第6話「決意、そしてお引越しなの」


「じゃあ、メビウスからは何も連絡は……」
「はい……ウルトラサインもテレパシーも、一切ありません。」

地球から遠く離れた宇宙に存在する、M78星雲。
その中にある、地球よりも遥かに巨大な星―――光の国は、ウルトラマン達が住まう星である。
そんなウルトラマン達の中でも、優れた戦闘能力と、そして優しさを持つ戦士達がいた。
彼等はウルトラ兄弟と呼ばれ、宇宙の平和を守る宇宙警備隊の一員として、日夜戦っている。
そのウルトラ兄弟達に、今、未曾有の事態が起きた。
ウルトラ一族にとっては最大の宿敵の一人といえる、最大の悪魔―――ヤプール人が復活を果たした。
ヤプール人とは、異次元に存在する邪悪そのもの。
自らを、暗黒から生まれた闇の化身と豪語する悪魔である。
ヤプール人はこれまで、幾度となくウルトラ一族へと戦いを挑んできた。
ウルトラ兄弟達は、その都度何度も撃退したが……ヤプールは、何度も復活を果たしてきた。
彼等はヒトの負の心を好んでマイナスエネルギーに変えてエネルギー源としているため、その存在を完全に消し去る事は不可能なのだ。
ヒトがこの世から完全に消え失せれば、もしかすると可能かもしれないのだが、そんな馬鹿な話はありえない。
一時は、封印という形で決着をつけられたかのように思えたが……その封印も、悪しき侵略者に破られてしまった。
結局ウルトラ兄弟達は、ヤプールが復活する毎に打ち倒すという手段を取るしかなかった。
そしてつい先日、彼等はヤプールが潜む異次元へと乗り込み、決戦に臨み、ヤプールに打ち勝つことができたのだが……
ここで、予想外の事態が起こった。
ヤプールを倒した影響により、異次元世界は崩壊を迎えようとしたのだが……ヤプールがここで、最後の悪足掻きを見せた。
ウルトラ兄弟の末弟―――ウルトラマンメビウスを、道連れにしていったのだ。
メビウスはヤプールと共に崩壊に巻き込まれ、そして行方不明となった。
兄弟達は、様々な手段を使ってメビウスの捜索に当たっていたのだが、メビウスの行方は全く分からないままであった。
もしもメビウスがまだ生きているとするならば、可能性は一つしかない。

「やはり、崩壊の影響でどこか別の次元に落ちてしまったのか……」
「しかし……そうだとしたら、どうやってメビウスを探せばいいんですか?」
「メビウスから何か連絡があれば、どうにかならなくもないんだが……」

メビウスは、どこか別の異世界にいる可能性が高い。
それがどこか分からないのが、問題ではあるが……それさえ分かれば、救出に向かうことはできる。
ウルトラ兄弟の中には、異なる次元・異なる世界への転移能力を持つものもいるからだ。
今現在、メビウスを救う為に、光の国の者達は一丸となって動いている。
ウルトラ兄弟の長男にして宇宙警備隊の隊長であるゾフィーは、空を仰ぎ遥か彼方―――地球を眺め、弟のことを思う。

「メビウス……一体、どこに……?」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なのは、フェイト!!」
「ユーノくん、アルフさん……」
「二人とも、もう体は大丈夫なのかい?
大分酷いダメージだったけど……」
「うん、何とか。
私はしばらく、魔法は使えないみたいだけど……」

丁度その頃であった。
時空管理局の本局にて、なのは・フェイト・ユーノ・アルフの四人が久方ぶりの再会を果たしていた。
こうして直接顔を合わせるのは、彼等が出会う切欠となったPT事件以来である。
しかし、彼等の表情には喜び半分不安半分という所である。
その原因は、大きく分けて二つ。
一つ目は、言うまでもなくヴォルケンリッター達の存在にある。
そしてもう一つは、なのはとフェイトが受けたダメージの大きさにあった。
なのはは、自分でも攻撃を受けた時点で予想はしていたが……魔力の源であるリンカーコアが、異常なまでに縮小していた。
魔力を吸い取られてしまい、回復するまでの間、一時的に魔法を使えない状態にあったのだ。
フェイトも、なのは程ではないとはいえ、それなりのダメージを受けていた。
しかし何より……二人とも、自分のデバイスに大幅な破損を受けてしまっていたのが大きかった。
レイジングハートもバルディッシュも、再起不能な状況にまで追い込まれてしまっていたのだ。
自己修復作用だけでは間に合わないため、現在パーツの再交換作業の真っ只中にあった。

「レイジングハート……」
「ごめんね、バルディッシュ……私の力不足で……」
「……こういう言い方は何だが、これは二人のミスじゃないよ。」
「クロノ、エイミィ、リンディ提督……それに……」
「ミライさん……」

落ち込むなのは達へと、部屋に入ってきたクロノが声をかけた。
その傍らには、彼の相棒であるエイミィと、アースラ艦長のリンディ。
そして……ミライがいた。
クロノは、自分達が相手をしていた敵の魔法体系―――ベルカ式について、簡潔に説明を始めた。
今回なのは達が敗北したのは、彼女達の魔法体系―――ミッドチルダ式との相性の悪さが大きかった。
ベルカ式とはその昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系。
遠距離や広範囲攻撃をある程度度外視して、対人戦闘に特化した術式である。
ミッドチルダ式と違い、一対一における戦いを念頭に置いてあるものなのだ。
そしてその最大の特徴は、デバイスに組み込まれたカートリッジシステムと呼ばれる武装。
なのは達もその目でしかと見た、ヴォルケンリッター達が使っていたシステム。
儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に爆発的な破壊力を得る。
術者とデバイスに負担はかかるものの、かなりの戦闘能力を得られる代物である。

「随分、物騒な代物なんだね……」
「ああ……多くの時限世界に普及している魔術の殆どは、ミッド式だからね。
御蔭で、解析に少しばかり時間を取られてしまったよ……」
「そうだったんだ……」

ベルカ式に関しての説明が終わり、皆は少しばかり考えた。
自分達の使っている魔法が、魔法の全てではない。
これから先、自分達の前に立ちふさがるのは、まだ見ぬ未知なる強敵。
かつてのPT事件と同様か、それともそれ以上の戦いになるかもしれない。
誰もが息を呑むが……その直後であった。
皆が、ベルカ式よりも最も疑問に思わねばならぬ事に気づいた。
戦闘の最中、突如として謎の変身を遂げたミライ―――ウルトラマンメビウスについてである。
当然ながら、視線はミライに集中することになる。
ミライも、ここで隠し事をするつもりはなかった。
丁度いい具合にメンバーも揃っている……ミライは、全ての事情を話し始めた。

「リンディさん達には、先にある程度の説明はさせてもらったけど、改めて全部話すよ。
僕の事……ウルトラマンの事について。」

ミライは、隠していた事情も含めた全てを話した。
自分は宇宙警備隊の一人であり、そしてウルトラ兄弟の一人である、ウルトラマンメビウスである事。
異次元に潜む悪魔―――ヤプールとの戦いの末に、次元の狭間に呑まれた事。
そして気がついたら、アースラに救助されていた事。
自分の正体を明かせば、周囲の者達にも危険が及ぶと判断し、正体を隠していた事。
先に説明を受けていたリンディ・クロノ・エイミィの三人は、二度目となるため流石に驚いてはいなかった。
一方なのは達四人はというと、当然ながら驚き、そして呆然としている。
別世界の人間というだけならば、まだ分かるが……その正体が宇宙人ときては、少々許容の範囲外であった。
そして、ウルトラマンという存在についてにも驚かされた。
宇宙警備隊という、時空管理局に匹敵するほどの大組織の一員として、ミライ達は動いている。
彼は、その中でも特に秀でた戦士であるウルトラ兄弟の一人―――中には、メビウスよりも強いウルトラマンはいるという。
早い話……ミライがとんでもない大物であった事に、皆驚いているのだ。

「えっと……一つだけ、質問してもいいですか?」
「いいけど、何かな?」
「話を聞いてて、少しだけ不思議だったんですけど……ウルトラマンは、どうして地球を守るんですか?
守らなくてもいいとかそういう話じゃなくて、色んな星がある中で、どうして地球を選んだんだって……」

なのはには、ミライの話の中で一つだけ、腑に落ちない点があった。
ウルトラ兄弟達になる為には、地球防衛の任に就く必要があるという。
そうして多くの事を学び、ウルトラ兄弟になるに相応しいまでの成長を遂げるというのだが……
何故、彼等が防衛する星が地球なのか。
話を聞く限りでは他にも多くの星はある筈なのに、何故態々地球を選んだのか。
そんな彼女の疑問を聞くと、ミライは少しばかり瞳を閉じた後、ゆっくりと口を開いた。
かつて、共に戦った大切な親友からも同じ質問をされた。
その時の事を思い出しながら……ミライは、なのはに答えた。

「僕達ウルトラマンも、元々はウルトラマンの力を持っていなかった。
皆と同じ……地球の人達と全く同じ、普通の人間だったんだ。」
「え……?」
「ある事故が切欠で、僕達はウルトラマンの力を手に入れた。
……僕達は、地球の人達に自分達を重ねているんだ。
もう戻る事のできなくなった、あの頃の姿を……」
「だから、地球を……」

ウルトラマンが地球を守る理由。
それは、かつての自分達の姿を重ねているからであった。
更に、地球は多くの侵略者達から、特に狙われている星でもある。
だからウルトラマン達は、地球を守ろうと決めたのだ。
そうして人間達を守る戦いを続けていく内に、ウルトラマンとして何が大切なのかを知る事ができる。
それこそが、彼等の戦う理由であった。
だが、メビウスには……いや、これは全てのウルトラマンの思いだろう。
もっと重要な、戦う理由があった。

「それに……」
「それに?」
「僕達は、人間が好きですから。」
「……なるほど、ね。」
「勿論、人間だけじゃなくて……大切なもの全てを、守りたいと思っています。
困っている人がいるなら、その人を助けるためにウルトラマンの力はある。
僕はそう信じてます……だから、決めました。」
「え……決めたって?」
「ミライ君は、元の世界に戻る手立てがつくまでの間、私達に協力してくれるって言ってくれたんだ。」

ミライは、今回の事件に関して全面的に協力すると、リンディへと話を通していたのだ。
自分達を助けてくれた時空管理局の者達に、恩返しがしたいからと。
それに、もう一人のウルトラマン―――ダイナの事が気がかりであるからと。
前者だけでもミライにとっては十分な理由であり、加えて後者のそれもある。
ここで引き下がれというのが無理な話だ。
保護した民間人に戦闘をさせるというのは流石に気が引けたのか、最初のうちはリンディも遠慮していた。
しかし……ミライの積極的な申し出に、彼女も折れたのだ。
最も、局員ではないなのは、フェイト、ユーノ、アルフの四人が協力している時点で、今更な感はあるのだが……
メビウスの力は、確かに今後の戦いを考えると必要不可欠だろう。
闇の書側についているとされる謎のウルトラマンとの戦いには、最も彼が向いている。
なのはやフェイト達どころか、下手をすればアースラ最強の戦闘要員であるクロノさえも危ない程の強敵なのだから。

「さて……それじゃあ、フェイト。
そろそろ面接の時間だが……なのは、ミライさん。
二人も、僕に同行を願えないか?」
「……?」
「面接……うん、いいけど……」

なのはとミライの二人は、面接という言葉の意味がいまいちよく分かっていなかった。
聞く限りじゃフェイトの用事らしいのだが、それにどう自分達が関係するのだろうか。
不思議そうに、二人は顔を見合わせる。
そんな様子を見たクロノは、難しく考える必要はないと言い、部屋を出て行った。
三人は、彼の後についていく。

「エイミィ、面接って?」
「うん、フェイトちゃんの保護観察の事についてだよ。
保護観察官のグレアム提督と、まあちょっとしたお話。
なのはちゃんはフェイトちゃんの友人って事で呼ばれたんだと思うけど……
ミライ君は、まあ色々と大変な事情が重なってるからね。
多分、そこら辺の事に関してじゃないかな?」
「へぇ~……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「クロノ、久しぶりだな。」
「ご無沙汰しています、グレアム提督。」

そしてその頃。
クロノの案内によって、時空管理局顧問官―――ギル=グレアム提督の部屋に三人はついていた。
三人は椅子に座り、グレアムの言葉を待つ。
何処となく緊張している様子の彼等を見て、グレアムは少しばかり苦笑した。
その後、本題に入るべく、手元の資料を見ながら三人へと話しかける。

「フェイト君、だったね。
保護観察官といっても、まあ形だけだよ。
大した事を話すわけじゃないから、安心していい。
リンディ提督から、先の事件や、君の人柄についても聞かされたしね……君は、とても優しい子だと。」
「……ありがとうございます。」
「さて、次は……んん?
へぇ……なのは君は日本人なんだな。
懐かしいなぁ、日本の風景は……」
「……ふぇ?」
「はは……実はね、私は君と同じ世界の出身なんだ。
私はイギリス人だ。」
「ええ!!そうなんですか?!」
「あの世界の人間の殆どは、魔力を持たない。
けれど希にいるんだよ、君や私のように、高い魔力資質を持つ者が。」

まさか時空管理局に、自分と同じ世界の出身人物がいるとは、思ってもみなかった。
驚き思わずなのはは声を上げてしまう。
するとそんな様子を見たグレアムは、彼女が予想通りのリアクションをしてくれたのを見て、静かに微笑んだ。
その後、彼は己の身の上話を話し始めた。

「おやおや……魔法との出会い方まで、私とそっくりだ。
私は、助けたのは管理局の局員だったんだがね。
それを機に、こうして時空管理局の職務についたわけだが……もう、50年以上前の話だよ。」
「へぇ~……」
「フェイト君、君はなのは君の友達なんだね?」
「はい。」
「約束して欲しいことはひとつだけだ。
友達や自分を信頼してくれる人のことは、決して裏切ってはいけない。
それが出来るなら、私は君の行動について、何も制限しないことを約束するよ……できるかね?」
「はい、必ず……!!」
「うん……いい返事だ。」

フェイトの力強い返答を聞き、グレアムは安堵の笑みを浮かべた。
その瞳に、一切の迷いはない。
友達の為、大切な人の為に活動できる、強い意志が感じられる……この子はきっと大丈夫だ。
これで、片付けるべき最初の問題は片付けた。
残るは……来訪者、ウルトラマンについて。

「ミライ君だったね……君の話をリンディ提督達から聞かされた時は、本当に驚いたよ。
魔法の力も、君からしたら十分非常識ではあるのだろうが……今の私は、それと同じ気分だね。」
「確かに……僕も最初に皆さんの話を聞いた時は、少し驚きましたよ。」
「はは……君もクロノに呼んでもらったのは、君がいた世界に関してなんだ。
君がいた世界の捜索なんだが、実は私の担当になりそうなんでね。
事情とかは既に聞いているから、改めて君から聞く必要はないが……そういう訳で、挨拶をしておきたかったんだ。」
「そうだったんですか……グレアムさん、よろしくお願いします!!」
「こちらこそ、よろしくだよ。
それで、君の能力に関してなんだが……仲間の人達と連絡を取る手段はないのかな?」
「テレパシーは試してみたんですけど、通じませんでした。
一応、他にももう一つだけ方法があるにはあるのですが……それは、地球に着き次第試してみたいと思います。
ウルトラマンに変身した状態じゃないと、使える力じゃないですからね。」
「うん、分かった。
それと、もう一つ質問するが……気になる事があってね。
君が一戦交えた、あのもう一人のウルトラマンについてなんだが……分かる事は何かないかな?
どんな些細な事でもいいから、教えて欲しいんだ。
捜索の鍵になるかもしれないからね。」
「はい……けど、残念な事にはなるんですけど……」
「残念な事……?」
「僕とあのウルトラマン……ダイナとは、初対面なんです。
だから、お互いの事は何も分からないんです。」
「初対面……?
ミライさんも会ったことがないウルトラマンさんなの?」
「うん……」

ミライとて、全てのウルトラマンを把握しているわけではない。
実際問題、かつて地上に降り立ったハンターナイトツルギ―――ウルトラマンヒカリの事は知らないでいた。
それに、光の国以外にもウルトラマンは存在している。
獅子座L77星生まれであるウルトラマンレオとアストラがその筆頭である。
この二人のみならず、ジョーニアス、ゼアス……彼等の様な他星の者達も含めれば、数は相当なものになる。
いや、そもそも……それ以前にあのウルトラマンは、自分がいた世界のウルトラマンなのだろうか。
なのは達の世界にウルトラマンが存在していない以上、ダイナは必然的に別世界のウルトラマンということになる。
問題は、その別世界がはたして自分のいた世界と同じなのかどうかという事である。
異次元世界での戦いにおいて、次元の裂け目に落ちたのは自分とヤプールだけだった。
まさかダイナがヤプールな訳がないし、そもそもヤプールがあのダメージで生きているとは思えない。
そうなると……ダイナは、もしかしたら別の世界のウルトラマンなのかもしれない。
自分と同じで、何らかの方法でこの世界に来たウルトラマンなのかもしれないのだ。
これに関しては、本人から聞き出す以外……知る方法はないだろう。

「ただ、戦ってみて分かったんですが……ダイナからは、邪悪な意思は感じられなかったんです。」
「邪悪な意思が……?」
「僕は今までに二回、同じウルトラマン同士でのぶつかり合いを経験した事があります。
その内の一人は、憎しみに捕らわれた可哀想な人でしたが……あの人から感じたような、憎悪とかはないんです。
寧ろダイナは、レオ兄さんの様な……強い信念を持っているように感じられました。」

ミライが、ダイナとの戦いで感じた事。
それは、彼から邪気が感じられないという事実であった。
かつて彼は、ハンターナイトツルギとウルトラマンレオと、二人のウルトラマンと対峙した経験があった。
ツルギとのそれは、対決にまでは至らなかったものの、ミライにとっては忘れられない記憶であった。
目的の為ならば手段を選ばず、ただ復讐の為に力を振るうツルギから感じられたのは、圧倒的な憎悪だった。
ダイナからは、そんな憎悪の様な感情は一切感じられなかった。
寧ろ、ウルトラマンレオの持つ強い正義感に近いものが彼にはあったのだ。
レオがミライに戦いを挑んだのは、敵に破れたミライを鍛えなおす為であった。
強敵を打ち倒す為のヒントを、彼は戦いの中でミライへと授けたのである。
あの行動は、紛れもなく正義を貫く為のもの。
大切な故郷である地球を守り抜きたいという、強い想いによるものであった。
ダイナには、それがあった。

「そうか……クロノ、今回の事件に関しては……」
「はい、もう、お聞き及びかもしれませんが……
先ほど、自分達がロストロギア闇の書の、捜索・捜査担当に決定しました。」
「分かった……ミライ君。
君はあのウルトラマンとは、この先間違いなく対峙することになる。
その時、君は彼を止められるかな?」
「……絶対とは言い切れません。
ですが、ダイナは話が通じない相手ではないような気がします。
だから何とかして彼の目的を聞き、それが悪いことでないのならば、僕は彼を助けたいと思います。
避けられる戦いは、避けたいですから。
でも、もしも彼に邪な目的があるなら、そうでなくとも彼が立ちはだかる道を選ぶなら……僕はダイナと戦います。
皆を守るために、ダイナを何としても止めてみせます。」
「そうか……いい目をしているね。
君ならば、きっと大丈夫だろう……分かった。
あのウルトラマンダイナに関しては、君が一番頼りになるだろう。
クロノ達と助け合って、最善の道を歩めるよう頑張ってくれ。」
「はい!!」
「私から、君達に話すことは以上だ。
……クロノ、私の義理では無いかもしれんが、無理はするなよ。」
「大丈夫です……急事にこそ冷静さが最大の友。
提督の教えどおりです。」
「そうだな……」
「では、失礼します。」

四人はグレアムに一礼した後、退室していった。
理解のある人で、本当によかった。
ミライ達は、心からそう思っていた。
彼の心に答える為にもと、三人は精一杯の努力をする決意を固めるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はやてちゃん、お風呂の支度できましたよ。
ヴィータちゃんも、一緒に入っちゃいなさいね。」
「は~い。」

同時刻、海鳴市。
八神家では、何てことない平和な日常の光景が見られた。
風呂が沸いた為、はやてとヴィータ、シャマルが三人で風呂場へと向かう。
シグナムはソファーに座って新聞を読み、ザフィーラは横になって寛いでいる。
そしてアスカはというと、テレビでやってるクイズ番組に夢中になっていた。

『ヘキサゴン!!』
『主にオーストラリアに分布する、その葉がコアラの主食として知られるフトモモ科の植物は何でしょう?』

ピンポンッ!!

『はい、つるの押した。』
『よしきたぁっ……笹ッ!!』

ブーッ!!

『え、何でだよ!?』
『……あのなぁ、つるの!!
それコアラじゃなくてパンダやんけ!!』
「やっべ……俺も同じ事考えちまってたよ。」
「おいおいおい……」
「はは……シグナムは、お風呂どうします?」
「私は今夜はいい……明日の朝にするよ。」
「へぇ、お風呂好きが珍しいじゃん……」
「たまにはそういう日もあるさ。」
「ほんなら、お先に~」

三人が風呂場へと入っていく。
その後、ザフィーラはシグナムへと振り返った。
彼女が何故風呂に入るのを拒んだのか、何となく理由が分かっていたからだ。
アスカも二人の様子を感じ取り、振り返る。

「今日の戦闘か?」
「聡いな……その通りだ。」
「もしかしてシグナムさん、どっか怪我を?」

シグナムは少しばかり衣服を捲り上げ、二人に下腹部を見せた。
その行動にアスカは一瞬顔を赤らめ、反対方向へと向いてしまう。
しかし、見たのが一瞬であったとはいえ、十分に確認する事は出来た。
彼女には確かに、黒い傷跡があったのだ。
それは、フェイトとの戦いによって着けられたものであった。

「お前の鎧を撃ち抜いたか……」
「澄んだ太刀筋だった……良い師に学んだのだろうな。
武器の差が無ければ、少々苦戦したかもしれん。」
「でも……きっと、大丈夫っすよ。
今日初めて戦ってるところは見たけど……シグナムさん、結構強そうに見えたし。」
「ふふ……それはありがたいな。
そういうお前こそ……互角の戦いぶりだったな。」
「はい……ウルトラマンメビウス。
あいつとは、また戦うことになるだろうけど……負けません。
次は、必ず……!!」
「ああ……我ら、ヴォルケンリッター。
騎士の誇りに賭けて……」
『おい……お前、アホやろ。』
「あ、つるの抜けた。
よかったぁ、ビリじゃなくて……何か俺、こいつに親近感感じるんだよなぁ。」
「……ビリとビリの一歩手前とじゃ、五十歩百歩じゃないか?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「親子って……リンディさんとフェイトちゃんが?」
「そう、まだ本決まりじゃないんだけどね。
養子縁組の話をしてるんだって……プレシア事件でフェイトちゃん天涯孤独になっちゃったし。
艦長の方から、「うちの子になる?」って。
フェイトちゃんもプレシアのこととかいろいろあるし……今は気持ちの整理がつくのを待ってる状態だね。」

場所は時空管理局本局へと戻る。
なのははエイミィから、フェイトがリンディから養子縁組の話を受けたことを聞かされた。
この話は、とてもいいことだとなのはは感じていた。
無論、フェイトの気持ちの整理などもあるから、まだ先の話にはなるのだろうが……
彼女達が親子となるならば、きっと上手くいくに違いないとなのはは思っていた。
そしてそれは、エイミィやクロノ達にとっても同様である。

(親子、か……)

二人の話を聞いていたミライは、昔の事を思い出していた。
自分も以前に一度、養子にして欲しいといってある人物を訪ねた経験があった。
相手は、今のこの姿―――ヒビノミライとしての姿のモデルとなった人物の、父親である。
彼はミライと暮らすことは出来ないと、その申し出を拒否した。
しかし……ミライが進むべき道を、はっきりと示してくれた。
彼の協力がなければ、今の自分はなかった……そう思うと、やはり感謝すべきだろう。

「さて……皆、揃っているわね。」

噂をすればなんとやら。
丁度、フェイトとリンディの二人が部屋へとやってきた。
それを合図に、騒がしかった室内が一気に静かになる。
今この部屋には、アースラクルーの者達が勢揃いしていた。
今回の事件に関しての説明が、これから行われるのである。

「さて、私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア・闇の書の捜索、および魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました。
ただ、肝心のアースラがしばらく使えない都合上、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります。
分轄は観測スタッフのアレックスとランディ。」
「はい!!」
「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同。」
「はい!!」
「司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん、ミライさん、以上4組に別れて駐屯します。」

各々の役割分担について、リンディが説明し始めた。
地上におかれる司令部には、リンディ達五人が駐屯する事になる。
そして、その肝心の司令部の場所はというと……

「ちなみに司令部は……なのはさんの保護をかねて、なのはさんのおうちのすぐ近所になりまーす♪」
「えっ……!!」
「……やったぁっ!!」

なのはとフェイトは顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。
その様子を見て、アースラクルー皆も笑顔を浮かべる。
今回の事件は、なのは達の世界が中心だからそこに司令部を置くのは当然のことではあるものの。
中々、リンディも粋な計らいをしてくれたものである。
早速引越しの準備ということで、皆が動き始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うわぁ……すっごい近所だぁ!!」
「ほんと?」
「うん、ほらあそこ!!」

翌日。
なのは達は、司令部―――高町家から凄く近い位置にあるマンションにて、引越し作業の最中であった。
なのはとフェイトの二人はベランダから、外の風景を眺めている。
ミライはエイミィやクロノ達と一緒に、荷物の運び込みをしていた。
するとエイミィは、ある事に気付いた。
ユーノとアルフの姿が、人間ではない……動物形態へと変化していたのだ。

「へぇ~、ユーノ君とアルフはこっちではその姿か。」
「新形態、子犬フォーム!!」
「なのはやフェイトの友達の前では、こっちの姿でないと……」

ユーノはフォレットへと、アルフは子犬へとその姿を変えていた。
二人とも、正体を隠しておかなければならない事情があるために、動物形態を取っていたのである。
そこへとミライもやってきたわけだが……そんな二人の姿を、彼はじっと見つめていた。

「ミライさん、何か……?」
「いや……今凄く、二人に親近感が沸いちゃったから。
正体を隠す為に変身する……分かるよ、その気持ち。」
「あ~……そういえば、似たような身の上だったわよね、あたし達。」
「わぁ~!!
ユーノ君、フェレットモードひさしぶり~!!」
「アルフも、ちっちゃい……」
「あはは……」

なのははユーノを、フェイトはアルフを抱きかかえた。
するとそんな時、クロノから二人の友達が来たと言われ、二人は玄関へと走っていった。
リンディも折角だからと、一緒についていく。
その後、なのは達はフェイトの歓迎会の為に、リンディは挨拶の為に、翠屋へと向かっていった。

「早速仲良しですね、フェイトちゃん達。」
「前々から、ビデオメールとかはやってたからね。
初対面って言うのとはちょっと違うし……あれ?」
「エイミィさん、どうしたんですか?」
「あはは……艦長ったら、忘れ物しちゃってるよ。
これ、フェイトちゃん達に見せてあげなきゃ……ミライ君、折角だし届けてもらっていいかな?」
「はい、いいですけど……これって?」
「フェイトちゃんにとっての、最高のプレゼントだよ。」

ミライはエイミィからある小包を受け取った。
その中身が何なのか、それを聞くとミライも笑みを浮かべた。
きっとフェイトは、喜んでくれるに違いないだろう。
駆け足で、ミライはフェイト達を追いかけていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ユーノ君、久しぶり~♪」
「キュ~」
「う~ん……あんたのこと、どっかで見た覚えがあるような……」
「ク~……」
「にゃはは♪」

翠屋の前のオープン席で、なのはとフェイト達は、友人のアリサ=バニングスと月村すずかの二人と過ごしていた。
ユーノとアルフも混じって、楽しげに四人は会話をしていた。
すると、そんな最中だった。
なのはは、小包を持ってこちらに近づいてくる人物―――ミライの存在に気付いた。

「あれ……ミライさん?」
「あ、いたいた。
フェイトちゃん、これリンディさんからの贈り物だよ。」
「え、私に……?」
「なのは、この人は?」
「初めまして、僕はヒビノミライって言うんだ。
お仕事の都合で、しばらくの間フェイトちゃんの家でお世話になってるんだ。」
「へぇ、そうなんですか……」
「ミライさん、これって?」
「開けてごらん。」

ミライに促され、フェイトは小包を開けた。
すると、その中にあったのは、最高のプレゼントであった。
なのは達三人が通っている、聖祥小学校の制服であった。
これが意味する事は、一つしかない……彼女達は、たまらず声を上げた。
その後、フェイトは店内でなのはの両親へと挨拶をしているリンディの元へと走っていった。
なのは達三人も、その後に続く……その後姿を、ミライはしっかりと見守っていた。

(……世界が違っても、やっぱり同じだ。
僕は、あんな笑顔を守りたい……兄さん達には少し悪いけど。
問題が片付いて、元の世界に戻れるようになるまで……精一杯、頑張ろう。
皆と一緒に……!!)

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最終更新:2007年10月29日 12:32