『マクロスなのは』第18話 後半


(*)

B-2エリア

そこはホテルから北西に1000メートルほど離れた場所にある。
今そこには第256陸士部隊のロバート・ジョセフ三等陸尉指揮する第5小隊が展開していた。
自然保護のため森林の保存されているホテル周囲では、植生が濃く、迷彩はよく馴染んでいた。
しかしそんな中、よく目立つ肌色がある。ヘルメットを外したロバートだ。彼は部下達を散開させて手頃な石に座り込み、しばしうなだれていたのだ。

(どうしてこう、俺らはなにか起こりそうな場所ばっかり行かされるんだろう?)

それは『実績のある部隊を重宝する』という上層部の当たり前な行動にすぎないが、彼らは特にあっちに行ったりこっちに行ったり。まるで特殊部隊のような扱いを受けていた。
今もクラナガンから200キロ以上離れたこのホテルに展開させられている。
避暑地として有名なこの土地『軽井沢』だが、休暇でないのが悔やまれる。
また重要なことに彼らはこの1ヶ月間ほとんど休暇をもらっていなかった。

(うぅ・・・・・・第34陸士部隊に編入された連中はクラナガンの防衛に専念で、休暇が週休で取れると言うじゃないか・・・・・・)

そう、ロバートが不満なのは同じく元新・統合軍だった同僚達との境遇の違いだった。
ほとんどの者がBランクであった中で、ロバートはミシェル達と同じくAランクだった。
そのため彼はキャリア組として精強なこの部隊で最新装備も優先して配備してくれたし、階級も悪くないところまで登り詰めた。
だが、積み上がってゆく貯金を眺めるだけというのは独り者のさみしいところだった。

(くそ!休暇をとったら南国のフィリッピン(第97管理外世界のフィリピンとほぼ同じ場所にある。パラレルワールドのため、陸地は ほぼ地球の地図に準拠する。ちなみにクラナガンは東京)あたりでバカンスしてやる!)

ロバートは平和なビーチに寝転び、健康な美女達を従える自分を強烈に自己暗示すると、目を見開きヘルメットをかぶり直した。
その精悍な顔にはもう弱気になっていた彼はなりをひそめ、勇敢な指揮官の顔があった。
そこに報告に来たのだろう。足音がやってくる。

「ジョセフ隊長、増援が到着しました」

自分のことをジョセフと呼ぶのは、友人であり部下でもある佐藤曹長だけだ。彼はこの世界出身だが、あるアニメの趣味に関して共通点があり、馬があった。

「増援?どこの部隊だ?」

「はい。機動六課所属、スターズ分隊です」

「ああ、あの子達か」と言うと佐藤が頷く。どうやらもう会ってきたようだ。

「じゃあ俺も、挨拶に行きますか・・・・・・」

ロバートは各種装備を背負って、文字通り重い腰を上げた。

(*)

ホテル上空500メートル

そこは今、フロンティア基地航空隊と空戦魔導士部隊が広域巡回していた。

「こちらサジタリウス1。D-6エリアの地上は異常なし。引き続きB-2エリアに移る」

『了解、サジタリウス1』

森林という障害物のため、成層圏という高みにいるAWACS『ホークアイ』のレーダー外である地上の監視は高性能機器を搭載したバルキリーと陸士部隊の仕事だ。
しかし一面緑のためさすがに見飽きてくる。だがあくびをつきかけたアルトの目に何かが写った。
誰かわからないが人が2人、手を振っている。場所はホテル寄りのB-2エリア付近。確か第256陸士部隊が展開しているはずだった。
〝すわ緊急事態か!〟と思い、急いでモニターの倍率を上げる。すると徐々にその人影の姿がはっきりしてきた。
緑の中には目立つ白いバリアジャケット。スバルとティアナだ。笑顔なところをみると、偶然こちらの機体を見つけて手を振っているらしい。
現在管理局にはVF-25は自分の乗るこの1機しかないため、一目瞭然なのだ。

「ふぅ・・・・・・なんだよ、びっくりさせやがって。・・・・・・でもまぁ、こういうのも悪くないか」

ひとり呟くと、ガウォークの腕を展開して振り返す。そしてホークアイとの回線を開き

「B-2エリア、異常なし」

と送った。

(*)

その頃ホテルの地下駐車場には1台の中型トラックが入って来ていた。
トラックはバック駐車せず、そのまま駐車スペースに収まった。

(まったく楽なものだ。まだデジタル式コンピュータなど使うから、簡単にハッキングされる)

男はトラックから降りると鍵を締める。その男は青い短髪に黒づくめで、黒いサングラスをしている。
黒づくめとは普通ならすごく目立つ格好だが、熟練の技を持つ者がその格好をするとまったく目立たなくなる。そんなプロだった。
周囲に人がいない事を体に内蔵されたパッシブ・レーダーで確認すると、転送魔法を行使する。
この近くにはシグナムがいたが、彼女のデバイスはその魔力反応を見抜けなかった。無論更に遠くにいるバルキリーやホークアイにも探知できない。
フォールド波を応用し、魔力反応を隠ぺいするこの装置は男の─────いや、男の扮装をした彼女の秘密兵器だった。

(さて、どうやって取りに来るのかしら)

彼女は微笑むと、何処かへ転送されていった。

(*)

所変わって、ホテルから北西方向に3キロほど離れた小山に2人の人影があった。

「こんなところに来てどうする? お前の探し物は、ここにはないのだろう?」

2人のうち大柄な方が言う。その男の声はぶっきらぼうだが、どこか優しげだった。
小柄な方は、男のコートを摘まみながら答える。

「でもドクターのおもちゃが─────」

その声はまだ幼そうな少女の声。そして近くの林から彼女の言葉を証明するようにガジェットⅠ型が数機現れた。
しかしどうした事だろう?民間人にすら躊躇わず発砲するガジェット達は2人を決して照準せず、そのまま通り過ぎてしまった。
時を置かずガジェット達が向かった先で爆音が響き、黒煙が上がる。どうやら防衛部隊と交戦状態に入ったらしい。
しかし2人はその様子に微動だにしなかった。そんな2人の前に映像回線が開かれる。
回線形式は時空管理局も全面依存している民間の株式会社「MTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)」のものだ。しかし多少細工されているのか画像が乱れていた。

『ご機嫌よう、騎士ゼスト、ルーテシア』

その画面に写っていたのは少女─────ルーテシアの言うドクター、スカリエッティだった。
そしてルーテシアが

「ご機嫌よう」

と彼に挨拶を返したのと対照的に、大柄なゼストと呼ばれた男が

「何の用だ」

と冷たくあたる。

『あのホテルにレリックはなさそうなんだが、実験材料として興味深いものがひとつあるんだ。少し協力してはくれないかね?君たちなら、実に造作も
ないことのはずなんだが─────』

「断る。レリックが絡まぬ限り、お互いに不可侵を守ると決めたはずだ」

スカリエッティの頼みごとはゼストによって一蹴された。
しかし彼は懲りずにもう片方の少女、ルーテシアに再度依頼する。すると

「いいよ」

と簡単に了承を得た。

『優しいなぁ、ありがとう。今度ぜひ、お茶とお菓子でもおごらせてくれ』

その間に何かのデータの送信が終わったようだ。彼女のグローブ型のデバイス『アスクレピオス』が数度瞬いた。

(*)

『じゃあ、ご機嫌よう。ドクター』

「ああ、ご機嫌よう。吉報を待っているよ」

スカリエッティはそう返すと通信を切る。
隣では、その通信を逆探知されぬよう、先の通信会社のシステムへのハッキング作業が進行中だ。
彼の秘書であるウーノが

「メインコンピューター、ブロック。ルートをダイレクトからバイパスに。対策システムへのデコイ展開。モーションマネージャーを─────」

など、ぶつぶつ呟きながら実行していく。
その手際を横目で見ていたスカリエッティは、突然背後に来た気配に振り返る。

「・・・・・・あぁ、君か」

そこにはお得意の男装をしたグレイスの姿があった。
ちなみにこの男性化する原理は、スカリエッティですら正確なところは不明だった。特に髪が一瞬にして伸びたり短くなるのが。しかし、センサー記録から光子の残像が確認されているため、暫定的にホログラムの一種と結論づけている。

「あの子達は誰だ?私がお前と初めて接触してから8ヶ月が経ったが、今までに見たことのない顔だ」

その目はサングラスに隠れて見えないが、少し驚いているようだった。
スカリエッティは彼女でも驚くのか。と心の隅に置きつつ答える。

「そんなに私に友達が少なくみえるのかな? まぁ、驚くことはない。彼らは私のスポンサーの実験台だった者逹だよ」

そう言うと、ガジェットから送られてくる映像に目を移した。

(*)

それは突然だった。
ロバート達はスターズ分隊の2人に会って、お互いの守備位置の確認などをして部隊に戻った。
しかしどうしたことか。気づいた時には目の前にガジェットⅠ型がいるではないか。
その場はなんとか切り抜けたが、敵はこの方面に攻撃を集中しているらしい。
飛び交う弾丸、レーザー、そしてカートリッジ弾。それらが相手に当たる度に互いの体力を削っていく。
そこにやっと指揮体制が整ったのか通信が入った。

『前線各員へ。現在状況は北西より陸戦型ガジェットが多数。また多方向からガジェットⅡ型及びゴーストの出現を確認しました。AWACS『ホークアイ』の総合管制と合わせて、私、シャマルが地上指揮を行います。では、陸士部隊の各小隊は戦力の半数ずつをB-2エリア付近に集結。連携取りつつ応戦してください』

第256陸士部隊はホテルからそれぞれ1ブロック離れた位置に、円を描くように展開している。
そのためシャマルは襲撃の矢面にいない小隊(例えばホテルを隔てたF-6エリアに展開している第2小隊など)の戦力を半分回せ。という指令を出したのだ。しかし─────

「・・・・・・なぁ、シャマルって誰だ?」

「さぁ。なんで部外者が命令を出すんだろ?」

この疑問に陸士達は当惑した。
階級もなく、ただ指令を出すシャマルに反発する者もいた。しかし送られてくるデータは陸士達を驚愕させるに十分だった。
レーダーの効かない森の中であっても敵の正確な位置と数、そして機種がわかる。
それは彼女のデバイス『クラールヴィント』の支援魔法だが、そんな物なしで戦ってきた陸士達にはありがたいものだった。
また、シャマルが〝機動六課〟であるという事実がホークアイからもたらされると、誰1人彼女を疑う者はいなくなった。
それは機動六課が特殊で実績ある部隊だと世間一般が認識している証左であった。

(*)

『(フェイトちゃん、主催者さんはなんだって?)』

会場内の警備を続けるなのはが、念話でフェイトに問う。

『(外の状況は伝えたんだけど、お客さんの避難やオークション中止は困るから、開始予定時間まで様子を見るだって)』

ホテルの出入口を警備するフェイトが、外の状況を窺いながら答える。
向こうの方では待機しているティアナとスバルが

「陸士の皆さん頑張って!」

とホロディスプレイで応援(観戦)していた。

(もう! 野球じゃないのに!)

フェイトは今一つ緊張感に欠ける2人に、小さくため息をついた。

(*)

「11時の方向にⅢ型が4機、一気にやるぞ!」

「「了解!」」

ここは陸士達が昨日から土嚢を積んで臨時に作った塹壕だ。そこにはロバート以下4人が隠れている。
しかしシャマルの支援によって相手の位置が割れているため、最後まで頭を出す必要はない。
ロバートを含めた4人はランチャーにカートリッジ弾を装填すると、残りの1人がMINIMIで敵を掃射。怯んだところに4人がカートリッジ弾を一斉に撃ち込む。
着弾、そして爆発。
こうしてあっという間にその4機を擱座せしめた。
陸士達が一息つく間に新たに出現したミサイル搭載型が接近してきた。
彼らが前のままの装備なら、ここは最優先でそれを撃破しなければならない。また、ミサイルを発射されてしまったら塹壕を棄てて応戦しつつ後退をするのがセオリーだ。
しかし撃破する優先順位はともかく、ミサイルに関しては違った。

「ミサイル、来ます!」

部下の警告を証明するように白煙を吹き出しつつそれが向かってくる。

「迎撃!」

「了解!」

部下はMINIMIのセレクタレバーを1段変えると、ミサイルに向かって引き金を絞った。
連続して吐き出される青い光の玉。
今回発砲された弾丸は魔力球だ。それはミサイル近くを通った瞬間自爆して、ミサイルを見事誘爆させた。
今回アップデートされたMINIMIは、この近接信管付き魔力球を自動生成。速射する能力を与えられていた。
元々対AMF戦用に偏っている陸士達の現行装備は質量物を射出することを是としていて、開発者、陸士達、共に魔法の存在を忘れていた。
しかしミサイルには強いAMFが存在しない。

『ならば応用の効く魔法で迎撃したらどうか?』

前回の旧市街地戦で空戦魔導士部隊の隊員から出たこのアイデアは開発者の耳に届き、このような方式にアップデートされていた。
試験では、マッハ5を記録するバルキリー隊のハイマニューバミサイルにも有効であるという結果が出ている。それより性能の低いガジェットのミサイルを撃墜するのはわけないことだった。

「次、Ⅰ型とⅢ型が2機ずつ」

「いょっしゃあ!どんどん来い!」

ロバートは溢るるアドレナリンに浮かされながら、敵を迎撃していく。
撃破されたⅢ型から漂ってくるゴムや潤滑油の燃える匂いも、彼の燃える闘志の石炭にしかならなかった。
こうして地上の敵は順調に駆逐されつつあった。

(*)

上空でも防空部隊と襲撃側の空戦が行われていた。
バルキリー登場後の空戦はまず視認外からの長距離ミサイル(現在バルキリーとゴーストのみ運用している)戦に始まり、次に魔導士、バルキリー狙撃仕様部隊の有視界による長距離砲撃戦。最後に近接戦闘、つまりドッグファイトへと突入する。
しかし今回彼らにはミサイル及び砲撃戦が省略された。これは近すぎて狙えないという理由ではない。もし地上に展開する陸士達やホテルに撃墜したガジェットが墜落したら大惨事になるからだ。
それにもしミサイルで撃墜するなら爆発力をあげて一瞬で敵を粉微塵にするしかないが、それでは友軍も巻き込む可能性が高いため近接戦闘には向かない。
砲撃も入射角度が浅いと敵のシールドに弾かれ、跳弾が危険だ。
そうなるとバルキリー、魔導士も魔力刃で直接切るか、魔力球を撃ち込んで内部爆発を目指すしかないのだ。
相対的に動きの鈍いガジェットⅡ型ならそれもいいだろう。だがゴーストではそうは問屋が卸さなかった。
元々高機動を売りにしたゴーストを狙撃するのは至難。しかし飛来数は少なく、東側からしか来なかった。そこで防空部隊は数に物を言わせる戦術を取る事にした。

『そっちに行ったぞ!』

ガウォーク形態の生み出す三次元機動によってゴースト数機を追い詰めた天城とアルトが、後方のE-5エリアに展開する臨時の狙撃部隊(ミシェルやさくらのバルキリー狙撃仕様部隊及び、魔導士部隊の砲撃特化部隊)に通信を放つ。
撃ち上げられた数発の魔力砲撃はあやまたず追い詰められたゴーストに命中。バラバラに串刺しにする。そして更に細かくするためミシェルとさくらの放った76mm榴散弾が飛び込み、破片すら地上から消した。

『一丁あがり!』

ミシェルのVF-11SG(狙撃型指揮官機仕様。しかし指揮官機仕様のS型に、さくらと同じライフルを持たせただけ。本当なら火器管制システムが違うため遠距離への正確な狙撃など出来ないはずだが、ミシェルの卓越した技量がそれを埋めた)が操縦者の動きをトレースしてガッツポーズした。

『こちらスカル2。南方のガジェットはほぼ掃討。被害なし』

南方より侵攻してきたガジェットⅡ型を迎撃していたスカル小隊・魔導士連合部隊も大丈夫なようだ。そこにホテル上空を守っていたヴィータが通信を開く。

『こちら機動六課スターズ2。敵が来ないぞぉ~前線に行っていいか?』

どうやら痺れを切らしたらしい。周囲の頑張りでホテルから半径1キロ以内、つまり六課の守備範囲に敵が侵入したことはない。フォワード4人組も手持ち無沙汰で見守ることしかできなかった。
隊長陣も出撃待機がかかっているが、シャマルはこの程度の敵戦力なら出す気はないようだった。
シグナムもこの機を狙って地下駐車場で密売が行われることを阻止するため、地上に出ず、駐車場の見回りを続行している。
だがそれは警備員でもできること。つまり地上部隊は─────

「─────地上部隊は、もうすぐ六課を・・・・・・いや、我々を必要としなくなるのだろうか?」

シグナムは誰もいない駐車場を歩きながら呟く。それは誰に向けたものでもない。自らに向けたものだ。
六課の存在理由。確かに預言の事もある。だが今の戦いを見ると、負ける理由が思い当たらなかった。
このままバルキリーが量産されて陸士部隊も強化された暁には、自分達高ランク魔導士の居場所はペイロードの限られる機動課の次元航行船に限定されるだろう。

(・・・・・・まぁ、ミッドチルダの平和が守られるなら、それも悪いことではないか)

そう思考を締めくくったシグナムは前を見据える。その時、通信が入った。相手は同じくここを警備している警備員からだ。確かそう離れていない場所を巡回警備していたはずだ。

「どうした?」

シグナムが応じると、画面の中の彼が言う。

『それが、変な音がすると思って確認しにきたんですが・・・・・・こんな有り様で・・・・・・』

画面にコンテナのドアが大破したトラックが写し出される。

『来た時にはもう・・・・・・』

聞くとこのトラックのナンバーはコンピュータ記録にはあるのだが、審査の際に提出が義務付けされている書類がないらしい。
どうやったのかわからないがトラックの持ち主はホテル側のコンピュータ記録を改ざんしたらしかった。

「そうか。とりあえずトラックの持ち主を探して逮捕するよう手配してくれ。私はその車上あらしを─────」

その時彼女の幾多の戦場で鍛えられた鋭敏な五感が〝何か〟を感じた。

『どうしました?』

「・・・・・・いや、指示通り頼む」

『了解しました』

通信は切られ、周囲が静まりかえる。
耳をすますと何か羽音のような音が聞こえた。少なくとも人ではない何かが近くにいる。
そう感じたシグナムはすぐにバリアジャケットに換装した。出撃待機で起動承認はすでに出ているため支障はない。
音は目の前のコンクリートの壁から出ているようだ。
しかしレヴァンティン搭載の各種センサー(電波式アクティブ・レーダー、赤外線式パッシブ・レーダー、魔力感知センサーなど)にはすべて反応なし。
こうなると小さな虫でもなさそうだった。

「・・・・・・」

科学を使ったセンサーが全て異常なしを告げている。しかしただひとつ、音感知センサー─────耳だけはその場所に何かがいると小さく警告していた。

「紫電、一閃!」

いままで自らの身を守って来た五感を信じたシグナムは、その場所に非破壊設定の炎を纏った魔力砲撃を放つ。
すると砲撃が壁に当たる寸前に壁が不自然に歪み、何かが飛び退いた。

「やはり光学迷彩か」

どうやらさっきの攻撃で迷彩が解けたらしい。姿を視認した。
その姿は人型だが、どこか甲殻類の昆虫を思わせるフォルムをしていた。そしてそのスマートな四肢は、ある種の優美さと力強さを兼ね備えていた。
しかしもっとも特徴的なのは何かの箱を重要そうに抱えていることだった。

「お前がトラックを破壊した犯人か?」

その人型甲虫は答えない。というより喋れないのだが─────

「そうか、わかった。こちらは時空管理局本局所属、機動六課のシグナムだ。おまえを逮捕する」

元々こういうつもりだったらしい。シグナムは管理局のお決まりの口上を述べると、レヴァンティンを構える。
相手もこちらに敵意があるようで、腕から何か鋭い爪のような刃物が伸びてきて固定武装となった。
シグナムは不覚にもこれから未知なる敵と戦えることに心躍らせてしまっていた。

(*)

時系列はほんの少し戻る。
スカリエッティからルーテシアと呼ばれていた少女はその足元に薄暗い紫色の魔法陣を展開、詠唱していた。

『―――――我は、請う。小さきもの羽ばたくもの、言の葉に応え我が命を果たせ。・・・・・・召還、インゼクトズーク』

直後魔法陣が発光。眩い光があたりを包み、視界を遮る。それが晴れたとき、彼女の周囲を100匹近い小さな虫が滞空していた。否、それは虫ではない。有り体にいうと画鋲に羽をつけたような機械生物は手を差し出すルーテシアの指先に乗り、その指令を受ける。
体電位から指令を読み取ったその一匹が周囲の仲間に相互データリンクを通して伝え、瞬く間に全体に伝達された。

「いってらしゃい。気をつけて行ってきてね」

ルーテシアの言葉に機械生物たちは発光して応え、己が目標、能無しの機械たちの元に向かった。
そして数瞬の後、陸士たちの悲鳴が辺りに響き渡った。

To be continue ・・・・・・

――――――――――

次回予告

賢くなった敵に総崩れになる戦線
しかし彼らはその中で、ある大きな違和感を持つことになる
次回マクロスなのは第19話「ホテルアグスタ攻防戦 後編」
「天城ィィィーッ!!」

――――――――――



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最終更新:2011年03月28日 18:13