"ゲノフェーファ"

対訳



あらすじ

  • トリアーの司教ヒルドゥフスが、イスラム教徒との戦いを呼びかけ、領主ジークフリートは国王カール・マルテルの命を受けて、十字軍を率いて戦場に行くことになる。
  • ジークフリート伯は、結婚したばかりの若い妻ゲノフェーファが心細がるだろうと、若い従者のゴーロを妻の傍に残す。密かにゲノフェーファを慕うゴーロは、いっそ戦場に行けたらと嘆く。
  • ジークフリート伯が別れの口づけをして出発すると、ゲノフェーファは気を失ってしまい、ゴーロはこっそりゲノフェーファに口づけしてしまう。
  • それを以前ゴーロの乳母をしていたマルガレータが見ていた。マルガレータは魔法を使うというので、この城から追放されたのである。マルガレータはゴーロに近づき、ゴーロの想いを叶えてあげようと、手助けを申し出る。

訳者より

  • 中世の伝説をもとに、ヘッベルとティークの戯曲を参考に、シューマンが自分で台本を書いて、1847〜49年に作曲、1850年に初演された。シューマンの唯一のオペラとして知られ、序曲はたまに演奏されることもあるが、オペラとして上演されるのは極めて稀である。
  • 中世のヨーロッパが舞台で、国を脅かすものとの戦いを国王が呼びかけるという始まり方、魔法を使う女が出て来て主人公たちを操ろうとする、その手段として不義密通をでっち上げる・・・と、同時代に作曲されたワーグナーの「ローエングリン」(1846〜48年作曲)との類似点も多い。
  • ワーグナーに聴き馴れた耳で聴いてしまうと、横恋慕するゴーロにしろ、魔法を使うマルガレータにしろ、押しが弱くてすぐに後悔してしまい、悪の魅力に乏しい。ゲノフェーファはひたすら耐えて神に救いを求めるだけだし、ジークフリート伯は周りの動きに気が付かない愚鈍な男に見える。が、悪人になりきれなかったり、善人すぎて自分の愚かさに気がつかないところが、むしろ人間的なのかもしれない。派手ではないが、シューマンの美しいメロディが、微妙な心の動きを表現している。
  • 初演の時に、当時の有名な音楽評論家ハンスリックが、この作品の特徴を次のように述べている。シューマンならではロマン主義的な題材(すなわち中世のドイツが舞台で、深いキリスト教信仰、神秘的な奇跡があり、加えて民謡を思わせる音楽もある)を選んでいるが、それは舞台で上演するには最も難しいものである、と。ハンスリックはワーグナーの音楽に批判的であったが、それでもワーグナーの演劇的な才能は評価していた。
  • 低俗な音楽は書きたくないというシューマンの品の良さが、オペラという劇作品を書くにあたってはちょっと弱みになってしまっているという感もある。
  • 第2幕でゲノフェーファとゴーロによって歌われる二重唱は“少年の魔法の角笛”がもとになっている。“少年の魔法の角笛”というとマーラーが有名だが、グリム兄弟が童話を採集したのと同じように、アルニムとブレンターノがドイツ各地の民謡を集めた詩集のことで、メンデルスゾーンやブラームスも作曲している。

Creative Commons License
この日本語テキストは、
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
の下でライセンスされています。
@ Aiko Oshio

Blogs on ゲノフェーファ

最終更新:2018年09月01日 23:51