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 【全国プロアマタッグ大会:導入編】  ――――全国麻雀プロ・アマチュア合同タッグ大会。  全国国民麻雀大会とは異なる、そんな大会。  丁度新春、そろそろ桜も咲き出すかも知れない――梅は咲いているけど――というそんなとき。  須賀京太郎は―― 京太郎「……はぁ」  捨てられた仔犬、いや寧ろある程度育てられた成犬のように肩を落とした。  いや、犬に肩があるのかは知らないが。  タッグと来たら、当然自分と彼女が出るものとばかり考えていた。  恐らくは日本一――気持ち的には、世界一と言いたいほどのタッグであるのだ。  それは、同じ卓についた場合であっても、或いは団体戦方式でも変わらない。  京太郎はその為に小走やえに求められるという形で、今のチームに入った。  知ったのは、本人の口からではないのだが……それはいいだろう。  かつて、プロでも破れない――と言わしめた、白水哩と鶴田姫子のコンビを、  その能力を、支配力などというオカルトによらずに、作戦と特性で打ち破ったのは自分達だけ。  だから、必然的に自分と小走やえはタッグとして大会に出るものだと確信していたのだが―― やえ『悪いけど、あんたとのコンビはちょっと解消するからね』  ――と、フラれた。  ブッダよ! 寝ているのですか!?  そんな風に叫びたくなった。  ……が、なんとか抑えた。とりあえず虚勢を張った。誤魔化した。取り繕った。  青いベンチ。やけに背中がスースーする。  ハンバーガーと照り焼きバーガーをかじりながら、俺、これからどうしたらいいんだろうと空を眺める。  やや離れた向こうの空の雲行きが怪しい。雷が起こりそうだ。  いっそ、今なら呼べるんじゃないか――――なんてテンションになる。 久「あら、須賀くん。どうしたの?」 京太郎「あ、部長」 久「そんなに暗い顔してると、運が逃げるわよ?」 京太郎「あ、はい……」 久「だから――――じゃんじゃんそんな顔していいわ! 私は今日、勝ちに行きたいからねー!」 京太郎「……エグくないですか、部長」 久「勝つためならなんでもするわ!」 京太郎「うわぁ……」 久「って、間違えちゃった。なんでもやって勝つわ!」 京太郎「意味同じですよね?」 咲「……あ、京ちゃん」 京太郎「おう、咲。お前……タッグに出るのか?」 咲「うん」 久「コンビは私よ!」 京太郎「……」 久「コンビは私よ!」 京太郎「いや、聞こえてます」 咲「あはは……」 京太郎「なあ、咲」 咲「どうかした、京ちゃん?」 京太郎「お前、借金とかさせられてないか?」 咲「えっ」 京太郎「変な契約書とか書かされてないか?」 咲「い、いや……」 京太郎「勝手なスキャンダルでっち上げられて、ありもしない脅迫を――――」 久「ねえ……ちょっと、須賀くん」 久「あなた、私をどういう目で見てるの?」 京太郎「いや、だって部長ですし……」 咲「だって部長だから……」 久「うわーん、まこー! 後輩が虐めるの――――って、まこはいない」  なんて懐かしいような騒がしいやり取りを済ませて、二人は居なくなった。  元清澄。  M.A.R.S.ランカーとアナウンサーのコンビだ。 京太郎(咲と部長って恐ろしいコンビな……) 京太郎(部長は……言うなら思考を麻痺らせる毒使いってところ) 京太郎(勿論、いくら部長って言っても……M.A.R.S.ランカーじゃない以上って言いたいけど――――咲が一緒だ) 京太郎(アイツ、人のことも爆弾にできるからなぁ……)  そうなると、十分――――いや、十二分に――M.A.R.S.ランカーと渡り合える。  しかもそれで、竹井久は心理戦使い。  咲の起こす“爆発”が動揺を生むところに、上手い具合に付け込むだろう。そうなるとなんともえげつない。  ……まあ、コンビ相手のいない自分には関係ない話ではあるのだが。 怜「セッカッコー!」 京太郎「うわらばっ!?」 怜「あれ……ここやなかったか」 竜華「んーと、もう少し上やな」 京太郎「いきなり、何するんですか!?」 京太郎「というか……見てないで止めて下さいよ、清水谷先輩」 竜華「視てるだけやないで? ちゃんと、アドバイスしとったやん」 京太郎「余計に酷い!?」 怜「あはは、ホンマ京太郎はおもろいなぁー」 京太郎「……人の脇腹の、筋肉と筋肉の境目突いて言うのがその台詞ですか?」 怜「ごめんな、京太郎」 京太郎「あ、いや……別に謝って貰うつもりは……」 怜「うち病弱やから、手ぇ震えて間違えてまってな……」 京太郎「……」 京太郎「間違えなかったら、どうなってたんですか……?」 怜「痛みに悶絶して、今ごろ話してられなかったなぁ」 京太郎「そんなのを他人にできる方が間違ってませんか、それ?」  センキュー間違え。  ファッキュー正解。 怜「うち、病弱やから……」 京太郎「……頭の病気かなにか」 怜「そうなんよ。だから、言ったかも忘れて一日に二度も病弱アピールを……」 京太郎「……明らかに、二回ってカウントしてませんかね?」 怜「病弱だから忘れてもーたわ」 京太郎「全国の病人に謝った方がいいんじゃないでしょうか?」  お前のような元気な病人がいるか。  というか寧ろ、病人や怪我人を癒す側の立場である。この園城寺怜という人間は。  まるで、未来を預言するように――――的確に病名や怪我の箇所を言い当てる。  一分一秒を争う医術の世界、或いは正確に処置をしなければならないそんな場で、如何にその力が凄まじいものか。  斯く言う京太郎も、撮影で怪我をする度にお世話になっている。 怜「りゅーかー、京太郎が虐めるー」 京太郎「それ、逆じゃないですか!?」 竜華「たはは」 京太郎「清水谷先輩、笑ってないでなんとか……」 竜華「なら、怒った方がええかな?」 京太郎「ああ、はい」 竜華「駄目やん、怜。京太郎くんを苛めたらアカンって」 京太郎「……」 竜華「こう見えても傷付きやすいし、繊細で真面目なんやから……」 京太郎「……」 竜華「あんまり苛めたり追い詰めたりしたら、また悩んでまうやん。な?」 京太郎「……」 京太郎「……あの、ごめんなさい」 竜華「えっ」 怜「りゅーかは、ナチュラルに言葉のボディブローかますなぁ……」  酔うとあんな風に絡んでくるあたり、実はサドっ気があるのかもしれない。  いや、ただなんかズレてるだけかも。 京太郎「……それで、なんでいきなり脇腹を?」 怜「ん?」 怜「いや、元気なさそうやったから……こうしたら、ちょっとは明るくなるかなってな」 京太郎「……」 京太郎「……園城寺さん」 怜「ん?」 京太郎「――俺と結婚してください」 竜華「ちょっと、京太郎くん――――!?」 怜「――私でええなら、ええよ?」 竜華「怜も何ゆーてるん!?」 怜「家事も育児も炊事もやらんけど、家に帰らずにお金だけ入れてくれるんなら……」 京太郎「あー、せめて電話越しに愛を囁くのを許してくれるなら」 怜「んー、一分二千円なら……」 京太郎「割引利きますか?」 竜華「……なんなん、この二人」 怜「聖飢魔II覇者やな」 京太郎「入院してる子供たち、喜んでくれましたね」 竜華「ちゃっかりコンビ組んどるんか……怜」  なんて笑った後、二人と別れる。  病院ではレクリエーションとして二人で漫才コンビを組んで歩いたりしたが、今日は清水谷竜華と園城寺怜がコンビである。  やはり、こちらも厄介なコンビだ。 京太郎(嘘か本当かは知らないけど……園城寺さんは未来を読む) 京太郎(清水谷先輩が、そんな園城寺さんを“視た”なら――――実質的に未来を視る人間が二人いるのと一緒) 京太郎(この二人なら、十分ランカーに通用するよな)  ただの技能、ただのオカルト、ただの強運でM.A.R.S.ランカーと相対するのは無謀に近い。  或いは中位や下位ならば及ぶだろうが、上位ランカーを相手にしたなら――――それこそ天と地の差。  それほどまでに隔絶があるが……。  だけれども――先ほどの宮永咲・竹井久や今の清水谷竜華・園城寺怜のように、互いの特性を相乗させて、  打点や速度を上昇させるか、逆にランカーの力を更に引き出せるのならば――――コンビとしては強力になる。  なんて、無意識に分析してしまう自分のこれは職業病だろうか。  ……と。 エイスリン「スッガ!」 京太郎「……その呼び方はどうなんでしょうか」 エイスリン「スッガ、ダメ……?」 京太郎「いやー、なんというか……その……」 エイスリン「humm...mmm...」 エイスリン「ジャア、ocltslyr!」 京太郎「……」 京太郎「いや、普通に須賀で……」 エイスリン「スッガ!」 京太郎「……」  なんだろう。そんなに須賀という発音は難しいのだろうか。  そんなことはないと思いたい。  随分昔、大学時代に御一緒したことがある留学生は普通だったし……。  ……ここで思うのが。  例の彼女――――同じチームなのに先輩で、誕生日が京太郎よりも後の、忍耐強く慇懃ながら負けん気の強いポニーテールの彼女の――、  その名前を言わせてみたらどうなるか、という話である。 京太郎「……あの」 エイスリン「ナニ?」 京太郎「ちょっと、清一色七対子南浦プロって――――」 数絵「――須・賀・く・ん?」 京太郎「清一色七対子南浦プロって和了してましたねーハハハ」 エイスリン「?」  このあと滅茶苦茶セッキョウされた。 数絵「京太郎のそういうところ、どうかと思うから……お祖父様に話した方がいいんでしょうかね」 京太郎「ごめんなさいすみませんでした許して下さい」 数絵「はぁ……」  このあと滅茶苦茶溜め息吐かれた。  ひょっとして例の辛辣キャラというのは、唐突にキャラ作りしたのではなくて色々積み重ねた末だったのか。  怒らせた覚えはない。 数絵「京太郎も、コンビ打ちに?」 京太郎「フラれた」 数絵「え?」 京太郎「いやー、小走先輩にフラれたんだよなぁ」 数絵「そ、そう……」 京太郎「数絵も出るのか? コンビは――」 エイスリン「?」 ニコニコ 京太郎「まさか、エイスリンさんと?」 数絵「いえ……」  紹介すると、手のひらを差し向けた。  その先に居たのは―― 優希「久しぶりだな、京太郎!」 京太郎「お前は……2PVERの新子憧!?」 優希「おい」  どこかで、  『2P――そ、それはもちろん二人っきりがいいしいきなり3Pとか言われても困るしあたし初めてで好きでもない人を交ぜるのは嫌だし――』、  『そもそも好きでもない男とだなんて嫌に決まってるし、初めてはちゃんとあげたいって言うか三人でするとしたらまさか後ろも――』と、  なんだかふきゅふきゅしい声がしたのは置いておこう。  よく知っている誰かに似ている声だが、ここは東京であるし、何よりその誰かはそんなエロ同人みたいな妄想ブチ撒いた台詞は言わない。 優希「光太郎コンビだじぇ!」 京太郎「……光太郎?」 優希「東」 数絵「南」 京太郎「ヒーロー戦記懐かしいな」  あれってそう言えばクロスオーバー、中の人ネタの走入(はしり)だよなとか。  ゼネラルシャドウがオカマとかV3がズバットとかキャラ崩壊ってレベルじゃねーよな、とか。  立花藤兵衛と科特隊のキャップ中の人ネタとか、ツインテールのステーキとか芸が細かいよな、とか。  でもBGMもドット絵の変身も格好いいしストーリーも好みだから続編でないかなガイアセーバーズなど存在しないしスパヒロ作戦は昭和ライダーだせよ、とか。  まあどうでもいいことを考えた。  東の方は光の巨人で自爆技を持っている方で、南の方は光の戦士で爆殺技を持っている方だ。  閑話休題。 京太郎「会社は大丈夫なのか?」 優希「プロからコンビ誘われたって言ったら、両手を上げて送り出してくれたな」 京太郎「あー」  なるほど、と頷く。  だけど、優希の特性なら――下位ランカークラスには十分通用するだろうが、M.A.R.S.ランキング上位には無謀だ。  それこそ、こちらは本業なのだから――。  素の状態で、東場の優希の速度や打点を持っているだろう。  ランカー同士の戦闘では目立たないというか、ある程度拮抗してしまうが故に表に現れては見えないが……。  或いは優希もプロになっていたら、その中でも特筆されて語られただろうが――――そうでないのが現実である。 数絵「そこはまあ、秘策があるので」 優希「大体タコスを食べれば人為変態完了だからな!」 京太郎「そんなオカルト俺が殺すべし慈悲はないからな?」  まあ、当人がいいと言うならいいだろう。  そんなまさか、一般人がちょっと手解きされただけで能力を昇華させる――というのはありえない。  スタイルと言うのは、年間ウン千時間打ち続ける人間たちの、力と技と命の結晶なのだから……、と。 京太郎(いや……) 京太郎(アイツだって、インハイ出場して他校のエースとやってるんだから油断は禁物だよな) 京太郎(それに、誰が相手だって麻雀は麻雀。苦しくて、悩んで……でも楽しい競技だもんな)  実際やっている最中はしばしば投げ出したくもなるし――負けたら、それはそれは悔しいものだけど……。  それでも京太郎は、麻雀の奥深さとスリルが好きである。  どれだけ辛いと思ってもまた戻ってきてしまうのは、そういうことだろう。きっと。 優希「それじゃあ、また後で……」 京太郎「いや、俺は……」 数絵「あなたと打つの、楽しみにしてるから」 京太郎「……あ、おい」  ……どうでもいいけどさ。  『そんなオカルト俺が殺すべしアイエエエエ慈悲はないナンデ!?』って言ったら、ちょうどSOAだと思った。 エイスリン「……」 京太郎「あ、エイスリンさん……その、すみませんでした」 京太郎「あれ、俺のチームメイトと……高校の頃の同級生で……」 エイスリン「ウシロ」 京太郎「へ?」  考えるより先に、背中にのしかかるなにか――ふにゅぅぅう――だらしないがしかし均衡のとれた自己主張するこれは……。  かつて味わったこれは……!  これは……! 白望「……」 京太郎「シロさん!?」 白望「おひさ、京太郎」  シロナガスゴマフオオナマケモノアザラシである。 京太郎「これはまた……どうしてここに?」 白望「エイスリンに呼ばれたからだよ……ホント、ダルいなぁ」 エイスリン「フフッ」  キャンバスには、白望を引きずるエイスリンの絵が書かれていた。  ただし、幸村誠チックなタッチで。  どう見ても海賊が戦利品を持ち帰る絵にしか見えない。奴隷にする気マンマンである。  ……ここってヴィンランドだっけ。ニュージーランドって、デーン人の巣だっけ。 エイスリン「ガイジン、タイサナイヨ!」 京太郎「……アッハイ」 京太郎「それをエイスリンさんが言うのは引っ掛かるけどさ……」 白望「事実だから仕方ない」 京太郎「……で、シロさん」 白望「何…………?」 京太郎「嫁入り前の娘さんがはしたないですよ。ほら、離れて下さい」 白望「ふぅん」 京太郎「……なんですか?」 白望「嫁入り前の娘さんを傷物にさせようとしたのに?」 京太郎「ブッ!?」  その後、耳元で行われるリピート。  とても不味い。普通に不味い。かなり不味い。背中のおっぱいの感触美味しいです。  そういえば松実玄とのハプニングの後に思ったが、  よく考えれば、同等かそれ以上――身長を考えればサイズ的には上かも――なおもちを味わったことはあった。  無意識的に封印していたのだけれども。 京太郎「……何でもするんで許して下さい」 エイスリン「ヨツンヴァイニ、ナレ!」 京太郎「……どこでそんな言葉覚えたんですか?」 エイスリン「ヒッサ!」  ファッキューヒッサ。 塞「どうしたの、そんな大声出して」 京太郎「いや、実はシロさんとエイスリンさんが……」 胡桃「シロとエイスリンが?」 京太郎「俺のことを苛め――――アイエエエエ!? ナンデ!? 先輩ナンデ!?」 豊音「私もいるよー」 京太郎「ここ岩手でしたっけ」 白望「京が望めばどこだってそこはエデンだよ……」 京太郎「アッハイ」  ハデスとはなんだったのか、あの漫画。  いつものプロの面子であんな事態にあったら――と想像してみたが、大体いつもと変わりなかった。  宮永照は鉄球を叩き込むだろうし、荒川憩はにこにこ麻酔なしで手術するだろうし、  辻垣内智葉は例の勘の良さと危険察知能力とそれを利用した意表を突く速度、清水谷竜華はゾーンに入れば例の眼があるし、  何より――。  弘世菫は「何故我々人類が、科学兵器の開発以前に絶滅しなかったか知ってるか?」と、投擲力で無双してくれるだろう。実に頼りになる。  そう考えると現代だろうが古代だろうが気にせず麻雀を打てる環境になるわけだ。  どこだってそこはエデンと言うか、実際どこだってそこは火星である(M.A.R.S.ランキング的な意味で)。  そう考えると女って強い。  というか回りに女傑しかいない。勝負事をやっているから皆負けん気が強いのだ。  パッと考えて、守らなきゃなというタイプが松実宥と天江衣しか思い浮かばないあたり、わりと深刻だ。 京太郎「タッグって言うと……」  数えてみる。  一、ニ、三、四、五……。  もう一度数えてみる。  一、ニ、三、四、五……。 京太郎「あれ、誰か余る?」 豊音「ぼっちじゃないよー」 京太郎「って言うと――」  もう一人、用意があるのか。  いや、違う。きっとこれは――――。 京太郎「あ、俺を誘いに来ました?」 豊音「違うよー?」 塞「小走プロと出るんじゃないの?」 ズバァ 胡桃「小走プロと出るんでしょ?」 ドゴォッ エイスリン「ウヌボレンナ!」 ズバッ 京太郎「……」 白望「京と組んでもいいけどさ……」 京太郎「本当ですか!?」  結婚しましょう、と言いかけて―― 白望「でも先約あるんだよな」 エイスリン「センヤク!」 京太郎「ですよね」  知ってた、と肩を落とす。  大体そんな都合がいいことなんて起きない。  須賀京太郎に漫画的な因縁とか運命は無縁なのだ(オフの日の大星淡との遭遇を除く)。 豊音「私はさえと出るんだよね」 塞「正直ランカーを塞ぐのって、無理だけどね……体力もたないからできて数巡ってとこ」 京太郎「付いてましょうか? 何かあったときの為に」 塞「いや、いいからお姉さんに任せなさい」 京太郎「はい。……何かあったら、すぐ行きますけど」 塞「だいじょーぶ、だいじょーぶ」  ……さて、となると。  まさか、余ったのって……。 胡桃「うん、私」  ……。  まさか宮守出身者でハブが行われていたとは、たまげたなぁ……。  やっぱり地上に天国なんてなかったのか。とんだパラダイスロストだ。 豊音「熊倉先生と一緒に出るんだよー」 京太郎「なるほど」  やっぱりぼっちはいなかったのか。  やっぱりラピュタってあったんだと呟く、パズー少年になった気分だ。  名探偵コナンのビデオを借りに行ったら、母親が間違えて未来少年コナンを持ってくるのは関係ない。  コロコロを頼んだらボンボンを、ジャンプを頼んだらマガジンを、夏の再放送で知ったV3を頼んだら真・仮面ライダーを……とかはもっと関係ない。  どうでもいいが、新・仮面ライダーと言うとスカイライダーの番組名である。 塞「にしても、残念だったね?」 京太郎「……ああ。なんで、やえさんがコンビ一時解消なんか……」 塞「一緒じゃないって知ってれば、ねぇ……胡桃?」 胡桃「う、うるさいよ!」 京太郎「そうですよね。久しぶりに、俺も鹿倉先輩と一緒に打ちたかったな」 胡桃「う……」 京太郎「え、どうかしました?」 胡桃「うるさいっ」 京太郎「へっ」 胡桃「あと、胡桃でいいって言ってるでしょ!」 京太郎「あ、はい」 豊音「でも、勝ってれば同卓できるよー!」 京太郎「そうですよね!」 胡桃「うー」 塞「……そういうことじゃないと思うんだけどなぁ」  エントリーがあるからと、五人と別れる。  アマチュア同士のタッグは県ごと――という規模ではないが、地方ごとに予選がある。  登録はそこで終わっているのだが、プロ同士やプロとアマチュアのコンビは違う。  そういうのは抜きに、改めてエントリーという形であった。 京太郎(それにしても……こう思うと知り合いと顔合わせる率半端ないな)  高校から麻雀部で、挙げ句プロになり、麻雀大会なんだから当然だろうが。  ……なら。  このパターンから言えば――。 玄「あ、京太郎くん!」 宥「本当だぁ……」  ……奈良。 京太郎「どうも、松実プロと玄さん」 宥「えぇ……」 京太郎「え、どうかしました?」 玄「おねーちゃんはおねーちゃんだから、ちゃんと呼んであげないと……」 京太郎「……あ、すみません」  確かにそうである。二人とも松実姓だし、紛らわしいってレベルじゃあない。  よく考えれば判る。よく考えなくても判る。  実際宮永咲と宮永照を混ぜて呼びはしないし、当然だ。 京太郎「じゃあ、おねーちゃん」 玄「――」 宥「えぇー……!?」 京太郎「はは、なんちゃってです」 玄「――」 京太郎「じゃあ、宥さんって呼んでもいいですか?」 宥「うん」 玄「――」 宥「じゃあ……京太郎くんって、呼んでもいい?」 京太郎「あ、はい」 宥「ふふ」 京太郎「何か?」 宥「お付き合いが長いのに……今更だな、って」 京太郎「プロ一年目からですからねー」 玄「――」 玄(お、おねーちゃんってことは……確かにおねーちゃんはおねーちゃんだけど、おねーちゃんをおねーちゃんにするってことだから……) 玄(き、気が早いよ京太郎くん……) 憧(お、おねーちゃんってことは……確かに宥姉は宥姉だけど、宥姉を宥義姉にするってことだから……) 憧(え……ええええええええええええ!?) 京太郎「……ん?」 宥「どうしたの?」 京太郎「今、何か気配が……」  徐に茂みに歩み寄り、手を突っ込んで掴み上げる――。 京太郎「よ、憧」 憧「おはよ、京太郎」 憧「……」 憧「下ろしてくれる?」 京太郎「おう、悪いな」  地面に下ろすと、やれやれとスカートを払って着衣を正す新子憧。  高校一年生の頃に比べたら身長も多少は伸びてはいるものの、  それでも相変わらず何だかんだちんまりしていて可愛らしい。 憧「あんたが無駄に身長高いだけよ」 京太郎「まったくもって」 京太郎「それにしてもお前、軽くないか? ちゃんと食べてんのか?」 憧「……女には色々あるのよ、女には」 憧「あんたみたいな筋肉バカとは違って」 京太郎「筋肉バカって……俺、スタイルは細身なんだけど……」 憧「……細身なのに普通以上動けるのを筋肉バカって呼ばないで何て言うのか、他に言い方あるなら教えてくれない?」 京太郎「アスリート」 憧「……あんた、麻雀プロよね」 京太郎「俺もそのつもりだけど、チームがメディア路線で押してた所為もあるんだよ」  大学生の頃に最低限の下地は作ったが、実際的にそれをパフォーマンスとして見せられるぐらいに高めたのはプロになってから。  経験とトライアンドエラーとトレーニング。  アクション俳優やスーツアクターばりのことをやらされたのもやる羽目になったのも、プロになってからのドラマの撮影の所為だ。  それまではあんま、絵的にド派手で物凄いことはできていない。 憧「とにかく、色々あるのよ。女の子には」 憧「ね、宥姉?」 宥「確かに……そうだねぇー」 玄「そうなの?」 憧「……」 宥「……」 玄「えっ」 京太郎「うおう」  今、女同士の溝というのを初めて見たかもしれない。 京太郎「無理にダイエットとかしても、体に悪いし却ってエネルギー吸収率が上がって意味がないって聞くけどな」 京太郎「脂肪落としたいのか、体重減らしたいのかによっては俺も力になれるからな? これでもトレーニングに気を使ってるしな」 憧「……パス」 京太郎「そうか……そんなら仕方ないな」 憧(す、すす、好きな男に体重教えてダイエットプラン作らせるとかどんな拷問よ!) 憧(あ、あと……) 憧(あんたは……実際の恋人からして、細身の方が好きなのかなって思っただけだし) 憧(だから、別に……無理して削らないでいいなら、それで……) 憧「……ま、まぁ」 憧「あんたがご飯に誘ってくれるなら……いっぱい食べてもいいわよ?」 憧(よ、よし……言いきった。頑張った、あたし!) 憧(これで二人でご飯食べてお酒飲んでドライブして車の中――――じゃなくてっ! DVD借りて京太郎の家に行って映画見ていい雰囲気になって――) 憧(それから手を繋いでコンビニ行ったり、二人でアイス食べさせあいっこしたり、一緒に料理したり料理してあげてる間お皿並べて貰ったり――) 憧(京太郎の寝顔見て幸せな気持ちになったり布団かけてあげたり朝よって起こしてあげたりお弁当屋つくってあげたり――) 憧(ネクタイしめてあげたり行ってらっしゃいのきききき、キ、キスしちゃったりぃ!? ……ご、ごほん) 憧(それで留守中に買い物とか洗濯して京太郎のことを考えて幸せな気持ちにいっぱい浸ったり――) 憧(――って感じで、最後は二人で色んなことがあったって孫を送り出した後に縁側で過ごして、幸せな老後を) 京太郎「皆で行くか? 折角揃ってるし」 憧(――うん、知ってた。知ってたわよっ!) 京太郎「……で、お前は誰とコンビなんだ?」 憧「あたしは……」 憩「――うちやな~ぁ」 京太郎「け、憩さん!?」 憩「京くん元気~?」 京太郎「は、はい…………って、先輩」 憩「ん~?」 京太郎「ち、近いです……近いです」 憩「あ、ごめんな~ぁ」 憩「京くんやーって思うと、どうしても気になってもーてなー?」 憩「もっと近くで身体診たくなっちゃうんよーぅ」 憧「ふきゅっ」 憧(身体診たい身体診たい身体診たい身体診たい身体診たい身体診たい) 憧(京太郎とお医者さんごっこ京太郎とお医者さんごっこ京太郎とお医者さんごっこ京太郎とお医者さんごっこ) 京太郎「……どうかしたか?」 憧「な、なんでもないっ!」 京太郎「あ、ああ……」 玄(か、身体見たいってどーゆー意味かな……おねーちゃん?) 宥(……玄ちゃん) 玄(なに、おねーちゃん?) 宥(夜のご飯、蟹さんのお鍋食べにいこ……?) 玄(まだお夕飯の話はしてないよ、おねーちゃん) 京太郎「てっきり憩さんは、対木さんと組むのかと思ってたんですけど……」 憩「なんか、撮影の関係で予定合わなくてなーぁ」 京太郎「……なるほど」  新子憧は京太郎に副露のイロハを教えた人物。  彼女は、並の雀士よりも副露の手札が多い。  役牌やタンヤオができない、面前で進めるには重い手を――三色同順や一気通貫などで副露させて、小気味良く繋いで行く。  更に大学時代、そこにはチャンタ系が加わっていて、正に一角の加速力を披露していた。  なるほど。速度に難がある荒川憩のフォローにはなるだろう。  だが、憩とて速い。十分に速い。  勿論、辻垣内智葉や宮永照などに比べたら彼女の速度は見劣りがするが――――それでも彼女はM.A.R.S.ランカー。  更には、その基幹や根幹をなす3位である。  防御力に優れるということは、他家の攻撃を掻い潜りながら攻撃できるということ。  単純な加速力は彼女には不必要で、また、憧の副露による加速もM.A.R.S.ランキング上位陣には些か役者不足の面もある。  だけれども……。 憩「んー?」 京太郎(憩さんのことだから、当然折込済みで……しかも策があるだろうな) 晴絵「お疲レジェンドー」   京太郎「……」 憩「……」 宥「さ、寒いぃぃ……」 玄「おねーちゃん!?」 憧「晴絵、ハウス」 晴絵「いやいや、ちょっとした冗談……」 玄「ちょ、ちょっと空気読んで欲しいかなって……」 憩「空気吸わんでええよーぅ」 宥「空気……空気…………炎……?」 憧「晴絵、ギルティ」 晴絵「え、なんか当たり強くない?」 玄「おねーちゃん苛めるなら、赤土先生でも許さないよっ!」 フンス 宥「く、玄ちゃん……」 憩「ちなみに脳に10秒間完全に血が行かなくなると後遺症がでるのは、半分くらい。20秒なら9割方やねーぇ」 憧「晴絵、ゴーアップステアウェイ・トゥ・ヘブン」 晴絵「なんという向こう見ずな暴言……これが……」 憩「――若さやね」 晴絵「ぐふっ」 晴絵「京太郎ー」 京太郎「あー、はいはい、大丈夫っすよ。俺は師匠の味方っすから」 晴絵「……ホテル行く?」 京太郎「……ノーセンキューでお願いします」 憧「!?」 玄「!?」 宥「……行った、の?」 プルプル 憩「京くん、お盛んやったり?」 京太郎「……一応言っておきますけど、ドッキリのときの冗談ですからね?」 憧「……あ、そ、そうなんだ! そうよね!」 玄「だ、だよね! そうだよね!」 宥「あれかぁ……」 憩「性欲ないん?」 京太郎「……あの、これ、拷問ですか?」  女性の多い場所で性欲云々を訊かれるなんてのは、それは尋問ではなく拷問だ。 憩「性欲ないんならな、亜鉛とらんとあかんよーぅ? 亜鉛を」 京太郎「アッハイ」 憩「亜鉛が足らんと、味覚も駄目になるし……気も滅入りやすくなってな?」 京太郎「アッハイ」 憩「喫煙するとビタミンCが壊れやすくなるから、亜鉛の吸収もしづらくて――」 京太郎「アッハイ」 憩「硬度にも影響が出てな? だから――」 京太郎「アッガイ」  なにこの拷問。  硬度とか、女の下ネタって生々しいんだよな。  大学の喫煙所で生理の重さの話をしてる女たちがいたが、あれは本当に困った。  君の生理じゃなくて、喫煙所の空気が重いんだよ。先月とかじゃなくて、今正にその瞬間の喫煙所の空気が。  ……まあいいか。  ちょっと味方に助けを求めようか。 晴絵「(ガンバっ!)」 グッ 憧「~~~!? ~~~~!? ~~~~!?」 玄「あうぅぅ……」  ――何だよ俺、味方いないじゃん……。 宥「ところで赤土先生は、誰と……?」 晴絵「んー、そりゃあ決まってるでしょ」 晴絵「勿論――」  かつてチームメイトだった、新子望だろうか。  彼女とは憧とニセのコイビトを演じて以来だから――随分と久しぶりだ。  なんというか、人を喰ったような―― 晴絵「――な、シズ!」 穏乃「うえぇ!?」  違う。人を喰ったようなじゃなくて前に喰った人だった。  ――って、やかましいわ。下ネタか。 晴絵「ここはこう、久しぶりに師弟――教師と教え子でね」 穏乃「そ、そういうことで……」  おかしいな、ここは奈良かな? 憩「うちもいるよーぅ」  あ、奈良じゃなくて関西だった。 穏乃「な、夏ぶりだね……」 京太郎「おう。……元気だったか?」 穏乃「そりゃ勿論!」  ドン、と胸を叩く穏乃。  残念ながら揺れない震源地だ。色々試したけど効果なかった震源地だ。  山登りは好きだし山育ちのTさんなんだけど、残念ながら本人の山は育たなかったのだ。  でもそこらへん気にして謝ったりするとことか、女の子らしくて非常に可愛かったので許す。  全力で見逃す。というか可愛いから全力で見続ける。 京太郎「あれ、ジャージじゃないのな?」 穏乃「流石にもうそんな年じゃないし……」 京太郎「だよなぁ」  ちなみに穏乃の格好は、黒いホットパンツにエンジニアブーツ。白の英字Tシャツに、グレーのパーカー。  胸元にあるシルバーがワンポイントである。  ……。 穏乃「な、何?」 京太郎「いや……何でもない」 憧「……しず」 京太郎「居たのか」 憧「居たわよ! ってか、さっきから話してたでしょ!」 京太郎「いや、軽い冗談……」 憧「なら黙ってなさい」  奈良だけに?――などとは言うまい。  約一名がとんでもないことになるし、こういう――なんだか真剣そうな空気を茶化すのは性に合わない。  自分がやられても嫌なものは嫌だし、あんまりそんな馬鹿げたことはするものではないのだ。 憧「しず」 穏乃「うん」 憧「――負けないから!」 穏乃「――こっちこそ!」 京太郎(盛り上がってるのなぁ……) 憩(青春やねー) 京太郎(もう20代も半ば入りますけどね) 憩(たしか、三十路前までは青春ってゆーてもええらしいよーぅ?) 京太郎(へー) 晴絵(……え゛) 玄(あはは……) 宥(く、玄ちゃん……) 京太郎(いや、俺にとっても笑い事じゃないな……)  最近、女っ気ないし。  というか忙しさで性欲が湧いている暇すらないのが現状だ。  最近はマシになったが、プロ一年目とか殺そうとしてるんじゃないかというレベルの忙しさであった。  実際何度か命の危機もあったので(物理的に)、かなり困る。  ちなみに園城寺怜とはその辺りで知り合った。何回か飲みに行った。 晴絵「それじゃあ、また後で!」 穏乃「じゃあ、またっ!」 玄「頑張ろう、おねーちゃん!」 宥「うん……頑張ろう、玄ちゃん」 憩「当たったらええなーぁ、京くん」 憧「えっとその……あたしと戦う前に負けたら、判ってるわよね?」 京太郎「……無茶言いますね」  そも、参加できるかすら不明なのに。  というか、このままでは極めて無理だろう。夢のまた夢という奴だ――――と、六人の背中を見送りながら思う。  そもそも、コンビも組めてないのだ。どうしろと言うのか。  分身は習得してない。無理である。  知り合いで、組んでくれそうな人間。  背中を合わせるに足る人間。  京太郎の打ち方を理解してる人間と言えばそれは―― 京太郎(……ハギヨシさんだよな)  ――彼を除いておるまい。 一「や、京太郎くん」 京太郎「ハギヨシさん!?」 一「いや、違うけど」  彼のことを考えていたら、遭遇した――となったら正に運命だろうが……。  そんなのはなかった。  大星淡とのやたらの遭遇は要らないから、こっちにくれればいいのに。 京太郎「一さん! これから暇ですか!?」 一「何、ナンパ?」 京太郎「そう考えて貰っても大丈夫ですよ、ある意味!」 一「へっ?」 一「……」 一「さては、コンビがいないとか?」 京太郎「うおう」  察しがいいな、おい。 京太郎「エスパーですか?」 一「マジシャンだね」 京太郎「だったら――」 一「君の次の台詞は――」 一「『俺と組んで下さい』――だね」 京太郎「――俺と組んで下さい! ……ハッ」  なん……だと……。  最近、某テニス漫画で空間を削り取ってボールを止めるという荒業を見たときより衝撃的だ。  氷雪系最強さんがさらっと追い抜かれたことよりも、超衝撃的である。 一「今回のジョジョごっこはボクの勝ちだよね?」 京太郎「渋いねぇ……おたくまったく渋いねぇ……」  実にしてやられたという形になる。 京太郎「えっと、誰とですか?」 一「君の後ろにいるよ?」 京太郎「へっ」 衣「――わっ」 京太郎「キャオラッッッッ」 衣「わっ!?」  とりあえず凄い顔をしてみる。  メリーさんが来たらどうするのか、京太郎なりに考えた結論だ。  冗談だが。 衣「や、やるな京太郎……!」 京太郎「衣さんが喜んでくれると思って」 衣「うん!」  可愛い。娘にしたい。  仮に誰かと結婚して自分にも子供ができたら、やっぱり娘も金髪になるんだろうか。  個人的には、娘も自分と同じ髪の色だと嬉しい。  ……子供どころか、妻さえも彼女すらもいない現状では夢のまた夢だが。 京太郎「ってことは――二人がコンビなんですか?」 一「そうなるよ」 京太郎「じゃあハギヨシさんは!?」 一「……」  溜め息混じりの視線を受けたが気にしない。  てっきり、天江衣とハギヨシが組む――と考えていたが、そうでないとするなら彼は余る筈だ。  ならば、気にしても然るべきではないか。 一「いや、とーかと一緒」 京太郎「透華さんもこの大会に?」 一「いや? 長野からは別に出てくるよ。君も知ってるコンビが」 京太郎「じゃあ……」 衣「トーカはイベントに行くそうだ」 京太郎「イベント……?」  龍門渕関係のセレモニーだろうか。それとも、何かの仕事か。  そう考えると、実に彼女も大変である。普段がフランクな態度であるが故、どうにも忘れてしまいがちだ。  イベント、と言うと……そういえば……。 京太郎「智紀さんも今日、何か予定があるって言ってましたね」 一「………………………………それだよ」 京太郎「あっ」  察し。  ……というか。  もしも想像が正しければ。正しいとするのなら。正しくあってしまったのならば――。  そんな場所に、萩原を連れていくなどというのは――。 一「…………………………ちなみに純くんも強制連行されたよ」 京太郎「あっ」  察し(二度目)。 京太郎「……待ってて下さい、ハギヨシさん」 京太郎「俺が――――俺があなたを、助ける……!」 一「……落ち着きなよ、京太郎くん」 京太郎「冷静ですよ、俺」 一「君が行っても……」 京太郎「…………火に油を注ぎかねませんよね」 一「うん。残念ながら」  なんということだ。  なんということなのだ。  大会には参加できそうにないから、ならば友人である彼を助けに向かいたいが――――。  そうできないのが現実。あんまりで酷すぎる。こんなのってないよ。 衣「再び相見える秋(とき)を鳧趨雀躍として、衣は待ちわびるぞ」 一「……まあ、誰か好い人見付けるの頑張って」 京太郎「はい。全力を尽くします」  と、別れた。  実際この近場でなんとかなる人間は――。 京太郎「あ、おう。陽介? ……あ、そう。だよなぁ……。実家か」 京太郎「古市……駄目か。繋がらないな」 京太郎「シンか? 実は…………あ、訓練ね。判った。頑張れよ! あともげろ」  ……全滅だ。  こうなったら――誰を頼るべきだろうか。選択肢は三つある。  一、弘世菫。やっぱり頼りになる先輩。  二、宮永照。ただし、彼女に下手な援護は必要ない。  三、大星淡。正直、あの能力との相性は悪くないし、サポートもやりやすい。だけど…………なんというか、癪だ。  それに全員が全員、既にメンバーを見つけてしまってそうだ。  また、なんというか……フラれたから次を手当たり次第に探すというのは、不誠実な気がしてならない。 京太郎「どうしたらいいんだ……?」 浩子「女に囲まれたと思ったら、女の番号と睨めっことはええ身分ですなぁ」 京太郎「うおっ……って、あなたは……!」 浩子「どーも、王子様」  王子様、と言う割りにはその声には艶はない。  何だかんだと――――それこそ大学のアレがあって、プロになってからは雑誌の記者とプロ雀士という立場になっているのもあり、  ある程度は打ち解けはしているものの、決して色っぽい関係ではない。 京太郎「……取材ですか、船久保さん」 浩子「スーツ着てるように見えるなら、眼科行った方がええんとちゃいますか?」  にべもない。  ズバッと切り裂かれる物言い。真実を的確に摘出し適合させるペンの使い手。  その正確な分析と解説が、信頼できる麻雀雑誌として販売部数の多大なる増大への立役者とも言われる敏腕記者。  ――船久保浩子。 京太郎「……なんか、当たり強くないですか?」 浩子「今の見て『須賀プロ女性スキャンダル!?』って記事作らんだけ優しいと思えないなら、そうなんやないかって」 京太郎「……はい」  なんか知らないけど……態度は硬い。  硬いというか冷たいというか、コルホーズというか、シベリアというかツンドラだ。  なんか、前にも増してそう感じる。 セーラ「よ、久しぶり」 京太郎「あ、お疲れさまっす」 セーラ「そんな畏まらんでもええって!」  そう快活に笑うのは、江口セーラ。  相変わらず、男装――――とまで言わなくても、女性らしくない格好。  それでいてもやはり、女性であると判る美貌。髪型を変えれば、男が放っておかないだろう。 浩子「江口先輩は結局その格好ですか……」 セーラ「阿呆! 誰があんなウィッグとか付けるか!」 浩子「ロン毛、似合うとは思いますけどね」  ちょっと想像してみる。  ……。  ……ギャップでやられそうになった。危ない危ない。 セーラ「俺のことはええやろ! それより――――」 京太郎「それより?」 セーラ「浩子、なんで怒っとるんや?」 京太郎「えっ」 浩子「……」 浩子「乙女心を弄ぶ鬼畜に天誅くれたりましょうか、思って」 京太郎「鬼畜……?」 浩子「……あんた以外がいるなら教えて欲しいですね。後学んために」 京太郎「オレェ?」  オレェ? セーラ「なんや、おもろそうやん」 京太郎「いや、俺ですか……?」 浩子「……はぁ」 浩子「自覚ないなら言ったるけど――」  やおら、船久保浩子は切り出した。 浩子「まず……まあ、詳しくは避けますけど、うちがうら若き乙女のピンチになっとったんですけど」 セーラ「……いきなり物騒やな」 浩子「所謂ひとつのSOSでしたね。男は狼やから気を付けなさいとはあのことです」 セーラ「年頃になったなら慎まんとな」 京太郎「あのー……それ、話が逸れて」 浩子「判っとるから黙っとって下さい」 京太郎「はい」 浩子「まあ――そんなひとつのピンチを、この王子様が助けてくれた訳なんやけど」 浩子「探して、御礼しよって漸く見付けたら――」  はあ、と船久保浩子は肩を落とす。 浩子「この男、忘れてました」 セーラ「あー」 京太郎「あれは暗かったというか、咄嗟だったから……」 浩子「黙らっしゃい! ……まあ、それは良しとしましょう。助けてくれはっただけで十分感謝なんで」 セーラ「せやなぁ」 浩子「で、こっちがそれでも御礼したいって言ーたら……この男、なんて言いはったと思います?」 セーラ「……判らん」 浩子「『あ、別に大したことじゃないから……大丈夫ですよ、気にしなくて』」 浩子「こちとら三ヶ月近く探し回り、どっか怪我しとるんやないか、入院してはるんやないかって心配して――」 浩子「んで、これですわ。ホンマに何とも思ってへん……って」 京太郎「いや、ですけど……」 浩子「黙っとって下さい」 京太郎「……はい」 浩子「挙げ句――――挙げ句に、この男!」 セーラ「な、なんや?」 浩子「人が化粧室行ってる間に、勝手に会計済ませとったんですよ? 信じられますか?」 京太郎「腹が減ってて結構食っちまったから……悪いなーと」 浩子「逆やろ! 逆やないか! 逆って言わないでなんて言うのか教えてくれませんか!」 京太郎「……」 浩子「その後も、御礼するってゆーてものらりくらりと躱し続けよって……!」 京太郎「いや、無事ならそれで……」 浩子「どこのヒーローやねんって話ですわ! テレビの世界から抜けて来たんかって!」 京太郎「実際、俺も相談に乗って貰ってたから……それでプラマイゼロじゃ……」 浩子「プラマイゼロは宮永咲だけで十分ちゃいますかね? なぁ?」 浩子「あんなん、あんたが助けてくれはったことに比べたら利子にもならんことばっかやないか」  いや……と口を開きたくなるが、堪える。  実際助けられてるから、そうとは思えないのだが――あちらは京太郎とは違う考えらしい。 浩子「その態度が……本当に気に食わなくて、いつか目にもの見せたろーって」 セーラ「フナQは粘り強いからなぁ」 京太郎「いや、粘り強いというか……」 浩子「なんですか?」 京太郎「……なんでもないっす、はい」 浩子「なら、余計なことを言わんといて下さい」  こちらを見る眼差しはまさに絶対零度。  邪魔な口を利いたら、肉を削ぎ落として骨の髄までむしゃぶりつくさんとばかりの殺気を感じる。  こういうときは大人しく黙る他ない。 セーラ「でも、それ……そんな気にすることか?」 セーラ「須賀の奴が別に構へんって言うなら、それで……」  ナイス援護射撃。 浩子「……はぁ」 浩子「まず先輩、うちは人生のピンチらしきものを助けられた――ってのはええですか?」 セーラ「おー、詳しくは判らんけどな」 浩子「で、恩人を数ヵ月探し回った……けど完全に消息不明音信不通やったのも、ええですか?」 セーラ「心配するなぁ」 浩子「で、御礼に対して『別に大したことじゃないからいいです』って態度」 セーラ「無欲なヒーローやな」 浩子「これにムカつかん理由がありますか?」 セーラ「どうしてそうなったんや!?」  同じく訊きたい。  どうしてそこでそうも怒るのだろうか。あまり想像がし難い事態である。  ひょっとして関西ではそれがスタンダード――――って、江口セーラも関西だった。  じゃあ……。 浩子「やってこれ……結局、うちんことどうでもええって言っとるのと同じやないですか」 セーラ「ん?」 浩子「こちとら人生最大の危機で、感謝してもしたりんちゅーのに――」 浩子「当の王子様でヒーローにとっちゃ、『どうでもいい』んですよ?」 セーラ「あー」 浩子「それこそトラブルが日常茶飯事なヒーローなら判りますけど、平和なとこでまさか日常茶飯事な訳ないやろって……!」 京太郎「そのー、絡まれてる女の子、あれから2回助けたんですが……」 浩子「ド阿呆!」 京太郎「へっ」 浩子「暴力沙汰やなんや騒がれたら困るかって思って伏せとんのに、なんで自分からバラしはった!?」 京太郎「……あ」  これは……まあ、ミスだろう。ミスだ。 京太郎「いや、江口プロならタレコミはしないんじゃ……」 セーラ「まーな。必要ないやん」 浩子「……」 ギギギ 浩子「たまたま! こん人やったからよかったとしても! 人の口に戸はたてられへんやないか!」 浩子「そこらへん、プロとしての自覚足りてひんのとちゃいますか? なあ、須賀プロ」 京太郎「あー……」  やだ。またお説教が始まる。始まろうとしている。  正直なところ、無事ならばそれでいいというのは紛れもない本心であるのだ。  あれは自暴自棄で、ただ死ぬ口実を――普通より有意義で前向きな死に方を探した八つ当たりの人助けだ。  確かに人助けも目的だったが、相手は誰でも構わなかった。人助けでなくても構わなかった。  達成感を感じて死ねたなら、少しはマシな人生だ……と胸を張れると思っていて、それが全てだったのだ。  だから――ここまで感謝される謂われもなければ、不誠実な人助けをしたのが何だか申し訳ないし……。  何よりも、自分の黒歴史を思い出して違う意味で死にたくなるので受け流して欲しい事態であるのだ。  そこらへん、どう伝えたらいいのか悩みどころである。 京太郎「そ、それより……二人はタッグマッチに?」 セーラ「おう、そや! プロアマ混じりだから、この方が楽しいんやないかって思ってな」 浩子「いつもデータ集めばかりだから、たまには味わってみたくなるっちゅーことですけど」  上手く話を反らせたらし―― 浩子「――で、小走プロの代わりのコンビは見付かっとるんやろなぁ?」  ――い゛!? 京太郎「い、いやー……それは……」 浩子「ほーほー」 浩子「須賀“プロ”には是非とも“プロとしての自覚”を取材させて貰わへんとなぁ……!」  この後滅茶苦茶セッキョウされた。  その際、「恩人の頼みならマネージャーになってやったのに」とか「十分儲けとるからマネージャーの賃金でも問題なかったわ」とか、  「うち以外に分析優れる奴がおるんなら連れてこい」とか「また安請け合いで流されてマネージャー雇ってへんか」とか、色々言われた。  女って怖い。改めてそう思った。 京太郎「ふぅ……」  どうするかな、と天を仰ぐ。  清澄の皆には頼れない。新幹線でブッ飛ばしてもここまでたどり着かないからだ。  そも、宮永咲は駄目。竹井久も駄目。片岡優希も駄目。  パッと思い付くうちで残るは原村和と染谷まこ、室橋裕子と夢乃マホだが――。  原村和は、こと麻雀に於いての相性は最悪である。  典型的なアナログ・データ打ちの京太郎に対して、原村和は一切合切を見切り統合と統計で判断する完全デジタル。  対戦するにしても、協力するにしても相性は最悪なのだ。  そもそも、原村和には協力という発想がないのだから最早言うまでもあるまい。  彼女のそのブレなささ、そしてそれを裏付けする引きは脅威的であるが――ランカー相手には分が悪い。  ランカーも勝手が違うことに悩まされるだろうが――特に人を読む8位と9位などは――、  その程度で止められるならばそもM.A.R.S.ランキングなどと大層持て囃されて呼ばれる筈がない。正面から叩き潰しに向かうだろうし、彼女らはそれもできる。  また、12位や10位や7位にとっては、典型的な真っ直ぐや完全なるデジタル打ちはカモでしかない。  弘世菫の狙撃は和に電子の妖精として飛び立つ暇を与えず、エイスリンの毒は幻想から抜け出すことを許さず、小走やえは幾重もの罠で切り刻む。  単独がM.A.R.S.ランカーに匹敵するなら下手にコンビを考えずとも通用するが……、些か厳しいと言わざるを得ない。  それでも彼女の完全デジタル能力・完全デジタル思考は、プロをしても稀な精度と言わざるを得ない完成度と言っておくが。  染谷まこのアレは、M.A.R.S.ランカーにも通用する部分がある。  もっとも――。  皆が皆ほぼアナログである以上、まこが卓の表情を変えたのならそれに合わせて後出しで変化させる為、完全なる鎮圧は不可能だ。  M.A.R.S.ランキングが『麻雀における制圧力』と揶揄されるのはそこに尽きる。  様々に変化する麻雀の場面に如何に対応し――或いは状況を『制圧』できるかというのが、ランキングに概ねの指標。  京太郎のような選択肢の多様性から来る対応力。  或いは辻垣内智葉みたいに、実力が許す無形の形の応用力。  それとも荒川憩のごとき、膂力が認める一本気の制圧力。  種々の状況をどれほど自己の力で好いように出来るかが、つまりある種の懐深さがM.A.R.S.ランカー――特に上位ランカーほど顕著だ。  また、あれはまこが引きや鳴きで相手を上回れるから通用する。  辻垣内智葉相手には鳴きが間に合わず、清水谷竜華には仕掛けを見抜き、小走やえは容易く変化する。  まあ、それを考慮しても――彼女とのコンビは魅力的である。  だけど、長野から東京は遠い。  呼びつけるのも気が引けるし、呼びつけたとてエントリーにも間に合わない。  つまり無理だ。  室橋裕子は医学部でそろそろインターンで、時間がないので駄目。  夢乃マホは論外だ。  手慰みの麻雀ならともかく、これほどまでに強力な麻雀打ちが揃う場で、彼女を打たせたくはない。  如何なる化学反応が起こるか、知れたものではない。――予想は付くが。 京太郎「……やっばいよなぁ」   で、となるといよいよ組むべき相手がいないわけだ。  実に困ったものだ。本当に不味い。  ここに来てまさか出ない――とは言えないが、実際のところどうしたものだろうか。  と、そこで……。 「あ、こんにちは」  と、声をかけられて振り向く。  金髪の少女と黒髪の少女。  忘れもしない、あの日――須賀京太郎がオカルトスレイヤーとして戦った少女。  名前は確か――龍田早苗と九頭竜琉生と言ったか。  魔物級の力の持ち主――それぞれ、倍満確定能力と局が進むだけ無駄ヅモをさせる能力――である。  かく言う京太郎も、初見であったことを差し引いてもかなりの苦戦を強いられた小学生だ。 京太郎「あれ、ここ……東京だけど」 早苗「私たち、タッグなんですよ」 琉生「長野県代表の」 京太郎「あー、そうなのか」  腐ってもM.A.R.S.ランキング13位のトッププロの須賀京太郎を初遭遇とは言え追い詰めたのである。  ならば、確かに代表となっても然るべきだろう。 早苗「私たち、須賀プロと打ちたくて!」 琉生「須賀プロなら――その、タッグとして有名だから、大会に出てるかなって」  どうやら彼女たちはあれから、須賀京太郎についての情報を集めたのだろう。  何とも気恥ずかしいというか――面映ゆい感じで、京太郎は後頭部を掻いた。  最初出会ったときの態度からは、想像も出来ない慇懃さ。ならばつまりは、京太郎が行ったあの行為は決して無駄ではなかったのだろう。  だけれども……。 京太郎「俺と打ちたくなったって……やっぱり、またなのか?」  浮かぶのはそれ。  あの日、京太郎は――約束したのだ。  麻雀に絶対的なものがあって、それ故につまらないと言うのならば――そんな絶対なんてないと、否定すると。  運がない、能力がない常人でも――それでも絶対なんてものはないって、何度でも証明してやると。  彼女たちが涙を流すのなら、いつでもその涙を拭いにいくと。諦観や悔恨、悲哀や絶望の涙など、希望と言う名の宝石に変えてやると。  ならば……。 琉生「いえ、違います」 早苗「須賀プロみたいに強い人は中々いないけど――それでも私たち、麻雀、今すっごく楽しくて!」 京太郎「そうか……麻雀、楽しいんだな」 琉生「はい!」 早苗「それはもう!」  なら良かったと、溜飲を下げる。どうやら杞憂だったらしい。 京太郎「じゃあ……どうしたんだ?」 琉生「色んな強い人がいるなら……」 早苗「是非、打ってみたいなって」  やにわ、少女たちの目が好戦的な光を帯びる。  井の中の蛙と言うよりは――自ら作った籠の中に囚われていた鳥は、羽撃く楽しさに目覚めたらしい。  より大きな空を目指して、高く飛び上がろうという時期なのだろう。 琉生「あとは、私……須賀プロと……」 早苗(ちょ、あんたまさか抜け駆け――) 琉生(別に抜け駆けとかじゃなくてこれは――) 早苗(は? 今明らかに須賀プロに――) 琉生「よく言えますね。自分こそ、今日の為に服を――」 早苗(なんで知ってんのよ! そういうあんただって化粧したり睫毛を――) 琉生(これは最低限、恩人に会うにあたって身支度を――) 早苗(私も恩人に会う為に服を新しくしただけ――) 琉生(パソコンで東京のケーキ屋さん調べといて、よくぞそんなことを――) 早苗(あんたこそ、デートスポットとか探しといてよくもまあそんな風に――) 京太郎「?」  いきなり、小声でどつきあっている小学生(来年は中学生らしい)二人。  聞こうと思えば聞けなくもないが、女性のこういう話は聞くものではないと新子憧から言い含められていた為、黙って待つ。  なんだか手持ち無沙汰だったが……数分後、若干服装が乱れた二人が京太郎に向き直った。 早苗「……お待たせしました」 琉生「考えたらずの相方がすみません」 早苗「は? それはあんたの方――」 京太郎「あー、うん。元気そうでよかった」  まあ、お互いなんだかんだ仲はいいはずだ。  悪かったら、二人で東京になぞ来るまい。きっと。 京太郎「にしても、二人で東京って……大丈夫なのか?」 早苗「親戚がこっちにいるんです」 琉生「そこに止めさせて貰ってます」 京太郎「そうなのか……。一応、俺の連絡先渡しとくな」  まあ、軽めの東京案内ぐらいならできるかも――と、名刺の裏にプライベート用の電話番号とメールアドレスを書きなぞり手渡す。  すると、目を輝かせて小躍りを始めた。  普段が長野の片田舎の分、東京はさぞかし刺激的だろう。かく言う自分もそうだった。 京太郎「……で、また、どうして?」 早苗「あれから、私たち……ちゃんと自分の考えで、麻雀打ち出したんです」 琉生「だから……それでどこまで出来るのか試したいのと……。あと、そんな私たちを須賀プロに見て欲しいな……って」 京太郎「そう、か」  それは嬉しい。  嬉しいのだが、自分は―― 「お祖母ちゃんが言っていた……『人が歩むのは人の道、その道を拓くのは天の道』と」 早苗「へっ」 琉生「はっ」 京太郎「この声は――――灼さん!?」 灼「ぶい」  ふ、と太陽を指差す鷺森灼。  だけど悲しきかな。まだ、太陽は真上には到達してはいなかった。  というかそもそも太陽が真上に到達するのは赤道か、日本国内なら夏至の日の沖縄である。ありゃ暑い。 灼「細か……」 京太郎「あ、すみません」 灼「煩わし……」 京太郎「アッハイ」  今日はつくづく奈良づくしである。というか女づくしだ。  まあ、そもそもM.A.R.S.ランキングの大半は女性だから仕方ないのだが……。  それにしてもこれだけ女性との出会いが多い職場ながら、恋人の一人や二人が出来ないというのはどうなっているのだろうか。なんかおかしい。  ニーチェは言った――神は死んだ。  神は言った――ニーチェは死んだ。  まあ、一人以上恋人ができたらそりゃ異常であろう。 早苗「えっとさ……」 琉生「その、そっちの子は一体……」 京太郎「あー」  元恋人。  などと言えたらそれが一番適切だろうが、そうも吹聴する気になぞなれる筈がない。  この二人がバラすとは思えないが―― 先ほど散々ばら船久保浩子にプロの良識について説教を受けたし、何よりこちらを思って身を引いた灼に申し訳ない。  さて、ならなんと答えたものか(奈良だけに)。  というかそもそも、鷺森灼が何故この場にいるのかを京太郎が存ぜぬ以上、説明も何もあったものではないが……。 灼「ドーモ、オカルトスレイヤーグレートです」  なんて言い放ったので、いよいよ訳が判らない。  ナンデ!? オカルトスレイヤーナンデ!?  グレートとか、耽美的なアトモスフィアを感じるネーミングセンス。素敵。実際ヤバイ。 京太郎「……頭打ちました?」 灼「……液体窒素につけた豆腐とちくわのどっちがいい?」 京太郎「遠慮させてください」  ちくわのどっちって、どんなのどっちなんだろうな。 早苗(オカルトスレイヤーグレート……?) 琉生(私たちより……どう見ても年下だけど、まさか前に須賀プロに助けられたり……?) 早苗(兄弟子……いや、姉弟子って奴?) 早苗「ドーモ、オカルトスレイヤーグレート=サン。オカルトスレイヤーハイパーアルティメットです」 琉生「ドーモ、オカルトスレイヤーグレート=サン。オカルトスレイヤーウルトラエターナルマキシマムです」  なんだそのネーミングセンス。小学生か。  ……小学生だった。  一部分が一部分なので、鋭利に整っていながらも若干幼さの残る顔立ちはともかく、高校生と間違えそうになるが。 灼「京太郎」 京太郎「はい?」 灼「あとでバーニングライダーキックの刑」  どんな刑だよ。  荒川刑の方が恐ろしいけど(サンボと柔術的な意味で)。 灼「まぁ……一応言っておくと、私が京太郎の師匠」 早苗「えっ」 琉生「本当ですか!?」 京太郎「あー、まー、そういえばそうだな」  ボウリングの。 灼「む」 灼「リハビリにも付き合ったと思……」 京太郎「あー……そういう意味なら、確かに師匠かも……」 早苗「本当に!?」 琉生「す、すごい……!」 灼「ども」  明らかに尊敬の目を向ける小学生コンビ二人に、やや得意気に気持ち胸(板)を反らす鷺森灼。  正確に言うなら――。  あれは尊敬ではあるが、「私たちより年下なのに凄い」という類いのものであろう。きっと。  ……まあ、余計に口を出すのはやめておこう。口は災いのなんとやらである。  実際灼も、口には出さないが気にはしているし。 早苗「それじゃあ、須賀プロ……またあとで!」 琉生「メールしますね?」 京太郎「おう、気をつけてくれよな」 灼「じゃね……」 フリフリ  ……と、予定があるのか小学生たちは去っていった。 灼「京」 京太郎「なんですか?」 灼「メールって?」 京太郎「小学生の、しかも女の子二人だから……なんかあったらって」 灼「……」 灼「……はぁ」 京太郎「え?」 灼「なんでもな……」  なんだ? 何か悪いことでもしたのか?  小学生の、しかも女の子が、普段いる場所とは異なる土地に来ているのだ。  見知らぬものも多いだろうし、見知らぬことも(特に新宿駅。毎年長距離バスで来た受験生が途方にくれる様を見かける)、あるだろう。  ならばせめて見知った人間が手を貸すというのは、至って自然であり普通のことだ。 灼「別に……」 京太郎「そうですか? ところで――」  それよりも。 京太郎「こっちには、どうして?」 灼「頼まれたから。コンビとして」 京太郎「誰に……、ってまさか――」 灼「小走さんに」 京太郎「……やっぱり」  それにしても、何故小走やえは鷺森灼に頼んだのだろうか。 灼「昔、壮行会とか色々やったから……」 京太郎「なるほど……でも、なんでプロでもない灼さんに……?」 灼「プロじゃないからだと思……」 京太郎「え?」 灼「プロじゃないから、今日は京太郎が主体にならなきゃいけない。アシストじゃなくて、主導権を……」 京太郎「俺が……?」 灼「勝手な推測だけどね」 灼「まあ――その辺、自分で考えたらいいと思……」 京太郎「はぁ」  決して――決して、彼女に頼り切っている訳はなかった。  彼女の“特性”に任せて有効牌を切り出して貰い副露するとか、彼女に足止めを任せるとかそういう訳ではない。  京太郎が彼女の特性を逆手にとってアシストしたり、また、哩姫コンビ封じの立案をしたのは京太郎であったりした。  どちらかに任せきりで他を上回れるなんて――タッグ日本一は、生易しい称号などではないのだ。 灼「まあ、その辺は京が考えて」 灼「案外、プロ二人がかりは大人げないってだけかもしれないし……」 京太郎「あー、確かに」 京太郎「今思えば、皆一般の人と組んでたなぁ」 灼「そ」  M.A.R.S.ランカー同士で組んだなら、同じくM.A.R.S.ランカー同士でないと相手は困難を通り越して不可能だ。  下位ならばともかく……上位二人というのは、極めて強力過ぎるのだ。  それでは、プロアマ混合の意味がない。そう考えていても、おかしくはなかった。 灼「……なんでもいいけど」 京太郎「はい?」 灼「こうして、京と一緒に組むのは初めてだから……」 灼「――よろしく、オカルトスレイヤー」 京太郎「――こちらこそ、オカルトスレイヤーグレート」  ……なお。 照「私のコンビ。よろしく」 煌「これはこれは、あの日のボウリングの……」 煌「いやはや、不詳花田煌……全力で当たらせて貰いますのでよろしくお願いしますです!」 京太郎「……あ、はい」 灼「ども……」 灼(……) 京太郎(……) 灼(……これは?) 京太郎(ま、まあ……この二人は元々コンビとしても凶悪性能じゃないから) 灼(まだ、セーフ……?)  ……オチ担当は。 菫「ん? お前、やえと一緒じゃないのか?」 智葉「……おい。話が違うぞ」 菫「……誤差だ。狙撃には誤差がある」 智葉「……」 京太郎「……」 灼「……」 灼(これは……?) 京太郎(アウトォォォォォォオ――――ッ!) 灼(へっ) ビクッ 京太郎(俺が見てきた中で――間違いなく、最強のコンビです……!) 灼(あっ)  お察し。  ……ちなみに。  大星淡は、おめかししながら携帯電話の前で来るはずのない電話を、  「別にあんな奴と組みたくなんかないけどー」とか「誘われても有り得ないよねっ、須賀とか」とか「第一アイツ相方いるし、ないない」とか、  「でもでもー、私との相性悪くないよねっ」とか「案外声かけようかなー、とか思っちゃってたり!」とか「そーなったらどうしようかなー?」とか、  あーだーこーだうだうだと百面相で宣いながら、待っていたとかいないとか。 【エントリーコンビ】 宮永咲(麻雀プロ)――竹井久(アナウンサー) 清水谷竜華(麻雀プロ)――園城寺怜(医療関係) 南浦数絵(麻雀プロ)――片岡優希(会社員) エイスリン・ウィッシュアート(麻雀プロ)――小瀬川白望(デイトレーダー) 姉帯豊音(麻雀プロ)――臼沢塞(教育職) 熊倉トシ(シニアプロ・教育職)――鹿倉胡桃 松実宥(麻雀プロ)――松実玄(旅館経営) 荒川憩(麻雀プロ)――新子憧(教育職) 赤土晴絵(麻雀プロ)――高鴨穏乃(土産品店・和菓子屋) 天江衣(麻雀プロ)――国広一(女中) 江口セーラ(麻雀プロ)――船久保浩子(雑誌記者・編集者) 龍田早苗(小学生)――九頭竜琉生(小学生) 宮永照(麻雀プロ)――花田煌(麻雀プロ) 辻垣内智葉(麻雀プロ)――弘世菫(麻雀プロ) 須賀京太郎(麻雀プロ)――鷺森灼(ボウリング店店主) 他、多数   __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __  【宮永咲の好感度が上昇しました!】 【竹井久の好感度が上昇しました!】 【清水谷竜華の好感度が上昇しました!】 【園城寺怜の好感度が上昇しました!】 【南浦数絵の好感度が上昇しました!】 【片岡優希の好感度が上昇しました!】 【エイスリン・ウィッシュアートの好感度が上昇しました!】 【小瀬川白望の好感度が上昇しました!】 【姉帯豊音の好感度が上昇しました!】 【臼沢塞の好感度が上昇しました!】 【鹿倉胡桃の好感度が上昇しました!】 【松実宥の好感度が上昇しました!】 【松実玄の好感度が上昇しました!】 【荒川憩の好感度が上昇しました!】 【新子憧の好感度が上昇しました!】 【赤土晴絵の好感度が上昇しました!】 【高鴨穏乃の好感度が上昇しました!】 【天江衣の好感度が上昇しました!】 【国広一の好感度が上昇しました!】 【江口セーラの好感度が上昇しました!】 【船久保浩子の好感度が上昇しました!】 【宮永照の好感度が上昇しました!】 【花田煌の好感度が上昇しました!】 【辻垣内智葉の好感度が上昇しました!】 【弘世菫の好感度が上昇しました!】 【鷺森灼の好感度が上昇しました!】

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