闇の書の守護騎士・ヴォルケンリッターが一人、鉄槌の騎士・ヴィータ。
彼女は時間が出来ると近所の公園に行き、老人会の老人達と
ゲートボールの練習をするのが習慣となっていた。
そんな老人達の中に一風変わった一団がいた。

燃えるような真っ赤な髪に、子供のように輝く瞳をした老人。
ニヒルな態度と、物事を冷静に見通す目を持った老人。
メンバー1の大柄な体に、読書を嗜む知性を合わせ持つ老人。
一番小柄なやせ形で、いつも優しい寝顔で眠っている老人。

4人の老人達の出身や来歴は誰も知らなかった。
時々、『アディオス!』と言ったり、やたらにタコスを勧めて来たりすることから
おそらくメキシコ辺りからやってきた人間だろうと推測はされていたが真実は不明だった。
もっとも、ここ海鳴町ではそんなワケアリの人間は珍しくなかったが。

彼らは最初、ヴィータに対して無関心だったが、彼女のスティックさばきを見ると
態度を一変させて彼女と親しくするようになった。
彼ら曰く『勇者のスイング』だったそうだが、ヴィータにはよく分からなかった。

老人達は、興が乗ると自分たちの武勇伝を話してくれた。
曰く。自分たちはかつて世界を救う為に戦った。
曰く。今は4人だがかつては5人で戦っていた。
曰く。5人目は自分たちの中で一番酒も喧嘩も強かった。
曰く。自分たちには世界を救った弟子がいる。       Etc…
彼らの武勇伝を老人会の仲間の多くは話半分にしか信じていなかったが、
ヴィータは彼らの話を嗤うこと無く聞いた。
闇の書の守護騎士としていろんな世界で戦っていたからというのもあったが、
彼らが武勇伝を語る時の顔がそれが決して嘘なんかじゃないと確信させる程に
キラキラと輝いて見えたからだ。

ある日、彼らはヴィータに訪ねた。
「何か悩んでいることがあるんじゃないか?」と。
ヴィータは思わず息を飲んだ。それは真実だったからだ。
彼女の主である、八神はやて。
彼女は今、闇の書が不完全に覚醒している影響から、その肉体を病に蝕まれている。
救う方法は只一つ。リンカーコアを蒐集し、闇の書を完成させること。
そして現在、ヴィータは夜毎仲間と共に出かけ、リンカーコアの蒐集をしていた。
だが、主であるはやてはそれを望んではいない。蒐集も主に黙ってしていることだ。
そのことが、ヴィータの心を苛んでいた。
自分たちのしていることは、主の為と言ってはいるが、
本当は、主を失いたくないという自分たちのエゴではないのか、と。
……もちろん、そんなことを老人達に話す訳にはいかなかった。
ヴィータはその場は『気のせいだ』とごまかして帰っていった。

それからまたある日。
その日の夜も、ヴィータ達ヴォルケンリッターは蒐集を行っていた。
だが、ヴィータが高魔力保持者を見つけ、封鎖結界を展開して襲い、
後一歩で蒐集できるという所で事態は一変する。
彼女の前に、管理局の嘱託魔導師が姿を現したのだ。

フェイトと名乗った嘱託魔導師の攻撃をかわしながら、ヴィータは後悔していた。
そもそも、管理外世界であるこの地球にあのような高魔力の魔導師がいることからして
おかしかったのだ。それを深く考えず、一気に闇の書のページを埋めようと手を出した結果がこれだ。
あの魔導師に倒されることそのものは怖くはない。
だが、自分の不注意が原因で主であるはやてを心配させるのは何よりも恐ろしい。
だから彼女は祈った。
誰か助けてくれ、と。
そして、その祈りが届いたかのように、封鎖結界内に轟音が響いた。
その衝撃に思わず閉じた目を開けたヴィータの目の前に立っていたのは。

金色の装甲に身を包んだ、一体の勇ましき巨人だった。

あまりの急展開に呆然とするヴィータに向かって、巨人から声が響いた。
『おい、ヴィータ!大丈夫か?』
その声にヴィータはハッとした。なぜなら、その声は。
「ネ……ネロのじっちゃん!?ネロのじっちゃんなのか!?」
そう、あのファンキーな老人達の声だったのだ。
『ネロだけじゃないぞ、ヴィータ』
『おれ達のことを忘れては困るな、若いの』
『ボクもいるよ……ZZZ』
「ホセ!バリヨ!カルロスのじっちゃんまで!何で来ちまったんだよ!?」
巨人から響く声に、ヴィータは問いを投げかける。
彼らは自分たちの事情なんて知らない筈だ。それなのに、なぜ来たのかと。
『なんで来たかだって?そんなもん……』
「巨人さん、そこをどいてくれませんか?」
ヴィータと巨人の会話を遮り、フェイトが巨人に勧告した。

フェイトの脳裏に念話が響く。己の使い魔の物だ。
『フェイト!あの巨人って……』
『少なくとも傀儡兵じゃないよ、アルフ。内部に生命反応を4つ確認してる。魔力反応もね』
『中で魔導師が操ってるのかい?デバイスって訳じゃなさそうだけど』
そう。フェイト達にとって問題はそれなのだ。
目の前に立つ巨人は、明らかに無人兵器じゃない。
破壊すれば中に乗っている人間も、爆発でタダではすまないだろう。
だからフェイトは呼びかける。
「貴方達は、この子には無関係な筈です。私としては出来れば戦いたくありません。
この子の安全は保証します。ですから、速やかに撤退して下さい!」

だが巨人は。いや、老人達はその呼びかけを拒否した。
『そいつは出来ねえな、嬢ちゃん。ここで退いたら、勇者じゃねえ!』
「でも……!」
『それに……さっき、無関係だって言ったな?』
老人達は言った。

『俺たちは、無関係なんかじゃない!何故ならば!』

老人達は叫んだ。

『俺たちは、ヴィータの友達!そして!』

老人達は吼えた。

『最強にして不滅の勇者!』

勇者は雄々しくその名を轟かせた。

『鉄拳・制裁!エルドラソウルだからだ!』

フェイトは圧倒されていた。
金色の勇者、エルドラソウルの巨体に……いや、そうではない。
フェイトは感じ取っていたのだ。彼らが本当に、背後の少女を、ヴィータを思っていることを。
その、背負った者への思いが彼らを、エルドラソウルの巨体を、更に大きく見せているということを。

だが。
守りたい者への思いならば、フェイトとて負けるつもりは無い。
今、彼女の眼下にはヴィータに倒され、仲間の少年に介抱される友の姿がある。
友を守りたい、その思いがフェイトを再び奮い立たせる。
そして彼女も名乗りを上げる。

「私は、時空管理局所属嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ!」

少女の思いは空を裂き。

「今そこで倒れている、なのはの……友達です!」

歴戦の勇者の心に、魂に届く。

『……なるほどな。状況はよく分からんが、お互いに守りたい物があるってことか』
「それじゃあ……!」
『だがな嬢ちゃん、いや、フェイト。それでも俺たちは退かねえ。
いや、その思いを聞いちまったらなおさら……退けやしねえ!』
勇者は拳に力を込め、その拳をフェイトに向ける。
『どっちにも、譲れねえものがある。思いがある!』
『その優劣を決める方法は、只一つしかない』
『拳と拳のぶつかり合い、それだけだ』
「……」
勇者の言葉を聞きながら、フェイトは再び友に視線を向ける。
そして、彼女と出会った頃を思い返した。
そうだった。自分も最初は彼女の思いを侮っていたのではなかったか。
それが二度、三度と戦いを繰り返す度に、デバイスを、魔法を通して伝わる気持ちが
鍛えられ、練り上げられ、やがては自分の心の壁を貫いていったのではなかったか。
だから、彼らの言葉に説得力のような何かを感じるのだ。
自分も、そうだったから。
彼女は視線を上げ、勇者に杖を突きつけ、
「……わかりました。戦いましょう、全力全開で!」
戦いのゴングに手をかけた。
「何を言っているんだい、フェイト!?そんなことしたら中の人が!」
「大丈夫、コックピットは外すから。それに……」
己の使い魔の言葉に答えながら、少女は視線を外さず言葉を紡ぐ。
「ここで退いたら……あの人達の思いに応えなかったら、きっと後悔する!」
『 Scythe Form! 』
己が魔斧を魔鎌に変え、戦闘態勢を整え、勇者に戦意を見せつける。
『そうこなくっちゃなぁ!』
勇者もまた、背中の翼を雄々しく広げ、足を開き、戦闘態勢に入る。

「いくよ……バルディッシュ!」
『 Yes. Sir ! 』

少女は、これから紡ぐ思い出の為に。

『エルドラファイト!レディー、ゴー!』

勇者は、これまで紡いだ思い出の為に。

「たたかいは……」
『お楽しみは……』

戦い始める。

「『 これからだッ!! 』」

 未 完 ッ !

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最終更新:2009年08月04日 00:46