「スカリエッティは何で脱獄出来たんや?」
 機動六課部隊長室にて、一組の男女が向かい合っている。男の方はモニターの向こう側だが。二人の雰囲気は甘いそれではなく、真剣そのものだ。
『ああ、どうやら戦闘機人が幽閉されていた留置所で爆破テロがあったらしい。その隙を突いて彼女らは脱獄し、その足で彼の元に向かったようだ』
 女性の方は六課部隊長、八神はやて。男性の方はフェイトの義兄であり、“時空管理局本局次元航行艦隊所属クラウディアの艦長兼提督”の地位にあるクロノ・ハラオウンである。
 二人が話しているのは先日脱獄に成功した第一級犯罪者、ジェイル・スカリエッティについてだ。
「でも四人ともバラバラやったのに何で示し合わせたかのように行動できたんやろ?」
『簡単な話だ。彼女達は能力を封じる特殊牢に入れていたんだが、テロでシステムが停止してしまった。その際に復旧した能力を使って通信を行ったんだろう』
 戦闘機人はデータリンク機能を持っている。それは詰まる所、戦闘機人同士の通信システムが高度に発達している証拠だ。
『テロについては現在調査中だ。脱獄についても何か分かったらまた連絡する。だから――』
「――分かってる。私らが絶対、スカリエッティは捕まえてみせる」



   リリカル×ライダー

   第八話『追跡』




「くそっ!」
 現在、夜の12時。
 広い森林公園で二匹の獣が争い合う。すでに公園は闇に支配されており、光源が電灯のみであるため薄暗い。
 月も出ていない公園で、ジョーカーことカズマはアンデッドとの戦闘を繰り広げていた。
「あぁぁぁぁあぁ!」
 右腕から生えた鋭利な刃物を思わせる突起物を目の前のアンデッド、リザードアンデッドに振るう。
 だが奴は持っている剣でこちらの攻撃を弾き、巧みに間合いを取っていた。
 アンデッドは解放されるたびに実力が変化する。特に2~10までのアンデッドは時には弱く、時には強くなり、果てはカテゴリーエースやジャック、クイーン、キングのような上級アンデッドにすら対抗しうる実力を持つ場合もある。
 こいつは、前回より強力になったパターンのアンデッドだった。
「がぁぁぁあっ!」
 ジョーカーはアンデッド打倒の証、ラウズカードが手に入るたびに強くなる特殊な個体だ。だが同時にカードが少ないと実力が低下してしまうアンデッドでもある。
 俺は再び原始的な斬撃とも打撃とも言えない攻撃を繰り出す。その破壊力は鉄をもひしゃげさせるものだが、リザードアンデッドは持ち前の剣技で綺麗に受け流してしまう。

――奴には今の攻撃は有効ではない。戦術を変更しろ。

 ジョーカーの本能は時に便利だ。何故なら戦い方を自然と理解させてしまうのだから。
 ただ、それに不思議な懐かしい連帯感を思い出すのは何故だろう。
 俺はジョーカーバックルのサイドに付いたカードケースから一枚のラウズカードを抜く。
 「Spade 5」キックローカスト。
 それをハート型のバックルを二つに割るように入ったスリットに通した。
『――KICK』
 それを通した瞬間、俺の体はジョーカーのそれではなくなった。
 緑色の体、虫のそれである透き通るような羽根、強靭な足。それらの特徴を持つアンデッド、ローカストアンデッドに姿が変貌する。
 唯一の違いは、アンデッドバックルではなくジョーカーバックルを付けていること。
「ぎぃぃあぁぁぁぁ!」
 ジョーカー特有の能力。倒したアンデッドを封印したラウズカードによって、アンデッドの姿を借りる力。
 声すらも影響を受けるとは思わなかったが。
 俺はローカストアンデッドがしたのと同じように飛蝗を大量発生し、奴にぶつけた。
「グァウゥゥ……」
 飛蝗を振り払うように剣を振るうが避けきれずに幾重も切り傷が刻まれていく。低い唸り声がその痛みを訴えている。
「ああああっ!」
 その隙を突き、強靭な脚力を生かして跳躍、奴の胸にキックをぶちこんだ。
「グアァァァアァァ!」
 アンデッドバックルが二つに割れる。俺はカードケースから封印用のカードを引き抜き、奴に投げ付けた。
 緑色の光が吹き出し、アンデッドがカードに吸収されていった。
 封印したカードは『Spade 2』スラッシュリザードだった。
「ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ」
 不快な呼吸音が自らの口から漏れる。すぐに変身を解こうとし――
「きゃあああぁ!」
 ――女性の叫び声が、聞こえた。
 振り向けば、一人の女性が“こちらを見て”悲鳴を上げている。
「……」
 理由は、聞くまでもない。
 だからジョーカーの姿にはなりたくなかったのだが、アンデッドを封印するにはこれしかなかったのだ。
 ボアアンデッドの際、試しにもう一度チェンジデバイスでやってみたのだが、魔法はアンデッドに対し有効ではないらしく、すぐに再生されてしまった。
 それにアンデッドを一時的とはいえチェンジデバイスで倒した際、現れるはずのモノリスは現れなかった。流石に遠い異世界までは飛んでこれなかったのか、はたまたアンデッドが倒さなければ現れないようになっているのか。
 どちらにしろ、アンデッドとの戦いを続けるなら、俺はジョーカーとして戦うしかない。そう、この視線にも耐え続けなければならないんだ。
 何か、解決策はないか悩みながら。



     ・・・



 一方の機動六課では、スカリエッティの捜索が進められていた。
 捜査部隊はスバル、副隊長にヴィータ、分隊長になのはが付くスターズ分隊と、エリオ、キャロ、分隊長代理にシグナムが付くライトニング分隊の二手に分けたものである。
 ちなみに本来ライトニング分隊長を務めるはずのフェイトはティアナと共に最近聞くようになった怪物事件の調査があり、今回は参加していない。
「けどなぁ……」
 はやてがぼやきながら溜め息を付く。今回の捜査指揮を取っているはやては今の状況を快く思ってはいなかった。
 理由は簡単、一週間に渡る捜査が無駄骨に終わったと聞けば誰でも溜め息をつきたくなるだろう。
 全く持って、スカリエッティの足取りは掴めなかった。流石は天才科学者、その頭脳を不当に生かして巧妙に逃げおおせたのだろう。
「はぁ……」
 問題はそれだけではない。巷で噂の怪物事件もはやての頭を悩ませる事例だ。貴重な戦力を引き抜かれ、はやてとしては厄介極まりない事件でもあった。
 その上カズマ君の件もある。今でこそかなり持ち直したが、いつまたああなるか分からないのである。
 今はザフィーラと同じように、特定の役職を与えず、六課の守備として置いている有り様だった。
「はあぁ……」
 19歳にして溜め息が染み着きつつある自分を嘆きたくなるはやてであった。



     ・・・



(うーん、今日もダメだったなぁ)
 もう次の日を迎えつつある時間帯。
 わたしは報告書を纏めるために今日の捜査を思い出していた。
 調べたのはミッドチルダとは別の次元世界。無人世界と言われるそこは、鬱蒼と茂る木々と強い酸性の海が支配する世界だった。調査自体は主に別部隊がやっており、自分達は怪しい、または危険な場所を調査しただけなのだが。
(スバルはやっぱり本調子じゃなかったなぁ)
 いつも一緒にいる相方、ティアナがいないからだろう、凡ミスが少々あったのを覚えている。少しずつそういった状況に慣れればいいと思って叱ったりはしなかった。
 その代わりヴィータちゃんが怒ってたけど。
(ヴィータちゃんも教官が板についてきたね)
 くすり、と笑う。
 あの小学生のような体格とお人形みたいな可愛らしい顔で、鬼みたいに厳しく教鞭を振るう彼女なら、すぐに教導隊でも人気が出るだろう。今度誘ってみよう。
 そうすれば、わたしは辞めても大丈夫かな。
(――って、何考えてるの)
 よし、と気を引き締め直し、わたしは一気に報告書作成を終わらせた。
「これをはやてちゃんに送って……おしまい、と」
 体を一度伸ばし、片付ける。後は、見回りだけ。
 廊下に出ると消灯時間をとっくに過ぎているからか、真っ暗だった。すぐに懐中電灯を点ける。
 そのまま一通り見回りをしていき、カズマ君の部屋を通り過ぎようとして、異変に気付いた。
「あれ? 鍵がされてない」
 うっかり忘れたのか、それとも中にいないのか。
 何故だか、わたしは後者だとすでに思っていた。
「カズマ君、入るよ?」
 ドアを二、三度ノックした後に開ける。予感通り、中に人影はなかった。慌てて出て行ったのだろう、電気は点けっぱなしだ。
「どこ行ったんだろう……」
 カズマ君は念話が使えないからチェンジデバイスに連絡を入れてみるが、繋がらない。
 嫌な予感がして、わたしは隊舎を飛び出した。
「これって、タイヤの跡?」
 外に出て何かないかと探してみると、隊舎の隣にある格納庫から伸びる芝生がえぐれている跡が見つかった。
 それは最初の方は蛇のようにうねりながらも、途中から真っ直ぐに出入り口を目指していた。
 よく見れば後で消したらしい跡が何本か見つかる。もしかして、何度もこうやって深夜に出て行っていたのだろうか。
「カズマ君……」
 フェイトちゃんも心配はしていたが、まさかこんな事態になっているとは予想してなかったと思う。
「レイジングハート!」
『All right. My master.』
 首に下げられた紅玉の形をしたインテリジェントデバイス、レイジングハートを呼び覚ます。
 街中での飛行は禁止されている。わたしは地面すれすれに浮き上がりながら深夜の街を疾駆する。
 そして付近で一番高いビルの屋上に飛び上がり、カズマ君を探す。
『Searching』
 赤い宝石が屋上の虚空に浮かび、周辺をサーチする。
 答えは、程なくして出た。
『There is an energy reaction the southwest from 3km.』
「南西3kmでエネルギー反応!?」
『It is a large-scale calorie. It seems that it is a special life reaction.』
 大型の熱量。推定では特殊な生命反応。レイジングハートの予測だ。たぶん間違ってはいない。
 胸騒ぎがする。
『Master, let’s hurry up.』
「わかってる。行こう!」
 わたしはレイジングハートを掴むと一直線にその場所へ向かった。
 フラッシュムーブによる加速を上乗せして数分かからず着いたそこは、電灯が寂しげに照らし出す公園だった。
(公園……ここに、いったい何が)
 カズマ君はいるのか。
 そうして踏み込んだ公園で、わたしの視界に何かが映った。視線をそちらに向け、わたしは瞳でそれを捉えてしまった
 緑色の、醜悪な化け物の姿を。
(何、あれ……)
 公園の隅にあるトイレの裏側へ身を隠すように入る化け物。
 自分の体がカタカタと震えだすのが分かる。けれど、義務感がわたしの体を突き動かす。
 わたしは、見つからないようにそっと追い掛けた。追い掛けてしまった。
 そして、見てしまったの。
(――――!?)
 あの化け物が、カズマ君の姿に変わる所を。



     ・・・



「くくくっ……」
 なのはが街をサーチした時にいた高層ビルの屋上。
 そこに独りの男が佇んでいた。
 褐色のライディングジャケット、暗褐色のカーゴパンツ。とことん地味な色合いの格好で男は下界を見下ろしていた。
「探したぞ……」
 その男が左手で何かを握りしめている。それは鋼色のボディに赤のアクセントが入った、黄金の三角形が埋まったクリスタルが填められている機器。
 その側面には小さく『The second Change Device "Garren"』と刻まれている。
 男が注視するのはあの公園。正確にはそこから出てきた男。そいつはヘルメットとゴーグルを付けながら赤いバイクに跨っていた。
「剣崎ぃ――――!」
 男が理知的な顔に獰猛な笑みを浮かべる。
 確実に、彼を復活させる駒が揃いつつあった。



     ・・・



 真実を知ってしまったなのは。彼女は恐怖に駆られた自分を追い込んでいく。
 一方のカズマは、ついに自らの記憶を蘇らせるきっかけと出会う。それは、この世界で初の、人間ではないが“知り合い”だった。

   次回『仮面』

   Revive Brave Heart

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年06月27日 11:14