『マクロスなのは』第10話「預言」



アルトとなのはが技研から帰還した翌日。
2人は報告書を読んだはやてに呼び出されていた。その理由はバルキリー配備計画についてだ。

「─────つまり、レジアス中将がこの計画を立案したんか?」

2日前からよく寝たのか、はやての顔色はよく、しっかりしていた。しかし彼女の顔は今、苦悩に歪んでいる。

「うん、そうだよ。はやてちゃんも聞いてなかったの?」

「そうや、ウチは聞いとらん。管理局の殉職者が12人って報告は受けとったけど・・・・・・」


重たい沈黙


その時2人の背後のドアが開き、小人(こびと)が飛んできた。

「はやてちゃんそろそろ行く時間ですよぅ~」

リインは頭上をしばらく旋回飛行していたが、返り見ると、なのはの肩にどこかの〝竹を取る〟物語に出てくる小人のようにとても可愛らしい様子で座っていた。

「ああ、もうそんな時間か・・・・・・いきなりで悪いけど、これから2人ともちょっと付き合ってな」

はやてはイスに掛けられた上着に袖を通しながら告げる。2人は事態か読めず、顔を見合わせた。
そこに新たに部屋に入ってきた者がいた。

「はやて、車は用意したからいつでも行けるよ」

と、フェイト。どうやら彼女もこの件に1枚噛んでいるようだ。

「フェイトちゃん、どこ行くの?」

「あれ?まだはやてから聞いてなかった?昨日、聖王教会から連絡があってね。新しい預言が出て、ついでに『はやての友達に会いたい』って言われたんだって」

「ああ、なるほど。えっと・・・・・・カリムさんだっけ?」

「そうや、前々から会わせたいと思っとったんやけど、機会がなくてな。ほな行こか」

はやて達が部屋から出て行く中、アルトは話についていけず、ずっと頭を捻っていた。

(*)

フェイトの私用車に乗ったフェイト、はやて、なのは、アルトの4人は一路、高速道路を北上する。
窓の外の景色が近代的な街並みから山と森へとシフトしていく。
しかし目的地にはまだ1時間ほど掛かるようだった。
そのためその間、3人から聖王教会に関する説明を受けることができた。
まず聖王教会とは、聖王を主神とする宗教団体で数多くの次元世界に影響力をもつ大規模な組織であること。
教会はミッドチルダ国の領内にありながら独立しており、税金などの面においても名実共に聖域であること。
財源は基本的には寄付で成り立っており、その額はミッドチルダの国家予算の半分程度という莫大な規模になっている。そのため教会自らが当時のミッドチルダ政府に設立を要請した時空管理局の、現在ですら予算の半分近くを握る最大のスポンサーであること。
このような歴史的事情から必然的に時空管理局と繋がりが強く、ロストロギアの管理、保管はそこが担当しているらしい。
しかし今は教会自体は関係なく、そこに所属しているはやての友人であるカリム・グラシアという人に用があるらしい。
なんでも彼女は『プロフィーテン・シュリフテン』という未来を予知する古代ベルカのレアスキルを持っているという。

「なんだそれ?未来がわかるなら最強じゃないか」

アルトはそう言ったが、そうでもないそうだ。
はやて曰く、カリムの預言はこの惑星を回る月の魔力の関係上、1年に1度しか使えず、表記も古代ベルカ語の、さらに解釈の難しいことで有名な詩文形式で書かれている。
また、期間も半年から数年後のことがランダムに書いてあるため、実質的な信頼性は『よく当たる占い程度』だという。
本局と教会はその内容を参考程度に確認するが、地上部隊は当たらないとして無視するらしい。

「そんな胡散臭いもの信用できるのかよ」

アルトも疑うが、はやては1歩も引かない。なのはやフェイトも『はやてが信用しているなら』と、まったく疑いはないようだ。
そうこうしているうちに、100キロ近い距離を走破した車はそこに到着した。
教会はその名に恥じぬ壮大な造りで一瞬アルトに中世の城をイメージさせたが、最新の科学技術と見事に調和したそれはよほど近代的だった。
車を駐車スペースに停めた4人に玄関から近づいてくる人影がある。

「お待ちしておりました」

彼女は一礼すると品よく笑顔を作った。

「おおきに、シスターシャッハ」

「はい。みなさんもお元気そうで・・・・・・あら?そちらの方は?」

「彼は次元漂流者の早乙女アルト君。今は六課の隊員をやってもらっとる」

はやての紹介にシャッハはプライスレスのスマイルを作り、

「聖王教会にようこそ」

と告げた。

(*)

その後シャッハに連れられて教会に入り、いくつもの装飾品の並ぶ玄関を横切り、廊下を歩いていく。

(なんか鳥ばっかだな・・・・・・)

玄関に入ってすぐにあった床の塗装も鳥が大きく翼を伸ばした姿が描かれていたし、各種置物も翼を伸ばした鳥という案配(あんばい)だ。
後でわかったことだが、聖王教会では鳥がモチーフになったシンボルマークが使われており、よほど好きらしい。

(ん?・・・あいつら、なにやってんだ?)

続いてアルトが見たのは1組の男女。しかし男の方は前時代的な切断器具である〝ノコギリのように削られた1メートル程の木の棒〟を女性に突きつけていた。
それで女性が恐怖に怯えているなら話は簡単であり、アルトも助け出すことを躊躇しなかっただろう。
しかし女性の方は喜んでいたようだった。
そのことから特に危険なわけでもないようなので、別段考えもせずどんどん歩を進めるシャッハ達を追った。

(*)

しばらく歩くとシャッハは1つのドアの前に立ち止まった。


こん、こん


広い廊下にノックの音が反響する。

『どうぞ』

内から聞こえる女性の声。シャッハはドアを開けると直立する。

「時空管理局の八神はやて様ご一行がいらっしゃいました」

『ありがとう』

シャッハは一礼すると、はやて達を部屋に招き入れ、自分は出ていった。
部屋はなかなか広くカリムという人の重要さを物語る。
しかし物見遊山している暇などなかった。なのはとフェイトは部屋に入ると突然直立不動となり敬礼する。アルトも慌てて続いた。

「便宜上やけどカリムは管理局の少将ぐらいの階級を持ってる〝お偉いさん〟なんよ」

と、先ほど何気も無くはやてが言っていたことを遅まきながら思い出す。

「失礼いたします。高町なのは一等空尉であります」

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン一等海尉です」

「早乙女アルト准尉です」

すると奥から、長いストレートな金髪に紫のカチューシャを着けた25歳ほどの女性が現れた。
彼女は

「いらっしゃい」

と告げると、名乗った。

「初めまして。聖王教会、教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」

カリムに周囲がガラス張りになったテラスへと誘導され、彼女とはやてはイスに腰を掛ける。
なのは以下3人は

「失礼します」

と一礼してイスに腰を掛けた。
するとカリムはこれまた品よく笑う。

「3人とも、そんなに固くならないで。私たちは個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ」

「・・・・・・と、カリムが言うてるし、いつもと同じで平気やで」

カリムとはやての許可に、なのはとフェイトは即座に友人モードにスイッチングし、普段通りの口調に戻った。

「改めてこんにちは、私のことは〝なのは〟って呼んでください」

「はい、なのはさんですね。ハラオウンさんと早乙女さんはなんとお呼びすれば?」

「私はみんなからフェイトと呼ばれています」

「俺は、アルト─────」

「〝姫〟やろ?」

「ど、どうしてお前がそれを知って─────!」

「なのはちゃんの報告書に書いてあったで」

なのはに向き直る。すると彼女は少し面白そうに両手を合わせ

「ごめ~ん!あんまりにもぴったりな表現だったから・・・・・・」

と謝罪した。
続いて

「こんないいセンス持ったお友達ならウチともいい友達になれそうやわ~」

とはやて。

(いかん・・・・・・遊ばれるモードに入っている・・・・・・)

しかしアルトは怒って否定するまねはしなかった。彼は〝大人〟になろうと努力していたし、彼の望む大人像には短気は入っていなかった。

「・・・・・・なるほどな。確かにチビダヌキって愛称を持つお前ならアイツともいい友達になれそうだな」

反撃に転じたつもりだったが彼のマニューバ(空戦機動)は稚拙すぎ、老獪なはやてには無力だった。

「やろ~タヌキってキツネよりもユーモラスやし、チビってのが愛嬌あるみたいで結構気に入っとるんよ~」

(しまった、上手くかわされた・・・・・・!)

青年は己の経験不足を嘆くしかなかった。

「えっと・・・・・・とりあえず、なのはさんにフェイトさん、それにアルトひめ―――――」


ジロリ


アルトの敗者の哀愁を漂わせる視線にカリムは空気を読んだ。

「―――――コホン、アルトさん。これからもよろしくお願いしますね。・・・・・・それから私のことはどうぞカリムと呼んでください」

全員の自己紹介が終わったところで、はやてが仕切り直す。

「それじゃあいい機会だから改めて話そうか。機動六課の設立目的の裏表。そして、今後の事をや」

極めて真面目な顔をして言い放った。

(*)

周囲のカーテンが閉め切られ、先ほどとはうってかわって密会の雰囲気が出たテラスではやては説明を始める。

「六課設立の表向きの目的は、対応が遅く、練度の低くなった地上部隊の支援と治安維持。そして時代の変遷によって不具合が出てきた管理局の非効率なシステムの刷新や」

はやてが端末を操作し、ホロディスプレイを立ち上げていく。

「知っての通り、設立の後見人は騎士カリムとフェイトのお母さんのリンディ・ハラオウン総務統括官。そして、お兄さんのクロノ・ハラオウン提督や」

アルトは隣のフェイトに念話で耳打ちする。

『(この前本部ビルにいたクロノって、お前の兄さんだったのか)』

『(うん)』

『(へぇ・・・・・・、あんまり似てないんだな)』

そこで少しフェイトに陰が落ちる。

『(・・・・・・リンディ統括官もクロノ提督も義理のお母さんとお兄ちゃんなんだ)』

『(え、あぁ・・・・・・すまない・・・・・・)』

ただならぬ雰囲気を感じたアルトはそれ以上詮索しなかった。

「―――――あと非公式にレジアス中将も初期の頃から設立に賛成して、協力を約束してくれとる」

(はぁ?中将は地上部隊の指揮官じゃなかったか?なんでまた本局所属の六課なんかに?)

同じ疑問が浮かんだらしく、なのはとフェイトの顔にも〝?〟マークが浮かんでいた。
今でこそガジェットの度重なる出現で六課の重要度は増すばかりだが、それより前から賛成していたというのは理解できなかった。
普通なら地上のことなのだから、身内(地上部隊)で解決しようとするはずだ。
こちらの疑問に察しがついたのだろう、カリムがはやての説明を継ぐ。

「レジアス中将が設立に賛成したのには理由があります。それは私の能力と関係あるんです」

カリムの説明によると、彼は優秀な部下として可愛がっているはやての勧めで、地上部隊最高司令官として預言に耳を傾けているらしい。
しかしそれだけではまだ六課の味方をする理由がわからない。
そこで立ち上がり儀式魔法を展開。準備を始めるカリムに、はやてが補足する。

「実は最近のカリムの預言に、1つの事件の事が徐々に書き出されとるんや」

どうやら準備ができたらしい。カリムが浮いていた紙の内1枚を手に取り読み始める。


『赤い結晶と無限の欲求が集い、かの翼が蘇る
閃光と共に戦乙女達の翼は折れ、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる
それを先駆けに善なる心を持つ者、聖地より鳥を呼び覚まし、数多(あまた)の海を守る法の船も砕き落とすだろう』


その預言が聞く限り悪いことのオンパレードであることに、初めて聞いた3人が絶句する中、はやてが更に補足する。

「ウチらはこれをロストロギア『レリック』によって始まる時空管理局地上部隊の壊滅と、管理局システムの崩壊だと解釈しとる。レジアス中将もそれを鑑みて、比較的自由度と拡張性の高い、六課の設立に賛成してくれたんや」

その説明に3人は納得した。しかしはやての顔が優れない。
ここは喜ぶところではないとは思うが、失望したような表情をするところでもないはずだ。
そんなカリムを含めた4人の心配が伝わったのだろう。はやてが訥々と、理由を口に出し始める。

「・・・・・・レジアス中将には、わかってもらえたと思ったんやけど・・・・・・なぁアルト君、なのはちゃん、あの配備計画は本当なん?」

突然話をふられた2人は

(ここでこの話が来る?)

と驚きつつも頷く。

「すみません、あの配備計画ってなんでしょうか?」

カリムとフェイトが話についていけないので、なのはが速成で説明する。

「昨日レジアス中将が話してくれた計画で、『バルキリーを量産、低ランク空戦魔導士に配備して被撃墜率を下げよう』って計画です」

その話を聞いていなかった2人は

「レジアス中将ならやりそうなちょっと強引な計画だ」

と納得した。

「確かにちょっとギリギリな計画だとは思う。・・・・・・んだが撃墜率は減るだろうし、悪い計画じゃないんじゃないか。どうしてお前はそんなに嫌がるんだ?」

そう言うアルトをはやては見つめると、1つの事を聞いた。

「アルト君、あなたの飛行機の通称は?」

「?なに言ってるんだ。バルキリーに決まって・・・・・・あっ!」

言いながらアルトは気づいた。
〝バルキリー〟この読み方は英語式の〝ヴァルキリー〟に端を発し、日本語では〝ワルキューレ〟と呼ばれる。
意味は昔の地球の北欧神話に出てくる半神の名で、戦乙女という意味だ。
確かアルトの調べた限りこの世界にも偶然か、はたまた必然なのか、その呼び名を持つ同じような神話があった。
それではやての悩みは理解できた。預言の戦乙女の記述が、心配なのだろう。しかし―――――

「バルキリーは戦乙女という意味だ」

アルトの言にカリム、フェイトが驚愕する。しかしなのははわかった風に静かだ。どうやら彼女も自分と同じ考えに行き着いたらしい。

「どうして2人は冷静でいられるん!?レジアス中将は戦乙女=バルキリーなんてわかってるはずやのに!?」

はやてが珍しく語気を荒げる。

「はやて、」
「はやてちゃん、」

2人の声が見事にハモる。なのははジェスチャーで『お先にどうぞ』と送りだした。

「お前はどうして六課があるか忘れてるんじゃないか?・・・・・・いや、俺たちの報告書がマズかったかもしれないな。〝つまらん例外〟以外あれは客観的事実しか書いてなかったはずだ」

その〝つまらん例外〟を書いた本人であるなのはは、投げられたアルトの視線に『テヘへ』と頭を掻いた。
アルトは続ける。

「だがあの時中将は俺達に、『ミッドチルダをよろしく頼む』って言ったんだ。今ならわかる。あの重さが!」

アルトに変わり、なのはがその先を継ぐ。

「レジアス中将は私達に期待してくれてるんだよ。『きっと六課が、預言を阻止してくれる!』って。・・・・・・それにね、戦乙女って六課とも取れるんだよ」

そう、どちらかと言えばそちらの方が可能性としては高い。
昨日見た設計段階のバルキリーは、反応エンジン、航法システムなど武器以外は魔法や魔力結合に頼らぬほぼ純正のものを踏襲していた。
そのためバルキリーはランカレベルの超AMF下でも十分飛行と戦闘が可能だった。
またその他の要因にしても、魔導士にあってバルキリーにない機構などほとんどない。逆に優秀なものならいくらでもある。
大規模センサーなど電子機器しかり、魔力の回復の早い小型魔力炉しかり、圧倒的な馬力や装甲しかり・・・・・・
はっきり言って脆弱ななのは達魔導士方が簡単に、預言の文句と同じく〝翼は折れ〟た状況になるだろう。

「・・・・・・その時、誰が私達を助けに来てくれるのかな?」

なのはの決め台詞はこれだった。
とりあえず現状の魔導士部隊には不可能だ。しかし、バルキリー隊なら?またこれは逆に、バルキリー隊が危険なら六課は?とも言える。
両方無力化されるとは考えにくい。しかし、どちらかが機能すれば預言を阻止できる可能性は失われず、助け合える。
レジアスの言っていた『君達1部隊に地上の命運を任せる訳にはいかない』とはこの意味があったのだ。

「じゃあ、レジアス中将はウチらの心配もしてくれてたんか・・・・・・」

自らを犠牲にしてでも預言を阻止しようと決意していたはやては、感極まった様子で俯き、声に出さず呟く。

『ありがとうございますレジアスおじさん。言ってくれないだけで、ずっとウチらの事も心配してくれとったんだね・・・』

はやてが再び顔を上げた時、一同は暖かい笑顔を彼女に向けていた。


(*)

「さて、実は新しい預言が出た話だけど─────」

カリムの一言に、彼女を除く全員が

「「「あっ!」」」

と声を上げた。

「・・・・・・そういえばそのために来たんだったね」

「にゃはは~完全に忘れてたのですぅ~」

フェイトとなのはの会話が驚いた人達の気持ちを最も端的に表しているだろう。

「でもカリム、預言は1年に1回じゃなかったんか?」

はやての質問にカリムも困った顔をする。

「それが月とは関係ない、別の力が作用したみたいなの」

彼女は言いつつ預言書を出し、読み上げる。


『月と大地の交わる所運命(さだめ)の矢が放たれる』


顔を上げたカリムが、どういう意味がわかる?と一同を見渡す。

「運命の矢ってのは攻撃かな?」

と、なのは。

「月と大地ってことは、宇宙か空だよね。・・・・・・まさか衛星軌道兵器なんてことは─────」

と、フェイト。

「どうやろう・・・・・・戦時中の軍事衛星は耐久年度を超えてるか叩き落とされとる。それに軌道付近なら管理局のパトロール艇が監視しとるはずや。この場合、まず悪いことなんかがわからんな・・・・・・」

腕組みしながらはやてが言う。

「なんかどこかで聞いたような文句だな・・・・・・」

とアルト。
その後議論を1時間近く続けたが結論は出ず、カリムの用事のためそのままお開きになった。

(*)

聖王教会から帰るとすでに日は落ち、ヴィータ教官率いるフォワード4人組も既に訓練を終え、宿舎に引っ込んでいた。

「ほんならなのはちゃん、フェイトちゃん、それにアルト君、わかってもらえたかな?」

自らの声が広い空間を波紋する。
ここは六課の隊舎の玄関前にあるロビーだ。ここからは私室のある部隊長室と、なのは達の宿舎とは反対方向となるのでお別れとなる。

「うん」

「情報は十分。大丈夫だよ」

2人は

「じゃあ」

と言って一時の別れを告げると、宿舎へと続く渡り廊下を歩いていく。
しかし、ラフに壁にもたれたアルトは動かなかった。

「・・・・・・どうしたん?」

「いや、『何か言いたそうだなぁ~』って思ったから待ってるのさ。なのは達行っちまうぜ、いいのか?」

はやては去っていく2人の後ろ姿を見て少し逡巡したが、すぐ首を

「うん」

と力強く縦に振る。

「・・・・・・いや、ありがとうな。本当は言おうと思ったんやけど、よく考えてみれば2人には言わなくてもわかってくれとると思う。」

2人を見送るその横顔は確信に満ちていた。

「そうか」

「でも、アルト君には確認しておきたい」

「なんだ?」

アルトはもたれた壁から離れると、腰に手をあてがい聞き耳をたてる。

「六課が、これからどんな展開と結末を迎えるかわかれへん。だけどこのまま六課で戦ってほしいんやけど、ダメ・・・・・・かな?」

「・・・・・・そうだなぁ、六課設立の目的が最初聞いた時と圧倒的に違うからな。実は『壊滅するかもしれない?』『単なるテスト部隊でなく管理局の切り札だった?』と来たもんだ。おまえの覚悟は立派だし、その気持ちには同情する・・・・・・だが、こんな〝危険〟なとこに俺らを引き込んだのか?」

アルトの口から出る痛烈な言葉にはやてはシュンとなる。

「・・・・・・やっぱり、いやなんか?」

「ああ、嫌だね」

アルトはにのべなく切り捨てた。

「危険なのは俺だけじゃないんだ。ランカだって関わってる。もしアイツに何かあったら、アイツの〝兄さんズ〟に反応弾(物質・反物質対消滅弾頭)か重量子ビームでスペースデブリ(宇宙の塵)にされちまうんだ。本当のことを知らされないで、そのことへ覚悟がないのに危ないのは御免被る。」

アルトの言葉にはやてはどんどん肩落とし、泣き出さんとまでになってきた。

「ごめん・・・・・・アルト君がそんなに嫌がってるなんて知らへんかった。気づけなくてごめんな。なんなら今すぐランカちゃんと一緒に─────」

部隊長室へ歩き出そうとしたはやてだったが、アルトの手が肩に触れて立ち止まり、彼を振り返った。

(*)

アルトは「やりすぎたか・・・」と胸の内で呟いた。こちらを見上げる小さな少女の目には大粒の涙が溜まっていたからだ。

「あぁ・・・・・・俺はそういう事を言ってるんじゃないんだ・・・・・・。つまりだな、危険な事でも下手(したて)に出て「ダメか?」とか頼むようじゃ人は着いてこない。たとえ俺たちのような〝友達〟でもな。そう言ってるんだ」

ここではやてはアルトの真意に初めて気づいたようだった。

「いじわるやね、アルト君・・・・・・」

アルトは破顔一笑。

「ほんとにな。よく言われるよ」

するとはやては涙をさっと拭うと、大仰に決めていい放つ。

「じゃあ、アルト〝くん〟とランカちゃんに〝どうしても〟手伝ってもらいたいんや!いいんやろ?」

「仕方ない、付き合ってやるか。・・・・・・お前もいいんだろ?」

アルトは壁に話しかける。そこはロビーに隣接するように作られている自販機コーナーの入り口のドアだ。
気づけば、さっきアルトがもたれるのをやめた時、彼は何気なくそのドアを少し開けていた。
はやてがその行為にタヌキ・・・いやキツネに摘ままれたような顔をしていると、緑の髪した少女が「てへへ」と笑いながら出てきた。どうやら偶然最初からいたようだった。

「うん。もちろん。私、このみんなのいる街を守りたいの!」

彼女の赤い瞳には強力な意志の力がみなぎっている。

「こんな2人だが、これからもよろしくな。」

アルトとランカが手を出す。
はやては2人の手を掴み「ウチこそ!」と、100万W(ワット)の笑顔で応えた。




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最終更新:2010年10月31日 23:24