<<さくら。さくら。>>


  砂漠の夜は青い。満月。月光深々と、砂丘を照らす。
 「……ここも、ダメ……か」
  ちっ。舌打ちをひとつ。ヒューは首に手を当て、ごきりと盛大に鳴らした。
  彼が覗き込んでいたのは、使い込んだ地図。
  いくつかの曲線と、暗号にも見える印と記号、それに伴っていくつかの赤い丸印。曲線は地下水脈の流れで、赤い丸は、それが地表に露わになっている場所――つまりは、川であり、池であり、沼である。
  地図を見下ろし、ヒューは大きく溜息をついた。
  紙面上に書き記されている赤い印は、砂に埋もれたか或いは破壊されたのか、どこにも見当たらない。
  これが一つ二つの話であるならば、或いは三つ目の印を目指そうという意欲も湧いてこようが、流石に十数個空振りに終わるとやる気も削げるというものである。
  干物確定の危機に襲われつつある。
  積み込んだタンクの水は、数日前にとっくに無くなっていたから。
  干物候補は三つ。
  改変型サンド・クルーザーの座席後方、真ん中に陣取ったヒューの横に、小さい体を縮めて座っているのがマルゥ。
  見た目15、6歳の可憐な少女である。
  彼女は握った赤ペンで、ぐちゃぐちゃと地図上の丸印の上に、大きく×を書き込んだ。
 「やっぱり……ダメ?」
  言いながら華奢な腕で頬杖をつく。
  華奢な外見に反して、内蔵された特殊ブースターによる怪力が自慢。
  ヒューが少女の声の行く先に目をやると、砂上にしゃがみ込み、じっと振動音を聞いていた青年がいる。カークだ。
  マルゥの声にカークは振り向き、小さく頷いた。

  ヒューの仕事は基本的に定職の無い何でも屋である。
  職業案内業者を仲介して仕事を請け負うのだが、荒稼ぎの仕事に比例して、無茶な注文が豪く、多い。
  ついこの間などは、自身を猫と思い込んでいるシステムコンピュータの搭載された軍用トラックを、しかるべき場所に搬入する仕事を請け負ったのだったが、危うくカークなどは二重タイヤの下敷きになりかけた。
  トラック本人は、単に擦り寄り甘えた仕草のつもり、だったのだが。
  しかしおかげで、一月半ほど遊んで暮らせる収入が入った。
  そんな無茶な仕事ばかりしている。
  今回請け負った仕事は、こうして完全高度管理社会都市――通称P-C-C――内の砂漠における水脈の保全、だった。
  ただし、保全と言っても、

 「さーーーっぱり。水脈のスの字も無いじゃないのねぇ」
  保全するべき対象が見当たらないのが現状である。
  都市、と名の付くこの惑星全部には、勿論こうして人間の手付かずの自然……と言うよりは開発にすら躊躇する、荒れ放題の荒野や砂漠があり、こうしてたまには調査と言う名の苦行仕事も存在した。
  詰め込まれた食料と水はかなりの割合で逼迫していた。
 「こんなにかかると思わなかったなぁ」
  水を探している本人たちに水がない。
  火を焚いて気化させたなけなしの水分を、水筒に集めたので、最後だ。
  代わりに、渇きを潤す効果が、多少なりとも期待の出来る水の錠剤を口にしている。
  ただしそれは一時的なものではあったので、そろそろ本格的に水分補給を行わないと人命に関わるだろう。
  特に、ヒューは。

  ヒューは、カークとマルゥの飼い主だ。
  彼らはD-LL(ドール)と呼ばれる生体機械である。
  人間ではない、人間によく似たまがい物。
  試験管で培養された、無機胚を加熱することによって培養された、限りなく有機物質に近しい無機物。
  首筋に刻み込まれた製造バーコードが、人間とD-LLと呼ばれるそれとの違いを明確にしている。
  逆に言うならば、それ以外にはっきりとした違いは無いほどに、両者は酷似している。
  異なるのは一方はそれの創造主であり、もう一方は創造物であるということ。
  機能によっては、数年分の蓄えで購入できるものから、目の玉が飛び出て、転がりきっても未だ手の届かない超の10乗ほど付く高級品も存在するというから、一概には括れない。
  砕けた言葉で言うのなれば、アンドロイド……だろうか。
  現在は人権、その他各種の権利を獲得しつつあるものの、一昔前は、人間に作られたという一点の為に、逆らうことも出来ず、ハントと称して随分の量のD-LLが狩られた記憶も新しい。
  彼らとそれの創造主である人間は、共にP-C-C(完全高度管理社会都市)と呼ばれる、地球より移住してきた惑星に棲んでいる。
  既に一千年あまり。
  P-C-Cの中央都市は、もちろんその「完全高度管理」の名を博すに相応しく、気温の変化から湿度、ビルの谷間に吹き起こる風の強弱にまで、事細かに中央政府によって管理されている。
  のだと言う。
  そうP-C-C説明書には、書いてあったりもするが、ヒューはあまり読んでいない。
  知ろうと言う気もない。
  何故雨が降るのか。
  理由がわかったところで、日常の生活に違いが出るわけじゃなし。
  その程度の認識である。
  そもそも、P-C-C中央管理局の存在自体、闇に包まれている部分が多い。詳しい実態は知られていないのだ。
  そうしたそれらを取り巻く外郭都市と、更にその外の手付かずの郊外部。
  P-C-Cはおおよそ三重の構造で成り立っている。
  人間とD-LLが住まうのは、その二重の部分、中央都市と、外郭都市だ。
  基本的にD-LLは、ヒューと二人のように主従の関係を持って暮らしている。
  と、言うより、庇護者である人間がいないと、独立して暮らしていくには少々難儀なのである。
  今でもP-C-Cの下層部では、D-LLの取引が半ば公然と執り行われていると聞く。
  それを聞いても、彼はよいとも、悪いとも思わない。
  都市と名の付く人間の集まりには、必ずどこかにひずんだ部分が出来るものだと思っている。
  悪いことばかりではない。
  ヒューの側にいるマルゥも、そうして下層部で行われていた競りに、たまたま出会ってしまったところで出遭った。
  七年も前のことだ。

 「仕方ない。寝よう」
  今日の時点で到達できそうな地図の印はもうない。となれば、残りは明日に回すしかない。
  諦めと潔ぎの良いのが、ヒューの取り柄である。
  地図を適当に丸め、座席の下に投げ出すと、
 「明日、こっから100キロほど離れた大きな水源……らしい……たぶん、水源な場所に行く」
 「遠い上にすっごく不正確ね……」
  隣でマルゥがぼやいている。
 「おい。寝るぞ」
  未だ車の外で、砂地を調べるカークに合図をひとつ送って、ヒューは早々にごろりと転がった。
  無駄に動いて体力と水分を発散するのは馬鹿げている。
  転がった耳に、遠くでけだものの、遠吠えが飛び込んだ。
  こう云ったP-C-C外郭の、荒野の部分には、この惑星特有の原生生物が幅を利かせている。
  大多数は、弱肉強食の荒野で生死を凌ぎあう、話の通じない凶暴な生き物たちだ。
  遭ったらまず、喰われる。
  この仕事を請け負ったとき、勿論ヒューはまだ喰われたくはなかったので、レンタカーの店で、頑丈な外板を持つサンド・クルーザーを選んだ。
  アウトドア志向のこの車は、例え何十頭と原生生物が囲もうと、びくともしない造りになっている。
  更には、原生生物の鋭敏な嗅覚を逆手に取り、彼らの酷く嫌う薬を、車体には塗りつけてある。
  なにせ、”死んでも文句は言いません”の一句が示すとおり、ヒューの請け負うSクラスの仕事は何が起きてもおかしくはない。
  用心には用心を重ねて損はないだろう。
  死んで泣いてくれる、連れ合いでもいるなら話は別だが、生憎彼は未だに独身だ。
 「マスタってさ」
  マルゥが彼の隣で、寝る体勢を整えながら、
 「結婚しないの」
  まるで考えを読み透かしたかのように、ど真ん中ストライクな疑問を投げかけてきた。
  思わず呼吸に噎せたヒューだ。
 「マズイこと聞いちゃったかしら」
 「……いいや」
  苦笑を返す。
 「結婚したくてもな、相手がいねぇんだ」
 「相手探せばいいのに」
  速答だった。取り付くしまが無い。
  ちなみに、女性型であるマルゥと、人間の男であるヒューの間に、”そう言った”通じ合いはまるでない。
  人間だから、D-LLだから、そういう意味ではなく、互いに興味が無いだけである。
  ヒューにとってはマルゥは、妹のような存在だ。
  それ以上にもそれ以下にも思えない。愛だの恋だのと語るには、あまりに近い存在に過ぎた。
  単にマルゥは、高級住宅地区に居を構える、ヒューの自宅近所の美形の壮年に、惚れているせいでもあったが。
  深く突っ込んで聞いた事はない。
  なにしろ、D-LLといえども、彼女は思春期の少女であったから。
  変なところでプライバシーを重んじるヒューの性格だ。
 「俺ぁな」
  であるから、ヒューはふんぞり返って嘯いて見せた。
  えへん、えへんと咳払いをする。
 「俺の隣に並ぶヤツは、それ相応の資格が必要なんだぜ」
 「ふぅん」
  聞いた割には大して興味がなさそうで、マルゥは早々に夢の中に入りつつあった。
  眠そうな声だった。
 「おい、聞けよ」
 「聞いてるってば」
 「俺の隣に並ぶヤツはな」
 「うんんー」
 「世界中の人間を敵に回して、世界中の銃口からホールドアップされても。泣きもしない、怯みも喚きも媚びもしない、神様に祈りもしない。そんなイカしたイイ性格じゃねぇと、俺の好みに合わねぇんだ」
 「――寝てますよ」
 「あ?」
  見ると、寝転がったヒューの脇腹に、少女は小さな額を付け、さっさと寝息をたてはじめていた。
 「おい。寝るなよ」
 「疲れていたのでしょう。何度か巨大アリ地獄にハマった時に、サンド・クルーザーを引き上げてもらいましたから」
 「……じゃあ、お前、俺の一世一代の告白事情を、代わりに聞いていてくれた?」
 「――スリーサイズが絶妙なイカれた女の方が好み、と言うところまでは聞きました」
 「そんなん言ってねぇよ……」
  くすくすと小さく笑いながら、カークがサンドクルーザーに戻ってくる。
  月に照らされ、微笑んでいるその顔は、けれどはっきりと疲労の色が濃い。
  水が底を尽きかけた一週間前より、彼はまず飲むことをやめた。
  いくらヒューやマルゥが脅し、宥めすかそうとも、頑として首を縦に振らないのである。
  わたしは二ヶ月ていどなら、栄養摂取を全く行わなくても平気なのです。
  そう言う。
  けれど、平気かどうかと言うことと、苦痛を感じるかどうかはまた別の問題のようで、今日も随分と暑さと渇きに苛苛していたようだった。
  表立ってそれを見せなくても、ヒューには判る。
 「――二人の体内の水分比率が、今朝から大幅に低下しています。このまま、補給の無いままに誤魔化しきれるとは思えない。早急に補充しないと、意識の混濁にも繋がりかねませんね」
  笑いを収めて、割と深刻にカークはヒューに言う。
 「水、水、水かあ」
  大仰に溜息をついて、ヒューは今朝から一滴も口にしていない喉の引き攣れをごまかした。
  引き攣れてそれは痛い。
 「雨でも、降ってくれれば、いくらかよいのですが」
 「乾季だしなぁ」
  言って二人は揃って溜息をついた。
  時折、吹きすさぶ小さな竜巻に砂塵が舞い上がる音だけが響く。
 「ヒュー」
  しばらくそうしていたカークが、静寂を破ってぽつ、と呟いた。
 「ぅん?」
 「先から、音が聞こえませんか」
 「……音?」
  ヒューは半身を起こして、サンド・クルーザー内に入ってこないカークを省みる。
 「何の音だ」
 「――サイクルの」
  彼は首を傾げて月を仰いでいた。
 「……サ……イクル?」
  意味が判らなくてヒューがたずね返すと、ああ、と小さな嘆息が聞こえる。
 「――サイクルが少し、高すぎるのかもしれない」
 「俺には聞こえねぇ音か」
 「――三万サイクルの歌――」
  溜息のような掠れた囁きに、ヒューはいつになく殊勝な表情で、耳を澄ますカークを眺めていた。
 「どんなだ」
 「――ざわ。ざわ。ざわ。言葉にも、音にもならない何か――人混みの当てもない会話のような。川の流れのような。布が擦れて軋るような。砂礫の滴り落ちるような。判りません、曖昧に過ぎます」
 「けだものの……声じゃない……よな?」
 「違うと思います」
 「……なんの……音だ」
 「――さあ。今はまだ、何とも言えませんが」
  一度区切って次の言葉をやや躊躇い、それからカークは再び口を開いた。
 「水源と関係しているかもしれないですね」
 「そうか」
  興味をそそられたので、行ってみることにした。
  好奇心と言うものには、勝てないのだ。


  熟睡しているマルゥは、そのまま車に置いて行くことにする。
  この砂漠で心配なのは、D-LL買い商人やヤミ市場ではなく、ましてやハンターを名乗る機械破壊愛好症の面々でもなく。
  単純に原生生物が一番怖い。
  しかしそれは、車が完璧にガードしてくれている。
  無理矢理起こすのは酷と言うものだろう。
  カークの言う”音”は、ヒューには全く聞こえなかったので、相手の耳を頼りに歩く。
  時折立ち止まっている。
  どんなに澄ましても聞こえない音が、彼の耳にははっきりと、歌声として聞こえているらしい。
 「コウモリみてぇだな」
  ヒューは本気で感心したので、そうカークに言ってやったが、皮肉に聞こえたようで、苦笑していた。
  今は僅かに唇を動かして、その音を口ずさんでいる。
  それは、ヒューにとって初めて耳にする音楽であり言葉であり、全く異なる世界の歌だった。
 「お前のの空耳……じゃ、ないよな」
 「違いますよ」
 「……誰が歌っているんだろうな」
 「――さあ――」
  そんなやり取りを何度か繰り返し、やがてカークが立ち止まる。
 「これ……は?」
  じっと前方を見つめる視線をヒューも追う。そこには七割を砂に埋もれさせた、けれど決して自然のものではない、何か人工的な建造物が垣間見え。
 「壁ですね」
 「ふむ」
  鼻で唸ったヒューも前に進んで、そのコンクリートもどきの壁に手を当てる。
 「随分と、古いな」
  そういったヒューが指で引っ掻くと、劣化した表面が、ぱらぱらと漆喰のように崩れ落ちてゆく。少なくともここ数十年のものではないようだった。
  そして大きい。
  ちょっとした工場ほどの大きさを備えている。
  しげしげと眺め回している視界の端で、カークがふらふらとある一角へ進み出るのが見えて、ヒューはそちらへ眼を向けた。
  ぽっかり開けた箇所があるのだった。
  彼の横に並んで、ヒューも中を窺う。
  手前のそこは、入り口として使われていた穴のようだった。回転ガラスが嵌まっていたようで、真ん中に丸い支柱跡が見える。
  今は、その穴の中にみっしりと砂が詰まっていた。
  二重の月の光では、光源が暗すぎて中まではよく見えない。
  覗き込んで、けれど見えない、とでも言うようにカークはゆっくり首を振った。
  そのままヒューを見返る。
 「見えますか」
 「パンツのゴムひもまでバッチリだぜ」
  鏡のないここでは自分では見えないが、カークからは赤く光る瞳が見えているだろう、と思う。
  ヒューの瞳は義眼である。昔、事故でえぐった。
  人間が、地球よりP-C-Cに移住して1000年。D-LLを造ったことから判るように、機械工学はもちろん、人間医学も飛躍的に進歩していた。
  義眼の配線と神経系統を繋ぐ程度の科学力は朝飯前である。
  ただ、性能と価格を反比例させるように交渉した……つまりはケチった結果、ヒューの義眼は集光性能が少しおかしい。
  光を集める力が強すぎるのである。焚き火程度の明かりでも眼に沁みた。
  彼のサングラスはファッションでなく、必需品だ。
  以前に日中、グラスを忘れた。まぁいいか。そんな気持ちで街へ繰り出したら、あまりの強光に視界がハレーションを起こして、豪い目にあった記憶がある。
  それからは、手放していない。
  生身の目玉の景色はとっくに忘れていた。
 「奥に、扉があるな」
 「――その更に奥より、音源は流れているようですね」
  D-LLの瞳は、人間の機能に近づけてあるから、当然カークには中の風景は見えていない。
 「造り物のお前より俺が見えるってのも、考えてみりゃあおかしな話だな」
  それ以外にも、空腹になったり、喉が渇いたり、怪我もすれば熱も出る。
 「そもそも、そうでなくなってじゅううううぶんに、超超超超、高級品なんだから、その程度の機能くらい高性能にすればよかったんじゃねぇの」
 「わざわざ設計段階で、不完全したそうですよ」
  した、と過去形なのは、現在D-LLは生産中止の令が出ているからである。
  表向きであるが。
  でなければマルゥのような、新型が出回るはずはないのだ。
 「……なんでまた」
 「人間に限りなく近づけたかったようです」
 「不便じゃね?」
  素直な感想をヒューが述べると、聞いたカークは、どこか淋しげに微笑んだ。
 「――完璧な存在は、きっと誰からも愛されないのでしょう」

  崩れかけた建物の内部は、ひんやりとしていて、ヒューは巨大冷蔵庫の中に入り込んだ気分に陥った。
 「寒ぃな」
  鳥肌の立つ二の腕を擦る。息が白い。
  踏みしめた床は不吉に軋んで、心許ない。うっかり体重を乗せすぎると穴が開きそうだった。
  外の月光が全く届かない内部は、カークにとっては全くの闇である。ヒューの袖を握りながら、ぎこちない足取りで付いてきていた。
  先に見えた扉を潜り、更に奥へ二人は進んだ。自然に出来た造形では決してない。確実に人工の建物である。
  足裏にコツコツと、コンクリートの硬質の反動音がする。
 「何に使われていた建物だ……?」
 「聞こえてくる音と――関係あるのでしょうか」
  隣でカークも首をかしげていた。折れそうに細い首である。
  その首筋に削り取られかけた黒いバーコードの痕。
  思わずその部分で目を止めたヒューの耳に、微かに軋む機械音が届いた。
 「……なんだ?」
  きぃ、きぃとその音は鳴っている。
  錆びたゼンマイの、苦しげに回る音にも似ている。
 「お前が聞いていたのはあの音か……?」
 「いいえ――あんな人工的な音ではない……はずなのですが」
  音は、扉の向こうから漏れてきているようだった。
  軋む音が耳障りなのか、顔をしかめてカークが応えた。その声と同時に、厚いブリキの板扉をヒューは開け放す。
  開けながらも、嫌な予感がした。
  そうして大抵、嫌な予感は外れないのだ。
  ノブを握った瞬間に、ブリキの扉が、弾かれたように手前に開いて、勢い二人は突き飛ばされるように、尻餅を付いていた。
  硬質の何かが、腰の辺りまで刹那の内に埋め尽くす。
 「な……んだぁ?」
  勢いに驚いて、しばらく呆気に取られたヒューだ。
  隣を見れば同じように、ぽかんと口を半開きにして、驚いていても、綺麗な顔が見える。
  その顔の上に、もうひとつ綺麗な顔があった。


Act:06にススム
人間と機械にモドル
最終更新:2011年07月28日 08:06