京都、日本が誇る都であり、寺院の多い観光地…
しかし、多くのロッカー達にとってこの地はもっと重要な場所である。
蒼星石もそれに漏れず…いや、彼女の場合は誰よりもこの地に想いがあった…
「確か…ここだったよね…」
そこは京都府内にあるとあるお寺だった。
蒼星石の手には「チャー坊遺稿集」が握られていた。
チャー坊、第一章で触れた通り蒼星石にとってただの先人以上の影響を与えたロッカーである。
彼女は京都に来るたびに墓参りをしたいと思っていたのだが、今までその場所が突き止められずにいた…
今回手に入れたこのチャー坊遺稿集にはお墓と寺の名が載っており、そこから場所を特定したのであった。
住職によると、チャー坊こと柴田和志氏はこの寺の檀家ではないらしく、共同墓地の場所を教えられた。
「…ひ…広い…」
その墓地は予想していた物よりも非常に広く、蒼星石はしばらくのあいだそこに立ちつくす。
そして、時計を見る。
「間に合うかな?」
◇
翠星石と雛苺は予定通り清水寺へとやってきていた。
「いや~、やっぱり清水の舞台からの風景はすごいですねぇ!」
「うゆ~ほんとなのぉ!!まるで帝王になった気分なの~!」
そんなのほほん(?)とした雰囲気ながら…雛苺は何か違和感を覚える。
「…翠星石…何か悩んでるのぉ?」
「!?な、何を言ってるのですかチビ苺!この私が何を悩むって…!!」
翠星石が早口で言い訳しようとするのを雛苺が止める。
「雛はこれで結構敏感なのよぉ?隠したって無駄なの!」
やや怒った感じで雛苺が言うと、翠星石は観念したように溜息をついた。
「…蒼星石のことなのですぅ…」
「うゆ?蒼星石がどうかしたのぉ?」
風景に背を向けて、翠星石は話し出した。
「…チビ…雛苺…翠星石は…蒼星石のために何かできてるでしょうか?」
「えっ?」
翠星石の表情は、いつもと違い弱々しかった。
「蒼星石がロックを始めた時…翠星石は精一杯フォローしてやろうと思ったのですぅ」
雛苺はずっと疑問に思っていた。翠星石は多少人見知りをする癖があるが、それ以上に派手で目立つ事が好きだ。
そんな翠星石がなぜドラムの様な「縁の下の力持ち」ポジションにいるのか…
「蒼星石がベースをやると聞いて、翠星石は誰もやっていなかったドラムをやろうと決めたですぅ」
翠星石にしては珍しいほどの練習で、翠星石は今のように超人的なドラムテクニックを手に入れたのだそうだ…
「…でも、ドラムってポジションは案外やっかいなのですぅ…」
翠星石の表情が苦笑に変わった。
ドラムは自分のポジションを離れる事が出来ない。ドラムが居なければ楽曲が成り立たなくなるからだ。
故に間違いなく重要なポジションなのだが…
「ライブ中、蒼星石の顔が見れないっていうのは…不安になるのですぅ…」
果たして自分はきちんとリズムを刻めているのか?
走りすぎてないだろうか?
ミスはないだろうか?
…蒼星石の邪魔にはなってないだろうか?
「…翠星石は…邪魔になって「るわけないのおおぉぉぉぉ!!」うげっ!!?」
いきなりのDEATH苺に思わずうろたえ、あわや清水の舞台から飛び降りてしまいそうになる翠星石。
「なっ!何するですかチビ苺!!」
翠星石がいつもの調子で怒る。すると、雛苺は言う。
「それでいいのぉ~」
「えっ?」
「翠星石はそうやって、自信満々でツンツンしてれば大丈夫なのよぉ!蒼星石だって、翠星石の自信満々で突っ走ってるドラムが好きに決まってるの!」
「…そうですか?」
「う~、そうやってすぐ疑う!たまには雛を信じるのぉ!!…少なくとも、雛は翠星石のドラム大好きなのよぉ?とってもノリやすいのぉ!!」
そう言って雛苺はニッコリ笑った。一瞬、ドキっとする翠星石。
その笑顔に、とても強い勇気をもらえた気がした…。
「…雛苺…」
「ん~?」
「…ありがとうです」
「いいのよぉ~」
二人は笑いあった。
下には京都の町並みが広がっていた…。
最終更新:2008年07月05日 01:14