詩百篇第8巻77番


原文

L'antechrist1 trois bien tost2 annichilez3,
Vingt & sept ans sang durera4 sa guerre,
Les heretiques5 mortz6, captifs7, exilez,
Sang8 corps humain eau rogie9 gresler10 terre11.

異文

(1) L'antechrist : Lantechrist 1568X 1590Ro, L'Antechrist 1627Ma 1627Di 1644Hu 1653AB 1665Ba 1672Ga 1716PR 1720To 1840 1981EB
(2) bien tost : bien-tost 1644Hu 1649Xa 1665Ba 1667Wi 1668P 1840, bientost 1716PR, bien-tôt 1720To
(3) annichilez : annichiles 1665Ba 1720To
(4) sang durera : durera 1672Ga
(5) heretiques : Heretiques 1672Ga
(6) mortz/morts : mors 1627Di 1650Mo 1720To
(7) captifs : captif 1568X 1590Ro
(8) Sang : Sont 1627Di
(9) rogie : rougie 1590Ro 1605sn 1611B 1628dR 1649Ca 1649Xa 1650Le 1653AB 1665Ba 1667Wi 1668 1672Ga 1720To 1772Ri 1840 1981EB, touge 1627Ma, rouge 1627Di 1644Hu 1650Ri
(10) gresler : gresle 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri
(11) terre : Terre 1672Ga

日本語訳

反キリスト(により)、すぐに三者が滅ぼされる。
二十七年、血が彼の戦争に耐え抜くだろう。
異端者は死に、捕われ、追い出される。
血、人体、水が赤くなり、地に雹が降る。

訳について

 1行目は trois(三)を troisième(第三の)と理解して「第三の反キリストがすぐに滅ぼされるだろう」と読まれる場合もある。
 少々強引ではあるが、詩の前半律は trois までなので、ありえないわけではない。

 2行目は sang(血)とsa guerre(彼の戦争)の関係が明瞭ではない。
 上の訳ではdurerが endurer(~に耐え抜く、~を耐え忍ぶ)の意味もあったことを踏まえているが、sang(血、血筋、子孫)がはっきりしない。
 しばしば、sangを形容詞的に理解して、「二十七年間、血塗られた彼の戦争が続くだろう」というように訳されることもある。 en sang や sanglante と捉えて戦争の形容詞としたピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールは、そちらの読み方である。

 既存の訳についてコメントしておく。
 山根訳は2行目以外問題ない。その2行目「彼の戦いは二十七年つづくだろう」は、sang(血)が訳されていない。
 確かに、テオフィル・ド・ガランシエールのように sang を削り落とす異文もあるが、強引だろう。

 大乗訳も2行目については同じ問題を指摘できる。また、その4行目「血 人の体 水は赤く 地はゆれる」*1は、最後の部分が明らかに誤訳。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、ここでの反キリストの特定は容易でないとしつつ、イングランド王ヘンリー8世の晩年の27年ほどの可能性を示唆した。

 アナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードは何もコメントしていない。

 アンリ・トルネ=シャヴィニー(1861年)は1919年から1944年頃に第三の反キリストが最後の災厄を引き起こすことの予言とした。
 ここで期間が(詩の「27年」ではなく)「25年」となっているのは、「アンリ2世への手紙」にある以下のくだりと関連付けているためである*2

119節
「その後、反キリストが地獄の君主となるでしょう。最後にもう一度キリスト教徒の諸王国も不信心者たちの王国もみな25年間にわたって震撼するのです。より酷い戦争や戦闘があり、都市も町も城もその他の建物も、焼かれて荒らされて壊されるでしょう。その際に純潔な乙女の多くの血が流され、人妻や未亡人は犯され、乳呑み児たちは町の壁にぶつけられて砕かれるのです。地獄の君主サタンの力を借りて余りにも多くの悪事が行われるので、ほぼ全世界が衰退し荒廃するでしょう。」

 解釈内容はともかく時期設定の点では、1918年から1945年までの予言と解釈したヘンリー・C・ロバーツも近い。
 彼の場合は事後的にドイツ(「反キリスト」)の第一次大戦における敗戦から第二次大戦の終わりまでに当てはめたものである*3

 そういう視点で見たときに、トルネ=シャヴィニーの解釈は事前に大的中させたようにも見える。だが、彼は1944年から1990年まで神による黄金時代が到来するとも解釈しており、全体の文脈はまったく一致していない。

 パトリス・ギナール(未作成)は「27年」を「20年と、(そのうちの)7年」と理解し、アドルフ・ヒトラーが『我が闘争』を刊行した1925年から1945年の20年間と、そのうち、世界大戦直前から終戦までの約7年と解釈した*4

 ヴライク・イオネスクは、ここでの反キリストを毛沢東とし、旧日本軍、民主同盟(中国の中道派政治団体)、国民政府軍の3つと戦って指導的地位についた後、建国後も大粛清を行ったことを指すとした。
 「27年」については、中華人民共和国建国(1949年)から毛沢東の死(1976年)と解釈した*5
 毛沢東とする解釈は竹本忠雄も踏襲した*6

 未来に現れる反キリストの予言とする解釈もあり、アンドレ・ラモンジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ藤島啓章らが提唱していた*7
 ラモンは時期を明記しない曖昧なものであったが、フォンブリュヌや藤島は1999年から2026年のことと解釈していた。

同時代的な視点

 ロジェ・プレヴォは、当時のカトリックから反キリストと見なされていたカルヴァンと関連付けている*8
 彼は、カルヴァンがジュネーヴで活動していた1537年から1564年までがちょうど27年間であったとしている。

 ただし、実際にはジュネーヴ入りは1536年のことで、ピーター・ラメジャラーはそのように解釈を修正している*9
 いずれにしても、ほぼ一致する期間なのは事実であろう。

 その間、カルヴァンは厳格な神権政治を行い、多数の「粛清」を行ったことが知られている。
 投獄したり(フランソワ・ファーブル、アミ・ペラン)、破門や追放をしたり(フィリベール・ベルトリエ、ジェローム・ボルセック)、処刑したり(ジャック・グリュエ、ミシェル・セルヴェ)といったその行為は、まさに3行目に対応する。

 プレヴォやラメジャラーは4行目については特に解説していない。

 ただ、仮に1558年版『予言集』が実在したのなら、この解釈は取れない。
 1558年版実在説に立つラメジャラーは、こうした微妙な解釈の場合、ジャン=エメ・ド・シャヴィニーが事後に改竄したものが、現存最古の1568年版として残っているという可能性を示しているが、この詩については特にそういったコメントはしていない。


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  • 偽キリストが毛沢東なのは間違いない。(地図から)消滅した三つとはチベット、ウィグル、内モンゴルを指す。さらに同時代のヴェトナム戦争についても予言されている。 -- とある信奉者 (2010-03-07 23:09:38)

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詩百篇第8巻
最終更新:2021年07月03日 00:48

*1 大乗 [1975] p.249

*2 H. Torné-Chavigny, Concordance des prophéties de Nostradamus avec l'Apocalypse, ou L'Apocalypse interprétée par Nostradamus, Bordeaux : typogr. de Vve J. Dupuy, 1861, p.40

*3 Robers [1949]

*4 Guinard [2011]

*5 イオネスク [1990] pp.144-147

*6 竹本[2011] pp.649-651

*7 Lamont [1944] p.344, Fontbrune [1980/1982], 藤島 [1989]

*8 Prevost [1999] p.103

*9 Lemesurier [2003b]