『マクロスなのは』第14話「決戦の果てに・・・・・・」


魔導士部隊、グリーン大隊第3小隊隊長のディーン・ジョンソン一等空尉は手元に目を落とす。そこには自分の褐色の肌とは対をなす白いポールで繋がれた自身のデバイスが、そしてそこに付けられた魔力残量計がMAXを示している事が確認できた。
5分前に魔力補給を受けてから実はもう5回目に当たるこの行動だが、何度見ても体に闘志を沸き立てさせた。
顔をあげて周囲を見渡してみると雲の霧の中、自らの部下たちが来るべき時と命令を待っている。
彼らの顔はさすが全員が地上部隊の精鋭揃いと言おうか、思ったより落ち着いていた。
そこへ通信が開いた。

『こちら八神はやてです。まもなく大規模反攻作戦を開始します。各隊は合図を待って行動を開始してください』

「よし」

ジョンソンは閉じられた通信回線を一瞥すると部下たちに向き直る。

「聞いたか!パーティーの時間だ!聞いてるだろうが俺たちはあの鉄のチキンどもを七面鳥焼きにする!魔法が使えないあいつ等は俺たちに比べたら翼をもがれた鳥に過ぎない!だがやつらにもメンツがあるだろう。そこでだ、例えどんなにやつらを過小評価していたとしても決して奢るな!お前ら、わかったな!?」

「「サー、イエッサー!!」」

「生粋の地上部隊のくせに質量兵器と戦いたいとほざくお前ら半人前にはまたとないチャンスだ!魔導士スピリッツを見せてやれ!!」

ジョンソンの発破に小隊全員の歓声がそれに応えた。直後全員転送魔法の準備に入る。
今回の作戦は、まず魔力補給班(つまり非戦闘員)と魔力不足で弱体化した部隊に偽装した30人程の囮を配置する。
そしてそれを嬉々として攻撃してきた編隊に対して他の場所で待機する魔導士が幻術を行う。その幻術の内容は、バルキリーの目の前に魔導士部隊の壁を作ることだ。
機体を接触させるだけで相手を殺傷してしまうバルキリー隊は魔導士達を轢くまいと必死に制動を掛けてくれるはず。
そうして彼らの音速の運動エネルギーを奪った所で自分たちのような部隊が転送や超高速移動魔法で編隊を包囲、殲滅する。
彼らは乗り物であるバルキリーに常にコネクトして魔力を供給する。しかしアルト達とは違ってリンカーコア出力がクラスBと総じて低いため、推進や武装に魔力の大半を費やしてしまう。そのためまともな転送や高速移動、束縛魔法などの魔法が使えないのだ。
そのためこれは魔導士たる優位さを全面に押し出した作戦であった。

(しかし地上部隊に来てまで戦闘機相手に戦うことになるとはな)

ジョンソンは10年以上昔に従事した任務を否応なしに思い出した。
時空管理局本局の特別対応班である海兵隊に所属していたジョンソンは、戦闘機に代表される質量兵器との戦闘を経験する数少ない魔導士の1人であった。
機動課は通常1~2人の執務官と1個小隊(40人ぐらい)規模の武装隊がピンポイントの介入によってロストロギアを確保する。一方機動課の派生である海兵隊は2個中隊規模(400人ぐらい)の人員を用いてロストロギア奪取に伴う相手側の大規模な抵抗に対応できる部隊だ。
当時部隊は管理外世界で、戦争に勝つために次元破壊型のロストロギアを使おうとする国家からそれを奪取する任務に従事することとなった。
今回は管理外世界との抗争であったため、敵側では当然質量兵器が使われていた。
敵のレベルは決して低くはなかった。
科学技術のレベルはミッドチルダとほぼ同等。兵器も人間が単独で作り上げた文明にしては最上級と言っても過言ではない。
彼らは魔導技術こそなかったが、未だにできない空戦魔導士を赤外線ホーミングできるミサイルを開発していたし、副次的に転送魔法を妨害できるシールドも持っていた。
しかしこの作戦最大の激戦地『第47空域』は世間一般には質量兵器に対する魔導士の優位性を表した典型例として知られていた。
ジョンソンは当時部隊の上級曹長クラスで、空戦魔導士部隊を3編隊ほど任される立場にあった。
そのときの戦闘内容を書くのはまたの機会に送るが、彼は勝因を魔法とは捉えてなかった。
確かに陸戦兵器に匹敵する魔力砲撃や転送魔法、高速移動魔法は強力なツールであった。しかしもっとも大きかったのが、相手がこちらの手の内と戦術を知らなかったことだと考えていた。
バルキリー隊は元々管理局の魔導士。つまり魔導士の手の内と戦術を内部から知る者達であり、簡単な戦術ではすぐに見破られてその大火力でねじ伏せられるだろう。
ジョンソンにはそれが最大の不安材料だった。

「(だがそれこそオレ達の力の見せ所だ!)」

ジョンソンは改めて気を引き締めると、鬼軍曹と呼ばれた恐面(こわもて)で部下達を威圧した。
そこへ包囲開始の合図が送られてくる。

「奴らに地獄を見せてやれ!転送開始!」

命令と同時に部隊を一括りのミッドチルダ式魔法陣が飲み込み、瞬時に予定空間へと転送した。
目前にはVF-1が3機。どうやらガウォークで急制動をかけたところで突然現れた敵からの攻撃に慌てているらしく、3機には組織立った連携は見られなかった。と、なれば占めたもの。

「てぇーーー!!」

ジョンソン以下彼の指揮する15人の火線が一斉に火蓋を切り、そのすべてが1機のVF-1に吸い込まれた。
さすがの装甲もその攻撃に耐えきれず撃墜判定。機体は断末魔のようにミサイルを斉射するとすぐさま転送送還された。
置き土産たるミサイルは10発程度であったが、憎々しいことに自分の部隊と包囲している他2部隊の攻撃を一時的に逸らすことに成功して残り2機が連携する時間を稼ぎだした。
しかしもう遅い。あの2機もすでに消耗は激しいようだったし、包囲部隊は巨大な全方位シールドで敵を完全に閉じ込めているため包囲を突破するのは不可能。そう時間を掛けずに落とすことができる筈だ。
しかし残るバルキリー隊の反撃は熾烈なものだった。
各方面でお互い視認できないほど分散していたはずのフロンティア基地航空隊だが、まるで相互の意志疎通が常に行われているかのように集合を果たしていた。
作戦開始からたった20秒。ジョンソンが気付いた時にはすでにそれらは自分たちとは対岸の部隊を攻撃するところだった。

『これだけ人数がいれば余程の飽和攻撃でない限りミサイルの迎撃など簡単。ガンポッドの攻撃だって9~10機ぐらいなら魔導士部隊の全方位シールドで耐えきれる』

八神はやてはこう思ってこの作戦を決行したのだが、バルキリー隊の集弾率は予想を遥かに上回っていた。
集ってきた敵の3個編隊は迎撃を編隊単位で回避しながらバラバラの角度から同時に、しかしロックオンしたかのように全く同じ場所に集中射してきた。
9条もの魔力砲撃を浴びたその場所のシールドは数秒で崩壊し、そこにいた魔導士数人は瞬時に壊滅させられた。
まさかこれほど対応が早いとは思っておらず慌てた魔導士達はジョンソン含めほぼ全員が全方位シールドの維持という重要な任務を忘れて、新たな高脅威目標へとデバイスを照準する。
しかしそれこそバルキリー隊の思うツボだった。
防御から攻撃への転換には古今東西〝隙〟という名の多大のリスクを背負うことになる。それも集団であれば地上の航空管制局かホークアイの管制によって冷静かつ的確に行われるべきものだ。
魔導士部隊は司令官である八神はやてとダイレクトに意志疎通ができるリィンフォースⅡがそれを行っていた。彼女の能力もそれなりで適切な運用であったが、今回は相手が悪かった。

『違う!上や!』

通常の軍用回線でなく、民間の地上局経由で届いたはやての声。気づけば管制用のデータリンク回線は完全に沈黙していた。
どうやらバルキリー隊は反撃段階で広域ジャミングを行っており、電磁波を用いていた魔導士部隊のデータリンク、レーダー、他回線を全て封鎖されていたらしい。おかげで最初の増援の察知も遅れたようだ。
上空に視線を向けると、太陽を背に1発のクラスターミサイルがロケット弾を散布し始めた所だった。

「総員退避!!」

ジョンソンの指示が飛び、連携など取りようがないので各自バラバラに個人転送していく。しかしAランク魔導士とて転送魔法の発動には1~2秒の個人差がある。それは致命的だった。

「畜生!!」

そんな罵りなど関せずに彼の目前で多数の友軍が転送が間に合わず魔力爆発に呑まれていく。
猛烈に迫る魔力衝撃波。しかしジョンソンはなんとかその業火に呑まれる前に転送脱出した。
結果的に半数程の魔導士がクラスターミサイルの業火に包まれて撃墜判定。一方バルキリー隊はその加速力を生かして現場から離脱し、転送及び高速移動魔法で命からがら逃れた魔導士を各個撃破していった。

(*)

作戦失敗から5分後

「敵の編隊が旋回してくるぞ!垂直に展開して撃ちまくれ!」

ジョンソンが部下に檄を飛ばす。
臨時編成にも関わらず部下達は密集態勢から瞬時に展開して壁を形成する。
そこへ3機の敵編隊より放たれた6発のミサイルが迫る。Aランク魔導士である自分達にとってそれを迎撃することはさほど難しくはない。しかし高速で回避運動するので時間稼ぎの囮としては優秀であった。それにそれを迎撃しない場合の被害も計り知れない。
部隊の半数の火線が必然的にミサイル迎撃へと当てられ、残りが敵編隊に放たれる。

「おいおいマジかよ!?」

1人の魔導士が目前の光景に声を荒げる。
火力密度が半分まで低下した事で敵はこちらの迎撃をものともせず、PPBと装甲でごり押してきたのだ。
そしてミサイルが放たれてから5秒後、敵は後ろへと抜けていた。
あちらに被害はない。しかしこちらは30ミリ模擬弾で12人中4人が転送送還されていた。
追撃や追い撃ちしようにも敵はすでに遥か彼方。

「奴ら速いし硬すぎる!」

へッドオン(相対)からたった5秒では砲撃一発を放つのが限度。さらに砲撃によるデバイス冷却のせいで模擬弾を受けきる程のシールドが展開出来ず、ただの的であった。
バルキリー隊はその速度とガウォークの旋回性能、そして火力を有効活用した一撃離脱戦法に終始し、魔導士部隊にはまったく有効弾が入れられなかった。
それを補うために連携を取ろうにもあれ以来魔導士部隊はバラバラに分断されていて、索敵範囲外の友軍の位置すらわからない状況へと追い込まれていた。

「さっきの作戦で不覚を取られなきゃ・・・・・・!」

ジョンソンは悪態と共にデバイスを強く握り締めた。
いまでは通信回線は民間をも封鎖されてしまったので使えない。
かつて小隊長だった自分も部隊が散りじりになったため、所属に関係なく生き残りをかき集めている。しかし敵は一定以上のグループになると容赦なく攻撃してくるので他の場所でも小グループで各個に戦い、一方的に撃破されているようだった。

(このままじゃ負ける・・・・・・!)

念話を含めた全周波に対してスクランブル(ジャミング)を掛けているにも関わらず組織的に行動するという従来の技術ではありえないということも相まって歯噛みするジョンソンだが、沈黙していた無線に久しぶりに声が入った。

『八神はやてより全魔導士部隊へ。現在私の魔力を使ってECCM(対電子妨害手段)を展開中。しかし短時間なので簡潔に説明します。これより演習空域中央のジョンソン一尉の部隊に〝切り札〟を転送します。生存者はそこに集合。以降彼女より直接指示を受けてください』

それだけ告げると再び回線は封鎖された。

(切り札だと?しかも俺の所に!?)

すぐに部隊に円陣を敷かせて周辺警戒。そして少人数のグループが2つほど合流した時、遂にそれはやってきた。
展開された魔法陣から出てきたのは外見年齢に似合わぬ威厳と風格を備えた人物だった。

「これより私が指揮を取る。異存はないか?」

もちろん肯定以外の意思表示をする者はなかった。

(*)

飛び交うミサイルと模擬弾。そして魔力砲撃。所々で魔力爆発の花が咲き、断末魔の悲鳴とともに散っていく。
戦況はフロンティア基地航空隊側の圧倒的有利に傾いていた。それは何より指揮管制能力の差にある。
互いに火力・航空管制センターである『ホークアイ』の指揮・火力管制が受けられぬため、各自で対応している。
魔導士側は先ほどまで小隊ごとに分けてそれをはやてが切り盛りしていた。しかしリィンの手伝いがあるとは言え人が1人で行う戦闘管制には限界があり、それがデバイスにしか頼れぬ魔導士の限界だ。
しかもそれすらこちらの展開する広域ジャミングで封じている。
バルキリー隊は数も少なく、フォールド波を使用したJTIDS(ジョイント・タクティカル・インフォメーション・ディストリビューション・システム。統合戦術情報分配システム)を全機に配備している。
そのため魔導士には長い訓練と互いの信頼性を必要とする目標の割り当てや火力集中といったことをFCS(火器管制システム)のリンクによって難なくこなす事ができる。
また、索敵外の敵や友軍の情報もデータリンクを通してリアルタイムで知ることが出来るため効率的な部隊運用が可能だった。
今フロンティア基地航空隊を任されているスコーピオン小隊の隊長、アーノルド・ライアン二等空尉は久しぶりの部隊指揮に心躍らせていた。
彼は元々地上部隊の対テロ特殊部隊、通称『特別機動隊』の空戦部隊に所属していて、魔導士ランクはA+だ。しかし才能に恵まれなかった彼のリンカーコアはクラスBだった。(通常魔導士ランクとリンカーコアのランクは釣り合うものだが、上回っているのは彼の努力の証と言えよう)
さらに彼は25歳の若さにして豊富な実戦経験と科学技術に対する深い教養があった。
しかしそんな彼は4ヶ月前に、突然の異動が命じられた。配属先はまだできたばかりの教導隊。それも教官としてではなく、生徒としての入隊だった。
最初彼は

「左遷された!」

と大いに嘆いた。しかし他の生徒の経歴を見たライアンはある共通点を見つけた。

  • 自分を含めほぼすべての者がミッドチルダ防衛アカデミー、もしくは通常大学で工学を履修おり、優秀者であること。
  • リンカーコアのランクは低いが、管理局の未来を十分背負っていける優秀な人材が階級を尉官以下から問わず採用されていること。
  • 原隊では十分誇れる実績をそれぞれもっていること。

この3点だ。この事からこれが左遷でなく、何か大がかりな革命の予兆と予感したライアンは粛々とそれを受け入れることにした。
結果としてそれは大当たりだった。
彼は今でも最初にやったOT・OTMの理論を聞いた時の感動を鮮明に覚えている。
それは既存の流体力学の理論をねじ伏せ、魔法技術との融合で更にねじ曲げることが可能になったOT改『アクティブ空力制御技術』だったが、その感動は言葉に尽くせないものがあった。
今では彼は、オーバーテクノロジーとミッドチルダの技術の粋を結集して改良されたヴァリアブル・ファイターという機体を操縦できることを誇りに思っていた。

閑話休題

ライアンは各隊に指示を飛ばしながら敵を撃破していく。
しかし彼らフロンティア基地航空隊全体を覆うある一つの認識があった。

『自分達は確実に負ける』

端から見ると一方的優位にあるように思えるが、それは幻想に過ぎない。
バルキリーの出力を持ってしてもこれほどの大規模なジャミングをこれ以上維持することはできないし、何より弾薬がない。
VF-1Bは中HMM:8発、MHMM:32発。VF-11はこれに内蔵型MHMM:10発、クラスターミサイル:2発。そして2機種共通の30mm多目的ガンポッドの模擬弾3000発超。
使うと無くなる兵装はこれだけだが、単独ではMMリアクターを使っても魔導士を撃墜するのは難しい。
彼らは対魔法戦のエキスパートであり、魔力砲撃などの単純魔力攻撃に対する対処法が腐る程蓄積されている。
かといって近接戦闘こそ相手の思うツボであり、結局弾薬の量こそが生命線であった。
ライアンは攻撃の合間に友軍の全弾薬量と敵の配備を見直す。
自らの指揮下にあるバルキリーは残り13機。大抵の機がミサイルを80%以上撃ちきり、ガンポッドの弾薬が半分ぐらいの機も珍しくない。
魔導士はジャミングのおかげでバラバラにこそなっているが、その数は凄まじい脅威だ。連携を取り戻しさえすれば防御陣のままチャンスを伺っているらしいC群を伴って大規模な反抗に打って出てくるのは必至だった。
頼みの制圧兵器であるクラスターミサイルも自分と他2機が保有する3発しかない。
これでは派手に正面戦闘をすれば全兵器を使い果たしてしまうだろう。
だからと言って座して負けるのは面白くない。

「只では負けないぞ・・・・・・目にもの見せてやる!」

そのための戦術は既に練り上げている。

『スカル小隊、交戦』

何度目かの交戦宣言が無線機から聞こえる。

「これだけ数が・・・・・・な、なに!?」

ライアンはその異常事態に画面を二度見することになった。先ほどまで13機それぞれのライフが表示されていたのだが、突然2機の反応が消えたのだ。
どちらもスカル小隊の機体で、中央へと集結し始めたらしい敵の撹乱のために送り、さきほど交戦宣言を聞いたばかりだ。
故障かとも思えたが、現実であることを告げるAWACSの撃墜報告が無線から届いた。

「どうやって落とされた?」

確かにそこには10人程のグループが形成されているようだったが、それでもこんなに一瞬ではやられないはずだ。

「カプリコン小隊、状況は分かるな?」

『ああ、スカル小隊が交戦宣言の3秒後に壊滅した。だろ?』

「そうだ。中央に一番近いお前の小隊に原因を探ってもらいたい。こちらもすぐに急行する」

『了解。必ず正体を暴いてやるぜ!』

レーダーの中でカプリコン小隊のアイコンたちが演習空域中央へと転進していった。
ライアンも操縦桿を倒して中央へと進路を取る。彼らとは10秒ぐらいの差で到達できるはずだ。
カプリコン小隊のアイコンが射程へと突入する。刹那2機のVF-1Bの反応が消えうせ、隊長機であるVF-11Sの転換装甲のキャパシタが一気になくなった。
どうやらとっさにバトロイドに可変することでその一撃を凌いだようだった。

『こちらカプリコンリーダー!敵六課戦力見ゆ!』

ロックオンアラートをBGMに開かれた回線が叫ぶようにそう告げる。

『ライアンよく聞け!敵は―――――!!』

しかしそれは途切れ、同時にデータリンクの反応をも消えた。

「カプリコンリーダー!・・・・・・おいジョエル!応答しろ!」

当然応答はなかった。

(バカな!レーダーにSランク魔導士の反応はないはずだ!)

ライアンは改めてレーダーを見たが、その場所にSランクを示す赤い反応はなかった。しかし考えるには接敵までの時間がない。彼は僚機に注意を促すと顔を上げる。その時、隣を並進していた僚機が撃墜された。
彼はその正体を一瞬で悟ると、操縦桿を前いっぱいに倒して機体を無理やり下降させた。生き残る僚機も続く。
ちなみに、普通なら過度のマイナスGがかりレッドアウト(頭に血液が逆流して失神する現象)してしまう程の機動だ。しかしEXギアであるデバイスの重力制御装置の恩恵で、この程度ならそれはある程度なら相殺されるようになっていた。
頭上を見上げると、さっきまで自分達のいた位置にチェーンで繋がれた刃物が擦過していった。
僚機の撃墜でジャミングはもう打ち止めだ。ライアンはECM(電子妨害手段)を切ると、彼女に呼びかけた。

『(さすがですね。シグナム〝隊長〟)』

念話によって送られたメッセージの返答はすぐに来た。

『(ほう、ライアンか。久しいな)』

シグナムは少し離れたところでその〝隠れ蓑〟から姿を表した。



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最終更新:2010年12月27日 21:42