた主、自分の為に泣いてくれる主、自分には大きすぎる幸せ。
「(出来れば、この幸せをずっと、かみ締めたかった)」
ゆっくりとはやての頬から手を離し、立ち上がる。そして背を向け、魔法陣の中心へと戻ろうとした時

                      「待つんだ」

否定を許さない凛とした声が、はやての泣き声しか聞こえない丘に響き渡った。
その声に全員が振り向く、聞こえた方向ははやての後ろから。
ザクッザクッと雪道を踏みしめる音と共に、その声の主はゆっくりと姿を表した。
「・・・騎士ガンダム・・・目覚めたのか」
誰よりも早く、リインフォースは声の主、ナイトガンダムを笑顔で迎えた。
彼には心からお礼を言いたかった、消える前に話をしたかった。
叶わないと思っていた願いが叶った事に、内心でいるかもわからない神に感謝の言葉を述べる。
「・・・・・・・・」
だが、ナイトガンダムはリインフォースを一瞥した後、何も言う事無く、ゆっくりと視線をなのはの方へと移す・・・・・そして
「なのは・・・フェイト・・・・・待ってくれないか」
彼のこの言葉は、なのはを含め、この場にいる全員が予想できた。だからこそ、それ程驚かずにその言葉を受け止める事が出来る。
おそらく此処に来たと言う事はクロノから事情を・・・それこそ今何が行われようとしているのかを聞いてきたのだろう。
彼の性格は付き合いが短いヴォルケンリッターやリインフォースでも理解できる、間違いなくこの儀式を止めようとする筈・・・だが

                     「私が・・・代わりにやろう」

その言葉は誰もが予想する事ができなかった。
「「えっ?」」
「なっ・・・ガンダムさん!!」
なのはとフェイトは声を揃えて驚き、ヴォルケンリッターの皆はただ唖然とする。ただ困惑するだけ、互いに顔を見合わせ、何を言っていいのか口ごもる。
そしてはやては最後の希望が砕かれような表情で固まってしまった。
はやてから見れば、訪れたナイトガンダムは自分と同じく、リインフォースを止めてくれる存在だと信じていた。
だが現実はその逆、自分の様に止めるでもなく、シグナム達の様に見守るわけでもない、彼女に死を与えに此処まで来た。
「・・・・・・わかった、お願いする。二人とも、悪いが下がってくれ」
リインフォースは、その申し出を快く受け入れた。
結果的には自分が消滅するという事は変わらない、それなら自分が最も恩義を感じている相手に葬ってもらいたい。
最初で最後の我侭、これ位は許して欲しいと思う。
彼女の言葉を受取ったなのはとフェイトは、それぞれデバイスを降ろし、足元に展開していた魔法陣を消す。
そして邪魔にならないようにゆっくりと後ろへと下がった。
それに対し、ナイトガンダムはゆっくりと前に進む・・・・・・迷う事無く、一歩一歩ゆっくりと。
「なぁ!ガンダムさん!!やめて!!お願いや!!止めてぇぇぇ!!!」
既に自分の前へと進んでしまったナイトガンダムを止めようと、はやては車椅子を動かし追いつこうとするが、積雪で隠れた石に前輪を取られ転んでしまう。
雪が積もった柔らかい地面とは言え、受身も取ることができなかったため、叩きつけられた衝撃がはやてを容赦なく襲い自由を奪う。
せめてもと精一杯手を伸ばし、『やめて』と何度も懇願するが、ナイトガンダムは聞き入れようとはしなかった。

リインフォースから約二メートルほどの距離を開け、ナイトガンダムは立ち止まる。
そして左脇に抱えるように持っていた石版を掲げた。

             『ONOHO TIMUSAKO TARAKIT!!!』

石版はナイトガンダムの手を離れ、ゆっくりと浮き上がる、そして光と共に融合を開始した。
「あぁあああああああああああ!!!」
三種の神器装着時に起こる激痛、病み上がりの体には十分なほど堪える。
それでも『彼女』をこの世から消すには・・・・・この事件を本当に終らせるには必要な力、今までの装着時と同様、
確固たる目的を持てば、この苦痛も十分耐えられる。
盾が『力の盾』に、剣が『炎の剣』に、そして身に着けている鎧が『霞の鎧』へと変化していく。
そして最後の仕上げと言わんばかりにスパークを立てながら霞の鎧のバイザーが装着され、中央のくぼみに真紅の宝石がはめられた。
闇の書の闇との戦いでその姿を現したフルアーマーナイトガンダムが再び姿を現す。『彼女』をこの世から消すために。

炎の剣を横に振るい炎を纏わせる。そして、肩の高さまで持ち上げた後ゆっくりと引き、リインフォースを突刺す構えを取る。
その光景を最後にリインフォースはゆっくりと瞳を閉じる。
あとはこの切っ先を自分の胸目掛けて突刺せば良い、そうすればその美しい炎が焼いてくれる、もう阻む物は何も無い。
「主・・・・・貴方に幸福があらんことを」
瞳を閉じる瞬間彼女が見たのは、涙で目を晴らした主の姿だった、最後に主を悲しませてしまった事は心残りだが
今更慰めの言葉を投げかける事など出来ない・・・・・・そして
「っ!!」
ナイトガンダムが地面を蹴る、そして飛び上がり、何の躊躇も無く、炎の剣をリインフォースの胸に深々と突刺した。
一切の遠慮も無ければ一言の言葉も投げかける事無く、まるで敵を倒すかのように淡々と行われた作業。
誰もが、あまりにもあっけなく、あまりにも簡単に行われたこの作業にただ呆然とするばかり・・・・だが
「あ・・・・・・あああああああああああああ!!!!!!」
明らかな苦しみの叫びに、全員が現実に引き戻される。
その声の主、リインフォースは先ほどまで炎の剣が刺さっていた胸を掴み、喉が張り裂けんほどの叫びを上げながら蹲る。
その直後、激しい炎が包み込み、彼女を灰にせんとばかりに燃え盛った。
「・・・・これ・・・で・・・・いい・・・・」
おそらくこの炎は、『闇の書の闇』と同じく、自分を完全に燃やしつくすだろう。
これでいいのだ・・・・・この苦しみは自分への戒めと思えば納得が行く。
先ほどまで聞こえていた主の叫びも徐々に聞こえなくなり、それと同時に痛みも引いて来る・・・否、これは感覚がなくなっているだけだ。
まるで自分という存在が焼き尽くされていく様な感覚、それがジワジワと来るのだ・・・・・堪った物ではない。
「ああ・・・・これは・・・・・」
「これは余り経験したくない体験だな」何気なく呟こうとしたが、意識の欠落がそれを許さず、言葉半ばで彼女の意識は完全に途切れた。




                  「・・・・・・ス・・・・-ス」

何かが聞こえる・・・誰かの声が聞こえる

              「・・・・ォース・・・・インフォース・・・・」

聞き覚えがある声だ・・・・・何かを必至に繰り返して・・・叫んでいる・・・・・
何を叫んでいるのだろう・・・・・否、覚えがある・・・・・・徐々にはっきりとしてくる意識と共に、その意味を理解する。そう、それは

                    「リインフォース!!」

                    「私の・・・名前だ」

意識の覚醒と共にゆっくりと瞳を開ける。
まず目にしたのはどんよりとした空、そして休み無く降り続ける雪。
その内の一粒が目に入り、瞳に刺激を与える。だが、その刺激により彼女の意識は一気に引き戻された。
仰向けに寝ていた自身の体を起こし、あたりを見渡す。
最初は此処なのか、『あの世』といわれている場所なのかと思ったが、目に写るのは先ほどまでいた海鳴市の丘の景色そのもの、
そして自分を驚きの表情で見ている幼い魔道師達と守護騎士達、
結論を出すにはそれで十分だった。自分は消えておらず、未だにこの世にいるという事だ。
「騎士ガンダム・・・・・これは一体」
剣が突き刺さった感触、そして体を焼かれる激痛、意識が徐々に消えていく感覚、そのすべてを経験したのに自分はまだ生きながらえてる。
彼が持つ炎の剣の効果は自分も目にしている、だからこそ、自分が生きている事は可笑しい。
考えられる事としては、直前にナイトガンダムが情けをかけたとしか思えない。
「・・・情けを・・かけたのか」
「いや、違う。私は確かに彼女を消滅させた・・・それは間違い・・・な・・・い」
体をふらつかせながらも、どうにかたたらを踏み無理矢理バランスを取る。やはり体が全快していない今では、短時間の装着にも体の負担は大きい。
意識を持っていかれる前に、三種の神器を石版に戻し、元の鎧の姿へと戻った。説明をする前に倒れては元も子もない。
「彼女って・・・まさか!!?」
ナイトガンダム以外の誰もが言葉の意味を理解できない中、八神はやてだけがいち早くその意味を理解した。
彼が言う『彼女』という言葉、そして彼にしては容赦の無い一撃、思い当たる節は一つしかない。
「闇の書の闇・・・・いや、防衛プログラムだけを・・・・・消したんか」
「そんなはずは無い!!」
そのはやての言葉に全員が驚き、一斉にリインフォースへと目線を向けるが、リインフォースだけが、その答えを大声を出し否定した。
確かに炎の剣はあの時、シグナム達のリンカーコアに取り付いた闇の書の闇の一部だけを燃やしつくすという
とんでもない芸当をやり遂げた。だか自分の場合はそれが当てはまらない。
『闇の書の闇』といわれている存在は自分というプログラムの一部、シグナム達の様に後から寄生した異物を排除する事とはわけが違う。
「あれは・・・奴は・・・私の一部だ!!それだけを消すなど・・・・・それに奴はまだ活動すらしていない!!
ありもしないものを消したなど・・・・・バカな冗談は(冗談ではない」
自分でも気が付かないほど取り乱しているリインフォースを、ナイトガンダムは落ち着かせるように優しさを含んだ声で諭す。

その言葉が聞いたのか、未だに納得がいかないと言いたそうな視線を向けるものの、口を噤み、大人しく話を聞こうとする意思を示す。
「確かに、私は消そうとした・・・・・いや、確実に消した、管理者プログラムである君を。リインフォース、あの苦しみから、
君は体が燃える苦痛を経験した筈だ。それが確実な証拠」
「ああ、確かにそうだ。なら、此処にいる私は何だ!?管理者プログラムである私を燃やし尽くしたのなら、此処にいる私は何なんだ!!」
その問いに、ナイトガンダムは沈黙で答える。
決して答えられないわけでもなければ、焦らしているわけでもない。答えは直ぐに口に出来る、だがそれは彼女自身に気付いてほしかったからだ。
だか普段ならまだしも、自分に起こっている出来事に困惑する彼女にはその答えに行き着くには時間が必要だった。
沈黙して一分足らず、ナイトガンダムはゆっくりとその答えを口にする、それはとても簡単な答え
「君が・・・・祝福の風、リインフォースだからさ」
言葉の意味が理解できないのか、ただ呆然とする彼女にナイトガンダムは近づく。
そして彼女の手をとり、落ち着かせるように優しく握り締めた後、ゆっくりと話し出した。
「君は、八神はやてと出会い、彼女の優しさに触れた・・・・そして彼女に深い愛情を抱いた、君だけじゃない、ヴォルケンリッターの皆もだ。
そして君達ははやてからとても大切な物を貰った・・・・・・暖かな心という、とても大切な物を」

ナイトガンダムの言葉の意味をいち早く理解したはシャマルだった。
以前の・・・否、今までの主は自分たちを駒の様に使ってきた。
休む暇も与えずに戦地に送られ、ただの道具として扱われた日々、時には性的奉仕を強要されたこともあった。
いまでは考えただけでも寒気がする出来事。だが、そう感じるこれらの事柄を、当時の自分達は何の文句も無く行ってきた。
理由は簡単、『嫌悪感』や『拒否』などの感情が欠落していたからだ。
おそらく当時から持っていた人間らしい感情といえば他のヴォルケンリッターを想う『仲間意識』だけ・・・否、今にして思えばそれも怪しい。
今までの主が自分達を駒と見るように、自分自身・・・いや、ヴォルケンリッター一人ひとりがそれぞれを『都合の良い戦力』としてしか見ていなかったと思う。
昔の自分も、ヴィータを心配する事はあったが、それは『仲間』として慕う物ではなく、
『駒』として使えなくなるのが・・・主の命に支障をきたすのを恐れての事だったと今では思う。
だが、今の自分はそうではないとはっきり否定できる。
夕食前にアイスを食べようとするヴィータを怒ったり
リインフォースとの別れを悲しんだり
夕食後、バラエティ番組を皆で見て笑ったり
今では当たり前の様に表現しているこれらの感情を持っているのが良い証拠だ。
自分達だけでは到底得られなかった・・・・・・否、必要とすらしていなかっただろう。
だが、笑うこと、悲しむ事、怒る事、それらの大切さを教えてくれ、自分達を『ただの駒』から『人』として変えてくれたのは、
ナイトガンダムの言う『暖かな心』をくれたのは、他の誰でもない今の主、八神はやてだ。

「暖かな・・・心・・・・」
「ああ、君ははやてを愛おしく思っている、そして命に代えても守ろうとした。それは『使命』や『命令』などでは決して無いはずだ。
『リインフォース』という名前と『温かな心』を貰ったその時点で、君はあの闇の書の闇の様に、管理者プログラムという器では無くなった。
私が炎の剣で焼いたのは管理者プログラムとしての部分・・・・彼女が生れ落ちるそのもの。これでもう何も心配する必要は無いよ」
ナイトガンダムの手の暖かさと優しい口調で、どうにか落ち着いて聞くことは出来た。
だが正直な所半信半疑だ・・・・・彼が嘘をつくとは思えないが、本当という確証も無い。
「信じられないのは理解できる・・・なら、ユニゾンしてみるといい・・・・・・はやてと」
ナイトガンダムも、彼女が完全に信用していないのは顔を見て直ぐに理解できた。だからこそ彼女にユニゾンを・・・主である八神はやてとのユニゾンを進める。
管理者プログラムそのものには防衛プログラムの他にも本来の融合型デバイスとしての機能『ユニゾン』も含まれている、
もし彼の話が本当なら、ユニゾン機能は失われている筈。
一度無言で頷いた後、ゆっくりと歩み始める。一歩一歩、はやての元へと。
皆が見守る中、自分を真正面から見つめるはやての元まで近づいたリインフォースは、瞳を閉じ一度深呼吸、そして覚悟を決める。
「主はやて・・・・・お願いします」

目の前で目を瞑り、自分との融合を願うリインフォース。
自分がやる事は簡単、彼女とのユニゾンをおこなえばいいだけ。
もし融合できなければナイトガンダムの言った事が本当になる、だがもし融合できてしまうと・・・・・
「(・・・・何・・・うたがっとるんや・・・・馬鹿・・・・)」
否、何を不安がる必要がある。何故疑う必要がある。
彼は私達に力を貸してくれた、操られたあの子達を解放してくれた・・・・助けられてばかりだ。
それなのに、自分は何も恩返しをしていない所か彼を信用しようともしなかった。
内心で自分自身を罵倒した後、ゆっくりと息を吸う。
「ほな・・・・・・いくで!!」
知識などは既に頭に入っている、融合失敗はありえない、出る結果は融合できているか、何の反応も無いかだ。
心の中で祈る・・・・・いるかもわからない神様という人物に・・・・・・そして

                      『ユニゾン!!イン!!!』


はやての叫び声が響き渡った直後、訪れたのはユニゾン特有の眩い光でもなければ騎士甲冑に身を包んだはやてでもない。
ただ静かに雪がに振り静寂が辺りを支配する。
「・・・・・これで、間違いは無いはずだ」
静寂を破るナイトガンダムのその一言、後に『最後の闇の書事件』と言われるこの事件は、こうして終焉を迎えた。

リインフォースははやてを抱きしめ涙し、そんな彼女を子供をあやすかの様にはやては頭を優しく撫でる。
本当ははやても彼女の様に泣きたいのだろう。だが、幼いながらも八神家の大黒柱、そして『主』としての立場が、それを思いとどまらせる。
それでも、流れる涙を抑える事は出来なかった。閉じた瞳から流れ出る涙を拭わずに、はやてはリインフォースを出し決め、優しく頭を撫で続けた。

「全く・・・まさかこうなるとはな」
シグナム達も、はやてとリインフォースと共に喜びを分かち合いたかったが、今の二人に混ざるのは酷なことだと思い断念。
空気を読まずに近づこうとするヴィータの襟首を掴んだシグナム達は、この奇跡を起こした張本人の元へと向かった。
だが、当のナイトガンダムは、シグナム達と同じく二人の様子を伺ってはいたが、急にふらつき、地面に手をついてしまう。
その突然の自体に全員が不安に掻き立てられ、自然と駆け足となった。

今にも地面に倒れそうになるナイトガンダムを、シグナムが咄嗟に抱きかかえ、即座にシャマルに回復をする様に伝える。
その直後、ナイトガンダムに優しく癒しの風、湖の騎士に恥じないその効果は彼の体から疲労を抜き取ってくれる。
「やはり三種の神器の負担か」
「・・・・・ああ、情け無いことに・・・・・どうやら、まだ使いこなせてはいないようだ・・・・」
起き上がろうとするが、どうにも体が満足に動かない、それ所か急に睡魔が彼を襲う。
多少の眠気ならどうにでもなるが、疲労とシャマルの回復魔法の心地よさには勝てず、徐々に意識を手放してゆく。
「何言ってんだよ!!あんな無茶苦茶な装備品を連続して使ったら、普通は体がもたねぇぞ!使いこなせる云々の問題じゃ・・・って、ナイトガンダム?」
自分の異変にさすがに気付いたのだろう、しきりに何かを話しているが頭が理解しない。
視界もおぼろげになり、リインフォースとはやてがこちらに近づく姿を確認した直後、ナイトガンダムは完全に意識を失った。




「此処は・・・・・何処だ」
ナイトガンダムが意識を取り戻したのは、先ほどまで自分が寝ていたベッドでもなければ、雪が降りしきるあの丘でもない。
ただ真っ白な光に包まれた空間だった。
体は飛行魔法を使っているかのように浮いているが、不思議と独特の浮遊感は感じられない。
咄嗟にこのような状態になる前の出来事を思い出すが、あの後、意識を失った時点で記憶は完全に途切れている。
「一体・・・どうしたら・・・・」
今という現状が理解できないため、どうしたらいいのか途方にくれる。
叫ぼうにも返事をする物は誰もおらず、辺りを見回しても同じ景色が広がっているだけ
考えられる可能性としては二つある。一つはあの後意識を失った事から、此処が夢の中という事、
そして残りの一つが、自分は死んでしまい、此処が『あの世』と呼ばれている場所という事。
後者に関しては、ネガティブな考えは持ちたくは無いが、ありえないことではない。
普段だったら行動を直ぐにでも起こすのだが、このような状態では如何したらいいのかまるで分からない・・・・・そんな時であった
「っ!!!?誰だ!!!」
後ろから感じる気配に気付いたのは・・・・・・・



「騎士ガンダム!!良かった・・・・・気が付いて」

ナイトガンダムが気絶した後、直ぐに彼はアースラへと運ばれた。
その場にいた全員が彼の安否を心配したが、目覚めてからの車椅子での全力失速、そしてリインフォースが助かった事で襲った安心感、
更に闇の書の闇との戦闘での疲れが抜け切っていないはやては、彼の後を追う様に意識を失った。
幸いただの過労というシャマルの診断から、はやては自宅へと帰ることとなり、ヴォルケンリッターも主に同行することとなった。
だが、リインフォースは彼にお礼が言いたいという事もあり、ナイトガンダムと一緒にアースラへと行く事に決め、
なのはとフェイトもまた、彼女に同行することとなった。

もう散々目にした天上を見つめ、直ぐに体を起こす。
まず目にしたのはリインフォースの安心した笑顔、本当なら直ぐにでも『心配ない』『大丈夫』と
自分が大丈夫だという事をアピールするのだが、今はそのような気分ではなかった。
「・・・あれは・・・・・間違いないのか?」
あの時聞いた事、それが真実なら・・・いや真実だろう、もしそうなら、自分は・・・・・・
「どうした?やはり体調が優れないか?」
表情を覗き込むように顔を近づけるリインフォースに、ナイトガンダムは無理矢理現実に引き戻される。
同姓が見ても見惚れるほどの美しさ、そのような印象を持つのはMS族でも変わらない。
「(・・・美しい人だ)あ・・・ああ、大丈夫、少しぼおっとしてしまっただけだよ」
笑顔で自分の健全をアピールするナイトガンダムに、リインフォースは安殿の溜息をつく。
「本当は高町なのはとフェイト・テスタロッサもいたのだが、二人とも明日は『シュウギョウシキ』という物があるらしい 。
クロノ執務官が多少強引にだか帰らせた。二人とも渋ってはいたが、お前が気絶しているだけという事がわかるとしぶしぶ了承していたよ」
「そうか・・・・リインフォース、君はいいのか?はやての所に行かずに」
「主は今はシグナム達がついている。私達の処分も現状では保留の状態、特に行動は制限されていない・・・・・全く人がいいのか、杜撰なのか。
だが、感謝しなければいけないな。騎士ガンダム、こうしてお前と話ができるのだから」

八神はやての元へと転送されてから夢にまで見ていた・・・・否、叶わないと確信していたからこそ、
夢を見ることすら諦めた主や仲間達と共に歩める事が出来る時間。
何者にも変えがたいその贈り物を与えてくれた異世界の騎士に彼女は心からお礼が言いたかった。

「騎士ガンダム・・・・・本当に、なんとお礼を言ったらいいのか・・・・・」
情け無いが、正直何と言っていいのかが分からない。気持ちは十分すぎる程あるのだが、それを口に出して言えるほど彼女は器用ではなかった。
あまりの自分の口下手さに情けない気持ちになる。
「お礼なら必要ない。当然のことをしたまでだから」
一切見返りを求めず、さも当然の様に言い放つナイトガンダムに、彼女は言葉を詰まらせてしまう。
否、何となくではあるが予想はできた。彼は決して見返りは無論、感謝の言葉も必要とはしていないと。
だが、それでは自分の気が収まらない。
「むしろお礼ならクロノに言ってほしい。君の状態や詳しい状況などを教えてくれたのは彼なんだから。
それに、君の束縛を解いたのは三種の神器の力によるもの、私は何もしていないよ」
「馬鹿を言うな!行動し、結果を出してくれたのはお前だ・・・・・そんな態度をとって貰っては・・・・困る」
昔の主達の様に、もっと偉ぶったり、何か見返りを求めてくれたほうが良かった。
だが、主はやてといい騎士ガンダムといい、そのような事は全くしない・・・・・ストレートに言うと物欲が全く無いのだ。
否、おそらく『気にしないで欲しい』というのが彼の願いなのだろう。
相手を助けるのに理由などつけず、自身の命も顧みない、そして対価となるであろう見返りや感謝の言葉すら求めない。
闇の書の闇が言った様に、彼には『闇』の部分が全く無い・・・・・・・聖人君子も真っ青だ。
「私は君を救えたこと・・・・・それで十分だよ、だから気にしないで欲しい」
笑顔でそう言われると、もう諦めるしかない。
それに彼のことだ、こちらから『何かしてほしい事は無いか』などと聞いたら間違いなく困るだろう、感謝している彼を困られるなど本末転倒だ。
「・・・分かった・・・お前がそう言うのなら・・・・・・・騎士ガンダム、やはり具合が悪いのか?」
何故だろう・・・・彼の表情が暗い様に見える、まるで何かを隠しているかの様な
やはり体調が悪いのかと思ったのだが、診断の結果ただの疲れだという事は湖の騎士から聞いている。
笑顔を向けてはいるが、どうにも何かを・・・・・まるで自分の中の動揺を隠しているかの様に感じる。
「?いや、そんな事は・・・・ないよ。どうしたんだい?」
明らかに嘘だ、おそらく嘘をつくのが下手なのだろう、はたから見ても直ぐにわかる、
直ぐに目をそらしたのが良い証拠だ。
多少好奇心というのもあるが、恩人である以上、自分では役不足ではあるが相談にはのってあげたい。
だからこそ再び尋ねようと口を開いた瞬間、
「クロノだ、入るよ」
彼女の行動を阻止するかの様なタイミングで、ノックと共にクロノが入ってきた。

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最終更新:2009年06月05日 00:04