<<独占欲>>


  伸ばす指の切つ先に
  貴女が怯へてゐるのが判る
  判つてゐて、だのに手を伸ばす私はきつと
  意地が悪いのだらう

  怖ろしひですかと私が尋ね
  怖ろしひことはないと言ひ返す貴女
  判つてゐて、私は敢へて尋ねる

  私が怖ろしうございますか
  私が信用なりませぬか

  その声に
  挑むやうに突き上げる、貴女の漆黒の瞳が私を貫き通して放さない
  この、盲ひたまなこにもよく映る
  貴女の尖つた瞳の強さ

  いとけない貴女が過ごした陵辱の日々を、私は決して忘れない

  あの煉獄に勝る屈辱の中で
  あの狂死に勝る恥辱の中で
  貴女が発し続けた、救ひを求める刃のやうな
  百の言葉と千の眼差し
  私は決して忘れない

  あの日から貴女は
  私にさへ触れられることを嫌がり
  その身を穢れなき白布で覆つた
  膝を抱へて震える貴女を
  ただ間抜け面をさらして
  眺めることしか私には出来なかつた

  無力を超へた無力を感じ
  私はこの身に闇わだを、永久なる闇わだを課した
  暗黒に自身を縛りつけ、貴女の苦しみをほんの少しでも拭おふと試みた

  いいや違ふ
  嘘をつくな
  本当に縛り付けられたのは誰なのだ
  縛り付けられたのは、私ではなく貴女だ

  世界が終はる慟哭を
  貴女が金切り声で上げたとき
  だらだらとまなこから
  血液とも体液とも知れぬ物質を垂れ流しながらも
  会心の笑みを湛へた悪魔は誰だ

  私が怖ろしうございますか
  私が信用なりませぬか

  甘い言葉で囁きながらその実
  二度と貴女がはなれぬように緊縛したのは誰だ


公女と参謀にモドル
最終更新:2011年07月21日 21:11