◇ ◆ ◇
京太郎「……つーわけで、悪いな」
淡「むー」
照「……残念」
京太郎「今度、埋め合わせするから許してくれよ。なっ?」
淡「……埋め合わせ次第。高級ホテルのディナーとか」
照「千疋屋のメロン」
京太郎「なんでそこまで俺がしなきゃならないんですかね」
京太郎「前からの予定を優先しただけだからな」
京太郎「何もなかったら行ったけどさ……しゃーねーだろ」
淡「……いや、流石に冗談だってば」
照「モロゾフのプリンで妥協する」
誠子「ごめんな……うちのアレげな二人が」
尭深「……ごめんね?」
京太郎「いや、いいんですって」
京太郎「俺も皆さんと飲むの楽しいですし、ワン欠けなら他に誰か誘いたいと思うの……当然っすから」
誠子「あー、そう言ってくれると助かるよ」
誠子「あの二人も喜ぶし、常識人増えるしさ」
京太郎「誠子さんは喜んでくれないんで?」
誠子「普通に嬉しいよ? じゃなきゃ、誘わないから」
京太郎「ま、そっすよねー」
尭深「よく考えたら、弘世先輩が同窓会って言ってたら……」
誠子「須賀も、同窓会だよな」
京太郎「まあ、俺も皆さんと一緒であの人の後輩ですから」
尭深「……縁が、あるね」
京太郎「ありますよねー……って」
照「……」
京太郎「どうしたんすか、照さん」
照「私は後輩じゃない。同級生」
照「私も京ちゃんより年上。麻雀プロ界の先輩」
淡「私もプロとして先輩だよね! 100シーズンくらいさ!」
京太郎「……そうっすね」
京太郎「ま、それじゃ」
誠子「悪い、ありがとうな」
尭深「よかったら……今度、また」
淡「いってら、きょーたろー」
照「菫に、楽しんできてって伝えて」
京太郎「うぃーっす」
◇ ◆ ◇
京太郎「同窓会かぁ……」
京太郎(いつも顔を合わせてる人たちはともかく、中々会ってない人たちも多いからなぁ)
京太郎(誰が来るんだろ)
京太郎(弘世先輩、シロさん、辻垣内先輩は鉄板)
京太郎(江崎先輩はどうなんだろ……? 忙しいか?)
京太郎(塞さんと胡桃さんは、学部一緒だったな。懐かしい)
京太郎(塞さん、お姉さんお姉さんしてて頼りになったよなぁ……)
京太郎(それでときどき見せる天然さが、可愛いっつーか)
京太郎(ぶっちゃけ、あの腰スゲー艶かしいんだよなぁ……)
京太郎(……)
京太郎(胡桃さんも、お姉さんお姉さん“しようと”してて……微笑ましかったな)
京太郎(でもあの人、なりはちっちゃいけど……しっかりしてるから、色々頼りになったっけ)
京太郎(講義のとりやすさとかは言わないけど、過去問回してくれたもんな)
京太郎(正直、充電は困ったけど……)
京太郎(……色々、思い出すし。そのせいで、ヤバイし)
京太郎(……いや俺、ロリコンじゃないけど)
京太郎(普通におっぱい大好きだけど。いっぱいおっぱいで元気になるけど)
京太郎(いっぱいってのは、数的な意味でも……量的な意味でもな)
京太郎(それに、穏乃はロリっていうか……ちんまいだけだし)
京太郎(あいつをロリっていうのは、なんか違う気がする)
京太郎(灼……さんは、うーん)
京太郎(どうなるんだろうなぁ……)
京太郎(……ロリじゃねーよな。ロリじゃねーよ)
京太郎(だって、歳上だし……頼りになったし……)
京太郎(無愛想そうに見えて優しいし……実は色々、表情あって可愛いし)
京太郎(……いや)
京太郎(俺は、ロリコンじゃねーからな!)
京太郎(その証拠に、プールで大星相手にちゃんと勃ったから!)
京太郎(あいつの胸、正直感動したから!)
京太郎(それまでほとんど、無いのしか触ってなかったから、スゲー感動だった!)
京太郎(……)
京太郎(……相手大星なのに、なに考えてんだ、俺)
京太郎(死にたい……死なないけど)
京太郎(とにかく俺は、ロリコンじゃない)
京太郎(ロリコンじゃねーからな)
京太郎(性格重視だった、だけだからな!)
京太郎(……憩さん、来るのかな)
京太郎(あれから……俺の相談に、乗ってくれてたよな)
京太郎(自分も忙しいのにさ……)
京太郎(あの人も……エロいよなぁ)
京太郎(マッサージのとき、上裸の俺にナース服で股がってたもんな)
京太郎(スゲー、気持ちいいし……あとエロいよ)
京太郎(だって、俺の胸筋マッサージするのに……上に股がるんだぜ?)
京太郎(それで『張ってる』とか『がっしりしてる』とか)
京太郎(『固くなってる』とか『逞しい』とか『やっぱり男の子』とか!)
京太郎(正直、勃つし……襲っちまうっつーの!)
京太郎(本当、危ないって……すっごく、お世話になってる先輩じゃなかったら押し倒してるからな!)
京太郎(シロさんといい、マジ無防備な人多すぎるって……ったく)
京太郎(……あー)
京太郎(実はフラグ立ってたりして)
京太郎(大学生で、ハーレムルートとかあったりして)
京太郎(『俺がモテモテなのはどう考えても高学歴イケメンだから仕方ない!』とかあったりして)
京太郎(ははは、ははははは)
京太郎(……ははは)
京太郎(あるわけねーだろ。現実見ろ)
京太郎(あんだけ距離近いやえさんにアピールしても、顔一つ赤くしてくんないんだから……)
京太郎(俺にそんな魅力はねーんだって)
京太郎(気付けよ)
京太郎(玄さんも……俺のこと、まったく男だと見なしてないもんなぁ)
京太郎(あかん、ムラムラしてきた)
京太郎(落ち着け、俺……)
京太郎(……)
京太郎(象の頸を折るッ!)
京太郎(ハヌマーン!)
京太郎(灯火を消す!)
京太郎(……やっぱりムエタイってスゲー。改めてそう思った)
京太郎(ムエ・ボーランをものにできたのも、憩さんのおかげだよな)
京太郎(ハギヨシさんと一緒にやったとき、最低限、型は身に染み付かせたけど……)
京太郎(それ以上、強くなれると思えなかったもんな)
京太郎(憩さんが、俺の筋肉を矯正して……アドバイスしてくれたから)
京太郎(それなりに、ものにできたんだし)
京太郎(あの喧嘩のときと違って……一撃も喰らわずに)
京太郎(憧を守れたのも、憩さんのおかげだよ……ホントさ)
京太郎(……麻雀でも、優しくしてくれたらなぁ)
京太郎(……)
京太郎(いや、嘘だけど)
京太郎(強けりゃ強いほど……固けりゃ固いほど……)
京太郎(丸裸にしたくなるもんな)
京太郎(ガードが固い方が、燃えるんだよ……麻雀ってのは、さ)
京太郎(……あ)
京太郎(やえさん、呼んでみようかな?)
京太郎(あの人が3年までとはいえ、部外枠で顔を出してたんだよなー)
京太郎(そんときはあんまり話す機会はなかったけど、幾つかアドバイスくれたよなぁ)
京太郎(縁ってあるよな)
京太郎(……)
京太郎(正直、やえさんと結婚したい。かなり本気でしたい)
京太郎(付き合うっつーと、どうかは判んないけど……結婚するならやえさんだよなぁ)
京太郎(……はぁ)
京太郎(でも、まるで脈ないし……おもちないし……)
京太郎(……はぁ)
京太郎(……)
京太郎(……メールしてみよ)
京太郎(『急ですけど、T大麻雀組で同窓会っぽいのがあります』)
京太郎(『よかったら、やえさんもどうですか?』
京太郎(『来てくれると、俺は凄く嬉しいです』
京太郎(『やえさんと一緒にお酒飲みたいです。一緒に居たいです』)
京太郎(『親愛なる貴方の相棒、須賀京太郎』)
京太郎(送信)
京太郎(……)
京太郎(脈あるなら、これで来てくれるはず……)
京太郎(……)
京太郎(『どした? 酔ってんの?』)
京太郎(ひでえ……まだ素面なのに)
京太郎(あの人、俺のことなんだと思ってんだ……)
京太郎(っと)
京太郎(『まだ飲んでません。酔ってません』)
京太郎(『急ですけど、どうかなーって』)
京太郎(送信)
京太郎(『そう? じゃあ、なんか悪いことでもあった?』)
京太郎(……)
京太郎(巧みに話題に触れようとしないんだけど)
京太郎(なんか嫌われるのか? 避けられてるのか?)
京太郎(いやいや、まさかさ……)
京太郎(……)
京太郎(『ないです。安心して下さい』)
京太郎(『やえさんが来てくれたら……』)
京太郎(『悪いことどころか、もっといいことになるんだけどなー』)
京太郎(……送信)
京太郎(えっと……)
京太郎(『気遣いはありがたいけど、気にしなさんな』)
京太郎(『あんまり飲み過ぎないように』)
京太郎(『あとで後悔すんのあんたよ』
京太郎(……はぁ)
京太郎(駄目かぁ……駄目かぁ……)
京太郎(……)
京太郎(脈がないよな……知ってた)
京太郎(……い、いや)
京太郎(でもさ……これ)
京太郎(意外にあの人、人見知りする人だし……そーいうことかも)
京太郎(……)
京太郎(今回もそうだ。そうだと思いたい)
京太郎(……ふう)
京太郎(シロさんの家とか久しぶりだな)
京太郎(さっきメールでわかったけど、あの人も相変わらずだ)
京太郎(相変わらず……ってことは)
京太郎(少なくとも、ある程度は普通に自活してくれてたってことだよな)
京太郎(早く、顔が見たいぜ)
京太郎(あー、みんなに会いたい)
京太郎(先に始めてるって話だけど……)
京太郎(まだそんなにひどくなってないよな?)
京太郎(流石に)
京太郎(いくらなんでも)
京太郎(……多分)
京太郎(……きっと)
◇ ◆ ◇
菫「だからなぁ……」
菫「あのなぁ……」
白望「………………」
白望「………………ダル」
憧「ふふふ」
憧「あー、なんか熱くなってきちゃったなー」
和「……」
和「……鍋なんだから、当然です」
智葉「……須賀」
智葉「早く来てくれ。手に負えん」
ドアを開くとまず、寒いと思った。
設定温度がいかほどか。強烈に冷房が稼働している。扇風機付きで。
確か、気温が体温以下の場合は風速分、体感温度が下降して、
体温以上の場合、風速分上昇するんだよなー……なんて現実逃避してみる。
極寒の室内に、何故かテーブルの真ん中に置かれた鍋。
そして酒。
空気が籠っているせいかは判らないが、やけに酸素が薄い気がする。
いつもの如く、愚痴っぽくなった弘世菫。
その横で顔色一つ変えず――いや、少し赤くなってる――机に突っ伏す小瀬川白望。
どことなく婀娜っぽく笑う、上気した表情の新子憧。
頬を朱に染めて、半眼を向ける原村和。
頭を押さえているのは、アルコールの為じゃなかろう、いつも通りの辻垣内智葉。
カオスである。
京太郎(……シン、古市、陽介)
京太郎(助けてくれ)
大学時代つるんでた男友達の名を読んでみる。
返答はない。
シンならこう言うだろう。
「なにやってんだよ、あんたたちは!」
古市は……。
知将モードなら頼りになるけど、恥将や痴将なら頼りにならんというか、もっとカオスになる。
しかし、何かと親近感の湧く奴である。
ロリコンやホモ呼ばわりされるようになって尚更、あいつの気持ちが判る。
「須賀……。なあ、オレも混ざっていい? いや……いいですか?」
陽介は……王様ゲームを提案するかも知れない。
いや、やらないだろう。あいつノリ軽いけど察しがいいし。
「ジライヤって……つーか、地雷屋敷じゃねーか!?」
あ、声聞こえたわ。
ビバ友情。聞こえても何にもならないけど。
京太郎(ここは――)
>話なら俺が聞きますよ、弘世先輩。
>眠いなら、ベットに運びますよ。シロさん。
>おい憧、水飲むか?
>の、和……。隣いいか?
>お疲れさまです……辻垣内先輩。
>そっとしておこう。
京太郎(そっとして――)
気配を消して、ドアをゆっくりと閉めようとするが……。
智葉「――遅いぞ、須賀」
二重の意味を込めた言葉と共に、ドアに待ったをかけられた。
速い。麻雀以外でも速いよ。
京太郎(ですよねー)
この人は間がいい。そして、勘というか察知能力が凄まじい。
だから虚を突かれて、神速のごとき接近を許す。
宮永プロに正面から対抗できる――ともすれば上回れるのは――伊達じゃない。
流石、『悪魔の天敵』である。
京太郎「は、はい……」
智葉「まぁなんだ……座れ」
智葉「ゆっくり、酒でも飲んで話をしようじゃないか」
京太郎「はい……」
ガシッと、肩に置かれた手が怖い。
なんか、蜘蛛にホールドさるた気分だ。アシダカグモとかに。
あと、首筋にドス突き付けられてる気がするどすえ。
ドスだけに。なんちゃって。
……松実プロの悲鳴が聞こえた気がする。幻聴だろう。
菫「お前、こんな日でも仕事か……」
菫「熱心なのは判るが、ちゃんと休養しないとなぁ……」
説教+愚痴。
白望「京太郎」
白望「膝空けて」
ボディタッチが増える。
憧「んふふ……♪」
憧「先に、盛り上がっちゃってるわよ?」
動きがなんかエロいというか、性的。
和「遅いですよ、須賀くん」
和「折角の同窓会で、しかも前から判っているなら――」
お説教モード。
菫「休日ってのは何のためにある?」
菫「休んで、平日に頑張るためだろ?」
菫「その休日に仕事を入れてどうするんだよ、なぁ……」
京太郎「は……ひゃいぃ!?」
菫「ひゃい?」
京太郎「しっ、失……礼、噛みまっ! 噛みぃ……っ、ま、したっ……!」
菫「……そうか?」
憧「……」
憧「んふふ♪」
京太郎(足を爪先でなぞるのはやめろよ! 変な声出るだろ!)
菫「まあ、いいか……」
菫「いや、よくない。よくないぞ」
京太郎「なっ、に……がぁ……! ですっ……?」
菫「……」
菫「お前、酔ってるのか?」
京太郎「いィイ、いや、ましゃか……ッ!」
京太郎「まさか、皆と、にょ、にょむ前にぃ……!」
京太郎「しゃ、さ、酒なんひぇっ……! 飲み、ま、せんっよ!」
菫「……」
菫「いやお前、酔ってるだろ」
菫「呂律が回ってないぞ……?」
京太郎(憧ぉぉぉぉお!)
京太郎(普段のお前はどうしたんだよ! 男苦手なお前はどこにいったんだよ!)
京太郎(どうして……どうしてこんな(性的な意味で)動物みたいな真似するんだよ……!)
京太郎(や、やめっ)
菫「……須賀」
菫「あくまで酔ってないと、そう主張するのか?」
京太郎「そ、そうぅぅ……です……っ」
菫「……」
菫「……おい、シロ」
白望「既に」
菫「……速いな、おい」
菫「まあいい……須賀の体温を測れ」
白望「言われなくても」
京太郎「へっ……?」
白望「京、動かないで」
京太郎「おうふ」
京太郎(せ、せせせせ背中にぃ! 背中にぃ!)
京太郎(おも、おもおもおも……おもちがっ!)
京太郎(や、やめろ憧ぉ!? ふ、太股はらめぇ……!)
菫「……どうだ?」
白望「体温は……高いなぁ」
白望「少し、息切れしてる……?」
京太郎(背中に擦りつけないでくれぇ!)
京太郎(た、勃っちゃう……! 足と背中の刺激で勃っちまうから……!)
憧(あはっ)
憧(京太郎のこういう顔見ると……なんかゾクゾクする)
憧(可愛いわね……ふふっ♪)
憧(いつもの頼りがい京太郎が、こんな風に慌てるなんて……さ)
京太郎(~~~~~~~~~~~ッッッ)
京太郎(なんなんだよ……前に酔ったときはここまで酷くなかっただろ)
京太郎(なんなんだよぉ……!)
京太郎(助けてくれ、シン……! 古市……! 陽介……!)
京太郎(このままじゃ、俺は……ぁっ!)
シンが諦めた表情で首を振った。
古市は呆れた顔をして、親指を下に向けた。
陽介は、乾いた笑いを浮かべて後ずさった。
味方は居なかった。
菫「なあ、原村和裁判長」
菫「須賀のこれを、どう思う?」
和「なんでフルネーム呼びなんですか……?」
和「それに私は裁判官じゃありません」
菫「いいから、いいから」
菫「須賀のこれどう思う?」
和「これ、とは……?」
菫「どう見ても体調異常なところだ」
和「ああ……」
白望「京太郎……」
白望「辛いなら、暖めてあげるから」
京太郎「んひぇっ」
白望「……ん? 冷える?」
白望「よし」
京太郎「ふきゅぅぅぅう!?」
京太郎(抱きつかないで! 抱きつかないで!)
京太郎(それ逆効果っすから! 逆効果っすから!)
京太郎(やめろ、憧ぉぉぉぉお!)
京太郎(和が見てるのぉ! 先輩たちが見てるのぉ!)
京太郎(あとでなんでもするから、この手のからかいはやめてくれよぉ!)
菫「私は、体調管理はプロとしての責務だと思うんだ」
菫「万全の体調じゃないと、よいパフォーマンスを発揮できない」
菫「そりゃあ、人間どうにもならない体調ってのはある」
菫「だとしても、万全になるように努力するべきなんじゃないか?」
和「仰有る通りです」
和「学生とは違いますから、もっと社会人としての責任感を身につけないと」
和「そんな状態になるまで仕事を入れるのは、どうかと思います」
和「いえ……言語道断。プロ失格です」
菫「だろう? そう思うだろう?」
和「はい。そう思います」
京太郎(学級裁判してる場合かよぉぉお――――!)
京太郎(今っ! ここにッ! 猥褻犯がいるから!)
京太郎(現行犯逮捕しろよ! 猥褻犯逮捕しろよッ!)
京太郎(なん! でッ、だよ!)
白望「そんなに辛い?」
白望「よしよし、京太郎」
京太郎「ひゅぃぃい!?」
京太郎(後ろから手を回して、頭撫でられると……)
京太郎(ちか、近いっ……! 首筋に息かかるんだよぉ……!)
京太郎(や、やめ……助けて……)
京太郎(やえさん! 穏乃! 灼!)
京太郎(は、ハギヨシさん――――――!)
智葉「――須賀、ちょっと手伝え」
京太郎(辻垣内さん――!)
京太郎(流石9位! 流石悪魔の天敵! 流石俺の師匠!)
京太郎(もうやだ! 抱いて!)
闖入者に停止した憧の足から、その隙に逃れる。
白望についてはとりあえずおぶったまま立ち上がり、近場に下ろす。
瞬時に察して手を回してくるあたり、伊達におぶられなれてないなと思った。
菫「……おい」
菫「須賀はオフなんだぞ。休ませてやれ」
和「それに、体調が優れないようですから……」
あんたらの中ならそうなんだよな。
そう言えたら、どれだけいいだろうか。
ならなんで、息を荒らげていたと言われたら、非常に困る。
智葉「体調不良?」
智葉「こいつ、ここまで走ってきたから……それだろう」
智葉「だよな、須賀」
京太郎「はい」
京太郎「待たせたら悪いと思って、全力でカッ飛ばしてきました」
菫「……そうだったのか」
菫「それならなんで、そう言わない」
智葉「……言わせる暇をやってなかっただろ」
智葉「呼吸ぐらい、整えさせてやれ」
菫「そうか……」
菫「悪かった、須賀」
和「いや……」
和「……タクシー使えばよかったんじゃ」
京太郎「走った方が速いからな、俺の場合」
京太郎「今、休みだからって道が混雑してるし」
和「……ああ、なるほど」
和「ならまあ……判りました」
京太郎(流石、空気の流れを把握するのにかけては超々一流の辻垣内先輩だ!)
京太郎(見事にピンチを脱せたぜ!)
京太郎(……)
京太郎(……にしても)
京太郎(タクシーより速いってどう思われてんの、俺!?)
京太郎(確かにさ、路が超混んでるならフリーランできる俺の方が速いけど!)
・
・
・
京太郎「いやー、ありがとうございました」
京太郎「助かりましたよ、本当」
智葉「……それならいいが」
智葉「シロの奴は、酔うとああなるからな」
智葉「男としちゃ、気が気でないだろ」
京太郎「ええ、まあ……」
京太郎「役得っちゃ、役得なんですけどね」
智葉「……外ではそういう事言うなよ?」
京太郎「勿論っすよ!」
京太郎(憧との方は、気付かれてない――)
智葉(――とでも思っているのか。私は面倒そうだから踏み込まないんだ)
京太郎(――ぐらいは思ってるだろうな)
智葉(――なんてとこまで、須賀の方も察してるだろう)
京太郎(……うん)
智葉(……ああ)
京太郎(本当にそうかは……)
智葉(わからないけどな……)
京太郎(触れてこないってことは、つまり……)
智葉(言い出す気がないってことは、要するに……)
京太郎(この話題は出す必要がない)
智葉(わざわざ、聞く必要もない)
京太郎(こういうとこ、本当に辻垣内先輩は凄いよな)
京太郎(姉御オーラっつうのか、なんなのか)
京太郎(懐の深さを感じる)
京太郎(辻垣内先輩といると、まるで隆慶一郎作品の登場キャラになった気分だ)
京太郎(ちょうど俺、煙管持ってるし)
智葉「……須賀」
京太郎「はい、なんですか?」
智葉「吸うなら、換気扇回してキッチンか……ベランダにしろ」
京太郎「うっす」
京太郎「つーか、吸っていいんスかね?」
京太郎「今日、吸わないつもりで来ましたけど」
智葉「アルコール入ると吸いたくならないのか?」
京太郎「なりますけど……」
智葉「……なんだ?」
京太郎「いや……」
京太郎「シロさんに彼氏いたら、嫌がると思うんですよね」
京太郎「煙草らしい煙草の匂いしませんし……」
京太郎「いても、吸わないタイプじゃないっすか?」
智葉「……ああ」
京太郎「で、彼女の部屋に来て……吸わない煙草の匂いがしたら」
京太郎「大変なことになるかなーって」
智葉「なるほどな」
京太郎「だから俺、吸うにしても……基本自宅のベランダでしか吸わないんすよ」
京太郎「外では吸えないし、相手に匂い付けるわけにはいきませんし……」
智葉「あとで消臭剤じゃ駄目なのか?」
京太郎「いやー、やっぱ違和感残りますよ」
智葉(気遣いの男は流石だな)
智葉(……でも、肝心なとこでズレてるのな。須賀の奴は)
京太郎(弘世先輩は……なんていうか、開拓者)
京太郎(暗闇の荒野に、進むべき道を切り開くタイプ)
京太郎(だから、リーダー向きなんだよな)
京太郎(ただ……)
京太郎(その分、リミット以上に深入りしちまうこともあるんだ)
京太郎(『どちらか判らないから』)
京太郎(『念のため』『先に活かすために』)
京太郎(『もう一歩、踏み出しておこう』)
京太郎(……ってな具合に、さ)
京太郎(辻垣内先輩は……対応者っていうかな)
京太郎(ある出来事が押し寄せてくるのに、立ち向かって対応する人なんだよな)
京太郎(勿論、自分からもいくけど……)
京太郎(基本、調整役というか……アクティブなカウンタータイプだ)
京太郎(だから、副部長だったんだよな)
京太郎(『どちらか判らないから』)
京太郎(『念のため』『先に生きるために』)
京太郎(『ここは、踏みとどまっておこう』)
京太郎(……ってな具合で)
京太郎(弘世先輩が行きすぎるときは、辻垣内先輩がブレーキになって)
京太郎(辻垣内先輩が慎重すぎるときは、弘世先輩がアクセルになる)
京太郎(で、シロさんは二人の緩衝材っていうか……シフトレバーか?)
京太郎(本当にこの人たち、バランスいいんだよなぁ……)
京太郎(江崎先輩は、エンジンかね?)
京太郎(この人たちに、新しい刺激とか情報とか持ってきて火ぃ着けて、スタートさせる感じの)
京太郎(先輩たち、やっぱすげーよ)
智葉「……なあ」
京太郎「はい」
智葉「この間のアレ、よかったぞ」
京太郎「あれっていうと……」
智葉「『悪魔の手のひら』宮永照」
智葉「『赤き腕を持つ帝王』荒川憩」
智葉「『悪魔の天敵』辻垣内智葉」
智葉「『オカルトスレイヤー』須賀京太郎」
智葉「――あの、対局だよ」
智葉「因縁の、な」
京太郎「因縁、っすか……?」
智葉「因縁だろう?」
智葉「私と、宮永照と、憩はある年のインターハイ1・2・3位で……」
智葉「私と、憩と、須賀は麻雀部の1・2・3年だった」
京太郎「あー、なるほど」
京太郎「というか俺、改めてそんな恐ろしい卓に放り込まれたんすね」
智葉「まあ、プロならそういう事もあるだろ?」
智葉「だからこそ、見事だったな」
智葉「あの場でも絶望せず、自棄にならず、対応しようとしていたお前の撃ち方は」
京太郎「……誉められる、ほどのもんじゃないっすよ」
智葉「まあ、お前としては悔しいだろうな」
京太郎「ええ」
智葉「……」
京太郎「な、なんスか?」
京太郎「そんなに、俺のことジロジロ見ちゃって……」
京太郎「俺でも照れますよ、流石に」
智葉「……いや」
智葉「顔付き、変わったなと思ったんだよ」
京太郎「イケメンになった?」
智葉「元々、外見だけはいいだろ」
智葉「内面も悪くはないけど」
京太郎「マジっすか? どっちも悪くない?」
京太郎「俺、本気に――」
智葉「――そういう残念さを除けば、だが」
智葉「顔付きは変わったが……」
智葉「照れ隠しが下手なのは、相変わらずだったな」
京太郎「下手っすか?」
智葉「下手だな」
智葉「誉められなれてなかったんだな……と思う」
智葉「だから、道化を演じようとする」
京太郎「……」
智葉「……っと」
智葉「思ってはいたが、言うつもりはなかった」
智葉「すまん。言い過ぎた」
智葉「私も酔ってはいるんだ。悪かった」
京太郎「いいっすよ、別に」
京太郎「やっぱそういうのって、バレてるんだなー……って思っただけで」
智葉「歳上だから、多少はな」
京太郎「ま、あと……」
京太郎「俺のこと、そこまで判って貰えてるのって嬉しいっす」
京太郎「あと、流石だと思います。マジに」
智葉「……」
智葉「……本心みたいだな」
京太郎「本心っすよ。本心」
智葉「知られたことも、気にしてないな」
京太郎「気にしてないっす」
京太郎「いや、ちょっとは恥ずかしいですけどね」
京太郎「まあ、俺ってそーいう面あるよな……とは思ってるんで」
京太郎「なんつーか」
京太郎「すぐに直るものじゃないから、どうしようもないっすけど」
京太郎「それはそれで、俺なんだなーって」
智葉「……吹っ切れた顔、してるな」
京太郎「あー」
京太郎「前に麻雀教室したときに……色々あって、吹っ切れたんですよね」
京太郎「別に無理して笑う必要もないし、変に顰めっ面するのも良くないな……って」
京太郎「……社会人として必要な場面はあるけど」
京太郎「なんつーか、そんな仮面に引き摺られるのも面倒だなって」
智葉「麻雀、強くなったのもそれが理由か?」
京太郎「強くなりました?」
京太郎「正直かなり、自分的には限界極めてるとこあるんじゃないかな」
京太郎「なんて、思ってますけど……」
智葉「まあ、技術は対して変化してないが……」
智葉「思いきりと度胸が、もっと良くなったんじゃないか?」
京太郎「あとは――そうっすね」
智葉「なんだ?」
京太郎「俺は、オカルトスレイヤーなんですよ」
京太郎「身一つで、人間の……自分の限界を極めて、立ち向かう」
京太郎「実際の俺も、滅茶滅茶強くもないし、色々馬鹿だけど……」
京太郎「それでも、麻雀プロなんです。オカルトスレイヤーなんです」
京太郎「オカルトスレイヤーは……ただひとつ、オカルトを――魔法を使えるんです」
京太郎「誰かを笑顔にする魔法。誰かを勇気づける魔法。誰かの涙を拭う魔法」
京太郎「そんな魔法使いの――オカルトスレイヤーの俺が」
京太郎「俺自身が辛そうにばっかりして、笑ってなかったら……」
京太郎「なんつーか、滅茶苦茶ダッセーじゃないですか」
京太郎「俺、カッコ悪い奴になりたくないんです。格好つけ野郎なんです」
京太郎「だから、くっだらない事でウジウジ悩まないで……笑顔でいようって決めました」
智葉「……」
京太郎「ほら、笑顔ならもっと俺の格好良さが強調されるから……」
智葉「そういうのは、いい」
京太郎「アッ、ハイ」
智葉「……それ、ドラマの話じゃないのか?」
京太郎「ドラマっすけど」
京太郎「ドラマとかって、影響されるもんでしょう?」
智葉「……」
智葉「いい歳した大人がな……」
京太郎「弘世先輩」
智葉「……」
京太郎「弘世先輩」
智葉「……」
京太郎「弘世先輩」
智葉「やめてやれ。冗談でも、やめてやれ」
京太郎「うっす」
智葉「まあ、お前がそれでいいなら構わないが……」
智葉「そういう、タレント方面も無駄じゃなかったってことか」
京太郎「そうっすね」
京太郎「俺にとっての近道ってのは、遠回りだったんです」
京太郎「廻り道こそが、最短の道だったんですよ」
智葉「……そうか」
智葉「まあ、どんな心境の変化があっても別にいい」
京太郎「別にいい、って……」
京太郎「そんなどうでもいい風に、言われたら悲しいっすよ」
智葉「どうでもいいからな。理由なんて」
京太郎「……」
智葉「そう」
智葉「なんにしても――」
智葉「私の弟子が強くなって、余計いい男になったんだ」
智葉「なら、理由なんて野暮なものは聞かなくても十分だ」
智葉「“侠(おとこ)”ってのはそういうもので……」
智葉「女ってのは、侠のそういうところに、目を瞑るものだからな」
京太郎「――」
京太郎「姐さん! 一生着いてきます!」
京太郎「寧ろ着いていかせて下さい!」
智葉「断る」
京太郎「即答っすか!?」
智葉「一生なんて、着いてこなくてもいい。というか、早く横に並べ」
智葉「それで、追い越せ」
智葉「師匠ってのは、弟子に追い抜かれるのを心待ちにしてるんだ」
京太郎「んな、無茶な……」
智葉「うちの親爺と親子盃交わせって言うよりは、無茶じゃないだろう?」
京太郎「アッ、ハイ」
京太郎「こういうとこ……優しそうで手厳しいんだよなぁ」
智葉「厳しそうで優しいのは、弘世の立ち位置だからな」
智葉「私には、私のやり方がある」
京太郎「……そうっすよね」
京太郎「……ところで」
京太郎「ドラマに影響されるとか、いい大人がするもんじゃないって」
京太郎「そう言ってましたけど……」
京太郎「結構さっき、ノリノリで二つ名言ってましたよね?」
京太郎「これって、もしかして……」
智葉「ん?」
智葉「こっちの世界、そういうのが多いんだ」
智葉「“素手喧嘩(ステゴロ)”◯◯とか、“◯◯の龍”とか」
智葉「“狂犬”◯◯とか、“親分殺し”の◯◯とか、“白鞘”の◯◯とか」
智葉「“解体屋◯◯”、“自殺屋◯◯”、“押し屋◯◯”……」
智葉「だから、私は気にはならないんだよ。こういうの」
京太郎「アッハイ、ドーモ」
智葉「それじゃあ、私は戻る」
京太郎「もう少し、話しませんか?」
智葉「あの酔っ払いを放っとけるか?」
京太郎「……ああ」
京太郎「じゃあ、俺も……」
智葉「お前はこっちにいろ」
京太郎「えっ」
京太郎「俺と一緒に戻るのが恥ずかしいんですか!?」
智葉「そういう言葉を口から出せる後輩がいることの方が、恥ずかしい」
京太郎「……はい」
智葉「冗談だからな?」
京太郎「はいっ!」
智葉「……犬か、お前は」
智葉「まあ、須賀の料理を楽しみにしている奴がいるんだ」
智葉「勿論、私も含めて」
智葉「悪いと思うが、作ってくれ」
京太郎「いや! むしろありがたいっす!」
京太郎「料理してると、心が癒されますからね」
智葉「……」
智葉「今度、知り合いの板前のところに連れてってやる」
智葉「な?」
京太郎「えっ……あ、はい」
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最終更新:2013年10月07日 12:04