北風が吹き出し、テレビのファッションコーナーで今年の流行の
冬スタイルなどが紹介されだす頃にスタートしたドラマに巴は
主人公ではないものの出演し、好評を得る。
そのドラマの主題歌は薔薇乙女のアルバム、トロイメントに収録され
ている同タイトル曲トロイメントのシングルカットバージョンを使用
され、CDのセールスは異例の売り上げを記録することになった。
「クリスマスライブに向けてガンバルかしら~、そして新アルバム
制作、年明けにはそのアルバムを引っさげてツアーかしらッ」
金糸雀が詰め込んだスケジュールに不機嫌な顔をする真紅。
「まったく休む暇もないのだわ」
「まぁ、ツアーの後はオフをとってみんなでどこか旅行にいこうよ」
「それならオディールがいるフランスがいいの~」
「フランスと言えばフランス料理ですぅ、タイユヴァンでフルコース
をいただくですぅ~」
その提案に不機嫌な表情をしていた真紅も和らぐ。
「いいわね、私はアン・グラン・シャン サンセール・ルージュが飲みたい
のだわ」
「何ですぅ、そのアン・グランなんとかって?」
「ロワールワインなのだわ、品種はピノ・ノワールで私の好きな赤ワイン
なのだわ」
「私はァ、そんな舌を噛みそうな名前のワインよりィ、コニャックよぉ~
ロール・ド・マーテルなんかぁ最高だわァ~」
「コニャックもいいけど僕はモルトウイスキーだね、ボウモアのアイラ・
レジェンドとか好みさ」
「カナはカクテルかしらッ、お気に入りはガルフ・ストリームかしら」
「ヒナもカクテルなの~、イチゴ風味のアースクエークが好きなの~」
「私もカクテル・・・ラヴァーズ・コンチェルトが好きよ」
「アル中ですぅ、薔薇乙女は翠星石以外みんなアル中ですぅ~」
薔薇乙女達が軽く楽しい会話ではずんでいる頃、フランスにいる
オディールの歌が収録されている映画が世界規模で上映されようと
していた。

銃弾に倒れた女性を抱きかかえた兵士が天に向かって大声を出す
シーンで流れるオディールの歌は、まるで教会から聞こえる賛美歌の
ように透明で映画を見ていた全ての人々の心の中に浸透していった。
その映画は全世界で好評を得て興行収入も歴代のトップ3に並ぶほどで
あった。
そのためオディールの歌も世界に広がり、今や活動は世界になっていた。
そのオディールが映画の宣伝のため来日する。
元々この日本でラプラスとして活動していたオディールにとっては凱旋帰国
に近いものがあり、マスコミも異例の取材体制で空港に集まっていた。
「オディールさん、久しぶりの日本はどうですか?」
「グラミー賞は確実と言われていますが、それについての感想は?」
「ニッポンはワタシの故郷です、帰ってきてウレシイです」
「グラミーはノミネートされただけでもラッキーだと思います」

「ふにゅ~、凄いの~。オディール、カッコイイの~!」
「そうだね、今やオディールは世界の歌姫だからね」
真紅達はフラッシュの中、さっそうと歩くオディールの姿をテレビで
見ていた。
「オディールさん、元ラプラスのメグさんの容態が悪いと聞きますが
それについては?」
今まで笑顔で歩いていたオディールの表情が一変し、その質問を投げかけた
記者を鋭い目付きで睨むと、足早に空港のロビーを後にした。
その2日後、薔薇乙女は東京ドームで今年最後のライブを行っていた。
数万の観衆がつめかけ薔薇乙女の世界に興奮の声を上げている。
その様子はまるで巨大な津波が押し寄せたかのような人が作り上げる
波がドーム全体を被っていた。

「さぁ、私達の音に酔いしれるのだわ!!」
両手を広げて真紅は数万の人々に叫ぶと、薔薇水晶の指がキーボードの
上で踊り出すと数万の観衆が一斉に大声をだす。
デビュー曲、ローザミスティカで始まったライブは一気にスピードを
上げて終盤まで突き進み、曲がトロイメントに差し掛かると数万のどよめき
が起こる。
真紅達もその驚きの声と同様の表情を隠しきれない。
それはマイクを持ったオディールがトロイメントのコーラスを歌いながら
現れたかれである。
笑顔で歌いながらオディールは真紅に近づき、ステージ中央で並び歌い出す。
今や世界のボーカリストとなったオディールとアジアを代表する
ロックボーカリスト真紅、この2人が展開する声と唄の競演はトロイメント
がもつ曲のイメージを超越し、身震いを感じさせるほどの広がりと奥深さを
出し、数万の人々に大きな感動を与え、夢の競演は幕を閉じた。

「お疲れ様ですぅ~!!」
「乾杯なの~!」
気持ちよく汗をかいた真紅達はライブ成功の乾杯をする。
真紅とオディールは互いのグラスを合わせ、派手な音を出す。
「オディールが来るなんて聞いてなかったから驚いたのだわ」
「フフ、事前に金糸雀ちゃんに言ったけど、ヒミツにしてたみたいネ」
「えっ、金糸雀、知ってたですか?」
「フッフッフ、サプライズ計画成功かしら~」
ライブで火照った体に冷たい飲み物と、軽い笑いが心地よく行き渡って行く。
その夜の薔薇乙女とオディールは夜が明けるまで再会の喜びと、オディール
が語る世界をマーケットにした活動に耳を傾け、時には笑い、時には真剣な
表情を見せていた。

「オディール帰っちゃうの~?もう少し一緒にいるの~」
「ゴメンなさい、これからロンドンに飛ぶの」
「じゃぁ、私達も空港まで見送りにいくわ」
「それはダメです。薔薇乙女が空港に来たらパニックになります」
「そんなことねぇですぅ」
「イイえ、この国ではワタシより貴女達、薔薇乙女のほうがヒーローですよ」
そう言うとオディールは黒いメルセデスの後部座席に乗ると、窓を開けて
笑顔でこう言った。
「また会う日を楽しみにしてます。今度はグラミー賞の舞台で会える
ことを約束してください」
オディールは窓から手を伸ばすと小指を立てた。
真紅も小指を立てると2人の指は強く絡み合った。
「その約束は必ず守るのだわ!」
「グラミー上等ですぅ!!」
「・・・楽しくなってきたわ」
「ヒナも約束するの~」
「グラミーか、凄い約束だね」
「ねぇ、蒼星石ィ、グラミーってなぁに?」

オディールが日本を去った日、日本のマスコミだけではなく
世界のマスコミが昨夜、行われた薔薇乙女のライブに参加したオディール
の映像をネットの網により瞬く間に世界中に発信されていた。
「え、えらいこっちゃなのですぅ~。ちょっと真紅、起きるですぅ」
「何?朝から騒がしいわね」
「大変ですぅ、N’sレーベルに金糸雀が呼ばれて、アジアで世界ですぅ」
自分でも何を言ってるのか解らない翠星石に代わり蒼星石が話し出す。
「昨日のオディールさんが出たライブ映像が世界中に発信されて、それで
僕達、薔薇乙女についての問い合わせが世界中から来てるみたいなんだ」
「本当なの蒼星石! と、とにかく落ち着くのだわ。ちょっと雛苺、お茶を
煎れてきなさい!!」
それを聞いていた水銀燈は「フッ」と小さく笑うと、部屋に戻り机に立て
かけてある写真を見る。
あの日、薔薇乙女とラプラスが一緒に写っている最初で最後の写真。
笑顔で笑いあい肩を組む水銀燈とメグ。
「ねぇ、メグぅ、今の話ィ、聞いた?ついに私達の夢が見えてきたわぁ~、
ねぇ、メグなら喜んでくれるわよねェ。ねぇ、メグぅ・・・」
もう戻りはしないメグの笑顔に向かって水銀燈は囁いた。


最終更新:2006年06月21日 20:56