510 モンプチ① [sage] 2009/10/12(月) 23:03:41  ID:BX3GXXz4 Be:

「円卓の淑女たち」

秋も深まってきたある日の午後のこと…

「食欲がない?衣が?」 「はい」
ここは龍門渕家、龍門渕透華の書斎である メイドの杉乃あゆむが深刻な表情で透華に相対している

「昨日も今日も、お食事を半分以上残されてしまわれて」
「どこか調子悪いのかな」透華の脇に控える国広一が、心配そうに訊いた
「それが…御加減をお伺いしても、大事無い、の一点張りでして…」
龍門渕の面々の食事は、普段は銘々バラバラにとる
現当主である透華の父は、透華とその御付のメイドたちとの間に、主従の線引きをはっきりつけたがる
衣はメイドではないが、透華の父には疎まれていた いや、むしろ恐れられていた …その異能がために

食事は基本的に離れの屋敷で一人でとる あゆむが給仕につくだけだ
多忙である父が不在の折は、極力透華がともに食事を取るようにしているが、百人でも余裕でパーティー
を開けるような食堂での二人きりの食事は、どこかうら寂しいものがあった

「や、やっぱり、お寂しいのではないかと!わ…私の力不足です…」
「そんな、あゆむ… 仕方ないよ、僕らはあくまでもメイドなんだから…」「はじめっ」
「あ、ご、ごめん とーか…」透華はそういった物言いをとても嫌う

透華は自身の家を誇りに思っているし、その言動から誤解されることも多いが、
実は出自や家柄、貧富の差等で人を評さない もっぱらそのものの精神性、品格とも呼べるものを重視する
階級意識に凝り固まった良家の子女のサロンと化していた麻雀部に乗り込み、実力を以って殲滅したのは
ほんの1年半ほど前のことだ
だからといって金持ちを色眼鏡で見ることもなかったし、逆に、例えば取り入るために卑屈になることや
意味も無く反発することを軽蔑してもいた ある意味実に厳しい態度である

祖父が理事長であることを笠に着ることもなかった 龍が虎の威を借る必要はないのだ
敵もそれなりに多いが、その公明正大さを慕うものはより多い

透華は所謂「庶民」というものに少しあこがれている節がある、とはじめは見ている
 ”やばげ””目立ってなんぼ”など、同級生達の使うスラングを使いたがったりもする
苦労知らずのお嬢様の無邪気な好奇心と言われればそれまでだが、透華と身近に接しているはじめには
単純にそういったことだけではないようにも思える

しばらく沈思黙考していた透華が、おもむろに顔を上げた「ハギヨシッ」
「はっ」どこからともなく執事が出現する はじめも最初のうちは驚いていたがもう慣れっこだ

「例の計画を実行に移すときが来ました 準備を」「はっ」執事は現れたときと同様に忽然と消えた

「とーか、例の計画って…?」はじめの質問には直接答えずに、ニヤリと笑って透華は言った
「少々忙しくなりますわ!はじめ、あゆむ、少しだけ手伝って頂戴!」
「う、うん いいけど…」「はぁ…」
当惑するメイド二人を尻目に、女主人は楽しそうに笑った アホ毛がクルクルまわっていた

その週末のこと、夕刻の時間、いつもの麻雀部メンバーが透華に呼び出され、食堂へ集まった
そこにはある種異様な光景が広がっていた

そこにあるはずの大テーブルが無く、中央になんと畳が敷かれている
その上には大きく丸い座卓が乗っていた
「なんだぁこりゃあ」「わーーい、畳だあ!!」衣だけがはしゃぎ、他の面々は当惑している

「集まりましたわね!」 「とーか、これって一体…」
「これから皆で夕食をとります」 「はぁ?ここで?」
「そう!私手ずからの料理を皆で食べるのですわ!」

「手ずからって、料理人はどうしたんだよ」純が問う
「今日は休みを与えました」そう答える透華の手には、所々絆創膏が貼ってあった
「いろいろ食材を買いに行かされたりしたのはこのため?…とーか、説明してよ」

ふふん、と意味ありげに笑うと、透華はおもむろに語りだした
「常々思っていたのですわ 庶民の持つバイタリティ、パワーは一体どこから来るのかと!
そしてひとつの結論に達しました そう、これです!この円卓!」びしっと指差す

「円卓って…要するにただのでっかいちゃぶ台じゃねーか」純を無視して続けた
「聞けば庶民は仲間や家族とともにこの円卓を囲み、食事を取ることによって結束を強め、
明日へのパワーを蓄えるとのこと!」
はじめは(いまどきそんな家の方が少ないんじゃ…)と思ったが黙って続きを聞いた

「我ら龍門渕もそれに習い、打倒清澄!ひいては全国優勝のためのパワーを培うのですわ!ハギヨシッ!」
執事が大皿に盛った湯気の立つ料理を運び、手早く食器を揃え、一礼すると音も無く姿を消した

「さあ!皆席に着くのですわ!」「何でもいいや、腹減ってんだ、早く食おうぜ!」
「あゆむ、ほらあなたも早く!」「わ、私もよろしいのですか?」「あたりまえです!」
全員が席に着いた

「庶民の家長は時折この円卓をひっくり返すことにより、家内安全と武運長久を祈ったとか」
いろいろ間違っている

ご飯をよそう透華に、はじめが言った「あ、とーか、僕がよそうよ」
「いいえ、その場でもっとも偉いものがよそうのが作法とのこと」
これはある意味正しいと言えなくも無い

「「「いただきまーす!!」」」

「おお、うめぇ!見た目はひでえもんだが味はなかなか!」「あっち、あちち」
「がっつり食べるんですのよー!」「あっ、それ衣がとろーとしてた肉団子!」「うるへー、モグモグ
早いもん勝ちだ!モゴモゴ」「とーか、醤油取って」「ずるいぞ返せ!」「もう食っちゃったもんねー」
「おかわり…」「あっまたっ!このー!」ガシャンッ「いててっわっか、噛むな!」「わ、こぼれますっ」
「とーか、ラー油取って」「ともき、にんじん除けるんじゃありません!」「おいしいですこのお味噌汁」
「それは名づけて豚肉と秋野菜ときのこの欧風味噌スープスペシャル透華デラックス…」「おかわり…」
「長っ!とーか汁でいいじゃねーか」「うぐっ」「とーか汁っw」「こっからここは衣の陣地だぞ!」
「ともき、にんじんを純の椀に移すんじゃありません!」「陣地攻略~w」「ふぎゃーっこらーっ!!」
ドシンバタンガシャン「きゃーっふきん、フキンッ」「おかわり…」「とーか、胡椒とって」
さながら戦場のような有り様だったが、全員に共通していたのは笑顔だ

「さあ、まだまだありますわよ!」「「「おかわりっっ!!!」」」


…宴も終わり、夜の帳も落ちて、ここは衣の寝室
久しぶりに満腹した衣は、絵本を読み聞かせはじめてから、ものの2、3分で寝入ってしまった
透華とはじめはベッドの端に並んで腰掛けていた

「ふぅっ」「ふふっお疲れ様」
「まったくですわ 私ほとんど食べる暇ありませんでしたもの」
「でも楽しかったよね」「そうですわね 機会を見てまたやりましょう」
「……」はじめがそっと身を寄せ、透華の腕をとる

「ど、どうしましたの、はじめ」
「……」
「はじめ?」きゅっとはじめが腕の力を強め、身をすり寄せた

薄い寝巻き越しに、その柔らかい肢体のぬくもりが伝わる

「素敵すぎるよとーか…」姿勢を変えて、透華に抱きつく 「……!」

ささやかなふくらみが透華の体に押し付けられた
「は、はじめっ…」動悸が高まる

「とーか、とーか… ボクの、ご主人様…」見つめあう二人 軽く開いた唇が徐々に近づき…


「おかわりーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


「…び、びっくりしたー」「こ、衣っ?起きてますの?」
「ムニャ……とーか汁…お…かわ…り……zzz」
「ね、寝言みたいだね」「はぁ…」

起こさないように寝室を出た 「さて、私達も寝ましょうか……っと?」
はじめが透華の寝巻きの端をちょこんとつまみ、上目遣いに見つめていた

「続き……だめ?」「!……うっううっ…」

龍門渕透華はこれまでの人生で最大の選択を迫られる…、が
それはまた別のお話

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最終更新:2009年10月13日 11:47