第三十話 Rozen Maiden
「超機動戦記ローゼンガンダム 第三十話 Rozen Maiden」
「今日は随分いい天気なのだわ・・・皮肉なものね。」JUMは真紅に連れられて甲板に来ていた。まだ明朝。太陽の位置は低い。「ま、座りなさい。」「ああ、そうするよ。」JUMが腰を下ろす。真紅はそのJUMの背中にもたれかかって、背中合わせで座った。「JUM・・・貴方随分大きくなったわね・・・昔はこうして座っても私のほうが大きかったのだわ。」「う・・・お前よくそんな昔の事覚えてるよなぁ・・・」幼馴染として生まれ、今日までずっと一緒に育って、生きてきた二人。「覚えてるわ・・・貴方との事ならなんだって・・・貴方の事で知らない事はないのだわ。」真紅の金髪がサラサラと風に流される。「JUM、貴方小さい頃は泣き虫だったわよね・・・ガキ大将によく苛められてたのだわ。」「あー、そうですね。それでそのガキ大将を思いっきりグーで殴って泣かしたのはどこの真紅さんですっけ?」「ふふっ・・・ここの真紅さんね。しょうがないじゃないの。貴方は弱虫で、私が守ってあげないといつも泣いていたじゃない。」真紅が一つ一つ思い出すように言う。「まぁ、そうなんだけどね・・・でもさ。幼馴染だからって真紅は何でいつも僕と一緒にいたんだ?よく他の子との誘いも断ってわざわざ僕と一緒にいたじゃないか。」「さぁ、どうしてでしょうね・・・そんな事も分からないから貴方はJUMなのだわ。」「何だよ、それ。」JUMがクスッと笑いをこぼす。
「でも、本当に強かったのはJUMの方だったのだわ・・・私は10年前のアレでそれを知った。」10年前・・・言わずもがなアリスの乱の事だろう。「ああ、あの時か・・・何でだろうね。僕自身分からないよ。ただ、泣きじゃくる真紅なんてそれまで見たこと無かったからね。僕が守らなきゃって思ったのかなぁ・・・」「そうね・・・お父様とお母様は私を守って亡くなった・・・それなのに私は足がすくんでその場で泣いてる事しかできなかった・・・そこに来たのがあの泣き虫JUMだったのだから驚きなのだわ。」JUMの背中に少しだけ振動が感じられる。恐らく思い出し笑いだろう。「あの後、貴方とのりと一緒に過ごした時間は、不思議と安らかな時間だったのだわ。ドジで間抜けでおっちょこちょいだけど、のりはお母様のような母性愛を秘めていた。JUMもあの日以来人が変わったように逞しくなったもの。少しだけ、お父様みたいだったのだわ。」「姉ちゃんも真紅も。僕が守らなきゃって思ってたからな。これでも男だしね。」「それから、JUMはメイデンに入った。初めはビックリしたのだわ。JUMがレジスタンスだなんて。」「僕だってビックリしたよ。何せその後すぐに真紅と姉ちゃんまで入っちまうんだもの。真紅なんて、その後発見されたガンダムを乗りこなしてパイロットになっちまうんだもんなぁ。」JUMは思い出す。あの頃のJUMはMS整備をメインにやっていた。そして、発見されたローゼンガンダムの5号機『シンク』を見て並みのMSじゃないと見抜く。案の定、当時メイデンのエースだった人にも乗りこなせず、当時のリーダーが名前が同じなんだから、とギャグで真紅に乗せてみたところ驚くほど機体を簡単に操り、真紅はシンクのパイロットになったのだった。「そうだったわね・・・そして、その後今のメイデンの形ができてきた・・・水銀燈が入って、翠星石と蒼星石が入った。巴と雛苺が入り、金糸雀を保護して、追われていた雪華綺晶と薔薇水晶も入れた。今更ながら、ローゼンガンダムを扱える人間が一つの組織に集まるなんて、奇跡でしかないのだわ。」「そうだなぁ・・・僕はある意味運命だと思うよ。ほら・・・真紅が以前言ってたろ?メイデンのみんなには目には見えない絆で繋がっているって。きっとガンダムもそうなんだよ。暴走した場合のアリスを抑えるために作られたローゼンガンダム。その全てが集まるのは必然だったんじゃないかな。」
「あら、面白い論ね。でも、きっとそうなのだわ・・・そして、JUMがメイデンとサクラダを引き継いで私たちの戦いは続いた。沢山の出会いと別れがあったのだわ・・・薔薇水晶はこんな私にその意思を、半身を託して散っていった・・・蒼星石は最後まであの子らしかった。戦争で泣いている人を助けたい・・・その彼女の行動理念が彼女に壮絶な最後を引き起こさせた。雛苺も最後まで自分の願いを貫いて、ただ巴を、JUMを、みんなを守って・・・そして散っていった・・・」JUMは思い浮かべる。その3人も・・・これまでの戦いで散っていった戦友達を。「でも・・・僕達はここまで来た・・・」「そう・・・遂にここまで来れたのだわ。JUM?私達がメイデンに入ったときの約束・・・覚えてるかしら?」真紅が言う。忘れるわけがない・・・それは、誓いの言葉。二人は同時に声に出す。「アリスを倒す。自分達のような人を出さない為に。この世界が好きだから・・・」そして、二人は声を出して笑った。真紅はようやく振り向き、JUMに櫛とリボンを渡す。「JUM、髪を結って頂戴。」「ええ?何で僕が・・・・」「忘れたの?レディが髪を触らせるのは気を許した相手だけよ?それに・・・貴方がしてくれるのが一番上手なのだわ・・・髪も、紅茶も・・・何もかも・・・貴方という事が重要なのだわ。」「真紅・・・・」JUMは真紅の髪を櫛で丁寧に梳き、いつも通りリボンでキュッとツインテールにする。「そういえばさ。お前小さいときからツインテールだよな。何でだ?」「そんな事も覚えてないの?全く、貴方ときたら・・・」真紅はJUMの結わいた髪をご機嫌に触り、そして顔を赤らめていった。「貴方が・・・小さいとき一番可愛いって言ってくれたから・・・なのだわ・・・」
「真紅・・・お前・・・・」JUMの心臓が高鳴る。見慣れてる。小さい頃からずっと真紅と一緒にいたのだから。それでも・・・今の真紅は今までで一番綺麗だった。「JUM・・・・」真紅が少しモジモジしながら、目を瞑る。「し、真紅・・・それって・・・」真紅は何も言わず、無防備に目を瞑っていた。JUMがゴクリと唾を飲み、少しずつ顔を近づけていく。風で真紅の髪が舞っている。近づくたびに真紅の匂いが強くなっていく。あと10センチ・・・あと5センチ・・・お互いの息を近くで感じ、その唇が付くまで後1センチとだったろうか・・・「はぁ~い、お楽しみはそこまでよぉ~。」「ひゃあああ!!??」「うぎゃああああ!!歯が!歯茎がぁああ!!」突如現れた乱入者のせいで、一気に大惨事に陥っていた。ビックリした真紅はJUMの口にヘッドバッドをかまし、JUMは急に襲来したヘッドバッドで思い切り口にダメージを受けていた。「自業自得ですぅ。こ~んな場所でイチャイチャしてるからですよ。」「真紅ったら抜け駆けはズルイかしら~!」「はははっ、残念だったな真紅。私はともかく、他の三人が許してくれないみたいだぞ?」翠星石、金糸雀、雪華綺晶の声がする。自体を把握した真紅は顔をその名以上に赤く染める。「なっ・・・お、おほん!じょ、冗談よ!JUMも・・・何をそんな気分作ってるの!?」若干裏返った声で真紅の声が響く。「な、何だとぉ!?気分作ったのはお前だろ・・・いだぁ!?」「あらぁ、それなら水銀燈がJUM貰っちゃうわぁ。ね、JUM♪」「な・・・ダメよ!JUMはこの真紅の下僕なのだわ!」「ちょーっと待つですよ!勝手に二人で争うなですぅ!」「カナだって負けないかしらー!」「はははははっ・・・ほら、JUM頑張れ。モテモテなのは男冥利に尽きるだろう?」サクラダの甲板に明るい声が響き渡る。彼女達にもう、迷いはなかった。
「JUM・・・その口の絆創膏は何なんだ?」「ほっとけ・・・それより・・・もうすぐだな。」すでにポーランド基地を飛び立ち、ドイツ内。アリスの本拠地ベルリンに迫ろうとしている。各艦はすでに戦闘態勢、真紅たちもコクピットで待機していた。「よし・・・みんな、聞いてくれ。」ベジータの声が響く。恐らく、最後に鼓舞しようとしてるのだろう。「遂にこの日が来た・・・多くの英霊の死を無駄にしないために、我々は勝たねばならん。作戦などはない。ただ、目の前の敵をうて・・・それだけだ。さて、そんな本作戦だが最終作戦に相応しい名前をつけた。この戦いの鍵を握るのはローゼンガンダム。そして、それを有するメイデンだ。そこでだ・・・本作戦名を『Rozen Maiden』と命名する!!」べジータが高らかに宣言する。そして、最後に言い放った。「それでは・・・最終作戦『Rozen Maiden』開始!!!!」こうして、遂にアリスとの最終決戦の火蓋が切られた。
次回予告 遂にはじまった戦い。しかし、いきなりアリスは禁忌をしかけてくる。史上最悪の音波兵器「破壊のシンフォニー」を前にレジスタンスは戦意をそがれる。しかし、負けるわけにはいかない。その想いをのせて金糸雀が叫ぶ。「カナの音を聞くかしらーーー!!」次回、超機動戦記ローゼンガンダム 失われし時へのレクイエム その旋律は、夢見るように・・・
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