それは小さな願いでした。
何事も無い静かな日々。
ただ穏やかに続いていく毎日。
私は何も望んだりせえへん。
私はどんな力も欲しないから。
ただ、そばに居てくれたら良かった。
そしたら、私が皆を護るから。
気持ちが少しすれ違う時も……
だけど、それでも……

宇宙の騎士リリカルなのはBLADE……
始まります。


その日、シャマルははやての車椅子を押し、スーパーへ買い物に来ていた。
どうやら鍋料理を作るらしく、積極的に手に取る食材は、白菜や豚肉、まいたけといった鍋によく使われる物ばかりだ。
ふと、豚肉を手に取ったはやては、後ろで車椅子を押してくれているシャマルを見る。
「せやけど、最近皆、あんまりお家におらんようになってもうたね……」
「あ……ええ、まぁその……何でしょうねぇ?」
アハハと苦笑いしながらはぐらかすシャマル。闇の書の完成の為に夜な夜な人や野性生物を襲っているなどと、言える訳も無い。
「あ、私は別にええんよ?皆が外でやりたい事あるんなら別に……
それにシンヤだってホンマなら学生やっててもおかしくない歳なんやし、外でなんか楽しいこと見付けたんかもしれへんしね」
「……だからこそあんまり外出し過ぎて補導されても困りますけどね?」
「フフ」と笑うシャマル。補導なんてされよう物なら色んな意味で困る。
どちらかと言うのは心配なのはシンヤを補導した警官の方だ。恐らく殺される……いや、良くて半殺しだろう。
「あはは……それに、私は元々一人やったしな」
「はやてちゃん……大丈夫です。今は皆忙しいですけど……すぐにまた、きっと……」
少し寂しそうな表情をしたはやて。シャマルは、励ますような真剣な表情で、はやての顔を覗き込んだ。
「そっか……シャマルがそう言うなら、そうなんやね!今夜はすずかちゃんも来てくれるし……」
そうすると、はやてはすぐに笑顔を取り戻し、元気そうに頷いた。

数分後、スーパーから出たはやては、空を見上げながら呟いた。
「皆も……外で寒ないかなぁ……」
そんなはやてが見上げる空。ここから少し離れた場所に、一人の女性が浮かんでいた。
桃色の騎士甲冑を身に纏い、刀型のデバイス-レヴァンティン-を携えた騎士……シグナムだ。

そのすぐ真下では、再び力を取り戻したDボゥイ……いや、ブレードが、ペガスに乗り、空に浮かんでいた。
「Dボゥイさん……また戦う決意、固めたんだね!」
「ああ……お前達のお陰で、俺はまたこうして戦う事ができる!」
珍しくなのは達に感謝の意を表すDボゥイ。
そんなDボゥイを見ていたフェイトも、嬉しそうに口を開いた。
「貴方には強い心がある……そんな強い心がある限り、貴方は悪魔でも化け物でも無い!」
「ああ……わかったよ、フェイト。」
フェイトに言われた言葉も、Dボゥイが立ち直るきっかけになったのだ。フェイトにも素直に感謝しながら頷く。
そして、なのはやフェイト達……アースラの皆に聞こえるように、ブレードは言った。

「俺は……俺の持つ30分を、お前達に預ける!!」

その言葉を聞いた一同からは、笑顔が零れた。ついに立ち直ったDボゥイ。彼は、自分達を仲間として信頼してくれているのだ。
その姿は悪魔でも化け物でも無い。それは、まさに人の如く!

第5話「復活!怒りのボルテッカ」

「フン……何が強い心だ!ブレード……お前はここで消えるんだよ!」
エビルはそんなブレードとなのは達のやり取りを嘲笑うかの様に、テックランサーを突き付けた。
「俺はここで死ぬ訳にはいかない!エビル……ここで決着をつけてやる!」
そう言い、ブレードは背中のスラスターを噴射し、ペガスの背中から飛び上がった……
その時だった。
エビルに斬り掛かろうとしたブレードは、突如として落下した、紫の稲妻により、進路を阻まれた。
稲妻による煙幕が晴れる。そこにいるのは。
「シグナム……ッ!」
その名を呼ぶフェイト。以前の戦いで、お互いにいい勝負をした相手の名だ。忘れるはずも無い。
当のシグナムは、ブレードにレヴァンティンを突き付け……
「騎士、ブレードといったか。お前の相手は……私だ!」
「なに……ッ!?」
次の瞬間にはブレードの懐へと飛び込んでいたシグナム。振り下ろされたレヴァンティンを、テックランサーで受け止める。
「ク……どけぇッ!!」
「貴様も騎士ならば、力付くで通ってみせろ!」
どうやら騎士という称号に反応したらしい。シグナムはどうしてもブレードと戦うつもりだ。
二人はお互いの剣をぶつけ合い、数十メートル、反発する磁石のように距離を取った。
その際、エビルの近くに飛び退いたシグナムは、ちらっとエビルに視線を送る。
「シンヤ……ブレードの相手は私がする。文句は無いな……?」
「……好きにしろよ……」
「感謝する……!」
その言葉を聞いたシグナムは、再びブレードへと突撃した。
エビルの方は興ざめといった感じだ。まさか、やっと会えたブレードの始末を別の奴に任せる事になるとは。
「(フン……まぁいい……せいぜい頑張るがいいさ)」
エビルは、ブレードとぶつかり合うシグナムに冷たい視線を送った。どっちにしろシグナムがブレードに勝てるとは毛頭思っていない。
……だが。もし仮にシグナムが勝ったなら……。
その時は、エビルは全力を以てシグナムを打ち倒すだろう。

「ユーノくん、クロノくん!手を出さないでね!私、あの娘と一対一だから!」
ヴィータを見つめながら、大声で叫ぶなのは。ヴィータも小さく、「チッ……」と舌打ちする。
クロノとユーノも、「マジかよ……」とつぶやきながらもそれに納得する。
「(アルフ……私はあの赤いテッカマン……エビルと……!)」
念話で、アルフに自分の戦う相手を伝えるフェイト。空に浮かぶエビルを睨む。
「(ああ、調度アタシも、野郎と話がある……!)」
アルフも同じように、空に浮かぶザフィーラを睨み付けた。見た所相手は自分と同じ使い魔だ。アルフには少し思う所があったらしい。
なのはとフェイトの二人は、新デバイスのカートリッジをロードする。
それにより、二人の魔力は一気に上昇。これならば、ベルカ式に対抗できる。
「はぁああああッ!!」
一気に飛び上がり、エビルへとバルディッシュを振り下ろすフェイト。
だが、それもエビルの片腕に装着された剣……『ラムショルダー』によりたやすく受けられてしまう。
「……貴様、死にたいのか……?」
「……貴方とDボゥイにどんな因縁があるのかは知りませんけど……私は勝ちます!」
再びエビルから距離を取り、足元に黄色の魔法陣を展開。同時に、フェイトの周囲に無数のスフィアが浮かぶ。
『プラズマランサー』
カートリッジにより大幅に強化されたフェイトの魔法、プラズマランサーだ。
スフィアはエビルへと照準を定める。
「いいだろう……死ぬ前に目に焼き付けるがいい!このテッカマンエビルの姿を!!」
「プラズマランサー……ファイア!!」
フェイトの掛け声と共に、プラズマランサーはエビルへと飛んで行く。
「小賢しい!」
エビルはプラズマランサーが着弾する前に、フェイトに向かってラムショルダーを投げ、フェイトの視界からその姿を消した。
対するフェイトは飛んできたラムショルダーを回避する為に上昇。
「エビルが……消えた!?」
「どこを見ている?」
「ク……ッ!?」
消えた、と思った瞬間には、エビルは既にフェイトの背後へと移動していた。
だが、ここで簡単に落とされるフェイトでは無い。フェイトの反射神経は、常人のそれを遥かに凌いでいる。
エビルの気配に気付いた時には、既に次のアクションを起こしていた。
『ハーケンフォーム』
「何……っ!?」
「ターンッ!」
バルディッシュのリボルバー部が回転。バルディッシュから黄色い稲妻の如き魔力刃が飛び出す!
一回転して振り抜いたバルディッシュは、エビルの体に直撃した。
「貴様……ッ!」
そして、次にエビルに向かってさっきのプラズマランサーが一斉に襲い掛かる。
フェイトはすぐにエビルから離れる。その瞬間、エビルは全てのプラズマランサーに直撃。爆煙が広がる。
「やった……かな?」
『Caution』
「……ッ!?」
バルディッシュが注意した瞬間、爆煙からエビルが飛び出す。エビルは真っ直ぐにフェイトに突撃した。
「調子に乗るなよ、虫けらがぁッ!!」
「な……ッ!?」
『ディフェンサープラス』
一瞬のうちにフェイトの眼前まで迫ったエビルは、テックランサーを振り下ろした。
それに対し、バルディッシュは咄嗟に防御魔法を展開。元々回避重視なフェイトは、防御魔法もたいした防御力を成さない。
完全に弾くまでに至らずに、テックランサーによる衝撃を受けたフェイトは、一気に地面に落下する。
だが地面激突という訳では無い。フェイトは地面激突寸前で再び浮力を取り戻し、地面から反発するように体勢を立て直した。

「強い……テッカマン、エビル……!!」
「当たり前だ!最強のテッカマンであるこの俺が、魔導師ごときに負ける物か!!」
本来ならばこんな子供一人、エビルなら一瞬で八つ裂きにしている筈だ。だが元の世界にいた時とは勝手が違う。
今は侵略が目的では無い。ましてやシャマル達に人殺しはしないようにと念を押されているのだ。
殺さないと保証できる訳では無い。だが、すぐに終わらせはしない。じっくり遊ぶつもりだ。

「貴様達!何故エビルに協力する!?」
「エビル……?シンヤのことか……」
再びペガスに乗り、ペガスの上で戦闘を続けるブレード。相手はシグナム。人間と戦うのはこれが始めてだ。
それ故、力の加減が難しい。人の心を持ったDボゥイが、故意に人を殺そうとすることはまず無い。
例え故意では無かったとしても、誰も殺したくは無い。
「貴様に話す事では無い!」
『シュランゲフォルム』
シグナムのレヴァンティンは、剣本体がいくつにも分割。
ブレードの周囲を取り巻くように展開したレヴァンティンの刃は、締め付けるような形でブレードを襲撃する。
「クッ……ペガァスッ!!」
『ラーサ!』
刃が当たる前に、ペガスに命令を下す。すると、ペガスはすぐに変形を開始。ブレードも一緒に、全身がスリムな形態へと変形。
「クラァッシュッ!イントゥルーーーードッ!!」
「なッ!?」
驚くシグナム。レヴァンティンの刃が直撃する前に、ブレードはペガスごとエメラルド色の光へと変わったのだ。
凄まじい速度で天へと昇った光は、一気にシグナムに向けて急降下。
ブレードの技の一つ……『クラッシュイントルード』だ。
シグナムはなんとかそれを回避。それでも凄まじい速度で四方八方から飛んでくるブレードには、流石のシグナムも苦戦していた。
「そこかッ……!」
だがシグナムもいつまでも負けている訳にはいかない。次第にブレードの軌道が読めて来たシグナムは、レヴァンティンに炎を纏わせ、それを振り抜いた!
ガキィン!と、鋭い音を立てて、命中するレヴァンティン。だが、命中したのはブレード本人では無かった。
シグナムのレヴァンティンと激突しているのは、ブレードのテックランサーだ。
ブレードもまたシグナムの動きを見切り、攻撃をテックランサーに切り替えたのだ。
「フッ……なかなかやるな、騎士ブレード……!」
「お前こそ……!」
お互いの剣を激突させながら、二人は相手の顔をよく見た。シグナムの目に写るのは、見慣れた顔だ。
「(シンヤ……?いや……双子だったな……)」
ブレードの仮面の中に見える顔は、まさしくシンヤの物だ。左目に大きな傷があることを除けば、本当によく似ていた。

一方のなのはも、ヴィータと戦闘中だ。
なのはの新たな力に、ヴィータは押されていた。障壁も破壊され、攻撃もほぼ通じない。ヴィータも、少し焦りを感じ始めていた。

まさかこの時、戦闘に集中し過ぎている間にクロノ・ユーノの二人に、近くを嗅ぎ回られている等と、思いも寄らなかっただろう。
そんな時、状況をあまり良くないと考えたザフィーラは、結界の外のシャマルと念話で連絡を取っていた。
「(シグナムやシンヤが負けるとは思わんが……ここは引いた方がいいな。シャマル……)」
「(なんとかしたいけど、局員が外から結界を維持してるの。シグナムのファルケンや、ヴィータのギガント並の威力が出せれば……)」
「(二人共、今は手が離せないが……一つだけ方法がある。それに賭けるしか無いな)」
「(ザフィーラ、まさか貴方……シンヤ君に……?)」
シャマルは、思い当たる唯一の方法を口にした。シンヤならば、いくらでもボルテッカを放つ程度の隙なら作れるだろう。
だが、こんな密室空間でボルテッカを使えば……

「シンヤ……!」
すぐにアルフから離れたザフィーラは、エビルの近くに飛び上がる。背中を合わせるように隣接したザフィーラは、エビルに囁いた。
「シンヤ……一度撤退する。ボルテッカを使えるか?」
「ボルテッカだって……?別に構わないが……もう帰るのかい?」
「状況はあまり有利では無い。あの白いテッカマンとは、いずれまた会えるだろう……。今は退くぞ」
「仕方ない……」
次の瞬間、エビルは地面へと急降下し、着地。PSYボルテッカの発射体勢へと移行する。
フェイトはエビルを追いかけようとするも、ザフィーラに道を阻まれてしまい、それを断念。
「お前達の相手は俺が引き受ける。シンヤの邪魔はさせん……!」

「エビル……!まさかボルテッカを使うつもりか!?」
「何……?」
一度空中で静止し、エビルへと視線を送るブレード。シグナムも釣られてエビルを見る。
「こんな所でボルテッカを使えば……!」
「よそ見をするなァ!!」
「チッ……!」
正面から突撃してきたシグナム。ブレードはレヴァンティンをテックランサーで受け止めながら、シグナムを睨んだ。
「聞け、女!こんな場所でボルテッカを使えば、貴様達もただでは済まないぞ!」
「私の名前はシグナムだ!貴様も騎士ならば、己の戦いに集中しろ!!」
レヴァンティンの刃は燃え盛る炎を纏い、ブレードを弾き飛ばす。
シグナムはシンヤを信頼している。そして、ザフィーラやヴィータ……それから、自分自身の力もだ。
フェルミオンという物質を知らないシグナムには、まさかボルテッカがそれ程の威力を誇るとは思っていないのだ。
距離を取ったブレードは、シグナムを睨み付けた。もはや躊躇っている余裕は無い。シグナムには悪いが、少しだけ本気を出させて貰う。
「騎士だと!ふざけるな……!
俺は強くなんてなりたく無かった!こんな力、欲しくなかった!!」
「何ッ!?」
刹那、ブレードはシグナムのレンジ内に入っていた。

「だが奴ら……悪魔はそれさえ許しはしなかった!」
「な……バカな……!?」
既に、ブレードはシグナムの視界から消えていた。
シグナムの体に走る鋭い痛み。そして、正面から大きく裂けた騎士甲冑。
裂けた場所からは血が流れていた。そんな致命傷に至る程の傷では無いのは、不幸中の幸いだ。
「バカな……私は防いだはずだ……」
シグナムは、ただ呆然とそこに浮かんでいた。信じられなかったのだ。まさか、こうも簡単にあしらわれるとは、思いも寄らなかったのだ。

一方のエビルは、既に胸のボルテッカ発射口にフェルミオンをチャージ完了していた。あとは、これを空に向かって放つだけだ。
「PSYボル……」
「エビルゥーーーーー!!」
「……ッ!?」
エビルがPSYボルテッカを放とうとした刹那、『ドガァァァン!』という凄まじい音と共に、地面に大きな穴が開いていた。
中にいるのは、赤と白、二人のテッカマン。ブレードとエビルだ。
ブレードがエビルの首根っこを掴み、地面にたたき付けたのだ。
「クッ……兄さん……!」
「たしかに……俺の力は悪魔によって与えられた物だ……。だが、俺は悪魔では無い!」
「クッ……フフフ……いい加減受け入れなよ兄さん!僕も兄さんも……ラダムなんだよぉッ!!」
今度はエビルがブレードの首を掴み、両肩のスラスターを噴射。一気に上空まで飛び上がる。
「俺は……人間だッ!!……貴様だけはこの手で!!」
「それが優しさのつもりかい、タカヤ兄さぁんッ!!」
上空で何度もぶつかりながら、お互いの気持ちをぶつけ合う二人。もはや超音速の戦いとなっており、他のメンバーでは入れない空間が出来上がっている。
「黙れッ!お前はラダムだ!シンヤでは無い……!!」

「(ザフィーラ!)」
「(シャマルか……どうした!?)」
再び、ザフィーラにシャマルから通信が入る。
「(ボルテッカを使っては駄目!)」
「(何だと……?)」
「(ボルテッカのフェルミオン粒子をこんな密室空間で爆発させれば、間違い無く結界の中は全て吹き飛んでしまうわ!)」
「(……ならば、どうすればいい……?このままでは……)」
「(……アレを使うしか……ッ!?)」
言いかけたシャマルの言葉が止まった。背後に感じる何者かの気配。明らかに味方の物では無い。
「捜索指定ロストロギアの所持……使用の疑いで、貴方を逮捕します」
シャマルに、背後からデバイス……S2Uを突き付けているのは、クロノだ。
ようやく見付けた闇の書の騎士。ここで取り逃がす訳には行かない。
「抵抗しなければ、弁護の機会が君にはある。同意するなら、武装を解除して……」
だが、その常套句を言い終えることは無かった。
「ハァッ!」
「うっ……!?」
何者かの介入によりクロノ、の体は向かいのビルの屋上まで吹っ飛んだ。蹴られた腹を押さえながら、見上げるクロノ。
そこにいるのは、仮面の男。

シャマルの横に佇む男は、シャマルも知らない人物だ。誰かは解らないが、まだ味方かどうかは解らない。
「貴方は……?」
「闇の書の力を使って、結界を破壊しろ。」
「でも、あれは……」
「使用して減ったページはまた増やせばいい。ここで仲間がやられるよりはマシだろう」
「…………!?」
その言葉に、シャマルは決心した。
「(……皆、今から結界破壊の砲撃を撃つわ!上手くかわして、撤退を!)」
結界内の、ヴォルケン一同に聞こえる声。それを聞いた一同は、シャマルが闇の書の力を使うのだろうと、すぐに感づいた。

「闇の書よ、守護者シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を、今、ここに。」
シャマルが唱えると同時に、闇の書から紫の光が放出される。
「「これは……!?」」
結界内のエビルとブレードは、何かの気配を感じた。
「これは……まさか……」
だが、それは信じられない事だ。ブレードとエビルは動きを止め、暗雲立ち込める空を見上げた。
「撃って、破壊の雷!!」
『Vol Tekka』
シャマルの詠唱により、闇の書はその術名を確かに発声した。

空に巨大な球体が現れ、それは赤い稲妻を放出……いや、吸収し始める。
そして、次の瞬間には、それは……闇の書の『ボルテッカ』は結界に向けて発射されていた。

凄まじい衝撃。一瞬で、結界全体にヒビが入る。このままでは、あと10秒と持たないだろう。
「エビル……!これは一体、どういう事だ!?なぜ奴らにボルテッカが使える!?」
「クッ……バカな!俺と兄さん以外にも……ボルテッカが使えるというのかッ!?」
どうやら驚いているのはブレードだけでは無いらしい。エビルも、ブレード同様に驚いている様子だ。
ブレードも、エビルも、今にも破壊されそうな結界内から、フェルミオンの輝きを見詰めていた。

同時に、ヴィータもなのはに伝える事があるらしい。
「私はヴォルケンリッター鉄槌の騎士、ヴィータ。アンタの名は?」
「ヴィータちゃん……私は高町なのは」
「高町なぬっ……ええい、言いにくい!!」
「逆ギレ!?」
意外な所でキレられたなのは。どちらかと言うと逆ギレしたいのはこっちだ。
「何はともあれ、勝負は預けたからな!」
そう言い、ヴィータは立ち去って行った。

「仲間を守ってやれ!直撃を受ければ、危険だ!」
「え……あ、ああ!」
去り際にそう、アルフに伝えたザフィーラ。
アルフはすぐに、スフィアプロテクションと、サークルプロテクションの発動準備に入る。
スフィアプロテクションは一人一人を守り、サークルプロテクションは一同を纏めて守る。
そして次の瞬間、ついに結界は崩壊。収束されたフェルミオンは、光り輝きながら、周囲のすべてを巻き込んだ。
凄まじい光り。アースラのモニターも、フェルミオンの予想以上の攻撃力に、全ての機能を一時停止した。

しばらくたって、光が晴れた時。そこにいるのは、アルフが守ったなのは、フェイト……それから、エビルとブレードのみとなっていた。
なんとか回復したアースラのモニターにも、彼らの姿が写される。

「クッ……まだだ!俺達にはまだ決着は着いていない!まだ戦えるぞ、ブレードぉッ!!!」
「望む所だ!俺は貴様を……この手で討つ!!」
「黙れブレードッ!またPSYボルテッカの餌食にしてくれるッ!!!」
上空で100mほど距離を取った二人。エビルは、胸の発射口からフェルミオンを吸収し始める。

「--はい、わかりました!」
一方のなのはとフェイトは、アースラからリンディの指示を受けていた。内容は簡単だ。
今、リンディから聞いた話をDボゥイに伝える。それだけでいい。
「Dボゥイ!ペガスのグリップを握って!!」
「管理局の皆が用意してくれた、新たな力だよ!!」
二人に言われたブレードは、力強く「わかった!」と返し、そのままペガスと共に空へと駆け上がった。

「PSYボルテッカァァァーーーーーーーーッッ!!!」
発射されるPSYボルテッカ。PSYボルテッカの赤い光は、逃げるペガスを追い掛ける。
「今よ!ペガス!!」
アースラから、飛び続けるブレードとペガスをモニター越しに見ていたリンディは、そう叫んだ。
「ペガス!ハイコートボルテッカ・セットアップ!!」
『ラーサ!』
ブレードの声に呼応し、飛びながら変型するペガス。ブレードは両腕でペガスのグリップを握り、ボルテッカの発射体勢に入る。
「ペガスに装備されたフェルミオン砲と、ブレードのボルテッカの合体技……!流石にこれは吸収できないはずだよ!!」
自信満々に言うエイミィ。もはやアースラの一同の頭から、ブレードの敗北という発想は無くなっていた。

ブレードが吸収するフェルミオンは、ペガスにより増幅され、眩ゆい光がブレードを包む。
「……エビル!お前が失った心の力が俺を蘇らせた!そして、俺の新たな力が貴様を討つ!!」
ブレードは、エビルに向かってそう叫んだ。

「ハイコートォォッ!!ヴォルッ!テッ!カァァァーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

凄まじい光を集めながら、ブレードが放ったエメラルド色の光はエビルに向かって飛んでいく。
その緑の光は、エビルが放ったPSYボルテッカの赤い光を全て飲み込み、圧倒的な力の差を見せ付ける!
「な……何ッ!?」
その新たなボルテッカには流石のエビルも驚愕していた。
そして。ブレードが放ったハイコートボルテッカの光は、凄まじい衝撃を走らせながら、エビルの体をを飲み込んだ!

「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」

光に飲み込まれながら、エビルは初めて、苦しさに悲鳴をあげた。全身を焼かれるような痛みに、エビルの装甲は消滅していく。

「やったぁ!PSYボルテッカを破ったよ!」
「うん!やったね、Dボゥイ!」
少し離れた場所で見ていたなのはとフェイトも、素直に感嘆と、喜びの表情を見せる。
だが、それでもまだエビルを倒すまでには至らなかった。
光と爆煙が納まる。そこにいるのは、ボロボロになりながらも、ブレードを睨み付けるエビルだ。
「おのれ……ブレードッ!よくもっ……よくもぉっ!!!」
「エビル……」
もはや先程までの落ち着きは失われており、エビルは怒りに声を震わせている。
「……ブレードォッ!この仮は必ず返す!その首は、預けておくぞ、ブレードォッ!!」
こうして、言うだけ言ったエビルは、この場所から姿を消していた。

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最終更新:2007年11月17日 16:19