「糞ッ!クソ!クソッ!」

 市街の安宿にて、テンガロンハットを被り、眼帯をつけた男が悪態をついている。
 サイレンサー付きの銃を用意し、服のポケットに予備弾丸を用意。顔には冷や汗をかいている。

「ええい、くそっ!金もらっちゃったもんなァ!やっぱなぁ、やるっきゃねえよなァ!!」

 装備を整え終えたのか、言い終えると同時に男…ベルナドットがドアに手をかけ、部屋の外に出る。
 そして外でスバル・ヴァイス両名と合流し、ホテルの方へと駆け出していった。


第六話『ELEVATOR ACTION』(4)


「始まりましたな。やはりこうなりますか」
「こんなものですむものか、死ぬよ、もっと死ぬ。あの男がこんなもので済ますものかよ」

 某所。少佐ら三人がこの殺戮劇を嬉しそうに見物している。少佐の他にいるのはドクと、長身の無口な男だ。
 楽しそうな笑顔で、これからどうするかをドクが問う。

「では、いかがいたしますか?代行」
「その名称で私を呼ぶな。どこでそば耳を立てられているか分かったものじゃない」

 代行とはどういう意味なのだろうか、それは気になるところだが、今は物語を進めよう。
 たしなめられたドクが改めて同じ意味の言葉を言う。ただし呼び方は変えて。

「失礼、分かりました。いかがいたします?大隊指揮官殿(少佐)」
「原住民がいくら死んでもかまわんけれど、これでは埒が開かん。何よりちっとも面白くないね。
大火に如雨露で水をかけても仕方がない」

 少佐のその一言とともにもう一人の男『大尉』が連絡の準備を行い、それが済むころを見計らった少佐が命令を出した。

「トバルカイン・アルハンブラに伝達、出撃準備。思うように埒を開けよ」


「退けッ!退けぇ!」
「急げ!急げ!急げッ!」
「退去する!退去だ!退去ッ!!」

 急ぎ逃げる警察小隊の生き残り達。隊員の大半が死んだ今、もはや逃げるしかない。
 エレベーターまで走り、下のボタンを連打。そんな事をしてもエレベーターが早く着くわけでもないのだが、そんなことすら分からないほどに錯乱しているのだろうか。

「来るぞ、走れッ!走れぇッ!」

 逃げ遅れた隊員たちが必死にエレベーターへと走るが…逃げられない。
 普通の人間の目では到底見えないような距離からの銃声が二発分響き、それが逃げ遅れた隊員の体を食い破った。
 そしてアーカードはそこにいる。口から隊員の死体から吸った血を滴らせ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
 …と、ここでエレベーターが到着。生き残りの隊員たちが慌てて飛び込み、残りの隊員たちを待つ。

「早くしろ!入れッ!早く!」

 そしてアーカードが入ってくる前に全員がエレベーターに乗りこんだ。アーカードの歩みは依然ゆっくりとしたものだ。
 そのゆっくりとした歩みが逆に恐怖心をあおる。そのせいか、生き残った隊員の一人が声を上げた。

「閉めろ!急げ!!」

 言うが早いか、すぐに『閉』のボタンを連打し、エレベーターの扉を閉じる…が、最後まで閉じられることは無かった。
 隊員の一人が『開』のボタンを連打し、エレベーターの扉を開いたのだ。ついでに言うと、その隊員は正気の目をしていない。間違いなく魔眼にやられているだろう。
 やっと逃げられると思った矢先にこの状況である。当然他の隊員たちは狼狽し、その隊員を止めようとする。

「な…ッ、バカな!?」
「離せ、離すんだリカルド!」

 だが、リカルドと呼ばれた隊員は手を離さない。まあ、よほどの事がない限り解けないほど、アーカードの魔眼が強力だからなのだが。
 そんなことなど知る由もない隊員達が必死でリカルドを引き離そうとするが、離れない。

「どうした、リカルド!離せ!正気に戻れリカルドォッ!」

 このままではあの化け物に全員殺られる。そう思った何人かの隊員がリカルドへと銃を向け、発砲。エレベーターから叩き出した。
 叩き出されたリカルドはすがるようにアーカードへと手を伸ばすが…やはりカスールで脳天を吹き飛ばされた。
 だが…そんな様子など、もはや誰も気に留めない。とにかく逃げたいという思考しか残っていないので、すぐに『閉』のボタンへと手を伸ばす。

「閉じろ!閉じろォ!!」

 ボタンを押し、今度こそドアが閉じられる。これで彼らは生還できる…はずだったのだが、現実はそう甘くはない。
 アーカードが自らの銃をドアの隙間に差し込み、そのまま力ずくでこじ開けて入ってきたのだ。
 そのままエレベーター内で銃を構え、そしてこう言い放った。

「兵士諸君、任務ご苦労。さようなら」

 発砲。
 銃声。
 死亡。
 エレベーターが一階に着く頃には、エレベーター内に生者は存在しなくなっていた。

 そして一階。チェックアウトすべく、アーカードが歩いて正面玄関へと向かう。一階に待機していた残りの隊員を、片端から射殺しながら。
 殲滅が終わり、ふと外を見るとなにやら明るい。何の光だろうか?
 アーカードの視力ならばすぐに報道陣によるものと理解できただろうし、実際そう理解した。
 これを見たアーカードは、まるで面白いものを見つけた子供のような笑みを浮かべ、エレベーターまで戻っていった。


「はぁ!?じゃああたし達…テロリストとして指名手配されてるって事か!?」
「はい、なんかそういう事みたいです」

 屋上へと向かう上り階段、ティアナが上へと走りながら、ヴィータに状況を説明している。
 まあ、驚くのも無理は無い。「目が覚めたらテロリストとして包囲されてました」という状況で驚かない存在など、どこぞの戦争狂の吸血鬼くらいのものだろう。
 何とかヴィータは早いうちに落ち着きを取り戻す事には成功し、そのままティアナへと問い返す。

「…で、どうすんだよ。まさかみすみす逮捕される気じゃねえだろうな?」
「とりあえずは屋上に行ってヘリを奪い、それでスバル達を拾って逃げることになってますけど…」

 さも当然のように「ヘリを奪う」と言うティアナ。それに対しヴィータは思い切り呆れているようだ。
 盗みは犯罪だからやめさせた方がいいだろうと思ったのか、ヴィータが二の句を告げる。

「お前な…盗みは犯罪だって知ってるか?」
「もうテロリストとして指名手配されてる身なんです。だったら今更罪が一つや二つ増えたって…」

 …ティアナの色々と何かを諦めた表情を見て、ヴィータも盗みをやめさせるのを諦めた。
 と、言い終える前に屋上へと到達。さっそくヘリを奪おうとするが…

「…ヘリ、無えな」

 …予想通りといったところか。考えてみればホテルの屋上にヘリが着陸しているとは到底思えない。
 ヘリがない場合の脱出手段を頭の中で必死に構成するティアナ。スバルからの念話が届いたのはそんな時だった。

《ティア、聞こえる!?》
《スバル?ええ、聞こえてるわ》

 よく知っている相棒の声が聞こえたことで、一度考えるのを中断して念話へと意識を向ける。

《良かった…特殊部隊の人が突入したみたいだから、心配になっちゃって…それで今、どこにいるの?》
《私はヴィータ副隊長と一緒に屋上よ。マスターは…下でその特殊部隊の人達と殺し合いをしてるみたいだけど》
《…アーカードさん、人間が相手でも平気で殺せるんだね…》

 一瞬だけ悲しそうな声になるスバルだが、すぐに元の調子に戻って用件を伝えた。

《とにかく、そこで待ってて。今から私とヴァイス陸曹でヘリを奪って迎えに行くから》

 脱出手段決定。


「ええ、先程、先程において警官隊が突入を開始した様子です」

 報道陣が再び現場を映す。もう突入しているから規制の必要も無いだろうと判断したのだろうか。

「かくして、突入隊が行動を起こしてからも、内部の様子は依然として不明のままであり(パンッ)」

 続く報道の中、ガラスが弾け飛ぶ音が響く。
 何事かとカメラマンがカメラを向け、それと同時に複数の窓ガラスが破砕。そこから何かが凄い勢いで飛び出した。

「なんだ!なんだ!?」
「撮れ!いいから撮れ!」
「カメラ回せぇ!」

 飛んできた「何か」の正体など知る由も無いカメラマンが、何かの飛んでいった上空へとカメラを向ける。
 その「何か」は遥か上空だが、やがて重力に逆らわずに落下し、やがて報道陣や野次馬にもその正体を理解させた。
 窓から飛び出した「何か」がアーカードによって屠られた小隊員の死体だと理解していれば、これから起こる残酷な出来事を見ずに済んだのだろうが…目を背けるには遅すぎた。
 隊員の死体は落下し、そして一つ残らずホテル入り口の旗を掲げた柱へと落下。そして…まるでモズのはやにえのように串刺しになった。

「な…あ…う…あ…!!」
「ああ…うわあああああああああああああ!!」

 誰からとも無く悲鳴が巻き起こり、それが恐怖となってその場にいた全ての人間へと伝播する。そしてそれが新たな悲鳴として表に飛び出す。
 そしてその恐怖を振りまいた張本人、アーカードが現れる。ご丁寧に正面入り口からチェックアウトをしてきた。
 その存在は直接現場にいた者、テレビで現場を見ていた者など、どのような形であれ現場を見ていた者達全てに強烈に叩きつけられることとなった。


 パン、パン、パン。
 某所から拍手の音がする。その拍手の源である小太りで眼鏡の男性…少佐は嬉々として呟いた。

「なんとも素敵な宣戦布告、うれしいね。戦争だ。これでまた戦争ができるぞ」


TO BE CONTINUED

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最終更新:2007年10月14日 17:11