【所謂ひとつの腐れ縁という奴でしょうか】


京太郎「向こうは向こうで賑わってるみたいだし」

京太郎「やっぱそこらへん、流石は名実ともにトッププロだよな……なんつーか」

京太郎「俺とは違って」


 さっきのような、ハイパーな一生に一度というか、

 正直お祓い頼んだ方がいいんじゃないかなというか、

 憧にでもお祓い頼んでみるか、いやでも憧は家業継いでないんだった阿知賀で教師やってるんだっけか、

 やっぱしっかりしてそうに見えてちゃっかりというかなんというか肝心なとこで駄目だなやっぱというか、

 インシデントとかアクシデントを超越した何か恐ろしいハプニングはともかく、

 基本的に子供受けしない麻雀を京太郎は打つのである。

 プロとしてもあの二人に比べてパッとしないため、

 やはり並んでいると劣等感じみた引け目を感じないと言ったら、嘘になる。


和「何が、『俺とは違って』なんですか?」

京太郎「う、うおっ」

京太郎「和か……びっくりした」

京太郎「なんつーかさ、久しぶりだな」

和「そうですか? 大学の卒業式以来だと思いますが……」

京太郎「それでも……」

京太郎「やっぱり、久しぶりだよ」

京太郎(プロになってからの毎日、濃かったしな)

和「まあ、そう言うならそれでもいいですが」

京太郎「そういうことにしといてくれ」


和「しかし……こうして見ると」

和「改めて、須賀くんがプロになったんだと実感しますね」

和「ちょっと、信じがたいものがあります」

京太郎「だよな」

京太郎「正直、俺自身……信じられない」

和「……」

和「……いけませんね、そういうのは」

京太郎「何がだ?」

和「確かに、私は信じがたいと言いましたけど……」

和「須賀くんが、自分自身そんな風に認めるというのは」

和「人に夢を与える立派な職業なんですから、自分で否定はしないで下さい」

和「あなたに憧れてる子供たちも、いるんですよ?」

京太郎「……ああ」

京太郎「そうだよな。こういうの、良くないよな」

和「そうです」

和「良くないから、改めた方がいいかと」


京太郎「……」

和「……」

京太郎「……ぷっ」

和「……ふふっ」


京太郎「……いや、懐かしいな。こういうやりとり」

和「そうですね」

和「高校、大学と一緒でしたから……」

京太郎「学部は違ったけどな」

京太郎「でも……そう考えると、色々感慨深いよな」

和「確かに」

和「ここまで長く同級生だったのは、須賀くんが初めてじゃないでしょうか?」

和「昔はどうにも、転校しがちでしたからね」

京太郎「親御さんの仕事の関係、だったか?」

和「ええ」

和「やはり昔は子供心ながら、不満を感じてましたね」

京太郎「それでも、同じ道に行くなんてなー」

京太郎「しかも旧司法に滑り込み、在学中に合格だもんな」

和「我ながら、分からないものですね」

和「高校の頃成りたかったものとは、まるで違いますから」

京太郎「そうだよなー」

京太郎「俺もこっちになるとは、本当に、思わなかったしさ」

京太郎「……ま、高校の頃なんて、特に将来の夢もなかったけど」


和「それを聞いたら……」

和「そもそも、須賀くんが同じ大学に進んだことも驚きですね」

和「あの打ち込みようは、なりたいものがない……だなんて思えないくらいでしたから」

京太郎「あー」

京太郎「ま、将来何になるにしても……潰しが利くと思ったからだな」

京太郎「ブランド名ある大学だし」

和「……はあ」

和「就職に有利なら、他にもあるんじゃないですか?」

京太郎「言われてみたら、そうだな」

京太郎「でもなんつーかさ」

京太郎「男ならやっぱ、一番に憧れるだろ?」

京太郎「だから、どうせならって……さ」

和「……」

和「……よくそんな理由で、あれだけのモチベーションが維持できましたね」

京太郎「今でも、よく『馬鹿だ』って言われるよ」

和「そのあたり、相変わらずですね……須賀くんは」

京太郎「まあな」

京太郎「男はいつでも、少年だって言うだろ?」

和「まあ、そうですが……」

京太郎「まあ、それは冗談だとしてもさ」

京太郎「何か、本気になって打ち込めるものが欲しかったんだよ」

京太郎「そのまま……ずっと、なあなあで生きていくよりも」

京太郎「どっかで1つ、俺はこれだけ頑張ったんだって言えるものが欲しかったんだ」

京太郎「結果がどうなるにしても、やった努力は無駄にならないだろ?」

和「ええ、そうですね」


京太郎(……言えるわけねーよな)

京太郎(まさか、和と一緒の大学に行きたかったから、なんてさ)

京太郎(我ながら女々しいな……)

京太郎(辛いぜ、これ)

京太郎(今なら笑い話にできるんだろうけど……やっぱ、言えねーよ)


和「先程は相変わらずと言いましたが……」

和「まあ……高校の頃に比べて、明らかに違うところがありますね」

京太郎「えっ」

京太郎「イケメンになったとか、男として魅力的だとかか……!?」

和「……いえ、全く」

京太郎「あ、そうですか……」

京太郎「じゃあ、どこがなんだ?」

和「そうですね……」


和「誤魔化すのが――上手くなりましたね」


京太郎「――」

京太郎「……えっ」

和「私、知ってますよ?」

和「須賀くんが、どうしてあの大学に行ったのかを」

京太郎「えっ」

京太郎「マジか……?」

和「マジで」

京太郎「マジだ……?」

京太郎「どうして? どこで? いつなんだ?」

和「酔った拍子に、ですね」

和「あれは……二年生のときでしたか?」

京太郎「へ、へー」

京太郎「なんだよ……し、知ってたのかよ」

京太郎「へー」

京太郎「じゃ、じゃあ言ってくれよ」

京太郎「な、なんだよ……」

京太郎「なんか、かっこつけようとして……こう、失敗した感じになってるだろ」

京太郎「人が悪いなー……ハハハ、ハハハ」

京太郎「ハハハ……ハハハ」


京太郎(……うわ、マジかよ)

京太郎(なにやってんだよ、昔の俺)

京太郎(やべーよ。気まずいよ)

京太郎(なんだよ……マジかよ……)

京太郎(目がないから、諦めて眠らせようと思ったのに……マジかよ)

京太郎(……)

京太郎(いや、でもさ……それからも和はつるんでくれたよな?)

京太郎(脈がないなら、普通そんな相手とは疎遠になるよな?)

京太郎(しかも、わざわざその話題に踏み込んだよな?)

京太郎(……これ、ワンチャンあるんじゃね?)


和「正直、あれを言われてから……須賀くんを見る目が変わりましたね」

京太郎「ど、どんな風に……?」

和「そうですね……」

和「悪くは――元々悪く思ってはいませんでしたけど――思わなくなりましたね」

京太郎「ま、マジか!?」

和「え、ええ……」

京太郎(来たよな? これ、来てるよな!?)


和「――もっと麻雀が強くなりたい。麻雀の楽しさを教えたい。皆に夢を与えたい」


和「でしたよね?」

京太郎「……は」

京太郎「はい……?」

和「わざわざ、あの大学の教育学部を目指したのは……」

和「確か、牌符整理中に『これだ』と思った選手が進学していて」

和「自分がもっと強くなるためには、その人に師事するしかない」

和「確か、そう言っていたか……と」

京太郎「……あ、ああ」

京太郎「そうだな……うん」

和「それから、確か……」


和「『俺は強くないし、特に目標なく麻雀打ってたけど』」

和「『世の中には憧や和みたいな、目標を持ってる奴もいる』」

和「『そういう奴らが、絶対いる』」

和「『清澄は指導者がいなかった。誰かがそれをやってた』」

和「『俺たちのときはそれで上手くいったけど、やっぱり誰かの負担が大きいだろ?』」

和「『そういうのを軽減するっていうか……そういう頑張ってる奴らの力になりたいんだ』」

和「『選手として強くなれなかったけど、コーチとしてなら……』」

和「『自己評価が高いかもしれないけど、分析力なら結構あると思うんだ』」

和「『俺は強くないし、強い願いもなかったけど……』」

和「『そういうのがある奴のこと、少しは守ってやれるんじゃないかな』」

和「『いや……守るとか、何様って感じだけどさ』」

和「『ま……だからって、俺が弱くちゃ話にならないから』」

和「『強さに近付く努力は止めないよ。だから、先輩たちに会いにこの大学に来た』」


和「……でしたね。こんな感じでしたか、と」


和「それから……ですかね」

和「須賀くんを、尊敬し始めました」

和「小瀬川先輩の介護をしてデレデレしてたり」

和「突如麻雀から離れて、珍妙な事をしだしたりしても」

和「一見軽そうで調子に乗りやすい人だとしても……」

和「ちゃんと、心の内には熱い思いがあるんだ……って」

和「酔った勢いとはいえ……」

和「あそこまで本気に語れる言葉が、嘘のわけありませんから」


京太郎(――ああ)

京太郎(そうなのか……そうなんだよな)

京太郎(和の事を諦めきれずに、どっか期待してたのも本当)

京太郎(でも……)

京太郎(部長のこと、部活のこと、自分自身のこと……)

京太郎(弘世先輩のこと、辻垣内先輩のこと、小走先輩のこと……)

京太郎(和のこと、憧のこと、穏乃のこと……)

京太郎(そういうの――全部含めて)

京太郎(あの大学に、進みたいと思ったんだな)

京太郎(……昔のことだけど)

京太郎(あの頃の俺、そんな風に大学決めてたんだなぁ)

京太郎(自分が忘れてるのを、人が覚えてるのって……複雑だな)


和「ですから……」

和「改めて、おめでとうございます。須賀くん」

和「少し形は違うと言っても、あなたの夢は叶いました」

和「夢なんてないって言ってましたけど……須賀くんのそれは、立派な夢です」

和「貴方は誰かの夢を守るために、自分自身の生き方を夢にしました」

和「それを……叶えました」

和「だから、おめでとうございます」

京太郎「和……」


和「あなたは本当に、尊敬できる――最高の友人です」

和「まさか、異性にこんな友人ができるなんて……思いませんでした」

和「これからもずっと、応援してます」

和「だから……ずっと、友人関係を続けて下さいね?」


京太郎(ですよねー)

京太郎(ずっとお友達ですよねー)


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【原村和の好感度が上昇しました!】

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最終更新:2013年09月19日 23:42