「さぁ、みんなそろったかしらぁ~?」

マネージャー、金糸雀がメンバーを見回す。全員揃っているようだ。
薔薇水晶はまだ遅い時間だったこともあり、完全に熟睡中。
水銀燈はそんな薔薇水晶をお姫様抱っこしている…隣で雪華綺晶が羨ましそうにしている。
彼女たちは本日からツアーに出かけることになっているのだ。
普通の大物バンドになるとそれ相応の待遇でツアーも行われるのだが、彼女たちは売れない貧乏バンドのようにマネージャーの運転するワゴン車に揺られてツアーを行う。

「ロックバンドたるもの、いくら資金を持っていても音楽を贅沢にしてはいけないのだわ」

という真紅の一言により、彼女たちは音楽関係で無駄な資金を使わないのだ。
…じつは、趣味の紅茶とくんくんグッツにバンドの運営金を使い込んだ真紅の言い訳だったのだが、その言葉に非常に感動した蒼星石によってその後、このバンドのスタイルとして定着したのだ。
一部のファン以外、彼女たちがこんな貧乏ツアーをしていることは知らない。
彼女たちは楽器をワゴンに詰め込むと、狭いワゴン車へと乗り込んだ。

しばらくすると、メンバー達は眠りについた。
明日から始まるライブ漬けの日々に備えての体力温存のためだ。
ただ、運転を任されている金糸雀と雪華綺晶だけは起きていた。

「きらきーは寝なくていいのかしら~?」
「ええ、体力には自信がありますし…多少不調な方がハイになれるんですよ」
「…それは、インドでの経験かしら~?」

雪華綺晶がニコニコ笑っているのをバックミラー越しに見て、金糸雀がいった。
やはり、雪華綺晶はニコニコ笑うだけだった。

「でも、きらきーがローゼンメイデンに入ってくれてよかったかしら~。最近みんな不調で、イライラしてたかしら」

そう金糸雀が言うと、雪華綺晶はまた笑う。さっきとは違って、慈愛を感じさせる笑顔だった。

「なんといっても、大切なばらしぃーちゃんがバンドをしてるっていうものですから、どんなものかと思って聞いてみたんですよ」

初めて聞いたローゼンメイデンは衝撃だったという。混沌とした音楽性が入り乱れ、掻き回され、完全に融合した姿。
ローゼンメイデンは世界的に見てもめったにいないモンスターバンドだと思ったそうだ。

「何よりも。水銀燈お姉様のギターといったら…」

今度は恍惚の表情を浮かべる雪華綺晶に金糸雀は苦笑を浮かべた。

「メンバー間恋愛は禁止かしら~」

金糸雀は薔薇水晶が水銀燈を見つめてる時と同じ冗談を言う。雪華綺晶は不敵に笑った。
どうも薔薇水晶以上に扱いづらいキャラに違いないと金糸雀は確信した。

「それで…どうしても、ローゼンメイデンに入りたくなって…こうして帰国したんです。お姉様方がスランプでラッキーでした」

そう言って悪戯っ子のように笑う雪華綺晶。金糸雀もそれを聞いて笑う。

「そういえば…金糸雀お姉様はどうしてローゼンメイデンのマネージャーになったんですか?」
「私かしら~?」

金糸雀は考えてみる。初めて彼女たちの音楽を聴いたライブハウス…その時自分が感じた気持ち。

「…私も、きらきーと同じかしら。ただ、私とあなたの違いは…あなたはプレイヤーで、私はリスナーだったってだけかしら~」

金糸雀がそう言うと、雪華綺晶は満足そうに笑う。

「やっぱり、お姉様方の音楽は人を引きつけるんですね」
「これからは、あなたもそのお姉様方のメンバーなのかしら~」
「あっ、そうでしたね」

二人は同時に吹き出し、しばらく笑い続けた。
穏やかな空気が流れる。

「…やっぱり、寝ることにします」

雪華綺晶は突然そう言った。

「?どうしてかしら~」
「…明日からのライブを…万全な状態で迎えたいんです」

そう言うと、すぐに雪華綺晶は寝息を立てだした。雪華綺晶が自分の体調を管理する時は二つのパターンがある。
一つは余程具合が悪いとき。もう一つは、余程本気の時。

「…おやすみかしら~、きらきー」

バックミラーで眠った雪華綺晶の顔を見る。そして、再び前を見た。
朝日が昇りだしていた。光の道が続いていく。

…There's a lady who's sure all that glitters is gold
And she's buying a stairway to heaven…

なんとなく、金糸雀はレッドツェッペリンの天国への階段を口ずさむ。
歌詞とは関係ないが、今目の前に続く道は彼女には天国への階段に見えたのだ。

明日から、ツアーが始まる。
天国への階段を上りきった先にあるのは、観客の声援と汗と熱気に包まれた天国がある。
マネージャーである彼女には階段の途中から天国を見ることしかできないのだが…
それでも、十分幸せだと金糸雀は思った。





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最終更新:2008年06月06日 00:28