少年は泣きじゃくりながら、廃墟と化している町を歩いていた。
彼の名前はゴロウ。野球帽を被り、短パンを履いた、非常に活発な少年である。
夢は将来ポケモンチャンピオンとポケモンバトルをして、見事勝利して、殿堂入りをすることだった。
夢の為に彼はトレーナーを見つけたら(問答無用で)勝負を仕掛けて、ポケモンの経験値を高め、
どうやればバトルに勝つことが出来るかを、毎日夜更かししてまで考える程の、努力家であった。
今日この日、彼がこの殺し合いの場に呼ばれていなければ、彼は順当にトレーナーとしての質を高めていけただろう。
呼ばれていなければ、の話である。

「嫌だ……僕、殺し合いなんかしたくないよ……」

ゴロウは殺し合いなどしたくなかった。
活発な少年であるゴロウだったが、それと同時に彼は臆病でもある。
自分ではとても無理だし、かといってポケモンを使って誰かを殺すなどは以ての外だった。
どうすることもできない少年は、泣き続けることしかできない。

「どうすればいいの……?」

泣きながらも必死にゴロウは考えたが、結論を出すことができない。
誰かに助けを求めたいが、もしそれが悪い人で殺し合いに乗っていたら自分はどうすることもできない。
かといって自身から何かを起こそうものならば、争いは免れられない。
どう考えても最悪な結末しか連想できなかった。
一層、涙が止め処なく溢れてくる。

「うううっ……う? な、何? この寒気……」

突如としてゴロウは全身に寒気を感じた。
ぶるっと身震いをしたゴロウは、歩くのを止めて辺りをキョロキョロと見回す。
しかしながら周りには誰も存在しない。
再び全身に寒気を感じる。

「……後ろ?」

何かしらの気配を後ろから感じ、正体を確かめようとゴロウは後ろに振り向いた。
果たしてそこには、ゴロウが感じた通り何かがゴロウの後ろに現れていた。
紫色の体色に赤く吊りあがった目、この特徴的な姿は――

「――ゲンガー?」

そこにいたのは紛れも無いゲンガーであった。
だが、違和感を感じた。
ゴロウはデイバッグに入っているモンスターボールを確認しておらず、どんなモンスターが入っているか把握していない。
ポケモンがモンスターボールから勝手に出てきた可能性もあるが、デイバッグから出していないのでありえない。

――ならば、どうしてここにゲンガーがいる?

「どうして、だッ!?」

心の中で考えていた疑問を口に出した瞬間、ゲンガーが襲い掛かってきた。
すんでのところで避けることができたが、一歩間違えたら自身の命は無かっただろう。
しかし息つく暇もなくゲンガーは再び襲い掛かってくる。

「ひ、いっ……!」

ゴロウはもう一度ゲンガーの攻撃をかわし、素早く立ち上がって逃げるべく走り出す。
後ろを振り返れば、やはりゲンガーは追いかけてくる。
どうやら自分は殺し合いに乗った人間に見つかってしまったようだ。

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

デイバッグに入っているモンスターボールを取り出して迎撃する、という考えはゴロウの中にはない。
彼の頭の中は、捕まらないようにひたすら逃げるという思考で埋め尽くされていた。
捕まれば死ぬのは明白である。まだゴロウは死にたくなかった。

「こっちだ! 早く!」

前方から男の人の声が聞こえたのでゴロウは顔を上げると、視界に男の人の姿が写った。
現れた男性は大きく手を振り、そこの民家へ逃げ込むようにジェスチャーをした後に、自身もその民家に入っていった。
助かった……ゴロウは本心からそう思った。
残された力を振り絞り、ゴロウは全力で駆け抜け民家へと入った。
全力疾走で疲れ果てたゴロウは、息も絶え絶えに地面に倒れこむ。
全身から汗が吹き出し、不快な湿気を作り出す。

「危ないところだったね……大丈夫だった?」
「はあっ、はあっ、は、はい……はぁっ、何とか……」

先程助けてくれたし、優しい声音で自身を労わってくれる辺り、この人は殺し合いに乗った人ではないとゴロウは判断した。
お礼を言いながら、その顔を見ようとゴロウは目を開ける。
広がるのは、真っ暗闇であった。

「え、これ――

言葉を最後まで発することなく、ゴロウの意識は消え去る。
同時にゴロウの命の灯火が消えた瞬間でもあった。

【たんぱんこぞうのゴロウ 死亡確認】
【残り38人】



   ■   ■   ■


手に持っていたポケモン――ヌケニンを離し、モンスターボールの中に戻してポケットにしまう。
程なくして自身に支給されたもう一匹のポケモン、ゲンガーが民家内に入ってきた。
ゲンガーに労いの言葉をかけ、ヌケニンと同じくボールの中に戻してポケットの中にしまう。
戻し終わった後に男がしたのは、死体が持つバッグに入っている二つのボールの回収。

「うし。戦力確保っと。確認確認……」

最初に戦力の確保をしたいと思っていた男にとって、泣きじゃくりながら歩く少年は絶好のカモである。
この少年なら無理にバトルを挑まなくとも、頭を使えば戦わずして勝てるだろうと男は内心で確信していた。
ゲンガーを使って襲わせて、自分は少年を助ける振りをして家に誘い出し、ヌケニンの背中の隙間を見せる。
計画は面白いように成功した。苦痛を伴わず殺してやったので、それだけは少年のとっての救いだっただろう。
殺した側の身勝手な後付に過ぎないが、自分はそのほうがマシだと思っている。

「調整は……こんなモンでいいか」

次に自分がするべきことは誰かしら協力できそうな人を見つけて、その人と一緒に行動することだ。
恐らくこの殺し合いに反発を覚えている人間は、少なからずとも存在するだろう。
自分も殺し合いに対抗するというスタンスで行けば、必ずとは言えないが同行を許可してくれるはず。
そのような人間となるたけ早く遭遇し、自身の生存率を高めることが現在の最優先事項と白衣の男は定める。
その次の方針は、参加者の人数が減ってきてから考えればよい。

そうではない所謂殺し合いに乗った人間に遭遇したならば、どうするべきか。
自身より強いポケモントレーナーはいるだろうし、戦力を確保したといえども万が一の可能性は充分に考えられる。
よって戦闘は極力避けるようにしなければならない。

さて、今後の方針を固めたところでそろそろ動かなければならない。
白衣の男、けんきゅういんのケンジは対主催の人間を探すべく民家を出た。

【B-6/廃墟の町/一日目/日中】

【けんきゅういんのケンジ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式×5(自身2、ゴロウ3)
[行動方針]生き残り重視
1:対主催の人間を見つけて協力する
2:戦闘は極力避ける
3:その後の方針は参加者の人数が減ってから考える

◆【ヌケニン/Lv50】
とくせい:ふしぎなまもり
もちもの:きあいのタスキ
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
つるぎのまい
あやしいひかり
シャドークロー
シザークロス

◆【ゲンガー/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:素早さ、特攻特化
《もっているわざ》
マジカルシャイン
おにび
シャドーボール
みちづれ

◆【????/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????

◆【????/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????

【たんぱんこぞうのゴロウ 死亡確認】
[ステータス]:--
[バッグ]:基本支給品一式
[行動方針]:--



第5話 Nのプラズマ団 第6話 よわき 第7話 Rebellion

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最終更新:2014年11月17日 20:00