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[[ギリシア神話]]
*ヘルメス(Hermes)
[[オリュンポス十二神]]の一人。ローマ名は[[メルクリウス]]。ローマ名の英語読みは「マーキュリー」。
旅人、街道、道標を見守り、幸運と富をもたらす。商人・盗賊・雄弁さの守護神。
[[ゼウス]]に仕える伝令であり、死者の魂の案内役でもある。
翼の付いたつば広の帽子・ペタソスを被り、サンダルにも翼が生えている。
手には二匹の蛇がからみついた杖・ケーリュケイオンまたはカドウケスを持つ。
元々アルカディア地方で信仰されていた地方神であった。
アルカディアの牧人達は、「ヘルマ(Herma)」という男根をかたどった石の柱を信仰していた。
ヘルマは路傍に立てられ、豊穣多産や道中安全を祈願したものであった。
ここからヘルメスの名前や性質が由来する。
**赤ん坊にして牛泥棒
ヘルメスは[[ゼウス]]と[[アトラス]]の娘・[[マイア]]の間の子供である。
両親ともに大変な知性を持ち、ヘルメス自身も当然知恵者であった。
ヘルメスは産まれたその日に産着のままこっそり揺り篭を抜け出し、
オリュンポス山麓のピエリア(ギリシア北部のテッサリアとも)まで出かけていった。
そしてそこに放牧されていた[[アポロン]]の牛の群れから牝牛を50頭盗み出した。
更にその群れをペロポネソス半島の西側にあるピュロスまで連れて行き、2頭を食べてしまった。
今度はアルカディア山中に出かけ、洞窟に牛を隠した。しかもその際わざわざ牛を後ろ向きに歩かせ、足跡を混乱させた。
そして家に帰ってくると近くにいた亀を捕まえ、その甲羅で竪琴・キタラを作って鳴らしていた。
弦は先ほど食べた牛の腱である。
しかし[[アポロン]]は予言の神である。ヘルメスの所業はお見通しであった。
母[[マイア]]に詰め寄るが、生まれたての赤ん坊にそんな事ができるはずが無いと一笑に付されてしまった。
詰問しながら、音楽の神でもある[[アポロン]]は先ほどからヘルメスが奏でている楽器の音に惹かれていた。
(この頃まだ竪琴という物は存在しなかった)
「牛はもうあげるからその楽器をくれ」と交換してしまった。
すると今度はヘルメスは葦で笛を作って吹き始めた。これもまた素晴らしい音色である。
「牛追いの杖と交換しないか?」と[[アポロン]]。
赤ん坊のくせに強かなヘルメスは「ただの杖ではなくて黄金の杖が欲しい」だの
「占いの術も教えて欲しい」だのと言い出した。
[[アポロン]]は苦笑いしつつも「小石を使う占いの術」を教えてやった。
これ以来ヘルメスは竪琴の発明者となり[[アポロン]]はこれ以来竪琴を常に抱えるようになった。
また2人は無二の親友になった。
牛は[[ゼウス]]の計らいで元に戻されたとも、そのままヘルメスの物になったともいう。
**[[アルゴス]]退治
[[ヘラ]]は[[ゼウス]]の愛妾[[イオ]]に嫉妬し、彼女を牝牛に変身させた上に
決して眠らない百目の巨人[[アルゴス]]を見張りに付けていた。
[[イオ]]を哀れんだ[[ゼウス]]は彼女を解放するようヘルメスに命じた。
[[アルゴス]]の眼は昼夜交代で眠り、24時間常にどれかが開いている。
そこで、牧笛で昼の眼を熟睡させ、夜の眼は睡魔に襲わせた。
そして夢うつつの[[アルゴス]]の首を鎌で切り落とした。[[イオ]]の受難はまだ続くのだが、別項に譲る。
**その他の小逸話
①冥界の案内人
ヘルメスの杖・ケーリュケイオンは人を眠らせたり起こしたりする事が可能であった。
これで人を死に導く事も出来たのだ。
ヘルメスが冥界と関わる時は[[タナトス]]と[[ヒュプノス]]の兄弟を引き連れている。
②金毛羊
テッサリアのアタマス王の子供・ヘレーとプリクソスに危険が迫った時、
ヘルメスは彼らに金毛羊を与えた。金毛羊は二人を乗せ、空を飛んで助けた。
後にこの金毛羊を求め、[[アルゴー号]]の冒険が行われる。
③魔法の竪琴
ヘルメスがテーバイの王子・アンピオンに与えた竪琴は魔力の竪琴だった。
その音色の魔力によって石塊は自ら動き出し、七つの門を持つテーバイの城壁が完成した。
④息子・[[パン]]
ヘルメスがキュレネのドリュオプス王の所にいた頃、王女(名前は不明)との間に息子・[[パン]]をもうけた。
⑤息子・ダプニス
ヘルメスはシチリア島のニンフ(彼女もまた名前不明)との間に美男子ダプニスをもうけた。
⑥[[アプロディテ]]との間の子供達
ヘルメスは[[アプロディテ]]に恋したが全く相手にされなかった。
そこで[[ゼウス]]の鷲を借りて彼女の黄金のサンダルを盗んだ。
これと引き換えにしばらくの間[[アプロディテ]]をものにした。
彼女との間に生まれたのが豊穣神[[プリアモス]]と両性具有の[[ヘルマフロディトス]]である。
[[ヘルマフロディトス]]は「ヘルメス」「[[アプロディテ]]」の合成語である。
⑦[[錬金術]]
ギリシャ神話からはやや離れるが、ヘルメスは後世の錬金術師達に大きくインスピレーションを与えた。
彼があらゆる学問の始祖とされた為である。
[[錬金術]]においてはおなじく学問の神であるエジプトの[[トト]]とも習合・同一視される事もある(なお、その際はヘルメス・トリスメギストスと呼ばれる)。
ヘルメスの息子であり、男と女という相反する性質を持ち合わせる[[ヘルマフロディトス]]も錬金術では重要視された。
**現代のヘルメス
「Hermes」の名は有名な服飾ブランドの名前になっている。
ローマ名の英語読み「マーキュリー」は、太陽系第1惑星・水星の名前となった。
「ヘルメス」という語は錬金術にも取り入れられ、現代英語で「[[メルクリウス]]」とは「水銀」を意味する言葉である。
ヘルメスの杖・ケーリュケイオン(またはカドウケス)は医学の象徴とされ、
現在でも欧米の病院などで好まれて使われているデザインである。
**参考
尾形隆之介『通読 ギリシア神話』東京図書出版会
[[ギリシア神話]]
*ヘルメス(Hermes)
[[オリュンポス十二神]]の一人。ローマ名は[[メルクリウス]]。ローマ名の英語読みは「マーキュリー」。
旅人、街道、道標を見守り、幸運と富をもたらす。商人・盗賊・雄弁さの守護神。
[[ゼウス]]に仕える伝令であり、死者の魂の案内役でもある。
翼の付いたつば広の帽子・ペタソスを被り、サンダルにも翼が生えている。
手には二匹の蛇がからみついた杖・ケーリュケイオンまたはカドウケスを持つ。
元々アルカディア地方で信仰されていた地方神であった。
アルカディアの牧人達は、「ヘルマ(Herma)」という男根をかたどった石の柱を信仰していた。
ヘルマは路傍に立てられ、豊穣多産や道中安全を祈願したものであった。
ここからヘルメスの名前や性質が由来する。
**赤ん坊にして牛泥棒
ヘルメスは[[ゼウス]]と[[アトラス]]の娘・[[マイア]]の間の子供である。
両親ともに大変な知性を持ち、ヘルメス自身も当然知恵者であった。
ヘルメスは産まれたその日に産着のままこっそり揺り篭を抜け出し、
オリュンポス山麓のピエリア(ギリシア北部のテッサリアとも)まで出かけていった。
そしてそこに放牧されていた[[アポロン]]の牛の群れから牝牛を50頭盗み出した。
更にその群れをペロポネソス半島の西側にあるピュロスまで連れて行き、2頭を食べてしまった。
今度はアルカディア山中に出かけ、洞窟に牛を隠した。しかもその際わざわざ牛を後ろ向きに歩かせ、足跡を混乱させた。
そして家に帰ってくると近くにいた亀を捕まえ、その甲羅で竪琴・キタラを作って鳴らしていた。
弦は先ほど食べた牛の腱である。
しかし[[アポロン]]は予言の神である。ヘルメスの所業はお見通しであった。
母[[マイア]]に詰め寄るが、生まれたての赤ん坊にそんな事ができるはずが無いと一笑に付されてしまった。
詰問しながら、音楽の神でもある[[アポロン]]は先ほどからヘルメスが奏でている楽器の音に惹かれていた。
(この頃まだ竪琴という物は存在しなかった)
「牛はもうあげるからその楽器をくれ」と交換してしまった。
すると今度はヘルメスは葦で笛を作って吹き始めた。これもまた素晴らしい音色である。
「牛追いの杖と交換しないか?」と[[アポロン]]。
赤ん坊のくせに強かなヘルメスは「ただの杖ではなくて黄金の杖が欲しい」だの
「占いの術も教えて欲しい」だのと言い出した。
[[アポロン]]は苦笑いしつつも「小石を使う占いの術」を教えてやった。
これ以来ヘルメスは竪琴の発明者となり[[アポロン]]はこれ以来竪琴を常に抱えるようになった。
また2人は無二の親友になった。
牛は[[ゼウス]]の計らいで元に戻されたとも、そのままヘルメスの物になったともいう。
**[[アルゴス]]退治
[[ヘラ]]は[[ゼウス]]の愛妾[[イオ]]に嫉妬し、彼女を牝牛に変身させた上に
決して眠らない百目の巨人[[アルゴス]]を見張りに付けていた。
[[イオ]]を哀れんだ[[ゼウス]]は彼女を解放するようヘルメスに命じた。
[[アルゴス]]の眼は昼夜交代で眠り、24時間常にどれかが開いている。
そこで、牧笛で昼の眼を熟睡させ、夜の眼は睡魔に襲わせた。
そして夢うつつの[[アルゴス]]の首を鎌で切り落とした。[[イオ]]の受難はまだ続くのだが、別項に譲る。
**その他の小逸話
①冥界の案内人
ヘルメスの杖・ケーリュケイオンは人を眠らせたり起こしたりする事が可能であった。
これで人を死に導く事も出来たのだ。
ヘルメスが冥界と関わる時は[[タナトス]]と[[ヒュプノス]]の兄弟を引き連れている。
②金毛羊
テッサリアのアタマス王の子供・ヘレーとプリクソスに危険が迫った時、
ヘルメスは彼らに金毛羊を与えた。金毛羊は二人を乗せ、空を飛んで助けた。
後にこの金毛羊を求め、[[アルゴー号]]の冒険が行われる。
③魔法の竪琴
ヘルメスがテーバイの王子・アンピオンに与えた竪琴は魔力の竪琴だった。
その音色の魔力によって石塊は自ら動き出し、七つの門を持つテーバイの城壁が完成した。
④息子・[[パン]]
ヘルメスがキュレネのドリュオプス王の所にいた頃、王女(名前は不明)との間に息子・[[パン]]をもうけた。
⑤息子・ダプニス
ヘルメスはシチリア島のニンフ(彼女もまた名前不明)との間に美男子ダプニスをもうけた。
⑥[[アプロディテ]]との間の子供達
ヘルメスは[[アプロディテ]]に恋したが全く相手にされなかった。
そこで[[ゼウス]]の鷲を借りて彼女の黄金のサンダルを盗んだ。
これと引き換えにしばらくの間[[アプロディテ]]をものにした。
彼女との間に生まれたのが豊穣神[[プリアモス]]と両性具有の[[ヘルマフロディトス]]である。
[[ヘルマフロディトス]]は「ヘルメス」「[[アプロディテ]]」の合成語である。
⑦[[錬金術]]
ギリシャ神話からはやや離れるが、ヘルメスは後世の錬金術師達に大きくインスピレーションを与えた。
彼があらゆる学問の始祖とされた為である。
[[錬金術]]においてはおなじく学問の神であるエジプトの[[トト]]とも習合・同一視される事もある(なお、その際はヘルメス・トリスメギストスと呼ばれる)。
ヘルメスの息子であり、男と女という相反する性質を持ち合わせる[[ヘルマフロディトス]]も錬金術では重要視された。
**現代のヘルメス
「Hermes」の名は有名な服飾ブランドの名前になっている。
ローマ名の英語読み「マーキュリー」は、太陽系第1惑星・水星の名前となった。
「ヘルメス」という語は錬金術にも取り入れられ、現代英語で「[[メルクリウス]]」とは「[[水銀]]」を意味する言葉である。
ヘルメスの杖・ケーリュケイオン(またはカドウケス)は医学の象徴とされ、
現在でも欧米の病院などで好まれて使われているデザインである。
**参考
尾形隆之介『通読 ギリシア神話』東京図書出版会