―――――――フルーラの家

夜中だと言うのに先ほどからの雑音……騒音の方が正しい。
その音で、フルーラは目覚めてしまった。

「も~うるさいな……深夜だって言うのになんなのよ、ねぇ!?」
隣に居るはずだった人間が居ない、傍においてあったはずのバッグも消えていた。
そして自分の足元には、一匹のポケモン、リーフィアが居た。
「ねぇ?あいつどこ行ったの?」
リーフィアは声を聞いたと同時に、外に向かって走り始めた。

「そっちね?なんでこんな夜中に出歩いているんだろう?」
リーフィアに付いていき、どんどんと月が照らす夜道を歩く。
この近くで最近、つい昨日襲われたばかりで恐怖を感じた。
しかしそれ以上に、なにか向こうに行かないといけないという気持ちを感じる。

やがて一つの人影が見えた。

「フィ、フィレンテさん!?どうしたんですかその怪我?」
その青年は頭から出血していて、服が乱れている。

『……グレイシアァァァ』
突然狂ったような大声で叫びだす、すると影から一匹のポケモンが出てきた。
グレイシア……リーフィアと同じく、イーブイの進化系である。
「ハァ……ハァ……これで僕の計画は完成する、最後だ……リーフィアを始末しろ!!」
グレイシアは冷凍ビームを放ってくる、リーフィアをそれを紙一重で回避した。
「な、なにがあったんですか!?」
「……君がそれを知る必要は無い」
いつものフィレンテでは無い、フルーラはそれを悟った。





「シャドーボール!」
黒い球体を発射してくる、それを回避するが防御ばかりでは勝つことが出来ない。

「リ、リーフィアえーと……リーフブレード」
リーフィアが使える技を思い出し、適当に命じる。
リーフィアは指示通りその技を使用する、しかしその技は命中することは無い。
「近づけてはならない、冷凍ビーム!」
リーフィアの足元に冷凍ビームを発射する、周囲がの地面が凍りついた。

「これでリーフィアは容易に近づくことはできなくなりました……」
「なんでフィレンテさんが私を襲ってくるの!?」
「………僕が宝玉を盗んだ犯人だからですよ!!」
信じられない答えが返ってきた……というよりも今でも信じられない。

『嘘……嘘!?……なんで、なんでフィレンテさんが……』

「僕の夢は、伝説のポケモンを従えることなんですよ、そのためにはあなたが必要なのです
 氷の宝玉はその餌ですよ、証拠ならあなたと、あの忌まわしいトレーナーとの秘密が証明してくれますよ」
フルーラは思い出す、あいつと自分の秘密を……"氷の宝玉"が盗まれたということ
そして祭りの夜……フィレンテが言った"氷の宝玉"というワードを

「……あいつは!?あいつはどこ行ったの!?」
「……ククク…アッハハハハハハ、もうそろそろ逝きましたかね?」
「え……?どういうこと…?」
「僕が殺しておきました……あなたに絶望を与えるのに、最も効果的だからです」





「そして最後の砦はリーフィア、こいつを倒せば、僕の夢は完成する……水の波動!」
リング状の水の波動がリーフィアでは無く、フルーラに向けて発射される。
リーフィアはそれを体で受けとめる。
効果いまひとつと言えど、育て上げられたグレイシアの水の波動は脅威だ。
それにもう一つ水の波動には意味がある。
体が濡れていれば当然、寒気を感じやすくなる。

「まだまだ行きますよ!シャドーボール」
シャドーボールをフルーラに向けて発射する、またもやリーフィアはそれを体で受け止めた。
主人の命令"俺の代わりにフルーラを護っていてくれ"を果たすために……
フルーラは指示を出せる状態ではない、リーフィアは一人でグレイシアに立ち向かっていった。

燕返しを使い一気に距離を縮めようとする、しかし足場が悪く転倒してしまった。

「今です、冷凍ビーム!」
冷凍ビームがリーフィアに直撃した、弱点の攻撃を受け凍結した。
「あ……あ……」
自分の主人の命令を聞き、戦っていた最後の護り手、リーフィアも氷状態となり、フルーラを護る者は居ない。
「これで終わりです」

シュゥゥゥゥゥゥゥゥ
突然氷状態だったリーフィアの氷が溶け始める、リーフィアの体は暖かい光に包まれていた。
凍り付いていた地面も、どんどんと溶けていく。
「こ、この光は太陽光!?馬鹿な、今は夜のはずだ!?」
フルーラには思い当たる節があった、寝る前に話していた。
"熱い岩"太陽のエネルギーを溜め込んでおける岩、これの効果が発動したのだ。





「そんなこけ脅しは、僕には通じない!冷凍ビーム」
グレイシアは冷凍ビームの発射準備をする、しかしそこにリーフィアのリーフブレードがヒットした。
遠距離であれば、圧倒的にグレイシアが有利だが、近距離ではリーフィアの方が有利だ。

リーフィアはフルーラの足元に戻る、絶望的だったフルーラに一筋の光が見え始めた。

「僕をよくもここまでコケにしてくれたね、許さない、絶対に許さんぞぉぉ!」
グレイシアはしばらく力を溜め込む、そして吹雪を放った。
「リーフィアの最後の技……私の予想が当たっていれば勝てる…」
リーフィアの覚えている技は、リーフブレード、シザークロス、燕返し……全て太陽には関係の無い技。
そして草タイプの技でも高威力であり、太陽が関係ある技など一つしかない。

『ソーラービーム!!』

リーフィアは体の中に溜め込んでいた、太陽のエネルギーを全て放出した。
それは一本の巨大な光の筋となり、吹雪を打ち破っりグレイシアに直撃した。
その光はそのままフィレンテにも直撃し、数m先に吹っ飛ばされた。





『グガァァァァァァァァアアアアアアア』

耳をつんざく悲鳴を立てながら、フィレンテは倒れた。
グレイシアはもう動かない……戦闘不能だ。
フィレンテの方は……死んではいないようだ。
ただ動くことも、目を開けることも無かった。
それにも関わらず、リーフィアが威嚇の体勢を取っている。

突然フィレンテは、目を開けた。

リーフィアの目つきが、一層と鋭くなる。
フィレンテの手持ちは全滅している。
仮にフルーラに襲い掛かったとしても、勝ち目は無いだろう。

「ま、まだ諦めてくれないんですか!?」

フルーラは涙声で、フィレンテに叫びかける。
それに対し、フィレンテはこう返した。

「僕の負けです……」





フルーラは一瞬、時が止まったかのような錯覚に陥った。
そして自分の耳を疑った

「僕の負けです……あなた方を完全に見くびってました」
二度目の返答で、自分の耳を疑うのをやめた。

「あのトレーナーの実力も素晴らしかったですよ、彼のボスゴドラがメタルバーストを使った時点で
 僕は自分の中で"負ける"と直感しました……長年トレーナーをやってきた勘でしょう」
フィレンテは一人で話を続ける、フルーラはそれを黙って聞き続けた。

「しかしあなたの心の強さは、僕の計算を一番、狂わせてしまいました……
 彼を倒したときは、この計画は成功したも同然だと思っていたのに」

「あなたに打ち砕かれてしまいました……」

涙を流しながら話を続けるフィレンテ……その姿はとても悲しい物だった。

「長年この島一帯に住む伝説のポケモンを、捕らえるのが僕の夢でしたんですけどね……
 所詮、夢は夢、叶わぬものだったんですよ。
 さぁ……彼はすぐそこの海岸に居ます、早く助けてあげてください」
フィレンテは最後に一言残し、目を閉じた。
フルーラは涙を拭き、海岸に向かって走り出した。








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最終更新:2007年03月30日 02:41