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372 名前:雨の七夕 本日のレス 投稿日:2009/07/08(水) 17:27:33 aBRMMmC2  雨の七夕  しとしとと雨が降る中、傘の下から夜空を見上げた桃子は、落胆の息を吐いた。  今日は七月七日。織姫と彦星がデートする日だ。  桃子はふと思う。  ベガとアルタイルとも呼ばれる二つの星が、一年間のうちで最も注目される日なのに、誰も見つけてあげられない。今夜は全国的に雨模様。私ばりのステルス能力だ。  雨粒が目に入り、桃子はなぜだか急に寂しくなった。 「モモ、どうしたんだ?」  声をかけたのは、傘を持って隣を歩くゆみだった。  その一言を聞いただけで桃子は胸が熱くなった。  先輩は私を見てくれる。今では、私の表情まで見てくれるようになった。こんな人、他にいない。いや、他にいなくてもいい。先輩がいてくれれば、他はいらない。  桃子はもう一度夜空を見上げた。 「星空見えないなぁって」 「ああ、今日は七夕だったな」 「そうっす。織姫と彦星も隠れるのうまいっすね」 「モモにほめられるんだから相当だ」 「うますぎるから、雨雲の中で出会えたのか心配になったっすよ」 「ははは、モモはやさしいなあ」  ゆみが笑うのを見て、桃子は赤くなった。少し子供じみたことを言ってしまったと恥ずかしがる。  そんな仕草もゆみは見逃さなかった。彼女も雨で何も見えない夜空を見上げた。 「会えたに決まってる。それが恋人ってものだ」  意外にロマンチストな発言だったが、桃子の胸を高鳴らせるには十分だった。  桃子は視線を地面に落として思案した。この機会に確認してみるのもいいかもしれない。  ぎゅっと傘の柄を握って勇気を振り絞る。 「――私がどこかに隠れても、先輩は会いに来てくれるっすか」  桃子の頬が熱くなり、瞳が不安で揺れる。ゆみの頬も同じく火照る。  この言葉の重みをゆみは分かっていた。だからこそ、力強く答えた。 「会いに行く。どこにいても必ずだ」  これ以上、二人に言葉は必要なかった。  雨が降る夜空の下、時が経つのを忘れたように、互いに見つめ合う。  桃子は傘を手放すと、ゆみの胸に飛び込んだ。  終

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