彼には昔、大切な人がいた。

彼はカントー地方のトキワシティで生まれ育った。
自然に囲まれたその環境から順調に成長し立派な男の姿。
持ち味である明るさと元気の良さを活かし地元でも人気者となっていた。
トキワシティのジムリーダーのような強くてかっこいい男に憧れ追い続けている。

彼は人々を守る職業――現代ではポケモンレンジャーと呼ばれる人になった。
当時ではポケモンと自然、人との共存を守るために活動を行っていた。
その時カントー地方ではロケット団と呼ばれる悪の組織が世界相手に暗躍中。
彼もロケット団と戦うために、世界の平和を守るために、新人ながら奮戦することになる。

彼がロケット団と初めて交戦したのはオツキミ山、ニビとハナダを結ぶ洞窟。

ロケット団のしたっぱはズバットやコラッタなどを多用、彼の敵ではない。
したっぱレベルに負ける程軟な男ではなく、相棒のストライクとサンダースと共に蹴散らす。
新人と云えどポケモンレンジャーに相応しい戦闘力で彼らを次々と逮捕していく。

そこで運命とも感じる出会いを果たす。

戦った相手の中に一人の女がいた。
一言で云えば一目惚れであり、ミドルの茶髪、彼は悪の組織に恋をした。

故に判断が遅れ、ポケモンバトルには勝利するが取り逃がしてしまう。
これが最初の出会いであり、次の出会いがシオンタウンでの遭遇になる。

ロケット団はポケモンタワーを占領していた。
彼はロケット団がガラガラを始めとするポケモン達を殺している瞬間を見ていた。
虐殺だ、ポケモン相手にポケモンではなく武力や兵器で襲うその姿に怒りが込み上げる。
許せない、許せない、許す筈がない。

弾丸のように突撃するが謎の存在に阻まれ先に進めない。
後に判明するが、その謎の存在こそが殺されたガラガラの霊であった。

進めなくて捕らえる者も捕えることが出来ないため、彼は行き場のない怒りを抱えたまま一度離脱する。


シオンタウンで心を無にして時間の流れを感じていると墓の方から泣いている女の声がした。
――この声は知っている、この声はロケット団の――あの人の声だ。

直感と激動に身を任せ墓に走って行く、考えれば中学生のような動機だろう。
墓の目の前でしゃがみながら泣いている女性、服こそ私服だが間違いない、ロケット団の女だった。
ロケット団がシオンタウンに来ているなら彼女も居ると考えるのが普通である。
しかし何故私服なのか、潜入任務なのか、非番なのかそもそも非番の制度はあるのか。
そんなこと考えもせずに気付けば声を掛けていた。

『どうして泣いてんだ……泣いているのですか』

『このポケモンに罪はないの……でも悲しい事があって死んじゃった』









「パロロワ団……聞いたこともない組織だな」


彼――トモヒサはパロロワ団なる組織に拉致され実験を強要されていた。
バトルロワイアル、簡単に云えば殺し合いであり悪の行いである。
巻き込まれる理由も見当たらない、そもそもパロロワ団とは何なのか。
ロケット団は解散したと聞いており、ここ最近ではアクア団も鎮静している筈だ。
悪の組織とは少なからず情報が流れ込んで来る物だがパロロワ団はノーマークもいいとこだ。

「巻き込まれる理由……まぁあるっちゃあ、あんのか」

癖悪そうに頭を搔きながらボヤく。
巻き込まれる理由は見当もしない、と言いたい所だが思い当たる節がある。

その前に彼の過去話の続きをしよう。

シオンタウンで出会い会話を済ませる、それだけだった。
連絡先を交換するわけでもない、ただ会話しただけ。
彼も自分の中の正義に頭を下げながら目の前の女を捕らえなかった。
今日だけ、今回限り――理由はどうであれ悪を見逃した瞬間である。
収穫、響きは悪いが女性の名前はアヤカ、そう言っていた。

この時トモヒサはとある少年と出会っていた。
その少年はラッタを亡くし悲しい瞳をしていたが、前を見つめ今を生きていた。


次にトモヒサとアヤカが出会ったのはシルフカンパニーのとある一室。
ワープする床に悩んでいたら偶然再会してしまった。運命を呪うべきか祝うべきか。
ここでアヤカもシオンタウンで会話した男性が敵であるポケモンレンジャーと認識する。
本来ならば戦うべきだが、此処は運命共同体、協力してワープする床を攻略していった。

彼らが辿り着いた時には既に物事は全て終了、しかし憧れていた存在であるトキワのジムリーダー。
サカキがロケット団のボスと知り、驚愕、世界の闇に触れているようだった。
憧れの存在と倒すべき敵、二つの像に葛藤するも隣にいる彼女は励ましてくれた。
その言葉に心が温まる、しかし彼女も倒す存在、何方にせよ彼の悩みは終わらない。

だが転機が訪れた。ロケット団の解散だ。
首領であるサカキが突然の解散宣言をし、世界は歓喜と驚愕の声で溢れ返った。
このタイミングを逃さないとレンジャー部隊カントー支部はタマムシにあるアジトへと総突入を決行。
統率が不安定なロケット団を次々へと牢屋へぶち込み快進撃を成し遂げる。

『この際トモヒサはアヤカを逃し同棲を始める』

正義の欠片も無い行いだ、言うなれば不純。子供には見せられない大人の闇。
それでも彼らは笑顔で生活していた、境遇こそ違うがお互いにお互いを信用し心を開く。
元々シオンタウンでの会話から両者悪いように認識はしておらず、トキワの隅で仲良く生活していた。

彼女の本来のポケモンであるカビゴンとラッキーは今でも印象に残っている程懐いてくれた。

だが見方によれば悪に染まった彼に天誅が下される。

ポケモンレンジャーの業務を終え帰宅しようとしていたトモヒサ。
家に帰ると迎えてくれるのは愛しの存在ではなく仕事の同僚や上司だ、しかも数は多い。
疑問に頭を占拠される、考えてみると誕生日でも無ければ記念日でもない。
性格とは裏腹に恋愛では奥手だったためヤることもヤっていない、ならば――。

『ロケット団の残党を捕まえるとは良い働きをしてくれた』

目の前が突然真っ白になった。









『サンダースッ! 十万ボル――ッあぁ!!』


全てが後手に回っていた。
相棒に命令を下すも、ベトベトンに押し潰され、姿が見えなくなっている。
自分も後ろから腕を回され、自由を奪われた、ダメだ、ヤメロ、ヤメテクレ。

このままではアヤカは牢屋に入れられるだろう、それが当然である。
元々ロケット団の残党なのだから牢屋に入っていない方が可怪しい話である。





「あー、こんな首輪まで着けてよぉ……」

殺し合いの会場に巻き込まれナーバスだ、おまけに首輪。生きている心地がしない。

彼のその後を話す。

ロケット団を匿っていた罪からホウエン地方に飛ばされた、
本来なら牢屋、或いは極刑だったが今までの功績から情けを掛けられた。
カントーの紅い弾丸、そう呼ばれていた彼に対する悲しい情け。

その後、トクサネシティで事務職に就く。
デスクワークに追われる内に彼の正義に燃える心は静まっていく。
初めの頃はトレジャーハンターとも交流があったが、今では零、気力がない。


センターに見学に来た人に対し、ロケットが打ち上げられた回数を伝える。


それが彼の日課であり、逆に言えばそれしか日常の変化を変える出来事がない。

ロケットを見ていると嘗て戦った悪の組織を思い出す。

聞けばアヤカは脱走しロケット団に戻ったそうだ。
ラジオ塔の一件から姿は確認されていないらしい。
ポケギアに連絡を入れても返答はない、生きているか死んでいるかも解らない。
その事実が彼を生の執着から遠ざけ、今では牙が抜け、死んだ目をしている。


「悪の組織ならぶっ潰す……昔の俺ならそう言った」


今は違う。
燃える理由はあるが、彼の心に火は点かない。
流されているだけの生活を送っていたため、再び悪と向き合っても何も感じない。
しかし死ぬのは嫌だ、戦う、でも面倒だ――全てが全て、面倒に感じてしまう。

大方、自分の罪が今更になって執行されるのだろう。

何故自分が巻き込まれなくてはいけないのか。
誰も答えてくれない疑問を抱きながら彼は一人静かに大地を蹴っ飛ばす。

目の前で人が襲われていたら、助けるだろう。
目の前で人が傷付いていたら、助けるだろう。
目の前で人が死んでいたら――。

「まぁ悪を倒すのに異論はない……けど、テンションが上がらない」

かつてポケモンレンジャーとして世界の為に生きていた青年は腐っていた。


【けんきゅういんのトモヒサ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]流れに任せて……流れに任せて。
1:流れに任せる。
2:悪を倒すのに文句はないが、燃えない。

※場所は後続の方にお任せします。


◆【トリデプス/Lv50】
とくせい:がんじょう
もちもの:???
能力値:体力、防御寄り
《もっているわざ》
れいとうビーム
まもる
メタルバースト
あなをほる




◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????

第17話 ときわたり 第18話 貴女がいなくてAndante 第19話 ねがいごと

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最終更新:2014年11月19日 06:01