2010年9月17~19日に神戸大学で行われる日本認知科学会第27回大会において
オノ友メンバーを中心としたワークショップ「オノマトペと音象徴」が
開催されます。

WS「オノマトペと音象徴」 会場: K403

企画:
平田佐智子(神戸大学)
秋田喜美(日本学術振興会、東京大学・カリフォルニア大学バークレー校)

話題提供者:
篠原和子(東京農工大学)発表資料:
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佐治伸郎(慶應義塾大学)発表資料:
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平田佐智子(神戸大学)
イントロ:
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発表資料:
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宇野良子(東京農工大学)
秋田喜美(日本学術振興会、東京大学・カリフォルニア大学バークレー校)
発表資料:
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井上加寿子(関西国際大学)

指定討論者:
今井むつみ(慶應義塾大学)



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当日頂いたご質問の回答を現在掲載中です。
(ご質問の非公開を希望されていた方への回答及び指定討論者へのご質問は申し訳ございませんが反映されません。ご了承願います。)
また、掲載許可を頂けた方に関しては、発表時のPDFをアップロードしました。




Q:
各オノマトペ語彙が持つ多義性(度合い)をまとめたデータベースは存在しますか?当方機械学習によるオノマトペ(擬音語)の自動認識を研究しているので、実験方法の一つとして検討したいです。(つまり多義性の度合いで認識器の正解率が変動するか)

A from 井上:
例えば、角岡(2007)は、Kakehi, Tamori and Schourup(編)のDictionary of Iconic Expressions in Japanese(Mouton de Gruyter, 1996) の収録語彙 1622 語からオノマトペのデータベースを作成し、擬音(声)語・擬態語の数量的分析を行っています。これによると、データベースの全1622 語のうち、擬音(声)語または擬態語のいずれかの用法しかもたない単独用法に分類されるものが全体の約8 割を占めており、擬音語用法・擬態語用法・比喩的用法のうち、擬音語・擬態語用法、擬音語・比喩的用法、擬態語・比喩的用法のうち2 用法あるいは3用法をもつ多義語は、1622語中、341語(21.02%)であるとされています。
また、patya-patya なら「水音」、kira-kira なら「光」を表すといったように、語義がただ一つしか定義されていないものが、擬音語単独用法では498 語中478 語(95.98%)、擬態語単独用法では783 語中619 語(79.05%)と高い比率を示しているという結果が提示されていることから、多義性の度合いによって受け手の認識の度合いに影響が出る可能性は十分に考えられると思います。

角岡賢一(2007)『日本語オノマトペ語彙における形態的・音韻的体系性について』東京:くろしお出版.

感想:
人工知能における言語獲得では、抽象性・共起性の高いオノマトペはツール・メディアとして非常に有用だと思います。そういう意味で今日の仮説検証的お話が、今後の研究に役立ちそうです。



Q:
安定性はウネウネ<ザラザラであることはわかったのですが、「つまり、ウネウネのほうがザラザラに比べて、身体的イメージと強く結びついている」とつながることが理解不足で、疑問が残っています。

A from 宇野:
この点について発表では説明が十分ではありませんでした。確かに「意味的安定性」と「身体的イメージとの結びつきの強さ」の関係は自明ではありません。発表の元となったOgai, Uno & Ikegami (2009)他の一連の研究では触覚のオノマトペの中には、より主体の能動的な運動と結びついた(=より身体的イメージと強く結びついた)ものがあるのではないか、という仮説を立てています。そして、能動的な運動との結びつきの強さを判定する基準として、ノイズへの頑健性、意味的安定性、手の運動の関与などがあると考え、実験を行っています。もしオノマトペの触覚を再現する際に、より能動的な運動を伴うなら、他者が再現した触覚を触っただけでは、それがどのオノマトペを表しているのか分かりにくいだろうと思われます。つまり意味的安定性は低くなります。このような文脈で、オノマトペの意味的安定性と身体的イメージの結びつきの関係を論じました。



Q:
擬態語の方が擬情語よりも意味的安定性が強いというのはとても理解がしやすいと思うのですが、その安定性はどこからくるのでしょうか。類像性、あるいは特定の場面での使用度などと切り分けることができるのでしょうか。
擬態語の中で感情が含まれている表現(e.g. とぼとぼ)はより、場面設定が容易で、意味的安定性が高いと思ったのですが・・。

A from 宇野:
意味的安定性と類像性は関係するものの、切り分けられると思います。発表で触れた例に関しては、擬態語と擬情語を比べると、意味的安定性は擬態語の方が高くなります。しかし、(通常の指摘とは異なり)類像性は必ずしも擬態語の方が高いとは言えないと思います。擬情語は内面のことを表すため、擬態語に比べて他者とイメージを確認しにくいので、高い意味的安定性を持つことは難しいですが、自分にとっての内面の感覚とそれを表すオノマトペの音の間の類似性が(擬態語に比べて)低いとは限らないのではないでしょうか。場面設定の容易さは、より直接的に、意味的安定性に関係するものの、やはり一致はしないと思います。(「場面」で何を意味するのかにもよりますが)場面設定は「とぼとぼ」の方が容易ですが、動きの再現に関しては、「ぴょんぴょん」の方が容易ではないでしょうか。意味的安定性は、他者とのイメージの共有のしやすさですから、心の理論や能動的知覚が関わる場合に低くなる、と考えています。



Q:
開口度、舌の位置、子音の種類(有声/無声)から生まれる口の中の空間が影響していることは間違いないと思います。どのようなタスクを被験者に呈示されたのか、わからなかったのですが、外国語であるという以外に何も情報がない中では、共鳴空間を頼りに判断するしかないのかなとは思います。(大小を)例えば、呈示する語を少し特定してみると結果は変わるでしょうか?
「今から聞く(読む)語は外国語で動物です/テーブルです。大きさを評定して下さい。」などと特定すると、結果は変化するのでしょうか。それで変化しないのならば、より先生が仰った点が強いということが言えるのかなと思いました。

A from 篠原:
なるほど。Sapirと同様の方法ですね。その方法も可能だと思います。ただしたとえば「動物」とした場合に、大きさのイメージだけでなく、「動物らしさ」にかかわる他の属性なども評価に影響してくる可能性も考えられ、それをできるだけ排除する仕掛けが必要になるかと思います。「大きい動物のほうが、毛が多そうだから」といった、意図と違う連想で評価されるのを防ぐ工夫が必要かもしれません。
もうひとつは、今回はfeatureの数が多かったので、クロスして対等に比較するには、40語すべてを同じ条件の設問にする必要がありました。「大きい〜小さい」にかかわる形容詞、という設定ですべて同等にしましたが、もしモノの名前であるとした場合、一部の設問を「動物」、他の設問を「テーブル」などとすると、条件が等しくならないので比較の際に困難になりそうです。40問すべて「動物です」というのは不自然そうですし、そのあたりを不自然にならないように統制できれば、ご指摘の方法が使えるかと思います。追実験できればベストですね。
今回は、音声提示をせずに、ローマ字表記をした刺激語の下に、選択肢を示して○をつけてもらいました。
ibib
1.very small 2. relatively small 3. relatively large 4. very large
のような設問40問です。



Q:
音象徴・オノマトペは遺伝子によるものと育つ環境によるものとあるのでしょうか?またその割合は?
言語の能力は女性の方が高いと言われていますが、音象徴・オノマトペの理解や産出に男女差はあるのでしょうか?

A from 佐治:
まず前者については,緒論あるかと思います.例えば今回のWSにおける篠原先生のご発表は音象徴の基盤を身体論に基づいて説明しようとするものですが,これは自身の身体的経験と音を結びつけるという意味では学習されるものと考えられます.ただその学習を可能にするのは, Ramachandran & Hubbard(2001)が指摘するような(ある程度生得的な)ヒトの神経科学的な基盤なのかもしれません.このように考えると,このあたりの問題には,音象徴一般の問題を越えて,「何かを生得的といったときそれはどこまでを生得と捉えるのか」という,生得論を論じること自体の難しさあるのだと思います.
後者に関しては,言語能力に対する性差はbiologicalな要因によるものとして論じられることが多いかと思います.この観点からではないのですが,genderによる音象徴の感受の違いを調査したものとしてはGordon & Heath(1998)などが挙げられるようです(私は知らなかったのですが発表者の秋田さんが教えてくれました).女性の持つ母音の発音バイアス(high-front寄り)の影響で,女性はhigh-front=小さいといった音象徴を感じ易いといった内容のようです.ただ,そもそもなぜ女性の母音がなぜhigh-front寄りの傾向があるのかというのかはgenderという観点からだけでは説明がつかない部分も多いと思います.言語とか認知に関わる性差を論じるにはこのあたりの問題(socialな要因なのかbiologicalな要因なのか)が常に付きまとうので,結果が出ても解釈がし難いのが難しいところだと思います.
Ramachandran, V. S., & Hubbard, E. M. (2001). Synaesthesia - a window into perception, thought, and language. Journal of Consciousness Studies, 8, 3-34.
Gordon, M., and Heath, J., (1998). Sex, Soun Symbolism, and Sociolinguistics. Current Anthropology, Vol. 39, No.4, pp. 421-449.



Q:
中国語、韓国語などの母語話者に、提示された刺激語を発声させたとき、子音の有声性などの音声的特徴は実験者の意図通りになっているのでしょうか。

A from 篠原:
大変重要なご指摘です。中国語、韓国語では子音の有声性が弁別的でないということで、話者の直感のなかにその区別がなく、帯気性などに置き換えられて回答されてしまった可能性はあります。これが今回の実験の最大の欠点でした。今後、帯気性などもコントロールした音声刺激で実験するなど、確認してゆくことが必要だと考えています。また、有声性が弁別的であるような他の複数の言語で確認してゆくことも必要だと思います。ご指摘ありがとうございました。



Q:
音象徴において音声学的な基盤(口腔内の空間の大きさなど)があるという立場からの発表でしたが、例えば開口度が大きい音を聞いたときに、大きさを想起するといったような例があるということについては十分理解できます。
ただ、開口度など生理学的な要因と、脳内で想起されるイメージのような物との関係についての検証は避けられないのではないでしょうか?
おそらく今井先生の関心などが、こうしたデータの検証にとって有効なのだと思うのですが・・。篠原先生は以上のようなことについて、どのようにお考えでしょうか?
複数の言語ですでに実験もされているので、そうした結果から、生理学的要因と脳内でのイメージの関係も予測することは可能だと思いますが・・。

A from 篠原:
はい、大きなものを見たときに無意識に口を開けてしまうといった反応がある、ということは指摘されているようですが、脳内でそれがどのような連合によって起きるのかは、脳神経科学の研究をみていかなくてはならないと思います。単に開口度の高い母音を「聞いた」だけで、大きいモノを見たときと同様の脳内反応が生じる、といった結果が得られれば、強いサポートになると思います。これについては私自身は専門でなく、検証ができませんので、今後、他分野の専門家の研究を調べていけたらと思います。



Q:
有声/無声は境界線が(聴覚的に)明確ですが、明度は白~(グレー)~黒と無段階的に連続します。白と黒という対比が明らかなペアで考えると、有声:暗い(黒)、無声:明るい(白)と区別しやすいのですが、あくまでも対比の中で認識される(相対的な認識)であって、絶対的な意味で関係づけられるものか・・わからずにおります。
また、対立ペアの組み合わせにもよるのでは?(子音の音声学的特徴の影響がかなりあるのでは?)例えば、[m] vs [m(の下に丸印)]でも同じことが言えるのでしょうか?

A from 平田:
ありがとうございます。私自身もこれらの音声と色の認識の相対性・絶対性について考えておりました。明度は仰るとおり連続的に捉えることができ、刺激としての操作も比較的簡単なのですが、有声/無声を連続的に扱うのは結構難しいです。現在一つの案として、有声子音・無声子音を含む音声の合成による中間音声を11段階程度で作成して、明度との一致が連続的に起きるのか、カテゴリカルに起きるのかを検討しています。また新しいデータが得られ次第ご報告したいと思っています。
 また、対立ペアの組み合わせの影響はあると思います。今回かなり対比がはっきりしたペアを用いているため一致傾向がわかりやすいですが、別のペアでは異なる結果になる可能性は十分にあります。音声学的特徴に関してですが、例に挙げて頂いた[m]と[m(の下に○)]の場合も、母語とする言語の音韻体系内にそれらの音声の区別があるならば、何らかの音韻象徴性を示すのではないかと考えます。



Q:
擬態語と擬情語がやや重なっている物があるように思います。(cf. とぼとぼ、すたすた 「てくてく」には感じませんが)オノマトペの分類の方法について、分類しにくいと考えられませんでしょうか?「転用」というとらえ方だけで解決するものかどうか・・興味があります。

A from 宇野:
ご指摘の通り、擬態語と擬情語は重なりがあり、分類しにくいです。また「転用」に限らないと思います。「とぼとぼ」の場合のように元々両方の要素が含まれる場合もあります。擬態語と擬情語の境界については、コーパスの分析からその実態をつかむことを目指して、現在研究をすすめています。



Q:
「拡張」と「逸脱」(ぎらぎらなく?)の区別は?

A from 井上:
例えば、「ガタガタ」を例にとると、「物がガタガタ鳴る」のような特定の音の描写である聴覚表現から、「ガタガタの机」のような視覚的様態を描写する表現、「ガタガタ文句を言う」、「社内はガタガタだ」のような比喩表現といったように、多くの場合、あるオノマトペ表現に関しいくつかの用法がみられますが、そのそれぞれが独立した用法でなく、意味的に相互に関連がみられることから、「拡張」と表現しました。
ご質問の「ぎらぎら」についても同様に、「鳥がぎらぎら啼いている」という表現を、「太陽がぎらぎら照りつける」といった慣習的表現からの拡張例として相互に関連のあるものとしてとらえていますが、この場合、前者は後者に比べ新奇性が高く、先にみた「ガタガタ」の例のように慣習の度合いが高くなく用法が定着していないことから、同様の拡張過程ととらえながらも区別をもたせるために本発表においては「逸脱」と表現しました。



Q:
performanceの影響もあるのでは?(音声学的なリアリティ)
e.g. /t/ voice onset timeの差によって、イメージも違うのかもしれません。
音象徴のカテゴリー(音素・音韻素性との関係)をどのように設定するか。あまり単純化もしにくいように思います。

A from 篠原:
ご指摘のように、同じ/t/でも英語の場合と日本語の場合ではVOTに差があるようですし、直感的にもエネルギー量が違うように感じますし、その違いがイメージに効いてくる可能性はあるかもしれません。日本語話者同士でも、ラッパーの発音などは英語に近い感じがしますし、そういったperformanceの違いの影響は、オープンな課題だと思います。今後研究がなされると面白いと思います。



Q:
擬音語>擬態語>擬情語の順で類像性が高いというのは感覚的にはわかるのですが、(擬音語はともかく)擬情語と比べた場合の擬態語の類像性の高さはどこから生じるのでしょうか?言い換えれば、多くの場合音を伴わないはずの運動や状態から何を抽出して、擬態語という音情報に変換しているのでしょうか?
ある程度はmagnitudeの側面からの説明ができると思いますが、それだけでは説明がつかない部分も多いと思います。(また、擬情語についても、何を元に音情報に変換しているのかも教えて頂けましたら幸いです。)

A from 秋田:
ごもっともかつ重大なご指摘ありがとうございます。実は、宇野・佐治両氏のお話にもありましたが、本ワークショップをきっかけとして、類像性階層(特に「擬態語>擬情語」の部分)の問い直しが具体化しそうなところです。元々、「擬態語>擬情語」という階層はオノマトペの形態統語的実現の通言語的一般化を目的としていました。ですので、それが別のロジックで説明できるのであれば、類像性にこだわる必然性はありません。
 擬情語は、基本的に統語的・意味的に擬音語や擬態語を基盤としています。例えば、「どきどき」は鼓動の音の描写を手掛かりにしているし、「うじうじ」は躊躇から来る特定の身体動作(俯きなど)を想起すると思われます。その点から見ても、擬情語の類像性が必ずしも他のオノマトペより低いとは断言できそうにありません。
 この点は、「各オノマトペが描写事象のどこにスポットライトを当てているか」に関するご質問とも関連するはずです。同様の観察は擬態語などに対しても可能で、例えば、同じ“歩き方”でも、「てくてく」や「とぼとぼ」は歩調に、「うろうろ」や「ちょろちょろ」は移動の軌道の形状に着目した表現です。こうした事実を捉えるには、現在行われているよりも精緻な意味記述が必要になってくると思います。



Q:
意味的安定性と多様度のお話において、親密度(熟知度)との関連はあるのでしょうか?

A from 宇野:
意味的安定性が親密度と関係するかどうかは興味深い問題だと思います。その点を考えたいということもあって、新造オノマトペの研究をしています。新造オノマトペの中でも、最初から音象徴によりイメージが皆に共有される(意味的安定性が高い)ものと、意味的安定性が最初は低く、段々に高くなっているものがあるだろうと予想されます。



Q:
オノマトペの多義性というのは、意味や使われ方や、修飾・被修飾あるいは擬態語・擬音語・擬情語の分類、モダリティをその時々に同時に持つという点で面白い、あるいは使いやすい、あるいは表現しやすいという特徴があるように思います。ただそれぞれの働き方の割合が違って使われるということなのでしょうか?

A from 井上:
日本語オノマトペは、1)語彙数が豊富であること、2)創造性が高いこと、3)音象徴性と関連が深いことが特徴です。1)の語彙数の豊富さは、2)の創造性が高い語彙群であることと関連しているといえますが、あらゆる既存のオノマトペ表現を新奇の文脈において創造的に用いることが可能であるというわけではありません。また、3)の音象徴との関連については、既存のオノマトペ表現だけでなく、新奇につくり出されるオノマトペ表現においても音象徴性が多く観察されることから、1)、2)との関連がうかがえますが、すべてのオノマトペ表現に音象徴が認められるということを意味しているわけではありません。このように、オノマトペのもつこれらの諸特徴は別個のカテゴリーを成すものではなく、互いに複雑に関連するものであるといえます。
 これと同様に、一口にオノマトペの多義性といっても、個々のオノマトペに関する擬音語・擬声語・擬態語・擬情語等の下位分類や、multimodalあるいはcrossmodalな性質、用いられる文脈などによってさまざまに特徴づけられるものであるため、ご指摘のように、それぞれが相互に複雑に作用した結果であるととらえています。



Q:
オノマトペっていくつくらいあるのでしょうか?

A from 井上:
諸説ありますが、一説には、日本語では、オノマトペ表現のバリエーションも含めれば1000 種を超えるといわれています(飯島2004: 24)。オノマトペを扱う辞典類も近年多く刊行されており、Dictionary of Iconic Expressions in Japanese(Mouton de Gruyter、約3500 語収録)や、『暮らしのことば:擬音・擬態語活用辞典』(講談社、約2000 語収録)をはじめ、最も近刊の『日本語オノマトペ辞典』(小学館)では、約4700 語もの擬音語・擬声語・擬態語表現が収録されていることからも、日本語におけるオノマトペ表現の豊富さがうかがえます。
また、英語との比較においては、英語オノマトペは約1500 種しかないのに対し、日本語オノマトペは約2500 種あるとするものや(村田2001: 58)、日本語では英語の3 倍以上ものオノマトペ的表現が存在するとするものがみられます(Crystal 1987)。いずれにせよ、日本語は英語をはじめとする他言語と比較してもオノマトペが非常に豊富な言語であるといえます。

Crystal, David. (1987). The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: Cambridge University Press.
飯島英一(2004)『日本の猫は副詞で鳴く,イギリスの猫は動詞で鳴く』東京:朱鳥社.
村田忠男(2001)「笛はなぜ『ひゃらぴー』と鳴らないのか:日英AB型オノマトペの音声条件を中心に」『言語』30(9): 58-63.



Q:
音声学的基盤により音象徴の解釈が普遍的であるとの篠原先生のご発表、大変興味深かったです。このような音声学的な説明は音象徴全ての説明するような強力なものなのでしょうか?

A from 篠原:
全てを説明するものではないだろうと予測しています。少なくとも、音声学的に説明が容易なものと、そうでないものがあるだろうと思います。というのは、音象徴のうち、音の要素は音声素性やもっと細かい音声学的要素に分解可能ですが、相方の、イメージのほうは、身体的ではない場合もあるからです。たとえば極端な場合、「美しい」「愛らしい」といったイメージが音象徴的にありそうだ、という場合、そのようなイメージは、音声学的要因に直接つながりません。主観的・抽象的・価値評価的な意味が入っているからです。音象徴で普遍的にみられる反応には、身体的イメージに帰着する故に音声学的説明ができるものと、身体的イメージよりも抽象的・非知覚的になるため音声学的説明が完全にはしにくいもの、が含まれるだろうと考えています。



Q:
deafの方は、擬音語を理解できるのでしょうか?同様にautismの方は、擬情語を理解できるのでしょうか?

A from 秋田:
前者については以下のような研究がありますが、未解決の課題だと思います。
Eberhardt, Margarete. 1940. A study of phonetic symbolism of deaf children. Psychological Monograph 52: 23-42.
古田倭文男. 1965. 「ろう児の擬態語について」Annual Convention of the Japanese Association of Educational Psychology 7: 454-455. http://ci.nii.ac.jp/naid/110001878795

A from 佐治:
deafについてですが,荒田他(2009)によると、deafの方でも,例えば文理解テストなどすると,聴者と同じようにオノマトペ語彙を運用することはできるようです.但し,fMRIによりその際の脳活動を見ると、deafの方のオノマトペ理解は健常者のそれと比べて動詞や副詞などの一般語彙と近い賦活を見せるようです.このことは,deafの方は語彙としてオノマトペ学習しそれを運用することはできても,オノマトペの持つ感覚的な情報までは獲得できていない可能性を示しています.
Autismについてですが,最近Lindsay, and Ramachandran (2008)が,autismの方が(擬情語ではないですが)音象徴一般の理解がし難いという実験結果を報告しています.ただこれは相手の心情を読み取るのが難しいという心の理論的な説明ではなく,autismの諸症状(模倣や意図読み取りや言語獲得の困難さ等を含めた)の根底にミラーニューロンを含むMSI(multi sensory integration) systemの不全があり,これが音象徴の理解を阻害しているのではないかというものです. もともとAutisum自体が程度差もあり,その障害の種類も意図の読み取りに留まらず多岐に渡るので,擬情語理解のみと結びつけて論じることは難しいのかもしれません.

荒田真実子、今井むつみ、奥田次郎、岡田浩之、松田哲也(2008). 擬態語の意味処理
に関わる神経基盤―fMRIによる検討―, 日本認知科学会 第25回大会 同志社大学.
Lindsay M. Oberman and Vilayanur S. Ramachandran, 2008. Preliminary evidence for deficits in multisensory integration in autism spectrum disorders; The mirror neuron hypothesis. Social Neuroscience, 3, 348-355



Q:
評価対象が、bdgz, ptksでしたが、他の音、例えばm, nなどに関する評価はなぜ行わなかったのか?

A from 篠原:
今回は、有声/無声の区別のある阻害音のうち、日本語に両方があるものを選択しました。[m], [n] をはじめ、いわゆる sonorant(共鳴音)はすべて有声(ただし音韻論的にはunderspecifiedで、有声音として認識されない)で、これらは多くの言語で有声音しかなく、それの無声のペアは、きわめて稀な言語でしか実現されていません。[m]の無声音は存在すると言いますが、一般にみるIPAの一覧表にも載っていないほど稀で、記号で書いても被験者には理解できないと思います。そこで今回は有声/無声の区別のある阻害音のうち日本語に両方があるものを選択しましたが、硬口蓋破擦音([ch]など)は除外しました。これは有声・無声の区別があるものの、日本語ではいわゆる拗音で、「幼い、可愛い、拙い」といった特殊な音象徴的ニュアンスをもつことがわかっているので、イメージの混合を防ぐ意味で排除しました。
 ご質問の主旨が、もし、[m, n]の対立にあるような、[PLACE] (labial vs. coronal)の対立が音象徴にかかわるかどうかを調べないのか、ということでしたら、今回は子音の[PLACE]の違いによる「大きさ」のイメージについての明確な先行研究がみあたらなかったため含めませんでした。labial vs. coronal の対立([b, p, m] vs. [d, t, n] )で音象徴的イメージの対立がみられるかは、今後調べてみる余地があると思います。
 また、[+nasal] vs. [-nasal] に音象徴的対立があるか、というのも可能性としては十分ありうると思いますが、先行研究では、[+nasal] vs. [-nasal]より大きな区分である、obstruent vs. sonorant の違いでの音象徴的イメージの違いがむしろ多く指摘されています。有名な takete vs. malumaも、obstruent vs. sonorant で解釈されていると思います。この対立は、「硬さ vs. 柔らかさ」「角っぽさ vs. 丸さ」などのイメージにむすびついていることは十分確認されていますが、「大きさ」については私たちはまだわかっていません。発音上の呼気の激しさ・エネルギー・口腔筋肉の緊張などの点からは obstruentの方がより「大きい」(激しい)ことが予測されますが、口腔のふくらみなどの点からは sonorantのほうが「大きい」かもしれないことを予測してしまうので、むずかしいです。



Q:
秋田さんのご発表にあった「オノマトペは具体的なframeと結びつく」ということと、私が認知言語学会で発表した「オノマトペは具体的な場面を想起する」という実験結果に整合性があると思い、うれしかったです。この結果は、オノマトペの特殊性を示していて、オノマトペは語のレベルで見ると、言語個別性につながっていくのかなぁと思いました。

A from 秋田:
同感です。宇野先生の「意味的安定性」や井上さんの「multimodal性」等とも相容れる話だと思います。

A from 井上:
同じく同感です。このことは、オノマトペの動詞包含性(とぼとぼ>歩く、にっこり>笑う、のように、オノマトペが特定の動詞と強く結び付くこと)とも関連が深いと思われます。これに関し、例えば、筧(2001: 30)では、「日本語では動詞が中立的なものでなくても、『一方依存』的に、オノマトペが動詞を想定させ、動詞の意味を包含(include)するということがよく起こる」こと、また、田守(2002: 32)では、「オノマトペの持つ具体的な描写力のお陰で、省略されている動詞が容易に復元できる」ことについてふれられています。(井上)

筧壽雄(2001)「“変身”するオノマトペ」『言語』30: .28-37
田守育啓(2002)『オノマトペ:擬音・擬態語を楽しむ』東京:岩波書店.

Q:
その一方で、音声学レベルで見ると「オノマトペを構成する一つ一つの音」は普遍性がある、ということとの関係が面白い(mystery)と思います。
また、疑問としては、「一つ一つの音に意味がある=情報量が多い」ということと、「具体的場面と結びつく」と言うことは一貫性のあることなのか、矛盾をはらんでいるのか。

A from 秋田:
個々の音/音声素性の音象徴的“意味”は、今井先生も指摘されていたように、かなり漠然としたものだと想定され、その分普遍性を有しうるものだと思われます。それが、語としての意味を持つオノマトペの中で実現することで、ある程度具体的な“意味”と結び付いているように感じられるのではないでしょうか。また、構成音の音象徴(≒音声・音韻レベルの類像性)が、我々の経験的知識とともに、オノマトペによるvividで具体的な事象の喚起を支えている、という筋書きを思い描いています。







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最終更新:2014年05月13日 11:02