…からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ…
その綺麗な歌声で、水銀燈は目覚めた。
「んっ…めぐ?」
「あっ、目が覚めた?水銀燈」
水銀燈の目の前に、ニッコリ笑うめぐの姿があった。
しばらく、ぼ~っとめぐの顔を眺め…一気に目が冴えた。
「めっめぐ!大丈夫!?生きてる!?」
水銀燈はめぐの前に身を乗り出して尋ねる。
めぐはやはり、ニッコリとした笑顔のまま頷く。
「えぇ、残念だけど、そうみたい」
水銀燈はゆっくり椅子に座り直す。
「…ねぇ、めぐ…」
「なに?水銀燈…」
水銀燈は何か声をかけようとしたが、会話は続かなかった。
お互いが沈黙したまま、時間だけが過ぎる。
水銀燈は時が止まった様な錯覚を感じた。
「…さっきね…」
先に口を開いたのは、めぐだった。
「さっきね、真紅ちゃんが来てたの」
「…真紅がぁ?」
水銀燈が顔を上げる。めぐと目があった。」
「水銀燈の昔の話…聞いたわ」
「…そう」
少しの間をおき、再びめぐは話し出す。
「だから、水銀燈は私を気にかけていたのね…自分と同じだから」
「…」
違う…とは言えなかった。どこかめぐが自分に似ていると思って接してきたのだから。
「…でも、水銀燈…私と水銀燈は全然違うわ…」
めぐの目が、本当に悲しい目をしてることに、水銀燈は気づいた。
めぐは悲しいとき、いつも笑顔を作る癖がある。
しかし、今のめぐは本当に悲しそうな顔をしている。
「あなたには、支えてくれる人たちがいっぱいいる…私には…」
そこで、めぐは口を閉じた。そして…
「…私は、生まれつき心臓の病を持っていたの…」
めぐは語った。自分の生い立ちを…
病気のため友人が作れなかったこと。
両親が不仲で別居していること。
入院費などは父親が負担しているが、全然会いに来てくれないこと。
唯一優しくしてくれていた祖母も死んでしまい、本当に孤立してしまったこと。
「…」
「私は…もう、誰にも必用になんてされたない…私は、本当のジャンクなの」
-パン!!-
「えっ?」
軽い音が病室に響いた。めぐは、自分の頬をおさえた。
水銀燈がめぐの頬を叩いたのだ。
水銀燈の表情は、怒りで酷く歪んでいた。めぐが初めて見る表情だった。
「ジャンクなんて………ジャンクなんて自分で言うんじゃない!!」
叫ぶように、水銀燈はめぐに怒鳴る。
「ジャンクなんて!…言わないでよぉ…」
そして、すぐに水銀燈の表情は暗くなる。
「ねぇ、めぐ…私もそう思ってたわぁ」
「…」
水銀燈の目が、少し潤んでいた。
「自分をジャンクだと思ってた…だから、あの日私は飛び降りたの…」
本当の死体(ジャンク)になるために…
「でも、死ななかった…そして、それから私は出会ったのよぉ」
死ななかった彼女に訪れたのは、今までにない程の幸福…そして、それをもたらしてくれる大切な人たち…
「今では後悔してるわぁ…あの時死んでたら、私は何にも出会えなかったんだって…」
水銀燈はジッとめぐを見た。めぐも水銀燈を見返した。
「ねぇ、めぐぅ…生きてよぉ…生きていたら、きっと誰か貴方を見てくれるわぁ」
「…そんなこと…」
分からないと、めぐは言おうとした。
「もし、誰も貴方の元に来なかったとしても…」
水銀燈の目から、綺麗な雫が落ちた。
「私がいるじゃなぁい!」
「!!」
水銀燈の目から涙が溢れ、ボロボロと泣き出した。そして、そのままめぐに抱きつく。
めぐは、しばらく呆然として…気づいた…
目の前で泣いているこの少女は、自分のために泣いてくれているのだと…
そう気づいた途端、めぐの目からも涙が溢れてきた。
めぐはただ「ごめん」と言いながら泣きじゃくる。
水銀燈もただ頷きながら泣きじゃくる。
そして、泣き疲れた二人はそのまま夢の世界へと旅立っていった。
…からたちのそばで泣いたよ みんなみんなやさしかったよ…
…からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ…
おわり
最終更新:2008年03月26日 23:46