ここは時空管理局本局。フェイトの執務室である。
次元航行部隊への復帰を希望したフェイトであったが、その希望は残念ながら叶えられなかった。
いつも人材不足に悩まされている時空管理局で、次元航行部隊の執務官が多すぎると言うことはない。
いささか不可解なこの人事に少し心配性なところのあるフェイトは真っ青になった。
これが左遷人事ではないかと考えたのである。
すでに解散した六課でいろいろと無茶をやった身。フェイト自身はこれは仕方ないと思っていたが、問題は自分の下に配属されたシャーリー、ティアナ、それにこちらも希望を叶えられなかったキャロのことである。
自分の左遷人事に巻き込まれたのではないかと焦るフェイトは、時空管理局中をかけずり回り、せめてこの三人は左遷人事から外すように嘆願して回ったのである。
時空管理局の一部で語りぐさになるほどの勢いで。
このことを聞きつけたはやてはあわてて独自のコネクションを使いし、この人事の理由を調べ上げた。
どうやら本局、本部ともに元六課のメンバー、特にファー・ジ・アースに突入したメンバーを手の届く範囲においておきたいようなのだ。
そのため、本局から遠く離れて勤務することになる次元航行部隊や自然保護隊への配属は見送られることになったようなのだ。


というわけで、今日もフェイトは空間モニターとにらめっこをしているような状態である。
いくつかの事件についての情報分析、評価、伝達を終えた頃に執務官補佐の肩書きとなったキャロがディスクを手に、息を切らせながら駆け込んできた。
「フェイトさん、フェイトさん。エリオ君からのお手紙が来ました」
ネットワークが発達しているミッドチルダでは、通常、手紙はディスクに入れて持ち運ぶと言うことはない。
それをしなければならないとすれば、よほど辺境からの手紙かびっくりパーティめいたものの仕掛けということになる。
それに、職場に手紙が届けられるというのも普通ではない。
ただの手紙ならフェイトの住所宛に届ければいい。
では、そんな普通ではない届けられ方をする手紙を書いたエリオは今どこにいるか。
ディスクに収められた手紙ファイルが表示されているフェイトの空間モニターを見ればそれがわかる。
そこにはこう書かれていた。

差出人:エリオ・モンディアル
発信場所:ファー・ジ・アース

現在、時空管理局の使節団とファー・ジ・アースの代表は様々な事項に関して難しい交渉を行っている。
いくつかの案件では難航を極めており、互いの関係が最悪寸前まで行ったこともあるようだが、その中でもいくつかの事項が交渉を終えている。
その一つが時空管理局、ファー・ジ・アース間の人材交流である。
互いに互いの世界をよく知らないままでは交渉もままならないというわけだ。
その人材交流の第一陣としてエリオは今、ファー・ジ・アースに研修に行ってる。
「じゃあ、見てみようか」
「はい」

こんにちは。フェイトさん、キャロ。
僕は今、ファー・ジ・アースのいろんなタイプの魔導師について勉強をしています。
ミッド式やベルカ式にはないタイプの魔導師も多くてとても驚いています。
その中でも、この前勉強したのは夢使いというタイプの魔導師についてでした。

「ふむ、君がミッドチルダから来たエリオ・モンディアル君か。どり~む」
「はい。よろしくお願いします」
「うむ、いい返事だ。どり~む。だが、覚えておきたまえ。夢使い同士では、『はい。どり~む』もしくは、『はい。どり~むどり~む』だ」
「は、はい!」
「ちがう!そうではない。どり~む」
「あ、えーと。はい、どりーむ」
「よろしい。最初にしては上出来だ。どり~むどり~むどり~む」

僕に夢使いのことについて教えてくれたのはナイトメアさんでした。
ほかに、ドリームマンや死の茄子色カブトムシという呼び名もあるそうです。
ドリームマンさんは大きなマントを着けていたり、目が悪くないのに眼帯をつけていたり、ズボンを二つもはいていたり、おなかを出した服を着ていたり、僕から見るとかなりおかしな格好をしていましたが、これが夢使いのフォーマルでトレンディな服装だそうです。
とても親切な人で研修の最後の日にはプレゼントをくれました。

「この研修で夢使いのこともだいぶわかったと思う。どり~む」
「はい。ありがとうございます。どり~む」
「うむ。よろしい。そこでだ、君にプレゼントがある。どり~む」
「え?あ、えーと。どり~む」
「これだ。うけとるがいい。どり~む」

ドリームマンさんからのプレゼントは夢使いの正式なユニフォーム、つまり僕のサイズのドリームマンさんの服でした。

「君のことをつい妻に話してしまってね。そうしたら、ひどく感動して是非君にこれをあげたいとのことだ。どり~む」
「ありがとうございます。大切にします。」
「ん?」
「あ、えーと。どり~む」

今度そちらに戻ったときに着てみます。


他にも、この世界の聖王教会についての研修も受けてきました。
ここで出会ったのは、グィードさんでした。

「んー、いいねぇ。とてもいい。君はとてもいいよぉーー」

なんだかよくわかりませんが、出会った瞬間に気に入られてしまいました。
この世界の聖王教会はエミュレイターと戦っているそうです。
まずは実践だと言うことで、僕はその戦いを見学することになりました。

「くぁーはっはっはっはっはっは。
どうだぁ、痛いかぁ?苦しいかぁ?悪魔ども。
そうかぁ、痛いかぁ。苦しいかぁ。そうだとも。そうだろうとも。
祝福の施された剣だ。貴様らにはさぞかし効くだろうなぁ。だが、神の慈悲は貴様らにも降り注ぐ。すぐに消滅をもってその苦しみからときはなたれよう。
かぁーっはっはっはっはっはっは。
ん?どうした、ボーイ。君も早くエミュレイターを倒したまえ。神が見ておられるぞ」

こちらの聖王教会はとても怖いと思いました。


次は使徒についての研修でした。
僕に使徒について教えてくれたのはあのアンゼロットさんでした。

「どうぞ」
「ん……なかなかいい香りの紅茶ですね。だいぶうまくなりましたね」
「あ、あの」
「なぜ使徒のことについて知るのにこんなことをするのか、と思ってますね」
「はい」
「教えてあげましょう。私はこの世界の守護者。すなわち使徒です。その私に仕えることこそ、使徒について知る一番の近道にして王道なのです。わかりましたね」
「はい」
「ですが……まだ香りを引き出しきっていませんね。もっと精進なさい」
「はい!」

最後の日にはアンゼロットさんを満足させるお茶を淹れることができました。
今度、フェイトさんも飲んでください。


それから、大いなるものについても学びました。

「というわけで、世界の破滅はイコール世界結界の崩壊なの。また、逆に世界結界を崩壊させることで世界を破滅させることもできるわ」
「はい」
「でも、この際にまず邪魔になるのがアンゼロット率いるロンギヌスね。これを解決するためにあなたならどうする?」
「え、えーと……アンゼロット宮殿に奇襲をかけて、ロンギヌスの機能を麻痺させる、でしょうか」
「すばらしいわ。よくわかったわね」
「この前、ミッドチルダの地上本部が同じようなことになりましたから」
「うんうん。あなた見所あるわ」

この研修はベール・ゼファーさんの「世界を滅ぼす明日のために」という講義でした。
ベール・ゼファーさん……あれ?

「こーの、蝿娘!人の宮殿で何やってるのよ!」
「何って、大いなるものについてこの子に教えてあげているんじゃない」
「そういうことを言っている訳じゃありません!だいたい、この講義は真壁さんに頼んでいたはずです!彼女はどこに行ったの?」
「さぁ」

──その頃のアンゼロット宮殿ロッカールーム
「もがーもがががががががが。もがーがーがーがもがー(だしてー、ほどいてー、たすけてー、おねがいー)」

「とにかく、ここにあなたの居場所はありません。即刻出て行きなさい」
「いやよ、まだ始めたばかりだもん」
「くたばれ!地獄で懺悔しろ!」

「大変だー、アンゼロット様がベール・ゼファーと!!!」
「誰かお止めしろ!」
「誰が!って誰が?うわーだめだー」

まだこちらで勉強することがあるので戻るのは少し先になりそうです。
フェイトさんもキャロもお元気でいてください。
エリオ・モンディアルより


「……エリオ、向こうで何してるんだろ」
「……なんでしょう」

今日も世界は平和である。

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最終更新:2008年09月03日 04:26