太陽が沈み切った空を照らす明かりは、遥か上空に輝く月。
空から降り注ぐ月光と、地上で仄かな光を放つ人工の光が、その姿を照らし出していた。
全身の筋肉を覆う漆黒のボディ。それを覆うのは、古代文字が刻まれた赤き鎧。
燃えるような二つの大きな複眼は、周囲の人工的な光よりも遥かに美しく煌めいていた。
戦士の名はクウガ。人々の笑顔を奪う奴らと戦う為現れた、伝説の戦士。
相対するのは、己の為に他者の命と、笑顔を奪う悪魔――グロンギ。

「また会ったな、クウガ」

静寂を切り裂いて、異形が口を開いた。
茶色の筋肉を覆う緑の外骨格。二本の角と、顎に蓄えた髭。名前は未確認生命体45号、ゴ・バベル・ダ。
かつて、元居た世界で、地下街の入口を塞ぎ逃げ場を失った大勢の人間を殺した悪魔。
――否、それは過去の話では無い。今またこいつはこうして、大勢の人間をその手に掛けようとしている。
一度倒した筈の相手が、再びこの世界で殺戮を繰り返しているのだ。
自然と、クウガの拳に力が込められる。怒りに震える腕を振り上げ、構える。
だが、それはすぐに振りほどかれた。何とか自分を落ち着かせ、冷静に相手を見据える。
怒りに任せた戦いは、クウガにとって最も取ってはいけない戦法。
それを一番理解している雄介だからこその判断だ。
クウガは後方に停められたビートチェイサーに跨った。
アクセルを握りしめ、ビートチェイサーに搭載された無線機に通信を入れる。

「エイミィさん、ゴウラムをこっちに送って貰えますか!」
『了解、ちょっと時間かかるけど、そっちに転送するよ』
「お願いします!」

“金のゴウラム合体ビートチェイサーボディアタック”――
それがあらゆる戦法が通用しなかった45号を倒した、ゴウラムとの合体攻撃の名前。
この技名を聞いた、雄介にとって一番の理解者は「少し長すぎる」とコメントしたが。
その為に必要なのが、ビートチェイサーとゴウラムとの合体。その上でのライジングパワーの発揮。
一度倒した相手ならば、倒し方も解っている。それがクウガの判断だった。
バベルを視界に捉え、アクセルを力一杯握りしめる。
疾走を開始したビートチェイサーは風を切り、バベルへと突撃した。


EPISODE.11 再戦


戦場と化したオフィス街。ビルの一角で、クウガの戦いを見詰めていたのは、二人の少女だ。
なのはがフェイトの傍へと着地し、「大丈夫?」と一言声を掛ける。
問いに肯定で返し、フェイトの視線は再びクウガへと向けられる。

「あれ、五代さん……だよね?」
「うん、間違いないよ。あれが五代さんが言ってた“クウガ”、なんだね」

初めて出会った時に聞いた、未確認生命体とクウガの話。
それを思い起こし、話に出てきた“戦士クウガ”の姿を、目の前の“クウガ”に重ねる。
未確認生命体第4号にして、古代リントの民が生み出した伝説の戦士。
それが先刻二人の眼前で変身を遂げた五代雄介の、もう一つの姿。

「でも、あの未確認は凄く強い。五代さん、本当に大丈夫なのかな……?」

フェイトが表情を曇らせる。
深緑色をした異形、ゴ・バベル・ダの規格外の強さは先程自分が体感した。
それに敵うだけの力を、あの五代雄介が本当に持っているのだろうか。そんな不安が僅かに過る。
何せ、二人の知っている五代雄介は戦いや暴力とはまるで無縁な青年だったのだから、そう思うのも無理はない。
優しさの権化と言っても過言では無いあの五代さんが、本当に敵を倒す事が出来るのか。
確かに、話には聞いていた。かつて一度、クウガが未確認の全てを倒した事で未確認事件は終結したと。
されど、それでも戦いと雄介のイメージはまるで結びつかないのだ。

『大丈夫、雄介君は絶対に負けへん』
「はやて……?」

不意に、二人の眼前に浮かんだモニターに写し出されたのは、二人の親友。
五代雄介という人間を誰よりも理解しているであろう、雄介の家族の一人。
その身に纏うは騎士甲冑。茶髪にベレー帽にも似た帽子を被った少女、八神はやてだ。

『私も今急いでそっちに向かってる。二人には雄介君のサポートをお願いしたいねんけど』
「私達がサポートを?」
『そや。未確認が未だよう解らん相手なんはフェイトちゃんも解ってくれたと思う。
 だから、今は未確認との戦いを良く知ってる雄介君に任せて、二人には援護に回って欲しいんよ』
「そっか……五代さんの方が未確認退治に関しては専門家だもんね」

なのはがはやての指示に従う。
専門家、という言葉には少し語弊が伴うが、あながち間違いでは無い。
事実として、クウガはかつて未確認生命体との死闘を、最後まで戦い抜いたのだ。
ならば自分達は下手に手を出すよりも、サポートに回ってクウガを援護した方が合理的だと判断した。
三人の中で最も指揮能力が高いとされるはやての指示だからこそ、二人もすぐに納得したのだろう。




「うぉぉりゃぁぁッ!」

科警研の技術の粋を凝らして開発されたスーパーマシンの速度は、並大抵のバイクの比では無い。
凄まじい速度で加速したビートチェイサーは、バベルの目前でその前輪を持ち上げた。
一拍遅れて、バベルの両の目が眼前の車輪を捉えるが、その時には既に手遅れ。

「……ッ!!」

前輪が重力に引かれて地面に落下する頃には、バベルも同じように地に身体を伏せていた。
前輪を持ち上げての、ビートチェイサーの突進。クウガの得意とするバイクスタントの一つだ。
起き上がったバベルは、両手を掲げてビートチェイサーの接近に備える。
だが、クウガはそれをまるで意に介さない。続けて突進し、同じように前輪を持ち上げる。
ビートチェイサーの加速に対応し切る前に、バベルはその顔面を殴られ地面を一回転。
態勢を立て直す前に、クウガは再びビートチェイサーのアクセルを握り締める。
だが、同じ攻撃を三度も食らうバベルでは無い。

「……フンッ!」

今度は前輪をその手で受け止め、加速に耐えた。
力一杯アクセルに力を込める。バイクの後輪はさらに勢いを増して回転。
車輪がアスファルトを蹴って、バベルを押し倒そうとする。
刹那、クウガの視界が捉えたのは、バベルの両腕が僅かに発行した瞬間。
ばちり、ばちりと。その音をクウガは確かに聞いた。

「これは……ビリビリ!?」
「ハァッ!」
「うぉ……ッ!」

仮面の下で浮かべた表情は、驚愕。
狙われたのは、一瞬の隙を見せた、その隙だ。ビートチェイサーの前輪を力任せに投げ飛ばされた。
数メートル後方でバイク毎地面に投げ飛ばされたクウガは、すぐに立ち上がり両手を構えた。

(今のは確かにビリビリ……だけど、なんであいつが!?)

構えるクウガの肩が、上下に揺れていた。僅かな焦りと疲労が、クウガにストレスを与える。
クウガ自身も電気の力でライジングへとパワーアップする事が可能なのは、雄介も知っての通りだ。
だが、問題なのはクウガのみならず、かつて倒した未確認までもがその力の恩恵を受けている事だ。
未確認生命体第46号がその力を使い、クウガを苦しめた事はまだ記憶に新しいが、だとすれば相当に厄介なことになる。
視界の先のバベルもまた、自分の両手を見比べていた。どうやら、バベル自身も自分の身体に何が起こったのか把握し切れていない様子だった。
ならば、チャンスは今しかない。これ以上力を付けられる前に、ここで確実に倒さなければならない。
両腕を広げ、その腰を低く落とす。クウガの全身を電撃が走り、その右足に黄金の足甲が装着される。
それに続くように、左足にも電撃が迸り、金の足甲を形成。

「――なれない!?」

否。左足の足甲は、クウガが想像した通りの形には変化しなかった。
クウガが狙ったのは、46号をも凌駕した黒の金の力だ。この力ならば、確実に45号を倒す事が出来る。
そう判断しての行動だったのだが――それは、思い通りにはならなかった。
されど、何も出来なかった訳では無い。変化したのは、クウガの赤き鎧の縁。
先程までとの確かな違いとして、鎧の縁が黄金に煌めいているのが見て取れた。
その姿は、赤の金のクウガ。その名は、ライジングマイティフォーム。

(もしかして、まだアマダムが治ったばかりだから……?)

一つの仮説をその心中で挙げる。
というよりも、少し前まで可能だった物が現在不可能になっているのだとすれば、原因はそれくらいしか思い浮かばなかった。
だとすれば、考えられる理由としては、再生したばかりでそこまでの変身機能が回復していない。そんな所だろう。
それならば金の力の維持も何秒間保っていられるか怪しいものだ。
尚更この勝負を長引かせる訳にはいかない。
再び両の手を広げ、腰を深く落とす。右足にクウガとしての力の全てを収束。
ばちばちと、電撃が走る高音を立てながら、クウガの右足が輝く。
その足が纏った光は、まさしく黄金。されど、足の裏から漏れる光は真紅。
電撃の金と、烈火の赤。爆発せんばかりのエネルギーをその足で抱え込む。

「はぁぁぁぁぁぁぁ……!」
「……来い、クウガ!」

前方で、バベルが胸を張って声を張り上げる。
その全身がどす黒く変色し、両肩から一対の角がせり出す。
この姿もかつて見たことがある。格闘体から、剛力体へと、クウガで言う「超変身」を遂げたのだ。
その後の動作も、クウガの記憶にある物と等しかった。胸元の装飾品を一つ、外す。
刹那、それはバベルの手の中で何倍にも大きく巨大化し、ハンマーの姿を形成した。
バベルの声からは、クウガの蹴りを耐えきってみせると言わんばかりの余裕が感じ取れた。
その余裕は、その自信は、一度クウガのマイティキックを耐えきった事から来るもの。
ならば迷う事はない。その余裕ごと、この一撃で粉砕して、終わらせる。
マイティキックで不可能なら、その上を行くライジングマイティキックで、だ。

走り出したクウガの足跡、その軌跡が赤く燃え上がる。
一歩、また一歩と踏み出す、その度アスファルトはクウガの足の形に焼かれる。
全速力で駆けだしたクウガが、バベルの前方で飛び上がった。空中で一回転、その右足を下方へと突き出す。
炎の力と稲妻の力。それらが合わさった右脚は、重力により加速。

「おぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁッ!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

同時、バベルが携えたハンマーが振り上げられた。
かつて紫のクウガの鎧をいとも容易く打ち抜いたハンマーの一撃が、バベルの全力を以てクウガの右足へと舞い上がる。
衝突するハンマーと必殺の蹴り。力と力の激突。両者の激突が起こした結果は、炸裂。
ライジングの有り余る力を直接注ぎ込まれたハンマーは、耳を劈く轟音を響かせて爆炎を撒き散らした。
両者の身体は遥か後方へと吹き飛ばされ、その視界は爆煙により阻まれる。
相手の姿が見えない戦場。周囲を支配するのは何者の姿も晦ます爆煙のみだ。
そして、雄たけびと共にそれを破るのは。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「クウガ……ッ!?」

真紅の鎧骨格が爆煙を引き裂き、未だ視界の覚束無い夜空へと舞い上がる。
クウガの眼下、体勢を完全には立て直していないバベルの姿が確かに見えた。
先程と同じだ。夜闇に舞い上がるクウガの脚は、まるで闇を打ち消すように熱く燃え上がっていた。
自身の加速に、重力による加速を重ね――打ち出されるは、二度目のライジングマイティキック。
一瞬の後、バベルの身体にクウガのキックが炸裂。その胸に浮かぶは「鎮」の紋章。

「う……おぉぉぉぉぉ……ッ」
「やったか……!?」

着地するクウガの視線の先で、悶えるのはバベル。
打ち込まれた「鎮」の紋章が、邪悪なる身体を焼き尽くさんと光を放つ。
クウガが送り込んだ封印エネルギーは、バベルの全身の神経を伝わって行くが。

「おぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁああああああああああああッ!!」

ばちり、ばちりと。バベルの身体を封印エネルギーよりも早く駆け抜けたのは、金の稲妻。
雄たけびと共に、封印エネルギーを打ち消す。今までに無い覇気が、クウガの感覚を戦慄させていた。
最早間違いない。このバベルという相手もまた、クウガと同じく金の力に目覚めつつあるのだ。
一体何故、45号が金の力の恩恵を受けているのか。そんな疑問がクウガの脳裏を過る。
だが、そんな疑問はやはり後回しだ。奴もまだ、金の力を使いこなせている訳では無い。
ならば、このチャンスを絶対に逃しはしない。
クウガが意思を固める。同時に、クウガの上空へと飛来したのは、共に戦い続けてきた相棒。
巨大な二本の大顎。漆黒に煌めく巨大なボディ。背部に輝くは、奇跡の霊石。
古代リントの民が生み出した鎧にして、アマダムの力を受け継ぎし、戦士クウガの心強いパートナー。

「ゴウラム……!」

嬉々としたクウガの呼びかけに、ゴウラムと呼ばれたクワガタは古代リントの言葉で答える。
『お待たせしました』と。クウガにしか伝わらない意思で。
駆け出したクウガより先に、その意思を感じ取ったゴウラムは、ビートチェイサーの上空へと移動。
その体を二分割し、ビートチェイサーと重なる時には、クウガの愛車はその姿を変えていた。
超古代の力・ゴウラムが融合を果たしたのは、科警研の超技術を以て生み出されたスーパーマシン。
時代を超えて重なった二つの力。クウガがそれに跨れば、車体全体に駆け抜けるは金の稲妻。
車体を包む漆黒の鎧に、更に金の鎧が形成されると同時、爆発的なエネルギーが車体を駆け巡る。
名はライジングビートゴウラム。最強のスーパーマシンにして、戦士クウガに力を貸す全ての思いの終着点。
アクセルを握り締めれば、その車体を包むのは、黄金に輝く稲妻の力。
夜闇を切り裂く眩い閃光は、留まる事を知らない。どこまでも、どこまでも、強く輝きを放ちながら。
ライジングビートゴウラムは雷の爆弾と化し、バベルへと突っ込む。その加速は、どんな距離でも一瞬で縮めると言っても過言では無い。
バベルが行動を起こすよりも先、ゴウラムの巨大な二本の大顎が、その輝きをバベルの身体に打ち込んだ。

「ウッ……ォォォォォォォオオオオオオオッ!?」

刹那、金の輝きの全ては、漏らす事無くバベルの身体へと叩きこまれた。
クウガが愛車のブレーキを握り締める頃には、その輝きは全てバベルへと流しこまれた後。
屈強なボディ全体に巨大な「鎮」の紋章を描き、バベルの身体は遥か後方へと吹っ飛ぶ。
同時にゴウラムがビートチェイサーから分離。雷の力と封印エネルギーの力の狭間で苦しむバベルへと突っ込んだ。

(持ってくれよ、ゴウラム……)

クウガが念じると同時、ゴウラムの霊石が強い輝きを放った。
アマダムとは、思いの力。クウガの思いを受け取ったゴウラムは、残った力を振り絞って、その巨大な大顎でバベルを挟み込んだ。
己が身体が砕け散る前に、最後の一撃を与える力を。その為に、ゴウラムは挟み千切らん程の怪力でバベルの身体を持ち上げる。
そのままの勢いで、一気に加速。上空へと舞い上がったゴウラムを見るや、クウガの霊石が輝いた。

「超変身ッ!!」

そして、高らかに叫び――遥か上空へと飛び上がる。
空に舞い上がれば、冷たい夜風がクウガの身体をくすぐった。
それを感じると同時、熱く燃え上がるような霊石は、輝きながら変色した。
せせらぐ流水の如き、美しい青色。疾風とはまた違った、この優しい夜風の如き静かな感覚。
それに呼応するように、クウガの赤き鎧は姿を変え、その性質をも変えていく。

――邪悪なるものあればその技を無に帰し、流水のごとく邪悪をなぎ払う戦士あり――

大きな青の複眼が二つ。身体を覆う青き装甲。身体に纏った青の縁が、金に彩られていく。
つい先刻まで赤かった全身の装甲は軽量化され、クウガの動きをより俊敏な物へと変える。
戦士クウガの二つ目の姿。青龍の力を宿せし青の姿。そこに加わった金の力が、青の姿に更なる力を与える。
名はライジングドラゴンフォーム。攻撃力や防御力を引き換えに、機動力を極限まで高めた姿だ。
青の金のクウガは瞬く間にビルの屋上へと跳ね上がり、眼下を飛翔するゴウラムへと視線を向ける。

そして二度アマダムが輝く事で、その姿はすぐに先程の姿――赤の金へと変化を遂げる。
青への変身は、このビルへと上る為だ。
両腕を拡げ、腰を深く落とす。右足に宿る力は、三度目のライジングマイティキック。

「……あれは?」

ふと、眼前のビルに見える人影に気付いた。
クウガから数十メートルかけ離れたビルの屋上。黒い“何か”を抱えた女性。
その服装は、この世界の物とは明らかに違っていた。どちらかと言うと、なのは達のバリアジャケットと似ている。
あの女の人は誰だろう。どうしてあんな所にいるのだろう。
そんな疑問を浮かべるが、しかしクウガの思考は下方から響いた轟音により中断せざるを得なくなった。
ビルから下方へと視線を向ければ、そこに顕在していたのはビルに出来たクレーター。
未だ巨大な「鎮」の紋章を浮かべたままで、悶え苦しむ45号が、ビルに叩きつけられていた。
すぐに離脱したゴウラムを確認したクウガは、再びその腰を深く落とした。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……――」

右脚の赤き宝玉から迸るエネルギー。稲妻と炎が、クウガの闘志を激しく燃やす。
駆け出す先には、ビルのフェンス。その向こう側に待つバベルへと、クウガは一直線に走りだした。
助走を付け、フェンスを飛び越える。月夜に舞い上がれば、その体を宙で一回転させる。
突き出した右足が狙うは、未確認生命体第45号。ビルから飛び出した加速と、この星の重力がクウガのキックに力を加える。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!!」

絞り出された雄たけびが、空気を震わせる。
燃え盛る炎と、弾ける稲妻を内包したクウガ必殺のキックは、弾丸の如きスピードで目標へと落下。
ビルに食い込んだ異形のボディに、規格外の一撃は叩きこまれた。

「ウ……ォォォ―――ッ」

迸る稲妻は、クウガかバベル、どちらの物なのか。
それを知る事は無いまま、弾丸と化したクウガはバベルを突き破り、ビルの壁を粉砕。
コンクリートで造られた壁を突き破り、燃える右足はビルのフロアを遮る床すらも粉々に砕いた。
一つのフロアを突き破り、ようやく立ち止まったクウガが、己がキックの軌跡へと目を遣る。
そこに存在していたのは、崩れ去った壁と――粉々に砕け散った“バベルだったもの”。
断末魔の叫びがクウガの耳朶を叩くと同時――

――クウガが立つビルを中心に、全てを巻き込み破壊する大爆発が巻き起こった。




市街地で巻き起こった爆風は、周囲の全てを破壊せん勢いで燃え上がっていた。
規格外の大爆発。そして、それを見下ろす少女が一人。三対の漆黒の羽を羽ばたかせ、空を舞う少女だ。

「何や……コレ!?」

驚愕に表情を歪ませ、叫ぶはやて。
戦いの前に結界を展開していた事から、結界の外にまで爆発が及ぶ事。また、その周囲への人間への被害は防げたが、
それでも被害の規模はとんでもない大威力の物となっていた。
結界の中にいるのは、家族が一人と、親友が一人。
戦いに行くと言って家を飛び出した大切な家族と、戦い慣れした心強い仲間達。
魔導師であるなのはとフェイトはバリアでも張れば無事だろうが、雄介は――。
はやてはまだ、クウガの事を何も知らない。
それ故にはやての思考を支配していたのは、不安と心配だけだった。


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最終更新:2009年12月27日 16:59