第十二話「疑念」

あれから銃を突きつけ、シャマルを脅すような格好が続いたのだが幸いにして衝突が起きることはなかった。

「なあ、ソースケよ。ここでシャマルを殺したりしたら俺たちどうやって帰るよ?」

クルツのこの一言が全ての決着を付けてくれた。
盲点だったその言葉に宗介はしぶしぶ拳銃を懐にしまう。

「・・・撃たないんですか?」

シャマルの問いに宗介もクルツも無言のままだった。

12月12日 2321時
海鳴市  セーフハウス

それから、シャマルの転送魔法で宗介達は地球に帰ってきた。
セーフハウスに戻ってきたが、まだマオは戻ってきてないようだ。
シャマルと別れる途中に聞いた話だがマオはシグナム達と一緒にあの場を離脱したらしい。
帰ってきてすぐにこの世界に残って任務を続けている情報部員のケット・シーに連絡を入れたところ
どうやら八神はやては友人の家に泊まっているらしい。

「それで?どうするんだよ、これから」

「どうとは?」

「お前が言ったんだろ?『闇の書』が危険な物だって」

クルツの言葉は相変わらず軽いが、宗介は考え込んだ。
あれが本当に大量破壊を引き起こす危険性がないのなら当然、自分達はこのまま任務を続けるべきだ。
だが、もしそうでなければ・・・

「ああー、疲れた。ただいまー」

しばらくして玄関が開き、疲労困憊といった感じの声がマオの帰還を知らせる。
パイロットが着るスーツを片手に持ち、リビングルームに入ってきた。

「姐さん、おかえり」

いつの間にかクルツは台所から持ってきた缶ビールを飲んでいる。
どうやら考え込んでいる宗介を待つのに飽きたようだ。

「あ!クルツ、ちょっとそれはアタシのよ」

「名前書いてなかったぜ?」

小学生みたいなことを言うクルツに疲れた体を引きずりながら近づくマオ
口からはクルツに対する不満が呪詛のように漏れだしてきている
前にこういう任務に就いたときも私のカニ缶を・・・だの
弾薬をドンブリ勘定ばっかり・・・などなど、挙げればきりがない。

「アンタって奴は、毎度毎度いい加減なことばかりして・・・!」

マオはギリギリとクルツの首を締め上げる
だが、疲れているのか普段のキレがない(それでも十分苦しいのだが)

「ハハッ、姐さん苦しい苦しい・・・・」

うめく様な乾いた声を出すクルツ
よく見なくてもクルツの顔は青くなり始めている。

「ったくもう、明日アタシの分買ってきなさいよ」

「酒がいるのか?」

「へ?いや今すぐじゃないけど、どっちかといえば・・・」

宗介が酒がいるのかなどと聞いてくるとは思わなかったのだろう。
マオは素っ頓狂な声を出してしまう。

「では俺が買ってくる。ビールでいいのだな?」

答えも聞かずに宗介は玄関から外に出て行ってしまう
マオは不思議そうな顔をしながら思いを廻らせた。
逡巡とでも言えばいいのだろうか?よく分からないが宗介は今、何かに迷ってるようだ。

「どうしたの?ソースケは」

「悩める年頃・・・ってやつかな
 というのは置いといて、それがな姐さん―――――」

                ◇ ◇ ◇

セーフハウスのあるビルのエレベーターから出る宗介
とりあえずこの時間まで酒屋は開いているのか分からないが頭の中から、この辺りの地図を引っ張り出す。

「あっ・・・」

ビルの入り口を少し出たところでなぜか1時間ほど前に別れたシャマルが立っていた。
なにやらおろおろ迷っている様子をしているので宗介は事務的な口調で声をかけた。

「そこで何をしている?」

「えっと、シグナムがここに行けって
 通信関連で聞きたいことがあるんじゃないんですか?」

宗介の頭にハテナマークが浮かぶがマオが要請したのかもしれない。
しかし、通信関連とは極めて重要なことでないか

「では、行くといい。マオも待っているはずだからな」

「サガラさんは、どこに行くんですか?」

なんとなく居心地の悪い雰囲気を変えるべく、シャマルは宗介に聞き返す。

「物資の補給だ」

「買い物なら私もついて行っていいですか?ちょっと話がしたくて」

「かまわんが、行かなくていいのか?」

はい、という返事と共に宗介の横に並ぶシャマル
一瞬宗介は自分を口封じする気か?などといつもの被害妄想が働いたがすぐにその考えを却下した。
もし自分を消したいのならば、もっと適任がいるはずだ。


それからしばらく夜の道を二人で歩いていると
沈黙を保っていたシャマルが口を開き、とつとつと話し出した。

「砂漠世界では途中で話が終ってしまって、あの・・・・待ってもらえませんか!」

待つ、それはつまり『闇の書』が完成するまで自分達のしていることを黙認して欲しいと言うことだろう

「それは・・・・」

それはつまり『闇の書』が、もたらすかもしれない災害について目を瞑って欲しいということだ。
シャマルは言う、八神はやてならば『闇の書』が持つ力を間違ったほうに使うことないと。
確かにそれほど長くないが、八神はやてを監視して来た宗介にもそのように思えた。
だが、可能性は常に付きまとうものだ。
完璧に憂いを断つのならば、ここで『闇の書』を破壊、もしくは彼女らの手の届かない所に隠すことが正しいのではないか?
宗介の頭からその考えがこびり付いて離れることはなかった。

「『闇の書』を破壊するだけでは解決しないのか?」

「・・・ごめんなさい」

謝るシャマル、宗介だって期待していたわけではなかった。
『闇の書』を一番知るのは他でもない持ち主の4人だ。
門外漢である自分でさえ思い至るのだ。シャマル達は当の昔に思いついただろう。

「俺は・・・」

答えることができない。
今の自分には答えを出せない。それだけがはっきりと分かる。

「・・・・そうですよね。『闇の書』のことを知ってから
 まだ一日も経ってないんですもんね」

シャマルはどこか寂しそうな笑顔を向けながら話を変えるために別の話題を振る。

「買い物って、なに買うんですか?」

宗介が酒だと答えると、シャマルは今の時間だとこの先にある酒屋は閉まっていることを教え
仕方なく二人は、もう少し遠くにあるコンビニに進路を向けた。

12月13日 1105時
メリダ島基地

「ですから、なぜアマルガムが作戦を展開している地域に手出しするなと仰るんですか!?」

『そうは言っていない。現地からの報告書には不審な点が多すぎると言ってるだけだ』

メリダ島の執務室で西太平洋戦隊を預かるテレサ・テスタロッサ大佐は電話の向こうにいる
自分の上司――――作戦本部長ボーダ提督に怒鳴っていた。
ボーダ提督も負けじと反論するが、それでもテッサ黙らない

「しかし送られてきた画像は本物です。そちらの分析班もそう判断したのでしょう?
 ですから、せめてアーバレストを派遣するために今すぐ研究部を説得してくれませんか?」

12月2日に行われた戦闘の報告書にはヴェノムの静止画像が
添付されていたがシグナムやなのは達の画像は送られてこなかった。
送っても混乱させるだけだろうし、なによりその時点では
現地にいる宗介達でさえ彼女らが何者なのか分かっていなかったのだから仕方ないと言えば仕方ない

『しかしな、午後8時ごろに市街戦が起きていたはずなのに目撃者ゼロなどありえると思うか?
 現地のメディアはどこも沈黙しているのだぞ?そのような訳の分からん場所にアーバレストは送れん。
 少なくとも私は作戦本部長としてそう判断する』

「ですが」

『お前が部下を信頼しているのは分かる。だが、こちらには判断材料が少なすぎるのだ。
 ・・・もちろんお前が勝手にペインローズ博士を説得するなら話は別だが』

まあ、無理だろうと言う気持ちからそんな事を言ってしまう提督は
後ほどこの発言を後悔するのだが、それはここでは語られない。

「分かりました。では、私の好きにさせてもらいます」

テッサは怒りのあまり受話器を叩きつけると同時にインターホンから
自分の秘書である少尉が来客が来たことを告げる。

「失礼します」

ドアが開き、白髪の大柄な男性が入ってきた。
西太平洋戦隊の陸戦ユニットを統括するカリーニン少佐である。
やはり、いつもの如く手には大量の書類があった。
その多さにテッサはうんざりしながらもそれらに高速で目を通していく。

「大佐殿、実は判断に困るものがあるのですが・・・」

「ここに運ばれてくるものは大半がそういうものでしょう?」

書類から目を離さず、カリーニンに答えるテッサ
しかしカリーニンはテッサに一枚のDVDを差し出す。

「見ていただきたいのは、昨日付けで送られてきたマオ曹長からの報告書です。
 それと、この映像を」

テッサは少佐の手からそれを急いで受け取り、自分のパソコンでDVDの映像を再生する。
映し出される日本の都市らしき風景、これはM9の記録映像だろうか?
下には記録されたときの日付と時間が付いている。

「これ、日付は昨日ですね?」

「はい、見ていただきたいのは1940時辺りからです」

カリーニンに勧められ映像をその時刻まで早送りする。
まず映ったのは夜空だった。
それから天に向かって40ミリライフルを3発立て続けに発砲するM9
威嚇?しかし、隠密で行動をしているのに注目を集めるような行動をメリッサがするだろうか

「人?」

空に人が浮いている。それも複数、そのうちの一人を空中でキャッチしM9は地上に降り立つ。
それから始まった戦闘は見るものを白昼夢に誘うような内容だった。

12月13日 1649時
時空管理局医療ブロック

昨夜緊急に運び込まれたクロノ・ハラオウン執務官の容態も安定し、病室の扉からは面会謝絶の札が消えた。
運ばれたときはすでに意識を取り戻していたが
利き手である右手を骨折、手榴弾の破片が体に突き刺さり出血も酷かった。
こうして生きてるのは、日々の訓練の賜物としかいえなかった。

「リーゼ達に少しは感謝しなくちゃな・・・」

ベットの上でクロノは幼い日、二人の師匠が行った修行のことを思い出す。
アリアの魔法に吹き飛ばされたり、ロッテに関節極められて肩が外れたり
滝に打たれたり、極寒の氷の世界に放り込まれたり
          • よく生きてたものだ。

コンコン

部屋の扉がノックされる。どうやら人が来たらしい。

「どうぞ」

「こんにちわ」

「お邪魔します」

眼鏡をかけた女性が病室に入ってくる。
途中で一緒になったのか、後ろにはユーノの姿まである。

「こんにちわ、レティ提督」

クロノは情報の鬼、運用部と監察部のボスに挨拶を返す
後ろにいるフェレットもどきは当然の如く無視である

「僕には挨拶無しかよ!」

「大声出すなよ、怪我に響くだろ」

アイタタタタと傷口を押えるクロノ
ユーノは慌てて口を押さえ心配そうにクロノを見るが
そのユーノの様子を見たクロノが笑っているのを見て、騙されたことに気付いたようだ。

「なんでこんな性格の悪い奴が執務官試験に合格するんだよ・・・」

「あらあら、クロノがこんなことするのはユーノ君くらいよ?」

「レティ提督!」

うふふと笑うレティ提督、どうやら思った以上にクロノが元気そうで安心したらしい
クロノは柄にもなく大声を出したことを誤魔化すように咳払いをしてレティ提督に来てもらった本題を振る。

「それでレティ提督どうでした?」

「結果は・・・グレーと言ったところね。確証が無いのよ」

突然始まった謎の会話にユーノはクロノとレティ提督の顔を交互に見ておろおろし始めた
それを無視して二人の会話は続いてゆく。

「どの辺りまで調べました?」

「とりあえず将官から佐官まで、どこも怪しそうで怪しくないって感じね
 それ以外も、となると気付かれる可能性が高くなるわ」

「あのぅ・・・何の話をしてるんですか?」

オズオズとユーノが二人の会話に割り込む。
二人はそんなユーノをじっと見てニヤリと笑った。

「そうね~、あなた確かスクライア族だったわよね?」

「え、一応そうですけど・・・」

とても嫌な雰囲気に額から汗を流すユーノ。まさに蛇に睨まれた蛙
いや翼を広げ襲い来る大鷲を前に食物連鎖の運命を受け入れたフェレットのような顔といったほうがしっくり来る。

「あなた達って、管理局でも有名なのよね。危険が満載されてる古代の遺跡から
 これまた危険なロストロギアを発掘することを生業としてる一族。
 その探査能力、危険感知に関する勘の良さは天下一品ってね」

ユーノはレティ提督にジリジリと壁際に追い詰められる。

「貴方にやって欲しいことがあるのよ」

「な、なにをです・・・」

「無限書庫に行って『闇の書』について調べてほしいの」

「それと、もう一つ」

さらにクロノが追加注文をつける

「まだあるの!?」

「間者をやって欲しいの」

「間者?」

ユーノは聞きなれない言葉を鸚鵡返した。
そんなユーノにレティ提督は分かりやすくとてもシンプルな言葉で言い直す。

「簡単に言えばスパイよ」

「ええええええええええええええ!?」

ユーノの叫び声でその後に続くレティ提督の
と、言ってもすることは大抵あたしが持ってくる大量の書類を調べることだけどね~
という言葉が掻き消えてしまった。同日   同時刻
海鳴市 『闇の書』事件対策本部

海鳴市にある高級マンションの一室、『闇の書』事件対策本部の一室で
エイミィとリンディ提督がコンソールの前で話をしている。

「それでエイミィ、何か分かった事はある?」

「今のところ、あのAS―――M9を使ってる実戦配備している軍は存在しないと言われてるんですよ。
 でもいろいろ調べてみたんですけど、インターネットにこんな記事があったんですよ」

空中に浮かぶ半透明のモニターに映る週刊誌の記事
そこにはデカデカと『国際救助隊現る!?』とあり修学旅行中の都内の高校生を乗せた旅客機が
ハイジャックされたことについて色々書かれている。
それだけならただの記事に過ぎないのだが問題は救出作戦中に生徒が撮ったとされる写真だ

「これって、あのASよね?」

「ええ、記事には国連軍が救出作戦をしたとありますけど、いろいろ矛盾点が指摘されてます。
 それでも時間が過ぎると風化していきましたけどね。で、この写真見てピンと来たんですよ。
 もしかして今、私達が戦ってるのはこれに映ってる人たちじゃないかと」

そう言いながらエイミィはコンソールを操作して新たな映像をウィンドウに出す。
その事件についてのスクラップ記事が映し出されていた。

「この事件で人質になった旅客機の乗客と別に救出された少女がいるんですよ。
 その娘なら何か知ってるかもしれません。
 だた問題は攫われて助けられるまで薬で眠らされたと証言してることですけど」

「そうね・・・」

リンディは頭の中で思案する。最後に謎の集団に救出されたにもかかわらず
ハイジャック事件の後、こうして普段の生活に戻っていると言うことは
本当に意識を失っていたのかもしれない。もしくは、口止めをされているか。

「無駄かもしれないけど、明日誰かに行ってもらいましょうか。転送ポートを使えば行きも帰りもあっと言う間ですからね」

「分かりました。じゃあ、クロノ君や武装隊と戦った人の写真を現像しときますね。
 あ、あとグレアム提督はこちらの世界出身でしたよね?
 あの方、こちらの世界の軍事にも詳しいみたいですし、一応資料を送ってみますね」

いろいろと便宜を図ってくれているグレアム提督にさらに助言を求めるのは心苦しいが
現状は手がかりが全くと言っていいほどない状態なのだ。打てる手はできるだけ打っておきたい。

「よろしくお願いね、エイミィ。それにしてもASの透明化機能の弱点が分かったのが幸いだけど
 もう気象操作が使えないのが痛いわね」

M9に搭載されているステルス装置ECSの弱点がオゾン臭と水であるということは分かった。
昨日の戦闘では、フェイトがサンダーフォールを使い雨を降らせてECSを無力化したが気象操作には大きな制限がある。
まず一つ目が大量の魔力が必要であること
だがこれもカートリッジシステムを搭載したことで何とかなっている。
問題は二つ目なのだ。
雨を降らせる魔法といっても無から有を生み出しているわけではない。
雨の降る予定のない所に周辺地域の水蒸気を集めて雨を降らせているのだ。
多様することは回りの環境に多大な悪影響を与えてしまう。
すでにフェイトは半年前のP・T事件でサンダーフォールを使っている。
半年の間に海鳴は2回の気象操作魔法を体験している。
これ以上の使用は海鳴と他の地域に日照りに干ばつなどの天変地異を誘発する恐れがあったりするのだ。

「臭いが弱点といってもアルフ並みの嗅覚がないと正確な位置の割り出しは難しいですしね」

犬のような嗅覚が優れた素体を使って急遽、臨時の使い魔を配備することが検討されたのだが
アルフのような高位の使い魔を作る力量のある魔導師も足りなければ製作時間も足りなかった。
これからアルフに負担がもっとかかるだろうと予想されているのだが
当のアルフは頼りにされるのが嬉しいのか、かなりご機嫌だ。

「もう一機のASに関してなんですが、やはり詳しいことは依然として分からないんですよ。
 相当な技術力を持ってる組織が扱ってることは簡単に類推できるんですが・・・」

ポニーテール状の放熱索、ダークグレーの装甲と紅いモノアイを持つAS
そして、推定AAAランクの騎士が放った一撃を容易く防いだ謎のバリア機能のようなものを搭載している。
詳細なスペック、所属組織について共に謎
目的は『闇の書』を奪取することと推測されるがやはり決め手にかける。
前回、守護騎士を攻撃したのが今回は守護騎士を助けるような行動を取った。
ミサイル攻撃が助けるための行動なのかと疑問を持つ者も少なくないが
殲滅が目的ならあと数発のミサイルが撃ち込まれていてもおかしくはない。
むしろ撃ち込まない方が不自然だ。
前回の戦闘も守護騎士がなのはを蒐集する前に止めを刺そうとしたことを、阻止しようとしたと考えれば合点がいく。
それらの行動から察するに彼らは待っているのだろう。『闇の書』の完成を・・・

「それに仮面の男・・・
 やっぱり、あのポニーテールのASの仲間なのかしら?」

モニタに映し出される白を基調とした服を着ている群青の髪と仮面を付けた男
クロノと戦ったこの世界の戦士の仲間、金髪の狙撃兵と武装隊員との戦闘に割り込み狙撃兵の窮地を救い
その後、狙撃手達と合流することなく夜の街に消えた。
その行動を見れば、ミサイル攻撃を行ったASに非常によく似ている。

「そうかもしれません。この仮面の男は間違いなく魔導師ですね、しかも高位の・・・。
 ASとこの世界の兵士が結界に侵入できたのもこの男が手引きしたのかもしれません」

エイミィが仮説を述べる

「でも、そうなるとこの第97管理外世界には管理局と同等の魔法技術があるってことになるわよね?」

シグナムが結界内に侵入した方法はシンプルだった
己の魔力をぶつけ結界に穴を開け、それが閉じる前に侵入する。ただこれだけである。
しかし、シグナムの侵入以外でこのような痕跡を発見することはできなかった。
結界を維持している武装隊員に気付かれずAS二機と二人の歩兵を侵入させるなど並みのスキルではない。

「私達が知らないだけで、実はこの世界にも魔法文化がある?
 それとも、この男は・・・・・
 どちらにしても今回の事件、意外と裏がありそうね」

あまり考えたくないことだが最悪の場合も想定しなければとリンディは考えた。

12月14日  0138時
海鳴市   セーフハウス

「それで何も答えないまま、ここに連れてきたのかよ?」

「そうだ。特に尾行されている気配も無かったからな」

「変に生真面目なくせに優柔不断だな、オメーは」

「では、なんと答えればよかったのだ?」

モニターで八神家を監視している途中
ただ待っているのに飽きたクルツがなにやら先日から悩んでる宗介に絡んでいた。

「ん~?そうだな、この私めに御身の警護をお任せくださいとか?」

「俺は真面目に聞いている」

あくまでふざけた調子で答える同僚を睨む宗介
あの後、一緒に酒を買ってシャマルをセーフハウスに連れてきた。
通信関連についてシャマルと話し合い、マオが緊急連絡用のチャンネルをシャマルに教えて解散した。

「俺はいつだって女性の味方をなんだよ」

「話すのではなかった」

後悔したように呟く宗介はモニターに目を移す

「なにをお喋りしてんのよ。きちんと仕事しなさいよ」

メリダ島からの通信が来た為、奥の部屋でいろいろ報告していたマオが出てきた。

「いいニュースよ。テッサがアーバレストを送ってくれるってさ」

「あの映像と報告書を信用してくれたのか。はっきり言って期待していなかったのだが・・・
 しかし、まだ研究班が帰ってないはずではないか?」

「テッサは元はといえば研究部出身だからね。ペインローズ博士とは仲いいらしいわよ。
 で、そのコネを活かして何とかしてくれたみたい」

そういえばそうなのであった。
テッサの神懸り的な操艦のせいで忘れがちなのだがテッサは元々、技術畑出身だった。
ウィスパードである彼女が技術部のトップたるペインローズ博士と面識があってもおかしくはない。

「明日にはもうこっちに送ってくれるってよ。
 武装はボクサー散弾砲にその予備弾装、対戦車ダガーとか・・・まあ、いつものとおりね」

「姐さん、俺のM9は来ないの?」

「今のM9が消耗してるから変わりのM9を送ってくれるらしいけど、これは私とアンタで使うことになりそうね。
 まあ、狙撃砲がないからアンタの出番はないだろうけど」

先日の戦闘で右腕のワイヤーガンの喪失、マッスルパッケージもそれなりに磨耗してしまっている。
しかし、ここでは本格的な整備は無理なので丸々新品のM9を送ってくれるそうだ。
剛毅な話である。

「ええ~?今の狙撃銃じゃ、あいつ等相手だと火力不足だし。何とかなんねーの?」

12日の戦闘でクルツが使っていたドイツ製の狙撃銃は黒衣の魔導師にあっけなく防がれた。
それ以外の連中ならば、なんとか通用するのだが狙撃は必殺でなければならないのだ。

「もっと威力のある武器ねぇ。12.7㎜弾ならあいつらにも効いたけど・・・」

「対物用ライフルか?それなら俺のセーフハウスにあるぞ」

「・・・なんでそんなもん持ってるのよ?普通は必要ないでしょうに」

マオが真剣を凝視して宗介に疑問を呈する。
威力と反動が桁違いの50口径アンチマテリアルライフルは本来なら護衛任務に必要ないものだ。

「とある生物を倒す為にどうしても必要だったからな。
 しかし、あれでも奴を足止めすることしかできなかったが」

あのときの恐怖を思い出し宗介は俯き、手が震え出した。
得体の知れない動きとチェーンソー、そしてなぜか効かない実弾・・・悪夢だ。

「ふうん、まあいいわ。じゃあ、明日M9とアーバレストはアタシとクルツで受領するわ。
 ソースケ、アンタは一度泉川に戻って偽装トレーラーと使えそうな武器を持ってきなさい」

以前、かなめを護衛したときも今回のようにM9を使用して任務に当たった。
そのときにASを格納する為に大型トレーラーの形をした格納庫を使っていたのだ。
それは未だに宗介の管理の下、泉川に残ってたりする。

「だが、いいのか?ここを離れてしまって」

「いいのよ。かなめの時とは違ってケット・シーもいるし。
 それにクルツだったらきっと道草を喰うに決まってるから」

その言葉にクルツは抗議の言葉を上げるが、宗介もマオも聞く耳を持っていなかった。
翌日の朝、宗介は車で海鳴を出発するのだがそれには予期せぬ乗客が乗っているのだった・・・

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最終更新:2007年09月19日 19:53