*




 心に剣、輝く勇気
 確かに閉じ込めて
 見えない力、導くよブレイド
 眠り目覚めるとき
 未来、悲しみが終わる場所

 奇跡、切り札は自分だけ



   リリカル×ライダー

   第十三話『決闘』




『戦え、剣崎』
 突然突き付けられた橘さんからの決闘状。俺は驚きよりも疑問の方が強かった。
 もちろんそれを聞き、再度通信を受けるまでに考える時間は山ほどあったのだが。
「どうして……」
『オリジナルが決して越えられなかった壁を、越えるためだ』
 通信の向こう側で、苦しげな重低音を響かせる橘さんの声がずしりと自分にのし掛かる。
 橘さんが自分を壁と思っていた? 俺の方こそ、あの人は越えられないなと思い、尊敬していたのに。
「俺は、橘さんを越えたなんて思ったことはありません。橘さんは俺にとって頼れる先輩のままです」
『俺はオリジナルとは違う! 奴はそれで妥協出来たかもしれんが、俺はここで立ち止まる訳にはいかない!』
 激昂し、表情を歪める橘さん。その怒り方はかつて自らの体がボロボロだということを告白したときに似ている。
 かつてライダーシステムには致命的な欠陥があった。それは自らの内に潜む恐怖心を膨れ上がらせ、変身に必要な融合係数を減衰させて体に負担をかけるというものだ。
 誰にでも恐怖心はある。俺より長く戦っていた橘さんは膨らむそれに気付かず、結果自らの体を痛め付けていたのだ。
 だが橘さんはそれを乗り越えた。俺はそれを見て、この人はやはり凄い人だと思ったものだったことを、最近思い出した。
 それを考えれば、この人が偽者であることは明白だ。体がという意味ではない。“心”がだ。それは例え記憶と体が同じでも、境遇が違えば育まれる“心”も違うことを証明している。
「橘さん――いえ、もうひとりの橘さん。その決闘……俺、やります」
 ならばこの人とは戦わなければならない。壁を越えられなかった彼と。彼を救わなければ、橘さんにも申し訳が立たない。
『……時間と場所は添付してある』
 最後に短く言って、橘さんは通信を切った。
 それから数分も橘さんが消えたモニター先をボウと見つめていた時だった。
「――カズマ君」
 後ろを向くと、左肩を庇いながらはやてがこちらに向かってきていた。まだ傷が完治した訳ではないらしい。かなり苦しそうだった。
「私はカズマ君の事情や記憶について何も聞かへん」
「なんで……?」
 はやての台詞に目を見開く。彼女は冗談などをよく言う陽気な性格だが、やる時はやる人物だ。てっきり問い質してくると思っていたのだ。
「私は部隊長や。知ってしまえば黙ったままではいられへん。六課を守るために、カズマ君を切り捨てなければいかんことになるかもしれん」
 はやては右肩を壁に預けながら、今まで見たことないような疲れた表情をしていた。いや、もしかしたらいつもこんな表情で苦しんでいたのかもしれない。単にそれを俺には見せようとしなかっただけで。
 それでも、その目はまだ輝きを失ってはいない。
「だから、何も聞かん。私は、カズマ君の味方でありたいから」
 そして彼女は僅かだが微笑んだ。この迷惑しかかけない俺に向かって。
 それだけで、十分だった。
「近い内に、六課を離れようと思う」
 だから、俺は正直に今後の予定を話すことにした。
「六課を?」
「俺がいると迷惑をかけることになるからな。それにあのアン……怪人を解放した奴を捕まえなくちゃいけない。だけどそれに六課を巻き込むつもりもない」
 六課は古代遺失物管理部所属の部隊だ。つまりロストロギアの回収と管理が目的であり、アンデッドを倒すことは六課の仕事じゃない。
 仮にラウズカードがロストロギアに認定されれば六課も動けるかもしれないが、そうなると俺自身も封印される必要が出てくる。バトルファイトもどうなるか分からない。
 どちらにしろ、六課を巻き込みたくなかった。
「――わかった。私は止めんし、少しやけど手助けもしたる。でもなのはちゃんやフェイトちゃん、フォワードメンバーが納得するかは知らんよ?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべてそんなことを言うはやて。相変わらず辛そうだが、そんなはやてを見てるとこっちも自然と笑えてきた。これが彼女の武器なのかもしれない。
「そう言えば最近……というよりJS事件後からやけど、なのはちゃんの様子が変なんよ。最近は特に」
「なのはが?」
 俺の正体を知ってからなら話は別だが、JS事件後からとなると俺にはよく分からない。何せJS事件後のなのはしか知らないからだ。
 ただ話に聞いていたなのはは誰よりも強く優しく時に怖い、正義感溢れる少女だったのに対し、実際は冗談を言ったりするような普通の女の子だったことが違いと言えば違いか。とはいえその程度は伝聞と現実のズレでしかない。
 ただし、冗談がはやてと違って洒落にならないものだったが。主にヴィータの件とか。
「まぁ、気のせいかもしれへんけど」
 はやても釈然としない表情だったが、そう言って話を締め括った。



     ・・・



(どうしよう……)
 カズマ君を反射的に避けてしまったことを思い出す。
 わたしはカズマ君を避けようだなんて思ってもみなかった。少なくともそのはずだった。
 かつて任務で色んな次元世界を飛び回っていた時だって怖い外見をした、人ではない知的生命体と会ったことがある。
 けれどわたしは彼らと仲良くすることが出来たし、アルバムの中には肩を組んで取った写真もある。それが何だとは言わないけど、少なくとも外見だけで判断するような人間じゃないと思う。
 だからカズマ君がアンデッドだからってわたしは恐れたり避けたりはしない、はず。
(なのに……)
 理由は、薄々気付いている。わたしが変わった理由は、彼女のことしかない。カズマ君はそれを気付かせるきっかけでしかない。
 やっぱり、わたしは戦士であることを辞めるべきなのかもしれない。もうわたしは、かつてのような無償の戦いなど出来ないのだから。
「なのはさん!」
「!?――――ど、どうしたのティアナ?」
 こちらに走り込みながら呼び掛けてきたティアナ。いきなりだったので反応が遅れてしまった。普段ならありえない失態だ。
 一瞬怪訝な顔をしたティアナは、しかしすぐに表情を切り替えた。
 こういった空気の読めるところは助かるなと思う。同時に今はまだ責任ある立場だと自分に再確認させなければ。
「やっぱりここはスカリエッティが最近使っていた隠れ家だったみたいです」
「そっか……何か見つかった?」
「この写真を見てください」
 彼女が待機状態であるカードの形になったクロスミラージュの中央にある球体をなぞる。途端、虚空に半透明のモニターが出現する。
「これって……」
 それを見て、わたしは目を見開いた。
「似ています、よね」
「――チェンジ、デバイス」
 モニターに映っていたもの、液体で満たされたカプセルに浮かんだモノは、チェンジデバイスに酷似したものだった。
 もちろん細部は全然違う。あの特徴的なクリスタルが付いていないし、代わりにスライド式のカバーが付いている。
(もしかしたら、チェンジデバイスはここで作られたのかも)
 シャーリーが言っていた可能性の一つ。天才にしか出来ないと言っていた彼女が敢えて候補として上げた人物。
 それが、ジェイル・スカリエッティだった。
「けどシャーリーさんが作ったデバイスをパクるなんて、スカリエッティも趣味が悪いですね」
 ティアナが苦笑気味にそう言う。実際にそういう事例があったのだけど、真面目な彼女なりの必死な冗談なんだと思う。もしかしたら、わたしを気遣ってくれたのかな。
 ちなみに彼女の言動が示す通り、フォワードメンバーはカズマ君のことを何も知らない。デバイスも、現れた時のとは違うものと伝えてある。皆そこまで確認はしていないから今のところは問題はなかった。
(カズマ君……)
 彼については気掛かりがたくさんある。あの時現れた謎の男性についてもそうだし、アンデッドが六課を襲撃したことも懸念の一つだ。
 もしかしたら、アンデッドはカズマ君を狙っているのかもしれない。
(とにかく早くスカリエッティを見つけなきゃ。そしてカズマ君の側にいないと)
 そしてスカリエッティの事件を、わたしの最後にするために。
「ティアナ、皆を集めて。わたしははやて部隊長に今の情報を送るから」
「はい!」
 元気良く答えてすぐに通信を始めるティアナ。専門的な訓練をする内に前よりも親しくしてくれるようになったのが嬉しい限りだ。
 わたしはそんな彼女の後ろ姿を見つめながら、報告のため、はやてちゃんに通信を繋げた。



     ・・・



 橘さんが指名した場所は、廃墟と化した空港だった。
 かつてレリックと呼ばれるロストロギアが暴走し、このようになったのだそうだ。今はそのロストロギアによる汚染などの危険から放置されている。
 教えてくれたのは、はやてだった。
『待っていたぞ、剣崎』
 何処からか声が響いてくる。広大な滑走路のど真ん中にいるからか、何処から聞こえるのかは分からない。
 だが、誰なのかはすぐにわかった。
「橘さん、出てきてください!」
 自分の大きな声が滑走路に広がる。
 それと間をおいて、ゆらりと唐突に目の前から橘さんは現れた。
「お前を倒し、オリジナルを殺し、俺は自らの存在を証明する」
「橘さんは橘さんです! 貴方は別人です!」
「当たり前だ! だが周りが納得できる証明が必要なんだ!」
 醜く表情を歪ませ、腰のポーチから紅い何かを取り出す。中央の特徴的なクリスタルと箱型の形状、それは色違いではあるが、見慣れたものだった。
「チェンジデバイス!?」
「ああ。だがお前が本物のカードを与えられたのに対し」
 右手がポケットから引き抜いたのは一枚のカード。
 それは粗雑なコピー画のような鍬形虫が描かれたダイヤのカテゴリーエース。
「カードすら俺は偽物なんだよ!」
『Stand by ready, set up.』
 そのカードをチェンジデバイスの裏に挿入、電子音声と共に伸びるベルト状のカードが腰に巻き付き、赤いベルトへと変化する。そこまでは俺のと何ら変わりない。
「お前も準備しろ。いいか、カードを使わないなんてことをしたら俺はお前を許さん」
 一瞬躊躇したが、覚悟はすでに決めてきたのだ。もう迷わない。
 俺もチェンジデバイスを取り出し、スペードのカテゴリーエースを裏面に挿入し、中央のレバーを、構えを解きながら引っ張った。
「変身!」
『Turn up』
 バックルの役目をしているチェンジデバイスのクリスタルが輝き、中に埋め込まれたゴールデントライアングルが回転する。魔力とアンデッドのエネルギーが躍動し、瞬く間に力が生み出されていく。
 その光から、一枚の蒼いエネルギーフィールドが飛び出す。
「――変身!」
『Drive ignition』
 同じく橘さんがチェンジデバイスについているレバーを引っ張る。そして同じようにクリスタルが輝き、そこから発されるのは紅いエネルギーフィールド。
 互いに扉のように立ちはだかるエネルギーフィールド――片方は魔力でもう片方はアンデッドの力で編まれたオリハルコンエレメントを、俺達は駆け抜けるように潜る。
「うああぁぁぁぁぁ!」
「おおぉぉぉぉぉっ!」
 そして互いに鎧を纏い、拳をぶつけ合った。
「くっ……!」
 パワーはこちらの方が上だったらしい。拳の打ち合いに退いたのは橘さんだった。だがそこで引き下がるはずもなく、腰に下げた専用銃を引き抜く。
 その銃口が、真っ直ぐこちらに向けられた。
「ぐあっ!」
 連続した発砲音。
 銃弾を遮蔽物もない場所で避けられるはずもなく、銀色のアーマーに被弾してしまう。
 しかし受けてばかりもいられない。アーマーがいつまでもつのか分からない以上、身は守らねばならない。そのための対策は立ててきた。
『Panzerhindernis』
 チェンジデバイスから発される電子音声。
 ガード態勢を引き金に魔法が発動する。アクショントリガー、魔法発動手段の一つだ。それによって発動されるのは――
「ちっ、防御魔法か!」
 展開されるのは多くの面で構成された青い防御壁。それが俺の前面を囲むように生成される。まさに二人の間に出来た“壁”だ。これで橘さんの銃弾は壁で阻まれ、ここまでは届かない。
 そう。俺はこの決闘のために、ある準備をしていた。



     ・・・



「ザフィーラに訓練を?」
「ああ、教わりたいことがあってな」
 はやてが疑問符を浮かべるのも無理はない。
 確かに彼女は出来る限りの手助けはすると言ったが、まさかその当日に早速要請があるとは思っていなかったのだ。それこそ一時間も経たない内にである。
「でもザフィーラはあの通り重傷やしなぁ」
 ザフィーラは以前イーグルアンデッドを迎撃した際に、腹に穴を開けられるという普通なら即死の重傷を負っていた。善戦はしたが相手が悪かったと言うしかないだろう。
 ザフィーラ達、ヴォルケンリッターが特殊な体だったから良かったものの、完治には数ヶ月を要するらしかった。
 ザフィーラが倒れたことで六課の防衛力は低下しており、カズマは本来なら重要な戦力となるはずである。そのことを思ったのだろう、カズマは僅かに視線を落としていた。
「何を習いたかったん?」
 はやてのもっともな疑問に、カズマは即座に答えた。
「防御魔法だ。橘さんは射撃を多用する、それを防ぐには強固な壁がいるんだ」
 それを聞いてはやては疑問符を浮かべる。彼女が覚えている限り、カズマは防御魔法を使えたはずだからだ。実際なのはが調べた際も飛行魔法とシールド魔法は使えたのだ。
「シールド魔法じゃダメなん?」
「それだとカバーする面積が足りないんだ」
 カズマが思い出す橘は銃型のラウザーを用いるライダーだった。この前見た姿がほとんどその頃と変わらないことから、彼は射撃型だと判断していた。
 そして射撃型に接近戦を挑むために、彼はガードを固める必要があった。
「なるほどなぁ。でもそれならフェイトちゃんに習って機動力上げた方がええんやない?」
 そう、ガードを固める以外にもその手段はあった。実際そちらの方が効率が良いかもしれない。だが……。
「いや、橘さんなら確実に撃ち落としてくる。それに――」
 ――今は、フェイトにもなのはにも会いづらい。
 カズマの口から後半の台詞が発されることはなかった。彼とてこの前のなのはの変調、そしてフェイトの意外な過去を気にしていないわけではなかった。
 そんなときだった。彼にまさかの協力者が現れたのは。
「それならあたしが教えてやるよ!」
 現れたのは、ヴィータだった。



     ・・・



 現れた多角形状の青い壁を境に対峙する蒼と紅のライダー。
 カズマは橘との距離を詰めるべく、この壁を量産して地形を複雑化させていた。まさしく水晶で出来たジャングルのように。

――本来バリア系は敵の攻撃を正面から受け止めるものなんだ。

 カズマはヴィータの教えを反芻しつつ、バリアの生成に集中する。理由は単純、彼は魔法の行使が下手で、且つやっていることが難解だからだ。
 三次元的なフィールドに変化した滑走路を、飛行魔法を駆使しつつ滑空し、橘の進路と攻撃を阻害しながら彼に迫る。

――お前の言うバリアは結界に近いが、それはいいか。敵の攻撃を真正面から受け止める壁、それだけだな。

 魔法の運用能力が壊滅的なまでに低いカズマだが、防御系は一応使えるレベルにある。それを利用した戦術だった。逆に言えばこのために機動戦術は取れなかったのだが。
 問題はバリアの角度だ。
 正面から受けることを想定しているため範囲が広い上に固いのが特徴のバリアだが、妙な角度から攻撃を受けると固い故に砕けてしまう可能性が高いのだ。言うなれば柔軟性に欠けていると言ってもいいだろう。
 シールド魔法は逆に弾くことで防ぐ手段なのだが、弾くために弾力を重視しているため強度が低い。なのはクラスの使い手なら話は別だが、カズマには無理な話だ。
 そのためカズマは角度に注意し、砕けにくいバリアを設置しなければならず、かなり集中して事に当たる必要があった。小刻みな移動も含めると相当頭を酷使する作業だ。
 橘はカズマを追い掛けながら銃弾を撃ち込む。だが瞬く間に壁が生成されてそれらは弾かれてしまう。未だどちらも有効打は打ち込めていない。
「剣崎ィ! 貴様、こんな人をバカにするような戦い方をするのか!」
 確かにかつてのカズマはこんな戦い方はしなかっただろう。だがそれは同時に彼がかつての己よりも成長した証でもある。
 カズマは答えない。
 その代わり、彼は拳で答える男だ。
「うあああぁぁぁぁ!」
『――TACKLE』
 橘の後ろ、死角となる部分から迫るカズマ。
 カードの力が込められたことで光り輝く右肩を橘のアーマーに叩き込む――だが、
『Protection』
 それは紅い光によって受け止められた。
「橘さんも魔法を!?」
「お前より俺の方が魔法の腕は上だ!」
 バリアを展開する橘の周囲に緋色の光球が幾つも浮かび上がる。
『Blast Fire』
 それらは炎弾となってカズマに降り注ぐ――!
「ぐあっ!?」
 左手に張ったシールド魔法で弾くが、範囲外の肩や足を容赦なく蹂躙する。その火の雨は、カズマの防御を嘲笑うように次々と有効打を与えていく。
 じゅう、という音色。
 スーツを貫通して炎がカズマの肉を焼き焦がした音だった。
「がぁ……ぁぁっ!」
「アンデッドだからな、非殺傷など必要ないだろう」
 仮面の下で氷のように冷たい表情を浮かべながら、更に橘は一枚のカードを引き抜き、銃のカードリーダーに通す。醒銃型ストレージデバイスがカードに記録されたデータを認識し、既定の魔法を発動する。
『――Ballet』
 橘の言うラウズカードを模したモノ、デバイスカードが魔法を発動する。橘の銃を緋色の円環魔法陣が包み込み、その銃口は静かにカズマに向けられた。
「剣崎、この程度なのか」
 そう言い、引き金を引いた瞬間、
「アアアァァァァァ!」
 剣崎を、蒼色のオーラが包み込んだ。
 それは丸まったアルマジロにも似た橘の銃弾ならぬ砲弾を、真正面から受け止める――!
「何っ!?」
「ガアアアァァァッ!」
 その砲弾を受け止め、荒々しく叫ぶカズマ。その体は蒼色の光に包み込まれ、神秘的な輝きを放つ。

――防御魔法はバリア、シールドの他にもうひとつある。それがフィールド系だ。

 ヴィータが施した秘策。
 彼女はカズマに二つの魔法を教え、そして片方については短期間の訓練では扱いきれない彼のためにある手を打っていた。

――お前はバリアジャケットもオート発動だからよくわかってねーんだろうが、フィールド系は意外と扱いが難しいんだ。効果は高いんだがな。

 カズマはジョーカーとしての闘争本能に汚染されたまま、ゆらりとブレイラウザーを片手に歩き出す。だらりと下げたまま、まるで幽鬼の如く。
 かつてティアナとなのはを震撼させたその姿。それは闘うことしか考えられない狂戦士そのもの。

――まぁ、あたしがシャーリーに頼んで発動は何とかしてやる。ヤバくなったときに凌げるようにしてやるから、頑張るんだぞ。

 本能のまま魔法を制御し、オーラを維持する。
 その魔力を得るためにチェンジデバイスを侵食し、内部のオルタドライブを構成する三つの疑似リンカーコアを限界以上に稼働させる。
 そうして自らを強化したカズマを見て、橘はほくそ笑んだ。
「……ようやくジョーカーとしての力を引き出したか」
 カズマはかつて人間だったジョーカーだ。それ故に人間としての人格はしっかりと生きており、ジョーカーとしての本能は、普段は抑えられている。
 だが本人の意識が失われるほどの危険な状態の時、本能は自らを守るべく覚醒する。
「ガアアアァァァァァ!」
 光り輝く戦士が獣の如く走り出す。
 橘はそれを倒すべく、左腕にある“ある物”を起動させる。
「近付くな!」
 橘は銃を向け、フラッシュの後に弾丸が疾走する。
 しかしカズマにぶつかった直後、それらは尽くが無力化される。正確には、着弾の度に爆発が起きて銃弾を吹き飛ばしているのだが。
 更に橘は中空に魔力スフィアを展開し、先の砲弾に形状が似た紅い魔法弾を撃ち込む。どれも凄まじい衝撃をカズマに叩き込む。
 だが、カズマは止まらない。
「ちっ」
 飛行魔法を起動してカズマから距離を取る。その一連の時間で、橘は準備を整えていた。
「剣崎ィ! こいつを越えてみろ!」
『Absorb Queen』
 腕に付けられた機器から片翼のように広がるカードトレイ、そこから引き抜かれたカードが機器の上部カードホルダーを挿入したことで発された電子音声。
 そしてもう一枚のカードを脇に付けられたスリットに通す。
『Fusion Jack』
 二枚のデバイスカードがオリジナルを模した力を発揮する。
 ダイヤのジャックに描かれた汚らしい孔雀の絵、その絵柄から黄金の光が溢れ出し、金色の輝きが羽根を広げる。
 その光を受け止めた橘のバリアジャケットは、銀色だったチェストアーマーが金色に染まり、背に孔雀の羽根を象ったオリハルコンウィングが装着される。
 そして銃にはディアマンテエッジが銃剣の如く施され、腹の部分には黄金のレリーフが施される。もっとも、絵柄は装甲によって塗り潰され、無惨な姿になってだが。
「ジャックフォーム。今のお前では届かない高みだ」
 正確には魔法で再現されただけの偽の力。それを分かっていても、橘は吠えずにはいられない。それほど、この力はオリジナルに近い輝きを放っているのだ。
 空を支配する紅い戦士と地を駆ける蒼き野獣。
 二人の戦いは、まだまだ決着は着かない。



     ・・・



(カズマ君……)
 はやてちゃんが送ってきた一枚の地図。
 何の地図か何一つ記されてはいなかったが、ここで何が起きているかは明らかだった。
 第八臨海空港。
 わたしが初めてロストロギア、レリックの力を目の当たりにし、スバルを救助した場所であり、はやてちゃんが自らの力不足を痛感し、機動六課を設立するきっかけを作った場所でもある。
 今そこで、カズマ君は死闘を繰り広げているのだろう。だけどこんなところにいるわたしには何も出来ない。
 けど、今のわたしに何が出来るだろう。何も出来はしないんじゃないだろうか。
「なのはさん!」
 元気の良い声が聞こえる。振り向けばスバルがインラインスケート型デバイス、マッハキャリバーで滑りながらこちらに向かっていた。
「こっちも調査終わりました!」
「じゃあここは陸士部隊に引き渡して、次に行こうか」
 こんなことを考えていても仕方がない。
 今回見つかったチェンジデバイスらしき謎の機器やカード状の機器など、懸念点は少なからずあるのだから。もしかしたら、本格的にスカリエッティは動き出すつもりなのかもしれない。それを未然に防がなければ、また多くの被害者を出してしまう。
「――なのはァ!」
 だからわたしは今の仕事に集中して……え?
「ど、どうしたのヴィータちゃん」
「それはこっちの台詞だ! ボーッとしやがって」
 小学生みたいな外見でこの言動だから、初対面の人は皆面食らう。可愛らしい顔立ちなのだから、愛想良くしてればいいのに。勿体ない。
 それはともかく。
「ご、ごめん。ちょっとね」
「気になるんなら行けばいいじゃねぇか」
 誤魔化そうとするが、彼女はまるで全て見透かしているみたいにそう言う。顔を見ようとしてもそっぽを向かれてしまう。
 けれどその口調は何処か気恥ずかしそうに感じた。
「昨日はサボったからな。後はあたしに任せな」
「で、でも……」
「グダグダうっせぇ! 昔のお前なら止めても突っ走って行っただろうが!」
 はっ、とした。
 そうだ。わたしは、本当はそういう性格だった。なのに、どうしてこうなってしまったのか。――いや、理由は分かってる。でも。
「なのは、お前は見届けたいんだろ? あたしにはよく分からねぇけどさ、お前は行くべきなんじゃないか?」
「……うん」
 多分、ヴィータちゃんは何も知らない。
 それでもわたしをここまで後押ししてくれている。それを無下にするのは、絶対に嫌だ。そのために、カズマ君の戦いをわたしは見届けなければならない。
「わかった、行ってくる」
「ああ、後は任せな」
 フォワードメンバー皆が疑問に満ちた視線を送っているが、そこら辺はヴィータちゃんに任せるとしよう。
 さぁ、行こうか。彼の元へ。



     ・・・



「ガァッ!」
 橘の銃弾と、数発の魔法弾を受けてカズマが吹き飛ばされる。
 すでに彼自身の意識は戻っていた。しかしそれで状況が好転した訳ではない。むしろ混乱したままやられているという最悪の状況だった。
 孔雀型のオリハルコンウィングを広げた姿は神々しく、太陽を背にする橘はどこか不死鳥のそれを思わせる。
 高い空間制圧能力と銃に強化変身によって装着されたディアマンテエッジを生かした格闘戦能力。
 ジョーカーとしてのカズマでさえ圧倒した橘に対し、もはや身を守るオーラを喪失したカズマでは、戦闘継続すら厳しい。
「所詮この程度か、剣崎。最凶のアンデッドの力が聞いて呆れるな」
 橘の周囲に緋色の魔力スフィアが浮かび上がる。
 確かに橘のパワーや武器の威力、カードの性能は以前より劣化している。偽物なりの性能といったところだろう。
 しかしその分を魔法で補っているからか、実力はむしろ増していると思えるほど。やはり本人同様、努力家だということだろう。
(どうする……)
「行け!」
『Blast Fire』
 悩む暇はない。バリア魔法を用意する余分な時間も魔力もないので、シールドを素早く展開し、攻撃から逃げるように駆け出す。
 橘が主に使用する攻撃魔法はかなり厄介だ。
 一発一発が強力な炎弾である上に爆発力も高く、周辺に拡散させれば広域魔法に、一ヶ所に集中させれば一点破壊も出来る優れ物なのだ。
 ただし誘導性能はない。だからカズマなら何処に来るかを予測出来れば避けられないわけではない。だが。
「ッ!」
 じりり、と肩のアーマーが溶ける。
 完全には避け切れない。爆発範囲も広いし、カズマの思考パターンを読み取られれば回避も出来なくなる。
 さらに橘は、追撃するべく銃のカードトレイを開いていた。
『――Rapid』
「くそっ!」
『Panzerhindernis』
 カズマが持てる魔力を全て費やし、目の前に現れる多角形状の蒼い壁。
 それに加速された銃弾が数十撃ち込まれる。
(く、そっ!)
 壁にヒビが入る。本来なら砲撃すらも受け止めるバリアにだ。
 カズマはマスクの下で冷や汗を流しながら必死でバリアを維持するが、銃弾が突き刺さる度にヒビが広がっていく。
(そうか、強度の弱い箇所を的確に……!)
 バリィン、というガラスが割れたような音。
 カズマを守っていた壁が砕け、針のように鋭い銃弾が鎧を貫く音だった。
「が、は……っ」
「くくく、はははは! あのオリジナルが越えられない壁をいとも容易く俺は越えた! そうだ、これが俺の力だ!」
 カズマの意識が痛みで朦朧としてくる。激しい眠気によりカズマの瞼は塞がれ、全て投げ捨ててしまいたくなる虚脱感に襲われる。
(このまま眠れば、もう――)
『君が戦う理由は、何だね?』
 カズマの耳に何か、聞こえてくる。それは老けてはいても芯の通った声。
(でも、どうでもいい。俺は、俺は眠りたい……)
『義務か、使命か、それとも仕事かね』
(……いや、違う。俺はこんなところで眠るために戦いに来たんじゃない。ましてや誰に強制されたわけでもない。俺は――)
『もう一度聞こう。君の戦う理由は、何だね?』
 カズマの耳に、今度こそ問いが伝わる。それにカズマは、ゆっくりと立ち上がりながら口を開いた。
「俺は、全ての人を、愛している」
「まだ立ち上がれるのか!?」
 橘の声だ。だが、今のカズマにはそんなことはどうでもいい。
「だから俺は、皆を守りたい。そのために戦っている!」
 カズマの意識がハッキリとしてくる。マスクの下で目をカッと開き、唇を引き締める。
 彼の目の前には銃を構えた橘がいる。黄金の羽根を広げている姿も変わらない。だが僅かに、彼の銃を持つ右手がブレている。
「橘さん、あなたもです。俺は、あなたも救ってみせます!」
「うるさい!」
 橘が引き金を引く。途端にマズルフラッシュが光り、カズマの体に鈍痛を響かせる。
 それでも、カズマの歩みは止まらない。
 そして橘の銃撃を防ぐべくカズマのキックが、橘を吹き飛ばす。
「がっ!」
 その隙を突くように、再びヘルメットから音声が流れ出した。
『ふむ、良い答えが聞けたよ。今なら使いこなせるだろう。受け取れ』
「あなたはいったい……」
『君を導く力、ラウズアブゾーバーだ』
 ヘルメットから出ていた声が途切れる。それと同時に、カズマの左腕が輝き出す。
『Rauze Absorber,set up.』
 チェンジデバイス中央のクリスタルがゴールデントライアングルの回転と共に光を増していき、やがて光は左腕に溢れていく。それは次第に一つの機器へと形を変えていった。
 上級アンデッドの力を吸収して更なる力を与える機器、ラウズアブゾーバー。カズマはブレイラウザーから二枚のカードを引き抜き、その一枚を挿入する。
『ABSORB QUEEN』
 “吸収”の力を持つカテゴリークイーン。
 そしてもう一枚のカードを、ラウズアブゾーバーの端に備えられたスラッシュリーダーに通す。
「お前の信念を貫く力を、俺に貸してくれ!」
『FUSION JACK』
 ラウズアブゾーバーを通してカテゴリージャックの力が解放される。それは黄金の鷲となって、自らの体と融合していく。
 そのとき、異変は起こった。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?」
 今までにない、アンデッドの力の流入。それはかつてラウズアブゾーバーを使用したときとは格が違うほどの量へとなっていた。
 まるで決壊したダム。際限ない不死生物の力が何のストッパーもなくカズマに流れ込んでくる。
「あぁぁぁぁぁっ!」
「……なるほどな」
 今になって立ち上がった橘が、そう呟く。彼の中には一つの確信があった。
「ただでさえ融合係数の高い剣崎がジョーカーになったとき、その融合能力は本人ですら制御出来ないものとなる」
 カズマの黄金の光に包まれながら重圧に押し潰されようとしていた。今の彼にとっては、身を守るアーマーですら息苦しい拘束具でしかない。
「オーバーユニゾン。正に制御が出来ない状態か。なるほど、だから伯爵は奴に当初ラウズアブゾーバーを渡さなかったのか」
 カズマは優れたアンデッドとの融合能力を持つ。ライダーとしては必須の能力に、彼は天性で恵まれていた。
 しかし才能は時として本人を苦しめることもある。強すぎる力は、制御出来ずに暴走する可能性も秘めているのだ。
 剣崎は自らを侵食するアンデッドの力に対し、慟哭の雄叫びを上げる。橘はそれを冷たく見つめながら、静かに銃口を向けた。
 だがそのとき誰も、小さな妖精の到来に気付いてもいなかった。
「カズマさ――――ん!」
 カズマの元に弾丸の如く疾駆する一つの影。
その名は祝福の風、リィンフォース・ツヴァイ。
「リィ……ン――?」
「今行きますぅ!」
 彼女はユニゾンデバイス。その役割は相手と融合することでその能力を補助、増加させること。特にはやての大規模攻撃魔法の制御などで力を発揮する。
 今カズマが必要としているもの。それは、力を制御する術。
「ユニゾン・イン!」
 彼女がカズマの体に解けるようにして消えていく。
 そして、光の呪縛は“弾けた”!
「くっ……!」
 余りの眩さから目を腕で覆う橘。
 その光が収まったとき、そこにカズマは立っていなかった。
「ジャックフォームか!」
 仮面を覆う透明なフェイスガードとチェストアーマーを黄金に染め、腹の部分に同じく黄金の鷲のレリーフを施し、背中に輝くような銀のオリハルコンウィングを背負う戦士。
 ブレイド・ジャックフォームがそこに誕生した。
「リィン、助かった。もう大丈夫だ」
『はいです!』
 ユニゾンデバイスとしての本能が察知したのか、自らの役目が終わったことを悟ってユニゾンを解くリィン。カズマは誰かに頼ったりはしない。ほんの少し誰かに導かれることはあっても、それに依存したりはしないのだ。
 今ここに、二人の戦士が向かい合う。互いにカードを引き抜き、自らの必殺を叩き込むため。
『――KICK』
『――Drop』
 互いに言葉はいらない。後は無言で語り合うのみ。そう、二人は今、お互いを理解し合っていた。
『――THUNDER』
『――Fire』
 だがそれは戦いを決着させるための理解。もはや理解し合っても戦いは止まらない。いやむしろ互いが互いのことを分かるからこそ戦いは加速される。
『――MACK』
『――Gemini』
 互いに三枚のカードを通す。それはコンボとなり、互いが持ちうる限りで最強の技へと変化する。
 魔力で編まれた技と不死生物の力で出来た業。
 臨界点に達した二つの力が、今、激突する。
『LIGHTNING SONIC』
『Burning Divide』
「「あああぁぁぁぁぁ!」」
 マッハのカードとオリハルコンウィングによって加速されたカズマは、雷撃を纏った右足を音速の勢いで振るう――!
 ジェミニのカードで二人に分裂した橘は、炎撃を纏った両足を二乗の力で叩きつける――!
 広大な第八臨海空港の滑走路に、閃光が走った。



     ・・・



 俺達が必殺技をぶつけあって、数刻。ようやく意識が戻り、周りを見回すと橘さんがアーマーに包まれたまま倒れ伏しているのを見つけた。
「……大丈夫、ですか」
 我ながら白々しい台詞だなと思いながら橘さんに近付く。俺と違って、橘さんのアーマーからは相当なダメージが見て取れた。ブレストアーマーは大きく抉り取られており、強化変身もすでに解けていた。強化変身については俺も同じだが。
 そしてもちろん俺も無傷じゃない。肩の装甲は熱で端が溶けていた。動くことに支障が出るようなダメージは負っていない。
「――剣崎」
 手を差し伸ばそうとしていた時だったからか、ビクリと反応してしまう。
 仮面により判別が付かなかったが、どうやら意識はあるらしい。
「良かった、無事なんですね?」
「俺は、初めから愚かなことをしていることは分かっていた」
 橘さんが俺を無視して話を始める。その独白を聞くため、俺も手を引っ込めた。何故か、聞き逃したら取り返しがつかないような気がしたから。
「伯爵は俺の行動を見透かし、利用していることは知っていた。それでも、俺は止められなかった」
濃い疲労を感じ取れそうな、橘さんの科白。
「なぁ、橘朔也はなぜ強かったと思う?」
「橘さんが強かった、理由……?」
 自分にとって、橘さんは最初から強い人だった。何せ先輩だったのだから。そのため、俺にはその質問は答えられなかった。
「奴にはな、守りたいと思える人間と、支えてくれる仲間がいた。だから奴は強くなれたんだ」
 それを聞き、橘さんに大切な人がいたことを思い出す。その人は戦いに巻き込まれて命を失っていた。その時を境に、橘さんの雰囲気が変わったのを覚えている。
「俺には、誰もいなかった。冷たいカプセルの中から生まれ、仮初めの過去を持ち、広大な研究所でたった一人だった。俺は――孤独だった」
「橘さん……」
「だから、お前が羨ましかった。何故お前にはたくさんの人間が味方するのか、何故お前は知りもしない他人のためにそこまで戦えるのか、知りたかった」
「今からでも間に合いますよ、橘さん」
 そう、人は死ななければいくらでもやり直せる。橘さんは生きている。ならもう一度やり直すことは可能だ。
 俺だってたくさんの人間に拒絶され、傷付けられた。それでも、生きているからこうしてやり直すことができる。
「俺が最初の“仲間”です」
「剣、崎……」
 俺は橘さんの手を握る。その手はスーツを介してもなお、温かい。そうだ、橘さんは生きている。ならば俺ともう一度――――
 そうして引っ張り起こそうとした、その時だった。

 爆発が、起きた。

 一瞬の光。その後に発生するのは耳をつんざくような何かの炸裂音と、全てを吹き飛ばそうとするような衝撃波の嵐。
 重い体を持ち上げ、目を開く。視界に映った数瞬後の光景は、まるで違うものだった。
「橘さん……? 橘さん!」
 目の前には、仁王立ちした状態の橘さんがいた。そしてその橘さんが倒れてきたときに、全てを悟った。
 その背中は、アーマーすら判別出来ないほど黒く焼き焦げていた。
「橘さん!」
「け……ん、ざき」
 ひび割れたマスクから僅かに声が漏れる。その罅から、橘さんが垣間見えた。
「橘さん!? しっかりしてください!」
「カズマさん!」
 自分の脇をすり抜けるようにして現れたリィンが必死に回復魔法を発動する。
 俺は、呼び掛けることしか出来ない。
「橘さん!」
「はく、しゃくを……さが、せ」
「!?」
 伯爵――何度も橘さんの台詞に含まれていた言葉。
 しかしその意味を聞き出すことは、とうとう出来なかった。
「ごめんなさい……」
「リィン――?」
「助け、られませんでした……」
 橘さんを見つめる。その死は、あまりに唐突なものだった。
 救いたかった。助けたかった存在。なのに、何故死んでしまったのか。
「ハッハッハ! 君がオリジナルかね? 会えて嬉しいよ!」
 上空からかかる煩わしい甲高い声。余りに不快だったので、俺はその方向に向かって睨み付ける。視界には、四人の男女が写っていた。
「お前が……」
 その中央の人物。その顔には見覚えがある。一度だけ見た奴の写真。六課が探す宿敵。
「橘さんを殺したのかぁぁぁぁぁ!」
「五月蝿いね、静かにしてくれないか」
 血液が沸騰し、頭に血液が逆流する。怒りが全身を支配し、細胞を過剰に活性化させる。
 救えなかった自己嫌悪と、その機会を奪った者への憤怒。それは俺の理性を容赦なく破壊した。
「初対面だ、名乗っておこう。私が、ジェイル・スカリエッティだ」
 そう、コイツと戦う理由が、出来た瞬間だった。



     ・・・



 ついに六課に立ち塞がった宿敵、ジェイル・スカリエッティ。彼はカズマに強い興味を示す。その彼は、あるものをカズマの前で使用するのだった。
 一方、なのはとフェイトもジェイル・スカリエッティと戦おうとするが、新たな力を得たナンバーズに対し、苦戦を強いられるのだった。

   次回『スカリエッティ』

   Revive Brave Heart



※ELEMENTS 作詞:藤林聖子
        作曲:藤末樹
        唄:RIDER CHIPS Featuring Ricky より歌詞の一部を抜粋



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年10月03日 21:43