(22)359 『2人目の裏切者』

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&br() 【問題編】 「道重さん、治癒しても無駄です。新垣さんは・・・もう死んでる」 いつもと変わらぬ喫茶リゾナントの昼下がり。 そこに顔を揃えているのもいつもの9人。 きれいに清掃された落ち着きのある店内。 窓から差し込む午後の柔らかな陽の光。 店主の高橋愛が花瓶に活けた薄紫の花。 カウンターに9つ並んだ各自のパーソナルカラーのマグカップ・・・ そこにあるのはいつもと何も変わらない光景。 そう、たった一つを除いては。 それは、朱に染まり喫茶リゾナントの床に倒れ臥す新垣里沙。 そして・・・ 「新垣さんを殺した犯人は・・・この中にいる」     *   *   * 「この中に犯人が!?」「嘘デス!」「何でそんなことが言えると?」 騒然とする皆の視線は、自然とその衝撃的な台詞を口にした久住小春に集まる。 小春は皆の視線を受け止めながら、人差し指と中指を立てると静かに言った。 「この中に裏切者が2人いた。新垣さんと・・・もう1人」 「裏切者?それは・・・」 「そう、敵のスパイです。小春にはその存在が“視”えた。それが誰かまでは分からなかったけど・・・」 「その1人がガキさんだったって言うの?」 「うん、きっとそうだったんだと思います。そしてもう1人の裏切者が新垣さんを殺した」 「ドウシテダ?」 「多分・・・新垣さんがこちらに寄りすぎてしまったからだと思う」 「やけんもう1人がガキさんを殺したと?」 「そう考えるしかないんじゃないかと思います」 言いながら、小春は床にうつ伏せで倒れている里沙の傍らに屈み込む。 「それで・・・そのもう1人の裏切者がこの8人の中にいるっていうことなの?」 「・・・残念だし信じたくないけど・・・“視”えたものはどうしようもないです」 「でも、それが誰なんかは分からんとやろ?じゃあどうやって・・・」 言いかけた田中れいなの言葉を軽く手で遮ると、小春はその手を翻して里沙の方を指差した。 「新垣さんの最後のメッセージ。そこに犯人が・・・裏切者が示されています」 小春の人差し指が指し示す先へ、皆の視線が移動する。 そこにあったのは・・・ 「れい・・・・・・な?まさか・・・」 全員の視線がれいなに集中する。 「え?ちが・・・違うと!れいなは何も知らんと!」 どこか過剰なリアクションで上ずった声を出すれいなに、亀井絵里が冷たい視線を向けながら言う。 「じゃあそれは何なの?」 絵里が指したのは、倒れ臥した里沙の指先だった。 正確に言えば、里沙の指先が床に描いた赤い文字だった。 『レ』『イ』 そう読める2つの“血文字”が、そして書く途中で力尽きたのであろう3文字目が『、』とだけ記されている。 「『レイナ』・・・ってガキさんは書きたかったんじゃないの?つまり、犯人の名前を」 「ち、違うけん!れいな何も知らんと!」 「じゃあコノ文字はドウいう意味デスか田中!」 「白状シロ!田中!」 「・・・・・・とにかくれいなやないけん!れいなは何も知らん!」 「ふ~ん、あくまでシラを切るんだ」 「どうしよっか?体に訊いてみる?」 「絵里、それなんかエロい」 「ワタシ、とてモよい拷問のやり方知ってるデス!」 「リンリン、それリアルに怖い」 「ちょ・・・・・・なん好き勝手言いよると!」 困惑した顔で助けを求めるれいなの視線を受け、小春は微かにうなずくと皆の顔を見渡して再度宣言した。 「新垣さんを殺した犯人は・・・この中にいる」     *   *   * 【挑戦状】 はーい、リゾスレの皆さ~ん!久住小春でぇーす! いつもあたたかい応援あっりがとうございまーす! そんなわけで新垣さんが殺されちゃいましたー。エーン。 そして犯人は残りの8人の中にいまっす。ドヒェー! しかし残念ながらこれは悲しい事実なのです。シクシク。 そこで!ジャジャーン! ミラクル美少女名探偵・久住小春からリゾスレの皆さんへの挑戦状でぇーっす!バーン! ズバリ、新垣さんを殺した犯人・・・すなわち『2人目の裏切者』は誰でしょー? ヒントは“血文字”、店内のある物、そして・・・“2人の裏切者”。 久住小春でしたー!イェイイェイ!     *   *   * (※作者注:お分かりかとは思いますが、あまり真面目に推理しないでください) 【解答編】 「そもそも新垣さんは何を書こうとしてたんだと思いますか?」 再度“血文字”を指差した後、皆の顔を見渡しながら小春は静かにそう問いかけた。 「『レイナ』―つまり田中さんの名前を書こうとしてたんでしょうか。・・・小春は違うと思う」 「なんで?」 「だってそれじゃ、もし万一犯人が戻ってきてそれを見たりしたら消されちゃうでしょ?」 「まあそれはそうだろうけど・・・じゃあガキさんは何て書こうとしてたの?」 その絵里の問いに、小春は一呼吸置いて答える。 「『レインボー』・・・新垣さんはそう書きたかったんだよ」 「『レインボー』って・・・虹のこと?何で?」 「虹と言えば7色ですよね。そう聞いて何かピンと来ません?」 「7色?そう言われても・・・あ!7番目に仲間になった人・・・!?」 「ううん、それじゃちょっと根拠として弱いし、何より作者さんによって仲間になった順番の設定は違うから」 「は?後ろの方のどういう意味?」 「・・・それは置いとこう。さて、虹が7色なのはさっき言ったとおりだけど・・・その7色全部言える?」 皆の顔を見渡して小春がそう言うと、リンリンが手を挙げる。 「ハイ!リンリンバッチリ言えマス!赤、橙、黄色、緑、青、藍色、そしテ紫デス!」 「大正解。・・・じゃあ、あそこに並んでるマグカップの色は?」 「ハイ!黄色、黄緑色、橙、ピンク、青、赤・・・紫・・・藍色・・・緑・・・デス・・・」 リンリンが全ての色を言い終わった頃には、全員の視線は一人の人物に集まっていた。 「そう。『2人目の裏切者』―つまり新垣さんを殺した犯人は・・・・・・道重さんだよ」 皆の視線の先には、静かな微笑みを浮かべる道重さゆみの姿があった。 「新垣さんは『2人目の裏切者』を示すために、『レインボー』すなわち『虹』にそのメッセージを託したんです」 黙って微笑むさゆみに向かい、小春は静かに語りかける。 「虹は7色、そしてここにいるのは9人・・・つまり9色。あそこに並んでいるマグカップと同じです」 皆の視線が再びカウンターに置かれたマグカップへと向かう。 「マグカップは9色。そこから虹を構成している7色・・・7人のパーソナルカラーを取り除きます」 赤 ―― 久住小春 橙 ―― 亀井絵里 黄 ―― 高橋愛 緑 ―― リンリン 青 ―― 田中れいな 藍 ―― ジュンジュン 紫 ―― 光井愛佳 「残ったのは・・・」 「黄緑のガキさんとピンクのさゆみ・・・ってことだね」 小さくため息を吐きながら、さゆみがそう言葉を継ぐ。 「はい。つまり新垣さんはこう言いたかったんです。『虹の7色から外れた2人が裏切者』――そしてそれが被害者と・・・犯人であると」 小春が重々しくそう告げると、さゆみは口角を吊り上げるようにしてニヤリと笑った。 「バレちゃったんなら仕方ないね。・・・そう、さゆみがもう一人の裏切者。そして――ガキさんを殺した犯人。見事な推理ね、名探偵さん」 不気味な微笑みを湛えながら悠然と腕組みして立つさゆみは、いつもとはまるで別人のようだった―― 「はいはいはい終了!しゅーりょー!もういいでしょ?十分でしょ?はいはい見事な推理おめでとう!」 ケチャップをポタポタと滴らせながら、新垣里沙はグッタリした顔でヤケクソのように手を叩いた。 「もー!ガキさん!まだもうちょっと死んでてほしいの!ここからがさゆみの見せ場なの!」 「今回はアンタの番じゃないでしょうが!大体最初はさゆみ犯人役なんてやなのやなのとか言ってたくせに!」 「やってみたら案外ハマり役だったの」 「ちょっと道重さん!小春より目立たないでくださいよ!これは小春の探偵が主役なんですから!」 「ジュンジュンモ犯人役ヤリタイ!光井、今度ハジュンジュン犯人デ話書ケ」 「ちょ、また書かなあかんの?っていうか何で愛佳がせなあかんの?久住さんも自分が探偵やりたいんやったら自分で書いてくださいよ!」 「だって小春殺人事件の話なんて書いたことないもん」 「愛佳かってありませんよそんなん!」 「だけド光井サン、これデもう一回書きマシタから今度ハ初めてじゃないデス」 「リンリンもややこしいこと言わんでええの!なんか愛佳が罰ゲーム受けてるみたいやんか・・・」 そう、これは罰ゲーム。 メンバー1人につき1つ、新垣里沙はどんな要求も聞かなければならない。 そういう罰ゲーム。 今回のこれは久住小春の要求――「小春一回探偵役やってみたいんですよ!クールな美少女探偵!もちろん被害者役は新垣さんで☆」――の結果。 想像以上に皆ノリノリで(愛と愛佳以外)、「やっぱ倒れてるだけじゃ気分出ない」なんて理由で大量のケチャップまでかけられた。 だがまあ確かに、ケチャップをかけられて寝ていただけの自分の方が、無理やり台本を書かせられた光井愛佳よりはまだしもマシなのかもしれない。 ・・・そうとでも思うしかない。 「大体みんな全然台本の台詞とちゃうこと好き勝手に喋り始めるし・・・あかんわ・・・なんかめっちゃストレス溜まるわ・・・」 ・・・しかしその分、愛佳の鬱憤が自分の番のときにこちらに向かうかもしれないと考えれば、そんなことも言っていられないような気がする。 とっくに水に流したはずの「スパイ」という過去をシナリオに組み込んでいる辺り、意外に執念深い性格が見え隠れしているとも言える。 今回、愛佳が自身に一言も台詞を割り振らずに傍観していたのも逆に怖い。 一体どんな思いを胸にこの寸劇に参加していたのだろうか・・・・・・ 「っていうか愛ちゃん結局一言もしゃべらんやったやん?台詞いくつかあったのに」 「ごめんのー・・・でもこんなん苦手やー。みんなよーあんな風に自然な演技ができるのー」 「れいなはせっかくの見せ場でしどろもどろだったけどねー」 「な、なん言うと?絵里やって大したことなかったけんね!」 「あー!ひどい!れいなよりは絵里の方が女優向きだよ!小春はどう思う!?」 「っていうかみんな小春より目立とうとしないでくださいよ!田中さんと亀井さんはもうご飯おごってもらったんでしょ?」 「あーカメと田中っちのはシンプルで助かったわー。みんな2人を見習ってほしいよ。もう他の人はこんなややこしいのしないでよ!?」 「だってさ。ねえ、愛ちゃんはガキさんに何してもらうの?」 「へ?あーし?あーしは・・・そ、そやのー・・・・・・ふ・・・・・・」 「・・・いや愛ちゃん?何で顔赤らめてるわけ?何させる気なの?ねえ?」 「ワタシ、とてモよい拷問のやり方知ってるデス。それニしマス」 「ちょ、リンリン?真顔で言うのはやめようね?・・・・・・冗談だよね?」 「ジュンジュンハ犯人役絶対ヤリマス!」 「そんな断固たる決心いらないから!もういいから!一回でいいからこんなの!」 「・・・・・・また台本書かなあかんの?愛佳が?試験も近いのに?どうせまた台本無視すんのに?何で?なあ・・・何で?」 「み、みっつぃー・・・?怖いから!なんか怖いから!っていうかごめん!なんかごめん!」 「さゆみは2人きりでデートしてもらおうかなー」 「そ、そんなんダメやよ!2人きりはマズイやよ!」 「愛ちゃんは関係ないじゃん。さゆみがガキさんとデートするんだもん」 「・・・ほやったらあーしもついて行くやよ!」 「ダメだよ。さゆみとガキさん2人だけでいいことするんだもんねー」 「い、いいことってなんやよ!?何する気やよ!?」 「ふふっ。ひみつー」 「・・・・・・あーしには精神感応と瞬間移動があるやよ。それを忘れんでのー」 「あ、愛ちゃん愛ちゃん。声が低いから。目がマジだから。怖いから。怖いからぁー」 新垣里沙の声が、虚しく昼下がりの店内にこだまする。 今日も世界は・・・そして喫茶リゾナントは平和だ。 ---- ---- ----

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