582 :名無しさん@秘密の花園:2009/09/25(金) 15:06:16 ID:qQlnm+3P
 
 君だけに愛を

 今、私たちは決勝に残った四校での強化合宿に来ている。
 麻雀でしか触れ合う機会のなかった他校の連中の普段の様子がよくわかる。
 思ったよりカップルが多いように見える。それを見たモモに、
「私たちも負けないようにイチャイチャするっすよ!
 先輩と私がベストパートナーであることをみんなに見せつけるっすよ!」
 とか言われ大勢の前で抱きつかれそうになったのは大変だった。
 
 それにしても宮永に原村、あれはどこまで進んでいるんだろうか。
 私とモモ以上の仲か?そう思って二人を見ていると、いきなり後ろから声を掛けられた。

「ワッハッハ~・・・あれは浮気をしている感じがするぞ、ユミちん」
 蒲原だった。浮気?どういうことだ?何故そんなことがわかる?
「私には分かるぞ。あの宮永、原村一筋って訳じゃなさそうだな、いや、断言できるね」
 蒲原は言い切った。どこからそんな確証がつかめるのか。
 あ、原村がこっち見てる。聞こえてるじゃないか。思いっきり耳を傾けている。

「蒲原・・・、どうして言い切れるんだ?あいつらと親しいわけでもあるまい。
 あまり適当なこと言わないほうが身のためだぞ。超能力者なら話は別だが」
「ワハハ、その通り、私はエスパー・・・って言うのは冗談だよ。
 実は昨日宮永と二人になる機会があってさ、本人からたまたま聞いちゃったんだよね。
 お姉ちゃんへの思いとやらを。だから言い切れて当然ってわけ」
 なるほど・・・。道理で。それなら誰でもわかる。
 見ると宮永のほうは大変なことになっていた。天江までもがどこからか現れ、
 大変な修羅場と化していたが、ここはノータッチが賢明だろう。
 ヤジウマしたいという蒲原を強引に引きずってその場を離れた。

「ところでユミちん、他のやつはともかく、ユミちんは浮気なんてしちゃ駄目だぞ。
 桃子が悲しむ・・・というより、ユミちんの身が危ないからな」
「あ?どういうことだ?」
「桃子のユミちん命ぶりは誰が見ても明らかだろ?そんなユミちんが他のやつと
 浮気なんてしたら、どうなると思う?ユミちん、桃子に刺されるよ。刃物で」
「何を馬鹿なことを・・・。そんなことある訳が・・・」

 私は否定しようとしたが、100%の確信は無かった。
 確かにモモは私にべったりだ。私がいれば他は何もいらないって言っていた。
 モモを少し信じてやれない自分もいた。これは刺される可能性もあるな、と思っていた。

「ワハハ、あまり深く考えんなよ、ユミちんが浮気しなきゃいいだけの話だろ?
 桃子だけを愛せばいい。・・・おっと、私は行くぜ。あばよユミちん!
 ユミちんと違って私は自由だからな!やってやるって!」

 そう叫んだ蒲原は、その辺を歩いていた風越の吉留のところに近づいていった。
「やあ、こんなところで奇遇だね、ちょっと二人でその辺を散歩にでも行かないかい?」
「え・・・?蒲原さんと二人で、ですか・・・?」
「もちろん!こうして会えたのも何かの縁だ、一緒に楽しもうぜ!
 君みたいな眼鏡をかけたかわいい子が私は大の好みなんだよ、だからさ、
 一緒に夏の思い出を作ろう・・・・・・」

 蒲原は調子よくナンパしていたが、いきなり油でも切れたように口が止まった。
 見ると、前方からは吉留と仲がいい池田、後方からは蒲原の正妻、妹尾が迫っていた。
「ワハハ・・・なんていうのは冗談冗談、今の話は忘れてよ・・・」

 ドカッ!ガスッ!バキッ!バチンッ!グシャ!
 
 池田と妹尾にボコボコにされる蒲原。お前も浮気しては駄目だったではないか。
「みはるんに手を出すなし!このベタオリ職人!行こ、みはるん!」
 そう言って池田たちは去っていった。そして更なる修羅場が始まりそうだ。
「智美ちゃん、色々話したいことがあるから、こっちに来てくれる?」
「・・・た、たすけてユミち~ん・・・ウムトラマーン・・・
 かおり~・・・わたしがわるかったよ~・・・だからゆるしてってば・・・」

 こうしてどこかへと連れて行かれた蒲原。さらばだ。
 あの温厚な妹尾があんなに怒りまくるとは。わからないものだ。
 それにしてもモモはもし私がこんなことをしていたらどうするだろうか。

「先輩はかじゅ、つまり果樹。私は桃子で桃の実。だから私は先輩から離れられないっす。
 先輩が私を落とすことはたやすい。でも、もし私が先輩という木から落ちちゃったら、
 きっと腐ってしまうっす。だからずっと一緒にいてくださいっす」

 モモはこんなことをこの間言っていた。私も軽率な発言や行動には用心しよう。
 蒲原みたいな真似をしたら、きっとただでは済むまい。

 その日の夜、夕飯の時間。私の隣にはやはりモモが座っていた。
 私は話の流れで、モモにさっきの話をした。

「ははっ、それでボロボロなんすね、蒲原部長」
「ところで・・・。お前は私が浮気なんてしたら・・・どうする?」
 私はついポロリと聞いてしまった。やはり気になっていたのだ。
 だが、それに対するモモの答えは意外なものだった。

「いや、別にどうも?怒るなんてこともしないと思うっすけど」
 案外あっさりとしていた。絶対に許さないとか言われると思っていたが。
「何だ、じゃあ私が浮気とかしてもお前は構わないのか?やってみようかな・・・」
 私は少し意地悪なことを言ってみた。
 それでもモモは嫌な顔一つせず私に答えた。

「ええ。先輩が望むならどうぞ。先輩がそうすること、別に悪いことじゃないっすからね。
 それは先輩の自由。私がどうこう言う資格はないっす。私は黙って見送るだけ。
 私は先輩が本当に大好きっすから、先輩がすることを止めたりなんかしないっすよ。
 先輩がやりたいことをやって幸せになってくれることが私の一番の幸せ。
 その隣にいるのが私じゃなかったとしても、それはそれで仕方ないっすよ」

 モモはそんなことを言った。本当にこいつは人間が出来てる。
 私がモモの立場だったら、こんなことは決して言えないだろう。
 だが、私にはモモが強がりを言っているのがわかった。
 
「モモ、私のことを思ってくれるのはありがたいが・・・。嘘はよくないぞ。
 本当に私が誰と仲良くなってもよいのならどうしてこの合宿の期間中ずっと
 私のすぐそばにいる?この時間だって私の隣に座ろうとした宮永を押しのけて
 強引にこの席を取ったではないか」

 私がそう追求すると、モモは少し元気をなくしてしまった。失言だったか。
 モモに謝ろうとしたが、モモは私を遮り話し始めた。

「ええ。本当は先輩を誰にも渡したくないっす。どんなことをしてでも。
 それこそ神を欺こうが、地獄に落ちようが、私は構わない。そう思っていたっす。
 でも最近考えたっす。私と先輩は釣り合わない。先輩は私と違って、
 頭がいいしカッコいいし、強いし、何でも出来る人だから。
 だから私では先輩と・・・って・・・」
「そ、そんなことは」
「いや、誰もが認める事実っす。だから私以外の人のところに行っても仕方ないって・・・」

 そう言うモモは今にも消えてしまいそうだった。
 私は何とかそうはさせんとモモの手を握って自分の思いを伝えた。

「そうか。それはお前の言う通りだとしよう。だが、お前と私が違うところはまだある。
 お前は私が他のやつと一緒になっても仕方のないことだと言った。でも私は違う。
 私はお前を他の誰にも渡してやりたくない。私だけのモモでいて欲しいんだ。頼むよ」

 そう。今やモモより私のほうが依存しているのかもしれない。
 モモがいなくなってしまったら私という木は枯れてしまうだろう。
 モモが浮気したら私こそ刃物で・・・。いや、いくらなんでもそれは無いな。
 
 私のその言葉を聞いたモモは嬉しかったのか、私に抱きつこうとしたが、
 ここは皆がいる食事の場。恥ずかしいから勘弁して欲しい。
「モモ。ここではちょっと・・・。後で二人きりのとき、な」
 モモが露骨に不満そうな表情を浮かべたがさすがにこれは厳しい。
 こいつは存在感0のくせに大胆だからな。油断できないやつだ。

 
 そして夜、私とモモは二人で空に輝く満天の星を見上げていた。
 とても綺麗だ。だが、私の隣のモモがいることはもっと素晴らしい。
 しかし、そんないい気分でいられるのもつかの間だった。

「先輩、さっきは残念っす。みんなの前でもいいじゃないっすか。
 先輩は私との仲の良さをみんなに知られるのは嫌なんすか?」
「そういうわけじゃ・・・」
「先輩がそんなだったら私にも考えがあるっす、私、浮気するっすよ」

 いきなり何を言い出すかコイツは。だがこのときの私はすっかり焦ってしまっていた。
「な、何だと?それは勘弁してくれってさっき言ったばかりだろ、やめてくれ」
「だったら明日、朝から二人でイチャついて、周囲の視線と話題を独占っすよ。
 それで私たちがベストパートナーであることをこれでもか~ってアピールするっす。
 私を独り占めしたいなら・・・これくらいOKっすよね!」

 さっきモモは自分は先輩より全て劣っている、というような発言をしていたが、
 こういう駆け引きで負けてしまうのはいつも私のほうだ。
 じゃあもう知らん、浮気でも何でも勝手にしろ、と怒ってもいいと思うかもしれないが、
 私は万が一にもモモを失いたくないのだ。それをモモも良く分かっている。
 それで結局いつもモモの恥ずかしい要求も呑んでしまうのだ。
 そして、それでもいい、と思ってしまっている自分がいる。私の負けだな。これは。
 私は今回もモモの言うことをそのまま受け入れ、明日を待つばかりとなった。


 次の日、私とモモは皆の集まる場所へ向かっていた。私も腹をくくっていた。
 だが、そこでは既に私たちの案を実行に移している者たちがいた。

「はい、おはようのチューだぞ佳織。・・・これで今日三回目だけどな」
 
 蒲原と妹尾だった。二人の周りには当然人だかりができていた。
 モモは、しまった、先を越されたっ・・・!と悔しそうにしていた。

「・・・嬉しいことは嬉しいけどさ、恥ずかしいよ、智美ちゃん・・・」
「・・・私だって恥ずかしいさ。お前が昨日言ったんだろうが、
 私だけを愛してくれる証が欲しいって。だからこんな事してるんだろう?
 ・・・いいじゃないか。こうなったらみんなの前で見せつけてやろうぜ」

 そんな二人を見たモモは私の腕を引っ張り、駆け出した。
「まさかあの二人に出し抜かれるとは・・・。先輩、私たちも負けてられないっす、
 乱入するっすよ!それで私たちの独壇場にするっす!」

 私は力なくモモに引っぱられるままになっていた。ま、悪くないか。
 どうやら私に浮気という言葉は今後一切無縁のものとなりそうだ。
 今日までも、そして明日からも、モモだけに愛を。

 おわり



 
 おまけ 津山睦月の出会い

 人だかりが出来ていた。見ると、その原因は私の仲間4人だった。
 そのカップル二組はお互い張り合うようにしてイチャイチャしている。
 止めにいくべきか、いや、無駄だろうと思っていると、声を掛けられた。

「あなたも大変ね。もう部長なんでしょ?あの人たちをまとめるの、疲れるんじゃない?」
 清澄の竹井だった。一人残された私の苦労を察してくれたようだ。
「うむ・・・。まあもう慣れっこだから・・・それほど大変じゃないがな」
 私が返すと、竹井はさらに私の顔との距離を縮めてこう言った。

「そうね。案外楽しいものなのよね。でも、あまり相談できる人がいないでしょう?
 どう?今日これから、私と一緒に二人で散歩にでも行かない?
 部長としての心構えを色々教えてあげるわよ」

 むむ。これはデートのお誘いではないか。私は悪い気分ではなかった。
 元々年上の人が好きだ。桃子が来るまでは加治木先輩を真剣に狙っていたときもあった。
 蒲原先輩だって嫌いじゃない。そんな年上の方からのお誘い、断る手は無い。
「そ、それではぜひお願いし・・・」
 
 だが、私はいきなり嫌な視線をいくつも感じ取った。寒気がしてきたぞ。
 よく見ると、風越の福路、清澄の染谷、片岡に三方向から睨まれているではないか。

(竹井さん・・・何で私で満足してくれないんですか・・・)
(部長、酷いじょ・・・本当に天然ジゴロだじぇ・・・)
(ま~たわしのライバルが増えよるんか・・・勘弁じゃ・・・)

 そして、声は無くとも、三人の意思は私にしっかり聞こえた。
「OKしたら、ただじゃ済まないぞ」と。これはまずい。早く退散だ。

「・・・?どうしたの?」
「う、うむ、申し訳ないけどまたの機会ということで・・・。それでは!」
「あらそう、残念ねえ・・・」

 私は涙を飲んでその場を去った。またしてもチャンスは訪れず。無念の極みだ。
 これからバカップル二組を回収する作業が待っているかと思うと、ますます憂鬱になった。



 終わり。
 部長は結局誰ともカップル成立しない気がしてきた
 むっきーは・・・厳しい

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年09月30日 16:18