334 名無しさん@秘密の花園 [sage] 2009/10/10(土) 11:13:34  ID:90tOkjKW Be:



ガダガダガダガダッ

今にも窓を突き破りそうなほど風と雨はその威力を発していた
昨日から日本列島に上陸した台風は今名古屋を通り過ぎたところだ
雨もだんだん力を増し、空は明るくなってすらいない
昨夜から鳴り続ける窓の音もまもなくピークを迎えるだろう・・・


そんな訳でボク達の学校も当然お休みである
昼までに警報が解かれればまた話も変わってくるかもしれないけど
この様子じゃまず無いだろう
窓に吹き付ける風の音に多少の怖さを感じながらボクは心配になった
今回の台風は特に強力らしく既に被害報告も多数出ていた

この龍門渕屋敷は大丈夫だろうけどボクの家
今はとーさんが一人で住んでいるだろう
仕事が良くなった話もボクの契約金で引越した話も聞いていないから
恐らく変わらずの安アパートにいる筈だ
昨日近くの避難所に移ったほうが良いかもしれないと連絡はしたけど
あのマイペースでどこか抜けている父が移動完了しているとは思えない


もう一度連絡を入れようと思いボクは自室を出た
廊下では風雨の音がよりいっそう大きく響き
天井からぶら下ったシャンデリアも隙間から漏れる風に揺らめいていた

この果てしなく迷路の様な屋敷も
今は迷わずに目的地に辿り着けるようになった
といっても利用している場所はごく僅かで屋敷の端から端まで行った事すらない

純は来た当初さっそく探検に出掛けたらしいけど
結局は迷子のところを萩原さんに連れられて帰って来たみたい
その後も何度か挑戦を試みたけど結果は変わらずで
これ以上は流石に迷惑だと思い、止めたそうだ

図面は無いのだろうかとボクも屋敷の色んな人に尋ねてみたけど
企業秘密らしい・・・使用人の殆ども必要最低限の場所以外は教えてもらっていない様だ

一体龍門渕家にはどんな秘密が有ると言うのだろうか
いつか暴いてやろうなどととーかを除く麻雀部のメンバーと誓い合ったけど
みんな命欲しさになかなか実行に移れないでいた


そんな中で目的の共用電話に到着。見た目は今や絶滅危惧種の黒電話だけど
その実最先端技術を施した電話である。余りにも無機質な現代物は
どこか中世ヨーロッパ風の屋敷とは合わないと判断したのだろうか、わざわざ特注の品である
ボク達使用人は外出時以外は携帯を取り上げられている為みんなこの電話を利用する

爆風吹き荒れる中さっさと済まそうと思い黒電話を手に取る
番号を入力して、しばらく待つ・・・
・・・、、、通信音が鳴るはずだけどいつまで経っても鳴る様子が無い
おかしいなと思い受話器を置いてもう一度・・・やっぱり何の反応も無い
まさか誰かがコードを!?・・・コードを辿って見るけど異変は無かった
一体どうして―――

ガタンッ!

!!

突然の音にビックリして後を振り返ったけどそこには誰も居なかった

ガタンガタンッ!

ハッとして窓を見る。どうやら今まで集中していたらしく
更に強くなった風の音に気付かなかったみたいだ
揺れるシャンデリアもいつの間にか光を発していなかった・・・停電?

流石現代機器、電気が無いと始まらない。仕方がないので電話を置く
事情を言えば携帯は戻ってくるからそれで連絡しよう
一番手っ取り早いのはとーかだろうからボクはとーかの部屋へ向かう


右、左、そして三度目の曲がり角を右に曲がってっと
ようやくとーかの部屋が見えてきた。扉の前で立ち止まりノックをする

「はじめ?」

「うん。入るね」

何故自分だと分かったんだろうと思いつつボクは扉を開ける
部屋の中は停電と台風のせいで暗く、よく見えない

「遅いですわ!!!」

「え?!」

入るなりいきなり怒鳴られてビクッとする
とーかは正面の机に座っていた

「お、遅いって・・・何が?」

「何が?じゃありませんわ」
「先ほど来て下さらない?とお呼び致したはずですわ」

と言いながらとーかは机の上の何かを叩く

あー言い忘れていたけどこの屋敷には各部屋に内部通信の為の内線専用電話が有る
今は停電でかからないけど、ちょうどボクが部屋を出た後に連絡したんだろう
そう考えると今ここに来て本当に良かった
台風が過ぎるまで気付かずに自分の部屋に篭っていたらどんな仕打ちを受けるだろう

「ご、ごめん。ちょうど部屋を出ていて気付かなかった」

「?、どうなさいまして?」

「うん。台風が酷いからお父さんが心配で連絡入れようとしたんだけど」
「停電で繋がらなくて携帯返してもらおうと思って来たんだ」

「私の為ではなかったんですのね」

「ごめん・・・」

手を合わせて謝るととーかはハァと溜息をついて

「その件なら心配ないですわ、お父様なら昨日の内に家の者で非難させましたわ」
「昨夜伝えませんでして?」

いや、聞いてないよと思いながら苦笑いで首を横に振る

「そうだったんだ、ありがとう。とーかはやっぱり優しいね」

「・・・急に恥ずかしいセリフを言わないで下さいまし」

そう言いながらそっぽを向く、恐らく赤くなっているだろうとーかは可愛いけど
余りにも耐久が無いのは心配かな・・・いやそこが良いんだけど

「そうだ、とーか何の用事だったの?」

「いえ、来て下さったのなら良いですわ」

「そう?じゃあボクはこれで」

「ちょっと!誰が帰って良いと言ったんですの!」

「ぇぇ?だって用事は、、、」

とーかが窓の外をグイグイっと指差す

外ではいよいよもって雨と風のコンビネーションが最高潮に達し
木の枝を飛び交わせ豪快に爆音を奏でていた

「・・・えーとつまり、傍にいて欲しいと・・・?」

「別に私は雷が怖いなどの属性はございませんわ!」


うん。の一言が言えないらしい

「とーか可愛いね」

「!////で、ですから恥ずかしいセリフは、」

「はいはい」

ボクはとーかの側へ歩み寄る
近くに来るととーかが毛布に包まっていたのがようやく分かった

ずっと怖かったのか・・・
愛しい気持ちが瞬時に沸き起こりボクはとーかを抱きしめる

「!!!////////は、はじめ??」
「ごめんとーか。真っ先にとーかの所へ来るべきだったね。一人にしててごめん」

「わ、私は別に怖くなんか、、」
「うん。今日の台風はとっても強いから。ボクも怖かったんだ」
「とーかが怖い思いするかもしれない事ぐらい思いつける筈なのに、メイド失格だね」

「はじめ・・・そんなこと、無いです、わ」

とーかが恥らうようにすこし身を引いた

「ごめん」

ボクは少し力を抜きながら更に深くとーかを抱きしめた
毛布越しとはいえ相手に触れ合っている部分は熱く、柔らかかった
今に顔も触れ合いそうでお互いの鼓動が重なり合って響いた

・・・・・・

「はじめ、」

ドン!!

?!

もの凄い音がしたがどうやら風に吹き飛ばされて何かが窓に激突したらしい
この家の窓はたとえ大砲でも吹き飛ぶ事はないらしいけど事実は定かじゃない
外ではどこか遠くから吹き飛ばされた物も飛び交うようになり酷く五月蝿かった

「・・・奥の部屋に行こうか」
「ええ・・・」

このままで居るのもなんだから奥の部屋へ行く事を提案する
奥はとーかの寝室になっていてこの部屋と併せると
ボク達がもらえる自室より十何倍は大きい

とーかの寝室の外には大きな木が何本か生えていて風を少し弱まらせている
五月蝿い外をシャットアウトしようとボクはカーテンを閉める
暗闇が部屋を訪れたけどすぐに目はなれた
空気も冷え込んでいて二人どちらともなくベッドに上がる

「ちょっと寒いね」
「ええ」

とーかが左手で毛布を上げて一人分のスペースをつくる
ボクも遠慮せずにそこへモゾモゾと入って一緒に毛布に包まった

「こんなに風が強いと衣も心配だね。別館は大丈夫かな」
「衣の所へはハギヨシを向かわせましたわ」

「そっかじゃあ安心だね」

ん?なんかやけにとーかが用意周到な気がする
まさか初めからボクと二人きりになろうと・・・?
いやいやとーかに限ってそんな事はまさか

台風が来る事で予測される心配事を予め解決しておくのは
人の良いとーかなら真っ先に実行して当然のことだ
だいだいボクと何をしようと・・・?

有り得ないだろうけどここは少し自分に都合の良いように受け取ろうかな
ボクは更にとーかに擦り寄ってみる
とーかはアホ毛をピクつかせながらもそれに耐えた

相変わらず面白いなーほっぺもつっついちゃおうかな
つんつん

「・・・何してるんですの?」

怒られた

それから二人無言でただ互いを温めあう
そろそろ温かいというより火照ってきた

「とーか、熱いね」
「私はとっくに熱いですわ」

「あ、ごめん」

ボクは慌ててとーかから離れようとした
だけど袖の裾を掴まれてそれは出来なかった

「とーか?」

心なしかとーかは少し潤んだ目でこちらを見ている。顔は既に真っ赤だ
とーか・・・
自然とボクは身体をとーかに近づけた
袖を掴んだままそれ以上のリアクションは無く
了承とみてボクはとーかに唇を重ねる

袖を掴む力が強くなったけどそのままボクを受け入れた
唇を強く重ねただけのキス
それがただただ幸せでそれ以上のキスをしようという思いはなかった

でも流れ的なものでボクはキスしたままとーかの身体に触れる
一瞬身体を強張らせながらもとーかは袖を握りしめて答える
そして、ボクはとーかの服に手をかけ―――



バン!!

扉の音にボク達は反射的に飛び退く

「わぁー!二人してずるいぞ!」

「こ、ころも?!どうしてここに?!」

「むぅ~どうしてもこうしても」
「嵐舞う中ころもをひとりにするとはどういうことだ!」

「ハギヨシを向かわせたはずですわ」

「ハギヨシじゃつまらない~!遊ぼうと言っても」
「ころもの安全を守る為にいるので遊ぶ為ではありませんの一点張りで遊んでくれないし」
「それなのにお前達は二人でこっそり遊ぶなんて~!」

「別に遊んでいた訳じゃないよ?うん」

「ころももまざりたい~!」

日々子供と闘う夫婦の気分はこんな風なのかなと思いながら
とーかとの間にスペースをつくって衣を誘う
とーかも少し残念そうな顔をしたけど直ぐ衣に微笑んだ

「ころも、いらっしゃまし」

「わ~い、ころもも温まりっこする~」

衣が割り入って来た

「ところで衣どうやってここまで来たの?」
「ハギヨシに連れてきてもらった~」

そう言いながらとーかとボクの腕をとってスリスリする

「流石萩原さん・・・こんな爆風の中よくも」
「ん?嵐ならもう過ぎたぞ?」
「え?」

言われてみればゴーゴーと吹く風の音は既に止んでいた
まだ完全には収まっていないみたいで窓をすり抜ける音は時たま聞こえてくる

「気付かなかったのか?」
「え?ええ」

何せ全神経が集中していたんだ気付くはずもない
しかし嵐が止んだという事は色んな人が仕事を再開するだろうから
いづれここにも他の人達が来たかもしれない
お預けを食らってしまったけどここで衣に止められたのは正解だった

とーかと顔を見合わせ、苦笑いしあって衣を見つめる
やっぱりボク達は三人で一緒に居るのが一番だなと思った

「ごめんね衣これからは台風の日も三人一緒だよ」
「台風の前日にここに泊まると良いですわ」
「今はお父様も大分丸くなっていますし歓迎しますわ」

「うん!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年10月13日 10:51