【某月、某日、某所にて】


淡(あー、なんかプール行きたいなー)

淡(落ち着くんだよね、プールとか水の中とか)

淡(何でなのかは知らないけど……)

淡(髪の毛の艶もよくなるしさー)

淡(うーん)

淡(むむむむむ)

淡(そうだ! プールに行こう!)


淡(と、なったらやっぱり……水着でしょ!)

淡(去年のは探せば多分あるけど、探すの面倒だしー)

淡(可愛いのが新しくでてたら、そっちの方がいいよね!)

淡(うんうん、その方がいい)

淡(それでスッゴいイケメンに、声とかかけられちゃったりして!)

淡(んふふふ、どーしよっかなー)

淡(……こんだけ可愛いんだから、そうなってもおかしくないよね?)

淡(……うん、よし)

淡(ちょこちょこ賞金系で稼いでるし、どうせ須賀の馬鹿に勝つまでタイトル戦でるつもりないし)

淡(水着を買いに、しゅっぱーつ!)


  ◇  ◆  ◇


京太郎(あー、なんか泳ぎてーなー)

京太郎(プールでも、久しぶりに行くかね?)

京太郎(前はトレーニングで10キロとか)

京太郎(やりすぎなときは16キロとか泳いでたけど、最近忙しかったしなぁ)

京太郎(海なら浮力あるからまだ軽いだろうけど……背中の日焼けがやべーことになるんだよなぁ)

京太郎(もう延々と4時間、5時間、6時間泳ぐのは辛いしなぁ……)

京太郎(……うん、大人しくプールにしよう)

京太郎(水遊びでいいよな)


京太郎(水着は……どうせなら、新調すっか!)

京太郎(海じゃないから、あんまりナンパとかそーいう空気じゃないけど)

京太郎(ひょっとしたら、めちゃくちゃ可愛くてスタイルいい娘から逆ナンされるかも知れねーし!)

京太郎(うんうん、身なりに気を使って損はないよな!)

京太郎(……)

京太郎(……いや、週刊誌とか怖いからやんねーけど)

京太郎(でもメアド交換くらいなら……まあ)

京太郎(ハハ……そもそも影薄いから気付かれないか)

京太郎(ハハハ)

京太郎(……ハハハ)

京太郎(はぁ……)


  ◇  ◆  ◇


淡「~♪」

淡(どれにしよっかなー)

淡(こっちも似合うし、こっちも似合いそうだし)

淡(んー、これは際どいかな?)

淡(こっちはー、どーだろ)

淡(他人に見せたら、どんな反応するだろうなー)

淡(……って、碌に男の知り合いとかいないんだった。最近なんて特に)

淡(……)

淡(パッと思い浮かぶのは、須賀の馬鹿ぐらいかな?)

淡(……)

淡(アイツに見せるとか絶っっっっ対、やだ!)

淡(いくら積まれてもやだ!)

淡(アイツ、ホントに腹立つ! なんで麻雀プロやってんの!)

淡(あんだけできるなら、他のでもいいじゃん! こっち出てこなくても!)

淡(なんか、ホンットにムカつく!)

淡(この間も、人の料理を無理して食べてムカつく!)

淡(かっこつけ男! たまたま失敗しちゃっただけなのに、あれじゃ私が悪いみたいじゃん!)

淡(自分は食べてあげたいい人みたいな評価貰うだろうし!)

淡(ナルシスト! ええかっこしい!)

淡(作り直させてくれてもよかったでしょ! もう!)


淡(……)


淡(見たら、どんな反応するんだろ)

淡(私の意外な魅力に、メロメロになっちゃったりしてさー)

淡(ま、そうなったら……振り回すだけ振り回して、捨ててあげるから)

淡(可愛くしてたら、可愛がってあげてもいいかもねー……なんて)


淡「これ、どう?」


淡(ふふっ)

淡(なーんて、聞いてみたりして――)

京太郎「……オレェ?」

淡(――ええええええ!?)

京太郎「……あ」

淡「……げっ」



京太郎「……どうも、大星プロ」

淡「ちょっと、プロって呼ばないでよ!」

淡「オフなの! 判るでしょ!」


 折角の買い物日和だというのに、厄介なものに遭遇してしまった。

 リベンジを誓われて(正確には京太郎の実力だけで勝った訳じゃない)、

 次のタイトル戦で再度勝負を……という約束はした。


 そこで終わっていれば、よかった。

 そのあと、まあ出会う。まあ出会う。

 理由は確実に、互いに飯屋を弘世菫から聞いている為であろう。

 だから、鉢合わせしてしまうのだ。お互いの先輩のお勧めに従うから。

 ……それが、非常に気まずい。


 例えるなら、デスピサロがすべての街にいるようなものである。

 むしろ、フローラを選んだあとのビアンカが行く街行く街にいる感じである。

 ……いや、これも違うな。

 どうでもいいけど、フローラでもビアンカでもエボラ出血熱でもなく、マリア選ばせろよ。

 どうしたらいいか判らず、ルドマンに話しかけてアッーな答えを貰うのは誰でも通る道だよね。

 ……なんの話だったか。

 銭型警部とルパンが顔を合わせる――というのは、普通だし。

 どう言っていいやら、とにかく気まずい。

 挙げ句、番組――料理番組でこの間共演してしまった。

 気まずさMAXだ。

 そんな空気に圧されたせいか、大星プロが料理を失敗してしまったのも不味い。

 料理は不味……くはなかった。見た目ほどの味ではなかった。


 ……まあ。

 とにかく、気まずいのだ。

 かといって、流石に無視する訳にも行かずに話かけてみたが……小声で怒鳴られた。

 言われてみたら、なるほど確かにそうであった。


京太郎「……悪いな、言う通りだ」

京太郎「自分が気付かないで無視されるからって、人までそうだとは限らねーもんな」

淡「……判れば、別にいいんだけどさ」


京太郎「……で、さ」

京太郎「『これ、どう?』って……俺に訊いたのか?」

淡「……まさか」

淡「そんなわけ、ないでしょ?」

京太郎「だよな」

京太郎「そこまで仲いい訳じゃないし……」

淡「……そうだよ」

淡「あんたと馴れ合うつもり、ないから」

京太郎「……お互いさまだよ」


京太郎「んー」

京太郎「……つーっと、誰にだ? 誰と間違えた?」

淡「う……」

淡(独り言とか言えないし、どうしよう)

淡「そ、そんなの……あんたに関係ないってば」

淡「別に教える必要とか、あるの?」

京太郎「……あ」

京太郎「あー」

京太郎「もしかしてアレか。聞いちゃいけない系か」

京太郎「そうだよな。オフだしな」

京太郎「邪魔して、悪かったな。スマン」

京太郎「須賀京太郎は、クールに去るぜ」


淡「――」

淡「……は?」


京太郎(そうかそうか、大星プロにも恋人が居たなんてな)

京太郎(いやー、隅にも置けないぜ)

京太郎(一般人なんかな? それともスポーツ選手とか、俳優とか?)

京太郎(まあ、黙ってればかなり可愛いしなー)

京太郎(いい歳なんだから、恋人の一人や二人はいるだろ)

京太郎(いや……でも、だとすると、悪いことしたな)

京太郎(番組の企画とはいえ……恋人の手料理を別の男に食べられるとか、いい気はしないだろ)

京太郎(そこらへん、配慮足んなかったな)

京太郎(かといって、ディレクターに調べとくように頼むのも下世話だし)

京太郎(それとなく、訊いてみるか。なんか自然な感じで)


淡「……ねえ」


京太郎(ビアンカかフローラかと言ったら、やっぱりちゃんと選ぶべきだ)

京太郎(主人公との付き合いの長さ……)

京太郎(どれだけ主人公の支えになれるか……)

京太郎(そして、信頼感だよな。一番大事なのは)


淡「あんたなんか、勘違いしてない?」


京太郎(魔物アリなら、ラストまで主力メンバーのままの燻し銀ピエール一択だけど)

京太郎(残念ながら、それはできない)

京太郎(じゃあ、この条件を満たす奴がいるとしたら……)

京太郎(それは――)


淡「ねえ、話ー」

淡「聴いてるのー? 須賀ぁー?」


京太郎(――G、つまりお金だ)

京太郎(最序盤に、スライムを倒すとこからの付き合いだ)

京太郎(Gが無ければ、主人公は戦うことすらできない)

京太郎(信頼感はもちろんだ。決して暴落しないからな)

京太郎(つまり、Gが一番大事だ)

京太郎(ってーと、行く先々で金が貰えるフローラ一一択だろ)


京太郎(……何の話してたっけ?)


淡「ねえってば!」

京太郎「うごっ……!」

淡「なんかあんた、勝手に話進めてない?」

淡「そんな感じがするんだけど」

京太郎「……ん、うん」

京太郎「いや、彼氏と来てるのに邪魔しちゃ悪いなーと思って」

淡「……は?」

淡「なんでそんな風に思ったの?」

淡「オフの日の女は、必ず男連れてるとか思ってるの?」

京太郎「え……いや」

京太郎「違ったのかよ?」


淡「違うっての」

淡「どんだけ恋愛脳なの? 年中発情期なの?」

淡「男と女見たら、カップリングしなきゃ気がすまない性質なの?」

淡「テレビに映る女性プロ見ながら、『この人も休日恋人と一緒なんだよなぁ……』とか」

淡「そんなこと考えてんの?」

京太郎「……いや」

京太郎「それこそ、違うっつーの」

淡「ふーん、どうだか」


淡「ところでさー」

淡「さっき、動揺してたよねー?」

淡「話しかけても、反応しないし……」

淡「そんなに私に恋人がいたら、ショックなの?」


淡(弱点……なのかな? を、見ーっけ)

淡(ふっふーん。この間までのお返しに、からかってやーろうって)

淡(さーて、どんな反応するかな?)

淡(必死に違うって言ったら、なんでそんなに必死なのって)

淡(煽ってやーろう、っと――)


京太郎「――ああ、ショックだな」



淡「ふぇ!?」



淡(はぁ!?)

淡(人混みでいきなり、なに言い出してんのコイツ)

淡(やっぱり年中発情期なの?)

淡(常にリー棒立てて、赤牌4枚チップ4枚オールならぬ、脳内ピンク牌オールとかしてるの?)

淡(やっぱり、馬鹿なのかな)

淡(オカルトスレイヤーでずんどこどんどこ頭打ったりでもしたの?)


京太郎「いやそりゃ、(子供っぽい)大星プロに今恋人がいて」

京太郎「俺にいないとかショック過ぎるじゃねーか」

京太郎「なんか負けた気がするだろ」


淡(……で、でも)

淡(ふーん。私に恋人が居たらショックなんだー)

淡(へー、そっかそっか)

淡(ほー、なるほどなるほど)

淡(うんうん……)

淡(なーるほどねー)

淡(私に恋人が居たら、ショックかー)

淡(いやー、モテる女は辛いなぁ……)

淡(なるほどな、ってね)

淡(私に彼氏が居たらショックなんて……)

淡(なんていうか……可愛いとこ、あんじゃん!)

淡(へー)


淡(うんうん、ウイヤツだ)

淡(ならちょっとご褒美をあげようかな)

淡(飴と鞭って、言うしね!)


淡「……ね」

淡「このあと、暇?」

京太郎「いや……」


京太郎(水着は……買ったし、あとは喫茶店にでも行くぐらいか?)

京太郎(ああ、買ったさ……競泳用水着をな)

京太郎(ついデザインが良いから買ったら、8000円を楽々超えてた)

京太郎(デザイン重視で選ぶもんじゃねーんだな、やっぱ)

京太郎(なんつーかさ)

京太郎(日本刀とか、戦闘機みたいに……極限まで機能を突き詰めた故の美っていうか)

京太郎(そういう機能美があったんだよな)

京太郎(だから、あれは仕方なかった。必要な出費だった)

京太郎(……いや)

京太郎(……『競泳シールはありませんですが、よろしいですか』)

京太郎(言われた時点で気付くべきだったよ……間抜けてんな、俺)

京太郎(まぁ……あれは、いい買い物だったんだ)

京太郎(デザイン格好よかったからな!)

京太郎(……プールでしか使わねーけどな!)

京太郎(普通のと競泳水着置いてるのに、棚が近かったから間違えるけどな!)


淡「よかったらさー」

淡「水着選ぶの、一緒にやらせたげるよ!」

淡「ね、どう?」

淡「暇なんでしょ?」

京太郎「ん……あ、ああ」

京太郎(何の話だ?)

京太郎「そうだな、暇だな」

淡「なら、けってーい!」


淡「~♪」


淡「で、こっちなんだけど……どう?」

京太郎「あー、そうだなぁ」

京太郎「ちょっと子供っぽ過ぎないか?」

淡「そう?」

淡「可愛いと思うんだけど……」


京太郎(……)

京太郎(なんで俺、こんなことしてるんだろう)

京太郎(水着買って、喫茶店に行って……休日を満喫しようと思ったのに)

京太郎(なんで俺は、こんなところで水着の選定をしてるんだろう?)

京太郎(さっきから、女子高生が向けてくる興味津々っつー感じの視線が痛いな)

京太郎(違うから。そういう関係じゃないから)

京太郎(さて……一応否定してみたものの)

京太郎(間違いなく、わざわざ訊いてくるってことは……)

京太郎(女としちゃ、肯定されたがってるパターンだな)

京太郎(あとは、否定+フォローか)


京太郎「あー」

京太郎「確かに俺も、可愛いと思う」

淡「でしょ?」

京太郎「ああ、そうだなぁ」

京太郎「この色合いとか、ここのアクセントとかいいよな」

京太郎(……似合うかどうかは別として)

淡「そうそう! 意外に判ってるじゃん!」

京太郎「まあな」

京太郎(……そう言って欲しそうにしてたし)


京太郎(……しっかし)

京太郎(この水着のサイズだと……コイツ、意外にあるな)

京太郎(着痩せするタイプなのか?)

京太郎(……)

京太郎(落ち着け、俺。相手は大星淡だ)

京太郎(距離感がよく掴めないから、必要以上に気を使わなきゃならないタイプだ)

京太郎(胸はともかく、落ち着け俺)


淡「でもさー」

淡「こっちもいいかなーって思うんだよね」

淡「どうかな?」

京太郎「……あー」

京太郎「今度はセクシー系を攻めてきたのか」

淡「そうそう」


京太郎(……果てしなく不毛な気がする)

京太郎(なんで俺、謂わばライバル……みたいな麻雀プロの水着選びに付き合ってんだろ)

京太郎(さっきの口振りだと……別に聞く相手がいるみたいだし)

京太郎(トイレにでも行ってるのか? 知らねーけどさ)

京太郎(そっちに訊いたらいいんじゃねーのかな。わっかんねーけど)

京太郎(……というか、コイツの服の趣味がわからん)


淡「で、どうなの?」

京太郎「正直……ちょっと派手じゃないか」

京太郎「似合うとは、思うぜ?」

京太郎(……嘘だけど)

淡「そっかー」

淡「ふーん……」

京太郎「……なんだよ」

淡「着てるとこ想像して、興奮した?」

京太郎(……おい)

京太郎(なんて答え求めてるのか、わからねーんだけど)

京太郎(え、俺に何を言わせたいの?)


 >正直興奮した

 >そんなことはない

 >普段から興奮してる。今も

 >淡はいつも可愛いよ

 >もっと際どいのを着てほしいな


京太郎(選べるか! 選択肢バグってるだろ、これじゃあ!)

京太郎(……これは、だ)

京太郎(からかい目的か? 本気で訊いてるのか?)

京太郎(……本気の理由がないな。そこまで親しくない)

京太郎(明らかに、顔を合わせると嫌そうな顔するしな)

京太郎(高校のときの俺とは違う……彼女がいたんだ。だから、判るぜ!)

京太郎(あれは実際に嫌がってる!)

京太郎(弘世先輩の話を聞くに、コイツは直情傾向……)

京太郎(宮永プロには、そうとうストレートになついていたって聞くし)

京太郎(嫌なら、素直に嫌だと表現するだろう……)

京太郎(だからコイツは、実際俺を嫌がっていて……)

京太郎(今回のようなのは、どっか機嫌がよかったんだろうな。つまりレアケースだ)

京太郎(つまりコイツは、からかい目的だ!)

京太郎(なら――)


京太郎「そんな風にわざわざからかうみたいに聞かなくても、さ」

京太郎「大星はいつも可愛いよ」

淡「――」


京太郎(――これだ!)

京太郎(相手の思惑に敢えて乗りつつ、肝心なところを外すッ!)

京太郎(これでどうだろうか)

京太郎(興奮するという……からかいの口実を求めていたんだろ?)

京太郎(どうだ?)


淡「……」

淡「いきなり何言ってんの?」

淡「彼氏でもないくせに……正直気持ち悪いんだけどさ」

淡「手当たり次第に、女口説く趣味でもあるの?」

淡「ナンパ男」


京太郎(~~~~~~~~~~ッッッ)

京太郎(こ、これは……)

京太郎(予想以上に……凹む。軽く死にたくなってくる)

京太郎(確かに、俺のことを嫌ってるんだ……こういう答えは来るだろう)

京太郎(それは、判ってた。判ってたけど……)

京太郎(いざ来ると、ダメージ凄まじい)

京太郎(予想の3倍以上の鋭さをもった言葉の刃だ)

京太郎(ぐ……)

京太郎(からかいに来てるって機嫌のよさなら、多少のノリは勘弁してくれると思ったけど……)

京太郎(そう、上手くもいかねーな)


京太郎「……わ、悪い」

京太郎「確かにお前のいう通りだった……すまん」

淡「……ふん」

淡「あんまり下らないこと、言わないでよ」

淡「言われるこっちの身にもなれ」

京太郎「……あ、ああ」

京太郎「その……なんつーか、すまん」

淡「……」

399 名前:1 ◆rVyvhOy5r192[saga] 投稿日:2013/09/24(火) 23:16:09.76 ID:C0LFHVdoo [2/2]

淡「……」

京太郎「……」


京太郎(き、気まずい)

京太郎(なんか完全にやらかしちまった感じだ……)

京太郎(なんか、空気を変える話題が欲しいが……)

京太郎(俺へのマイナス印象が生まれてしまったこの状況じゃ、何を言っても悪くしかならん)

京太郎(『坊主憎けりゃ、袈裟まで憎し』だ)

京太郎(俺の些細な動作1つでも、大星を苛立たせることになる……)

京太郎(これの解消には時間経過しかないって、知ってるぜ……!)

京太郎(沈黙が重くても……喋っちゃ駄目なんだ)

京太郎(余計に油を注いで、怒りを長引かせるどころか強くしちまうからな)

京太郎(……)

京太郎(……って、これスゲーいいじゃん)

京太郎(いいじゃん、スゲーじゃん)

京太郎(怒らせてごめんって謝って、離脱できるじゃねーか!)

京太郎(胃が痛くなる、訳が判らない超展開に付き合わなくていいんだよ!)

京太郎(やったぜ! 言い訳ゲット!)

京太郎(早速、使おう――)


淡「……ねえ」


京太郎(――ですよねー)

京太郎(つーか、話切り出すの早えーぞ! オイ!)

京太郎(タイミング悪いな、お前!)


淡「そんなこと、いつも女の子に言ってるの?」

淡「麻雀プロなのに、ナンパとかしてるの?」

京太郎「……いや」

京太郎「ナンパとか、したことねーし」

京太郎(プロになってからは、一度もないぞ)

京太郎「迂闊なこと言ったら、大変なことになるからさ……」

淡「ふーん」

淡「随分自然そうに見えたから……どうだか」

京太郎「……いや」

京太郎「本当に、してないから」

京太郎(……プロでできるわけないだろ)


淡「……」

淡「ふーん?」

淡「……」

淡「私はまあ……許してあげるけどさ」

淡「あんまり、そういう軽いこと言わない方がいいんじゃないの?」

淡「下らないスキャンダルとかで潰されたら……困るし」

京太郎「……」

京太郎「確かに、その通りだな」

京太郎「ありがとう、大星プロ」

淡「……別にー」

淡「ていうか、だからプロって言うなって」

京太郎「ああ、そうだった」

京太郎「……悪い」

淡「……ふん」


京太郎(……確かに、決着つける前にさ)

京太郎(リベンジ誓った相手がいなくなったら、困るもんな)

京太郎(俺が軽率だったな……うん)

京太郎(……いや)

京太郎(それ言ったら、お前はどーなんだって感じだけど)


淡(……)

淡(……いきなり、何言い出すんだろ。こいつ)

淡(ビックリした。ホント、ビックリした)

淡(そりゃ、確かに私は可愛いけどさっ)

淡(でも、いきなり言われたらやっぱり驚くでしょ)

淡(……)

淡(す、須賀が相手なら……じゃなくて、須賀が相手でも)

淡(驚いて、なんかお説教みたいなこと言っちゃったし……)


淡(でもあの様子だと……すごく言い馴れてそーなんだよね)

淡(誰かが誤解したり、ネットに乗せたりしたら大変だろうし)

淡(そーいうとこ、気をつけなよ)

淡(……つまんないじゃん。そうなったら)

淡(まだ、倒してそっから超連勝してないんだから!)


淡(あとやっぱ、ナンパ男だったらムカつく)

淡(なんていうか……仮にも私から直撃とったんだし)

淡(初めて、あんな大きいの入れてくれたんだし……)

淡(そんな相手が、大したことない……如何にも軽いナンパ男なら、最低)

淡(そこらへん、次にぶったおすまでちゃんとした奴で居てくれないと……困るんだよね)

淡(それでこそ、倒す価値があるんだよね)


淡(……で)

淡(……んーと、どうしようかな)

淡(……)

淡(いつも、可愛いか)

淡(……ナンパ男)

淡(……)

淡(んへへへ)



京太郎「……」

淡「……」

京太郎(気まずい)

京太郎(コイツ、お説教したかと思うと……ブスッと黙り混みやがって)

京太郎(その癖ニヤニヤしたりするし、ワケわかんねーよ)


淡「……ねえ、ナンパ男」

京太郎「ナンパ男じゃねーよ」

淡「事実じゃん」

淡「金髪ナンパ男」

京太郎「……ッ」

京太郎(だから、金髪は関係ないだろ!)

京太郎(それに俺は硬派だっての!)

京太郎(……ったく)

京太郎(あんまり言うなら、本当にナンパして口説いてホテル連れ込んだろかこのアマ)

京太郎(そんな恐ろしいことやんねーけど)


京太郎「……で、なんだよ」

京太郎「あと、ナンパ男はやめろよ。マジで」

淡「あんたの態度次第だから」

淡「ねえ……」

淡「で、さあ」

京太郎「……なんだよ? 勿体ぶんな」

淡「さっき――」


淡「『大星プロはいつも可愛いよ』」


淡「とか言ってくれたけどさ。このナンパ男」

淡「……」

淡「これ、ホント?」


京太郎「……」


 >冗談に決まってんだろ。バーカ

 >さあ、どうだろうな

 >ああ。恋人なら、幸せだと思う

 >うるせえ。黙らないと舌入れてキスするぞ

 >そういうのを訊いてくるところが可愛いよ

 >俺がナンパ男なら、お前はスイーツ(笑)だな


京太郎(選択肢ィ!)

京太郎(やっぱ、距離感判らない相手で混乱してるんかな)

京太郎(パッと思い付く返しが微妙すぎる)

京太郎(……どうしたもんかな)

京太郎(困ったな。どう答えたらいいもんか)

京太郎(どんな答えが欲しいんだよ、コイツ)

京太郎(からかいかも知んねーけど)

京太郎(いや、からかい何だろうが……)

京太郎(さっきのあれがあるとなー……踏み出しにくいぜ)


京太郎「……ん」

京太郎「まあ、可愛いんじゃねーの? そう思うぜ」

京太郎(黙ってれば、だが)

淡「ふーん」

淡「じゃあさ、じゃあさ」


淡「私に似合うと思う水着選んでみてよ」


京太郎「は?」

京太郎「いや、なんでだよ」

淡「別にー、特に理由はないけどさー」

淡「からかうつもりでも、女の子にそーゆー軽口叩いて混乱させたんだから」

淡「なんていうか……責任? みたいのとってよ」

京太郎「……意味が判らん」

淡「……ごめん、言ってる私にも判らない」


淡「……でも、さ」

淡「須賀ならどういう水着を選んでくれるのか……気になったんだ」

淡「そんな、ちょっとした興味って言うのかな?」

淡「……ま」

淡「別に、センスがないから選べないって言うならさー」

淡「それでも、いいけど」


京太郎「……上等」

京太郎「……赤とか、似合うんじゃねーの?」

淡「えー」

淡「派手じゃない?」

京太郎「パレオつけるとか、パーカー羽織るとかすれば行けるだろ」

京太郎「ホットパンツ履くとか、そういうのもあるしさ」

淡「パレオはともかく、パーカーにホットパンツって……」

淡(別に海とかいくワケじゃないからなぁ)

淡(……って、言ってなかったか)

淡(ま、別にいいよね。いう必要もないし)


淡(うーん)

淡(まあ、赤いのって結構好きなんだよね)

淡(高校の頃、テルたちと海に行ったときもそうだったし……)

淡(菫先輩に、『派手だ』とか言われたけど……)

淡(正直、あのセンスのない水着着てる人に言われたくない)

淡(結構気に入ってたのに……)


淡(この赤は……濃い目で、ちょっと暗め)

淡(赤以外は……縁が黒色か)

淡(後ろの方、ちょっと紐になってるし……)

淡(もし回りのとこが金色なら、あのときと一緒かぁ)

淡(んー)

淡(……ま、悪くないかな)


京太郎「……どうなんだよ」


京太郎(正直、もうそろそろ飽きてきた)

京太郎(確かに……だ。確かに……)

京太郎(コイツは、黙ってれば美人だ。スタイルも悪くない)

京太郎(それに俺は……今までこうして、女の子と水着を選ぶというのをしたことはない)

京太郎(……訂正)

京太郎(憧がいたけど……まあいいや。アイツ、どれ選んでも赤面するし)

京太郎(一緒にいるとこっちまで恥ずかしくなってきて、あんまり選んでるって感じじゃなかったし)

京太郎(悪くないんだが……)

京太郎(なんていうか、からかわれているってこの状況が嫌だ)

京太郎(正確に言うなら、よく判らん奴にからかわれている状況だな)

京太郎(どういう反応していいか、わかんねーんだよ。わっかんねー)

京太郎(打ってるときの趣味趣向は知ってるけど……)

京太郎(こいつが、どんな奴かよく知らん)


淡「んー」

淡「まあ、合格かな?」

京太郎「そりゃ、よかった」



淡「そう、合格なんだよね」

淡(――だから、まあ許してあげてもいいかなって)

淡「……そ、それでさ」

淡(――あれ?)

淡「よかったらさ……」

淡(……私)

淡「着て、見せてあげよっか?」

淡(……な、なに言ってんだろ)


淡「も、勿論今ここでじゃないんだけど――」


京太郎「い・ら・ねー」


淡「――」

淡「へっ」


京太郎(……)

京太郎(今度はなんのつもりなんだよ。なに企んでんだよ)

京太郎(あんまりしつこいと、ちょっとストレスたまってくるんだよなぁ)

京太郎(しかも、なに考えてるかわっかんねー奴からだし)

京太郎(暇って言ったけど、ありゃあ嘘だった)

京太郎(今から予定作るわ)


淡「……えっ」

淡「えと、な、なんで……?」

京太郎「いやー」

京太郎「悪いけどさ、実は予定があったんだよ」

京太郎「ちょっと、色々時間が詰まってるって訳だ」

淡「で、でも……」

淡「さっき、予定はないって……」

京太郎「いやー、直ぐ済むと思ってたからな」

京太郎「そういう意味だと、予定はなかった」


淡「も、もう少しだけじゃん!」

淡「もうそんなに、時間をとらないから……」

淡「だから……」

京太郎「……はぁ」

京太郎「あんまりさ、他人に――女性にこういうこと言うのは……気が引けるし」

京太郎「やるつもりもなかったんだけどさ……」

京太郎「大星プロ」

淡「な、なによ……?」


京太郎「――いい加減にしてくれ。しつこいんだ」


京太郎「こういう、感情に任せた台詞を他人に言いたくはないんだよ」

京太郎「そういう意味で、言っちまう俺はまだまだ未熟モンなんだろうけど……」

京太郎「それでもさぁ」

京太郎「さっすがに、我慢の限界だって……」

淡「な、なにが……」

京太郎「なんていうか、絡み方が流石にうんざりする」

京太郎「元々、知り合いっちゃ知り合いだけど……」

京太郎「こんな風に、休日を一緒に過ごす関係じゃなかっただろ」


淡「……う」

京太郎「なんつーか、さっき自分で言ってただろ」

京太郎「『馴れ合うつもりはない』って」

京太郎「これには、俺も同意するよ」

京太郎「いや、正確に言うなら……」


京太郎「よく知らねー奴と――『馴れ合う理由はない』んだ」

 京太郎の、静かな怒りと不満を湛えた目線を受けた淡は、


淡「……わかった」


 ただ静かに、そう言った。

 先ほどまでの笑みや、戸惑いを露にした瞳は消えていた。

 答えた後に、背を向ける淡。

 京太郎の態度に対して、なんの感情もぶつけない。

 京太郎が手渡した水着を、棚に戻しにいく。

 その足取りは、重いとも軽いとも言えない平静なものだ。


 大星淡の性格からするなら、もう一悶着あるか。

 それでも、言ってやるのだ。我慢しきれぬのだ。

 そう構えていた京太郎も、これには肩を空かされる気分であったが、


京太郎(これ以上面倒にならないなら、それでいいよな)


 と考えることにして、淡とは真反対へと歩き出す。

 目的のものは、手に入れられたのだ。

 この場をあとにする事への、後悔などあるはずがない。


 ……ただ、気分が乗らない。

 本音と鬱憤をブチ撒けて、晴れ晴れとしたというよりは、

 男として情けない姿を見せてしまったと、歯切れの悪い思いが残る。

 どうにも、後味が悪かった。


京太郎(……)


 子供の悪戯に本気になってしまったような、ある種の大人気なさと言おうか。

 誕生日の関係――情報収集の際知った――で、年齢的に見るなら京太郎が年下だろう。

 しかし、大星淡には、京太郎のような経験がない。

 大学で、モラトリアムを謳歌したことも。

 自主的に専門的な分野の勉強に志すことも。

 歳上の同級生と学業を送ることも。

 多少の能力や天分に差違はあれ、皆が机に向かう大学受験も。

 様々な職種に、パートタイムアルバイターとして顔を出すことも。

 そのどれも、経験していないのだ。


 彼女の人生は麻雀が基盤でできていて、徹底徹尾、それがウェイトを占めていた。

 その麻雀についても、正に天賦。

 己のあるべき姿として、収まっているのだ。

 勿論、実力勝負の世界に長く生きているが故の判断能力や価値観を有しているが、

 それが平静である日常の些細な部分や、根幹となる部分に作用するかはまた、別問題なのだ。


京太郎(……なんか、気分が乗らない)

京太郎(サンドバッグあるとこか、走れるところに顔を出して)

京太郎(今日は、やめとくか……プールは)

京太郎(……なんだよ、あの顔は)

京太郎(冷や水かけられると思ってなかった、犬とか猫みたいな顔しやがって)

京太郎(元はと言えば、お前の方が……!)

京太郎(……)

京太郎(……あー)

京太郎(俺、格好悪りぃ)

京太郎(流石に言い過ぎたか?)

京太郎(女相手に……あそこまで言う必要はなかったかもな)



 一方の、淡はというと……。

 水着を戻したその足で、洗面所の個室に向かっていた。

 ドアを閉めて、そのまま凭れかかる。


淡「……」

淡「『よく知らねー奴と馴れ合う理由はない』……か」

淡「……そんなの、当然だし」

淡「言われなくても、そのつもりだっての」

淡「……」


 呟いてみる。

 他の個室に人がいるなら、すわ病人かと手早くペーパーを回して立ち去っただろう。

 が、幸いながら淡以外に利用者はいなかったが故に、

 己の預かり知らぬところで、黄色い救急車を呼ばれずに済んだ。

 ちなみに、黄色い救急車は都市伝説である。


淡(……ムカつく)

淡(なんなの、あの態度!)

淡(それまで普通そうにしてたのに、いきなり怒り出して!)

淡(嫌なら、最初から嫌ってハッキリ言えばいいじゃん!)

淡(そしたら、そんな奴には私も絡まないっての!)

淡(自分からは何も言わずに、他人に察して貰おうとして)

淡(駄目ならいきなりキレるとか、ワケわかんない!)

淡(……そりゃ、こっちも挑発したけどさ)

淡(バーカ!)

淡(バーカ! 馬鹿男!)

淡(ほんっっっっとに、ムカつく!)

淡(ムカつく! ムカつく! ムカつく!)

淡(絶っっっ対、次からどっかで会ってもシカトしてやる!)

淡(それがいいんでしょ? それなら私も、そうするから)

淡(顔合わせてから無視するのが変だから、話してただけだから……)

淡(嫌って言うなら、こっちから願い下げだ!)



京太郎『……あ、どうも』

京太郎『店屋が被るなんて、珍しいっすねー』

京太郎『なんか用あったら、あっちにいるんで』


京太郎『どーも、大星プロ』

京太郎『偶然って……意外に続くのな』

京太郎『んじゃ』


京太郎『……いや、流石に』

京太郎『どんだけ被るんだよ、これ』

京太郎『……そう思うよな、そっちもさ』


京太郎『……なんだこれ』

京太郎『あー』

京太郎『なんだこれは……ああ、別々で』


京太郎『……なあ』

京太郎『ドッキリじゃ……ああ、ないよな』

京太郎『……折角だし、一緒に食う?』


京太郎『……もう、驚かねえ』

京太郎『そうそう、これお薦めでさ』

京太郎『な? 美味いよな?』


京太郎『だから次も勝って、実力で勝ったって証明してやる』


京太郎『んんッ?』

京太郎『なんだこれは、ンマイなぁぁあ~~~~~!』


京太郎『確かに、その通りだな』

京太郎『ありがとう、大星プロ』



淡(……だったら)

淡(もっと最初から、そう言ってくれても……よかったじゃん)

淡(……馬鹿。馬鹿須賀)


淡(……思えば)

淡(……こっちはさ、研究で色々見て知ってるけど)

淡(そっちは別に、そうでもないんだよね)

淡(……)

淡(……ほんっと)

淡(だったら……そう、言いなよ。そうするから)


淡(……ずっと)

淡(ずっとさ……今まで話してたときもさ)

淡(そう、思ってたんだよね)

淡(……)

淡(ムカ、つく)

淡(だったら、笑うな。愛想笑いすんな。こっちに付き合うな)

淡(嫌なら……無理なんて、させないのに)

淡(……)

淡(……馬鹿)

淡(あのときも、そうだったし……)



京太郎『……いや、悪くないっすよ。これ』

京太郎『知り合いのおばあちゃんが言ってたんだけど……』

京太郎『「服の絵柄とボウリングの球は、見かけによらない」ってさ』

京太郎『俺風に言うなら、「料理と人間は見かけによらない」ってとこっすかねー』

京太郎『いや、無理とかしてないんで』

京太郎『食材勿体ないし、作ってくれた努力と気持ちが勿体ないじゃないっすか』


京太郎『……ん?』

京太郎『ああ、別に本当無理してないから気にすんなよ』

京太郎『不味かったら、食った瞬間に死んでるっつーの』

京太郎『俺が横で教えたのに、それで駄目なら俺の責任だしな』

京太郎『……んじゃ』

京太郎『あんま、気にすんなよ? 次に気を付けりゃいいんだって』



淡(……ムカつく)

淡(本当に、ムカつく)

淡(金髪ナンパ男)

淡(ムカ、つく……!)

淡(……っ)


 笑いながらも、奥底では拒絶されていた。

 再戦を近いながら、淡のことを煙たがっていた。

 気遣いに思えたのはやはり、視聴者に向けた点数稼ぎだった。

 自分はそんなことにも気付かなかった。 


 ――。


 気が付けば、頬を涙が伝いそうになっていた。

 悔しさと、怒りと、戸惑いと、悲しさと、苛立ちが綯い交ぜになって、淡の視界を歪め始めていた。

 必死に、それを押し止める。

 感極まって泣いたなど、そんなのダサすぎるのだ。

 誰が、あんな奴の為に泣いてやるものか。

 そんな屈辱的なこと、許せるはずがないのだ。


 ぐしぐしと、目尻を拭う。

 化粧の一つでもしてれば大変なことになったろうが、

 二十代に入って数年だが、淡には必要なかった。

 ただ、目尻が赤くなる。それを誰かに見られるなんて、嫌だ。


淡(……今日、もう、プールって気分じゃない)

淡(帰って……飲もう。飲んで、騒ご)

淡(……)

淡(……)

淡(やっぱ……なにもしないで帰るのも勿体ないから、水着ぐらいは買おうかな)

淡(……)


  ◇  ◆  ◇


京太郎(……腹がへったな)

京太郎(だから、苛々してたのかもしれないな)


京太郎(……)


京太郎(正直なところ、咲とのあの一件のせいで……)

京太郎(大星と顔を合わせたくないっていうのが、ある)

京太郎(……まだ、疑惑でしかないけど)

京太郎(咲なら――――俺が、麻雀により魅せられることになった咲なら)

京太郎(軽くこなしそうな、気がするんだ……)

京太郎(……だから)

京太郎(大星とは、会話をしたくないって……きっと無意識に思ってるんだろうな)


京太郎(あいつから真っ直ぐに……)

京太郎(真っ直ぐな目で、リベンジを誓われるのが……辛い)

京太郎(やっぱり、次に咲を上回ってやるって……そう誓えば)

京太郎(馬鹿みてーに、女々しく凹んでる暇がないって……前向きには思える)

京太郎(でも……)

京太郎(大星の眼を前にすると、やっぱり思っちまう。嫌な部分も出てきちまう)

京太郎(『お前のそれは誤解』であって、『俺はそんなんじゃない』って)

京太郎(一瞬でも、そんな気持ちが胸を過る)


京太郎(だから、こんだけ顔を合わしてんのに……)

京太郎(俺はあいつがどんな奴なのか、知らない)

京太郎(下手に会話が発展して……あの話題になったとき、ボロを出しちまったらと思うと)

京太郎(どうしても、大星との会話を避けたくなるんだ)


京太郎(……どうにも、だ)

京太郎(ブルー入ってんのかな、俺)

京太郎(あの戦いで負けたら……やめようとも、思ってたしな)


京太郎(そういう意味で……)

京太郎(俺、大星に対して八つ当たりしてるようなもんだよな)

京太郎(あいつが悪いわけじゃないんだから)

京太郎(むしろ、俺が勝手な気持ちを……負い目を抱いちまってるだけだ)

京太郎(……そういう意味では、謝らないとな)


京太郎(で・も・な)

京太郎(そういうの抜きにしても、あいつは訳が判らん)

京太郎(嫌がってる癖に、この間、嬉々としてからかいに来たのはなんなんだ?)

京太郎(嫌な奴に嫌がらせして、溜飲を下げるつもりだったのか?)

京太郎(なんでそんなに難儀なことを……)

京太郎(嫌なら、出来る限り関わらないようにすると思うがな……)

京太郎(……)

京太郎(……いや、待てよ)

京太郎(あれは、あいつなりにコミュニケーションをとろうとしてたんじゃないのか?)

京太郎(そうだ。そうだよ)

京太郎(きっとアイツは、部長と同じようなタイプで……からかうのや嫌がらせが好きなんだ)

京太郎(素の状態がそんなんで、なんとか絡もうとしていたから……)

京太郎(だから、あんな嫌がらせ紛いのからかいかたをしてきたんだ!)


京太郎(……なるほどな。理解したぜ)

京太郎(あれは、あいつなりのコミュニケーションだったんだ!)

京太郎(そういう風なのしかできないんだろうな……)

京太郎(宮永プロみたいな例外を除いて、あいつにはああいうアプローチの仕方が普通なんだよ!)

京太郎(そうだったのか……)

京太郎(形が変でも、大星なりになんとか歩み寄ろうとしてたんだな)

京太郎(……そうとも知らず、悪いことをしたな)

京太郎(……身体動かしたら、落ちついたな)

京太郎(やっぱり……俺が悪いな)

京太郎(あいつの絡み方はともかく……あそこまで突き放す、角が立つ言い方は控えるべきだった)

京太郎(なんつーか、な)

京太郎(昔、本当に最初の頃の……優希を相手にしてるみたいで)

京太郎(色々思い出して、どうにも変な感じになっちまうんだよな)

京太郎(優希……どうしてんだろうな)

京太郎(……はあ)

京太郎(アイツに、こんな姿見せられないな)

京太郎(格好悪いぜ……笑われる)

京太郎(……よし、うだうだ考えるのは面倒臭え!)

京太郎(腹も減ったしラーメンでも食いに行こう!)


京太郎(……ところで)

京太郎(優希みたいな感じだったら、実は俺に気があったりして……)

京太郎(ま、ないな。ないない)

京太郎(似たような感じの憧が違ったんだから、そんなことないよな)

京太郎(人それぞれだよなー)


  ◇ ◆ ◇


京太郎「……」

淡「……」


京太郎(気まずい過ぎィィィイ!)

京太郎(なんでその日の内にまた遭遇すんだよ!)

京太郎(……相席オッケーとか言わなきゃよかった)


京太郎(そりゃ……)

淡「……」

京太郎「……」

京太郎(あんなこと言ったあとなら、こうなるって)

京太郎(視線も……合わせたくないよな)

京太郎(逆の立場なら、俺もそうだ)

京太郎(……はあ)

京太郎(本当は、頭冷やす時間を置いてからがいいんだよな)

京太郎(こうなったときって、変に謝られても余計苛々するだけだしさ……)

京太郎(しっかし……)

京太郎(話を切り出す……きっかけが、ねえ)

京太郎(……ま)

京太郎(とりあえずはさっさと、謝ろう)

京太郎(んで……時間をおくしかないな)


京太郎「あのさ――」

「――お待たせしましたー」


京太郎(タイミング悪すぎィィィイ!)

京太郎(え? なんなの? 誰か俺に恨みでもあんの?)

京太郎(運命の神様はD以下で、俺の発言にブチ切れてるのかよ!?)

京太郎(あー)

京太郎(帰りてえ……)

京太郎(大星の奴、食い始めてるし)

京太郎(……食券式じゃなかったら、店変えたのにな)

京太郎(これだから食券式は嫌なんだよ)

京太郎(なんか、せっつかれてるっていうか……流れ作業で相手にされてるっつーか)

京太郎(飯屋であっても、ものを食う場所じゃないって感じが……)


京太郎(おー、おー)

京太郎(メチャメチャ急いでるってワケじゃないけど……結構、急いで食べてるな)

京太郎(そりゃ、さっさと食べて立ち去りたいよな)

京太郎(……この間、猫舌とか言ってなかったか?)

京太郎(思わず、宮永プロにするみたいに……ふーふーしてやりそうになった覚えがある)

京太郎(……)

京太郎(まあ、いいや)

京太郎(……どうすっかな)

京太郎(食べてるときに話しかけられると、尚更苛立つよなぁ……)

京太郎(少なくとも、俺はそうだし)

京太郎(切り出せねえなぁ……話が、よォ――――)

京太郎(……結構、水飲むなぁ)

京太郎(猫舌なんだよなぁ……やっぱり)


京太郎(食べづらそうだな、大星)

京太郎(髪の毛、掻き上げながら必死に頬張って……)

京太郎(そりゃ……ラーメンみたいな髪の毛ぶら下げて、ラーメンは無謀だよ)

京太郎(……)

京太郎(なんかこれ、エロいな)

京太郎(額に汗浮かべて、髪の毛掻き分けて……若干涙目でラーメン頬張るってさ)

京太郎(エロい)

京太郎(間違いなくエロい)

京太郎(麺類食べる髪の長い女はエロい)

京太郎(……)

京太郎(……俺は何を言ってるんだろうか)

京太郎(相手は、大星だぞ?)

京太郎(落ち着け、俺は腹が減っているんだ)


京太郎「大星プ――」


淡『ちょっと、プロって呼ばないでよ!』

淡『オフなの! 判るでしょ!』


京太郎「……」

京太郎「……大星」

淡「……」

京太郎「これ、使えよ」

京太郎「ヘアピンとゴム……あった方が食べやすいだろ?」

淡「……」

淡「……ありがと」

京太郎「……いや」


京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」

淡「ふー、ふー」

京太郎「……」

淡「ふー、ふー」

京太郎「……」

淡「ふー、ふー」

京太郎「……」


淡「……んっ」

淡「……」

淡「……あひゅい」

淡「……」

淡「ふー、ふー」


「お待たせしましたー」

京太郎「あ、どうも」


京太郎「……いただきます」

京太郎「ふー、ふー」

京太郎「湯気、すごいなこれ」

淡「……」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」


淡「……それ」

京太郎「ん?」

淡「……同じ。私のと」

京太郎「ああ……」

京太郎「……」

京太郎「……弘世先輩に、薦められたんだよ」

淡「……そっか」

京太郎「……」

淡「……」


京太郎「……」

淡「ふー、ふー」

京太郎「……」

淡「ふー、ふー」

京太郎「……なあ」

淡「ふー」

淡「……何?」

京太郎「いや、さ」

京太郎「冷ますんなら……こう、こんな風にだな」

京太郎「スープから一気に麺を持ち上げて、空気にさらした方がいいぞ」

京太郎「その方が、よく冷える」

淡「ふーん」

京太郎「俺も、わりと猫舌だからな」

淡「……ふーん」


京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……ご馳走さま」

淡(早ッ!? スープ全部飲み干してるし……)


京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……なあ」

淡「……ねえ」


京太郎「……!?」

淡「……!?」


京太郎「……」

淡「……」

京太郎「……いいぞ、先に言って」

淡「……別に。大したことじゃないから」

京太郎「……そうか」

淡「……うん」


淡「……」

京太郎「……」

淡「……ねえ」

京太郎「……ん?」

淡「……そっちは、なんて言おうとしてたの?」

京太郎「……ああ」


京太郎「……さっきは、悪かった」

京太郎「ちょっと俺、余裕がなくなってたんだ」

京太郎「あんな言い方はさ……改めて、酷いと思う。我ながら」

淡「……」

淡「……別に」

淡「……」

淡「よく知らねー奴と、馴れ合う理由はないんでしょ?」

淡「そんなの、当然だよ」

淡「……」

淡「だから別に、どうでもいい」

淡「あんたみたいなよく知らない奴が謝ってきても、どうでもいいから」

淡「……」


京太郎「……それでも」

京太郎「いや……だからこそ、謝らせて貰う」

京太郎「そうじゃないと、筋が通らない」

淡「……」

京太郎「あれは……さ」

京太郎「お前なりに、俺のこと知ろうと……お互い『よく知らない奴』じゃなくそうと」

京太郎「そうして、くれてたんだろ?」

京太郎「それなのに……全然気付かないで」

京太郎「あんな風な言い方をして、悪かった」


淡「……」

淡「別に、そんなんじゃないから」

淡「それより……もう、私に構わないでよ」

淡「さっきのではっきり判ったけど、やっぱりあんたのこと……嫌い」

淡「どうせ今のだって、取りあえず頭下げとこうとか思ってんでしょ?」

淡「本当はそんなことないのに……」

淡「謝るのが、大人の対応とか思ってるんでしょ?」

京太郎「……それは違うぞ」

京太郎「俺は――」


淡「――うっさい!」


淡「私のこと、嫌なら……無理して合わせなくていい!」

淡「そんなんするくらいなら、話して来なくていい!」

淡「そういうのは嫌だから、もう顔見せんな!」

淡「私は、あんたみたいな奴が嫌いだ!」

淡「……大、嫌いだ」

京太郎「……」

京太郎「……すまん」


淡「……」

淡「……ごめん」

淡「今のは……私も、言い過ぎた」

淡「でも……」

淡「無理して、話しかけてくれなくていいから」

淡「私もそうするから……須賀もそうしなよ」

淡「……」

淡「須賀はさ、忙しいでしょ」

淡「あんな麻雀の打ち方なのに……色々、番組出てて」

淡「……だから」

淡「別に無理に、気を使ってくれなくていいから……さ」


京太郎「いや、俺は――」

淡「ご馳走さま!」


淡「それじゃあね」

淡「私はもう、話しかけないから」

淡「自分麻雀にだけ、集中してなよ」


  __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ 



【大星淡との思い出が更新されました!】

【Gaea Memory『喧嘩(大星淡)』を入手しました!】


※別にメモリが手に入ったから、だからどうという話でもない

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年09月28日 04:00